喰種を狩る喰種   作:名無しのカビゴン

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どうも、ビートマンです。
今回は、ご都合主義があります。かなりの。


もう本当に……すみませんでした!


第7喰目 崩壊

 三人称Side

 

「で、カイト君がその時……」

 

「ふふ……そうなの……」

 

 二人の親子はビニール袋を片手に、すっかり暗くなった帰り道を歩く。

 

 途中で他愛もない話をしながら、二人は楽しそうに歩いた。

 その姿は、誰の目から見ても、仲睦まじい親子であった。

 

「そうなんだよ! それでさ…………」

 

「……タツヤ?」

 

「………ん? あ、ああ、ごめん。それでユウタ君が……」

 

 しかし、表面上は穏やかに話しているが、龍哉の心境は決して穏やかではなかった。

 

 この時点で、龍哉は気づいたのだ。誰かが後を尾けていると。

 喰種の優れた嗅覚が、その存在を確認した。

 

 そして後ろにいる謎の人物が、喰種(・・)であるという事も。

 

 ヤツが二人を追いかけてやろうとしている事など、容易に想像がついた。

 

(ヤツが何をしようと……母さんだけは傷つけさせない……)

 

「た……タツヤ? 本当にどうしたの? 凄く怖い顔よ?」

 

「あ、な、何でもないよ母さ……ッ!?」

 

 ごまかそうとした龍哉だったが、後ろから濃密な殺気を感じ、言葉を詰まらせる。

 

(……上か!)

 

 頭上から感じる殺気の方向を見上げると、月明かりに照らされて光る、尖った鉱石のような物がこちらに飛んでくるのが見えた。

 

「ッ!? 母さん危ないッ!!」

 

「きゃッ!!」

 

 咄嗟に美希を突き飛ばす龍哉。

 先程まで美希と龍哉が立っていた場所には、例の鉱石が大量に突き刺さっていた。

 

(羽赫……!)

 

「お〜、よく躱ちまちたねェ〜僕……ッとォ!」

 

 突き刺さっている物の正体が羽赫である事を確認したと同時に、ビルの屋上からふざけた声が聞こえる。

 それと同時に屋上から落ちてくる、一人の人間。

 

 それは道路に大きな亀裂を作り、破壊音を立てながら着地する。

 

 驚く龍哉達の前に飛び込んできたのは、顔の至る所に切り傷の痕がある白髪の男。

 

 男は龍哉に向けて、馬鹿にしたような口調で話しかける。

 

「なぁ僕〜、俺様コクリアから出たばっかで腹減ってんだよなァ。だからさ──」

 

 白髪の男は――右手の人差し指を親指で曲げ、パキ、と音を鳴らした。

 

 

「──その女寄越せ」

 

「ッ! 逃げるぞ母さん!!」

 

 美希を守りながら戦うのは分が悪いと感じた龍哉は、逃げ回って撒くことを考えた。

 

「あり? 逃げるのォ?」

 

 一目散に逃げ出した龍哉達に呆気に取られながらも、男は口調を変えないまま後を追いかける。

 

「ハァ……ハァ……何なんだよ畜生……!」

 

 龍哉は、追いかけてくる男から、美希と共にひたすら逃げる。

 

 白髪の男は、龍哉と美希をひたすら追う。

 

「アッハッハッハッハ!! ほらほら! 頑張って走りなァ!」

 

 追跡者は、両の赤黒い瞳を獰猛に光らせ、狂喜の笑みを浮かべながら獲物を追いかけ回す。

 どうやらわざと遅く走って楽しんでいるようだ。

 

「タツヤ! もっと目立たない所に逃げましょう!」

 

「うん!」

 

 龍哉はビルの間の路地裏に逃げ込む。

 月明かりに照らされない所なら、逃げ切れると思ったのだ。

 

「あれェ? ど〜こ行ったァ〜? な〜んてね」

 

 ──だが、龍哉と美希は失念していた。彼らを追いかけているのは人間ではない。喰種だ。

 喰種の嗅覚は人間の数倍優れていると言われている。

 たとえ暗がりに逃げようとも──

 

 

人間(エモノ)の匂いでバレバレなんだよォ! バァァ〜カがッ!!」

 

 このように匂いをたどられて見つかってしまう。

 

「チィ……ッ!」

 

「もう遅ェ……よッ!」

 

