なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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今回は無駄に長いです。はい、自覚しています。多分二話弱くらいはあるんじゃないでしょうか。これも全ては自身の無能が招いた結果......けどやっぱり削るのも勿体ないしそのまんま投稿します。
色々ツッコミ所多いと思いますけど、そこら辺はゲームということで。割りと甘めに見てもらえると幸いです。
では、十二話。







跳梁するは魔王の武・Ⅱ

 

 

「うっわ、あの銀髪馬鹿じゃねえの? AGI特化が距離取ってどうすんだよ」

「いや、あれはしゃーないだろ。さすがにレミントンを避けるのは無理無理」

「そもそもAGI特化とか時代遅れすぎ。今はSTR一強」

「おいテメエ闇風さん馬鹿にすんのか殴るぞ」

「ひゃー、出たぜクレブス・タクティカル・ライフル! あのドラムマガジンがたまんねえ!」

 

様々な声が飛び交う中、キリトとシノンは静かにマルチモニタを見上げていた。既に二人とも予選一回戦はあっさりと通過しており、後は残る戦いを見物することくらいしかやることがない。

そして様々な戦いが映される中、際立って注目されているのが"シュピーゲル"vs"ピトフーイ"の対戦カードだった。

 

「な、なあ。あの人って結構有名なのか?」

「うるさい、黙って見てなさい変態」

 

キリトがシノンにこそこそと尋ねるも、取り付く島もないとばかりにばっさりと切り捨てられる。

だがキリトが捨てられた子犬のような目でシノンをしばらく見詰めていると、やがて根負けしたかのようにシノンは口を開いた。

 

「......ええ、かなり有名よ。"ピトフーイ"と言えばそこそこ名の通ったプレイヤーだし、"シュピーゲル"と言ったら、まあ......馬鹿の代名詞ね」

「はあ?」

 

それなりに仲の良さそうなプレイヤーであるシュピーゲルを馬鹿と断言したこと、そしてその意味がわからずキリトはきょとんとする。すると、シノンは肩を竦めるようにして答えた。

 

「MTDのスレッドでも曝されたりしたし、GGOの中じゃかなり有名なのよアイツ。まあ、要するに"ロマンバカ"ね」

「ろまん......?」

「そ。私にはわからないけど、アイツ曰く男のロマンだそうよ」

 

はぁ、とシノンは心底呆れたかのように息を吐く。最近でこそ使っていないものの、かつては毎回の如く"それ"を持って突撃し、そして爆死していたものだ。その勇者っぷりとロマンが評価され、ファンが付くまでになったらしいがーーー。

 

「アイツの本来の武器はアサルトライフルじゃない。アイツの武器はーーー」

 

と、そこまで言いかけた所でシノンの言葉が止まる。キリトも催促することなく、ただ唖然としてマルチモニタを見上げていた。

 

「なあシノン、あれって何が起きたんだ?」

「さあ......ああ、成る程そういうことね」

 

画面に映るのは、"アサルトライフルを破壊された"まま笑うピトフーイの姿。そしてーーー

 

「ーーー撃たれたのよ、アイツ。撃ったのと全く同時に」

 

FN・FALを破壊され、呆然とするシュピーゲルの姿だった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ッーーーぐッ!?」

 

引き金を引いた直後、腕ごと持っていかれるような衝撃とともに弾き飛ばされる。何が起きたのかわからないまま目を開ければ、手の中にあるのは無惨に銃口が変形したFN・FALの姿があった。

 

「な......」

 

思わず息を飲み、そして何が起きたのかを理解する。あの時確かに、俺の放った弾丸は命中した。だが、着弾するまでのコンマ数秒ーーーそう、本当に極僅かな時間差でもってKTRからも弾が吐かれていたのだ。でなければ、どちらかの弾丸は発射されていない。俺がライン無しの狙撃という無茶を敢行したのとほぼ同時に、ピトフーイもまた此方を狙撃していたのだ。

 

「くそったれが......」

 

一応防弾仕様の額当てを巻いているものの、直撃すれば昏倒は免れまい。そう考えれば運が良かったのだが、その代わりにFN・FALを無惨な姿にしてしまったというのは痛かった。向こうの状況がどうなっているかはわからないが、リザルトに移行してない以上死んでいないのは間違いないのは確かだ。つまり、俺は唯一遠距離から攻撃できる武器を失ってしまったのだ。

............あれー?これ、よく考えなくても絶対絶命じゃないすかー?

