水音の乙女   作:RightWorld

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また12月12日12時12分投稿を狙ってしまいました。(^^;

2017/6/24
誤字修正しました。
報告感謝です。 >(ΦωΦ)さん

2019/12/31
体裁修正しました。






第10話:海のネウロイ その3

 

 

最初の攻撃から3日目の早朝、生き残った扶桑貨物船がシンガポールに入港した。

 

貨物船の乗組員達は、ホッとする間も無く扶桑とブリタニア軍にただちに軟禁状態のようにされ、尋問が始まった。ブリタニア側の調査指揮官は空軍のバーン大尉である。

 

しかし船長や同乗していた海軍士官の話はともかく、甲板員たちの証言は尾ひれが付きまくって、もはや海の怪物が現れる海洋冒険物語のようで、襲ってきたのが本当にネウロイなのか判断できなかった。なにしろ海にネウロイである。聞く方も9分9厘疑いをもって聞いているというのもある。

 

暫くして、救助されたインドシナやシャムロ船の乗組員の目撃情報、襲ってきた怪物の想像図なども届き始め、扶桑貨物船の船長達の証言と一致する部分が再評価された。

 

チャンギ港に置かれた調査隊の臨時事務所で、テーブルの上に並べられた資料を精査していたバーン大尉が、喉を詰まらせるようにして呟いた。

 

「こ、これは、もしかして……」

 

 

 

 

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セレター空軍基地。

 

シンガポールの雨季は扶桑の梅雨のように1日中しとしとと雨が降るのではなく、頻繁にスコールが降っては晴れるというのを繰り返す。ただ、一度のスコールで降る雨量は相当なもので、風も吹いて、まるで一時的に台風でもやってきたかのようになるときもある。

 

今しがたスコールが止んだ基地では、滑走路に大きな水溜りがいくつもできて、周辺の草地からやってきたカエルが飛び込んで泳いでいる。

バーン大尉がチャンギ港へ調査に出向しているおかげで羽を伸ばしていたシィーニーは、格納庫の日陰で整備兵達と雑談しながらよく冷えた椰子の実ジュースを啜っていた。

 

「軍曹、グラディエーター MK.Ⅱ準備できましたぜ。飛ばないんですか?」

「どうせグラディエーターじゃん。はぁ~、単葉機飛ばしたいなあ。どうせ燃料もケチられてるんだし、バーン大尉が戻ってからでいいよぉ~」

 

ふと見ると、目の前に並ぶ整備兵達が指をかじって青い顔をしていた。

 

「どしたの?」

 

背後からゴツンとシィーニーの頭に無慈悲な拳が落とされた。

 

「いたあ~!」

 

振り返るとそれは、あと2,3日は帰ってこないと思われたバーン大尉だった。

 

「すぐ飛べ。出力アップしたマークⅡをなめるな」

「は、はひぃ!」

 

発進準備しようとみんなが散らばろうとしたが、大尉が止めた。

 

「いや待て、シィーニー軍曹は司令部へ」

「イ、イエッサ~」

 

頭を撫でながらシィーニーは、バーン大尉の後について司令部の建物へ歩いていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

いつものブリーフィングルームに着くと、基地司令のスミス大佐が来るのを待って、バーン大尉はブリーフケースを開けた。

 

「まずシィーニー軍曹に見てもらいたいのはこれだ」

 

ブリーフケースから出されて、テーブルの上に置かれた何か絵が描かれた紙。

 

「見たまえ」と促され、シィーニーはテーブルに歩み寄る。

 

「失礼します」

 

と拾い上げたシィーニーに、

 

「どこかで見たことないか?」

 

とシガレットに火を点けながらバーン大尉が言った。

それを見たシィーニーは、いまだ手に持っていた椰子の実に刺していたストローをポロリと落として叫んだ。

 

「これ、こないだ迎撃しにいったネウロイが海に落っことしたヤツじゃないですか!」

 

