ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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お久しぶりです。投稿の間については、もう何も言わねえでくだせえ……


第52話 杞憂

「諸君、楽しんでくれているようで何よりだ」

 

 

大広間に一人の男の声が響く。クラウドたち来客や舞踏の曲の演奏者たち全員が一斉に視線を声の方に向けた。その先では金髪の男神――アポロンが両手を仰ぎながら立っている。

 

 

「宴の最中に悪いのだが、今日はある者に物言いをしたい」

 

 

薄く笑みを浮かべるアポロンはゆっくりと視線をヘスティアに向ける。

 

 

「やあ、ヘスティア。先日は私の子が世話になったな」

 

 

「ああ、ボクの方こそ」

 

 

名指しされたヘスティア。先日、というのは焔蜂亭でアポロン・ファミリアと喧嘩をした日のことだろう。

ヘスティアは怪訝そうに返事をした。

 

 

「私の子に危害を加えたのは君の子だろう? 代償を支払ってもらおうか」

 

 

予想はしていた。が、こんな公の場で言われるとは思わなかったのか、ヘスティアの眼が驚きで見開かれる。

そして、激怒とともに反論する。

 

 

「い、言いがかりだ! 大体、ボクの子だって怪我をしたんだ、そっちにだって非があるだろう!」

 

 

「だが、私の子の方が重い傷を負ったことは間違いない。このルアンの無残な姿を見るがいい」

 

 

アポロンが芝居がかった素振りで天を仰ぎ、嘆いているさまを演出する。

それと同時にアポロンの従者が二人がかりで何かを運んでくる。モゾモゾと動いている包帯に巻かれたそれは、どうやら生き物のようだ。一見すると木乃伊(ミイラ)に見えるが、ルアンという名からして焔蜂亭で陰口を叩いていたアポロン・ファミリアの小人族の男だろう。

 

 

「痛えよお、あいつらにやられた傷が治ってねえせいだぁ~」

 

 

そこまで包帯が必要になるほど痛めつけた覚えはない。どう考えても大げさな惨状としか言いようがない。

 

 

「べ、ベル君。まさかと思うけど本当にここまで……」

 

 

「いやいやいや、してませんよ!」

 

 

「待てよ、アポロン」

 

 

流石に見ていられないと、クラウドが話に入る。このままベルとヘスティアに任せていたら事態が悪い方向に行くと判断したからだ。

 

 

「何かな、銀の銃弾(シルバー・ブレット)。私の言葉に何か間違いでもあったかい?」

 

 

「ああ、あるぜ。お前の意見に押し切られるわけにはいかないからな」

 

 

「ちょ、ちょっとクーちゃん」

 

 

いつの間にか横にいたレイシアが慌てて止めに入るが、クラウドは彼女との間に手を挟んで制する。

 

 

「言わせてくれ」

 

 

「う、うん……」

 

 

「それで、一体何だと言うのかな。私にそこまで無礼な口を利くところを見ると、よほど自信があるようだが」

 

 

「無礼? ああ、無礼ね……」

 

 

一瞬理解に苦しんだが、すぐに得心が行く。神には敬語を使うのが一般的だったか。信心深さとは無縁のクラウドにとって、神を敬意の対象と認識することが不自然過ぎたのだ。

 

 

「そりゃあ無礼にもなるだろうな。嘘をつくような神様に対しては(、、、、、、、、、、、、、、)

 

 

「嘘?」

 

 

「そこの、ルアンとか言ったか。そいつはあの日一発蹴られただけだ。それも、当たり所が悪かったわけじゃない。早く解いてやれよ、包帯の無駄だ」

 

 

ザワザワと会場がざわめく。アポロンやクラウドに対する疑念の声が飛び交う中、アポロンと彼の側に控えている何人かは不敵な笑みを浮かべたまま此方を見つめている。

 

――余裕のつもりか、悲愛(ファルス)

 

 

「ほう、だがな銀の銃弾(シルバー・ブレット)。彼らの証言とは合致しないようだが……それはどう説明する?」

 

 

「……何?」

 

 

彼らとは誰だ。そう返す前にアポロンがパチンと指を鳴らし、ぞろぞろと死角から現れた人々が彼の左右を固める。

 

 

「騒動があった日、その場にいた者達を集めたのだ。彼らから聞いたぞ、ルアンが全身を手酷く痛めつけられ、血塗れにされたと」

 

 

「……ああ、そうかよ」

 

 

その場にいた証人たちとやらは低劣な薄ら笑いを隠しきれていない。予め店にいた人間に手を回していたのか、偽の証人を捏造したのか、それは定かではない。

確実なのは、虚偽の証言でこちらを反論を潰しに来た、ということだ。

 

 

「待ちなさい、アポロン」

 

 

クラウドが眉間に皺を寄せてアポロンを睨んでいると、凛とした女性の声が別の方から飛んでくる。

右目の黒い眼帯と燃えるような赤い頭髪、神特有の整った顔立ち。確かヴェルフの所属しているファミリアの主神、ヘファイストスだ。

 

 

「あなたの子に最初に手を出したのはうちの子でしょう? 流石にヘスティアにだけ責任を求めるのはおかしいんじゃない?」

 