 追跡者は、ビルの壁に思い切り蹴りを入れた。

 すると、ビルの壁にはみるみるヒビが入り、やがて壊れ始める。

 

 轟音を立てて崩れていくビルの瓦礫は、路地裏の入口を塞いでいった。これでは逃げられない。

 

「さ〜てと、もう逃げられねェぜ? さっさとその女をこっちに寄越しな。俺様はテメェには興味ねェんだよ。大人しく渡すなら、命だけは助けてやるぜ」

 

Never(断るッ)!!」

 

 龍哉が英語を喋るのはだいたい戦っている時だ。

 腹を括った龍哉は瞳を赫眼に変え、甲赫を展開した。

 

「へぇ……やっぱ隻眼だったか」

 

 追跡者は、珍しいものを見るかのような顔をしている。

 

「タツヤ……」

 

 後ろの美希が、今にも泣きそうな顔で龍哉を見る。

 龍哉は、美希を出来るだけ安心させるように、肩に手を置きながら微笑んだ。

 

「大丈夫だよ母さん、俺は死なない……すぐ戻るよ」

 

 優しい声音で告げた後、すぐに後ろを向いて飛び出していった。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 龍哉Side

 

 甲赫を展開した俺は、目の前の敵を睨みつける。

 

「ヤる気なんだ? 助けてやるって言ってんのにさァ。この“黒鷹”サマに勝つつもりでいんの?」

 

Of course(当然だ)……!!」

 

 俺は大きく叫んで、自分自身を鼓舞する。

 

 それを聞いて、ニヤリと笑んだ白髪の男、もとい“黒鷹”は、左手の親指で人差し指を鳴らしながら、その名前の由来にもなった赫子を展開する。

 

 非常に巨大で、まるで鳥類の翼のようなその羽赫につける“黒鷹”という形容は、まさに言い得て妙であった。

 

「俺様とヤルなんて、いい度胸だねェ……生意気なクソガキがァァァァァッ!!」

 

 黒鷹は笑顔を浮かべたかと思うと突然怒鳴り声を上げ、羽赫の射撃をし始めた。

 

「はッ!」

 

 俺は母さんの前に庇うように立ち、甲赫で羽赫を全て弾く。

 だが、黒鷹の攻撃は止まらない。

 

「まだまだ行くぜェ!」

 

 黒鷹は、更に射撃を激しくさせる。先程の射撃が可愛く見える程だ。

 

「くッ……!」

 

 俺は羽赫の攻撃を弾き続ける。先程からそれの繰り返しだ。完全に防戦一方であった。

 そしてこの時俺は、一種の苛立ちを覚えていた。

 

(戦いにくい……ッ!)

 

 そう、戦闘が非常にしにくいのだ。

 俺が本気で黒鷹(アイツ)と戦うならば、俺も伊達に芳村さんに鍛え上げられた訳じゃない。勝てるかどうかは分からないが、少しは上手く立ち回れる。

 

 しかし、今回だけは違う。今回は、俺の後ろに母さんがいるのだ。

 

 人間の肉体は喰種と違って弱いから、喰種の攻撃を少しでも喰らえば致命傷になる。

 だから、母さんがいる時点で、すでに俺に“避ける”という選択肢はない。

 

 ムカつく事に、黒鷹(ヤツ)も、俺が躱したらちょうど母さんに当たるように射撃をしてくる。

 

 だから、今の俺は母さんの側から離れて攻撃する事はおろか、射撃を躱すことも出来ない。

 

「随分とヤリにくそうだなァ〜? 可哀想になァ!」

 

「ッ……! 調子に乗んなッ!!」

 

 人をおちょくったような笑みを浮かべながらも、ビルの壁を飛び回る生き生きとした戦闘を繰り広げる黒鷹。

 

 その笑顔と、何より自分と比べると非常に戦いやすそうなのが無性に腹が立つ。

 

(甲赫じゃ駄目か……)

 

 甲赫で応戦していては、母さんを守ることは出来ても黒鷹(ヤツ)を倒すことはできない。

 俺は甲赫をしまい、代わりに羽赫を展開した。

 

 俺の羽赫は黒鷹と比べるとまだ小さく、恐らく黒鷹(ヤツ)よりも先に体力切れするだろう。

 だが、ビルの壁などをフル活用している黒鷹(ヤツ)に攻撃を当てるには、甲赫じゃ無理だ。

 羽赫で遠距離から射撃するしか、勝つ方法は無い。

 

