てか、いつからだ……いつからお気に入りが100を越えていた……!?
龍哉Side
「んん………?」
久々の大仕事を、難なく遂行した翌週の朝。
2階の自分の部屋で寝ていた俺は、窓から差し込む日差しが眩しく感じ、意識を覚醒させる。
時計を見ると、ちょうど短針が7時を指している。
カチカチと一定の速さで動く針を眺めながら、俺は一週間前の夜の事を考えていた。
仕事から帰る途中で会った、薄幸そうな少女、紗耶香。彼女の理念、本質を垣間見た俺は、身寄りの無い紗耶香を引き取った。
これからの生活に期待をする反面、紗耶香と共に暮らす上で、看過できない新たな問題が浮上した。
それはズバリ……金だ。
今まで俺だけでなんとか足りていた生活費が、住人が一人増えた事によりさらに増えた。
しかも紗耶香は喰種とはいえ年頃の女子だ。おしゃれにも気を遣う年齢だろうし、身だしなみも整えておかなければならない。
紗耶香は遠慮していたが、女の子の身だしなみが、だらしないなんて事はあってはいけない。そんな事は保護者である俺の矜持が許さない。
そんな訳で、生活費を一人で住んでいた時より多く稼がなければならない。まあ今日は仕事とは別の用事があるのだが……明日仕事しよう。うん。
「ぼちぼち起きっかな……あ?」
身体を起こそうと力を入れるが、右腕に妙な重たさを感じた。そういえば、少し痺れたように痛みを感じる。
ゆっくりと首を動かすと……そこには見知った顔が。
「……サヤカ?」
そう、紗耶香だ。なぜコイツが俺のベッドの中にいる? 部屋もしっかりと用事して、ベッドだってあるはずだが。
というか、なぜ勝手に俺の右腕を枕代わりにしている? おかげで鬱血して腕が紫色だ。
腹いせに叩き起してやろうか、とも考えたが……。
「んむ……タツヤ……さん……♪」
こんな幸せそうな顔をしているのを見ると、そんな気も失せる。てか何、コイツ俺の夢見てんのか?
……俺、夢ん中で変なことされてねぇだろうな? 怖ぇぞ。
まあ、とりあえず起きないとな。俺は横で寝てる奴を放って1人で起き上がり、部屋を後にした。
「……ピアノでも弾くか」
────────────────
紗耶香Side
「ん……あれ……タツヤさん?」
私が目を覚ました時には、ベッドに龍哉さんの姿は無かった。
なんか……凄く幸せな夢を見ていた気がする。
昨日、寂しかったから勝手に忍び込んでベッドに入っちゃったけど、龍哉さん怒ってないかな……? あの人、怒ると凄く怖いから……。
だって、誰かと一緒に住むなんてことが、また出来るなんて思わなかったんだもん! 嬉しくて仕方なかったんだもん!
ベッドから身体を起こし、しばらく目をつぶったまま何もせずぼーっとする。徐々に意識を覚醒させると、1階のリビングから、何かの音が聴こえてくるのに気づいた。
これは……ピアノだ。音楽にはあまり詳しくないけど、有名な曲だったと思う。
初めてこの家に来た時に大きなグランドピアノがあったから、まさかとは思ったけど……龍哉さん、ピアノ弾けたんだ。
私はその音色に誘われるように、階段を降りていった。
1階のリビングまで降りると、そこには案の定ピアノを弾いている龍哉さんの姿が。
(……綺麗………)
僅かに口の端を吊り上げながら、流れるように奏でる彼の旋律に、いつの間にか私は魅了されていた。
「ん……おう、
龍哉さんは私の存在に気づいたのか、弾くことをやめてこちらを見る。恍惚の表情で聴いていた私は、慌てて表情を元に戻す。
「お、おはようございます……」
私も朝の挨拶をする。少し顔が赤くなってるかもしれない。
「さっきの曲は……」
「ドビュッシーの“亜麻色の髪の乙女”だ。落ち着くだろ?」
「え、ええ、そうですね……」
って、そうじゃなかった! ゆうべの事を謝らないと!
