水音の乙女   作:RightWorld

147 / 193
第146話「スターデストロイヤーに非ず」

 

「ジェット水流?! 坂本少佐、水上機を至急移動させて下さい!!」

 

美緒は間髪を入れずスロットルを開ける。さっきからいやな感覚で尻がうずいていたのだ。だからジョデルの叫びに瞬時で反応した。

零式水観が機首を少し持ち上げながら水上滑走して加速し始めた時、元いた海面が急に盛り上がり、黒い塊が水中から飛び出した。間一髪垂直尾翼が当たりそうになるところを逃れ、零式水観は高速で水上滑走する。黒い塊は潜水型ネウロイだった。瞬間移動を使って零式水観へ体当たりを図ったのだ。

 

≪避けて! ネウロイが瞬間移動しましたー!≫

 

遅れて天音が叫ぶ。

 

「ウミネコ、坂本だ。大丈夫、ジョデルのおかげで躱せた」

 

勢い余って水面をざんざんと跳ねる潜水型ネウロイ。ジェシカがマイティラットを構える。

 

「よくもやってくれたわね!」

 

発射された2発のロケット弾が寸分たがわず潜水型ネウロイに命中し、船体全体が膨れ上がって爆散した。

 

「二人ともいいぞ! ジョデル、もう1隻も見えるか?」

「はい! こいつだあ!」

 

ジョデルのアヴェンジャーが爆弾倉を開けて一点へ向け加速する。爆雷2発が切り離され、水中でズシンと破裂した。そしてドドッと吹きあがる大きな水柱はキラキラと光るネウロイの結晶化した破片が混じっていた。

 

≪こちらウミネコ、もう1隻のネウロイが爆発しました! 撃沈です!≫

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

潜水型ネウロイがいなくなったところで2隻の駆逐艦が全速力で巨大ネウロイめがけ突進した。

先に巨大ネウロイの上にたどり着いたのは、20機のアヴェンジャー雷撃機隊だった。

 

≪ウィッチ隊ここまでエスコート感謝する。スワニー隊とシェナンゴ隊は降下爆撃を敢行する。目標敵艦橋。サンガモン隊とサンティー隊は水平爆撃でビーム砲台パネルを沈黙させろ≫

 

千里の二式水戦脚が雷撃機隊の下に滑り込んできた。

 

「ウィッチ隊も同行する。シールドで攻撃隊を守る」

 

≪いやこっちは足が遅い。シールド張りっぱなしでは魔法力がもたないだろう。それよりはビーム砲台を攻撃してくれ≫

 

「グラディエーターはシールド張りっぱなしにするような使い方は出来ませんから、シィーニーとしてはその方がありがたいです」

「分かった。ウィッチ隊はビーム砲台を銃撃して敵を牽制する。秋山上飛曹、威力抜群の30mm弾はまだあるか?」

「は、はい。予備弾倉もまだありますし。……あの、あの島のようなネウロイに本当に攻撃仕掛けるんですか?」

 

≪当てにするぞ、お嬢ちゃん達! 全機突撃!≫

 

雷撃機隊が二手に別れ突撃する。千里とシィーニーも突っ込んでいった。

 

「ああ! 誰か代わってぇー!」

 

秋山も叫びながら蒼莱を加速させる。

 

 

 

 

どこかの映画の場面そっくりに威圧的な巨大ネウロイがビームを撃ちながら進んでくる。それを千里が曲芸飛行のような機動でビームをかわし、20mm機関砲弾を叩き込む。秋山の蒼莱が30mm炸裂弾と徹甲弾をばら蒔いてネウロイの上部を掃射、上部甲板のあちこちが小爆発で弾け飛ぶ。とどめにシィーニーのマイティラットのロケット弾が炸裂した。

 

「我々も負けるな!」

 

水平爆撃隊が広大なネウロイの甲板に2000ポンド爆撃を降らせた。

 

「届け物だ受け取れ!」

 

遠くから見ても壮大な爆煙と雷鳴のような爆発音が巨大ネウロイから響いた。さしもの巨大ネウロイも一時対空砲火が衰える。

そこへ降下爆撃隊が襲い掛かった。

 

「プレゼント追加だ! いらねえって言っても受け取ってもらうぞ!」

 

対空砲火が減った分、長く爆弾を抱えて降下し、じっくり狙いをつけて切り離した。艦橋へ向け投下された2000ポンド爆弾が艦橋周囲で爆発した。

 

 

 

 

「トラーゼン、照準よし!」

 

≪エヴァソール、レーダー連動射撃用意よし!≫

 

「砲撃始め!」

 

駆逐艦2隻が5インチ砲を斉射した。爆弾の煙がまだ立ち昇る巨大ネウロイの甲板に新たな火花と爆発が起こる、第一斉射は艦橋には当たらなかったが、広い上部甲板に命中弾数発と舷側への至近弾となった。