涙滴型の細長い爆弾のような形。上部前寄りにあるクジラの鼻をもっと大きくしたようなコブ。船とのサイズ比較から導かれた全長はおよそ90m。スタッキングネウロイの下半分にそっくりだった。

 

紙には

『シャムロ湾潜水型ネウロイ想像図』

と書かれてあった。

 

 

 

 

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翌日、ブリタニア シンガポール基地正式発表。

『シャムロ湾で相次いだ商船沈没事件は、未知の潜水型ネウロイによるものと断定する』

 

シンガポール基地が下した調査結果に世界が震撼した。

 

「初の海洋対応型ネウロイ?! しかも潜水型かもしれない!」

 

いつかは水に対応したネウロイが現れるかもしれないと言われていたが、いきなり難易度のめちゃめちゃ高いのが現れた!

 

 

 

 

扶桑のシンガポール根拠地隊にも本国から問い合わせが殺到した。

 

≪ブリタニアが言ってたのは本当か? うちの貨物船を襲ったのもそのネウロイなのかね!≫

 

「貨物船にたまたま乗り込んでいた我が海軍士官もネウロイだったと言っております。しかも雷撃してきたそうです。ブリタニアのウィッチが、そのネウロイを海に投下するところを見たとも言っております」

 

≪いったいどれくらいいるんだ?≫

 

「ブリタニアによると3匹は確実と」

 

 

 

 

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ブリタニアのシンガポール基地も蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。シィーニーのところに欧州からスカウトどころか尋問官のようなのが次々とやってきたのだ。

 

ブリタニアの他、有力な海軍を持っているカールスラント、リベリオン、ガリア、扶桑、そしてベネツィアからもやってきて、それぞれがちょっと聞いては本国へ連絡し、本国の指示を受けてはまた尋問しというのを繰り返したため、各国の時差の関係で24時間対応する羽目になった。

 

げっそりやつれたシィーニーがゆっくりベッドで寝られたのは4日後だった。

 

「バーン大尉、しばらく面会謝絶でお願いします……」

「やむを得んな。ただし24時間だ。そしてスクランブルにも対応しろ」

「鬼……」

 

シィーニーは抵抗する気力もなくベッドに沈没した。

 

 

 

 

その間にも被害の拡大は続いていた。

シャムロ湾での船舶の被害は日増しに増え続け、そしてとうとうインドシナ沿岸を航行する扶桑、インド、ビルマの船までが行方不明になった。ビルマの船の残骸がサイゴン沖で発見され、その傷は明らかに雷撃によるものだった。ネウロイは、シャムロ湾から南シナ海に出たのだ。

 

被害海域がインドシナにも広がったことで、インドシナ沖を通過しようとする船には待ったがかけられた。

 

東南アジア圏の海上物流、そして欧州支援ルートのうち、扶桑からの支援物資が滞ろうとしていた。

 

 

 




第3話でシィーニーちゃんが取り逃がしたネウロイの、海に落っことされた下半分が、どうやらシャムロ湾であばれている潜水型ネウロイらしい、という話でした。
ウィッチ達の登場場面はほぼなしの、状況を形作る話が続いておりますが、天音ちゃんが呼ばれるための舞台作りですので、退屈かもしれませんがしばらくお付き合いください。退屈という時点で小説としてはまずいと思いますが・・・。

脅威はシャムロ湾からサイゴン沖へと拡大していきました。サイゴンは現ベトナムの南の方にあるホーチミン市の旧名です。ベトナム戦争時、米軍が支援した南ベトナムの首都。
第2次大戦ではフランス降伏とヴィシーフランス政権樹立に伴って日本軍が対米英開戦前から進駐していましたが、ストライクウィッチーズの扶桑はそういった領土的野心がないことになっていたと思うので、ここではガリア降伏後も現地との貿易を強化するにとどまって、軍隊は進出させていません。

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