 

「っべえ......」

 

冷や汗が湧くのを感じつつ、俺はもはや使えない銃のスコープを覗き込む。あれだけ頑張って放った一撃だ、せめて手首でも吹き飛ばしていると大金星なのだがーーー

 

「......ってバリバリ元気じゃねえか!」

 

此方を見ながらひらひらと手を振ってくるピトフーイ。未だ三割しか削れていない体力を見て、俺は相変わらずキチガイ染みた強さだと実感し冷や汗をかく。バレットラインは見えてなかったはずだが、それでも直撃を免れたらしい。

......なんなんだろう。キリト然りピトフーイ然り、あの運命力とも言うべき謎の武運と第六感にも似た勘の良さは何処からやってきているのだ。もはや作為的なものしか感じ得ない。

 

「少しは寄越せっつーの......」

 

そうぼやきながら、俺はピトフーイの様子を検分する。ーーーと、幸運なことに、どうやら俺のFALがオシャカになったのと同じく奴のKTRも破損しているようだ。これで少なくとも痛み分けに終わったわけであり、まだ勝負の行方はわからない。

だがピトフーイにはレミントンM870という近距離戦において絶対的アドバンテージを誇るショットガンがあり、そして俺がこれから挑むのはその近距離戦であることは変わらない。アサルトライフルのもう一丁でもあれば別だったのかもしれないが、生憎俺のストレージはFN・FAL一丁とハンドガンだけで許容量ギリギリである。そしていかに近距離戦において強いと言っても、接近する前にショットガンぶちかまされればミンチになって終わりである。

......あれ? よく考えたら、ショットガン使えばキリトって結構余裕で勝てる気が。

 

まあ、それはともかく。

 

「やるっきゃねえ、か」

 

もはや銃としての役割を果たすことのできないFALを下ろし、静かに息を吐く。

 

ーーーショットガンを相手にして、無傷で済もうなんて考えはこの際捨てる。被弾覚悟で接近し、至近距離からの速射で即死させる他に手段はない。

 

俺の全く鍛えてないSTRと、そしてこの軽装では恐らく耐えられて一発のみ。それも直撃すれば容易く粉砕されることは間違いない。故に一部被弾覚悟で撃たせ、再度の装填の間にあの顔面へと鉛弾を叩きこむ。先程は躊躇してアサルトライフルによる狙撃という"逃げ"に走ったが、そもそもあれが間違っていたのかもしれない。そもそも高機動型、近距離特化のスタイルなのだからそこをブレさせるべきではなかった。

 

ーーーリスクは高い。フェイントと回避タイミングを読まれれば一瞬で殺される。だが既に退路はなく、武器はハンドガンのみ。これは中距離からの狙撃に逃げた自分が招いた事態だ。今まで蓄積した経験を、ピトフーイという強敵を前にして信じられなくなったことに対するツケだ。

ならばこそ、もう迷わない。近距離という、ショットガンの本領とも言えるレンジでピトフーイを越えてやる。

 

「ーーー絶対に、殺す」

 

思い付いたら即行動。後手に回っていれば勝機はない。

壊れたFALをストレージに突っ込み、代わりに引き出したかつての相棒を腰のホルダーに突っ込む。そしてマガジンを腿に巻いたベルトに捩じ込み、俺は観光バスから飛び出した。

 

 

 

 

「うーん、やるわね! まさかエムと同じことするとは思わなかったわ」

 

弾道予測線無しの狙撃。もし自分がその存在を知らなければ、とてもじゃないが回避出来なかっただろう。下手をすればそのまま退場していたかもしれない。

そう自己分析し、ピトフーイはくつくつと笑う。

咄嗟にあの技を編み出したとすれば大したものだ。そしてまず、普通の人間であれば思い付いたとしても実行に移そうとは思わない。それがぶっつけ本番ならば尚更だ。だからこそそれを何の躊躇いもなく行えるシュピーゲルはただのバカかーーーもしくは馬鹿げた戦闘センスを持っているのか。どちらにしろ、あの実行力は称賛するべきものだ。

だがーーー

 

「ま、これくらいはやって貰わないとねえ?」

 

そう呟き、ピトフーイは楽しげに口笛を吹いた。

彼女は、シュピーゲルを明確に"敵"として認識している。故にこの程度で音を上げて貰っては困るのだ。他の有象無象とは違う、自分と対等なステージで殺し合える"敵"。それがこんな所で退場するなど、興醒めにも程がある。

