咲 -Saki- 天衣無縫の渡り者   作:暁刀魚

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『思いは背中に宿るから』中堅戦③

 席順。

 東家:薄墨

 南家:依田

 西家:五日市

 北家:ストラウド

 

 

 東発、最初の和了は代田水穂。安牌のなくなったハンナの切った牌を、偶然拾い上げての和了であった。もとより、二鳴きのタンヤオドラドラだ、自摸ろうが出和了りしようが、打点には一切の変化はない。

 

 最初に一局は非常に静かな立ち上がり。とはいえこの和了りで龍門渕の点棒が原点へと回帰。宮守にはきつい展開となった。

 

 ――そして、状況は東二局、初美北家の一局が――始まろうとしている。

 

 

 ――東二局、親水穂――

 ――ドラ表示牌「{③}」――

 

 

 風が吹き。

 

「ポン」 {東東横東}

 

 ――二つ、声がさえずった。

 

「ポンですよー」 {北横北北}

 

 たった、三巡の出来事だった。

 

(――出来れば、抱えてて欲しかったんだけど……まぁしょうがないか。無理するしかないよねぇ)

 

 ――薄墨初美は、{東}と{北}、二つの鬼門を晒すことで裏鬼門、{南}と{西}を手牌に引き寄せるチカラを持っている。つまり、小四喜、ないしは大四喜を自由自在に和了ることも可能なのである。

 通常であれば、それは全国でも稀有な高火力プレイヤーと言っても過言ではない。特に今年は去年までいた役満モンスターの存在から、役満の和了には敏感で――なおかつ意識されやすい。初美のそれも、当然周囲から意識されるにたるものだった。

 

 しかし、この状況はそれを“縛る”チカラが存在している。

 

(前半戦の東場を見ればなんとなくわかるけど、二鳴きした永水が、有効牌を自摸れるのは二巡に一度程度。多少ズレがあるっぽいから、もう少しデータが欲しいけど、瀬々が断言するには、薄墨が準備を整えるのは――十二巡後!)

 

 十分な時間だ。自分自身、鳴きが制限されているとはいえ、それだけの時間があれば、テンパイに持っていくことに不足はない。

 

(だからこそ、させられないね! こんなところで役満親被りなんて食らってたまるか)

 

 奮起する。意識を前に踏み出して、選ぶ打牌は、直線的な自摸。薄墨初美が役満を狙うというのなら――これから数巡、初美に振り込むことはありえない。

 

 それから、二度、三度――ツモを進める。ツモの調子は水穂のテンションを反映して、よい。故に鳴かずとも手は進む。この状況で泣いてくるものがいるとすれば、薄墨初美か――

 

「――――ポン」 {⑧横⑧⑧}

 

 鳴きの制限が一切ない、五日市早海の両名だ。

 ――早海のチカラは河の乱れを極端に嫌う。故に、一鳴きもすれば、他家は手が全く動かなくなり、二鳴きもすれば、テンパイしたものの当たり牌をも、引き寄せる。

 初美のチカラには、さほど影響はないものの、それでも十二巡という猶予にもなった。

 

 その間に、最も和了に近づけるのは、間違いなく早海なのだ。

 

(……ん?)

 

 八巡目、そこにきて水穂は違和感を覚えた。無理もない、現状意識は薄墨へ向けざるを得ない。そこにうまれた違和感を、正確に理解するには、大きな集中が必要だった。

 

(――これって)

 

 向けた先は早海の捨て牌。

 

 ――早海捨て牌――

 {發1「北」三8白}

 {2白}

 

(……なるほど、白の手出し二枚、かぁ)

 

 水穂/ツモ{②}

 

(じゃあこいつは、使い切ることにしようかな)

 

 最悪、間に合わない可能性を考慮して、水穂は打牌を選択する。――シャンテン数を落とす打牌、しかしそれでも、違和感はない状況。

 ――ハンナは果たして、気がついただろうか。初美は果たして、どうだろう。とはいえ初美からしてみれば、たとえそれが“そう”であろうと、退くという選択肢は、ありえないだろう。

 

(前半戦、宮守は完全に沈黙していた。それも次鋒戦のように、可もなく不可もなくやり過ごしたわけではない。完全な削られ損の最悪状態。支配だけは効き続けてたけど、それすらも、南場の薄墨に破られている)

