水音の乙女   作:RightWorld

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2018/10/8
誤字修正しました。
報告感謝です。 >朝区洋邦さん



第103話「これも427空」

「こちらキョクアジサシ、攻撃針路乗った! あと推定1000m!」

 

≪キョクアジサシ、こちらウミネコ。潜水型ネウロイは速度2ノットで東へ移動中だから、心もち右に修正して≫

 

「こんなもん?」

 

≪それでいいよ。あ、1隻向きを変えました。……キョクアジサシの方に頭向けてる。撃ってくるかもって、魚雷発射!≫

 

「気付かれた?! でもこっちは水上艦じゃないもんね。離水します!」

 

零式水偵脚が海上から浮き上がる。探照灯に照らされた海面下を魚雷の白い航跡が2本通過すると、優奈はにやりと笑った。

 

「へっへー、残念でした」

 

≪こちらウミネコ。離水しちゃったから誘導できないよ。離水地点からネウロイまでは690mでした≫

 

「了解!」

 

計器を見ながら予想地点に着くと、翼下の3番2号爆弾2発を切り離す。海面に描かれた爆弾が落ちた跡の丸い円が後ろに取り残されていく。と、直ちに天音から続報が入る。

 

≪こちらウミネコ。ネウロイが急にバラバラに散りました。爆弾が落ちたのを見て逃げたみたい。それぞれ針路は110、040、010≫

 

「え?! ど、どこ?!」

 

≪キョクアジサシの位置が分からないから誘導できないよ。あ~、3隻とも爆弾を回避≫

 

ドドッと爆発による水柱が立ち上がる。

 

≪3隻とも瞬間移動使いました。ネウロイに被害なし≫

 

「なんですって?! またあたしだけ戦果なし?!」

 

扶桑出港からかれこれ5ヶ月以上経つが、優奈はまだ潜水型ネウロイを単独撃破できてないらしい。

 

≪まだあと2発残ってるんでしょ?≫

 

「だけど爆弾投下と同時に回避するってなによ!」

 

≪こちらリベリオン海軍のジェシカ・ブッシュ少尉です。ネウロイは海上の様子を目視できるみたいです。サーチライトの明かり使って見られてるかもしれません≫

 

「そうなの? なら消すまでよ!」

 

優奈は再び着水すると、探照灯を消した。漆黒の闇に包まれ、左右も上下も分からなくなり、閉塞感のような恐怖が湧いてくる。が、押し殺した。なにしろ水面に降りてさえいれば天音には10km先でも優奈がばっちり見えるのだ。

 

「ウミネコ、こちらキョクアジサシ。着水したわ。誘導できるわね? お願い」

 

≪キョクアジサシの位置確認。えっと、それじゃあ040に向かったのへ誘導するね。左45度変針≫

 

水偵脚のコンパスを見ながら左に舵を切る。

 

≪潜水型ネウロイの速度は10ノット。距離140m≫

 

「こっちは20ノットで追うわ」

 

速度を上げて接近すると

 

≪ネウロイが左急旋回し始めたよ。キョクアジサシに追われてるのに気付いたみたい≫

 

「そっか。水上にいる船とかは探知できるんだもんね。探信儀か聴音機みたいな機能があるんだわ」

 

≪速度落として。左5度、あと20m≫

 

「いいえ、このまま一気に決めるわ!」

 

左へ修正すると、速度そのままで一気に間合いを詰めた。

 

「くらいなさい!」

 

残り2発を切り離す。爆弾が炸裂し、暗闇に轟音が響くとともに爆風が後ろから吹き抜けた。煽られつつもなんとかバランスを維持し、天音に問いかける。

 

「戦果確認!」

 

≪ネウロイを飛び越した先で爆発。やっぱ速度落とした方がよかったんじゃない? ネウロイは艦首側を損傷、だけど致命傷ではないみたい≫

 

「損傷したんならじきに浮上してくるわね。止め刺してやるわ!」

 

潜水型ネウロイは被害を受けると水中ではどんどん傷が深くなるようで、自己修復の為浮上することが多い。やはり水に弱いネウロイの特質は根本的には残っているのだ。

優奈は探照灯を灯して浮上してくるネウロイを待ち受ける。

 

「どう?!」

 

≪うーん、ネウロイ頑張るね。《ザッ》速度15ノットに上げて潜航状態《ザッ》逃げます。針路西に変針≫

 

「馬鹿じゃないの? そのまま水中にいても壊れていくだけなんでしょ? 早く浮上しなさい!」

 

≪浮上すれば攻撃受《ザッ》るから、どっちがいいか考えて《ザッ》じゃない?≫

 

「ならあたしに撃沈カウント貢ぐためにも浮上しかないでしょ!」

 

≪《ザッ》そろ無線が届かなく《ザッ》よ。戻った《ザッ》がいいよ≫

 

「それでもウミネコには見えてるんでしょう?」

 

≪そうだけど、無線通じな《ザッ》ると誘導でき《ザッ》いよ?≫

 

優奈が歯ぎしりして悔しさをにじませる。

 

「え~~~~~、初戦果がぁ~~~!」

 

≪キョ《ザッ》《ザッ》シ、も《ザッ》《ザッ》戻れ≫

 

途切れ途切れになりながら葉山少尉の帰還命令が届いた。音声は雑音だらけになり、そろそろ本当に無線通信はやばそうだ。

 

「くーー、了解! キョクアジサシ戻ります! ウミネコ、探知の限界までこのネウロイ見張っててよね! 沈没したらあたしの撃沈カウントだからね!」

 

≪《ザッ》《ザッ》《ザザーーッ》≫

 

もはや返事は声にならず雑音だけとなった。仕方なく優菜は来た方角へ引き返した。

 

なおこの潜水型ネウロイはずっと水中を移動し続け、天音の探知の外へと逃げていった。

そして結局は天音の探知範囲の外で力尽き、水中で光の粒と化したのだが、それを見届けることは誰もできなかったので、優奈に単独撃沈カウントが付くことはなかったのである。

 

 

 


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