水音の乙女   作:RightWorld

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第124話「離脱」

 

「全機離脱せよ!」

 

ウィラの掛け声で3機は降下する。暗雲はどんどん吹き飛んで上の方からなくなっていっている。代わりに白い霧や雲がもわもわと発生してきていた。

 

「雲をうまく使って逃げろ!」

 

ウィラは大きく成長中の雲へ向け旋回した。上空から降下してくる秋山もその雲を目指した。

少し離れたところのレアは近くの小さな雲に入る。だが5番目のネウロイに続き、気象制御を諦めた別のネウロイ2機も追撃に加わり、ビームの雨が何本も雲に突き刺さるとビームの熱で雲が蒸発した。

 

「やべえ!」

 

レアの姿が露になる。咄嗟にシールドを張るが、3機から波状攻撃され、その衝撃でピンポンゲームの玉のように左右に弾かれまくる。

 

「んな、くそったれ!」

 

バシィッ!!

 

でんぐり返し状態で上に飛ばされたところでマイティラットにビームが当たって手から弾かれた。

くるくる回転して飛んだマイティラットはレアから10mほど離れたところでさらにビームを受けて爆発した。弾頭ではなくロケットの推進材が爆発したものだったが、四散したロケットポッドの破片がレアを襲い、F4U(コルセア)にいつくも突き刺さる。

 

「くそっ、油圧が落ちていく! こちらナドー、被弾した!」

 

左のユニットからシャアーッと白い霧状のものが吹き出し尾を引く。

 

オイル?! いや、これは! やべえ!

 

近くを通ったビームの熱で白い霧が発火した。航空燃料。ガソリンだった。火が空中を伝って一瞬にして左のユニットが火だるまになる。

 

 

 

 

被弾の無線を聞いた秋山は、雲を出たところでレアのF4U(コルセア)から火が出るのを目撃した。

 

「きゃああ! レアさーん!!」

 

秋山はレアの所に行こうと反転して上昇しようとする。が、魔法力を注ぎ込もうとしたところで急に倦怠感に襲われた。

 

「まずい、魔法力が!」

 

魔法力強制注入機が急激な魔法力低下を感知し、リミッターが働いたのだ。蒼莱は全く上昇しようとしなくなった。

 

「ああ、このタイミングで!」

 

大量の魔法力を必要とする蒼莱は強制的に魔力を吸い取る仕組みを持つが、一定以下に魔法力が落ちると帰還する魔力を残すためその仕組みを止める安全機構を持っている。これが働き出すと高空での上昇は不可能になる。

 

「ホワイト中尉、レアさんが! 私魔法力が落ちてしまって蒼莱を上昇させられなくなってしまいました!」

「わかった、私が行く!」

 

ウィラのF4U(コルセア)が雲から飛び出し、レアの位置を確認するとスロットルを一杯に入れる。

 

「ナドー少尉、火の着いたストライカーを強制排出しろ!」

 

 

 

 

言われるまでもなくレアは、パニックになることなく冷静に手順を践んでいた。

まず魔法力操作でストライカーユニットの自動消化装置を動かす。が、自動消化装置は働かなかった。次に緊急停止を試みる。これもだめだ。魔法力操作盤が壊れたようで全く操作できない。炎でストライカーユニットはどんどん温度を上げており、入れている足は猛烈な熱で焼かれ始めている。

 

「あとは外の強制排出装置か!」

 

足を入れるところのすぐ横にある手を引っかけるような穴に左手の指を突っ込み、掴んだ。既にそこも炎で炙られてすごい温度になっていた。手がじゅうっと焼ける音がし、たんぱく質の焦げる臭いがした。

 

「でやああ!」

 

レアはそれでも構わず手を差し込んだところを引っ張った。この状況では熱さなど感じなかった。握った部分がバクッと手前に開くとバシュウと空気が抜けるような音がして、ボンと左のストライカーユニットが勢いをもって足から発射されたように飛んだ。遠ざかるストライカーユニットにネウロイのビームが次々と注がれ、一発が命中すると爆発した。

残った片方のユニットだけでふらふらと落ちていくレアをなおもネウロイが追いかける。

 

「しつこいんだよ、おまえら!」

 

レアとネウロイの間にウィラが割って入った。マイティラットから3発のロケット弾が発射され、1発をネウロイが撃ち落とすが1発が本体に命中する。ネウロイは三分の二が吹き飛び、割れ目からコアの光が漏れるが別のネウロイが前に出てきてビームを放ち、ウィラは回避を余儀なくされる。

2機がウィラを狙う間に、もう1機は執拗にレアを追っていった。レアは薄い煙を吹きながら秋山と同じ高さまで落ちてきた。

 

「レアさん! このお、ネウロイのバカあ!」

 

秋山が怒り心頭に達したとき、瞬間的に魔法力のレベルが上がりリミッターが解除された。とたんにブワァァっとエンジンが唸り蒼莱が急加速する。秋山は30mm機関砲を構え、ネウロイに向けて連射した。次々と当たる徹甲弾、炸裂弾にネウロイがみるみる削り取られ、コアをも吹っ飛ばした。

パァンと破裂し白い花火のようにネウロイが飛び散るのをバックに、レアは煙を吹きながら眼下にまだ残る暗雲の中に落ちていった。

 

「うう、レア……さん」

 

一瞬奇跡的に上がった魔法力によって再稼働した魔法力強制注入機が、逆に尽きかけていた魔力を吸いつくし、秋山もまた意識を失って暗雲の中へと落ちていった。

 

 

 


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