 

 五日市早海の顔を見る。――前半戦の終了時、彼女の最後に振り込んだ時、ちらりと見た顔が、水穂には非常に意識の中へと残っている。

 似ていたからだ。その顔が、かつて何かを失いかけた、水穂の顔と重なるからだ。

 

(瀬々の跳満に振り込んだ時も――私ってば、あんな顔してたのかな)

 

 水穂の手が止まる。全速力で駆け抜けていた足を止め、ふと周囲に意識を向けた。――そんなとき、早海の顔がどうしても意識の隅に引っかかった。

 ゆえにこその、選択。

 早海の眼は、水穂の視点からはうかがい知ることはできなかった。手牌へ向けて顔を落として、何がしか、考えてはいるのだろうが、それ以上はわからない。

 

 そこにいるのかどうかすら、わからないようなあやふやさ。今の早海の感情を、水穂が窺い知れるはずもない。

 

(――あぁ、そっか。私ってばこういうの、見てて“嬉しい”って思っちゃうんだな)

 

 依田水穂の生き方が、どこまでも強くあろうとしたものだったから、明るくあろうとしたものだったから、ただただ純粋に、楽しいと思える状況を、嬉しく思う。

 それが水穂の在り方であり――たとえどれだけ歪んでいても、根底にあった強さであるのだ。

 

 かつて、瀬々に言葉を投げかけられる前、歪みきっていてもなお、それが在ったからこそ、水穂はきっと、歪みを強さに変えたのだ。

 だから――水穂は早海の瞳の先に、答えを見る。

 

 ――水穂/ツモ{⑤}

 

(……そうだね、じゃあこの手はここまでになっちゃうかなぁ)

 

 ベタオリ、それが水穂の結論だった。

 もとより初美は、未だ牌を引き寄せている。それがどれだけ絶対的なことであろうと、水穂はその選択を迷わない。

 

 あくまで、早海の瞳を見たからこその、ベタオリだった。

 

 ――――直後。

 

 

「――――ロン」

 

 

 ここまで、沈黙しきっていた少女が。

 

 瞳を髪の奥から光らせて、産声を上げる。――そこには、たった今、“生まれ変わった”少女がいた。――――五日市早海。

 彼女の手牌が――開かれる。

 

 ――早海手牌――

 {③④④⑤⑤⑥⑥⑦⑦⑦} {②}(和了り牌) {⑧横⑧⑧}

 

「――16000ッッ!」

 

 爆発が、一方方向から襲いかかった。それまで流れていたはずの、亡者すら食いつくさんかというほどの百鬼夜行は地に沈み、静寂が、状況を支配する。

 まるで水がすべてを飲み込んで、あらゆる地面をまっ平らに変えていくように、早海の手牌が薄墨初美を掴んだ。

 

 ――対局は、ようやく蠢きだした異常の中で、進んでゆく。

 

 東三局、そうそうに和了を決めたのは龍門渕の依田水穂。数巡での速攻和了。――しかし、それは二軒リーチの隙間を縫った、綱渡りでの和了でもあった。

 

「――タンヤオドラドラ、3900!」

 

 ――水穂手牌――

 {三四五⑥⑦⑧22} {横④③⑤} {55横5}

 

 

 続く東四局は、勢い任せにがむしゃらに、前へと進む五日市早海が、ハンナ=ストラウドのテンパイと激突した。

 ハンナのリーチ時点にすでに三副露を晒していた早海は、それもあってか逃げきれず、結局はハンナのメンピン裏裏直撃によって撃墜されている。

 

 しかし、それが早海の足を止めたかといえば、そんなことは全くない。即座にもう一度三副露を探すと、和了。ツモで三翻は東三局の水穂と同一である、4000点の和了りとなった。

 

 めまぐるしく対局は動く。

 東場は、速度と火力と、激突によって終幕を見た。ここまでの収支は、倍満の直撃もあってか薄墨初美が大きく失点。しかし北家がもう一度残っている以上、彼女には三万点以上のプラスが見込める。

 残る三名はほぼ横並びの5000程度プラス。その中でも飛び抜けたのは、若干ではあるが五日市早海だ。前半戦の負債をすべて返済するには至らないものの、それでも原点の半分はすでに取り戻している。

