とあるお姫様は言いました「私は外に出てはいけないのです。お外は危険でいっぱいですから」

とある格闘少年は言いました「だったら俺は君を守れるくらい強くなろう。そうしたら、君を連れて一杯外へ遊びに行こう」

 それはとても幼いころの約束。誰もが普通なら忘れてしまうほどの、つたない約束。

 だけど二人は忘れることはなく、お姫様は少年を待ち続けました。少年は愚痴を漏らしながらも強くなる努力を怠りませんでした。

 これはそんな二人のお話……かも。


…†…†…………†…†…


 ワンピース世界の摩訶不思議格闘技って基本魚人の専売特許だよね? 魚人空手然り魚人柔術然り。

 だったらもう魚人功夫しちゃおうか? という意見のもと書いたはずだったのですが……なぜだ、爽快功夫アクション小説になるはずだったのに、どういうわけかやたら恋愛色が強い小説に……。

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実際には存在しない功夫技はカンフーハッスル参照。

 こんなわざねーよ! とか、

 技名おかしくない? とか、

 色々不備はありますが、そこらへんは流す感じでお願いします……。


魚人の可能性について追及するお話

 それは幼いころの約束。大きな幼い人魚姫と、とある格闘少年のお話。

 

 泣き虫だったお姫様は、その少年に出会って勇気をもらい、生きる理由なんてなくてもよかった少年は、そのお姫様に目的をもらった。

 

 二人はサイズの合わない手を四苦八苦しながらからめあい、何とか拙い指切りを果たす。

 

 そして、

 

「きっとまた会えるよね?」

 

「もちろんだにゃ。というか、明日もあうしにゃ!!」

 

 二人はそう言って笑いあった。

 

 だが、二人に明日なんてものは来なかった。

 

 お姫様はとある悪党に命を狙われるようになって、お城の深い深いところに囲まれ守られ――閉じ込められた。

 

 また明日! の約束が守られなかった少年は、泣きながら彼の師匠のもとへ行き二度と会えないお姫様を必死になって探して――結局見つけることはかなわなかった。

 

 それから――月日は流れて。

 

 

 

 

 ここは、深海1万メートルの海の底。そこに座す魚人島から少し離れた魚人街。

 

 王国政府から打ち捨てられたこの町は、無法者や荒くれ者たちが集うスラム街だ。だが、そんな街であっても人々の活気は変わらない。

 

 荒くれ者たちにも日々の生活があるため、小さな商店が無数に並ぶ商店街らしきものも当然存在しており、そこでは多くの人々が行きかっている。

 

 おまけに……ちょっと人には言えない商品を取り扱う店もあるため、そっち方面の関係者にとっては魚人島よりもむしろこちらの方が有用な買い物ができると有名だった。

 

「よっと!」

 

 そんな荒くれ者の商店街を、軽やかに突き進む一つの影があった。

 

 年のころは大体15歳ぐらいではなかろうか。

 

 この町では珍しい中華風の服を着ており、長い髪を三つ編みにして後ろに垂らしている。

 

 種族は魚人。それも魚人の中では別格といわれる《鮫》――イタチザメの魚人だった。

 

 少年はまるで飛ぶように人ごみの中を駆け抜けながら、商店街を抜ける。そしてそれから先もしばらく走り続け、とうとう人がいなくなった魚人街の端まで到達した。

 

 ここにはもうほとんど魚人が住んでいない。理由はいろいろあるが、一番の理由は肉食の海生生物の被害が最もひどいためだ。海王類がおやつを求めて顔を出すことすらざらにあるこの地域には荒くれ者どももめったに近づかない。

 

 しかし、そんな物騒な場所に来ても、少年は特に気負った様子もなくその場所を歩き、

 

「シショー!! 飯買って来たにゃ~」

 

 とあるボロボロの一軒家へと入っていった。

 

 少年の声を聴いたのか、その一軒家――いや、商品棚やカウンターがあるところを見るとどうやらここは何かの店らしい――のカウンターに座っていた細身の老人が、狼のような鋭い瞳を少年に向ける。

 

「イタチィ……外の様子はどうだった?」

 

「相変わらず騒がしかったにゃ~。あと、ホーディが何かまた騒いでたにゃ? 復讐がどうとかこうとか」

 

「カッ!! 相変わらず、んなこと言ってんのかあの餓鬼は。救いがたいねぇ」

 

 がちがちと牙を鳴らしながら、そう吐き捨てた老人はカワハギの魚人だ。いまいちぱっとしない種族ではあるが、だが鮫の少年――イタチはそんな老人を心底尊敬しているようで、買って来た魚を、シャボンで包んだ七輪の上で焼きながら(あからさまに共食いな気がしないでもないが、鮫なので気にしないらしい)老人の毒舌を聞いていく。

 

「そんなに不満たらたらなら師匠が首突っ込めばいいじゃにゃいか? 若いころの《白ひげ》と同じ船に乗っていたんじゃにゃいの?」

 

「カッ―――!! ガキのけんかにジジィが手ェ出せるかボケカスがぁ!! そんなことしてロクなことになった試しがねーんだよ。それこそ、現在ルーキーの粛清に《冥王》が動くようなもんだ」

 

「レイリーの爺さんかにゃ~。元気してるかにゃ~。最近すっかり会ってにゃいしにゃ」

 

「おぉ、そういやあいつの名前で思い出したわ」

 

「なんだにゃ?」

 

 片面にいい焦げ目がついたので、素手で焼けただれた魚を掴みひっくり返すイタチ。魚人ならそんな高温の物をもてば悲鳴の一つでも上げそうなものだが、イタチはケロッとした顔で危なげなく魚をひっくり返す。

 

「おまえぇ……そろそろ免許皆伝して一カ月になるか?」

 

「まだまだ師匠には届かにゃいけどにゃ」

 

「当然だぁ、ボケカスがぁ。高々十年ちょっと生きただけの餓鬼にそうそう簡単に越えられてたまるかぁ! だがまぁ、そんな若い奴のために俺は考えたわけだよ」

 

「にゃにを?」

 

「お前がもっと強くなるための方法に決まってんだろォが!」

 

 首をかしげる弟子の姿にだんだんイラついてきたのか、額に青筋を浮かべながら怒鳴るよう告げる老人。

 

 イタチはそれに驚いたような顔になって「し、師匠が師匠らしいこと言ってる!?」と思わずつぶやいてしまい、

 

「フンっ!」

 

「ぶっ!?」

 

 老人が飛ばした拳圧によってあっさり吹き飛ばされ、店の外へと叩きだされた。

 

 瞬間、叩きだされたイタチを待ってました、と言わんばかりに通りがかった巨大ザメが呑み込んでいきどこかへ行ってしまう。

 

 その数分後、老人はイタチが焼いていた魚がいい感じに焼けたので一尾、七輪から奪取し自分のとり皿に乗せる。それと同時に、おそらく先ほどの鮫の血だと思われる液体を体中にまといながらイタチが返ってきた。

 

「ひ、ひどい目にあったんだにゃ!?」

 

「いいから外でそれ流してこい。商品に血が付いたらどうする」

 

