震電のエンジンが止まってしまった芳佳を連れてウィラと坂本美緒の零式水観が船団の方へ引き返すと、入れ替わってジェシカが飛んできた。
「秋山さん!」
「ジェシカ少尉」
「急ぎましょう!」
ジェシカが秋山の横を通過する。秋山も蒼莱をくるりと反転させてジェシカを追った。
ジェシカのずんぐりしたアヴェンジャー雷撃脚は爆弾倉に爆雷を満載した上に、マイティラットまで担いできているから、見るからに重そう。速度も遅いし動きも鈍い。秋山は大きな30mm機関砲と予備弾装を持っていてもパワーの有り余る蒼莱はすぐに追いついた。
『こんな鈍重なストライカーユニット、空戦やったらすぐやられちゃいそう』
戦闘機の群れがいるところにこれで行くのはやだなあと思っていると、
「秋山さん!」
ジェシカが叫んだ。
「どうしました?」
「空戦始まってます!」
ジェシカが指さす前方を見ると、
「飛行型ネウロイの数、増えてないですか?!」
ジェシカが見たときは12機ほどだったが、今はその倍はいる。インカムに現場の緊張したやり取りが届いてきた。
≪飛行型ネウロイは戦闘機隊が引き受ける。雷撃機隊は左から迂回しろ!≫
≪雷撃機隊了解≫
≪ウィッチは雷撃機隊の護衛をせよ≫
≪カツオドリ了解≫
≪シィーニー了解です!≫
「秋山さんも行って!」
「で、でもジェシカ少尉は? 護衛なしでは……」
「ウィッチじゃない雷撃機隊こそ護衛が必要です。それにあっちは巨大ネウロイへ向かうけど、私は潜水型ネウロイが相手だから奥まで行かないので」
「そ、そうなんですね。分かりました。それじゃ私、先へ行きます」
秋山は蒼莱を一気に加速させた。ロケットのようにすっ飛んでいく秋山がみるみる小さくなる。
「ひゃあ、戦闘脚って凄いわあ」
◇◇◇
≪縦の動きで戦ってはだめだ! 旋回力はワイルドキャットの方が勝ってるぞ! 格闘戦に持ち込め!≫
≪横から攻撃しろ! 奴ら横視界が悪いみたいだ!≫
ライバルの零戦ほどではないにしろ、欧州の高速機に比べ翼面荷重の低い
そんな中、目移りしたネウロイが4機、
≪4機がそっちへ行った! ウィッチ頼む!≫
「カツオドリ、了解。シィーニー軍曹、旋回性能を生かしての格闘戦がいいらしい」
「そういうのグラディエーターは得意です」
「二式水戦も得意だ。行こう」
「了解! 雷撃機隊は直進してください!」
ウィッチ2人はひらりとロールを切って雷撃機の編隊を離れ、Hの形をした飛行型ネウロイの方へ向かった。
「右から叩く」
「了解。わたしあぶれたのをやります」
千里は右へ旋回した。間合いを見計らって続いて左へ向きを変え、敵の左後ろから襲いかかる。一番端のネウロイはまるで見えてなかったかように避けることもなく20mm弾をくらい、爆散した。千里がネウロイの編隊を左から右へ抜けると、怒った3機がビームを撃ちまくりながら千里を追いかける。千里は左旋回で躱しに行った。二式水戦の方が旋回半径が小さく、回っているうちに千里がネウロイの後ろに追いついてくる。真後ろまで待たず先程と同じような左斜め後方になった時点で見越し射撃を開始した。曳航弾を見ながら修正していくと数発が命中し、とたんに編隊から弾き飛ばされるようにくるくる錐揉みして明後日の方に飛ぶと爆発した。
残った2機は慌てて反対へ旋回して逃げる。それに並ぶようにウィッチが1機ピタリと付いて行った。シィーニーのグラディエーターだ。飛行型ネウロイのH型を形作っている横のパネルがこっちを向いている。
「撃ってくれと言わんばかりの的のようなパネルですね」
複雑に方向を変えるネウロイにぴったりくっついて行き、その大きなパネルにマイティラットの照準を合わせる。
「それが丈夫な盾だとしても、大型ネウロイを吹っ飛ばせるロケット弾を防げますかね。それ!」
直進性の悪いロケット弾でも外れない距離から1発を発射した。パネルは盾になるどころかロケット弾は突き破ってしまい、機体本体に直撃して爆発した。潜水型ネウロイでさえ撃沈できる魔法力込みの弾頭だ。大空に閃光と巨大な爆煙が起こり、隣の飛行型ネウロイも巻き込んで2機同時撃墜となった。その音と衝撃波に空域の全機が一度は目を向けたほどだ。
「軍曹お見事」
「このネウロイ、真横は全く見えてないみたいです。あの横の大きなパネルかえって邪魔ななんじゃないですかね?」
その時、雷撃機隊から切羽詰まった大声が無線に入ってきた。
≪編隊後方、水面すれすれからネウロイが接近中!≫
「え?!」
シィーニーが慌てて振り向く。H型の飛行型ネウロイ2機が水上に衝撃波で白い線を引いて雷撃機隊に追いすがっていた。
シィーニーは急いでグラディエーターを反転させるが、ネウロイの方が明らかに近い。
「やっば、いつの間に!」
慌ててマイティラットを構える。
「とどいてーっ!」
間欠発射で3発を放った。だが遠いほどにどこへ行くかわからないロケット弾。大型ネウロイや広範囲に散らばった目標ならともかく、小型が2機程度では掠りもせず関係ないところに大きな火柱を上げただけだった。脅しにもならない。
「そんなぁ!」
千里も全速力で追うが、雷撃機隊が一撃食らうのはまぬがれそうになかった。
その時、ネウロイの回りにいきなり盛大に何本もの水柱が立ち上り、飛沫でネウロイが見えなくなった。一瞬後、水柱の中で火炎が上がり、銀色の破片をばら蒔いてネウロイが爆発した。そこを轟音と共に抜き去って上昇する新たなウィッチ!
「秋山曹長!」
ネウロイを襲ったのは蒼莱の30mm機関砲弾の雨だったのだ。
「間に合ったあー!」