 

 四者の状況は、どこをとっても横並びとは言いがたい。しかし四者の実力は凌ぎ合い、削り合い、叩き合い――同一であると認識するには十分だった。

 

 ――ただし、

 

 それはハンナ=ストラウドが本来とは違う打ち方をしてる状態で――という限定的な条件が、ついてまわっているのだが。

 

 かくして、対局は南場へとうつる。

 

 南一局、最初の対決。

 

 ――ここで大きく前進したのは、連続和了を狙う五日市早海――そしてここまでいまいち大きな活躍のない、依田水穂の両名であった。

 

 

 ――南一局、親初美――

 ――ドラ表示牌「{4}」――

 

 

(――依田水穂、私でも知ってるコクマスタープレイヤーの一人。と言ってもインハイでは二年間の間、三傑によって全国出場の芽を潰され続けてきた不遇の雀士)

 

 国民麻雀大会、通称コクマ。その存在を端的に言えば、中学、高校、そして大学社会人、あらゆる立場の“アマチュア”がしのぎを削る、この国の国民にとって最も近い、麻雀を競う祭典である。

 三傑に埋もれながらも、水穂の評価が通常の高校のエースよりも高いのは、何よりこのコクマにおいて、水穂が大きく活躍してきた実績があるからだ。

 

(始めてインターハイに姿を見せて、そのまま準決勝に駒を進める。か。しかも本人は中堅っていう非エースポジションに居座って)

 

 不思議な話だ。まるで彼女を優勝させるために、神が龍門渕に、驚異的な雀士を遣わせたかのように、水穂は快進撃を続けている。

 ――第二回戦では日本トップクラスの高校、姫松高校のエースとほぼ同等に叩き合い、その姫松は二回戦で姿をけしている。

 

(全くもって、強者の極み。ただですら遠い存在が今この場にあって、なお私から遠く思える)

 

 第二回戦を間近に見ているから。――第二回戦で敗北しているから、早海は水穂を真正面から見る。羨ましいと、そして同時に ――乗り越えたいと。

 

(心音は言った、負けてもいいと。――心音は言った。私に負けてほしくはない、と。ならば、私はその言葉を責務にしてやんよ、心音の言葉で、私自身を縛り付けてやる)

 

 ――今はもう、前を向いているからこそ、枷は早海を留めない。早海を支えるサポーターへと変質するのだ。

 

(超えるぞ、まずは第二回戦で、私に土をつけた奴!)

 

 依田水穂、速度を武器とするトップランクプレイヤー、通常の手牌の中から、どこからともなく役をひっつけるセンス。喰いタンにはじまり、喰い一通に喰い三色。時には混一色すらも、速度の武器に変えてゆく。

 それは同時に、本人の調子を引き上げていくチカラとなる。

 

(シロいわく、感情の振れ幅が、麻雀にすら影響を与えるくらい、麻雀に感情を振り回された結果、だったっけ――正直なんでこういう異能が備わるかなんてさっぱりな私からすれば――はっきり理由がわかるのは羨ましいんだけどねぇ!)

 

 ――早海手牌――

 {二二三四四⑧⑨111288(横二)}

 

 六巡目の手牌、十分な高打点の望めるそれではあるが、早海はそれを最大まで高めるつもりはない。せいぜいが、暗槓でドラが乗ればいいと思う程度。

 この状況で、水穂が攻めてきていることがわかるから――早海は手をはやめようとしているのだ。

 

 ――水穂捨て牌――

 {①發5九二發}

 

(一応通りそうではある。というかまだ張ってはいないはず。けどどうだろう。これは鳴かれっちまうのかねぇ)

 

 早海/打{2}

 

「――ポン!」 {22横2}

 

(本当に鳴いてきた。やっぱ状況は対子場か。いやさそもそも根本的に、私のチカラを知っていながら、ためらいなく鳴いていけるのが意味不明だっつーの!)

 

 それができるからこその、異質ではある。だからこそ、早海はそれを理解した上で手を作らなくてはならない。状況は、ただがむしゃらに、前に進むだけではゴールは見えない。

 

 故の思考。故の作戦。契機は、続く永水の打牌によって、行われた。

 

 ――初美/打{8}

 

(自身の調子にツモが影響されるなら――こうすれば、あんたはげんなりするんじゃねーか?)