 水売りなんて頭おかしい商売しているくせに何言ってるんだにゃ~!! バカ野郎! これは深海じゃ手に入りにくいミネラルたっぷりのミネラルウォターなんだよ!! と、一しきり言い争いをしながら、イタチは体についた血を洗い流しに行き、老人は舌打ち交じりに店内の海水に混じりこんでしまった血を流しだすために窓を開け水通し(・・・)をよくする。

 

「で、その強くなる方法って?」

 

「あぁ? 決まってんだろう。お前みたいな若い武道家がさらなる力を求めてやることなんザ古今東西一つだろぉが」

 

 老人はそこで一枚の紙を懐からだし、イタチに向かって投げつけた。

 

「武者修行だ、バカやろォ」

 

 その紙には老人のサインと共に、《冥王》レイリーに『地上(うえ)で暮らせるよう、ある程度の教育を施してくれ』という一文が、荒々しい筆跡で刻まれていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「お~い!! 飯吊り上げるぞ、野郎ども~!!」

 

「「おぉ!!」」

 

 とあるアラバスタ近海の海。麦わら海賊団は新しく仲間になったビビの故郷アラバスタを救うため、一路アラバスタへと向かっていたのだが……。

 

「おいお前ら、大物頼むぞ」

 

「「「合点だ!!」」」

 

 いろいろと諸事情(ルフィのつまみ食いとか、ルフィのつまみ食いとか、ルフィのつまみ食いとか、ルフィのつまみ食いとか、ルフィのつまみ食いとか、ルフィのつまみ食いとか...)があり、現在食料がそこをつきかけていた。

 

 というわけで、現在……ルフィ、ウソップ、チョッパーによる、食糧確保大作戦――またの名をのんびり釣りしようぜ大作戦が麦わら一味の船の上で行われていた。

 

 だが、

 

「つれないな~」

 

「つれねぇな……」

 

「大物どころか小魚一匹かからねーしよー」

 

 数時間後三人はダレにダレていた。どんな屈強な戦士だって、つれない釣りほど苦しいものはない……。

 

 そんなときだった、

 

「おっ!?」

 

 ルフィの竿にヒットが!!

 

「おっしゃぁあああああああああああ!!」

 

「ルフィ、逃がすんじゃねーぞ!!」

 

「がんばれルフィ!!」

 

「こ、これはデカいぞぉおおお!!」

 

 自分の膂力をもってしてもなかなか上がってこない獲物に、ルフィやその仲間たちは「大物か!?」と期待を持って釣糸の先を見つめる。

 

 だが、その時ルフィの仲間である航海士――ナミがあることに気付いた。

 

「ねぇ……船、傾いてない?」

 

「「「!?」」」

 

 常識持ち組がいち早くその異常な事態の原因に気付き、

 

「ルフィ!!」

 

 竿を離せ!! と告げかけたときだった、

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 突如釣り糸が垂れていた海面が割れ、中から巨大なウミヘビのような生物が船の上空に橋を渡すようなアーチを描きつつ跳ね上がる。

 

「「「「「「か、海王類だぁああああああああああああ!?」」」」」」

 

 海の王――その名にふさわしい巨体を持つありとあらゆる海の中で最強の生物、海王類。

 

 その巨体はぶつかっただけで船を沈め、船乗りたちにとってはまさしく生物の形をした災害と何ら大差ない扱いを受ける生物だ。どうやらルフィの針は運の悪いことにこの生物にひっかかったらしい。

 

 海王類が飛んだ方向に延びる釣糸を見てそれを悟る麦わら海賊団。こんな厄ネタさっと切り離すべきだと、慌ててクルーは先ほどと同じ言葉をルフィに告げようとして、

 

「すげぇえええ!! あれ、飯にしたら何日分の飯になるんだぁ!?」

 

 目をキラキラ輝かせて明らかに吊り上げる満々の船長の姿に、思わず全員でずっこける。

 

「飯にできるわけないでしょ!!」

 

「お願いだ、ルフィ!! すぐに、すぐに竿を離すんだ……あ、じ、持病の海王類を吊り上げてはいけない病が!?」

 

「やるならマリネか?」

 

「三枚おろしは俺に任せろ」

 

「何ノリノリで言っているんですか!?」

 

「クェーッ!!」

 

「ルフィ、お願いだから竿はなしてくれぇ!!」

 

 船上が一種の戦場へと変わる。突如空気が寒くなった気がしたが気のせいだと思いたい。

 

 その時だった、

 

「魚人功夫(カンフー)……」

 

 突如海中から、泡と共にそんな声が聞こえてきた。

 

「なんだ?」

 

 ルフィがその声に首をかしげた瞬間、

 

「魚神・神掌!!」

 

 瞬間、海王類の巨体がまるで巨大な掌による掌底でも食らったかのように打ちあがり、巨大な水柱をぶち上げる。その目は完全に白目。一撃で意識を刈り取られてしまったらしい。

 

「なっ!?」

 

「なんだ!?」

 

 ほとんど局所的大雨と変わらない突然の降水に、その原因を探ろうと海王類が出てきた海の方へと視線を戻す麦わら一味。そこには、青い肌にわずかな鱗を纏った鮫の魚人と思われる小柄な影が海面から顔を出していた。

 

「魚人!?」

 

 なんでこんなところに!! と、麦わらの一味コックであるサンジは、その姿を確認した後あわててナミの方へと視線を移した。彼女と魚人はいろいろと因縁がある。だが、

 

「大丈夫よ、サンジくん。アーロンのところでは見なかったから多分うちの島とは関係ない」

 

 ナミはそう気丈に答えて、笑みすら見せてくれた。そんな彼女の健気な態度にサンジが目をハートにしてもだえる中、状況は進んでいく。

 

「おい、落ちてくるぞ!」

 

 海面を引き裂き、空を飛んだ海王類の巨体が、ゆっくりと重力に従い落ちてきた。

 

 このままではあの魚人は押しつぶされる! と、誰もが思った時、

 

「にゃ」

 

 何やら変な語尾と共に、その魚人は軽くつきだした右腕一本でその巨体を受け止めきり、あっさりと持ち上げた!!

 

「なぁああああああああああああ!?」

 

「ひぃいいい!? あいつどーなってんの!?」

 

「ぐ、グランドラインにはいろいろな猛者がいますけど、流石にあんなでたらめな人は……」

 

「ほぉ、面白そうじゃねーか」

 

「何楽しそうに笑ってんのよ!!」

 

「そんな風に怒ってるナミさんも素敵だ!!」

 

 その信じられない光景に船上は若干のカオスに包まれるが、そんな中一人いつもマイペースな船長が、

 

「おいお前!! それ俺たちが食うはずだった飯だぞぉおおおおお!!」

 

「やめてぇ、ルフィやめてぇええええ!!」

 

「ケンカ売ったらおれたちも海王類みたいにされちゃうって!!」

 

 自分たちの海王類所有権(釣り針がかかっているためあながち間違いといえない)主張するが、海王類一撃でのすような魚人相手にケンカを売って勝ち目などないので、ウソップとチョッパーは必死になって止める。

 

 しかし、相手にはきちんとその声が届いてしまったらしく、その鮫の魚人はくるりとルフィたちの方へと振り返り、

 

