水音の乙女   作:RightWorld

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第7話「スイカと芋が取り持つ縁」

 

 

 坂本と竹井は、若本を追うべく基地を飛び出した。門柱を出たところで曲がった途端、竹井が陰に立っていた人と衝突した。

 

「キャッ!」

「ふぎゃ!」

 

 二人は絡み合って地面を転げる。竹井がぶつかったのは同じような年頃の少女だった。とはいえこっちはウィッチ。魔法で護られている。怪我させてないだろうか? 坂本は一般人を巻き込んだと思って青くなって駆け寄った。

 

「だ、大丈夫ですか!」

「あいたた……そちらこそ大丈夫? 私は頑丈だから」

 

 確かに。驚いたことに目を回しているのは竹井の方だった。

 

「あうぅ、くるくる……」

「すみません! 本当にすみません! おい醇子、しっかりしろ!」

「うわぁ、脳震盪おこしちゃった? もしもーし」

 

 竹井を抱き起こして、変なところぶつけてないかあちこち触診するその少女は、陸軍の制服を着ていた。

 

「あ、あの、もしかしてあなたはウィッチですか?」

 

 軍の制服を着ている少女なんて、ウィッチしか考えられない。そして胸にある装甲脚記章に気付いた。陸戦ウィッチ?

 

「はい、陸軍の陸上装甲歩兵やってます、犬房由乃軍曹と言います! そういうあなた達ももしかしてウィッチっすね?」

 

 海軍基地から飛び出してきたセーラー服の少女となればそう行き着くだろう。相手も軍人と分かり、坂本は慌てて敬礼する。

 

「は、はい。海軍の航空歩兵、坂本美緒一飛曹 。そっちは竹井醇子一飛曹です」

 

 答礼もそこそこに目を輝かせる陸軍のウィッチ。

 

「わあ、やっぱり! もしかして先日の扶桑海上での戦闘にも?!」

「え、ええ……」

「うわああ、かっこいいー! 私、大陸領での戦闘では航空歩兵の方たちにピンチを救ってもらったっすよー。ありがとうございますー」

「え? いえ、それは私達じゃないかもしれないですよ。地上援護はそんなにやってないし……どっちかといえば陸軍の航空ウィッチ隊なのでは」

「まあその辺の正確なところはどうでもいいのです。ただ航空歩兵の方々の活躍にはもう大変感銘を受けまして、会ったら誰でもいいからお礼を言うつもりだったんすよー」

「は、はあ」

 

 犬房は少し遠い目をしてさらに続けた。

 

「今回の決戦、私達は怪異本隊の本土上陸に備えて水際防衛陣地を築いて待ち構えてたんです。大陸領でやられた借りを返すとそりゃあもう意気込んで。でも、あなた方航空歩兵が敵の親玉を遠くの海上でやっつけちゃいました。結局私達はなんか“やられっぱ”なままで……。勇んで陸上歩兵ウィッチになってみたものの、なんだかなぁって」

 

 と、しょげていたが急に焦ったような表情になり、

 

「あぁいえいえ、戦闘できなかったことを悔やんでなんかないですよ! 本土決戦なんかになってたら、また大陸領でみたような民間人や施設への被害が少なからず出たでしょうし。もうあんなの見るのは御免です」

 

 そしてまた元の明るい笑顔に戻った。

 

「だから本土遥か遠くで勝負を決めてくれた航空歩兵の皆さんには感謝してもしきれません!」

 

 犬房はぶんっと音がするくらい勢い良く頭を下げた。発生した風で坂本の切り揃えた前髪がそよぐ。

 

「う……ううん」

 

 そこで醇子がようやく覚醒してきた。

 

「醇子!」

「あれ、わたし……」

「気が付かれましたか!」

 

 知らない人の腕の中で目覚めて竹井は焦った。門を出たところで衝突したことを思い出し、顔が真っ赤になった。

 

「ああ、すみません! わたし、いきなり飛び出してったもんだから、ぶつかっちゃって……お怪我なかったですか?」

「ええ、全然大丈夫です」

「醇子、それより早く徹子を追わないと」

「はっ、そうだね!」

 

 竹井はすっくと立ち上がる。とたんにくらっとしたが、すぐに首を左右に振ると、頬をパンパンと叩いて意識をはっきりさせた。

 

「いきなりぶつかっておいて何のお詫びもできずで申し訳ないんですが、ちょっと急いでまして……ごめんなさい」

「おや、そうですか。どうされたんです? どなただかを追わないととかって言ってましたね」

 

 竹井と坂本は顔を見合わせた。部外者に話すようなことではないし……

 

 返事に困ってると、犬房は手を腰にして笑って促した。

 

「まあ急がないとという事ですので、とりあえず行ってください」

「す、すみません、ありがとうございます」

「し、失礼します!」

 

 二人は頭を下げると駆け出した。

 が、後ろを振り向くと、犬房もついてきてる。

 

「あ、あの」

「お引止めして機を逃したらまずいでしょうから、気にせず先を急いでください。よかったらお話は走りながらでも。これも何かの縁です。私、今日は非番で暇なんです。飛行機でも見ようと思ってここに来たくらいですから」