「あの……昨日はごめんなさい。勝手にベッドに入って……」
「ああ、そのことか。一度は説教しようかとも思ったけど、もうそんな気分じゃねぇし、別にいいぜ……寂しかったんだろ?」
「………はい……」
私の返答を聞いて、龍哉さんは優しく笑った。
私は、龍哉さんのこの笑顔が大好き。ずっと見ていたいなんて思ってしまう。
龍哉さんはピアノの椅子から立ち上がると、仕事机に寄りかかってテレビをつけた。ニュースをやっている。
『昨夜未明、東京の15区にある空き工場にて火災が発生しました。工場は全焼し、工場の中からは六人の焼死体が発見されました。鑑識の調べによりますと、“全員喰種である可能性が高い”とされ、このことから、警察は捜査をCCGに一任し、喰種同士の共喰いである可能性が高いとして、捜査を進めています。では、次のニュースです──』
これは後から聞いた話だけど、龍哉さんは喰種専門の殺し屋をやっているらしい。私を拾った夜も、一仕事終えてきた後だったんだとか。
確かに、服に凄くいっぱい血がついてたし、間違いなく喰種の匂いだけど、みんなバラバラの匂いだったから、大勢の喰種を殺してきた後だってことは、あの時の私でも分かった。
「ああ、ちなみにこれやったの俺な」
龍哉さんはテレビを親指で指しながら言った。つまり、ニュースで言ってた“6人の喰種”を殺したのは龍哉さんという事になる。
「本当に、そんな人数を相手にしたんですか……?」
私は思わずそんな質問をしてしまう。だって6対1なんて、人数差がありすぎて、もはやただのいじめにしか感じられないんだから。
「相手にして全員殺したって昨日も言ったじゃねーか。別にそんな人数差、屁でもねぇし慣れちまったからな」
でも、あくまで彼は別。6人の喰種なんて、彼にとっては格下の集まりでしかない。本当にすごくて、憧れる。私は彼の“力”に憧れたわけじゃないんだけどね。
「さて……起きてばっかりで悪いが、今日は出掛けるぞ」
「出掛ける? 何処にですか?」
首を傾げる私に、龍哉さんは笑って答えた。
「俺の
────────────────
龍哉Side
「ここだ」
「“あんていく”……ですか」
“あんていく”も“Crime And Punishment”も20区にあるが、あの事務所は街外れに建っているため、移動に割と時間がかかる。
道中俺は、何人もの女から声をかけられたが、正直
ちなみに、その時の紗耶香の機嫌は最悪だった……意味が分からない。別に俺が逆ナンされようがどうだっていいだろ。
「ここに来んのも久しぶりだ……入るぞ」
「は、はい……」
少し緊張した様子の紗耶香をよそに、久々の再会による歓びに顔を歪ませながら、俺はドアノブを捻った。
カランカラン……
「いらっしゃい……タツヤ君」
ドアを開けると、俺の視界に広がったのは懐かしい光景。ここを出た時から変わっていない壁や机、棚にはコーヒー豆が入ったガラス瓶。そして、カウンターの奥で優しく微笑む人物。
「……久しぶりだな、
久しく聞いていなかった声を聞いた俺は、笑みを浮かべながら、かつて少しの間だけ使ったことがある呼び名で彼を呼んだ。その呼び名に、芳村さんは一段と笑みを深めた。
「ああ、本当に久しぶりだね。ゆっくりしていくといい……ん? その子は……」
ふと、俺の後ろに隠れている、紗耶香が目に入った芳村さんは、彼女の事を俺にたずねた。
「俺の新しい“
「ハ、春川 紗耶香デス。ハジメマシテ、コンニチハ」
「ふふ、はじめまして」
紗耶香は緊張のせいか、言葉がまるでロボットのような棒読みになる。芳村さんは紗耶香の機械的な口調に少し笑った後、挨拶を返した。
ほんわかとした空気が流れはじめるが、俺は雰囲気などは気にせず周りを見渡す。
「タツヤ君、どうしたんだい?」
「いや……他の奴らは?」
「ああ、彼らは……」
芳村さんが何か言いかけたところで、“STAFF ONLY”というプレートが掛けられたドアの方向から、大きめの足音が聞こえきた。
「……ふむ。噂をすれば」
芳村さんが人知れず呟くと同時に、ドアが開け放たれ、2人の男女が中から出てきた。
「やあタツヤ君! 久しぶりじゃないか!」
「しばらく見ないうちに、またカッコよくなったわね」
特徴的な団子っ鼻の男性と、妙齢の美女は、玄関近くに立つ俺を見て歓喜の声を上げた。
「よお、久しいな魔猿! カヤ!」
俺もまた、2人の
「ああ、懐かしいな……俺をその名で呼んでくれるのは君だけだよ……」
なぜか突然しみじみと泣き出した、鼻も髪型も団子のようなこの男、
コイツはそれを誇りに思っているようで、事あるごとに“魔猿”の二つ名をひけらかす。そして無視される。
「ちょ……なんで泣くのよ……」
そして、泣いている魔猿を見て若干引いたような表情の美女、
──当然2人とも、強い。俺にはきっと及ばないが。
「うう……俺としたことが……って、あれ? 君は……」
「なになに? タツヤ君のカノジョ?」
さっきまでさめざめと泣いていた魔猿は、俺の後ろにいる紗耶香にようやく気付き、カヤはどこかニヤニヤしながら俺をからかってくる。
「期待してるところワリぃけどな、彼女なんかじゃねーよ。詳しい事は後で説明する。サヤカ」
「…………はい」
俺の呼びかけに、なぜかムスッとしながら答える紗耶香。……何で睨まれてんだ俺は?