「げぇ!? 海賊!? こ、このままにゃとせっかくの3日ぶりの飯が略奪されちゃうにゃ!?」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 そのセリフにはいろいろモノ申したいことがあったので思わず一斉に黙り込む麦わら一味。鮫の魚人――よく見るとルフィたちと同い年ぐらいだ――はそんな麦わらの一味の反応を戦闘態勢ととったのか、慌てた様子で海へとモグリ海王類の体を海面に出す。どうやら水中で海王類の巨体を支えているらしい。

 

 そして、

 

『や、やぁ! 僕海王類!! さっきの人なら僕の重さで潰れちゃったよ!? ほんとだよ!? 君たちもパクリといっちゃう予定だからさっさと逃げた方が得策だよ? ほんとだよ!?』

 

「「「「「「………………………………」」」」」」

 

 甲高い声で海王類のアフレコをする鮫の魚人に、いろいろモノ申したいことが増えて、さらに沈黙を長くする麦わら一味。

 

 とりあえず、

 

「か、海王類がしゃべったぁああああああ!?」

 

「「「「「「お前はどこ見てたんだ!?」」」」」」

 

 あっさりとそのごまかしにひっかかりかけた船長をツッコミがてらに殴り飛ばしておくことはしておいた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ほ~。武者修行ね」

 

「そうだにゃ!! 世界にはいろいろ強い奴がいるからそれ見て来いって言われたにゃ!! こっちでは当面のところ王下七武海にあって、できれば模擬戦してもらうことが目標かにゃ?」

 

「王下七武海に!?」

 

「どんだけスケールでけー武者修行だよ……」

 

 結局、海王類ほどの大物、どう解体して麦わらの一味と少年が分け合ったところで余りまくると分かったので、二組は友好的交渉を開始。数時間後、コックであるサンジが振るう海王類料理を仲良く食す程度の親交は結ぶことに成功した。

 

 魚人の名はイタチ――イタチザメの魚人だという。

 

「イタチなのに語尾がにゃぁ!?」

 

「なんだにゃ!? 何か文句でもあるのかにゃ!? これはむかしネコザメの魚人と自分のこと思い込んでいたから定着しちゃっただけにゃ!!」

 

「いや、ネコザメの魚人でもその語尾はおかしいだろ!?」

 

 と一悶着もあったが、それはまぁスルーする方向でいいだろう。

 

「とりあえず同族であるジンベエさんとは割とあっさり模擬戦できたんだがにゃ……。いや~、流石は七武海最強の男……一撃ぶち込むのが精いっぱいだったにゃ」

 

「というかもう模擬戦してる!?」

 

「そして一撃入れちゃってる!?」

 

 仮にも世界の三大勢力を七人で担う実力集団と、割とあっさりやりあっているといったイタチに顔を引きつらせる麦わら一味常識陣。

 

 まぁ、もっとも船長だけは「すんげー!!」といいながら目を輝かせていたが。

 

「あ、あの……でしたらここには、クロコダイルを倒しに!?」

 

「ん? クロコダイル? 誰にゃそれ? 今は鷹の目を探しているところだにゃ。まぁ、下手すると模擬戦どころか命とられるぞって言われているからあんまりやりたくないんだけどにゃ……」

 

 しなかったらしなかったで帰った時の師匠怖いし……。と、ちょっとだけ震えながら、苦笑いを浮かべるイタチ。そんな彼の言葉に「そうですか……」と、ビビはちょっとだけ落ち込んだ様子を見せた。

 

 海王類を一撃で倒すほどの彼の実力だ。麦わらの一味と共に彼女の祖国を苦しめるクロコダイルと戦ってもらえるなら、かなり頼もしかったのだが……と。

 

 だが、彼女はそう考えた後フルフルと首を振り自分の考えを改めた。

 

 自分にはルフィさんたちがついている。彼らは自分から彼女の助けになると言ってくれたのだ。それをないがしろにして、ほかに人にも救援を求めるというのはいささか義理人情に欠ける。と、

 

 だが、

 

「お前! 俺の仲間になれよっ!! んで一緒にクロコダイル倒そうぜ!!」

 

 ルフィがあっさりと告げた言葉によって、彼女は二度目のずっこけをする羽目になった。

 

だが、魚人の少年の反応はつれないものだった。

 

「いや~。流石にそれはちょっと困るにゃ~。海賊になって万が一指名手配でもされた日には師匠の折檻が怖いしにゃ」

 

 自分が元海賊のくせに、弟子が世界政府にケンカ売るのは禁止するだにゃんておかしいけどにゃ……。と、ちょっとだけ不満を漏らしつつも、割と師匠の言うことは素直に聞くイタチ。というか、もともと海賊とか世界政府とかそういった立場に関して頓着する気がないのか、とりあえず師匠に言われているから海賊になるのはやめよう程度の認識らしい。だが、そんな認識でルフィの申し出はあっさりと断られることとなった。

 

 え~。なんでだよ、一緒に冒険しようぜぇ~。と、食い下がってくるルフィを片手であしらいつつ、イタチは苦笑をうかべながらさらに理由を重ねた。

 

「それに、砂漠はちょっと水少なくてむ……あ、いやいや! こういう修行には順番があるんにゃよルフィ!! クロコダイルはまだまだ先の相手だにゃ!」

 

「そっか……修行か。なら仕方ねーな」

 

 いったいルフィの中では、どういった基準で諦めるのか粘るのか判断しているんだろう……と、仲間たちは若干不思議に思いつつも、イタチに『誤魔化したな』とあからさまな呆れの視線をぶつけた。

 

「ていうか、その順番が来たところでどうやって倒す気なんだよ?」

 

 お前、砂漠苦手なんだろ? と、言外にその言葉を潜ませたゾロの質問に、イタチは自信あふれる言葉で一言、

 

「そんなの決まっているにゃ! いくらクロコダイルが陸の上にいることが多いからって、船を使わないわけではないにゃ。だったら、クロコダイルが航海に出た時を見計らって十分陸地から離れた場所で船を襲撃。船底に穴をぶち開けて海中に叩き込めば、七武海ともいい勝負できる自信があるにゃ!!」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 クロコダイルが悪魔の実の能力者だと(能力そのものは不明だが)知っている、麦わらの一味は意外と鬼畜なイタチの戦術を聞き、思わず顔を引きつらせる。

 

 これ、放っておいてもクロコダイル近々死ぬんじゃないかな……と、麦わらの一味が満場一致で思った瞬間だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから数日後、アラバスタのとある港近海。

 

「ひ、ヒナ大佐!! 一番艦にも穴が!?」

 

「くっ!? これじゃ麦わらの一味追えないじゃない!? ヒナ激怒!!」

 

 クロコダイルを討伐し、アラバスタから逃げる麦わらの一味をとらえようと配備されていた海軍軍艦たちは突如船底に巨大な穴が開き航行不能に陥るという、不幸な事故(・・・・・)に見舞われていた。

 

 とうぜん、こんなタイミングで船底に穴が開く事故なんてあっていいはずがない。

 

 明らかに人為的に行われたことだ。だが、

 

「海中にいる犯人の姿が目視すらできないなんて!?」

 

 悪魔の実の能力ではないことは確かだ。海中ではあれらの能力は使えない。それこそ、青キジのような特例でもない限りは。だが、

 