「アッハッハッハッハ! マジか! 羽赫も持ってんのかよ!!」

 

 俺がハイブリッドだった事を知り、驚くどころか笑い出す黒鷹。

 そして、右手の人差し指をパキ、と鳴らしながら、その笑みを更に深める。

 

 

「楽しめそうだぜ……!」

 

 

 俺は、黒鷹が笑っているのを見て驚く。

 

 普通、相手がハイブリッドである場合、戦闘は格段にやりにくくなる。攻撃の選択肢が減るからだ。

 

 俺が羽赫を持っている時点で、黒鷹の“壁を駆けながら遠距離から射撃する”という選択肢は消えた。

 

 戦局を逆転されかねない状況だというのに、あろう事か黒鷹(ヤツ)は、この不利な状況を愉しんでいる。

 

 

 この状況を……愉しんで……

 

 

 

(殺し合いを愉しむ……?)

 

 それは俺の初めての経験だった。生きるか死ぬかの瀬戸際を愉しむなんて、今まで考えた事もない。

 

 言うなれば黒鷹(ヤツ)は、“戦闘狂”なのだ。三度の飯より戦いが好きで、戦うことを何よりの悦びとする。

 

 俺がそんな人種に会ったのは、これが初めてだった。

 

「命を何だと思ってんだよ、クソがッ!!」

 

 俺は黒鷹(ヤツ)に向けての羽赫の射撃を、更に強めた。

 黒鷹は地上に降りてそれを躱しながら、笑顔で答える。

 

「人生は刺激があるから楽しいんだぜ! 刺激が欲しいんだよ俺様はッ!! 強烈な刺激がなァァッ!!」

 

 黒鷹は俺の羽赫に自分の羽赫で応戦しながら叫ぶ。

 その顔には、愉悦の表情がありありと浮かんでおり、心から戦闘を楽しんでいることが分かる。

 

Take THIS(喰らいな)!!」

 

「効かねェよ!」

 

 俺は羽赫で射撃するが、黒鷹はいとも簡単にそれを弾いてしまう。そして、黒鷹は射撃を返す──

 

 

 

 ──ことはなく、俺の懐に踏み込んできた。

 

「なっ!?」

 

 今まで頑なに接近戦を仕掛けて来なかった黒鷹が、突然予想外の行動に出た事により、俺の反応は遅れる。

 

「ていくでぃす、ってかァ!?」

 

 黒鷹は俺の腹に向けて、渾身のボディーブローを放つ。

 

 黒鷹の拳は、俺の鳩尾に深々と突き刺さった。

 

「ぐうッ!?」

 

 俺は、肺の中の空気が全て吐き出されるような感覚を覚えた。

 視界が歪み、突発的に襲ってくる猛烈な吐き気。

 物事の判断が正常にできない。何が何だか分からない。

 

 この状況で走馬灯のように流れてきたのは、芳村さんの言葉。

 

 

『戦う時は、相手の考えを読むことが必要なんだ。相手が何をしてくるかを読んで、何をしてきても対応出来るようにしておかなくてはいけないよ』

 

 

(教え……守れてねぇじゃんか……)

 

「すっ飛びな!!」

 

 黒鷹は、羽赫を甲赫のように硬くする。

 俺は、これを知っている。芳村さんがよく訓練の時に使っていた。

 だが、俺の体は反応しない。先程の鳩尾への衝撃が強すぎた。

 

 迫り来る腕。その腕に、今の俺はなす術もなかった。

 

「ぐああああああああァッ!!」

 

 黒鷹の羽赫は俺の体を深く斬り裂き、壁まで吹き飛ばした。

 

 

 ドゴオオオオオォォォン!!

 

 

 俺は壁に轟音を立てながら激突し、姿が見えなくなる程の粉塵が舞った。

 

 

 ──痛い。

 

 先程のボディブローが何でもないように思えるほど痛い。

 

 斬られた所から血が吹き出し、熱くした鉄を押し付けられているような痛みを感じる。

 

 俺の体はどこを見ても真っ赤だった。

 

 崩れたビルの瓦礫の先から、微かに声が聞こえる。

 

「さて……やっとメシにありつけるぜ……」

 

「ひッ……!?」

 

 霞む視界の中、瓦礫の隙間から見えたのは、パキ、と人差し指を鳴らして、恍惚の表情を浮かべる黒鷹と、それを怯えきった顔で見ている母さん。

 