 

 ニヤリと、一瞬だけ水穂へ向いて笑みを浮かべる。果たして水穂が気がついただろうか。それともそんなことお構いなしに、彼女は手牌を晒そうとしているのだろうか。

 

「――チ」

 

 

「――ポン!」 {88横8}

 

 

 水穂の声をうわ塗るように、早海が牌を鳴いて晒した。水穂の顔が、嘆息気味な苦渋へと歪む。理解はしていた。そのうえで、一抹の望みを託して手を晒そうとしたのだ。

 

(ポンでツモを飛ばせば、それだけ手の進みは遅くなる。誰だってげんなりするはずだ。そうなれば調子も下がるだろう――そう思って手を打ったが、思わぬ誤算があったもんだ。――おかげで、依田の手牌は、ここで終いだ!)

 

 状況は、早海の予想を大きく超えて、なお良い形に収束した。続くツモ――{⑧}対々和ツモり三暗刻テンパイである。

 対して水穂は、どこかオリ気味に打牌を選ぶ。連続で対子の並んだ状況は、早海の目から見て全く、脅威といえるような形ではなかった。

 

 結局のところ、早海はこの局に勝利した。

 

「――ツモ! 2000、4000」

 

 最善は、最善を呼ぶ。自分の後方に、追い風を感じるのを早海は理解していた。

 

 

 ――南二局、親水穂――

 ――ドラ表示牌「{9}」――

 

 

 それでも、準決勝の卓上に鬼門の風は絶えず哭く。亡者たちの生を求める慟哭が、準決勝の対局室は愚か、インターハイの会場中を駆け巡る。

 

 薄墨初美は今だ健在。その薄墨が北家、四度目の対決だ。

 

 ――一度目は、龍門渕が速攻で防いだ。二度目はなすすべもなく和了られた。そして三度目は、早海の清一色に勝負を挑んだ初美が放銃――ここまで、和了られた役満は一度だけ。

 

(さっきは、おもいっきりやってくれましてからにですよー)

 

 思考する。

 悔しくはある。自分の独壇場であるべき北家を、倍満闇染めで止められた。その事実は、初美の心底に大きく楔となって残っている。――それでも、ここで初美が手を引くことは、まず間違いなくありえないと言えた。

 

 ――初美手牌――

 {二三三⑨146東東東東北北(横②)}

 

(この手牌なら、十分にまとめて叩き潰すことは可能です。さぁ{東}を今すぐ出しなさい! その時が、あなた達の最後なのですからねー)

 

 待ちわびた時が来た。これまで辛酸を嘗め尽くすしかなかった自分が、この北家であれば卓上の支配者に変わる。全体を支配する早海の異常も、それを上回る水穂の気質も、何もかも、今この瞬間だけは、薄墨初美へ視線を釘付けとするのだ。

 そうして、待って待って待ち続け、食らいつく瞬間が、来た。

 

 

「ポン――!」 {北横北北}

 

 

 薄墨初美の、右手が動く。勢い良く卓の端へスナップを聞かせて牌をスライド、特急の{東}が跳ねて晒して収まった。同時に、打牌。勢い任せに、{1}を切る。

 

 直後、更に初美は{北}を晒す。これですべての条件が整った。鬼門の二つが開かれて、裏鬼門が手牌へと集まる。{南}と{西}、役満、四喜和を構成する必要牌が、グイグイ初美の元へと収まってゆく。

 

 水穂を見る。

 つらそうだ。無理もない、彼女はこの親番で、最悪ツモ和了をされるかもしれない。そうなれば、親被りで多くの点棒をうしなってしまう。そうでなくとも、前局で手を大きく止められ、ツモ番まで飛ばされた。その勢いは、今更見るまでもないだろう。

 

 ハンナを見る。

 その表情は飄々としているが、しかし彼女に脅威はない。余程のことがない限り、ハンナはリーチを仕掛けてくるのだ。もしもそうでないとすれば、待ちはチートイツかチャンタ、出和了り可能な手をハンナはそれしか作れない。

 故に、リーチのかからないハンナは決して脅威ではない。

 だから――

 