「だったらいったい誰だというの!? ヒナ疑問!?」

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんな風に海軍軍艦が混乱のるつぼに落としいれられている中、Mr.2ボンクレーと合流したルフィたちは、驚いたような顔で突如煙を上げて停止しだした軍艦を見つめた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 なんかの事故か? と、彼らが首をかしげる中、

 

「トウッ!!」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 突如海面から一人の魚人が魚雷のような速度で飛び上がってきて、ルフィたちの目の前に着地する。

 

「待たせたにゃルフィ!!」

 

 その男は、

 

「友人を助けに参上した、俺だにゃ!!」

 

「イタチぃいいいいいいいいい!!」

 

 アラバスタ近海で出会ったあの同い年の魚人だった。

 

「にゃんか困っているみたいだったから思わず助けちゃったんにゃが……一体にゃにしたんだにゃ? あれ、海軍本部大佐の旗艦にゃよ?」

 

 よっぽどの凶悪犯罪者にしか出されないはずのその船の旗を見ながら首をかしげたイタチ。この時はまだ彼はルフィのクロコダイル討伐の新聞記事を読んでいなかったのだ。

 

「そういうお前はどうして? ミホークとは会えたのか?」

 

「それがさーっぱりにゃんだにゃ。いったいどこほっつき歩いているんにゃか……。ちょっとこれからカームベルト越えて外界まで足を延ばす予定だにゃ」

 

「今平然ととんでもないこと言ったぞこいつ……」

 

「わぉ!! カームベルト越えるなんて正気の沙汰じゃないわよーぅ!」

 

「え、にゃに? そんなにひどいところにゃの? 師匠からは《デカイ狩場がある》としか聞いてにゃいんだけど」

 

「そりゃ海王類狩るアンタならデカイ狩場でしょうね……」

 

 何とも言えない複雑な顔で、ため息をつく常識人陣営。

 

「それじゃあにゃルフィ! 今度機会があったらまた会うにゃ!!」

 

「おう!! またな、イタチ!!」

 

 懐かしい顔との再会を終わらせ、一味は再びグランドラインへと旅だつ。

 

 この出会いはのちの《海賊王》と新生四皇の一人に数えられた《魚雷拳》の出会いとして歴史書に記されることとなるのだが、この時はまだ誰もそんな未来を予想すらしていなかった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから二年と少し経ち、魚人島――竜宮城甲殻塔内にて、泣き虫な人魚姫シラホシと、強くたくましくなったルフィが邂逅を果たしていた。

 

 命を狙われていることルフィに教え、自分は外に出れないのだと嘆くシラホシに、ルフィは「だったら俺がお前を守ってやるから、どこ行きたいのか言え!!」と、泣き声が鬱陶しくなったのか怒鳴る。

 

 それを聞いたシラホシは、

 

「……!?」

 

 なぜか一瞬で黙った後、顔を真っ赤にして、

 

「い、いけませんルフィ様! そ、その約束は既にほかの人としているんです!」

 

「ん? そうなのか?」

 

「は、はい! その人は、いつになるかわからないけど……いつかきっと、私を守れるぐらい強くなって、私をこの塔の外に出られるようにしてくれると……」

 

「なんだ。ちゃんとした奴がいるじゃねーか、ニッシシシシシシ」

 

「はい。私の……お母様との思い出以上に、心に残っているお方です」

 

 シラホシはそう言いながら、彼の顔を思い出すために目を閉じる。

 

 巨体な自分以外が見ても多分小柄だと思うほど小さなその体から、自分を多人数で囲み追いつめた物騒な人々を吹き飛ばす拳打が放たれるその姿。

 

 武術の達人でなかったシラホシでは見ることすらできない速度で、物騒な人々を連打し意識を刈り取るその姿。

 

 そして何よりも、自分の手を引き魚人街の様々な場所へ連れて行ってくれた(お互い幼かったため変に気を使うこともなく、悪いところもいいところも、全部見せてくれた)優しい人。

 

「そいつ、どんな奴なんだ? つえーのか!」

 

「はい……それはもう」

 

「あってみてーな! 魚人島のつえーやつ! ジンベエからの伝言にも『君が来るころには面白い奴が魚人島に帰っているじゃろう。一度会ってみるとええ』ってあったし! あぁ、そいつにも早く会いたいぜ。で、ヨワホシがあったていうそいつは?」

 

「えっと……多分鮫の魚人さんで――語尾に『にゃ』がつくとてもかわいらしい話し方をする方でした!」

 

「……」

 

 なんだかとってもあったことがある人物な気がしてならないルフィだった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 グランドライン・新世界入口・魚人島。

 

 イタチはようやく七武海全員との模擬戦を行い、それらすべての形式的勝利を収め、ようやく故郷の土を踏むことができた。

 

 だが、

 

「にゃんか、荒れてね?」

 

 辺り一帯をあわただしく駆ける自衛隊アンモナイトと、それに忙しく指示を出す王子三人。

 

 さらにちょっと違う場所に足を延ばせばなんか暴れている魚人街たちのならず者が発見できた。

 

「う~ん。クーデターでも起きたのかにゃ?」

 

「こんな風に叩き潰してやるゴギャン!」

 

「ドスン超えちゃった!?」

 

 イタチが物騒な世の中だにゃ~。師匠無事かにゃ? まぁ、殺しても死なない人だし多分無事だろうにゃ~。と、一人独白しているさなか、何やら背後に不吉な影が差していた。

 

 先ほどまで捕まっていた新魚人海賊団幹部ドスンが鎖から脱出し、近くにいたアンモナイトと市民たちを手当たり次第に襲っていたのだ。

 

「死ねぇえええええええええ!!」

 

「んにゃ?」

 

 別にその程度は外での海賊街でならいくらでもあったので無視していたイタチ。だが、さすがにそのハンマーが自分に向けられているとなると話は違ってくるようで。

 

「鬱陶しい奴だにゃ~」

 

 幼少のころの服装と比べると落ち着いた印象をうける黒と白の配色がされた中華服。イタチはそれを風圧で揺らす、自分に向かって振るわれるハンマーを視認した後ゆっくりと構えをとり、

 

「魚人崩水拳!!」

 

「っ!?」

 

 そのハンマーを殴りつけ、一撃で粉砕する。

 

「ギャバぁああああん!? そ、そんなバカな!?」

 

 自分の自慢の武器が一撃粉砕され驚き慌てふためくドスン。しかし、イタチの収める流派――魚人功夫は技の威力ではなく手数によって攻める格闘技(いっても七武海と渡り合ってきた彼のコブシはすでにハンマー程度なら易々と砕く威力を誇るが)。高速のまま行われる凶悪な技の連撃こそが真骨頂。ゆえに、イタチは止まることなく、剃と見紛わんばかりの速度でドスンの懐に潜り込み、

 

「崩水拳――」

 

 叩き込む!