「春川 紗耶香です。タツヤさんの助手をしています。よろしくお願いします」
「俺は古間 円児。人は俺を“魔猿”と呼ぶ! よろしく!」
「私は入見 カヤ。よろしくね、サヤカちゃん」
紗耶香は、丁寧に挨拶をした。2人とも暖かく返してくれた。紗耶香もどこか嬉しそうな顔をしている。それと円児、お前の事を“魔猿”と呼ぶヤツは俺とCCGくらいだろうが。嘘をつくな嘘を。
「全く……ん? そういえば“トーカ”と“ヨモ”はどこ行った?」
「ああ、トーカちゃんとヨモ君なら材料の買出しに行ってるよ」
「そうかい」
別れたのが18の時だから、トーカと会うのもかれこれ4年ぶりだ。懐かしいな……。
あいつは今年で高3だから、でっかくなってたり(やましい意味は一切無い)すんのかね。ハハッ、我ながら思考が親戚のオッサンみてぇだな。
……いや、例えが悪いな。セクハラっぽく聞こえる。
(あの、タツヤさん……その“トーカ”と“ヨモ”って、誰ですか?)
ああ、紗耶香は知らなかったな。つーか、わざわざ耳元で言うようなことでもないだろう……。
「トーカは“
「………その“トーカ”って人、女の人ですか?」
「
「……………」
また途端に不機嫌な表情になる紗耶香。何だよお前……そんなに情緒不安定だったか?
そのタイミングで、カヤが何故かニヤニヤしながら、俺に話しかけてくる。殴りたい、その笑顔。
「その時に説明するけど、タツヤ君にも紹介したい人がいるのよ。多分、タツヤ君は興味を持つと思うわ」
俺に紹介ねぇ。それに俺が興味を持つ奴と来た。
「どんな奴だ?」
「それは見てのお楽しみね」
焦らすか……まあ確かに、今それを知っちまったら面白くねぇよな。
「期待しておこうか。さて、待ってる間が暇だな。芳村さん、コーヒーを2つ頼む」
「かしこまりました、お客様」
芳村さんは恭しく頭を下げた。芳村さんがふざけるなんて珍しいな。テンション上がってんのか? まあ、俺の帰りを喜んでくれてるんなら良かったが。
さて、そろそろ帰って来るか……お? 玄関から人の声が。
「男のくせにその程度の荷物でへばってんじゃねぇよクソカネキ!」
「お、重い……」
「……………」
入口から入ってきたのは、白髪に無精髭を生やした寡黙な男――四方 蓮示と、男勝りの口調で、左眼に眼帯をつけた男を罵倒する紫髪の少女――霧嶋 董香、それとその董香に罵倒されている、大きく膨らんだビニール袋を何個も抱えた、董香に“カネキ”と呼ばれた青年。
あの眼帯は初対面だが、それは今は置いておく。何故なら、その眼帯の隣に、先に挨拶をするべき人物がいるからだ。
「おお、トーカ! 随分見ないうちに大きくなったなァ!」
「そんなんだからお前は……え?」
……結局親戚のオッサンになっちまった。少し成長したトーカに思わず感動してしまった自分が憎い。
説教を始めようとしていた董香だったが、俺がかけた声に反応して、こちらをとっさに振り向き……凍りつく。
──数秒間の静寂。
それを破ったのは、董香の叫び声だった。
「た、たたったたたタツヤァ!?」
めちゃくちゃ吃りながら、俺から距離を取るように壁に勢いよく張りつく董香。何故か顔も真っ赤だ。すぐ横にいる四方は全くの無反応なのだが。
妙だな……何でコイツはこんなに狼狽してんだ? 芳村さんに今日ここに来ることは伝えてあるはずだが……。
「……わざと知らせなかったな?」
「知らせてないわ。その方が面白そうだったから」
「そういう事だよ、タツヤくん」
確かにこのリアクションは面白いが……何か腑に落ちねぇ。
確認するように芳村さんを見ると、いつも通りの微笑みを浮かべるだけで、肯定も否定もしない。アンタもかよ……。
「……あ〜、何だ。とりあえず、落ち着けトーカ」
俺が呼びかけると、董香は、う〜……と唸りながらも、騒ぐのをやめる。
「そ……それで、何しに来たんだよ」
さっきまでの自分の慌てぶりが恥ずかしかったのか、少し顔を赤くしながら、そう訊ねて来る。
「自分の
「新しい家族?」
董香の疑問に、俺は親指で背中を指して答える。俺の背には、何故か董香に対して、決して好意的とは言えないような表情を向けた紗耶香がいた。
「……はじめまして。
紗耶香は董香に、そんな自己紹介をする。……“パートナー”の部分をやたら強調していた気がしなくもないが。つーか、“同棲”なんて言い方すんな。余計な勘違いを生みそうだ。
案の定、董香が衝撃を受けたような顔をしてる。だから言わんこっちゃない、面倒くせぇぞこれは……。