 不気味だ。

 

 一人の少女が、不気味にうつる。

 

 牌を掴む、引いてきたのは二枚目の{南}。問題はない、ここまで一切のムダヅモはないのだ。だから問題はない、はずだ。しかし実際はどうだろう。初美はどこか自分の中から違和感を拭えないでいる。

 

 その不気味の正体も、なぜ不気味であるかも、なんとなく解ってはいるというのに。初美はそれを、どうしても振り払うことができなかった。

 

(この卓上は今、私の支配にあるはずです。ですから全体を支配するあなたのチカラであろうと、私には干渉し得ない――はずじゃあないんですか!? ――五日市早海ッッ!)

 

 水穂も、ハンナも、今は自分に届かず、在る。

 しかし早海だけが違うのだ。

 

 ――五日市早海だけが、未だこの対局を支配し、初美に対抗してきている。

 

 不可思議だ。

 不可解だ。

 奇妙で、玄妙で、精妙だ。

 

 やがて、霧の奥底をかき分けるように、初美の不明瞭で不確かな視界に、ひとつの結論が現れる。突如として出現し、忽然とその姿を初美にしらしめる。

 日に焼けた小麦色の顔がめいいっぱいの驚愕に歪んだ。

 

(――()()()

 

 

「――――――――リィィイイイイイイイイチ!」

 

 

 響き渡るは、早海の轟砲。

 まるでこの瞬間に、すべての意識をつぎ込んだかのようなシャウト。水穂が――ハンナが、明らかな驚愕でそれを受け入れた。

 

(やはり、私にテンパイで追いつきますか――!)

 

 他二名よりひとつ飛びで意識を前に取りなおした、初美が一人思考する。状況は、確実に早海の支配を受け入れつつ在る。ならばここに、割って入るのが初美の役目だ。

 

(追いついて、追い抜こうとして……ですが、私の手牌も負けてはいないんですよねー)

 

 ――初美手牌――

 {二三三南南南西(横西)} {北裏裏北} {東横東東}

 

({西}が二枚ですからすでに役満はテンパイですけど。――私のチカラは、{南}と{西}が三枚ずつ集めるまで効力を持ちます。ですからここは――)

 

 ――初美/打{二}

 

(――これが、私の正解なのですよー!)

 

 迷わない。初美から見えている{三}は二枚だ、しかし{一}と{四}はそれぞれ二枚ずつ、たとえどんなテンパイをしていたとしても、もっといい待ちを、早海はテンパイしているはずだ――!

 

 故に――通った。

 初美のテンパイで――大四喜は完成する。

 

 早海の第一打は――自摸切り。和了ではない。もちろん、周囲がまさか初美や早海の当たり牌を出すことはない。その程度には、どちらも状況を理解しているプレイヤーだ。

 そして、迎える初美のツモ。{西}を引き、役満を和了る決定打。これが決まれば、この中堅戦の流れは決定的となることは間違にないだろう。

 

 ――だから、初美は笑みを持ってその牌を掴む。盲牌をすることはなく。手元まで引き寄せて、確かめるのだ。

 

 そして、続く初美のツモは――――

 

 

(――ッ!? {西}じゃない!?)

 

 

 

 ――初美/ツモ{⑧}

 

 

 ――――初美の理解を越えてゆくものあった。

 

 引き寄せるはずだった{西}。

 たらりと、初美の頬を雫が落ちる。体中から浮かんだ“不可思議”という氷張った感覚が、何かを初美に訴えるのだ。

 {西}は消えた。――では、その{西}は一体どこへと消えた? ――代わりとして引いてきた。この牌の意味は、一体何を表しているというのだ――――?

 

 謎が、初美の中で駆けまわる。

 

 ――中堅戦後半、南二局。

 対局は、佳境を迎えようとしていた。




こういう切り方をするのって、もしかしたら咲の二次書いてて始めてかもしれない。
と思ったけど一応水穂先輩の天和があるか。
副将戦を一話に収めたいとか、馬鹿みたいなこと考えてたら時間かかりました。いつもの二倍くらいの文量になりました。当然分割して二話になります。

今日は眠気と闘いながら副将戦書き上げてたので、点数計算はなしです。超眠いです。

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