 

无二打(にのうちいらず)

 

 ドスンに走る衝撃は見た目では先ほどのハンマーを砕いた一撃と比べるとはるかに小さい。だが、それは違う。

 

 ドスンの体から衝撃波が出なかったのは、その衝撃波がすべて彼の体内に正確に叩き込まれたから。その衝撃は強靭な魚人の骨格すらひずませ厚い筋肉の鎧すらぶち抜き、内臓へと到達する。そして、

 

「がはっ!?」

 

「「「ど、ドスンさぁあああああああああああああああん!?」」」

 

 エネルギーステロイドという禁断の手段すら使って強くなった彼が、あっけなく血を吐き倒れる姿を見て取り巻きたちは絶望の絶叫を上げる。

 

 しかし、割とそんなことはどうでもいいイタチは、もう色々とめんどくさくなって、さっさと里帰りを終わらせるため、

 

「魚人島から出ないとにゃ……」

 

 はて、門ははたして今通れるのにゃろうか? と、ひとり呟きながら、ぶっ倒れたドスンを放置しさっさとその場を離れていった。

 

 できればあのデカイ人魚見つけて、いろいろ言ってやりたかったんだけどにゃ~。やっぱりもうこの島にはいないのかにゃ? といいながら。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「まよった……」

 

 久しぶりに来た町はずいぶんと様子が変わっていた(主に瓦礫の山になっているということで)のですっかり迷ってしまったイタチ。とりあえず人がいるところに行って道聞こうと判断した彼は、なにやら人だかりができている場所に足を延ばしてみた。

 

「あぁ、もしもし……ちょっと道聞きたいんにゃけど」

 

「あぁ!! 今そんなことしている場合かよ!? 魚人島がどうなるかどうかの瀬戸際だぞ!?」

 

「いや、そんにゃことよりも道……」

 

「それに、麦わらさんたちが命がけで俺たちのために戦ってくれているんだ! それなのにここに住む俺たちが、自分から逃げ出すなんてことやっちゃいけねーんだよ!!」

 

「え? にゃに? ルフィきてるのにゃ?」

 

 頂上戦争で死んだと聞いていたが、どうやらいつのまにか蘇っていたらしい。これはちょっと挨拶せねば!! と、久しぶりにきいた友人の名前に頬をほころばせ、イタチはあわてて人ごみをかき分けその先へと進んでいく。そして、

 

「え? にゃにこれ? 戦争?」

 

 一段下がった魚人広場は人と魚人で埋め尽くされ、乱戦の体をなしていた。

 

 戦っているのは魚人街の荒くれ者たちとアンモナイト、そして、

 

「麦わらの一味っと……。見た感じアンモナイトに助力しているのかにゃ?」

 

 何やら二年でえらく逞しくなった気がする麦わら一味を感心した様子で見つめる、イタチ。ブッチャケ全員アンモナイトの加勢がなくても余裕そうに見えたので、このまま観戦するのもありか? と、イタチは考えた。だが、

 

「何してんだボケカスがぁ」

 

「お? 師匠! ただいま帰りましたにゃ!!」

 

「見りゃわかるっつーの」

 

 いつのまにか背後に来ていた老人に気付き、イタチは歓喜の声を上げた。

 

 師匠は変わらずボロイ中華服を着た、かくしゃくとした老人だった。というか、5年近く前に別れたのだがその時と一切ビジュアルが変わっていない気がする。まるでどこかの仙人のようだ……。と、イタチが感心する中、老人はジトッとした視線をイタチに向けた。

 

「ジンベエから聞いたぞ? あいつとほとんど殺し合いと変わらん対決をして勝ったそうだな」

 

「辛勝だったけどにゃ! おかげで傷治すためにシャボンディで半年近く足止めだにゃ……。さらに魚人島に向かおうとするときに天竜人に奴隷にするって言われたから思わず殴り飛ばして逃げてきちゃったし……」

 

「……海軍大将くるだろそれ」

 

「問題ないにゃ。あいつら基本人間の悪魔の実の能力者にゃから海中に逃げ込めばたいてい追ってこれないにゃ」

 

 海中でもかなり厄介な青キジはもういないし、とけたけた笑いながら肩をすくめるイタチに師匠はふんと鼻を鳴らし、広場を指差した。

 

「ちょうどいい。お前あれ何とかしてこい」

 

「もう個人でどうにかなるクラス越えていると思うんにゃけど……」

 

「ふざけたことぬかしてんじゃねーぞ。全七武海全員と戦って一応の勝利収めるようなお前が、まさかあの程度の戦場で尻込みしているわけでもあるまい」

 

「まぁ、そうだけどにゃ」

 

 別に純粋な実力で勝った相手だけというわけではないので、もう一度戦えば負ける可能性がある七武海も何人かいる。そのうちの一人はモリヤだったので、もう一度再戦をしたかったのだが、あの戦争で死んでしまったらしいのでそれはもうあきらめていた。

 

 それはともかく、イタチとしてはせっかく故郷に帰ってきたのだからのんびりと過ごしておきたいというのが本音だった。

 

 正直魚人街出身の自分にとっては魚人島がどうなろうと割と知ったことではないし、べつにホーディ達みたいに憎んでいるわけではないが、自分たち魚人街の住人に何もしてくれなかった王国に何かをしてやる義理もない。

 

 第一、現在最強格とうたわれるルーキー麦わらの一味がすでに鎮圧に動いている。見る限りでは危なげなく戦っているし、いまさら自分が行ったところで……感が半端ないというのが実情だった。

 

「お前、もう忘れちまったのか? お前がおれの弟子になりたてな頃、やたらお前に懐いていたデカイ人魚の娘いただろう」

 

「え? あぁ、あのデカくはあるけどやたらと泣き虫にゃ? せっかく人が魚人島くんだりまで足伸ばして探しに来たのにどこの金持ちの娘でもにゃかったし……。本当に魚人島に住んでいるのかにゃ?」

 

 もとより存在そのものが怪しい少女ではあったのだと、イタチは思う。魚人街のような無法地帯にやたらと豪華な服を着て乗り込んできたかと思えば、あっさりカモにされて襲われかけていた少女。

 

 世間知らずなのか、頭が悪いのか、蛮勇が凄まじかったのか……と、当時の自分は呆れ交じりに彼女を助けて、いろいろ世話をしてやっていた。だが、

 

「三日ほど魚人街に来たと思ったら、突然こにゃくなったし。人がせっかく、いつもの待ち合わせ場所で待ってやっていたっていうのにひどい奴だにゃ!! 《お母様の仇がどのようなところで育ったのか見てみたいのです》とかにゃんとか言っていたけど……」

 

「何言ってやがるボケカスがぁ。あの後お前泣きながら俺の店に来て『し、シラホシが攫われちゃった!!』とか頓珍漢なことぬかして、俺に土下座までして捜索頼んできただろうが。おかげで何の関係もなかった魚人街のギャング全滅させなきゃならなくなったんだぞ」

 

「そんにゃことよく覚えているにゃ、師匠……」

 

「うるせぇ。おかげで『血濡れのカワハギ』なんて変なあだ名が付けられたあげく、アーロンたちにやたらと勧誘かけてくるようになっちまって、魚人街中央にいられなくなったんだろうが。忘れたとは言わせねぇぞ」

 

「いや~。若気にいたりって怖いにゃ……」

 

 ついでに、弟子の頼みでその地域一帯のギャング殲滅する師匠も怖かったりするが、言うと明らかに藪蛇なので黙っておく。

 

「で、その子がどうかしたのかにゃ?」

 

