喰種を狩る喰種   作:名無しのカビゴン

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どうも、ビートマンです!
更新遅れてすいませんでした!
リアルの方が忙しく、なかなか書く暇がなかったんです……

では、第6話です!


第5喰目 慈愛

 龍哉Side

 

 あの悲劇が起きてから、3年が経った。

 

 あれから、周りの環境はすっかり変わった。

 俺は1年前から小学校に通い、専業主婦だった母さんも働くようになった。

 

 父さんの死は、当時の俺に凄まじい衝撃と絶望を与えたが、それだけの年月が経てば、流石に吹っ切れるというもので。

 

 時々物置に仕舞ってある白い龍のマスクを見て、悲しくなる事もあるが、もうある程度立ち直っている……あくまでも俺は(・・)

 

 誰よりも父さんが死んだことにショックを受けていたのは、間違いなく母さんだ。

 

 今でこそ少し立ち直っているが、父さんが死んだ翌日からの母さんは、酷いものだった。

 

 家事をロボットのようにこなし、俺が何を言っても上の空、生返事。聞いていなかった時だってある。笑う事もほとんど無くなった。

 まるで感情を失ってしまったように見えた。

 そして時折、事あるごとに父さんを思い出し、駄々をこねる子供のように泣く。

 

 しかし、これは当たり前と言えば当たり前だ。

 ずっと誰かと生活していた中で、その誰かが突然いなくなれば、当然、今まで何気なくやっていた行動の中に“違和感”を感じるもの。

 

 洗濯物を干す時に、父さんの洗濯物が一切無い事に気付いたり、無意識に父さんの分のご飯まで作ってしまったり、寝る時に隣に俺しかいなかったり。

 そのような“違和感”を感じる度に、母さんは泣いた。

 母さんは息子である自分よりも、父さんが死んだ事にショックを受けていたのだ。

 

 今は少し元気を取り戻しているが、父さんが使っていた白龍のマスクは絶対に母さんには見せないようにしている。

 

 変わったのは、母さんだけではない。

 俺はもう二度とあの絶望を繰り返さないために、芳村さんに喰種としての生き方、戦い方を学んでいる。

 最初は渋っていたが、『誰かを護れる力が欲しい』と伝えたら、やっと了承してくれたのだ。

 顔は終始悲痛そうな表情を浮かべていたが。

 

 喰種や白鳩(はと)との戦いを想定した実戦訓練や、体術の勉強、それと、人間の食べ物を表情を崩さずに食べる方法。

 彼から学ぶ事は、とてもためになる事ばかりだ。

 

 特に人間の食べ物を食べるのは、実戦訓練なんかよりよっぽど辛い。

 基本やれば何でも出来る俺でも、これだけはいつまで経っても慣れない。

 

 反面、体術の練習は簡単だった。

 動きや技を見ただけで覚えられるからだ。“直観像記憶能力”というらしい。

 俺にはそんな便利な能力があるから、頭が勝手に覚えてくれる。

 

 今ではボクシングや柔道、空手、テコンドー、ムエタイ、截拳道(ジークンドー)、プロレス技、あとは……言ったらキリが無いな。

 とにかく資料や動画を手当たり次第に漁ってたから、色々な技が身についている。

 

 それなのに……芳村さんと戦って、俺は未だに1度も勝てた事がない。

 全く、あの人は化物か。

 

 やっぱり赫子の力で覆されてしまうみたいだから、赫子の方もしっかり鍛えなければいけない。

 

 喰種としての血を強めるには、“共食い”がいいらしい。

 “俺も共食いした方がいいですか?”と聞いたら、“それはいけない”と答えた。

 そういう常識とかモラルとかを今更守る必要って、あるのかな? 俺達は喰種なのに。

 

 しかし、それはもう今の俺にとっては大して悩む事でもない。

 

 

 ──今、俺は芳村さんに呼び出されて、“あんていく”に向かっている。

 何となくだけど……この前の複雑な表情の理由が、今日、やっと分かるかもしれない……そんな気がする。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 あんていくの店内に入ると、そこにいたのは芳村さんのみ。

 まだ午後の4時頃だから、いつもなら客はそれなりに居るはずだが、店の入口に“CLOSED”の看板が掛けられていたため、誰一人客がいない。他の従業員すらもいなかった。

