誤字修正しました。
報告感謝です。 >KJAさん
「イオナさん、風が出てきました」
今まで湿気た空気が澱んでいるだけだった暗雲の中に、時折ふうっと生暖かい風が髪をたなびかせるようになった。
「と言うことは、秋山さん達が気象制御ネウロイをやっつけたって事ですよね?」
天音は嬉しそうな顔をイオナに向けた。
「少なくとも気象制御に支障が出る事態まで追い詰めたことにはなるかな」
「やったぁ。あとは帰ってくるだけですね」
「気を緩めないで。どんな形で決着を着けたかわからない。全てを落とすのは無理なんだから、追いかけて来てる可能性もある。水上の見張りは怠らないで」
「はい。可能な限り遠くまで見張っています。……みんな無事に潜水艦か、卜部さんか、千里さん達の所に降りてきますように」
拝むように手をスリスリする。
自力で飛べるなら、今あげた暗雲の外で待機している人達の所に行くはずだ。天音の所に現れる時は、何がしかがうまくいかなかった可能性が高いのである。
風はますます強いのが吹いてくるようになった。黒い粒子が掻き乱されて、手元の明かりさえもちらちらと揺れる。気象制御が崩壊したのは間違いなかった。
ふと、天音の探信波が遠くの水上にボチャンと勢いよく突っ込んできたものを捉えた。
「ええ?!」
思わず大声をあげる天音。
「どうした?」
イオナが首を傾げる。
「えっ? ちょ、ちょっとその。えっ、そ、そんなはずないですよね?」
その慌てぶりにイオナは察した。
「捉えたままのことを教えて。方位はどっち?」
「ひ、東の方角、10800m」
イオナの晴嵐のエンジンが回転を上げた。
「行こう。天音は引き続き詳しく調べて」
まだ暗雲で暗い水上を晴嵐が波をあげて進み出した。
「わっ、待ってください! イオナさん何があったか分かったんですか?」
「何かが落ちてきたんではなくて?」
「そ、そうなんです!」
慌てて追う天音。イオナは真っ暗な闇の中を突き進んでいく。魔法力消費が大きいから探照灯は持ってきてないというのに何の躊躇いもないのだ。
「正確な方位は?」
「えと、097です」
「途中に障害になるようなものは?」
「水上、水中ともありません」
「分かった。速度上げるよ」
イオナは少し針路を修正する。勘で走っているのではないのは明らかだった。計器飛行に慣れてるのだ。
2機は出せる限りのスピードで水上滑走していった。
「何が落ちたかわかる?」
「少し待ってください。指向性探査モード」
向かっていく方向に広がらない魔法の波がいくつも発射される。むむむっと天音は首を捻った。
「じっとしたまま浮いてます。なんとなくヒトデみたいな形で……人ってこんな形だっけ? ウィッチならストライカーユニット履いてるから大きな足が2本あるはずだし……」
嫌な予感がしてきた。
「もしかして撃たれてもう人の形してないんじゃ……」
急に不安になった顔をイオナに向ける。
「片方のストライカーユニットが脱げてるとか」
「ストライカーユニットが脱げてる? ……ああ、成る程! そういう事ですね」
天音はパアッと晴れ渡った笑顔になった。
「ふんふん成る程。この1本大きいのがストライカーユニットで、そうするとこれが頭、これとこれが手だ。イオナさんさすがです! それじゃ仰向けかうつ伏せで浮いてる感じですね」
そこまで言ってまたさーっと血の気が引く。
「う、うつ伏せだったらまずいですね。動かないでじっとしてるってのも」
心配でたまらない顔に戻る。片手を胸の前に持っていって祈るように拳を握った。
イオナは振り向いてそんな天音を見る。そして言った。
「それにしても10キロメートル以上先の海に落ちた人間を発見して、その状態まで把握できるなんて、君の固有魔法には本当に驚かされる。昼間だって1キロ先に浮かぶ人をボートの上から見つけるのは難しい。それをこのうねる海、かつ暗闇でやってのけるんだから。レーダー搭載の飛行機でもそんなことできない」
しかもあまりにも正確に分かりすぎて、それがかえって不安材料にまでなってる。だがそれだけ見る能力があっても、そばに行くまで本当の事は分からないのだ。
「だけど天音。こんなに早く駆け付けられるというのは、やっぱり君の固有魔法のおかげだ。早ければ早いほど助ける上では有利になる。これが今私達にできるベストの行動だ。あとは祈ろう」
「は……はい。あの、飛びますか? その方がもっと早く着きますけど」
「それは止めよう。うねりが大きくなってきてるし、この闇だ。探照灯もないし、着水に失敗したら元も子もない。私も自信がない」
「卜部さんや勝田さんならできるのかな……」
「あの人達の世代はそんな無茶をやったって言われてるけど、本当かどうか分からない」
「イオナさん、魔法障壁着水法はやったことないんですか?」
「魔法障壁……シールドで海を静まらせて着水するとかっていうの? あれ噂話ではなくて?」
「わたしと優奈は、それを勝田さんから教えてもらって練習中なんです。でもまだまだ上手くできなくて」
「本当にある技なの?」
「本当です。勝田さんもシールドが弱まっちゃったから昔のようにはできなくなったみたいですけど、少し波頭が立つくらいの海で見せてくれました。マスターできれば少々時化ててもアヒルの池なしで降りられると思います」
「そう……。私達もまだまだベストではないということか」
「卜部さん、勝田さんの名人芸を、優奈とわたしで受け継ぐつもりなんです」
「ほう。それはとてもいいと思う。扶桑海事変の無理がたたってあの世代は引退が早かったから、昔の実戦を経験した水上脚使いはほとんど残っていない。失われないようぜひ受け継いでほしい。そんな大先輩と一緒の部隊で戦えるなんて君はラッキーだと思うよ」
「まだずっと水上ストライカー使うなら、イオナさんも習いに来ればいいんですよ。巡洋艦『最上』の西條さんはその為に来てるんですから」
「西條中尉……そうだったのか。最上がドック入りして暇だから、君の瑞雲の指導のために神川丸に乗ってるんだと思ってた」
「えへへ、それもありますけどね」
「水上機母艦がなくなって軽空母に取って代わられても、伊401と水上機は残ると思ってる。私も水上ストライカーをやめる気はない。でもあの2人とはペースが合わなそうな気がするから、西條中尉か君達から教わることにするよ」
「そんな。イオナさんに何かを教えるなんて、恐れ多くて気が引けちゃうな」
「既にリベリオンウィッチの弟子達を抱えてる君が何を言ってるの」
「ジェシカちゃん達は弟子じゃないですよぉ。その前に勝田さんの技をちゃんと習得できるかの方が心配だわ」
「期待してる。そろそろどう?」
「はい、あと1000m。まだ動かずに浮いたままです」
イオナはストライカーユニット備え付けの着陸灯を前方に向けて照らした。
「まだ見えない。なのに探す手間がないというのは凄い。その分早く救助できるのだから必ず助ける。待っていろ」
「あっ! イオナさん、動いた! 動きました! 生きてます!」
その時、ピカッと前方から光がこちらを指した。くるくると光が回っている。
「あそこだ。本当に真正面」
ご無沙汰しております。書いてますよ、ゆっくりゆ~っくりと。
もう変更しなさそうなのでぼちぼちできてるところアップします。