まあ、結局書いちゃうんですけどw
では、どうぞ!
芳村Side
私は今、店の片付けをしている。
既に営業時間を過ぎているので、ここには私一人しかいない。
店内は静寂に包まれ、ただ私が片付けをする音だけが聞こえる。
誰一人いない中、私は一抹の不安を抱いていた。
──何だ、この不安は。心臓を鷲掴みにされたようなこの感覚は。
何者かに掻き乱されるような……そんな予感がする。
これはそう、所謂……“胸騒ぎ”という奴か。
「ふむ……」
この胸騒ぎの正体を突き止めなければいけない。
私は手早く片付けを済ませ、いつもの褐色のコートではなく、黒いマントを羽織り街の外へ飛び出した。
僅かに聞こえる、金属が擦れるような音を頼りに走る。
この音は……甲赫だろうか。それ以外にもいる。
この気配は、二、三……四人か。
微かに声が聞こえる。
指示を出すような声が一人、大きな叫び声が二人、そして断末魔のような声が一人か……。
成程、この内の三人は、恐らく
そして残りの一人が──私の不安を掻き立てる存在。
『……許される訳がないだろォ……』
また叫び声だ。聞いた事がない声だから、白鳩の一人だろう。
大方、人間の命の尊さについて説いている、といったところか?
あの白鳩には悪いが……それを喰種に訴えるのは、筋違いだ。
喰種は人を喰らわなくては生きていけない。喰種が生き長らえる為には、仕方の無い事なのだ。
まあ、無闇に殺すことは許されない事だとは思うが。
だが、白鳩が喰種を殺すというのもまた、違う。
命とは尊いものだ。それを奪っていい理由など、あるはずがない。
『……黙れェェェェェェェェェェェ……』
先程の白鳩はそれを分かっていない。
少し教えてやらなければいけないな。
……よし、ようやく姿が見えてきた。
やはり、白鳩が三人、喰種が一人……。
そして、今殴られた両腕がない喰種は……龍司君、か。
彼には家庭がある。人間の妻と、
──こうして考えると……彼はどこか私と似ている。
まだ“功善”だった頃の、私に。
人間の女性と恋に落ち、苦労しながらも子を産み……そして妻を──自らの手で殺した。
彼には私と同じ思いをしてほしくない。
いや、この場合涙を流すことになるのは妻の方か。
彼女に辛い思いをさせるわけには行かないな。
「……………」
息を殺し、忍のように音も無く接近する。
そして、羽赫を甲赫のように伸ばしたもので、仕舞われたクインケを持って、目の前の光景を眺めている白鳩の左腕を斬り裂く。
「ぐああああァァァァッ!?」
「ッ!? 青木ッ!!」
よし、龍司君の息はまだあるようだ。呆然とこちらを見ているが。
「……無事かい? リュウジ君」
「よ……しむ…ら………さん?」
さて──
────────────────
三人称Side
龍司は、驚愕した表情で、目の前の喰種を見つめている。
佐藤に西崎、そして左腕を無くした青木さえも、その喰種に向けての警戒は緩めない。
だが、青木はとても戦える状態ではなかった。
喰種とは違い、治癒力が高くない人間の青木は、このまま止血をしなければ、出血多量で死んでしまう。
「……お前はもう休め、青木」
傍にいた西崎は、青木の左腕を何とか応急処置で止血し、遠くへ運んで寝かせようとした。
「……いや、やらせてくれよ」
しかし、青木はそれをさせなかった。
右手を器用に使ってクインケを展開し、芳村に向ける。
「……そうか。死ぬなよ、青木」
「おう!!」
そんな青木を、西崎は止めなかった。
青木の目に、確かな覚悟を見たからだ。
……この間、一切動かずに白鳩達を眺めている芳村。
、仮面の下では、その表情は分からない。
「──世界は、怒りと哀しみを産み続ける」
突然、ぼそりと呟く芳村。
「奪い合い、殺し合い……それで当然と言わんばかりに、お互いが自身を正当化しようとしている。君たちの
白鳩達は思わず、自分達が手に持っているクインケを見る。
クインケの原料は、喰種の赫包だ。喰種を殺さなければ、クインケは作れない。
白鳩は喰種を、“それが当然”と言わんばかりに殺し、その力を糧とする。
芳村はそれを揶揄しているのだ。
だが、喰種の発する言葉を、彼らがまともに聞くはずもなく、
「──それがどうした」
特に佐藤は、一切芳村の言葉に耳を傾けるつもりは無かった。
虎すらも射殺さんばかりの眼光を、芳村に向ける。
「喰種は我々人間を襲う。喰種によって、数多の尊い命が散っていった。喰種は生きてはいけない存在だ。それを殺して何が悪い?」
考えるまでもない、と鼻で笑う佐藤。
しかし、芳村は気にせず続ける。
