喰種を狩る喰種   作:名無しのカビゴン

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ども、ビートマンです!
まずはじめに……更新遅れてすいませんでした!!
タチの悪い風邪を引いてしまい、療養中でした。その結果、ただでさえ更新が遅い小説が、更に遅くなってしまったという……
でも、もう風邪もほとんど治ったので、今日から更新していきたいと思います。(早く更新するとは言ってない)
こんな私ですが、宜しくお願いします!!



第4喰目 号哭

 三人称Side

 

「早く……」

 

 誰もいない中、誰かが小さく呟いた。

 

 たった今言葉を発したのは、人間でありながら、喰種である龍司と結ばれた妻、美希だ。

 

 時計の針はすでに深夜1時を指しているが、美希は眠れない。

 ──いや、わざと眠らないようにしているのだ。

 

 龍司が人間の肉を求めて外へ出る時は、美希は何があっても、龍司が無事に帰ってくるまでは寝ないと決めている。

 単に、龍司の身が心配で眠れない、という個人的な理由もあるのだが。

 

 一度、美希の身を案じる龍司と、そのことで喧嘩したことがあったが、美希は一切譲らず、結果的に龍司が折れたのだった。

 

 今日もいつものように、龍哉を寝かしつけてから、布団から出て帰りを待っている。

 

 

 カチ……カチ……カチ……

 

 

 不気味な程静かなリビングに、時計の針の音だけが響く。

 

 龍司が夜に出かける日は、いつも強い不安と淋しさを感じているが──何故だろう、今日はいつもより強く、胸が締めつけられるような不安を感じる。

 

 

 もしかして、彼の身に何かあったのか……。

 

 そこまで考えて、雑念を打ち消すように首を横に振る。

 

 

 ──まさか。そんな事があるわけない。

 あの人は“白龍”と呼ばれるほどに強い喰種。必ず何事も無かったかのように帰ってくる。

 

 そう、自分に何度も言い聞かせる。

 不安から逃れるように。大切なものを、愛しているものを失う恐怖から目を背けるように。

 

 考えているうちに、龍司の存在が恋しくなっていく。

 

 早く。早く帰ってきて欲しい。

 優しく笑う顔が見たい。声が聞きたい。触れたい。一緒にいたい。早く、早く早く──

 

 美希のそんな思いは膨らむばかり。

 あの笑顔を……私が惚れてしまったあの優しい笑顔を見て、早く安心したい。

 この恐怖から抜け出したい。

 

「リュウジさん……」

 

 思わず美希は、自分が愛してやまない人の名前を、自分の体を抱き締めながら、切なげに呟いていた。

 

 初めて龍司に出会った時。

 あの時から、美希はすっかり龍司の虜になってしまった。

 それはもう──龍司が喰種(化物)であることなど、どうでもいいと思える程に。

 

 龍司が死ぬ。二度と会えなくなる──そんな事を考えて、思わず身震いをする。

 美希は、自分の衣服を握りしめる力を更に強くした。

 握られたその手は……震えていた。

 

「早く帰ってきて……リュウジさん……っ」

 

 痛いほどの不安に襲われ、今にも泣きそうな顔の美希。

 そんな時、インターホンの音が鳴る。

 

 待ちわびたこの音。

 美希は、心の中の霧が一瞬で晴れるような感覚を覚えた。

 

(リュウジさんっ……!)

 

 嬉々としてリビングを飛び出す美希。

 玄関まで走り、満面の笑顔でドアを開け放つ。

 

 

「え……?」

 

 

 しかし、間もなく美希の笑みは消える。

 

 そこにいたのは龍司ではなく、精悍な顔つきをした初老の男、芳村だったからだ。

 

「すまないね。君が待っていた人ではなくて……」

 

 あからさまに落胆する美希を見て、思わず苦笑いする芳村。

 

「芳村さん……どうしたんですか? こんな時間に……」

 

 美希からの問いを聞いた芳村の苦笑いが、一瞬で沈痛な面持ちに変わる。

 