 あえてゆっくりと歩いて母さんを追い詰める黒鷹と、腰を抜かして座ったまま後ずさりする母さん。

 

 

 ──ああ、母さん、今から喰われるんだ。

 

 

 一切動く事が出来ない俺に向けて、黒鷹は言い放った。

 

 

「悪ィなガキィ、テメェの母さん食っちまうぜ? 俺様の事は恨むなよな──

 

 

 弱いテメェが悪いんだよ」

 

「ッ──」

 

 

 ──そうか。俺が弱いからか。

 

 

 あれから俺は、ひたすら力を求めてきた。

 

 

 力を手に入れる為なら何でもやってきた。

 

 

 ……それなのに、俺は勝てない。

 

 

 黒鷹(ヤツ)相手に、手も足も出なかった。

 

 

 結局、あの日から俺は変わってない。

 

 

 結局、俺は奪われる側(弱者)だったんだ。

 

 

 また……失うのか?

 

 

 大切なもの(家族)を……目の前で。

 

 

 

 ──嫌だ

 

 

 

 やめてくれ

 

 

 

 それ(家族)を失ったら俺は──

 

 

「そんじゃ、おいしくいただくぜ?」

 

 

 ──ドスッ

 

 

 俺の思いとは裏腹に、腰を抜かしている母さんの腹に、黒鷹の腕が深々と突き刺さった。

 

「か……はっ……」

 

 途端、目を見開き、血反吐を吐く母さん。

 瞳には浮かんでいるのは涙と、恐怖。

 

 

 

 目の前で失うのか?

 

 

 あの日に命に代えても守ると誓ったのに

 

 

 指を咥えて見ているだけか?

 

 

 

 

 

 

 ──ふざけんな

 

 

 

 俺が弱いからだ。俺が弱いせいで、母さんを護れなかった。相手じゃない、俺が悪い。

 

 

 

 弱さは罪だ。あの日から俺は、結局何一つ変わらないままだった。

 

 

 

 力が欲しい。護ル為の、失わナい為のチカらガ。マダ足りナイ。モっト もットちカラヲ もットモッとヨこセ

 

 

 

 ヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセ──

 

 

 

 

 ──カア サンハ オ レガ マモル

 

 

 

 

 

 

 世界が、紅く染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称Side

 

 

 ドオオオオオオォォォン!!!

 

 

 

「ア゙ア゙アアアアアアアァァァァッ!!!」

 

 

 

 目の前の人間(食事)の腹を貫いた刹那、突然上がる叫び声。

 

 同時に、積み上げられていた瓦礫が一気に吹き飛ばされ、黒鷹の目の前に、大きな瓦礫が飛び込んでくる。

 

「おらッ!」

 

 黒鷹は、瓦礫を蹴りで粉砕する。

 怪訝そうな表情をしながら、砂埃で見えにくい、先程まで瓦礫が積まれてあった場所を凝視する。

 

 煙の中にいる存在を見て、黒鷹は突然笑った。

 が、その笑顔に普段の余裕は見られない。

 心なしか、冷や汗もかいている。

 

「ハハッ……オイオイ……」

 

 腹に風穴が空いている美希も、気が遠のくのを必死にこらえながら、薄目を開けて、砂埃を見る。

 

 煙はみるみるうちに晴れていき、そこにいるシルエットが浮かび上がってきた。

 

 完全に煙が晴れるかと思った矢先、煙の中から何かが飛び出してきた。

 

「危ねッ!」

 

 黒鷹は身を翻し、飛んできたモノを全て躱す。

 飛んできたモノは、そのままビルの壁に刺さる。

 

「羽赫……か」

 

 飛んできたのは、紛れもなく羽赫であった。

 黒鷹は、羽赫が飛んできた方向を見つめると、じっとりと背中をつたう冷や汗を感じながらも笑みを浮かべた。

 

「お〜お〜……随分と姿が変わったじゃねェか……」

 

 煙が晴れ、シルエットの正体が現れる。

 

 そこにいたのは、まさしく化物。

 

 肩からは羽赫、両の肩甲骨からは甲赫、腰からは計8本に及ぶ鱗赫、尾てい骨からは巨大な尾赫。

 

 全ての赫子が黒ずんだ色をしており、何とも禍々しい姿をしていた。

 

 顔には奇妙な形の仮面が生え、仮面には赤黒い目がついていた。

 