彼女が求めているのはただの作業でも処理でもなく"闘争"だ。血で血を洗う死闘。一歩間違えれば此方が無惨に死ぬような戦いこそが、唯一ピトフーイを満足させるものだ。

余興は終わり。此処からが本番であり、ようやく終幕は近付いてきた。どちらも近距離武器しかない今、やっと対等な条件で殺し合える。

 

「............それにしても、シュピちゃんって私に似てるようで違うんだよね」

 

ふと、ピトフーイはそんな事を呟く。何の脈絡もなく吐かれた言葉は、いわゆる独り言というやつだ。

 

「私がただ"殺し合いたい"のに対して、なんていうか......」

 

時折、戦いの最中ですら見せる無機質な空気。昔よく見た特攻染みた突撃。自暴自棄とも違う、自己犠牲でもない。そう、言うなればーーー

 

「ーーー"死にたがってる"みたいなんだよねえ、シュピちゃん」

 

"死にたがり"。もしくは、"死に場所を探している"と言ってもいいかもしれない。

そんな空気を敏感に感じ取ったピトフーイは、だからこそ彼の事を気に入っていたのだ。

 

「もし、シュピちゃんの"答え"がこの大会にあるんなら、ちょーっと気になるかな。まぁーーー」

 

ガシャン、という音と共にレミントンM870ーーー否、"M870・ブリーチャー"の薬室に弾丸を送り込み、ピトフーイは立ち上がる。その立ち姿には気圧いも迷いもなく、ただ闘争を楽しもうとする意思のみが感じられた。

 

「全力で来なさい、シュピちゃん。よもすれば、この身に届くやもしれんぞ?ーーーなんてね」

 

そう言ってピトフーイは笑みを浮かべ、再び口笛を吹く。

奏でる曲は"魔王"。無意識のうちに刻むフレーズが戦場に響き渡っていった。

 

 

 

 

「見つけたーーー」

 

黒いポニーテールが揺れる様を視認した俺は、即座に大地に身を伏せる。とは言っても、距離は約150メートルーーーこの距離からショットガンを撃たれても掠るかどうかのレベル。だが"見つかっていない"というアドバンテージを手放す気はさらさらなかった。

 

「............」

 

静かに深呼吸し、息を整える。否が応でも高まる緊張を必死に抑え、そろそろと首をもたげる。取り出した単眼鏡を当ててゆっくりと前方を観察する。

ーーー路面に転がるバイクの隙間。それから見える彼女の武装は予想通りレミントンM870。どうやら当たりはしたものの、再起不能になるまでのダメージは与えていなかったようだ。やはりそう世の中は上手く行かない。

 

「............」

 

周囲のオブジェクトを見つつ、如何にして接近するのが最短かつ安全なのか模索する。ギリギリまでバレないように接近したいものだが、向こうも気を張っているはず。この150メートルという距離こそが気取られず接近できるギリギリのラインだろう。つまり、ここからは電撃戦。ともかく速さが問われる。

 

「ふぅ............」

 

仰向けになって天を仰ぎ、静かにホルスターからハンドガンを抜き放つ。既に薬室に一発送り込まれていることを確認し、俺はスリーカウントで飛び出すことを決定する。こうでもしなければ、いつまでもびびって飛び出すことなんて出来やしない。

 

ーーー3。

身を起こすと最終確認。ブーツの紐、マガジン、ハンドガンのセーフティを確認。異常なし。

 

ーーー2。

クラウチングスタートにも似た構えを取り、膝をたわめる。目指すはピトフーイの背後。

 

ーーー1。

 

 

 

......ぶっ殺せ!

 

Go(行け)!」

 

カウントがゼロになると同時に、収縮する仮想体(アバター)の筋肉に身を任せて大地を蹴る。同時にシステムが正常に作動、馬鹿みたいに高めたAGI補正が乗った脚力は瞬時にこの体を最高速へと至らせる。圧倒的なアクセル感を前にして脳が反射的に恐怖を生み出すが、それを押し潰してさらに加速していく。

 

「ふーーー!」

 

100メートル地点通過。

体幹を全くブレさせず、完全に重心を前に倒して足のみをひたすらに動かす。躓いたり足が縺れたりすれば一貫の終わりだが、そんな初心者のような真似を誰がするものか。

転けることもなく高速道路を駆けていく俺はさらに速度を増し、50メートルという距離を一瞬で詰めた。

 