 

 戸惑う坂本と竹井だったが、結局走りながら説明することになった。

 

「ほー。水上偵察ウィッチ隊ですか。そんな航空歩兵もいるんですねー。ちょっと見てみたい」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 扶桑海側の守りの要である舞鶴鎮守府がある舞鶴湾。天然の良港である湾の最奥には、工廠をはじめとした大規模な海軍基地が整備されている。だが軍施設があるのは舞鶴湾だけではない。

 舞鶴湾は若狭湾の西の奥にあって、湾に入るには狭い水道をくぐっていく。水道に入らず素通りして西へ行くと、軽巡の名にもなっている一級河川、由良川の河口に出る。河口を越えてさらに西へ行くと、北へ向かって伸びる半島に当たり、そこへ瘤のようにくっついている岬との間で作る栗田(くんだ)湾に出る。ちなみにこの半島の反対側が日本三景のひとつ『天橋立』がある宮津湾で、若狭湾の西の端となる。

 この栗田(くんだ)湾に向けて、50mくらいの幅のコンクリートのスロープが海の中にまで伸びていた。スロープをトラクターがワイヤーを引いてゴトゴトと上がって来る。トラクターが引くワイヤーに続いて引き上げられたのは、2つの大きなフロートを付けた複葉の水上機、94式水上偵察機だ。

 ここが舞鶴の水上機用の基地であった。

 

 

「ここは水上機母艦の水偵隊が居候している基地か?!」

 

 畑でスイカを取っていた二人の少女に若本は声を掛けた。顔を上げた二人は若本と同じ白と青のセーラー服を着ていた。つまりこの二人は海軍のウィッチということだ。

 その通り、それは卜部と勝田だった。

 

「いかにも、水偵部隊第22航空隊が駐屯している栗田(くんだ)水上機基地だが」

「お前ら、水偵ウィッチだな?!」

「そうだが」

「あれぇ、君は挺身隊にいたウィッチじゃない?」

 

 勝田が見覚えのある顔に反応して聞き返すと、若本はやや俯いて声を震わせて叫んだ。

 

「お前らが……お前らがもっと早く北郷先生を見つけてれば!」

 

 北郷と聞いて卜部も勝田も固まった。

 

「北郷少佐、良くないのか?」

「……もう第一戦で戦うのは無理かもって」

 

 それを聞いて卜部も黙って俯いてしまった。

 

「せめてお前らが、落とされた日のうちに発見してれば! 江藤中佐のように見つけてれば! しかもよりにもよって第2戦隊に先を越されるなんて、恥ずかしくねえのか!」

「いやでもボクらだって魔法力が……」

「勝田、やめろ」

 

 勝田を制して卜部が若本の前へ出た。

 

「全くもってお前の言う通りだ。面目ない」

 

 騒ぎを聞いて、畑にいた矢内と中野も少し離れたところから様子を伺う。

 

「認めるんだな!」

 

 えらい剣幕の若本に卜部が頷く。

 

「洋上での救難者の捜索、救助活動も水偵ウィッチの任務の一つだ。そのための装備も訓練もしている。結果を残せなければ追及されても仕方がない。許せんと言うなら気の済むように私を殴れ」

「なーにウミワシの真似してかっこつけてんだか」

 

 勝田が卜部の背伸びした態度に冷ややかな感想を言い終るかどうかというところで、間髪入れずに拳が卜部の左頬に突き刺さった。足を上にして2mくらい吹っ飛んで、背中から着地すると、

 

「ほ、本当に殴りやがった……」

 

 最後のセリフを吐き、首をかくんと後ろに落としてそのまま伸びてしまった。卜部、あっさりと撃沈である。

 

「うわあてめぇ、いくらなんでも遠慮なさすぎじゃないか?!」

 

 伸びてしまった卜部を見て勝田が吠えると、若本は勝田にも殴りかかった。

 

「うおおお!」

「こんにゃろう!」

 

 勝田は魔法力を発動する。制空も担当する95式水偵使い、まして元戦闘脚乗りなので、戦闘モードへの切り替えの早さと思い切りの良さは伊達じゃない。魔法力を伴った腕力で若本にスイカを投げつける。若本は咄嗟に竹刀で払おうとするが、魔法力に任せて投げられたスイカを受けるなどできず、思いっきり頭にぶつかってスイカが砕けた。遠巻きに見ていた矢内と中野は、頭部から赤い破片が飛び散って人が崩れ落ちたので、「ひい!!」と悲鳴を上げて真っ青になった。

 仰向けに倒れて、スイカの破片だらけの頭を振りながら若本は起き上がると、「やりゃあがったなあ!」とこちらも魔法力を発動する。取っ組み合いになった。

 拳での殴り合いかと思いきや、興奮すると引っかき合いや頬の引っ張り合い、つねり合いとなるところは、所詮年齢が女子中学生である。大乱闘になったので、矢内が「双華ちゃん、誰か呼んできて!」と叫びながら止めに入り、中野は血相を変えてハンガーへと走り去った。

 そこに坂本達が到着した。

 

