水音の乙女   作:RightWorld

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第144話「伝え行く魔眼の技(1)」

 

 

頭上で空戦が描く飛行機雲が幾筋も交差する中、水上航行する潜水型ネウロイが速度をあげた。その先には巨大ネウロイを砲撃するため接近中の駆逐艦2隻と伊401がいる。駆逐艦達を迎え撃つつもりだ。

 

「こちらミミズク。潜水型ネウロイが速度を上げて北上中。速度25ノット。駆逐艦を狙ってるぞ! ブッシュ少尉、デラニー少尉、水上にいるうちに片っ端から沈めてしまえ!」

 

卜部操縦の零式水偵から対潜戦闘の指揮を執る葉山が無線で激を飛ばすと、ジェシカから元気な応答が返る。

 

≪了解! マイティラットお見舞いしてやるわ!≫

 

潜水型ネウロイの正面で滞空する零式水偵の横に、燃料補給を終えて追ってきた坂本美緒の零式水観が並んだ。

 

「リベリオンの対潜ウィッチか。お手並み拝見だ」

 

葉山が横に並んだ零式水観の操縦席に目を凝らす。操縦席に見えるのは黒髪の女性士官だ。

 

「貴女は?」

「私は501統合戦闘航空団の坂本美緒少佐だ」

「501! 坂本!? あ、あの伝説の?! はっ、し、失礼しました! 私は427空の葉山少尉であります!」

「427空? 水上機母艦神川丸のか? もしかして操縦者は卜部か勝田か?」

「うぉーい、勝田だよ」

 

勝田が通信員席で両手を降る。

 

「おっはー」

 

卜部は不機嫌そうにそっぽ向いたまま片手だけひらひらさせる。

 

「やっぱりそうか! はっはっは、超久しぶりだな! いつぞやかは世話になった」

「はて、世話した覚えはないがな」

 

ぶっきらぼうに卜部が言う。

 

「私は直接はなかったが、仲間は随分助けられたぞ」

「何でこんなところにいるの? 欧州から一時帰国する途中?」

 

勝田がいつものように階級を無視した口調で問いかける。

 

「なに、補給船がなかなか来ないからこっちから取りに来ただけの事さ」

「ヘーヘー悪うござんしたね。私ら凡飛行兵の出来が悪いから欧州に荷物が届かなくて」

 

ひねくれ者のように受け答える卜部。

 

「その原因たる海のネウロイは欧州では未経験だ。どれ程の奴なのか見させてもらうよ。もう少し近付いてみる」

「私らの邪魔すんなよー」

「ああ、気を付ける」

 

零式水観は卜部機を追い越して、数キロ先に見える潜水型ネウロイと思われる低いシルエットへ向けジェシカ達を追っていった。

 

「随分偉くなったもんだ」

「さ、流石は卜部さん。お知り合いなんですね!」

 

葉山が上ずった声で聞く。

 

「超久しぶりって、扶桑海事変以来だぜ」

「あっちはその後欧州に行っちゃったからね~」

「勝田さん達にはお声掛からなかったんですか?」

「欧州に水偵脚なんかの居場所はないよ」

「まあ陸での戦いばっかだもんね」

「そういやそうですね」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

前方のジェシカとジョデルが左右に別れ速度を上げた。楔形隊形を取っているネウロイの先頭に向けてジェシカが襲いかかる。

ロケット弾3発を発射し、うち2発が命中して先頭のネウロイが吹き飛んだ。それを見た他のネウロイが急速潜行する。水上に引かれていた白い航跡が一斉に消え、何もない海だけとなる。

遠巻きに見ていた美緒は、実物を見て改めて驚いていた。

 

「水上を行くネウロイ。そして水中へ潜るネウロイ。本当に海にまでネウロイは進出したんだな」

 

聞いていたとはいえ、実物を見るのはやはり衝撃的だ。伝わってくる危機感も半端でない。

潜ってしまったネウロイはもはや空からも見えない。今すぐそこにいたのにだ。いるとわかっていても見えない。それはむしろ後ろから来る、ここにいると主張しまくっている巨大ネウロイより脅威だった。

 

「潜水型ネウロイ、厄介だな。欧州にもこんなのが現れたら大変なことになるぞ」

 

そこへ海の深くから白い筋がいくつも浮いてきて駆逐艦の戦隊の方へ伸びていった。

 

魚雷だ!

