水音の乙女   作:RightWorld

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第147話「今度はエネルギーフィールド」

伊401が放った魔法力で強化された炸薬量400kgの魚雷8本が巨大ネウロイに命中し、地震のような強力な爆発がネウロイ全身を覆った。

巨大ネウロイが海上から持ち上がり、くの字に折れるのが見えた。そして目映いばかりの閃光を発してさらに爆発し、銀色の大きな破片が飛び散る。それを見た者はネウロイ全体が木端微塵に吹っ飛んだかと思った。

 

爆炎が去ると、しかし巨大ネウロイはまだ残っていた。とはいえその姿はあの恒星破壊者(スターデストロイヤー)の威容を保ってはいなかった。艦上構造物はなくなり、というか艦上構造物があった後ろ半分が折れてごっそりなくなり、三角の尖った艦首側だけが残っている。だが艦体が残っているということはコアはまだ無事なのだ。残った艦首側のどこかにあるということだろう。

傷口はキラキラ光って自己修復しようとするが、魔力のこもった魚雷爆発の影響による赤い光がそれを邪魔する。下の海に浸かってる部分は自己修復の光さえ発せられない。思うように修復できないネウロイが苦しそうな音を上げる。

 

「さすがは427空と401千早中佐だ。あのデカブツをよくここまで削ってくれた。よし、ウィッチ全機集結せよ! ビームパネルが修復できてない今なら、飽和攻撃でコアを探すチャンスだ!」

 

≪坂本、お前なに指揮とっちゃってんだよ≫

 

零式水偵が横に並ぶと卜部がジト目向けて言った。

 

「ん? ああ、現場指揮官はお前だったか? つい癖でな、戦場にいると血がたぎってしまった。そういうことだ、チャンスを逃すな! 私からの意見具申だ」

「ウィッチ隊指揮はここでは葉山少尉だねぇ」

 

勝田が後頭部に手を組んで呟くと、前の席の葉山は背中に針金を入れたように直立し、坂本の零式水観に向けて敬礼した。

 

「は、葉山少尉は坂本少佐に指揮権を委譲します! 存分に指揮をお執り下さい!」

 

驚いて卜部が後ろへ振り返った。

 

「な、ナニ外部の奴に譲ってんだよ! 譲るならせめて同じ部隊の上官たる私だろう?!」

「501の戦闘隊長が指揮した方が確実です! いえ、伝説の戦闘隊長の指揮が見たいです!」

「ひでえ! 427空とリベリオン海軍のメンツも考えろおー」

 

「はっはっは、アタマが替わったところで実際動くのはお前達、今まで通りだ。427空、腕前を見せてもらおうか!」

 

≪ちょっと待ってください! ネウロイに変化あり!≫

 

優奈の叫び声が無線の会話を遮った。

ネウロイに目を向けると、楔形をしていたネウロイの残りの部分の両脇がバキバキと動き、両手両足にように横へ展開した。そして後部上甲板からテーブルのようなのが2つせり上がってきた。

 

「形状が変化してるぞ!」

 

≪こちらキョクアジサシ。ネウロイの形が変わりました! 細長い艦体に、斜め前と斜め後ろへ向け足のようなのが左右一対ずつ伸びて、それで艦体本体を水面上に持ち上げました≫

≪キョクアジサシ、こちらサンガモンコントロール。ネウロイは4本の足で水の上に立っているということか?≫

≪立つという程高くはないですが、何と言うか、足の短いアメンボのような感じになってます! 水面上に艦体が持ち上がったので、水の影響がなくなったのか艦体の修復が始まってます!≫

 

すると後部上甲板のテーブルのようなところからバチバチと火花のようなのが飛び始め、ドギャンッ! といきなり爆発した。そしてテーブルの上板から青空へ向かって太くて眩い光の帯が伸びていき、500mほどの高度で再び爆発したようになると、そこから薄い光の膜がネウロイを中心に半球状に覆いかぶさった。膜の付近にいたF4F(ワイルドキャット)が1機、激しく揺さぶられた。

 

≪こちら404号機。激しい乱気流に遭遇中!≫

 

乱気流で翻弄されるF4Fが通信を送った直後、F4Fは光る膜にぶつかると爆発、四散した。

 

「なに?!」

「くそっ! あの光の柱を放ってるところを撃て! 左舷砲撃戦! 面舵20度!」

 

エヴァソールが旋回し、5インチ主砲をネウロイのテーブルのようなところ目がけて発射した。だが砲弾は膜に当たるとそこで爆発した。

 

「バカな!」

「シールドか?!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

空母サンガモンからも光る半球状の膜が見えていた。駆逐隊トラーゼン、エヴァソールからの報告、さらに上空から優奈、美緒や葉山らからネウロイの詳細な形状や状態の報告が次々と入ってくる。

 

≪半球状の膜は膨れるように大きくなってきている。高さも直径もだ≫

≪坂本、近寄り過ぎるな! 触れると爆発して墜とされるぞ!≫

≪分かっている。うぉ、ネウロイが跳ねた! 左右に伸びた手足のようなので水面を蹴って方向を変えたぞ!≫

 

「ルーカス上等兵、あれはなんだ?!」

 

参謀の一人が光る膜を指さしてルーカスの方へ向き詰問した。

 

「……お、おかしい。あんな設定はインペリアル級にはなかった……」

 