「徹子、やめろ!」

「ああ、魔法力使って喧嘩しちゃ危ないよ!」

 

 坂本と竹井が若本と勝田を羽交い締めして離れさせようとするが、魔法力を発動している二人をそう簡単には止められない。そこへ中野に呼ばれてハンガーからやってきた奥田と中村が駆け付けた。

 

「なに? 集団で襲撃?!」

「偵察部隊だからって、あたいらをなめんじゃないよ!」

 

 こちらも迎撃態勢に入り、腕まくりして突入していく。

 

「まあまあ、ちょっと落ち着いて、冷静になりましょう」

 

 止めようと犬房が立ち塞がったが、「邪魔よ!」「どいてな!」とダブルパンチを食らう。犬房の目の色も変わった。

 

「ほー? 陸戦ウィッチに陸上で喧嘩を売るとはなかなか……」

 

 抜き去ろうとする中村の肩を後ろから掴む。中村が振り向きざまに裏拳を返すがパシッとそれを手の平で受け、

 

「いい度胸ですねえ!」

 

とこっちも喧嘩に加わってしまった。

 坂本と竹井は一方的に殴られながらもなんとか止めようとしているが、犬房まで水偵隊の援軍とやり合うようになったことで手が付けられなくなった。

 一歩遅れてやってきた水偵隊の竹内は、スイカも凶器にして取っ組み合っている皆に

 

「や、やめなさーい」

 

と言うが、海で見せたような迫力は全くなく、誰の耳にも届かない。オロオロしてるところに、副隊長の高橋中尉と水偵隊司令の宗雪中佐が慌てる風でもなくやってきた。しばしわあわあと土煙を上げてる少女達の合戦を眺めていたが、すぅっと息を吸い込むと、腹に力をこめて声を発した。

 

「何をしているか!」

 

 高橋中尉の叱りつけるような大声が響き、皆の動きが止まった。

 

「ひゃああ」

 

 士官が2人、腕組して立っているのを見て、竹井の顔が真っ青になった。

 

「若い子は血気盛んでいいわねえ。でもせっかく育てたスイカを台無しにするのは感心しないわ。皆畑から出てちょうだい。畔の横に整列」

 

 落ち着き払った穏やかな、それでいて通る声で宗雪司令が言う。肩章を見て相手が中佐だと分かると、さすがに若本も顔から血の気が引いた。

 

「あら、うちの隊の娘じゃないわね。どこの娘かしら?」

 

 一列に整列したウィッチ達の顔を眺めて、宗雪から見て遠くに並んでいる4人を認めると、てくてく歩み寄っていった。坂本は左右の若本や竹井を流し見る。皆下を向いて気まずそうにして押し黙っているので、意を決して声を張り上げた。

 

「第12航空隊の坂本美緒一飛曹以下3名であります!」

「あら、もしかして北郷少佐のところの?」

「は、はい」

 

 北郷のところの者だと分かると、高橋中尉の顔も渋くなった。しかし1名毛色の違うのがいる。

 

「あなたは陸軍さん?」

「は、はい。犬房由乃、りくぐ…」

「そ、その方は通りすがりの人で、止めに入ってくれたんです! この騒ぎとは全然関係ない方なんです!」

 

 犬房は本当に部外者だ。ここで彼女や彼女の所属部隊に迷惑をかけてはいけない。坂本はなんとか庇護しようと犬房の返事をかき消した。

 

「ふうん? それでご訪問の理由を聞かせてもらおうかしら?」

 

 宗雪の問いに若本も坂本も言い淀む。高橋がため息混じりに代弁した。

 

「大方、北郷少佐の敵討にでも来たんだろう」

 

 坂本は顔を上げ慌てて否定した。

 

「いえ、決して敵討なんてことは! 3日間総力を挙げて捜索をしてくださったというのに」

「でも見つけられなかった」

 

 宗雪が坂本の言葉の先を続けた。

 

「よりにもよって北郷少佐を撃った第2戦隊に先を越されたんだものね」

 

 宗雪は坂本ら12空の面々の正面に立つと姿勢を正し、そして頭を下げた。

 

「我々が未熟ゆえの失態です。申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる司令に、高橋中尉は22空のウィッチ達を大急ぎでこっち来いとジェスチャーし、宗雪の左右に駆け寄った22空の皆も次々に頭を下げた。

 犬房は左右を見回し、自分は頭を下げられる理由がないので、こっち側にいるのはおかしいと思って、一歩下がるとなぜか若本達の方へ頭を下げた。卜部だけが畔の脇で伸びていた。

 慌てたのは若本や坂本らの方だ。下っ端の航空ウィッチはともかく、中佐に頭を下げさせてしまったのだ。

 

「も、申し訳ありません! 頭を上げてください! そ、そんなつもりじゃなくて……」

「許してくれるの?」

「ゆ、許すなんてそんな……まったくもって遺恨などありません! こちらこそご無礼をお許しください!」

「そ、そうだよ。水偵隊だって犠牲者を出してるんだから。つらい想いをしてるの、徹子ちゃんも分かってあげなきゃ」

 

 犠牲者をと聞いて、若本はうっと気まずい顔になった。

 宗雪は目を閉じるとぽそっと呟いた。

 