だがーーー残り50メートル。そこになってついに、ピトフーイが振り向いて目を見開いた。

 

「ッーーー」

 

ーーー1秒を、切り刻め。

瞬間的に意識が加速し、1秒が何倍にも引き延ばされていく。時間すら置き去りにしたかのようなアクセル感。もはや音すらも重低音と化し、時速120キロに迫るかという勢いの自分の速度すらも酷く緩慢に感じられる。視界のマージン部分が放射状に引き延ばされ、ただ視界の中央に映るのはレミントンM870ーーーいや、さらにそれを切り詰めた完全近距離仕様であるブリーチャーの銃口のみ。

 

ーーー引き金(トリガー)に、指が乗せられる。

その瞬間的動作を見切り、全くスピードを落とさずにフェイントをかける。高速での左右切り返しーーーそれを前にしたピトフーイの口許が苛立たしげに歪み、目が細められる。

しかしそれでも、フェイントに惑わされずしっかりと照準を合わせてくるのはさすがと言うべきか。

 

「ーーーーーー」

 

引き金(トリガー)に指が乗せられて1秒。弾道予測線が高速で放射状に伸び、瞬時に視界を赤い線が埋め尽くす。散弾が飛び散る軌道の全てをご丁寧に予測し、示したバレットライン。だがそれはもはや(ライン)ではなく面と言っても過言ではない。ショットガンが近距離戦において最強と呼ばれる所以を肌で感じつつ、それでも俺は加速する意識の中で必死に目を凝らす。

ーーー20メートル先の、人差し指の動き。その関節の軋み、筋肉の収縮、筋の強張り、ありとあらゆるその動きを瞬き1つせずに捉え続ける。全神経をそれに集中し、他の感覚の一切を遮断する。

かつてないほどの全力集中ーーー思えば、それは一瞬にすら満たない、ほんの僅かな時間だったのだろう。だが俺にとってその時間は実際の何万倍にも長く感じられーーー

 

 

「ッーーー!」

 

それが引き絞られる予兆を見て取った瞬間、俺は全力で"上へ"跳躍した。

 

「くーーー!?」

 

空間を制圧する赤いバレットライン。その僅かな隙間をくぐり抜けるようにして高く跳躍する。直後に真下の空間が鉄と鉛の暴虐によって粉砕され、同時にレミントンの発砲炎(マズルフラッシュ)に紛れて俺を見失ったピトフーイが視界の端で瞠目する。

 

......人の目というのは、上下の動きに弱い。真偽のわからない知識だったが、どうやらそれは真実だったらしい。恐らくピトフーイからすれば、"俺を撃ったと思ったら消えていた"ようにしか見えていまい。

 

「ハッーーー」

 

思わず獰猛な笑みが漏れる。シノンはよく"後ろに注意(チェック・シックス)"と言っていたが、果たして真上は何時の方向なのだろうか。

 

「ッ、しまっーーー!?」

どんな時でも頭上に注意(Pay attention to your sky)、ってな」

 

もう気付くとは、さすがというべきだろう。だがもう遅い。

加速した意識の中、右手に構えたハンドガンで奴の頭に照準を合わせ、さらに()()()()()()()()()()()()。左手と右手をクロスさせるようにして、重なるバレットサークルが完全に額をロックする。ずしりとする重みが懐かしい。

 

ーーー【ベレッタM93R カスタム(・・・・) "干将"&"莫邪"】。久し振りに引っ張り出してきた二挺の愛銃は対になるように白と黒。有名な中華の刀鍛冶から命名したその二挺拳銃はかつての黒歴史でありながら、同時に頼もしい相棒でもある。右に白、左に黒を構えて俺は笑った。

アサルトライフルに浮気しても、かつて身体に刻みこんだ感覚は忘れちゃいないーーー久々の御披露目だ、派手に行こう。

 

「さあ唄え"干将"、哭け"莫邪"ーーー!!!」

 

制御も何もない、だが至近距離故に外すことはない二挺拳銃の三点バースト射撃。

凶悪な反動と引き換えにして、二挺自動拳銃(ダブル・マシンピストル)が超高速の三連射ーーー合計六発のパラベラム弾をピトフーイの顔面に叩き込み、吹き飛ばした。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

そして同時期。マルチモニタの下ではーーー

 

「「「「ーーーなんだアレかっけえぇぇぇ!」」」」

 