 

「いらっしゃい。待ってたよ、タツヤ君」

 

「……失礼します」

 

 俺はカウンターの椅子に上手くよじ登って座る。

 芳村さんはカウンターの向こう側に、座っている俺と向かい合うように立つ。

 

「今日は、君に伝えたい事があって呼んだんだよ」

 

「伝えたい事……って、何ですか?」

 

「…………」

 

 芳村さんは、少し表情を曇らせた。

 暫く沈黙が続くが、芳村さんがその沈黙を破る。

 

「……ついてきなさい」

 

 芳村さんはカウンターから出て、階段の方向へ向かう。俺はそれに黙ってついていく。

 

 向かっている際、俺はその階段を見て少し驚いた。

 2階へ上がる階段がある事は知っていたが、地下へ通じる階段まであったのか。

 

 階段の奥へ進んでいくほど、どんどん肌寒くなっていく。

 恐らくこの前の共食いの件が関与していると思われるが、それでもこんな地下に連れ込む理由が分からない。

 

 共食いをするなら外へ出て、手頃な喰種を襲って喰らわなければならない。

 地下などに行って、共食いが出来るのか。いや、出来るわけが無い。

 

 色々と考えているうちに、扉の前に来た。

 この先に、疑問の答えがある。

 

(何があるんだ……?)

 

 芳村さんは扉に手をかけるが、後ろにいる俺へ振り向く。

 

「この先は……心してくれ」

 

「……? はい」

 

 芳村さんは少し暗い表情で言う。

 俺は何が何だか分かっていないが、とりあえず適当に返事をした。

 

 芳村さんは視線を再び扉に戻し、ゆっくりと扉を開いた。

 

 ……俺はこの瞬間、視界に飛び込んできた光景に、目を疑った。

 

 

 そこにあったのは、天井程まである円柱型の巨大な水槽。

 中は液体で満たされており、そして、その中にいたのは──

 

 

 

「とう……さん?」

 

 

 

 紛れも無い自分の父親、龍司だった。

 これを見た俺は、今までに無いほど混乱した。

 

 ──だめだ。何が何だか分からない。

 何でここに父さんが保管されてる? 何のために?

 

 俺は、横に立っている芳村さんに顔を向けた。

 この時は分からなかったが、激しい怒りの形相で睨みつけていたと思う。

 

「…………何ですか、これは」

 

 俺は水槽から目を離さずに、絞り出すように言った。

 思わず自分でも驚くほど低い声が出ていたが、今はそんな事はどうでもいい。

 ただ、とにかく、この目の前にある馬鹿でかい水槽の中身について、詳しい説明が欲しかった。それ以外の返答は望まない。

 

 非常に強い殺気を放っているはずなのに、芳村さんは、眉一つ動かさない。

 その反応に、ますます怒りが湧いた。

 

 そんな俺の心境を知ってか知らずか、言われた芳村さんは暫く黙ったまま、ゆっくりと目を瞑って息を吐いてから、再び開いた。

 

「だいぶ前の話だが……」

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 三人称Side

 

 

 ~3年前〜

 

 

「俺は、長生きは出来ないでしょう」

 

 龍司が突然放ったその言葉に、芳村は思わずコーヒー豆を挽く手を止めた。

 

「……急にどうしたのかな?」

 

 芳村は龍司の方を向く。

 龍司はゆっくりと口を開いた。

 

「こんな俺にも、愛する妻と息子がいます。こんな……喰種(化物)の俺に」

 

 龍司の表情に少し陰が差す。

 芳村は龍司の言葉を黙って聞いていた。もうコーヒー豆には見向きもしなかった。

 

「今がどうであれ、俺も何人もの人間を殺しました。俺のこの罪を、白鳩の連中は許してはくれません」

 

「……そうだね」

 

 芳村は龍司の言葉に静かに同意する。

 たとえ人を襲わなくても、喰種であれば無条件で白鳩に命を狙われる。

 不条理にも感じるが、それが喰種の宿命なのだ。

 龍司はつらつらと言葉を紡ぐ。

 

「もちろん、俺もタダで死ぬつもりはありません。妻と息子を置いて逝くなんて出来ませんから。でも、万が一そうなった場合は、せめて使い物にならなくなった俺を“糧”にして、俺よりも永く生き延びて欲しいんです」