「……そういえば、あの娘達は遺品も拾ってあげられなかったわね」

「ぐむっ」

 

 若本の顔が恥じた気持ちをはらんで歪んだ。

 頭を上げた宗雪はにっこり微笑むと、自部隊の面々を見やった。

 

「叱責を真摯に受け取り、より一層厳しく訓練に励んで腕を磨きますわ。次こそ犠牲者を、どちらにも出さないように」

 

 22空の皆が、げげっと恐れおののく。坂本は若本を小声で突っついた。

 

「徹子、水偵隊に余計な負担かけさせちゃだめだよ」

「うぇ、は、はい。出過ぎたことを言うつもりはなくて、そ、その」

「いいのよ。私も今回の事は本当に恥じているのだから。陸軍さんもそれでいいかしら?」

「あ……その方は、本当に部外者なんです!」

 

 坂本は必死に犬房が表に出ないようにとするが、犬房本人はまあまあと坂本を片手で制する。

 

「話はここに来る間に聞かせてもらいました。私はその場にいなかったので当時のことは分かりません。ですが、ちょっとしたすれ違いなんだろうなあと思ってて、こっちの部隊が任務にどれ程真剣だったかを確かめたかったんです」

 

 意外な話に坂本や竹井も驚きを隠せない。宗雪は黙って先を聞く。

 

「現場の者は普通必死で任務に就いてます。信念を持ってやってるなら手は抜きません。それでも上手く行かないことは沢山あります。いくら頑張ってもどうにもならない時だってあるんです。ただそんな時でも、現場の兵に責任はありません。責任は指揮官が取るんです。

 私は皆さんが任務に魂を込めていたかを知りたかった。それ次第でどっちに味方しようか決めようと思ってたんです」

 

 宗雪はふうっと鼻から溜まった息を吐いた。

 

「困ったわねえ。舞鶴の娘に味方してたみたいだから、私達は不合格ってことねぇ?」

「いいえ。拳を交わして解かりました。どっちにも本当の魂がこもってたのです。そして、指揮官は結果にも責任を取られました。部下が真剣であったからこそ、謝るのに躊躇しなかったんです。そして私の至った結論は……」

 

 上を向いて考えを纏める犬房に、坂本達も水偵隊も固唾を飲んで先を待つ。

 

「航空歩兵、かっこいいっす!!」

 

 皆がズッコケた。

 

「それが結論?!」

「はい!」

 

 宗幸司令は笑顔ながらも眉間を揉んでいた。無理やり納得させてるようだ。

 

「あなたの部隊名は聞かないでおくわ。名前も忘れました。このこと内緒にしといてくれる?」

「はい、勿論です。あ、別のこと思い出しましたよ。水上機母艦のウィッチ隊、第5師団を救った航空隊ですよね!」

「そんな事もあったかしらねえ。……矢内さん、皆さんにお土産を持たせてあげてね。幾つ持っていく? 今年は出来がいいから大きいのが沢山あるわ。好きなの持っていって」

 

 宗雪がまだ幾つもスイカがごろごろしている畑を指して言うと、高橋がポンポンと叩いて身のしまりを確かめる。

 

「勝田、矢内、これとこれは良さそうだぞ。中野、奥田、縄持ってこい。持ちやすいよう縛ってやれ。中村~、卜部いつまでも寝かしとかないで起こせ。あとはどれがいいかなっと」

 

 どんどんと目の前に積み上げられていくスイカ。

 

「え?! あ、あの、こ、こんなに?! 持ちきれません!」

 

 坂本がうろたえる。

 

「一人5,6個いけるだろ」

「いえ、十分です! 感謝いたします!」

「そうか?」

 

 結局一人2個、特大サイズをぶら下げることになった。犬房だけは4個。陸軍は鍛えてますからと屈託なく嬉しそうにしていた。

 若本が担ぐのを高橋は手伝いながら言い添えた。

 

「うちの隊長も北郷少佐と同じ病院に入院しているから、今度少佐にも持っていってあげよう。だからそれは君たちで消費するんだぞ」

「す、すみません、ご配慮感謝します」

 

 高橋が手を離すと、若本の肩に縄が食い込む。

 22空の皆に手を振られて、坂本達はぺこぺこと頭を下げ、来た道を引き返していった。

 

 

 

 

 基地が見えなくなったところで、若本が眉間に皺を寄せて唸った。

 

「重てーよー」

「基地まで何キロあったっけ?」

 

 坂本の問いに竹井が汗をポタポタ滴らせて答える。

 

「20キロはあるよ」

 

 皆げえっと肩を落とした。徹子が呟く。

 

「もしかして、これ仕返しか?」

 

 国道に出たところで、犬房が重さも何のそので敬礼する。

 

「それでは皆さん、私はこれで」

 

 坂本は何とか答礼しようとするが、諦めて一度スイカを下ろした。

 

「申し訳なかったです、犬房軍曹。いろいろ巻き込んでしまって」

「いえ。お気になさらず。収穫は有り余るほどでしたから」

「スイカ4個も貰ったもんね。どこまで戻るんですか?」

 