異口同音の叫びが木霊していた。

 

「うっさ......」

 

予測していたとはいえ、うるさいものはうるさい。呻き声を漏らしながら耳を塞ぐシノンは、まさに不機嫌な猫そのもので。

 

「ーーーえ、やべえなにあれかっこいい!」

 

モニターを見ながら目をキラッキラと輝かせるキリトはその容姿も相俟って、まさに玩具を見つけた仔犬のようにしか見えなかった。

 

「ヤバいぞシノン、あれめっちゃヤバい! なんというか超ヤバい!」

「ヤバいのはあんたの言語能力よ!」

 

何を言っているのかさっぱりわからないキリトの言葉にシノンはキレて叫ぶ。ちなみに、キリト自身も興奮しすぎて何を言いたいのかわかっていないのが真相だ。二挺拳銃は男のロマンなのである。

 

「くぁー! 夢にまで見た二挺拳銃! あれで撃ちたい、むしろ撃たれたい!」

「空中でぶっぱとかやっぱわかってるぜアイツ。つーか左右両方三連バーストとか反動ヤバそうだけど、大丈夫なのかあれ」

「おいおい、練習したに決まってんだろ。咄嗟に反動逃がすのがめちゃくちゃ難しいんだぞあれ。ソースは俺」

「男なら一度はやってみるもんだしなあ......けどそれを実戦に持ち込むシュピーゲルさん、そこに痺れる憧れるゥ!」

 

 

「......やっぱわかんないわ。というかあれ、二挺も持って何の意味があるのよ」

「「「「え?かっこいいだろ?」」」」

 

キリトまで揃っての切り返しに、シノンは理解できないという顔でモニタを見詰める。彼女からすれば銃器は所詮道具であり、頼れる相棒ではあってもそこに美醜やかっこよさなどは求めていない。二挺拳銃は男のロマンーーーそう、"男の"ロマンである。

 

「......俺、二挺拳銃やってみようかな」

「やめときなさい、反動で吹っ飛ぶのがオチよ」

 

男はいつまで経っても厨二病。ロボと剣と二挺拳銃はいつの時代も男のロマンだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ーーーったいわねぇ!」

「なッ!?」

 

だが、まだ終わらない。

硝煙の向こうから向けられるのはキレたピトフーイの笑み。その肉食獣めいた笑みを認めた瞬間、反動で体勢を崩していた俺は驚愕に一瞬身体が硬直させる。

 

ーーー嘘だろおい!?

 

「どんだけタフなんだよてめぇは!」

「ざぁーんねん。鍛え方が違うのよぉ」

 

拳銃弾と言えど、被弾ダメージ係数の高い顔面に高速で六発、それも至近距離から叩き込めばほとんどのプレイヤーは沈むだろう。だがピトフーイにそんな常識は通用しなかった。

怨むべきは、一発も頭蓋を貫通させられなかった己の不運か。

 

「ーーーお返しよ」

 

そして、再装填(リロード)されたレミントンM870・ブリーチャーの銃口が突きつけられーーー俺は身を捩るようにして再び二挺拳銃の引き金を引く。それも、何もない方向へ。

 

「ッ、らァ!」

 

悪足掻き、というわけではなかった。

何も足場のない空中ではレミントンの銃口を避けるのはほぼ不可能に近い。だが、凄まじい衝撃と反動を放つ物体があるのならばその限りではない。

放つは左右両方での三点撃発(バースト)。合計六発の弾丸がセミオートでは有り得ない速度で連射され、本来ならばストックによる両手持ちでなければまともに撃つことのできないほどの衝撃が俺の身体を吹き飛ばした。

 

「ッぐーーー」

 

だが、それでもその緊急回避でも完全に避けるには至らない。ブリーチャーと呼ばれる所以、超広範囲への拡散弾は半身に直撃し、アバターを貫通しながら仰け反り(ノックバック)効果を発生させる。ーーーこれが、ショットガンが近接最強と呼ばれるもう1つの理由だ。一度ヒットすればその体力を削りきるまで延々と散弾を至近距離から食らい続けるーーーつまりハメられるのだ。

 

圧倒的な広範囲攻撃、そして一定確率でのノックバック効果。加えてショットガンは散弾であるが故に攻撃力自体が根本的に低いという欠点があるものの、弾が当たることそのものによるヒットストップ効果によってばらまくだけで敵の足止めが出来るという鬼仕様。さらに近付けば近付くほど威力が跳ね上がることもあり、もはやチートである。