「お前そいつと約束していただろう……『いつか自分がもっと強くなったら、お前を守りに行ってやる。そうしたらもっとたくさんの世界を見に行こう?』って」

 

「師匠……『にゃ』ができていにゃいにゃ」

 

「ざけんな。んなこっぱずかしい口調マネしてられるか」

 

「いま俺のアイデンティティが全否定された気がするにゃ……。で、その約束がどうかしたのかにゃ? 正直守る相手が見つからないんじゃもう反故にしてもいいとおも……」

 

 そこまでイタチが言った時、師匠は無言で手を伸ばしある一点を指差す。

 

 にゃんだ? とイタチが首をかしげながらそこを見ると、そこには、

 

「っ!?」

 

 空を舞い、宙を泳ぐ巨大な人魚の少女の姿が見えた。

 

「てっきりこの町の有力者の餓鬼だと思っていたんだがな……。あの姫が生まれてから一時期魚人島ではその名前にあやかろうと同じ名前や、もじった名前が増えていたらしいし。だがまさか、本当に人魚姫殿下を引き当てているとはな……」

 

 逆玉だぜ? ボケカス。その師匠の言葉はすでにイタチには届いていなかった。

 

 彼は七武海と戦うために鍛え上げた健脚を使い、瞬時にとんでもない高さまで跳躍し、宙を泳ぎシラホシを追いかけていた魚人街の男性人魚たちの背中へと着地する。

 

「なっ!? 誰だお前!?」

 

「誰だっていいにゃ……」

 

 シャボンかりるにゃ? そう言い捨てた彼は、乗っていた男性人魚の背骨を震脚でかち割り、

 

「魚人太極拳・潮目!!」

 

太極拳による力の統制により柔らかな動作で、彼を浮かせていたシャボンを、割らないまま見事に剥ぎ取る。

 

 そして彼はそれによって墜落する男性人魚に目もくれず、浮き上がったシャボンの上に立ち、

 

「ひっ!?」

 

「さぁて……約束を守るとするかにゃ?」

 

 凶悪な笑みを浮かべて、シラホシを追撃していた人魚たちに襲い掛かった!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 シラホシは何とか魚人島の外に出ることに成功し、《始まりの船》ノアの軌道をそらすことに成功しかけていた。だが、

 

「ジャハハハハハハ!! 無駄だ、シラホシ! 今のおれには世界最速を誇る人魚の遊泳速度も通じない! 貴様はここで死に、魚人島と共に滅びるんだよ!!」

 

 追いかけてくる。何よりも早く、明確な死のにおいを漂わせた怪物が。

 

 ホーディ・ジョーンズ。それが彼女を殺そうと追いかけてくる男の名前だった。

 

 そして、彼女の母を殺した男……。

 

「ジャハハハハハ! お前も馬鹿なことをしたものだ。俺が乙姫を殺した犯人だと素直に告げていれば、魚人島が滅びることもなかったのになぁ!! わかるかシラホシ! 魚人島は俺たちの怨念によって滅びる。だがなぁ、最も大きな原因はお前の愚かな優しさだよ、シラホシィ!!」

 

「――っ!!」

 

 シラホシの母である乙姫は、人間と共に生きる未来を創ろうと活動する活動家だった。しかし、人間を心の底から憎んでいたこの男は、それを許そうとせず彼女の命を奪ったのだ。

 

 その現場は誰にも見られていない。殺害方法は狙撃で、狙撃が行われた場所ではホーディによって殺された人間が放置されていた。それを状況証拠にホーディは人間が乙姫を殺したと主張。もとより人間に対する不信感を払拭しきれていなかった魚人島の人々はそれを真実だと信じてしまった。

 

 だがそれは違った。実はその狙撃現場をシラホシのペットである巨大な鮫メガロが目撃しており、そのことをシラホシに告げていたのだ。

 

 だが、シラホシはそれを聞きあえて口をつぐむことを選んだ。誰かがまた憎しみの的になるのはやめてほしいと、憎しみの連鎖は断ち切ってほしいというのが、乙姫の遺言だったから。

 

 だから彼女は涙をのみそれを口に出すことを禁じた。だが、そんなことをしても彼女の胸のもやもやは晴れなかった。母を殺した相手を憎む気持ちが、あとからあとから湧いてきて彼女はもう胸が苦しくて泣き続けていた。

 

 だから彼女は決意した。魚人街を見に行こう、と。いったいなぜ、母はそこの人に殺されなくてならなかったのか? シラホシはそれが知りたかった。それを知れば、この憎しみも消えてくれるのではないかと、幼いながらに彼女は考えたのだ。

 

 そして、彼女は見てしまった――魚人街に広がる人間に対する憎悪を。

 

 人間は敵だ、下等な種族だ、自分たちの上に立つなどおこがましい、クズのような種族だ。と、

 

 シラホシはあまりの醜い言葉の数々に耳を塞ぎたかった。これが魚人街の現状だなんて、信じたくなかった。

 

 これではまるで、自分の母がやってきたことがすべて無駄だったようではないか。

 

 だから彼女は魚人街に来ても泣いた。泣くことしかできなかった。でも、

 

『人間? あぁ、あの地上(うえ)にいる人たちにゃ? 別にいいんじゃにゃい? どうでも』

 

 あの少年は、泣くことしかできなかったシラホシに話しかけてくれて、話を聞いてくれた。

 

『憎いとか憎くないとか、そういったこと語っている時点でだめにゃんだよ。魚人同士だってにゃかよくできにゃい奴はいるんにゃし、ホーディとかその筆頭にゃし。代わりに人間でもにゃかよくできるやつはいるにゃ。レイリーじいちゃんとかマジ最高にゃ!! この前師匠に会いに来て、お土産にお菓子おいていってくれたんにゃよ? 今度食べさせてやるにゃ!! ああっと、それはまぁおいておくにゃ。ようするにだにゃ、人を評価するのは種族とか関係ないイーブンな視線で見ることがベストだにゃ。まぁ、そうできないやつが多すぎたからお前のお母さんは苦労したんにゃろうが……』

 

 助言を与えてくれた。

 

『母親を殺した相手を憎みたくにゃいね……。意外とすごい奴にゃんだな、お前。お前みたいなのが人の上に立ったら、俺もこんな生活しなくてよかったのかにゃ~』

 

 褒めてくれた。そして、

 

『いつかオレがもっと強くにゃったら、お前を守りに行ってやるにゃ。そうしたらもっとたくさんの世界を見に行こう?』

 

 約束……してくれた。だからっ!!

 

「そうなんでしょう……。あなたの言うとおりなんでしょう……ホーディ様」

 

 シラホシは目にいっぱいの涙をためながら、

 

「それでも私は、たとえ過去に戻れるとしても――同じ選択をします!」

 

 必死に泳ぎながら、そう言い切った!

 

「それが馬鹿だっつってんだよぉおおおおおおおおおお!!」

 

 そんなシラホシの言葉は結局ホーディには届かず、薬によって強化されたホーディの剛腕がシラホシの長い髪へと延びる!