 竹井も耐えかねてスイカを下ろした。

 

「宿営地は伊根です。30キロくらいですかね」

 

 竹井の質問にあっけらかんと言う犬房に、皆ええー? っと驚く。

 

「スイカ以上に、航空歩兵の方々と話せた事が一番の収穫でしたなぁ。では、失礼しまーす」

 

 犬房由乃。坂本達や水偵隊と交流があったという公式記録はないが、この時の経験は少し彼女の経歴に影響を与えたかもしれない。

 その後航空歩兵に転向し、後の505JFWメンバーと共に『最も長い撤退戦』を生き延びるのは皆さんもご存知の通り。

 

「面白い人だったね」

「うん」

「早く帰ろうぜ。門限に遅れたらまた便所掃除だぞ」

「……誰のせいだと思ってるんだ?」

 

 

 後日意識を回復した北郷に、若本らがこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ぶあっ! んなろ大人しくしてりゃ調子に乗りやがって、(つら)出せ!」

 

 急に畑の横で跳ね起きた卜部だが、周りでは22空の皆がスイカを割ってシャクシャクと食べてるところだった。

 

「もう終わっちゃったよ。ぷっ」

 

 勝田の口から飛んだスイカの種が卜部のおでこに当たってはね返った。

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 一月後の10月初旬。

 舞鶴の朝はだいぶ涼しくなっていた。海軍病院の玄関で、車椅子に乗った北郷少佐は朝日に目を細め、きれいに晴れ上がった空を見上げた。その周りを白と青のセーラー服を纏った少女達が取り巻いている。

 

「皆すまない。トラックは都合できなくてね」

「いえ。先生が乗る乗用車は手配できたのでよかったです」

 

 車椅子を押していた坂本は穏やかに微笑む。

 

「どうも大型の補給船が入港したらしくてね、配車係もてんてこ舞いしていた。さすがに私用では使えなかったよ。それじゃあ、君達が着く頃を見計らって私も出るから、先に行っててくれ。市街地通る時は気を付けるんだよ」

「往復40キロか~」

 

 若本は遠い目をした。

 

「み、皆で押せばなんとかなるよ!」

 

 竹井が頑張るポーズをする。

 

「よーし、俺が引くから、美緒は後ろ、醇子は左でサポート。行くぞ!」

「「おーっ」」

 

 若本の号令で、3人のウィッチは大八車を押して病院を出ていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 栗田(くんだ)水上機基地では、一足先に海軍病院を退院したもののまだ車椅子の田山大尉が見守る中、22空のウィッチ達が運動場で訓練をしていた。

 各ウィッチはシールドを自分の後ろに張り、目を瞑って立っている。シールドの色がやけに薄い。薄いのは弱く張っているからだ。弾丸はおろか、ボールも防げないくらい薄いシールドだった。

 並んでいるウィッチ達から少し離れた後方に立つ高橋中尉は、右手に持った石ころをポンポンと手玉にしていたが、急に身構えるとそれをウィッチの方へ投げた。その石は、難しい顔をして立っていた矢内のシールドを通過し、背中にどすっと鈍い音を立てて当たった。

 

「いたああ!」

「何やってるウミネコ! それが怪異の機銃弾なら、今日中に死亡通知がお前の家族に届けられるところだぞ!」

 

 怒鳴りながらも次の石を投げる。

 

「うおっ、きたー!」

 

 卜部が当たる前にジャンプして飛びのく。飛んだ先には勝田がいた。

 

「なんかでかいの来た! うぎゃ!」

 

 卜部が迫って来るのを感じた勝田だったが、石を避ける程度に身を逸らしただけだったので卜部の体は躱しきれず、二人は衝突してもつれて倒れ込んだ。その前にいた中野は困惑する。

 

「ちょっと暴れないで! 場が乱れてわかんなくな……」

 

 すかさずそこへ石が飛んできて、中野のお尻に命中する。

 

「いやーん!」

「K2中途半端な逃げ方するな! アジサシ、乱戦になると敵味方入り乱れて飛ぶこともある。制空のお前が混戦くらいで慌ててどうする! 味方同士の衝突は最悪だぞ!」

 

 四つん這いになってお尻をさすっている中野の先に向けて高橋は石を投げる。中野の前にいたのは中村。急にシールドが直径30cmくらいに小さく窄まると、ぴったり飛んできた石のところで強く輝き、キィーンと石を受け止める。

 

「うまいぞミヤコドリ!」

「むふふ、あたいの防御はカンペキよ」

 

 これはシールドに当たろうとするものの圧力を感じ取ることでセンサーとして使うという、水偵ウィッチ隊ならではの技の一つだ。避けるのに使うだけでなく、当たるところに的確にシールドを持っていき、かつ角度を付けて当てることで、弾を受け流すこともできる。シールドを強く張れない水偵脚では、少しでも生き残るために必要な技術である。

 

「なんか変わったことしてる」

 

 運動場の垣根から目だけを覗かせていた坂本は興味深げに見入る。

 

「シールドって防御するだけじゃないのか?」

 

 若本はそれっと拾った小石を投げた。

 