 

≪トラーゼン、近150m。エヴァソール、右へあと60m修正だ≫

 

美緒の零式水観が着弾位置と補整値を伝えてくる。レーダーと着弾観測射撃により砲撃は正確さを増していった。そして4斉射目から艦橋に命中弾が出始めた。

 

≪命中だ! そのまま叩き込め!≫

 

駆逐艦のMk12 38口径5インチ砲が怒涛の砲撃を開始する。およそ5秒毎に発射される砲弾は空気を切り裂いて飛翔し、巨大ネウロイの艦橋で炸裂した。ネウロイの悲鳴とも思える叫び声が連続して響く。

爆撃によって横に長い艦橋状の構造物は既に形を成しておらず、そこへ次々と砲弾が命中し、その度に削り取られていく。そしてとうとう砕けるようにガラガラと崩れ落ちた。

 

「やった!」

 

≪坂本だ。ネウロイの艦橋を破壊したぞ!≫

 

 

 

 

美緒の報告を聞いたサンガモンの指揮所は、うおおおおっと歓声が上がった。

ルーカス上等兵がみんなに握手を求められる。ルーカスも満面の笑みで握り返した。

 

ルーカスの情報ではこれでネウロイは制御不能になるはずだ。

恒星破壊者(スターデストロイヤー)そっくりの楔形の巨大なネウロイは停止し、沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大ネウロイの厚みのある舷側から、急に一筋のビームが発射された。真っ直ぐ延びる赤い光線は海に着弾した。ビームは海水を蒸発させながらそのまま先へ延びていき、トラーゼンを真横から貫いた。とたんにトラーゼンはピカッと光ると中央から爆発した。

 

≪トラーゼン被弾!≫

 

さらに別の位置からビームが一筋延び、今度はエヴァソールを貫通した。エヴァソールは艦尾近くから爆煙が上がった。

 

≪続いてエヴァソール被弾! 巨大ネウロイは艦橋を失ってますが沈黙していません!≫

 

 

 

 

ネウロイの上を旋回する美緒は高度を下げビームの発射されたところを観察する。

上甲板は2000ポンド爆弾の被害にウィッチの魔法力のこもった攻撃が加えられたせいでなかなか修復が進まないでいた。だが分厚い上甲板の下までは被害が及んでおらず、上からは見えない舷側の奥まったところに無傷の砲台があるようだった。

 

「舷側にもビームパネルがある。上からの攻撃では被弾しづらい引っ込んだところだ。駆逐艦、狙えないか?」

 

≪だめだ、とても近寄れない!≫

 

「くそっ!」

 

巨大ネウロイでも小目標である艦橋さえ破壊すれば行動を止められると聞いたからこそ、駆逐艦であっても攻撃を仕掛ける決断をしたのだ。それが効かぬとなればこの状況は戦艦と撃ち合うより無謀なものとなる。航空隊もこれ以上爆撃できないとなると、一刻も早く駆逐艦を逃がさねばならない。

 

「艦橋を破壊すればネウロイが止まるなんて、うさん臭い話だと思ってたんだ」

 

美緒がどう退路を作るか考えてたその時、

 

≪坂本、そこどけえ!≫

 

低空を下駄履き水上機が突進してきた。そのすぐ前を行くウィッチがシールドを展開する。優奈が張ったシールドを盾に卜部の零式水偵が突っ込んで来たのだ。

 

「卜部?!」

 

美緒の零式水観がひらっと躱すと、その横を掠めるように優奈と零式水偵が通過する。シールドを張って先行する優奈は恐怖で顔が引きつっていた

 

「ト、トビ! あんなすごい威力のビーム、あたしのシールドで防げるの?!」

「真っ直ぐ受けちゃだめだ! 少し傾けて逸らすように受けるんだ! 来るまではセンサーに使うだけだから弱くていい。来たら腹に力入れて全力で張れ!」

「き、来た!!」

 

シールドにビームの圧力を感じ取った優奈が叫ぶ。図太い真っ赤なビームがまっしぐらに向かってきた。

 

バシャアッ!!