 

美緒は零式水観をロールさせ降下する。

 

「そして見えないところから突然の攻撃か! これを空母や戦艦、輸送船が受けるのか。恐ろしくて艦船は迂闊に海に出られなくなる。もし海上封鎖されたらブリタニア、いや欧州大陸の全ての国々が戦う力を削がれてしまう!」

 

魚雷へ向け降下するが、攻撃手段がない。機銃を撃っても弾丸は水中を進まないだろう。

 

「南下中の駆逐艦へ。魚雷8本が向かってる。私の位置がわかるか? 魚雷針路は355だ。回避しろ!」

 

≪こちらUSSトラーゼン。情報感謝する! 戦隊取舵!≫

≪待ってください!≫

 

そこへ幼い少女の声が割って入ってきた。

 

≪こちらウミネコ。魚雷第2波が左方向に向かって来てます! 面舵で逃げてください。回避針路は260!≫

 

「何だって?!」

 

美緒は右へ旋回し、第1波魚雷の東側を注視する。

 

「ほう」

 

注意深く見れば深いところを僅かに白い線を引いて何本かが突き進んでいくのがかろうじて見えた。恐らくもっと接近した頃に海面近くまで上がってくるのだろう。これでは船の上から航跡で魚雷を見つけることはできない。

 

≪パッシブソナー魚雷推進音探知! しかし本艦の針路変更不要です≫

≪エヴァソール魚雷回避成功!≫

≪助かった。さすが水音の乙女だ≫

 

「そうか、今のが扶桑の対潜ウィッチ。醇子が見つけた娘か」

 

天音のウィッチとしての才能と固有魔法『水中探信』の価値を見出したのは美緒の親友、竹井醇子である。

リベリオンの対潜ウィッチも負けてはいない。

 

≪ジョディ、右翼のネウロイ任せるよ!≫

≪了解!≫

 

一見何も見えない海上に向け、ずんぐりしたアヴェジャー雷撃脚のウィッチがゆっくりと旋回し、爆雷を2発落とした。

ズンっと海が白く濁り、ドバーッと盛大に水柱が立ち上る。その水柱と共に二つに折れた潜水型ネウロイが海上に突き出てきた。そして海面に叩きつけられる前にカッと光ると銀色の粉となって散る。

爆雷を落とす先々で似たような光景が繰り返され、見えなかったネウロイが次々と駆逐されていく。

 

ジョデルの狙ったネウロイが瞬間移動ダッシュで爆雷攻撃から逃げた。だが完全には逃げきれず艦尾に命中する。致命傷は免れたが、艦尾を叩かれたため上を向いてしまい、ダッシュの勢いで海上にジャンプして現れた。

海上に飛び出たネウロイを、後ろを振り向いて視認したジョデルが叫ぶ。

 

「ジェシカ!」

「もらったあ!」

 

マイティラットを構えたジェシカがネウロイへ突進した。シュバッと2発のロケット弾が至近距離で放たれ、真っ直ぐとネウロイに吸い込まれると大爆発を起こした。ネウロイの破片は周囲へ吹き飛び、雨のように海上に降り注ぐ。海に落ちると溶けるように消えてなくなった。

 

ジェシカ達の戦いを見た美緒は、ふうっと一息ついた。先程まで湧いていた不安感が和らいでいた。

 

「リベリオンもなかなかやる。これが水中のネウロイを見つけられる対潜ウィッチか。やはりウィッチに不可能はない。欧州でも人材を見つけておかないとだな」

 

 

 


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