「ばっか、なんてことするんだ徹子」

 

 坂本が若本の手を掴むがもう遅い。

 

「え、こっちから?!」

「やや、もうきたー!」

「なんかでかいの来た! ぐげっ!」

 

 小石に気付いたのは竹内と、並び直ったばかりの卜部。勝田は飛び退いた卜部を感じ取ったものの、またも下敷きにされた。

ちょっと予想外の方から来たので目を開けた竹内は、垣根に少しだけ飛び出た頭を発見する。

 

「あら、あなた達」

 

 奥田もはっとそれを認めると、垣根に向け走り出す。

 

「ウミガラス敵影を確認、これより接触行動に移る! 警報、警報!」

 

 卜部と勝田も起き上がると走り出した。

 

「トビ、さらに広範を索敵する!」

「K2迎撃体制に入る。アジサシの応援求む」

「アジサシ了解!」

「ウミネコ増援を呼び、現場まで誘導します!」

 

 だっと散らばる水偵ウィッチに驚く坂本達。近付いてきた奥田と目があった。

 

「あ、舞鶴の!」

「こちらトビ、敵の後方支援部隊を発見!」

「ええ?!」

 

 大八車のところにいた竹井が卜部に見つかって、びっくりして大声を上げる。

 

「さてはまた襲撃か?! それ車爆弾だな?!」

「ええー? 違うよ!」

 

 卜部の横に駆け付けた勝田は、竹井と大八車を確認するとシールド発生させ正面に構えた。

 

「にゃろめ! K2はこれより敵増援を先制爆撃する!」

「わああー待って待って!」

 

 仲間の一連の行動に竹内はオロオロし、高橋はこめかみを揉んでいたが、やがてため息混じりで水偵隊へ向けて言った。

 

「K2、攻撃許可は出してないぞ。各員その場に待機」

 

 矢内が田山の車椅子を押してやってきた。

 

「お前らここんとこ何かやってると思ってたが、なんの訓練してたんだ? なんだその連携の良さは」

 

 田山はやや呆れ気味に言う。奥田は頭を掻いた。

 

「いえ、先月あっさり基地内に侵入されて、内部での戦闘を許してしまったもんですから……」

「返り討ちしてやるんでい!」

 

 あの時一人伸びて何もできなかった卜部が一番息巻いていた。

 

 そこへ車がやってきた。運動場のすぐそばで停まると、運転手が降りてトランクを開け車椅子を下ろす。坂本や竹井も走っていって手伝い、やがて車椅子に乗り替えた北郷がやってきた。

 

「先日は私のところの者が迷惑をかけたね。スイカのお返しを持ってきたよ」

「北郷少佐! もう退院されたのですか?」

「いや、まだなんだけどね。だいぶ調子がよくなってきたから外出の許可が貰えたんだ」

「そうでしたか」

 

 田山大尉が矢内に押されてそばまで行くと、二人は車椅子のまま敬礼を交わした。

 卜部は大八車を指差した。

 

「それ車爆弾じゃないのか?」

 

 若本は何言ってんだこいつという表情をする。

 

「アホか、おのれらは」

 

 若本は荷台に掛かっていた縄とむしろを取り去った。するとそこには、舞鶴飛行場周辺で収穫したサツマイモや落花生などがどっさりと積まれていた。荷台を覗き見た水偵ウィッチ達は目を見張った。

 

「イモだ!」

「芋?!」

「うっそ、焼き芋食いたい!」

「隊長、休憩にしましょう!」

 

 乙女は焼き芋に目がない。

 

「はあ~。まあいいだろう」

「やった! 火を起こせ、焚火用意!」

「消火用水を持て!」

「周辺の可燃物を撤去せよ!」

「うりゃ!」

「君達も食べていきなよ」

「いや、差し上げたものに手を付けるわけには……」

「もうあたいらに所有権が移ったものだ。誰に食わせようがあたいらの勝手だよ」

「先生、どうします?」

 

 坂本に顔を向けられた北郷は、その顔が期待の色を見せているのに苦笑した。

 

「そうだね。せっかくだからご相伴しようか」

「わあ!」

 

 ぱあっと竹井が嬉しそうな笑顔で輝いた。

 

 

 

 

 焚火の灰の中から、焦げた新聞紙の塊を掘り起こす。新聞紙を剥くとホカホカと湯気を立てたサツマイモが現れた。

 

「ほれ」

「あ、ありがとう。焼き芋焼くの上手だね」

 

 坂本は卜部から渡されたイモをあつあつとお手玉する。

 

 食べながら皆は将来の話をした。

 

「12空の皆はこの先どうするの?」

 

 勝田の質問に、坂本と若本はお互いをちらりと見た。

 

「士官教育を受けようと思ってる」

 

 顔を戻し真っ直ぐ勝田を見据えた若本は明快に答えた。坂本は少し俯きながら自分に言い聞かせるように話し始める。

 

「ウラルでの戦いでは、カールスラントのウィッチから欧州のストライカーユニットや戦術を見せてもらった。やっぱり欧州は何もかもが進んでいる。陸軍の人達との交流も面白かったけど、何より異なる文化の国の人と一緒に戦うっていうのが凄い刺激的だった」