 

斜めに構えた優奈のシールドでビームが左に屈折する。

 

「うあーっ! 腕痛あい!」

「キョクアジサシ踏ん張れ! 今度はこっちの番だ!」

 

零式水偵から100ポンドGP爆弾4発が一斉に切り離される。弱いながらも卜部の魔法力が込められて青白く光っている。爆弾は海面に当たると水切りの要領で跳ね返ってまた前に飛んだ。反跳爆撃だ。爆弾を切り離した零式水偵は巨大ネウロイの上に差し掛かる。上甲板のビームパネルはまだ修復しておらず撃ってこない。90度ターンして離脱を図る。

爆弾は3回バウンドすると巨大ネウロイの左舷横っ腹に命中した。海上に出た零式水偵を舷側から発射されるビームが追いかけてきたが、爆発音がする度にビームの数が減っていく。離脱する零式水偵の後部座席で勝田が20mm機銃で応戦しながら叫んだ。

 

「キョクアジサシ、後方に回ってシールド!」

「了解!」

 

優奈の零式水偵脚がシールドを張りながら後ろに着く。離脱する2機を狙ってビームが襲い掛かってくる。

 

「きゃーっ! いたっ! あいたっ!」

 

優奈がシールドで必死にビームを逸らして防ぐ。

その逃げる零式水偵脚と零式水偵の下をF4U戦闘脚(コルセア)がくぐり抜けて交差した。

 

「残りの砲台は私がいただく!」

 

芳佳を送り届けて戻ってきたウィラ・ホワイト中尉だ。13連装マイティラットを構えると次々と発射した。適当に散らばっていくロケット弾が巨大ネウロイの左舷側のあちこちに命中する。

 

「よそ見してるとこっちからも行っちゃうよ!」

 

反対舷から今度は西條の瑞雲が猛スピードで接近してきた。瑞雲の胴体下の250ポンドGP爆弾が青白く輝いていき、魔法力が蓄えられると落とされた。こちらも反跳爆撃、海面を切って跳躍する。そして右舷舷側に突き刺さった。

現役ウィッチの魔法力が込められた250ポンド爆弾の威力は凄まじい。舷側を突き破って中まで入り込み、内部で爆発した。その爆発は上甲板までめくり上げ、ネウロイが金切声を上げる。苦し紛れに残ったビーム砲台がめくら滅法に見境なく発砲する。

 

「シィーニーちゃん、正面方向を狙ってくるビーム砲をやっつけて!」

「分かりました!」

 

ネウロイの正面の海面に、モーゼの海割のごとく水を切り裂いて一筋の白線がネウロイへと突き進んでいく。その割れ目の中を前後に並んで飛ぶウィッチ2人。体のほとんどを水面より下に置いて飛んでいるのは、シールドで海面に半トンネルを堀って空路を作る天音と、そのすぐ後ろに着くシィーニーだ。

 

接近する白い航跡をネウロイのビームが狙う。ビームは角度的に水平よりやや俯角になっただけなので、ほとんど海の中に撃ち込む感じだ。ビームの熱が海水を蒸発させ白い煙を上げる。だが空気の770倍も密度の高い水の抵抗はビームのエネルギーを相当食いつぶしてしまう。天音が正面に張るシールドに到達するころには威力はほとんど無くなっていた。

 

「思った通り! 台風の波の方がよっぽど怖かったよ」

 

その水の抵抗に負けず飛行速度で海を切り裂いていく天音のシールドの方がよっぽど驚きだ。海の水までもシールドに使って2人はネウロイのかなり近くまで接近することができた。

 

「アマネさん、ありがとう! これだけ近付けば外しません!」

 

天音の作るトンネルからバヒョッと抜け出たシィーニーがネウロイの舷側の高さまで躍り出る。7連装マイティラットを構えると、正面方向を向いているビーム砲パネルに残ったロケット弾を発射した。螺旋を描いて飛んで行くロケット弾はビーム砲パネルに命中し、大爆発すると大穴を開けた。

 

「ビーム砲潰しました! しばらくは撃てないはずです!」

「シィーニーちゃんさっすが! こちらウミネコ、ネウロイ正面方向に安全海域確保! ビーム砲が直る前にやっちゃってください!」

 

悲鳴のような叫びを撒き散らす巨大ネウロイの真っ正面の海面に青く塗られた潜望鏡が持ち上がった。潜望鏡から覗く目は、帽子を後ろに回して獲物を狙う千早艦長と蒼き鋼『伊401』だ。

 

「ウミネコ、シィーニー軍曹、感謝する。急いで退避したまえ。水雷長。目標正面、斜進角0。1番から8番、一斉発射!!」

 

千早艦長の合図で伊401の魚雷発射管8門全てから95式酸素魚雷が放たれた。これも事前にイオナが魔法力を充填した魚雷だ。雷速50ノットで雷跡の見えない魚雷が母艦ネウロイへ片舷4本ずつ伸びていく。そして魔法力を纏っていることで魚雷は巨大ネウロイの装甲を突き破って内部奥深くに食い込んで起爆した。

魔法力で強化された炸薬量400kgの魚雷8本の命中である。100ポンドや250ポンド爆弾の比ではない。地震のような強力な爆発がネウロイ全身を覆った。

 

 

 




ヤバい、このペースでは年内に話し終わらない! たった1日を3ヶ月かけて連載してこの有様。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。