 

アポロンはヘファイストスの横槍に一瞬怯んだが、すぐに平静を取り戻した。やれやれと両手を仰いでいる始末だ。もはや意に介していない。

 

 

「ああ、ヘファイストス。美しい友情だ。しかし悲しいかな、そのことについても裏が取れている。君の子がルアンに危害を加えるよう指示したのはヘスティアの子だ。彼らに聞いてみるかね?」

 

 

再びアポロンは用意していた(、、、、、、)証人たちに問いかける。予想通り、全員がアポロンの言葉を肯定する。

 

 

「さあヘスティア、この件についてどう落とし前をつけるつもりかな? まさか、しらばっくれるのではあるまいな?」

 

 

「そんなの誰が認めるかぁ! くだらない、ボクたちは帰らせてもらうぞ!」

 

 

ヘスティアがくるりと踵を返し、ベルとクラウドの手を引いて会場を去ろうとする。が、それを「…ならば仕方ない」とアポロンは引き止める。

クラウドは首を回してアポロンに向き直る。その男神の顔はお世辞にも神には似つかわしくない。醜悪で、見苦しい笑顔だ。

 

 

「ヘスティア、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』をしようじゃないか」

 

 

「「「!?」」」

 

 

ヘスティア、ベル、クラウドは揃って目を見開き、驚愕する。

 

――『戦争遊戯(ウォーゲーム)』と言ったのか、こいつは。

 

クラウドは歯噛みして先程よりも怒りを込めた表情でアポロンを睨む。戦争遊戯(ウォーゲーム)とはファミリア同士が規定を定めて行われる戦いのことだ。神が行う盤上の遊戯を卷族たちが戦争として代行する、代理戦争。

勝てば相手のファミリアの人材、資金、所有物を根こそぎ奪い取ることができる。逆に負ければ奪い取られる。ましてや、相手は中堅のアポロン・ファミリア。ベルとクラウドしか団員のいないヘスティア・ファミリアからすれば多勢に無勢。

会場にいる神々の多くは色めきだって騒ぎ立てている。娯楽や珍しいもの好きの神々にとっては格好の餌だろう。

 

 

「我々が勝利した暁には……その二人、ベル・クラネルとクラウド・レインをもらう」

 

 

アポロンの指先がベル、クラウドの順に向けられ、その度に口元が歪められ、嫌悪感が走った。

 

 

「駄目だろうヘスティア……そんな可愛い子を、しかも二人も侍らせるなんて……」

 

 

隣のベルの顔色を窺う。青ざめ、寒気に震えている。無理もない。

クラウドはこの感覚を知っている。あの美の女神、フレイヤに『見られる』ときにも似たような感覚を味わっているのだ。全身を舐めまわし、品定めするかのような視線。気持ち悪く、気味が悪い。

 

 

「誰が聞くか、色ボケその2」

 

 

「色ボケ? 心外だな、私は多くの者を愛しているだけだ。少年も、少女も、我が子も、他神(よそ)の子も。

魅力的な姿をしている者には、相応しい神が必要――つまり、私だ」

 

 

「そりゃあどうも。だけど、お前に見初められてもこちとら全く嬉しくないんでね」

 

 

「安心していい、そう言えるのも今の内だ」

 

 

そうか。この神は、この男は、愛らしいものや美しいものに目がない。装具店に並んでいる気に入ったアクセサリーを買うために手を尽くしている、みたいな感覚なのだろう。

 

何だろう、俺は女運だけじゃなく男運まで悪いのか。主に神の。

 

アポロンがこの舞踏会を開いた目的はこれだ。公の場で、しかも多くの神々が揃っている状態で戦争遊戯(ウォーゲーム)の宣言などすればこちらが断るのが難しいと踏んだのだ。

 

 

「それで、どうする? 君の答えを聞こうか、ヘスティア」

 

 

「お断りだ、ボクたちが受ける義理はない!」

 

 

ヘスティアは真っ向からアポロンの提案を拒否する。それもそうだ。虚偽の証言でこちらが戦犯扱いされ、その上ファミリア解散のリスクを孕んだ戦争遊戯(ウォーゲーム)に応じるなど冗談じゃない。

 

 

「この話はナシだ、帰らせてもらうぜ。行こう、二人とも」

 

 

「は、はい」

 

 

「……ああ」

 

 

ヘスティアはもう一度二人の手を引いて、怒り心頭といった様子で会場から出ていく。そこで、クラウドはある視線に気づく。

アポロンではない。フレイヤでも、他の神でもない。一人のヒューマンの少女が去り行くクラウドを目で追いかけているのだ。

 

 

「……レイ」

 

 

「……く……そ、その」

 

 

レイシアはクラウドを呼び止めようとしているが、躊躇っているせいで中々言葉になっていない。クラウドは数秒考えた後、ヘスティアとベルを先に帰らせ、レイシアを会場の入り口辺りまで連れてきた。

 

 

「どうした、俺に何か言いたいことでもあるのか?」

 

 