 

 単一民族で似たりよったりな考えしか浮かばないところに、全くの異文化の人間が入る事で、戦闘だけでなく普段の生活の中でも大きな変化、革新が起こる。後の統合戦闘航空団の効果にも繋がる経験を、美緒はこの時から無意識の下に得ていたのかもしれない。

 そして顔を上げると、穏やかながらも強い信念を持った表情で結んだ。

 

「向こうに行って色々学びたい」

「その為には美緒もまず士官候補生からだな」

 

 若本と坂本は頷き合った。

 卜部は焚き火を突きつつ呟いた。

 

「坂本達は欧州を見据えているのか」

「竹井は?」

「……まだ、色々考え中、です」

「ほぉ~」

「卜部さんは?」

 

 坂本の問いに卜部は、にへっと笑った。

 

「私は自分の水偵隊を持って隊長になりたい」

「水偵隊の隊長? それじゃ卜部さんも士官にならないとだね」

「隊長のウミワシや副隊長のカツオドリにあこがれてんだろうけと、卜部さんは頭悪いからなあ」

「なにい? 勝田の筋肉脳に言われたかねえぞ!」

「そっちこそ脳みそで腕立て伏せできるじゃんか!」

「脳みそに腕なんか生えてねえ!」

「脳みそが伸びたり縮んだりしてんじゃん! 縮みっぱなしだっけ?!」

 

 小突きあう二人にアハハと笑う坂本達。笑いで滲んだ涙を拭って若本は聞いた。

 

「それで隊長になったらとうすんだい?」

「そうだな。水偵脚は欧州で使えるかな」

「どうかな。でも欧州だって海はある。大西洋、地中海。扶桑海より大きいよ」

「そっか! そしたら出番を作って呼んでくれよ」

「ボクも行く!」

「うん、わかった」

「絶対だぞ」

 

卜部の突き出したイモに、勝田、坂本、若本もイモをぶつけ合い、竹井は微笑みを返した。

 

 

 

 

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「でも、結局呼んでくれなかったんだよなあ」

 

 卜部はシンガポールの海辺のカフェで、咥えたストローを上に向けて言った。

 

「隊長にはなれたのね」

 

 優奈が、脳筋でもなれるならあたしも、と可能性を探る。

 

「イモ、おいしそう」

 

 話の中身と関係ないところに関心を寄せる千里を無視して、天音は問いかけた。

 

「じゃあ欧州に水偵ウィッチは誰も行ってないんですか?」

 

 その問いに卜部は「んにゃ」と否定した。

 

「最初の遣欧艦隊で、艦隊直属の偵察員として、私らの先輩の初代カツオドリこと高橋、派遣当時大尉と、ミヤコドリこと中村、当時少尉の二人が行ったんだ。だけど欧州の戦場は陸ばかり。出番はなかった。そしていよいよ艦隊の拠点だったリバウが攻撃を受けるようになり、リバウ撤退戦の中で、艦隊上空の警戒と直掩で飛んでる時に空中戦になって、撃墜されちまった。少し怪我しただけで命は助かったけどね。94式や95式ではもう何もできなかったそうだよ。そりゃそうだよな。扶桑海事変の時でさえシールドが弱すぎで力不足だったんだから」

「初代カツオドリは空戦技術凄かったと聞いてるけど」

 

 カツオドリのコールサインを引き継いだ千里は聞く。

 

「機体の旧式化が腕でカバーできる範囲を超えてたんだよ。それでも1機落としたっていうから、腕はやっぱ凄かったよな」

「教わりたかった」

「大丈夫。勝田はその後継者だ」

「勝田さんがサーカスというのは印象がない。あんなに綺麗に飛ぶのに」

「改宗したのさ、突き詰めていくうちにね」

 

 勝田は頭の後ろで腕を組んで、椅子を後ろに傾けてゆらゆらしていた。

 

「千里も派手な飛行を改宗しないと」

「無理」

 

 両手で頬杖して海を眺める天音は卜部に首を少し傾けて問うた。

 

「じゃあわたし達も、欧州では通用しないんですかね」

 

 卜部は即答した。

 

「そんなことはない。零式水偵や二式水戦のシールドは強力だし、瑞雲はさらに攻撃力も備わってる。リバウの時みたいな性能不足にみまわれることはないし、航続力なんか化物みたいにある。それにお前達が行くとなったら相手は海のネウロイだ。欧州のどの水上ストライカーより高性能なんだぞ。自信持っていい」

「その欧州の機体を使ってるわたしはどうなんでしょう」

 

 シィーニーが手を振った。

 

「ああ、ソードフィッシュは速度の遅さが気になるところだな。だけど複葉ならではの極低速の安定性、悪天候の強さは他にない特徴だし、魔導エンジンも新しくてシールドも硬い。最新兵器を扱える器用さもある。見かけは94式水偵に似てるけど、全然違う。そして潜水型ネウロイには天敵だ。適所で使えば絶対活躍できるよ。保証する」

 

 我々の世界でもソードフィッシュは、複葉機ながらWWⅡ終戦まで活躍した名機だ。

 

