水音の乙女   作:RightWorld

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2021/01/04 誤字修正しました。





第150話「伝説の守る力」

ドドドッカーーン!!

 

物凄い音が響いた。周囲を飛んでいたウィッチや艦船からは、真っ白に眩く光った巨大ネウロイが超新星爆発のごとく破裂し、今度こそ光の砂粒を彼方まで撒き散らして吹っ飛ぶのが見えた。そして程なく強烈な衝撃波で体を殴られる。空中にいるウィッチ達が木の葉のように吹き晒された。

 

「あまねーっ!!」

「シィーニー軍曹ー!」

「一崎ー!」

「天音せんせーっ!!」

「シィーニーさーん!!」

 

煽られながらウィッチ達が悲鳴のように名前を叫んだ。天音達は爆発の瞬間までコア、つまり完全に爆心地にいたのだ。しかも逃げる隙もなかった。

 

 

 

 

だが、爆風や衝撃が天音とシィーニーに来ることはなかった。抱きついていた二人が恐る恐る薄目を開けると、青白い別の光が光っている。目を見開くと、見たこともない厚さの魔法陣のシールドが盾になっていた。

 

「ほえ?」

「わわ!」

「大丈夫? 二人とも!」

 

両手を前に出してシールドを展開している、茶色い犬耳を生やした扶桑のセーラー服のウィッチが振り返る。

分厚いシールドの一番外側が赤く発熱し、ドロッと溶けるとパリパリと剥離していく。それでもその少女は慌てる気配もない。

 

「う、うそでしょ?! 爆心地(グランドゼロ)の衝撃を防いだんですか?!」

 

シィーニーが目を見張る。彼女らは最も破壊力のある爆心地そのものに爆発の瞬間までいたのだ。

 

そう言えば別の人の叫び声が聞こえた気がする。あぶなーいって。

その声の主がこの人?

 

だとしたら爆心地に爆発の瞬間飛び込んで来たということになる。爆発しようとするネウロイめがけて飛んてきた事になる。そんな自殺紛いのことをするウィッチなど普通いない。

だがそのウィッチのシールドはコアの爆発をまったく意に介さないほど強力だった。だとしてもシールド張るタイミングを一歩間違えれば怪我どころじゃ済まない。

二人の目が大きく見開らかれ、口もぱかーっと開けて、両側に跳ねた焦げ茶色の髪のウィッチを見つめた。

 

『な、なんちゅー人でしょう!』

『か、かっこいいー!』

 

上の方に飛び散った破片がジャラジャラと音を立てて雨のように降り注いでくるのを、今度はシールドを上に向けて張って防ぎつつ、その人が天音達の身体を気遣う。

 

「怪我なさそうだね。よかったぁ」

 

戦場で見てるとは思えない安心感のある笑顔が向けられ、高ぶりまくっていた気持ちが急速冷却されていくようだった。

 

「あ、ありがとうございます。助けてもらったんだよね? わたし達」

 

シィーニーの方に向くと、シィーニーは腰が抜けたようにふらふらと落下しだした。

 

「わああ、シィーニーちゃん!」

「わああ、大丈夫?!」

 

二人に掴まれて引き戻される。

 

「あ、もう死んだと思いました」

「ちゃんと生きてるよ、わたし達」

「うん、二人とも生きてるよ。さ、船に戻ろう」

 

上空からイオナが飛んできた。

 

「植民地兵、あっぱれ」

「イオナさん」

「イオナ少尉」

「ナタが本当に役に立つとは驚いた。忘れず持ってきてくれたシンガポール基地の整備兵に感謝しないとな。後でまた会おう」

 

手を振ると伊401へ降下していった。

三人は手を繋いで船団の方へと向きを変える。

 