「ど、同棲って……どういう意味だよタツヤ!?」
「そういう意味だ。確かに俺とサヤカは一緒に住んでる」
誤魔化しても仕方ないので、正直に言う事にする。董香は俺の返答を聞いて、魂が抜けたような、呆けた顔をする。
董香はしばらく呆けていたが、途端に俺の隣にいる紗耶香を、キッと睨みつける。
「何でテメェなんかがタツヤと……!」
恨みがましい声色を紗耶香へ向ける董香。紗耶香も董香の言葉に顔をしかめた。
「あなたが私の何を知ってるんですか? タツヤさんは私の恩人です。タツヤさんと一緒にいたいから同棲しているんです」
「厚かましいにも程があんだろ! 遠慮を知らねぇのかテメェは!」
「……あなたは何か勘違いしていますね。同棲を先に提案したのは、私ではなくてタツヤさんですよ?」
「はぁッ!? ふざけんな!! テメェみてーな女はタツヤに相応しくねぇんだよ!!」
「何ですって……?」
董香と紗耶香は、出会って早々口喧嘩を始めた。どうやら話題は俺らしいので、俺が割って入ったらもっと話がややこしくなるだろうから、もう無視をすることに決めた。二人は同い歳のはずだから、気が合うかと思ったんだが……いや、なんつーか予想してなかったなコレは。
それより大事なことを知るため、先程から黙ったままの四方に話かける。
「お前も相変わらずだな、ヨモ」
「……お前もな、タツヤ」
本当に4年前と何も変わってない、寡黙な男だ。もう少し笑った方が人生も楽しいぞ。まあ、今更か。
「まあそれはいい。そんなことより、そこの眼帯クンの紹介をしてくれよ」
そう、俺が四方に話しかけた理由は、この眼帯の事を知るためだ。4年前にはこんな奴いなかったからな。それと……。
「……コイツは
「へぇ……俺は黒井龍哉だ。宜しくな」
「金木です。よろしくお願いします」
「……ん〜………」
お互いに挨拶をした後、俺は金木に顔を近づけ、鼻をすすった。
「……
「ええと……何の事ですか?」
少し困惑している金木をよそに、俺は内から湧く好奇心を抑えきれなかった。俺は努めて冷静に尋ねた。
「お前──
「………ッ!」
俺の言葉に、金木の顔が少しだけ引きつる。図星のようだ。しかも表情から見るに、複雑な事情がありそうだ。本人から聞くのは流石に酷だな。
俺は四方に目を向ける。四方はどうやら、俺の意思を汲んでくれたようだ。
「……研は、喰種の内臓を移植されて喰種になった」
「……何だって?」
喰種の内臓を移植? それじゃあ……。
「まさかカネキは……」
「……
「
ふざけんなよ……それしか助かる道が無かったとしても、もっと他の方法を探すべきじゃなかったのか? そんな事があっていいのかよ……。
それでも、“可哀想に……”とは絶対に口にしない。今更そんな慰めをされたって、余計に惨めな思いをするだけだ。過去を変える事など、誰にもできはしない。
まあとにかく、“あんていく”に入ったのならば、コイツは芳村さんに認められたという事だ。
それに元人間だったのならば、人間を無闇矢鱈に喰い散らかすような真似もしないだろう。ならば、コイツも俺の“
「なぁ、カネキ」
「はい」
「もしもの時は、遠慮なく頼れ。俺達は、もう“家族”なんだからな」
「ッ……はい!」
俺の言葉に、金木は目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべて返事を返した。
いい奴なのは分かる。だが……やはり元は人間だったからなのか、自分が喰種である事を受け入れきれていない節がある。
こればかりは金木の心情次第なので何とも言えないが……。
それに、コイツから漂う喰種の匂い……前に一度だけ嗅いだ事がある。
(よりによって、
ヤツとは前にこの店で遭遇し、目をつけられた事があった。
どうやら俺に興味があったようで、かなりしつこく狙われた。
そんなアイツが死んだという事は知っていたが、内臓の移植に使われるとはな……。
クソッタレ、あの時に俺が殺しておくんだった。
金木は、いつか喰種の本能を抑えきれなくなるだろう。俺が……いや、俺達が護ってやらなきゃな……。
俺はこの時、金木の歩む未来に一抹の不安を感じていた。
最後のやっつけ感が……。いや、もう疲れちゃって(笑)
原作キャラの口調に自信がない……。
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