「それを聞いて安心しました」

「22空の人達は皆引退しちゃったんですか? アジサシの人とか卜部さんより若かったならいまでも……」

 

 アジサシの名を引き継いだ、というか突き出た能力でキョクアジサシとちょっと改名された優奈は気になっていた。

 

「中野は魔法力の減退が早かったな」

「うん。二十歳になってすぐ飛ぶ力も落ちてきちゃって、早めに引退したね」

 

 勝田が相槌を打つ。優奈はがっかりした。

 

「現役でいるのは矢内、先代ウミネコじゃない?」

「ウミネコの人、まだいるんですか?!」

 

 現ウミネコの天音が嬉しそうに顔を上げた。

 

「飛行艇脚部隊の隊長だよね。大尉かな」

「卜部さん、階級抜かれちゃったんですね」

 

 卜部は気にせんと手のひらを振る。

 

「ボクたちは恨まれてんだね、きっと」

「何やらかしたの?」

 

 ジトッと優奈は勝田の顔を睨む。

 

「ま、そのうちおいおい」

「……ふーん」

「卜部さん、わたし前のウミネコの人に会ってみたいです」

「そうだな。扶桑戻ったら顔出すか」

「わあ、絶対ですよ。楽しみー」

 

「飛行艇脚部隊って、こないだ渋谷いのりの凱旋ツアーで機材運びをやったらしい」

 

 発言者の千里に皆の視線が集まる。

 

「なんだと?」

「そんなのがあったの?!」

「先月、物資不足の扶桑を元気づけるためにルミナスウィッチーズが慰問に来たって。私達は船団護衛の真っ最中だった」

「ルミナス! センターボーカルは宗主国様のウィッチ、ジニーさんです!」

 

 シィーニーがブンブンと手を振る。

 

「ちょっと矢内呼べ! 向こうから来させろ!」

「そうだね。その少ない物資を届けてるのはボク達だ。慰問してもらわなきゃ」

「う、卜部さん、向こうは隊長さんでしょ? 階級も上になっちゃった人だし……」

「関係ないな」

「うん。関係ないね」

「ぜったいルミナスから何かもらってるだろ。届けさせようぜ」

「いのりんの凱旋ツアーなら、鳴海米で作った扶桑酒とかが配られてんじゃない?」

 

 それはけしからん。絶対呼び出そう、と鼻息を荒げる卜部&勝田に、後輩とはいいえそんなことできるんですかぁ? といぶかし気な天音&優奈。

 

 シィーニーはお店の椰子の実ジュースを啜りつつ、扶桑のウィッチ達を羨ましそうに眺める。

 

「いいですねぇ。扶桑の皆さんはそうやってちゃんと伝統や技とかを引き継いでいってるんですね。ウラベさんからアマネさんへ。サカモトさんはミヤフジさんへ」

「そうだな。私も宗幸司令や田山隊長から引き継いだし、坂本も北郷さんをちゃんと受け継いでたもんな」

「シィーニーちゃんは出発点だね。誰に引き継ぐのかなあ」

「植民地軍じゃ伝統なんて夢ですねえ。マレーの独立が必要かなー」

「それ、某大尉に聞かれたらヤバそうね」

 

 優奈の一言にシィーニーは口からストローを落とした。必死に左右上下を見回す。あの人はどこで聞き耳を立てているか分からないのだ。

 

「今のナシ! 記憶から抹消してください!」

 

 

 

 

 夜景に変わっていくシンガポールの港。沖合に停泊する沢山の船の灯火が次第に増えていく。カフェの野外席にはウィッチ達の楽しげな笑い声が響く。

 ワールドウィッチーズの物語は、受け継がれていくウィッチの歴史の物語なのだ。

 

 

 





 ここまで読んでくれた方々、駄文にお付き合いいただきありがとうございます。最終話はかなり長くなってしまいました。
 オリジナルウィッチの話ですし、それも本編の外伝、脇役の方を取り上げたものともなると、本編水音の乙女をよほど読んだ方でないと興味わかない内容と思います。坂本さんや若、醇ちゃんはここではさらに脇役扱いですし。

 栗田基地への襲撃を止めに行くメンバーには、最初西沢義子を当ててたんですが、坂本さんや若と会ったのは遣欧艦隊でとのことだったので、扶桑海事変参加者の若いのを物色して、犬房さんに変更したという経緯があります。犬房さん好きなんです。
 ルミナスの話題も入れてみました。まだどんなふうに描かれていくのか、PVだけでは想像つきません。扶桑酒の話は、ジニーのCV当ててる鳴海舞さんが出た回のラジオトークかなんかで盛り上がったのが元ネタです。

 後で外伝版の登場人物紹介でも書いとくつもりです。水偵隊の元ネタの人とか。

 ところでRtBの芳佳ちゃん強すぎ! 本作に登場してもらった時は殆ど食材補給の話でどたばたしてばかりで、3章でようやく戦闘場面にも登場し、天音たち国内組との格の違いを見せてくれましたが、原作はそんなもんじゃない成長ぶりでした。501再結成に涙が出ます。他の部隊も出てくることをひそかに期待。


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