まあ、その分レンジは大体100メートル前後程度しかないためアサルトライフル等で攻めれば良いだけの話なのだが。こんな近接チートの武器に真正面から挑むなんぞ馬鹿の所業としか言い様がない。

 

そして、そんな武器を構えたベテランプレイヤーを相手に二挺拳銃とかいうロマン装備で挑む俺は超馬鹿だ。

 

「ーーーらァッ!」

「へぇ」

 

だが、諦めるつもりなど毛頭なかった。

マスター済みの軽業(アクロバット)スキル。地面に足を着けた瞬間、それのパッシブ効果である"受身"が発動し全ての行動阻害効果がキャンセルされる。すなわちノックバックも消えるということであり、俺は硬直時間のないまま右手の"干将"で牽制射撃。本命の"莫邪"でショットガンの機関部を狙いつつ高速のステップ切り返しでピトフーイに迫る。

 

「死ね!」

「だが断る」

 

増量しているマガジンを生かすべくフルオートに切り替え、恐ろしい衝撃をギリギリで制御しつつ弾をばらまく。現実であれば確実に骨がイッてしまっているに違いない。

ランダムに跳ねる銃口を手首のスナップのみで抑えるというのは至難の技である。それも、両手となれば尚更だ。だがかつてGWを返上してひたすらに練習した日々は無駄ではない。

 

断言しよう。この世界において、二挺拳銃に関して俺の右に出るものはいないと。こんなロマン砲、まともに使えるまで練習するほうが馬鹿らしい。いくらロマンでも、使えるか使えないかは別だ。アサルトライフルのほうが余程強い。

 

「チッーーー」

 

ものの二秒で全弾を吐き出し終え、二挺の拳銃が同時にスライドストップ。だがその甲斐はあったのか、秒間30発を越える弾丸の嵐はピトフーイの動きを止めることに成功していた。金輪際ないと言ってもいい隙。

そして、その一瞬の硬直の隙を見逃さず俺は一気に懐へ踏み込んだ。

 

「ッ!?」

 

ーーー弾のない拳銃など何の役にも立たない。だが、それは通常であればの話だ。

 

「ぐっーーー!?」

「ーーーハァッ!」

 

ベレッタM93Rカスタム。もはや原型を留めていないそれは、俺がカスタマイズする際にその象徴とも言える折り畳み式(フォールディング)ストックをもぎ取り、只でさえ恐ろしい反動の三点バーストがさらに制御しにくくなってしまっている。細かい理由は忘れたが、恐らく二挺拳銃なのだからストックは必要ないと判断したのだろう。後はダサいからだろうか。そもそもM93Rを二挺で使おうとしているのがアホだが、まあそこは気にしたら敗けだ。 

それはともかく、余りにも制御しにくいM93Rの二挺撃ちに音を上げた俺は必死に頭を捻った。どうすれば、片手で三点バーストを撃てるかを考えた。......そもそも三点バーストを両手撃ちするのが間違っている気もするがそこは気にしたら(ry

 

そして、何をトチ狂ったのかーーー当時の俺が考え、そして実行した魔改造。それこそーーー

 

「銃剣のついた拳銃なんて、常識破りにも程があるわよねぇッ!?」

「間違えんな、"銃剣型スタビライザー"だ。ーーー機能してるかは別としてなッ!」

 

ストックの代わりにスタビライザー、と称した銃剣を装備させることだった。

さらにマガジンも増量した特注品を使い、元の機能であるセミオートと三点バースト機能に加えてフルオートまで付与した、ベレッタM93Rとは完全に別物なバケモノ二挺拳銃。それがこの干将&莫邪の正体だった。

 

「シッーーー」

 

歯の間から呼気を押し出し、白き右銃を振るう。今まで何人ものプレイヤーの喉笛を食い破ってきたブレードがピトフーイへと迫り、その頬を僅かに裂くに終わる。続けて放たれた黒き左銃が肩口を切り裂き、ピトフーイがバックステップし距離を取ろうとする。だがーーー

 

「やらせる、かッ!」

 

吠え、ひび割れたアスファルトを蹴って前へ。そして半身を捻るようにして、俺は全力で蹴りを放った。

ーーー特化したAGIに軍用格闘術(マーシャルアーツ)による補正を乗せた一撃。それは狙い違わずレミントンの銃口を蹴り飛ばし、ついにピトフーイの手からそれを弾き飛ばすことに成功する。

 

「ッ............!」

 

ーーー勝った!