 

 その時、

 

「人魚の世界最速の遊泳速度も、今の俺には通じにゃい?」

 

 背後から、懐かしい声が響き渡ってきた。

 

 シラホシが驚きながら後ろを振り返る。ホーディの驚いた顔が真っ先に映り、そして次の瞬間、

 

「右に同じっ!!」

 

 人魚の遊泳速度か……それこそ魚雷のような速度で水中を駆け抜けた男性が、ホーディに盛大にぶち当たりその体を弾き飛ばす。

 

 (コウ)。単純な説明を当てはめるなら体当たり。だがしかし、使用者の長年の研鑽と、体の体重移動の制御が行われればこの世界の靠は、

 

「海将靠!!」

 

 半径一キロにわたる海域に、凄まじい衝撃波を放つ威力にすら跳ね上がる! さらにその技を放った人物は、その衝撃を分散させることなく、全て相手の体に叩き込む技量をもっている。

 

 当然そんなものを食らったホーディが無事でいられる道理はない。

 

「ぎゃぁあああああああああああああ!!」

 

 唐突に自分を襲った衝撃にホーディはあっけなく吹き飛ばされ、シラホシから引き離された。

 

 シラホシは驚いた顔で突如自分とホーディの間に割り込んできた人物へと視線を向ける、そして、

 

「やぁ、ひさしぶりだにゃ~シラホシ」

 

「あぁ……」

 

 振り返った顔に、あのときの面影があるのを認め、シラホシはとうとう涙をこぼす。

 

「遅れて、ゴメン」

 

「いえ……いいえ」

 

約束を覚えていてくれた。約束を守りに来てくれた。たったそれだけのことがどうした?と人は笑うだろう。だが、それでも、シラホシは確かにこの少年が来てくれて救われたのだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 吹き飛ばしたホーディが叩き付けられた、始まりの船ノアが巨大なシャボンに包まれていく。

 

 イタチはそれを見つめながら、シラホシに一言だけ呟く。

 

「ここで待っているにゃ。俺はあいつちょっとのしてくるからにゃ」

 

「え? き、危険です! あの方は、ルフィ様でも苦戦する……」

 

「なんだにゃ!? 俺あいつよりも弱いって思われているのかにゃ!?」

 

「だ、だって……あなたはお手も伸びませんし」

 

「そんなびっくり人間要素で強さの基準が決まってたまるかにゃ!?」

 

 思わずそう叫ぶイタチに、ヒゥ!? とシラホシが息を飲む。

 

 あう……泣き虫なところは変わってにゃい……。そうシラホシの態度を見て思ったイタチだったが、

 

「で、でも!!」

 

「あり?」

 

 何とか涙をこらえて食い下がってきたシラホシに、イタチは少しだけ感心した。

 

 どうやらいつまでも泣き虫なだけではないようだ。昔は自分に守られてばかりの女の子だったのににゃ~。と、時がたつのは早いものにゃ……。と黄昏ながら、彼女の巨大な顔に手を伸ばし、その頬に触れる。

 

「え……」

 

「大丈夫だにゃ。約束守りに来た……そういったはずだにゃ?」

 

 俺は強くなったんにゃよ? と、そう微笑みかけたあと、イタチは顔を真っ赤にして固まっているシラホシを放置し、ノアに向かって跳躍した。

 

 ノアはすっかり縦向きへと向きを変えている。

 

 その甲板は絶壁。そこに突き刺さったホーディは、自分が突き刺さることによって空いた穴に手をかけ、何とか落下を防いでいる状態だ。

 

それをみたイタチは、シャボンの中に突っ込み足から甲板に着地した。それにより甲板にイタチの足サイズの穴があき何とか、甲板に立つことに成功する。そしてイタチは、血反吐を吐きながらまだ戦闘をしようとするホーディに話しかけた、

 

「どうしたにゃホーディ。なにそれ、イメチェン? 血色の魚人体アートでも発表する気かにゃ?」

 

「イタチィ……貴様いまさらになって何をしに来た!!」

 

 幼少時代散々ホーディに俺たちの仲間になれと誘われていたイタチ。子供のころから師匠を師事し、その格闘術の全てを伝授された彼は荒くれ者たちが多い魚人街でも一線を画する力を持っていた。ホーディはそれに目をつけていたのだが、

 

「いや、話聞いてたかにゃ? 約束を守りに来ただけだにゃ」

 

「約束? 所詮ガキの頃にしたくだらない戯言だろうが!」

 

「口を慎むにゃ、ホーディ。くだらにゃい妄言をそれ以上吐くようなら、次は心臓を一撃で止める」

 

 それをできるだけの実力が今の彼にはあった。七武海とやりあっていた経験はだてではない。

 

「ふざけるなよ……ふざけるなよふざけるなよふざけるなよ!! なんの信念も、思想も、理想も持たないお前が、俺の前に立ちふさがるなぁあああああああああ!!」

 

 だが、そんな彼を前にしてもホーディは止まらない。歴史の闇に育てられた男には、もはやどんな言葉も届かないのだから。

 

 そんなホーディが怒声を上げ、劇薬を次々と口にするのを見て、イタチは思わずドン引きする。

 

 なぜならその薬を使ったあと、ホーディはもう完全に元の形をとどめていない鬼のような顔になり、二回りほど体を大きくした化物へと変化を遂げた。

 

「え、にゃにそのゲテ物? 深海魚だってもうちょっと愛嬌ある顔しているにゃ……」

 

 いや、それは深海魚に失礼かにゃ? と、かなり失礼な言葉を飛ばすイタチ。ホーディはそれを無視して、

 

「矢武鮫!!」

 

 ノアに残っていた海水を利用し、鮫の形をした水弾を次々と飛ばす!

 

 だが、

 

「魚人対極拳・渦潮勁!!」

 

 イタチはその水弾の飛来する位置を的確に把握し、真っ先に自分にぶつかりそうな水弾を躱しながらその側面にやさしく触れる。そして、体を高速回転させることによって、その勢いを完全に掌握したイタチは、

 

「返すにゃ」

 

「っ!?」

 

 その水弾を自分に向かって襲い掛かってくる水弾たちにぶつけ、完全に相殺した。

 

 相手の力を利用とする太極拳のまさに完成系といっていいほどの技量。暴君クマの弾き飛ばしをいなすために死ぬ気で練習し体得した、イタチの技術の一つ。

 

「くそっ!」

 

 ホーディはその光景を見て、今度はといわんばかりに甲板を食いちぎりながらこちらに前進してきた。

 

 別に鮫の魚人としては間違っていないが、はっきり言ってゲテ物食いである。木なって食ってもおいしくにゃいだろうに……と、内心でホーディの行動にドン引きしつつ、イタチはさらに功夫の技を見せつける。

 

「縮地」

 

 瞬間、イタチの体がその場から掻き消え、ホーディの背後に出現していた!