 

「……君は………」

 

 龍哉の言いたい事を、ようやく理解した芳村。

 

「そういう事です、芳村さん。もし俺が死んだら──

 

 

 

俺の肉を、タツヤに喰わせて下さい」

 

 

 

 龍司は迷いの無い顔で言った。

 だが、肝心の龍哉がそれを受け入れるだろうか。

 

 答えは否、断じて否だ。

 父親の肉を喰えなんて言われて、あの子が素直に喰らおうとは絶対にしないだろう。

 芳村の表情は不安げだった。

 

「タツヤ君はどんな顔をするだろうね……」

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「そんな事が……」

 

 芳村から聞かされた話は、俺が全く知らなかった内容だった。父さんがそんな事を考えていたとは。

 

 父さんは、俺達家族を心から大事に思っていた。

 それこそ死んだとはいえ、自分の身を捧げても構わないと思えるほど。

 

 そしてその父さんは、今目の前に、この俺に喰われるためだけに保管されている。

 思わず泣きそうになったが、流れかけた涙を必死に堪える。

 

「彼は君のために、自分が君の血となり肉となることを選んだんだよ。彼が死んでから3年もの時が経ったからこそ、君にこれを打ち明けた」

 

「……そうですか」

 

 芳村さんは、父さんが死んでからあまり時が経っていないうちにこれを打ち明けてはいけないと思ったんだろう。

 俺は、芳村さんの配慮に感謝した。

 俺も、父さんが死んで傷心している時に父さんの死体を見せられるのは、耐えられないと思うからだ。

 

「……君の気持ちは重々承知しているつもりだ。あくまで判断は君に任せるが、これはリュウジ君の遺志だ。それでも辛いのであれば──」

 

 

「いえ、もう大丈夫です」

 

 俺は、首を横に振りながら言った。

 結果的に芳村さんの言葉を遮る形になったが、もうこの議論をこれ以上するのは不毛というものだ。

 何故なら──

 

 

「──答えはもう、出てますから」

 

 俺は3本の鱗赫を出して、水槽の液体の中へ突っ込む。

 そして鱗赫を器用に使って、父さんの体を引き上げた。

 それを自分の前に器用に寝かせ、自分はその場に跪いた。

 

「すみません、芳村さん。少し……一人にしてくれませんか?」

 

「……………」

 

 そう言うと芳村さんは、静かに頷き、地下室を出ていった。

 俺が何をするつもりなのか、察してくれたんだろう。

 

 バタン、と扉を閉める音が聞こえ、徐々に離れていく靴音。

 そして室内は、静寂に包まれた。

 

「父さん……」

 

 俺は目の前の父親だったもの(・・・・・・・)を見つめる。

 昔と比べて体は痩せ細り、肌も随分と白くなった。

 変わり果てた姿だが、先程まであの水槽で保存されていたため、“赫包”だけは変わっておらず、昔のまま残っている。

 

 自分の父親を食べるのは、やっぱり辛い。

 でも、喰種としての血を強めるには“共食い”しか方法が無いし、何よりこれは父さんが望んだ事だ。

 

「……いただきます」

 

 俺は父さんの体に喰いついた。

 そのまま噛みちぎり、口内で咀嚼する。

 

(ん……不味い)

 

 喰種の肉は、喰種の舌には決して合わない。

 だが、俺は止まらずに、再び体に喰いついた。

 

 どんどん飲み込んでいくうちに、俺の身体を不思議な感覚が襲った。

 

 自分の喰らった肉が、自分の血となり肉となる感じがしたのだ。

 何故だか体の奥底から力も湧いてきて、無意識に俺は大きな尾赫を展開していた。

 その色はどす黒く、先端あたりが3本に枝分かれしている。

 

「これが……共食い……」

 

 俺はそれから、夢中で目の前の肉を喰っていった。

 

 

 静かな地下室には、肉をちぎる音と、咀嚼する音、それと──鼻をすするような音が延々と響いていた。




父さんは食われました(´•ω•`)
龍哉は龍司を喰って、半赫者(?)化しました。
ここから赫者になっていくよていです。
あんていくに地下があるというご都合主義を入れてしまいました。これからも増えると思います。

次回もお楽しみに!
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