 少し首をかしげる美希。

 芳村は何か用があるから来たのだろうが、なかなか用件を言い出そうとしない。

 言うことを躊躇しているのだ。

 

 珍しい芳村の姿に、美希は嫌な予感を感じ取る。

 こんな姿の芳村は見たことがない。

 

「何か……あったんですか?」

 

 美希の問いを聞いて、芳村は覚悟を決めたのか、静かに口を開く。

 

「ミキちゃん、リュウジ君の事だが……」

 

「っ、だめッ!!!」

 

 そこまで言って、突然美希が大声で待ったをかけた。

 近所迷惑になってしまいそうだが、彼女にそんな事を気にする余裕はない。

 

 芳村のただならぬ雰囲気と、芳村の口から出た“龍司君”という単語に、龍司の身に何かあった事を悟った美希は、聞きたくないと言わんばかりに耳を塞ぎ、その場にひざまずく。

 

「言わないでください。それ以上は……聞きたくありません……」

 

 それは明確な拒絶。

 生まれたての小鹿のように、がくがくと震える。

 

 この過剰な反応に、芳村は目を見開く。

 これを見るだけで、いかに龍司が愛されていたのかが、否応にも分かるというものだ。

 

 あまりにも哀れな姿だが、言わない訳にはいかない。

 残酷とも思えるが、彼女は知りたくなくても知らなければならないのだ。

 芳村は縮こまっている美希に向けて、話を続ける。

 

「店の片付けをしていたら、嫌な予感がしてね。自分の勘だけを頼りに外に出て進むと、三人の特等捜査官と──

 

 

リュウジ君がいたんだよ」

 

 

「……ッ!?」

 

 予想はしていた──していたはずなのに、実際に聞くとやはり、衝撃が走る。

 

 

 龍司が……捜査官と一緒にいた? ならば、彼は今……。

 

 

 次の瞬間、美希は立ち上がり、凄まじい剣幕で芳村に詰め寄っていた。

 

「夫はッ……! リュウジさんはどうなったんですか!?」

 

「……………」

 

 美希は、瞳に涙を溜めながら芳村のコートをつかんで激しく揺する。その顔色は、真っ青を通り越して真っ白になっている。

 しかし、芳村は言葉を発さない。

 

 俯いたままで、美希の必死の表情を見ようともしない。依然として黙っている。

 

 このまま何も教えないままなのか、と思われたが、その心配は杞憂に終わる。

 

 

 芳村は──美希に向けて、ずっと背中に隠し持っていた何かを、何も言わずに差し出した。

 

「………え……?」

 

 美希は、一目でそれが何か分かった。

 何故なら、美希も以前、それを見たことがあったからだ。

 

 芳村の手に掴まれていたもの、それは──

 

 

「それ……って……リュウジさんの……」

 

 

 ──それは、“白龍”の証。

 何かで斬られたような跡と、血のようなものがへばりついて、赤と白のまだらになっている龍のマスクだった。

 

 

「……そん……な……」

 

 美希は頭の中が真っ白になった。そして再び、今度は静かに膝から崩れ落ちる。

 青い瞳の光は消え、涙が止めどなく溢れてくる。

 

 ずっと黙っていた芳村は、ようやく口を開く。

 

「……私が助けに行った時には、もう……助かる状態ではなかったよ……それと」

 

 美希は、涙で濡れた顔を上げた。

 芳村は、沈痛な面持ちのまま、告げた。

 

「リュウジくんが言っていたよ──

 

 

約束を守れなくて、すまなかった……と」

 

「……あ……ああっ、あああああアアアアアッ!!!」

 

 芳村の言葉を聞いた美希は、一層大きな声で泣いた。

 芳村は、泣きじゃくる美希を前に──慰める事も、元気づける事も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 芳村は美希に、龍司の体はあんていくで預かっている、と伝え、芳村は出ていった。

 

 去り際に、“強く生きなさい”と芳村は伝えたが、恐らく今の美希には、何も届いていないだろう。

 

「う……うっ……リュウジさんっ……」

 

 ひざまずいて、独りで泣いているだけだ。

 