ルーカスは手にしていたノートを捲った。

 

「エネルギーフィールドだ!」

 

また別の水兵が大声を上げた。

 

「何?!」

「テーブル状の装置から上空へ向け光の柱が立ち昇り、そこから半球状のシールドが展開する。エネルギーフィールドに間違いない!」

「君は?」

「はっ! ピーター・ハンバーグ上等兵です!」

「そして君も奴を知っているというのか?」

「はい! あいつは水面を跳ねて移動する機動兵器です!」

「それで、あいつの弱点も艦橋なのか?」

 

ハンバーグ上等兵は持っていたノートを捲った。

 

「確かに艦橋のガラスを割って日光を注がせるのは効果的ではありますが、完璧ではありません。叩きのめすには戦艦の砲撃が必要です。戦艦はやはりアイオワ級がいいですな」

 

ルーカスが詰め寄った。

 

インペリアル級(スターデストロイヤー)からあんな弱っちい機動兵器に変身させるなんて無理があるんじゃないか? それより偉大なインペリアル級(スターデストロイヤー)をアメンボ野郎と絡めないでくれ」

「ふん。あんな図体ばかりでかくて動きのない奴なんか退屈で面白くないんだよ」

インペリアル級(スターデストロイヤー)は象徴だ。姿があるだけで帝国軍支配下であると理解できるだろう。こざかしい動きなど必要ないんだ。だいたい貴様のエイリアン達は何しに来たんだ?」

「意味なんか何だっていいんだ。派手に戦艦とドンパチ出来ればいい」

「そんな適当な設定だから売れないんだ」

「極東の島国じゃ大ヒットしただろう。ド派手な正義の鉄槌で敵を倒すアクションストーリーに細かい疑問を差し込んだら終わりだ」

 

言い合っている二人に参謀も堪忍袋の緒が切れた。

 

「貴様らいい加減にしろ! だいたいこれは何だ!」

 

参謀がルーカスとハンバーグが手にしていたノートをひったくった。

 

ルーカスが持っていたのは宇宙で繰り広げられる壮大なSF親子喧嘩の設定集。ハンバーグが持っていたのはアイオワ級戦艦が水上ドリフトさせて主砲を撃ちまくるよくわからん話だった。その中に確かに当初の巨大ネウロイ、そして変形したネウロイと形がよく似た敵兵器があった。だがいずれも帝国軍だかエイリアンだかの乗り物で、ネウロイではない。

スプレイグ少将は暫く目をつぶってうつむいていたが、カッと目を開けた。

 

「二人とも叩き出せ!!」

 

ルーカス上等兵とハンバーグ上等兵はサンガモンの艦橋から蹴り出された。

 

お遊びはここまでだ。形だけは恒星破壊者や機動兵器に似ていたようだが、ここはワールドウィッチーズの世界。奴はネウロイなのである。しかしエネルギーフィールドまで真似されたのは余計だ。

ネウロイが張ったドーム状のエネルギーフィールドは半径1000m程にまで膨らんでいた。アメンボネウロイは船団との距離を縮め、このままではビームの攻撃圏内に船団が入ってしまう。

 

「船団一斉回頭、針路355!」

「しかし司令、ネウロイは20ノット以上の速度で移動してます。船団の速度はせいぜい15ノット。追い付かれてしまいます!」

「分かっている。だからなんとしてもネウロイを止めるしかないのだ。アヴェンジャー隊、帰還したら再爆装を!」

「……間に合うとは思えません」

 

それはスプレイグ少将も分かっていた。戻ってきた雷撃機を再出撃させるのは、ガソリンスタンドに給油に来た車のようにはいかない。

 

「……ウィッチだけが頼りということか。だが彼女らも爆弾やロケット弾のような破壊力のある武装は使い切っている」

「コアを見つけ、ピンポイントで狙って破壊するしかないということです」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

だが前線ではエネルギーフィールドで守られたアメンボネウロイに駆逐艦もウィッチも近付くことができないでいた。駆逐艦トラーゼンとエヴァソールは主砲も機銃も狂ったように撃ち続けているが、エネルギーフィールドを越えることができない。

 

駆逐艦の後方に集まったウィッチ達はみんなしてどうすればいいか考えあぐねていた。

すると美緒が、海上に降りて当てもなく水中探信波を放っている天音に質問した。

 

「ウミネコ、お前から見て奴の水の中はどんなだ?」

「はい。水に浸けている4本の足みたいのは平たくて1mくらいしか沈んでいません。突起もないし。あのネウロイってそんなに軽いんでしょうか。よくあれだけで浮いてられますね」

「ふむ。その前に、あいつの張ってるシールドは水中ではどうなっているんだ?」

「あ、はい。わたしの魔法波では、水の中には遮るようなものは全然見当たらないんですが……」

「ふうむ、やはりそうか……。千早艦長」

 

呼びかけたところで既に伊401は勢いよく水中へ潜航していくところだった。

 

「ちょっと待て、私は先ずは魚雷でやってみようと言いかけたんだ。いきなり潜水艦は冒険過ぎだろう」

 

≪天音君の探査力なら疑うまでもない。時間が勿体ないし、それに魚雷は撃ち尽くしたしな≫

 

「まったく……たいした信頼度だな」

 

 

 




ピーター・ハンバーグ上等兵元ネタは、映画監督のピーター・バークです。いい加減にしろって?

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