「私は……喰種だけが悪者ではないと思っている」
「………何だと?」
芳村の言葉を聞き、佐藤の顔色が憤怒の表情へと一気に変わる。
「誰かを殺していい理由など、存在しない。たとえどんな理由があろうと……」
芳村は、目の前の三人へ目を向ける。
そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……命を奪う行為は、等しく──“悪”だ」
「ふ ざ け る な」
芳村の言葉を聞き、佐藤の堪忍袋の緒はついに切れた。
佐藤の目が憎悪の色に染まり、そして、突然芳村に襲いかかる。
「お、おい佐藤! 落ち着け!!」
「死ねェッ!!」
西崎の静止の声も、もはや佐藤には届かない。
まるで獣のように、荒々しくクインケを振り回す佐藤。そこに戦術などは存在しない。
芳村は、それを冷静に全てかわす。
「ガアッ!?」
無闇にクインケを振り回すだけの佐藤の隙を突き、腹に蹴りを当て、佐藤を吹き飛ばす。
「グ……ウアァッ……」
蹴りを受けながらも、佐藤は腹を抑えながら立ち上がる。
彼の目からは、怒りしか感じ取れなかった。
(彼は……まるで憎悪の塊のようだ)
“憎悪の塊”。これは、まさに今の佐藤を見事に言い表している言葉だろう。
「我々は生まれ落ちたその瞬間から、何かを奪い続ける。食べ物、関わりあう人々、そして両親ですら、生きる限り屠り、殺し、奪い続ける」
芳村は再び語る。生き物の罪深さ、愚かさを。
「命とは罪を犯し続けるものの事……命とは
ズズズズズズズ……
芳村は両肩から羽赫を出す。
そして、甲赫型に固めた羽赫を、三人に向ける。
「──さあ、殺しに来なさい。私もそうしよう」
戦いの火蓋が、再び切って落とされた。
────────────────
芳村を前にして、西崎と青木は、内心、恐怖を抱いていた。
(こいつは……強い!)
芳村から溢れ出す濃密な殺気が、彼が只者ではない事を表している。
その強さは、SSレートの“白龍”である龍司すらも凌駕する。
二人の直感は、そう告げていた。
「殺す……喰種はすべて……殺ス」
──唯一人、佐藤を除いては。
先程よりはだいぶ落ち着いてはいるが、やはり彼は冷静ではなかった。
何の躊躇もなく、芳村に飛びかかる。
「ハァッ!! 死ね! 死ねッ! 死ねェェッ!!」
「……………」
暴言を吐きながら斬り刻まんとする佐藤を、芳村は黙ったまま捌く。
「貴様らッ! 喰種はッ! 生きるッ! 価値などッ! ないのだッ! だからッ! 喰らえッ! 当たれッ! 当たれよォッ!!」
(彼は……やはり危険だな。私の言葉が全く届いていない)
半ばやけくそ気味にクインケを振り回す佐藤。
そこには、もう普段の冷静な佐藤の姿は無かった。
「すまない……君には死んでもらう」
佐藤を“危険”と判断した芳村は、佐藤を始めに殺すことに決める。
甲赫型の羽赫を、佐藤の前に振りかざした。
「……ッ! させっかよ!」
佐藤の変わり果てた姿をぼんやりと眺めていた青木は、佐藤を救うため、背中に向けて羽赫クインケを放つ。
「喰らえッ!」
芳村のすぐ横には、同じく我に返った西崎が。
甲赫クインケで、左腕から斬りつけようとクインケを振りかざす。
「ふん!」
「「なッ!?」」
しかし、芳村はそれを許さなかった。
青木の射撃は、撃たれる前に、青木に向けて羽赫を撃つことで未然に防ぎ、西崎の斬撃は、もう片方の甲赫型の羽赫でガードする。そして……。
「ぐほあッ!?」
──芳村は佐藤の体を横に斬り裂く。
佐藤はうつぶせに倒れ、そのまま動かなくなった。
「佐藤ォッ!!」
西崎は叫ぶ。が、佐藤は起き上がらない。
(避けきれ……なかった……)
青木は完全に射撃をかわしたつもりでいたが、左腕を失って血を大量に流した事により、いつもより体が重くなっていた。
胸に硬質化した羽赫が刺さり、さらに血液を失う青木。
青木は本能で、自分はもう助からない事を悟った。
(ハハ……血を失い過ぎたか……ごめんな、佐藤、西崎……俺は……もう……駄目みたいだ………)
青木は力なくその場で倒れる。そして、そのまま──二度と動くことは無かった。
「青木ィィィッ!!!」
西崎が叫ぶ。しかし、返事が返ってくることはない。
「がはァッ!?」
この出来事は、西崎に隙を作らせた。それを利用して、芳村は西崎を袈裟斬りで吹き飛ばす。
この袈裟斬りが、西崎にとっては致命傷となった。
「……ぐ……はッ……」
まだ辛うじて息はあるが、彼もやはり、助からないほどの傷を受けた。
「青…木……佐藤………」
西崎はアスファルトを血まみれにしながらも、這いずり、青木と佐藤に手を伸ばす。