 仮面から見える顔から辛うじて判断できる。

 

 あれは、龍哉だ。

 

「半赫者……しかも赫子を全て持ってるたァ、さすがに驚いたぜ。おい、あれがアンタの息子だぜ?」

 

 美希は、信じられないものを見るかのような目で龍哉を見る。

 

「タ……ツヤ……?」

 

 美希は龍哉を見た後、そのまま気絶してしまった。

 それは深い傷を受けた故か、それとも……息子の変わり果てた姿を見た衝撃からか。

 

 気絶した美希には目もくれず、黒鷹は羽赫を展開し、戦闘に備えた。

 

「ヒヘッ ヒヘヘヘヘヘヘ クロォイ トリサァン」

 

 龍哉は首をゴキリ、と曲げて音を鳴らす。

 父親の癖を見事に受け継いでいた。

 

「イィッパァイ アソボウネェェェェェッ!!」

 

 龍哉は黒鷹に羽赫を射ちながら突っ込んできた。

 黒鷹に接近戦を挑むつもりだ。

 

「っと、こりゃマズイな……!」

 

 黒鷹は応戦せず、後ろに跳躍して龍哉と距離をとる。

 赫子が羽赫だけである黒鷹にとって、羽赫だけでなく、甲赫、鱗赫、尾赫をそれぞれ持っている龍哉と、接近戦をするのは分が悪すぎる。

 

 接近戦を仕掛けるために更に距離を詰めてくるかと思ったが、龍哉は近づいてこない。

 

(攻めてこない……?)

 

 龍哉は黒鷹には目もくれず、その場で体をくねらせた。

 

「斬ッテ刺シテ千切ッテ抉ッテ捻ジッテ焼イテ潰シテバラバラニコマカクシテカラ喰ベテ喰ベテタベテタベテタベテタベテタベテ  テ テ ベテ ベテ  タベテ イヒ イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ オイシイオイシイナァ」

 

 龍哉は狂気の笑みを浮かべている。

 

 黒鷹は笑みを浮かべたが、少し引き攣っているようにも見える。

 

「……理性がブッ飛んだか」

 

 世間一般から見れば決して正常とは言えない黒鷹でさえ、龍哉の姿を見て顔をしかめる。

 

 半赫者はその力を使う際、喰種としての力を制御しきれずに、理性を失い、暴走する傾向にあるという。

 

 龍哉は半赫者として覚醒しているが、まだ完全な赫者になった訳ではない。

 今の龍哉は、力が暴走し、錯乱している状態だ。

 

「……いいぜ、来いよ。愉しけりゃ問題ねェ」

 

 黒鷹は、慣れた手つきで人差し指を押してパキ、と鳴らす。

 龍哉はそんな彼に応えるように、一歩を踏み込んだ。

 

「ヒャァァァァッ!!」

 

 奇声をあげながら、黒鷹に肉薄する龍哉。

 8本の鱗赫が、複数の槍となって黒鷹に襲いかかる。

 

「アッハッハッハ!! いい攻撃じゃねェか!!」

 

 黒鷹は、愉しそうに笑いながら、鱗赫の連撃を躱す。

 迫り来る死の恐怖。しかしそれは、黒鷹を更に高揚させた。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャ  シネ シネェ  シネシネシネシネシンジャエヨォォォォォォッ!!」

 

「死んでたまるかよ……やっとアイツ(・・・)から解放されたんだからよォ!!」

 

 黒鷹の言う“アイツ”が誰であるかは定かではない。

 黒鷹は以前コクリアに入っていた事があるらしいので、そこにいた誰かであろう。

 

 だが、そんな黒鷹の言葉とは裏腹に、龍哉の攻撃は徐々に激しさを増していく。

 

「クソが……ッ!」

 

 全ての赫子を持っている龍哉は、当然全ての赫子に対応出来る。

 いわば、龍哉には弱点がないのだ。

 

 

 つまり──黒鷹が今の龍哉に勝てる要素は、無いに等しい。

 

 

「ぐあッ!?」

 

 龍哉の鱗赫の一つが、攻撃を捌き切れなくなった黒鷹の腹を貫く。

 

「ヤサシィク シテアゲルヨォ」

 

 龍哉は、狂ったように高笑いを上げながら、鱗赫に続けて、羽赫、甲赫、尾赫を、全て黒鷹目がけて叩き込む。

 

「がアァァァァァァァァァ!?」

 