「改めてありがとうございました、お姉さん」

「宮藤芳佳だよ。震電の部品交換が間に合ってよかったぁ」

「部品ですか?」

「そう。これ取りに欧州から来たんだよ」

「へぇー欧州からわざわざ?」

「私のストライカーユニットはあっちでは他に使ってる人がいなくて、部品が足りなくなっちゃってたの。ほら、扶桑からの補給がなかなか来なくなったでしょう? 蒼莱っていうのが同じ部品使ってて、ここに来れば分けてもらえるからっていうんで飛んできたんだあ」

「あ、ごめんなさい。わたし達がもっと沢山の輸送船をしっかり守ってれば……」

「ううん。そんな事はないよ。今日見て船団護衛が凄い大変なんだってよく分かった。あなた名前は?」

「12航戦427空の一崎天音です」

「あなたが天音さん?!」

 

芳佳は急にガバッと天音に抱きついた。

 

「お味噌、お醤油ありがとう! 他にも鰹節とか梅干しとか色々!」

「え? そんなの宮藤さんに送った事あったっけ?」

「あなたが守った船が欧州に届けてるんだよ。欧州にいる扶桑人が頑張れるのも、扶桑の食材が届いて扶桑料理が食べられるから。本当にありがとう!」

「あまねー!!」

 

優奈が零式水偵脚とは思えないスピードですっ飛んできた。天音に飛びつくと頭から足まで撫でまくった。

 

「優奈、くすぐったい」

「生きてる! コア爆発に巻き込まれたはずなのに! 何で?!」

「宮藤さんが守ってくれたの。凄い頑丈なシールド張ってたんだよ」

 

優奈の顔が、千里と同じか少し年上っぽいニコニコしている扶桑のウィッチの方に向いた。とたんに目が大きく見開かれた。

 

「み、宮藤さん?! も、もしかして501の宮藤少尉?!」

「ははぁ、また三羽烏の誰かなんでしょ。もう驚かないよ」

「あんた大馬鹿?! ガリア、ロマーニャ解放の大英雄でしょ!! なに手なんか繋いじゃってるの、離しなさい!!」

 

もぎ取るように手を引き離すと天音ごと放り投げた。

 

「あれ~~」

「どこ行くんですかアマネさーん」

 

天音は海に向かって落ちていった。

 

「501の坂本少佐に宮藤少尉にまで会えるなんて、優奈感激です!! どどどうしようー!」

 

肘を曲げて体を左右に激しく揺すって喜ぶ優奈に、芳佳の目が一点に止まる。

 

「と、とにかく船に帰ろう? ゆ、優奈ちゃんだっけ?」

「はい! もう覚えてくれたんですか? 感激です!!」

「う、うん。優奈ちゃん……胸、おっきいね」

 

 

 

 

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護衛空母サンガモンにウィッチ達は再び帰ってきた。

ウィッチ達の揃った格納庫では、航空燃料に引火しそうなほどの熱気で大騒ぎ。船団の各船からも熱烈な感激と感謝のシュプレヒコールが絶え間なく響く。特に最後の攻撃の指揮を執り巨大ネウロイを追い詰めた坂本少佐、巨大ネウロイにとどめを刺した天音とシィーニー、その二人を救った宮藤少尉には惜しみない拍手喝采が収まらなかった。

 

「まあ待て。今日に至る間にはもっといろいろな苦労があった事と思う。私はたまたまその最後の瞬間に立ち会っただけだ。思いついた人全てに感謝を伝えてあげてくれ」

 

美緒が代表して答礼をしたが

 

「なんて謙虚な人だ」

「流石は伝説の501の戦闘隊長だ」

 

再び歓声が鳴り止まなくなる。

 

「頭冷えるまでこりゃ無理だな」

 

ニヤついて言ってくる卜部に、美緒もやや困った風だった。

 

「さあ、一旦解散だ! 祝うのはシンガポールに着いてからだ。最後の道でつまずかないよう今一度気を引き締めてくれ。皆ご苦労だった!」

 

スプレイグ少将が場を締めて解散させる。

次第に人が散って、外から流れてくるひんやりとした空気を感じられるようになると、秋山が芳佳のところに歩み寄った。

 