 手元にある血塗れのマスクを、胸に強く抱きながら。

 

 美希の頭に浮かぶのは、“絶望”の二文字。

 

 彼女が愛した男は、もうこの世にはいない……その事実が、美希を絶望の闇の淵へと突き堕とす。

 

「どう……して……ひぐっ……約束……したのにっ……ぐすっ……嘘……つき……!」

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

『ミキ、前にも話したけど……俺は喰種だ。人間を喰らって生きている』

 

『………うん』

 

『俺も前までは……人間は喰種にとってただの食料だって、そう思ってた。けど、君と出逢ってから変わったんだ』

 

『……………』

 

『俺が……怖いか?』

 

『初めて聞いた時は……怖かった。いつか食べられちゃうんじゃないかって』

 

『……………』

 

『でも私は、リュウジさんを信じたい。リュウジさんと……リュウジさんとなら、ずっと一緒にいたいって思えるから』

 

『美希……ありがとう。俺、約束するよ』

 

『約束……って?』

 

『俺は所詮喰種……いつかは白鳩に命を狙われる。でも──

 

 

 ──安心してくれ。君のことは、俺がずっと守るから』

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 以前、まだ自分が“黒井”でなかった頃、彼と交わした、忘れられない約束。

 その約束は、最も美希が望まない形で、破られる事となった。

 

 夫が喰種である以上、このような事態の想定をしていなかったわけではない。

 もしもの時の為に、覚悟だって決めていた……はずだった。

 

「守って……くれるんじゃっ……ひっく……なかったの……? 私……ひっく……嬉し……かったのにっ……」

 

 種族なんて関係ない。このひとは他の喰種(化物)とは違う。

 この人とだったら正しい人生を……幸せな人生を歩んでいける──先程までは、そう思っていた。

 

 美希の覚悟や、希望と愛に満ちた未来は……全て白紙に戻される。

 唯一人の、(最愛の人)喪失(・・)によって。

 

「嫌っ……っく……嫌よ……リュウジさんっ……こんなの……えぐっ……嫌っ……」

 

 せめて最期の時くらい、一緒にいたかった。

 もっと言いたい事がたくさんあったのに。

 いつもは恥ずかしくて言えない事も、たくさん言いたかったのに。

 

 

 ──などと考えてはいるが、龍司の死を認めた訳ではない。認められるはずがない。

 

 芳村の言葉と、胸に抱かれたマスクが、それが事実だと物語っている。

 だが、美希は事実から目を逸らし続ける。

 

 昔の人々が飢饉に陥ると、仏教という気休めにすがったように、追い詰められた兵達が、来もしない援軍に頼るように、美希は、龍司はまだ生きているという“虚”にすがった。

 

 

「帰ってきて……お願いだから……帰って……きてよぉっ……!」

 

 

 それから美希は、寝ている龍哉のことも気にせず、大きな声で泣きだした。

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

「ん……むぅ……?」

 

 薄暗い部屋で布団の中、龍哉は目を覚ました。

 

 この部屋の向こう……リビングから、声が聞こえるのだ。

 

「母さん……?」

 

 リビングから聞こえてくる声は、間違いなく美希の声だ。

 だが、何か様子がおかしい。

 

 先程から何かを呟いているが、何故か泣いているのだ。

 こんな時間に、何か泣く理由があるのだろうか。

 

 ここで、龍哉は龍司の顔を思い浮かべた。

 

 ──そうだった。

 そういえば今日は、父さんが肉を取りに行く日だった。だから母さんは起きてるんだ。

 

 そこまで考えるが、それだけでは美希が泣いている説明がつかない。泣く理由がない。

 

 父親が死ぬという可能性を考えなかった龍哉は、確かめるため、リビングへと通じるドアを、ゆっくりと開ける。

 

「……え?」

 

 思わず声を上げる。

 そこにいたのは、その場にひざまずきながらむせび泣く、母の姿だった。

 

 やはり美希は泣いていた。

 ただ、泣き方が尋常じゃない。

 

 異常なほど激しい勢いで泣いている。

 ここまで泣いている美希を……というか、泣いている美希の姿を見るのは、これが初めてだ。

 

(……?)