 全身をバラバラにされたような強烈な痛みが走る。

 羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫と、次々に襲いかかってくる赫子達。

 

「斬ッテ刺シテ千切ッテ抉ッテ潰シテシテシテシテシテシテシテシテシテ」

 

 龍哉の怒涛の攻撃により、砂埃が巻き起こる。

 砂埃の外からは、愉しそうな龍哉の声と、コンクリートが粉砕されるような音、それと、ブチブチと肉の繊維を切っているような音。

 

 砂埃が晴れると、そこにいたのは、 無様な姿で倒れている黒鷹と、立ったままそれを見下ろす龍哉。

 

「が……ぐ……う……」

 

 腕や足は捥げ、腹には巨大な穴、胸や背中には深く斬られたような爪状の痕に、鉱石のような物が突き刺さっている。

 何度も傷つけられた黒鷹の体は、もう限界を超えていた。

 

「さっきの言葉……そっくりアンタに、返しておくよ……」

 

 満身創痍だが、体の赫子が消え、暴走状態が解けた龍哉が、首を左右に曲げて、小気味よい音を鳴らす。表情はまさに鬼の形相だ。

 黒鷹は反応する気力もない。

 

「──恨むなら、弱い自分を恨むんだな」

 

 龍哉は、先程言われた言葉を言い返した。

 言い返された黒鷹は、倒れたまま一切動かない。

 

 死んでいるのか、と龍哉は思ったが、黒鷹はぴく、と少しだけ身じろぎした。

 すると、黒鷹の口から、微かに声が聞こえてきた。

 

「……き……きゅう……ひゃ……く……きゅう……じゅう……さん……きゅ……う……ひゃ……くはち……じゅ……うろ……く……」

 

 黒鷹は突然涙を流しながら、何かを呟き始めた。

 

 よく聞くと、黒鷹は何故か1000から7ずつ引いていく計算を延々としていた。

 

 龍哉はその計算に何の意味があるのか気になったが、それよりも、黒鷹の表情の方が気になった。

 

 顔は涙にぬれ、歯は食いしばり、顔はずっと引き攣っている。

 

 飄々としていた黒鷹が何故そんな表情をしているのか。龍哉は少し知りたくなったが……

 

「……どうでもいい。どうせお前は──ここで死ぬんだ」

 

 

 龍哉は、足を上げ、狙いを黒鷹の頭に定め──そのまま、思い切り踏み潰した。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 黒鷹を倒した龍哉は、路地裏のビルの隙間から覗く月を見上げながら、怒りと不甲斐なさから息を荒らげる。

 満月が、龍哉の体を照らした。

 

 ふと顔を上から横に動かすと、腹から血を流しながら、気絶して倒れたままの美希の姿が。

 

「あ……ああ……」

 

 変わり果てた母親を見て、か細い息を漏らす龍哉。

 そのまま焦点の合っていない目で、愛する母親の元へ向かおうと、足を動かす。

 

「母さ……ぐっ!?」

 

 が、足を動かした直後、体から力が抜けるような感覚を覚えた。

 歩きだそうとしていた龍哉は、気がつけばその場に座り込んでいた。

 

 龍哉は、四種類全ての赫子を使った。

 それは凄まじく強力だが、それだけ消耗も著しい。

 

 龍哉の意識が徐々に遠のいていく。

 

 薄れゆく視界の中、目の前には倒れている美希の姿が。

 

「かあ、さん……ごめん……おれ……」

 

 龍哉の気力は遂に限界を迎え、沈んでいく意識に逆らうことは出来なくなった。

 

 

「タツヤくん……」

 

 

 ──龍哉が闇に落ちる寸前、聞き覚えのある誰かの悲愴を帯びた声が、聞こえた気がした。

 




なっげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

ホントすみませんでした!
計画性の欠片もありません!!

今回出てきた黒鷹が実はコクリアに収監されていて、人差し指パキ、の人に拷問されたという都合のいい話です……。

どうやって外に出れたかとか、時間の流れとかは、出来るだけ気にしないでくださいお願いします(必死)

DMCのセリフを何個か引用させていただきました。
分かる人には分かる。

タツヤは半赫者に覚醒しました。原作が始まる頃には、完全な赫者になる予定です。

更新がマジで遅いですが、どうか待っていて欲しいです。

感想やアドバイスなど、遠慮せずお送りください。それが作者のやる気に繋がります(笑)
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