内心でそう確信し、快哉を叫ぶ。だがその次の瞬間、ピトフーイの顔を見て、俺の背筋を悪寒が貫いた。同時に今のが完全に悪手だったことを悟る。

 

「ーーーハァッ!」

「ぐふ............!?」

 

しかし、気付いた所で既に遅かった。この体勢からでは回避は不可能。

まず膝蹴りが鳩尾に叩きこまれ、身体が衝撃でくの字に折れる。そこからの肘がこめかみを襲い、揺れる視界に対応出来ない間に唸りを上げるアッパーが脳を揺らす。三半規管が揺れ、たまらず込み上げる吐き気に呻くと、その隙に腹に蹴りが突き刺さる。

 

「ーーーごはァ!?」

 

鍛え上げられたピトフーイのSTR。俺がAGIに特化しているならば、ピトフーイはSTRに特化していると言っても過言ではない。そんな馬鹿げた筋力値によって放たれた蹴りの威力は、想像を遥かに凌駕して俺を吹き飛ばした。

 

「............!」

 

一瞬の浮遊感の直後、背中から何かに激突する。背後から伝わる衝撃に思わず息を詰まらせ、点滅する視界に呻きながら目を開けた。

 

「くそ、がッ!」

 

満タンから一気に2割弱にまで体力を削られた事実に驚愕し、俺は車体に叩きつけられた状態から転がるようにして追撃を回避。直後にプロテクターを装備したピトフーイのブーツがバスの車体を蹴り、轟音と共に凹む。ピトフーイが舌打ちし、俺は未だ揺れる視界に悪態を吐きつつ立ち上がった。

 

......ショットガンの脅威に惑わされていたが、ピトフーイ自身の近接戦闘力も並大抵のものではない。完全に誘導されていた事実に戦慄しつつ、俺はまだ手放していない二挺の拳銃を握りしめる。

 

「っべぇ......」

 

マガジンをベルトの端に引っ掛けて引き抜き、そのまま地面に落ちるまま破棄。そのまま既に抜いていたマガジンを入れ違いに叩き込み、バックステップしつつスライドを引いて再装填(リロード)。この間1秒未満。これをもう一度する必要がある。

だがーーー

 

「二挺拳銃って、ロマンよね」

「ああ......」

 

うっとりとして呟くピトフーイ。陶酔したようなその声音に、俺は苦虫を噛み潰したかのような声で応じる他にない。

 

「ぶっちゃけ、私もそれやってみたかったんだよねぇ。けどそれじゃ芸がないし、今日は違うモノ持って来てみたんだけどさぁ」

 

嗚呼、成る程。そう来るか。予想だにすらしていなかったがーーー本選でこそ登場するとばかり思っていたが、それが予選で出てこない道理はない。確かに俺が相手ならば、それは有効な武器ではあるだろう。

対策は立ててこそいるが、それも全ては"本命"用。ピトフーイに通用するとは思えない。筋が違いすぎる。

 

「......くそ。流石に恨むぜファッキンゴッド」

 

ふざけんなよクソ野郎。予選からして無理ゲーすぎんだろJK(常識的に考えて)。なんだこの難易度、予選ってもっとあっさりしたもんじゃないのか?

 

「ねぇーーーフォトンソードって知ってる?」

 

歌うようにそう呟き、ピトフーイが起動するのはムラマサF9。ヴォン、と音を立てて発生するのは超高密度の光子(フォトン)の刃。本選まで見ることはないだろうと思い込んでいた、ガンゲイルで唯一と言ってもいい純近接武装の系列。

キリトが扱うものと同じ系統ーーーキリトのものがカゲミツG4なのに対してこちらはムラマサF9だがーーー最強クラスの攻撃力を誇る光子の剣(フォトンソード)が、ピトフーイの手には握られていた。

 

「......ああ、いいぜ畜生。フォトンレイだかビームサーベルだかバルムンクだか知らねえが、ここでぶっ潰してやるよクソ野郎ーーー!」

「あはーーー汝にフォースの導きがあらんことを!」

 

片や二挺拳銃、片やフォトンソード。

ガンゲイル・オンライン史上初の、世にも奇妙な対戦カードが今ここに成立していた。

 

 




も、もうちょっとだけ続くんじゃよ。どうしてこんなに長くなった......。

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