「あ、あの、宮藤少尉!」

「はい? あ、あなたは蒼莱の操縦者の。ごめんなさい、蒼莱の部品横取りしちゃったみたいで……」

「そんなの全然構いません。それより、宮藤少尉は治癒魔法を使えると聞きました」

 

それを聞いて皆が一斉にはっとして振り返った。

 

「うん。私の固有魔法は治癒魔法だよ。それとシールドくらいしか取り柄がなくってね。えへへへ」

「ど、どうか助けてください!」

 

そう叫ぶと、ひしっと足にしがみついた。

 

「ええ? どっか悪いの?」

 

卜部が歩み寄った。

 

「そうだ。戦闘から戻ったばかりですまないが、余力があればもう少し付き合ってもらえるだろうか」

「もしかして負傷者か?」

 

美緒が立ち上がる。ジェシカも駆けて来た。

 

「あ、あの、火傷なんです! 被弾してストライカーユニットが燃えちゃって! 治せますか?!」

「宮藤」

 

美緒が目配せするまでもなく、即座に芳佳は頷いた。

 

「はい! どこ? 行こう!」

「ありがとうございます!」

 

皆が付いて行こうとするが、卜部が止めた。

 

「待て待て、そんな皆して詰めかけたらバイキン持ち込むぞ! 代表でブッシュ少尉……」

 

秋山の大きくてうるうるした目が眼前に現れ、卜部に訴え掛ける。

 

「……と秋山上飛曹だけ付き添ってよし」

 

秋山が勢い良く敬礼した。

 

「了解しました!」

 

芳佳を連れて秋山とジェシカは走って行った。

入れ替わってウィラがやって来くると、頭を垂れた。

 

「すまない卜部少尉。坂本少佐、宮藤少尉を申し訳ない。疲れているだろうに……」

「なに、気に留めることはない。我々は欧州で鍛えられてるからな。それに……」

 

タラップを降りていった芳佳達を見届けると振り返った。

 

「宮藤はそれで誰かを守れるなら止めようが何しようが、どこへだって行くような奴だ。その力が役に立つと分かれば誰に言われなくても向かったさ」

 

天音が力いっぱい頷いた。

 

「そうだ! わたし達、信じらんないところを助けてもらっちゃったもんね」

 

シィーニーも首をぶんぶん縦に振る。

 

「あんなところに助けに来る人なんて見たことありません。ヨーロッパで戦ってる人はやっぱ凄いです。わたしも見習ってわたしにしか出来ない事します! 椰子の実ジュース作って差し入れします!」

「わたしも手伝う!」

「あたしも行く!」

「優奈、飲みたいだけじゃないの?」

「やあね、余ったらでいいわよ」

「ユーナさんのも作りますからご心配なく!」

「君たち、疲れてないの?」

 

勝田が呆れ気味に言った。

 

「わたし達もベテランの方達に鍛えられてますから!」

 

卜部と勝田が見つめ合う中、天音と優奈とシィーニーも走って行った。

 

 

 




シィーニーちゃんの大ナタと天音ちゃんの肥後守、二人がこれらを妖刀にすべく魔法力を込め始めたお話は、2章と3章の間のエピソード81話にあります。またこの大ナタをイオナが「忘れずに持ってきてくれたシンガポール基地の整備兵に感謝しないと」と言っていたのは、95話でシィーニーちゃんが伊401に便乗して船団救援に向かうときの一場面。
そして芳佳ちゃんが天音ちゃんに「お味噌、お醤油ありがとう!」って言って抱きついてたのは、本作では度々出てくる扶桑からの補給が途絶えて起こる扶桑食の危機の話(弾薬などではなく)。特によくわかるのは82~84話のエピソードでしょうか。
そして震電の改修機『蒼莱』とレアの大火傷で舞台を準備し、133話で名を伏せてチラッと姿を見せた我らが原作の主人公、芳佳ちゃんのご登場など、あちこちのネタを回収しつつ後半を突っ走った第3章でした。

次回は大晦日、いよいよ第3章最終回です!


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