 

「なっ!?」

 

「崩水拳」

 

 無論、无二打。相手の体にまんべんなく衝撃を走らせ、内臓を粉砕する凶悪な殺人拳がホーディの頭部に向かって放たれる。

 

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 しかし、ホーディも必死だ。薬によって格段に跳ね上がった反射神経を使い、何とかその拳打に反応。その腕に食いつくことによってカウンターを決めようと、大口を上げてこぶしを飲み込もうとする。

 

 だが、イタチはそれを見てあっさりと一撃必殺のコブシを引き、噛みつきを回避。そして、目も覚めるような速度でホーディの懐に潜り込むと、震脚を行い、

 

「海門頂肘!!」

 

「がぁ!?」

 

 強烈な肘打ちをホーディのみぞおちに叩き込む。

 

 魚人空手の正拳技とおなじ、打撃により水を揺らし相手に衝撃をじかに伝える凶悪な攻撃。

 

 それによって、ホーディの心臓が強制的に止められるが、

 

「―――がああああああああ!!」

 

「うぇ!?」

 

 薬による効果か、なんとか再び心臓を復活させたホーディが凄まじい握力でイタチの肩を掴み、その動きを封じる。

 

 そして、

 

「終わりだ!!」

 

 鋭い牙がずらりと並んだ口を開け、ホーディはイタチの首筋に食いつこうと、その頭を振り下ろす。

 

「イタチ様ぁああああああああああ!!」

 

 外でそれを見ていたシラホシが悲鳴を上げるのが、イタチには聞こえた。だからイタチは大きな声で叫ぶ、

 

「ホーディ、お前の言う通りだにゃ。俺には信念がにゃい、何かが正しいという思想がにゃい、何かを成し遂げたいという理想がにゃい。魚人街で生きるために虐げられないために師匠を師事して強くにゃって、強くにゃった後は何しようなんて……今まで考えたこともにゃいぼんくらだにゃ! だからこんな一国の命運をかけた戦いにゃんて、最初から参戦するべきじゃなかったのにゃ」

 

 だけど、

 

「そんにゃ俺でも、守りたい約束があったんだにゃ!!」

 

 ガキの戯言と笑うのはたやすい。だけど、あの時、あの瞬間――何も考えずただ流されるままに生きてきたイタチは、確かに本気でシラホシを守りたいと誓いを立てた。だから彼は、似合わないと分かっていても、らしくないと自覚していても、この戦場に立ったのだ!

 

「お前はどうだにゃ、ホーディ。にゃがねん魚人街で――お前の近くで暮らしていた俺は知っているにゃ。お前には人間を許さないという信念ある、人間は殺すべきだという思想がある、人間を蔑む王国をつくるという理想がある。だけど」

 

 イタチはそう言いながら、片足を後ろに下げ、腰にひねりを加える。

 

 ホーディは彼が操る功夫に関して致命的な勘違いをしている。

 

 功夫は肩を抑えられた程度で防げるものではない。

 

 腰と重心移動によってそのすべてが成り立つ、全身運動――それこそが功夫の正体なのだから!

 

「お前には、それを強く支える――理由がにゃいだろ!!」

 

 飛魚蹴腿。天へと舞い上がる飛魚のようなのびやかな蹴り上げが、噛みつこうとのしかかってくるホーディの体に、激震を走らせた。

 

「がぁ……」

 

 噛みつきどころか捕まえてすら置けない。大きくのけぞり手を離すホーディ。その体は隙だらけ。だからイタチは、

 

「終わるにゃ……ホーディ」

 

 海王類すらたたき伏せる、魚人功夫の奥義を放つ。

 

「魚神・神掌!!」

 

 放たれる掌底は武装色覇気を纏った凶悪な掌底。それによって行われるのは先ほどの水分振動衝撃波の拡大版。まるで巨人――いや、国引きの巨人(オーズ)すら飲み込みそうな、まさしく神の掌のような巨大さに拡大された砲撃は、音おも引き裂く速さでホーディに飛来しその体を飲み込んだ!

 

「がぁあああああああああ!!」

 

 薬の力によって限界まで耐久力が上がっていたホーディも、さすがにこの砲撃には悲鳴を上げその体を屈する。そして、あたり一帯が轟音と爆音とともに一瞬だけ視界を遮るほどの光が放たれた後、

 

 

 

 そこには、ノアを包むシャボンからはじき出され、無残な姿で気を失っているホーディの姿があった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「やはり行ってしまわれるのですか?」

 

「やっぱり本気で強い奴は新世界にいるからにゃ~。七武海倒したら四皇の方にも挑んでみたいし」

 

「普通に死ぬからやめておくんじゃもん……」

 

「はぁ、何言ってんだボケカスがぁ。俺の弟子なら四皇皆殺しにして世界の覇者になるぐらいはしてこい」

 

「師匠の無茶ブリがひどい件……」

 

 魚人島の動乱が収まってから数日が経った。

 

 麦わらの一味が四皇・ビッグマムにケンカを売りあわただしく出て行った後も、イタチはノンビリと久しぶりの故郷を楽しんだ――わけではなく、今回の一件で、魚人街が封鎖されてしまったため師匠の家に帰れなくなったイタチは、救国の英雄として一時的に竜宮城のご厄介になり、いままでの旅の話をシラホシと師匠に無理やりさせられていた。

 

 師匠は修行の経過を知るためだったが、シラホシはふつうに興味があったらしく、純粋な視線で「ダメでしょうか?」と聞かれてしまってはもうだめだ。いいですとしか、イタチは返答できなかったらしい。

 

 できれば麦わらの一味についていきたかったとイタチは思うが、魚人枠がジンベエで埋まってしまったため、空気的になんか無理だった。

 

 畜生……ルフィの奴、二年前は俺に仲間になれとか言っていたくせに放置とかひどいにゃ……。と、イタチが内心で思っていたかどうかは秘密だ。

 

 というわけで、ようやく長い長い七武海たちの激闘を話し終えたイタチは、師匠の許可をもらい新世界へと再び武者修行しに行くのだが、

 

「ぜ、絶対……ぜったいかえってきてぐだじゃいね!?」

 

「おいおい、涙と鼻水で凄いことになってるにゃ……。誰かハンカチぐらいかしてやるにゃ!?」

 

 せっかく治った泣き虫を再発させてしまったシラホシのせいでちょっと時間を食っていた。泣きわめくシラホシに参ったな……といった顔をしつつ、頭をかいた後、イタチはあの戦場で再会した時のように、シャボンを使いシラホシの顔のもとまで行きその頬に触れる。

 

「今度帰ってくるときは俺が納得できる強さを手に入れたときだにゃ。その時こそ、ちゃんと約束を果たすからにゃ」

 

「……ほ、本当に?」

 

「本当だにゃ!! ここよりももっときれいな海岸線がある島。桜が咲く冬の島。緑の植物が多い茂る密林の島。どこまで行っても砂だらけの砂漠の――はちょっと遠慮したいにゃけど……シラホシが言うなら連れて行ってやるにゃ!!」

 

「お前まだ砂漠克服していなかったのか……」

 

「種族的に克服できたらダメな気がするにゃ……。師匠何であんなところに水も食料もなしに3年近く籠って平気なんだにゃ……」

 

「気合い」

 

「師匠が実は人外だった件」

 

「魚人だしな!」

 

「誰がうまいこと言えと言ったにゃ!?」

 

 閑話休題。

 

「とにかく!!」

 

 何やらつっかかってくる師匠をいなしながら、イタチはシラホシに微笑みかけた。

 

「また、待っててもらえにゃいかにゃ? シラホシ……」

 

 その答えは、

 

「はい……待ってます。あなたが帰ってくるのを、楽しみにしています」

 

 涙をいっぱいに貯めながらも、それでも彼女は、笑ってくれた。

 


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