「おれ……た…ちは……いき……て………」
──しかし、その手は届かず、西崎は力尽きた。
「………………」
動かなくなった、ただの肉塊と化した白鳩達を、哀しい目で見つめる芳村。
ふと龍司の方を振り返ると、壁を背にして座りながらこちらを見ていた。
芳村は、それを見て安堵すると同時に、負っている怪我から、龍司がもう助からない事も悟った。
一瞬表情を歪めるが、すぐに戻し、静かに笑いながら芳村は龍司に近づく。
「お…やじ……おふ……くろ……」
「む……ッ!!」
──しかし、背後から小さな声が聞こえた。
芳村は勢いよく振り向く。
そこには、全身を血で濡らしながらも、それでもまだ立ち上がろうとする佐藤の姿があった。
「おれ……は……ぐー……る…を……ころ……して……か…たき……を………」
そしてついに立ち上がり、芳村の元へ、ゆっくりと歩く。
「ぐーる……は……ゆる…さ……ない……おれ……から……かぞ…く……を……う…ばっ……た……ぐ……る……は………」
途切れ途切れに喋りながら、芳村へと歩み寄る佐藤。その距離は徐々に縮まっていく。
それでも、一切動かない芳村。
あと三歩分進めば、そこには
佐藤は機械のように、クインケをゆっくりと振りかざした。
「かぞ……く……の……か……た……き……を……ぐ……る……を……こ……ろ……し……………」
そして佐藤は、芳村に向けてクインケを振り下ろす。
──フォンッ
──しかし、芳村には届かなかった。
彼の斬撃は、虚しく空を斬る。ついに限界を超えたのか、そのまま前に力なく倒れる。
そして、一切動かなくなった。
(そうか……彼は喰種によって両親を……)
芳村は佐藤の言葉から、ようやく“佐藤”という人間を理解することが出来た。
人を愛している芳村は、無駄な殺生を好まない。
そしてそんな自分が、瀕死の龍司を守るためとはいえ、未来ある三人の若人達の命を奪ってしまった。
芳村は、強い自責の念に駆られる。
(……どうか、安らかに)
芳村は、ゆっくりと目を瞑った。
佐藤たちに向けて謝罪を込めながら、静かに、手を合わせた。
────────────────
芳村は龍司の元へと近づき、その場でしゃがむ。龍司は辛そうな顔で、芳村を見つめる。
しばらく沈黙が続いたが、ようやく龍司が口を開く。
「芳村さん……どうして、ここが……分かったんですか?」
芳村は、数十分前の事を思い出す。
「……胸騒ぎがしたんだよ」
ぼそりと呟く芳村。
それを聞いた龍司は、不思議そうな顔をする。
「胸……騒ぎ?」
「そう。何故か突然不安を感じてね。何かが壊されてしまう、失われてしまう……そんな不安だよ」
芳村は微笑みながら答える。
その笑顔を見た龍司もまた、笑顔になる。もうじき死ぬ男の作る表情とは思えない。
「そうですか……ありがとう、ございました」
「いや、いいんだ……」
芳村は静かに笑う。
しかしその笑いもすぐに消え、悲しげな表情となる。
「俺は……もう、助かりません……自分の最期くらい、分かります……」
「……………」
諦めたように呟く龍司。それを黙って聞く芳村。
「芳村さん……お願い……します……」
「………何をかな?」
突然の言葉に、芳村は内容を聞く。
「俺の……家族を……ミキと…タツヤを……見守ってやって……ください……」
「……ああ、勿論だよ」
芳村は当然と言わんばかりに引き受ける。
龍司が残り少ない生命の蝋燭を懸命に燃やしながら、最後の願いを届けているのだ。無碍にするわけにはいかない。
「それ……と……伝えて……欲しい……こと……が……」
「……?」
芳村は、消え入りそうな龍司の声に、耳を寄せる。
「ミキに……伝え……て……くだ……さい……約束を……守れ……なくて……すまな……かった、と……」
「…………分かった」
芳村は、静かに頷いた。
若くして命を落としてしまった龍司と、取り残された美希を不憫に思いながら。
芳村の返答を聞いた龍司は、穏やかに微笑みながら──ゆっくりと、目を閉じた。
そして――彼の体は、そのまま動かなくなった。
「リュウジ君………」
龍司の死に顔はとても安らかだった。
が、すでに閉じられた瞳からは、一筋の涙が流れ落ちていた。
龍司の涙を指で拭いながら、芳村は彼の名前を呟く。
そして、はっきりと揺るぎない声色で、言葉を発した。
「──守ってみせるよ。君の大切な
──この日。
芳村は……大きな誓いをたてた。
あーやっと終わったー!!
いかがでしたか?
途中でかなり表現が適当になってしまいましたが、問題点などあれば感想をお願いします!