月夜の薄闇の下で見る彼女は何時にも増して美しかった。青白い髪と白い肌が月明かりに照らされ、さながらどこぞの姫のようにも見えた。尤も、その顔に浮かべているのは微笑みではなく憂いだが。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「一応聞くが、何に対してだ」

 

 

「クーちゃんのこと、罠に嵌めるようなことしちゃったから」

 

 

「そうか。あの日、焔蜂亭で俺たちに因縁をつけて喧嘩に持ち込んだのも計画の内だったのか?」

 

 

「……そう、だよ」

 

 

薄々感づいてはいたが、レイシアは最初から関わっていたのだ。それでも一縷の望みに掛けてしまったのは、彼女が元団員で、幼馴染だからだろう。

 

 

「ごめん、本当に。軽蔑するよね、こんな私のこと……」

 

 

「軽蔑するかどうかはともかく、嬉しくはないな。それに……」

 

 

「それに……?」

 

 

「聞きたくもなかった」

 

 

「……っ!」

 

 

レイシアが顔を背けて苦々しく唇を噛む。お互いに言いたくもないことをぶつけ合う、それに彼女は明らかに耐えられていないのだ。だが、クラウドは少し安心もしていた。

 

 

「だけど、お前が本心では納得してないことくらいはわかる。お前がやらなくても、ヒュアキントスたちが計画を実行してただろうからな」

 

 

「それでも、だよ。私がこの計画に協力したのは事実なんだから」

 

 

「……そうか」

 

 

レイシアは背けていた顔を戻す。そこには決意と、僅かな戸惑いが見えた。

 

 

「お願いがあるの」

 

 

「何だ」

 

 

「今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の代価、大人しく受けてほしい」

 

 

「……は?」

 

 

突然のお願い。しかも突拍子のない、非現実的なものだ。クラウドとしても怪しげな気持ちでレイシアに「意味が分からない」と返してしまう。

 

 

「誤解しないでほしいんだけど、何も戦争遊戯を受理して戦ってほしいわけじゃないんだよ。

むしろ逆。すぐにでもクーちゃんとベル君にアポロン・ファミリアへ改宗(コンバーション)して、事態を丸く収めてほしいんだ」

 

 

「俺たちに裏切れって言うのか? ヘスティアを」

 

 

改宗。ファミリアの移籍のために、現在所属しているファミリアの主神の恩恵を他の神のものへと書き換える行為。かつてクラウドもロキ・ファミリアから脱退する際にも経験した。

クラウドにはこの提案は承服しかねる。中堅以上のファミリアなら一人二人抜けた程度でそこまで支障はないが、ヘスティア・ファミリアはクラウドとベルの二人しかいない。それはつまり、ファミリアの崩壊とほぼ同義だ。

何より、クラウドはヘスティアに借りがあるし、恩義も感じている。特別な理由もないのに改宗など考えられない。

 

 

「裏切るわけじゃないよ。むしろ、ヘスティア様のためにもなる。

考えて。もしこのままクーちゃんたちが戦争遊戯に負けたとして、二人が移籍してお終いなんて思う? アポロン様が残ったファミリアの資金を奪ったり、ヘスティア様を追放する可能性も十分考えられる。それが最悪の終わり方なんだよ?」

 

 

「戦争遊戯をすれば俺たちが負けるとでも?」

 

 

「負ける、負けるよ、絶対に。勝てるわけない。確かにベル君はLv.2でクーちゃんに至ってはLv.5。でも、数では私たちが圧倒的に有利だし、ヒュアキントスだっている。二人で捌ける戦力じゃないよ」

 

 

「だったら何だ。今のうちにアポロン・ファミリアに寝返って、あの変態に媚びを売れば戦争遊戯が起こらずに、ヘスティアも俺たちも路頭に迷わずに済む、そう言いたいのか?」

 

 

「それしか、ないよ。でも大丈夫、アポロン・ファミリアに移籍したら、私が出来るだけ待遇が良くなるようにアポロン様やヒュアキントスに取り計らうから。だから……」

 

 

そんなことで「よかった」なんて思えるわけがあるか。全員が辛い思いをすることに変わりはない。

 

 

「悪いな、レイ。お前なりに最善の策を考えたんだと思うが、断らせてもらう」

 

 

「でも、戦争遊戯が始まったら……」

 

 

「さっきヘスティアが言ってたろ。俺たちは戦争遊戯を受ける気はない。ヘスティア・ファミリアを脱退するつもりもない。今回の話はこれで終わりだ」

 

 

多少強引だが、これでいい。アポロンとて戦争遊戯もなしにあんな要求を通すことはできない。そもそも、奴の用意した証言も証人もでっち上げのものだ。後でアポロンの言い分を突き崩す証拠を掴んでしまえば奴も強く出ることはないはず。

 

――なるべく早く、済ませなければ。

 

クラウドは一言別れの挨拶を告げて、レイシアと別れた。レイシアの表情が深く曇っていたのは……ただの杞憂だと思いたい。




だいぶ原作を削ったなー、とは思ってます、はい。それでもこれって……オリジナルの会話が半分くらいあるせいか(遠い目)

あ、ところでダンまちの二期と劇場版が決定しましたね。楽しみに待ってます。

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