 

 ここで龍哉は、あることに気づく。

 美希が、胸にある何かを力強く抱きしめているのだ。

 龍哉は、それに見覚えがあった。

 

(……えっ? どういうこと? だってあれは……)

 

 

 美希が胸に抱えていたのは──傷がついた、赤と白のまだら模様をした、龍のマスクだった。

 

 

(……父さんのマスク)

 

 ここで龍哉は、ようやく解った。解ってしまった。

 何故、美希があれほど号泣しているのか。

 何故、傷一つ無く真っ白だったはずのマスクに、斬ったような跡が、ところどころ赤い模様が付いているのか。

 

 美希の言葉をよく聞けば分かる事だった。

 先程から呪文のように“リュウジさん”としか呟いていない。

 

 

 

「……っ……こんな……のって……ひっく……いやっ……リュウジさんっ……リュウジさんリュウジさんリュウジさんリュウジさんリュウジさんリュウジさん………」

 

 

 

 変わり果てた美希の姿を見てしまった龍哉。

 

 龍司はもうこの世にいない事と、かつての美希は二度と戻って来ないこと。

 家族が崩壊してしまったという事実に、龍哉は美希から受け継いだ青い瞳から、涙を流しながら膝から崩れ落ちる。

 皮肉な事に、龍司の死を知った際の美希の姿に、酷似していた。

 

「うわあああああああああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 龍哉は大声で泣いた。

 間違いなく聞こえているはずだが、美希はこちらを見もしない。

 依然として、光の消えた目で、既にいない人物の名を呟くのみ。

 

 号泣しながら、龍哉は自分の……家族の運命を呪っていた。

 

 

 

 ──何故。何故こんな目に遭わなければならない?

 父さんは人を殺した事があるとはいえ、元は喰種だ。本能に逆らえる生物なんている訳がない。

 それにもう今は殺してない。

 母さんに至っては、何の罪も無いじゃないか。

 何で母さんがあんなに辛い思いをしなきゃいけないんだ?

 

 

 

 ──龍哉は嘆く。自らに降りかかった不幸を。

 

 第三者がこの話を聞けば、“因果応報”の一言で片付けられるかもしれない。

 しかしまだ幼い龍哉が、家族の死を“因果応報”で片付けられるはずがなかった。

 

(俺は……俺は、弱い!!)

 

 龍哉は残酷な運命を嘆くと同時に、己の無力さを呪った。

 

 大切な家族一人すら、守ることができなかった。

 そして今、自分の母親を励ますどころか、声をかけることすら出来ずにいる。

 

 

(俺に……もっと力があれば……!)

 

 

 ──力が欲しい。

 外敵から“大切なもの(家族)”を守る力が。

 “大切なもの(家族)”が傷ついたら、守るだけでなく、その傷を少しでも癒してやれるような力が。

 一つの目的のため、躊躇せずに真っ直ぐ進めるような力が。

 

 

 

「力を……もっと力を……!」

 

 

 この際、龍哉は決意を固めた。

 必ず力を手に入れ、母親(たった一人の家族)を守ると。

 

 この時の龍哉の右の赫眼は、いつもより不気味に、しかし、いつもより真っ直ぐに、力強く見えた。




皆さんが勘違いしないように言っておきます。
龍哉は、まだ5歳ですw
5歳が凄まじい事を考えていますが、これはひとえに、自分の文才が無かったために起きたこと……アドバイスは受け付けますが、アンチはやめてください。いや、割とガチでw
終盤の英語は、分かる人には分かります。はい、DMCネタですw
でもタグには“要素あり”って書きましたし、問題は……ないよね?
お母さんは壊れてしまいました……自分で書いといて何だけど、重すぎない?w
物凄く主人公たちが不憫ですが、この路線で行くというのは、すでに決めたこと。まあ、シリアスばかりにするつもりはありませんがw
というわけで、こんダメ小説ですが、どうか宜しくお願いします!!
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