水音の乙女   作:RightWorld

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2020/01/11
体裁修正しました。





第40話:世界に認められる力 その8 ~世界最高性能潜水艦VS水音の乙女~

 

 

水中のU-3088。

 

「ソナーです。真上に水上機が着水したと思われます」

「真上?!」

「もしかして見つかったのか?」

「機関始動準備しろ」

 

暫くして、斜め上で爆発音がした。衝撃はそれほどでもなかったが、音は人を恐怖に陥れるに充分だった。

まったく慣れていないハナGが絶叫した。

 

「ワアアア!!!」

 

続けざまに90度ずつずれて爆発が起こった。

 

「き、機関始動! 方位0、全速!」

 

モーターがスクリューを回し、U-3088は右に旋回した。

 

「今水中は爆雷の爆発で乱れている。パッシブソナーなら捉えられないはずだ。それに本艦は水中速力17ノットの高速で逃げられる!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

だが、天音からは逃げられなかった。爆雷で乱れる水中の混乱の中でも見渡す術を天音は今までの演習で心得ていた。

 

「潜水艦が動き出しました。旋回中。……方位0です。速度10ノット。まだ加速中」

「一崎、掴まってろ。追うぞ」

 

卜部機は潜水艦の真上を維持すべく水上を滑りだした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「10ノットでまだ加速中? 本当にそいつは潜水艦か?」

 

葉山少尉が疑うほどその潜水艦は考えられない速度を出していた。小型特殊潜行艇ならともかく、通常の大きさの潜水艦でその速度を出すものはほとんどいない。

 

「カツオドリ、今どこにいる?」

 

≪キョクアジサシのところにいます≫

 

「3番2号爆弾はもう1発残ってるな? 潜水艦の速度が安定したら、その正面に爆撃。当てないように」

 

≪了解≫

 

「それでも止まらなかったら、次はキョクアジサシだ。持ってる演習用1番を奴の進路前方にばら蒔け」

 

≪ええー? 今度は見えない高速移動中のにですか? 当てちゃうかも≫

 

「何のために練習してたんだ」

 

≪見えない相手は練習してないんですよー。その前に深いところにいすぎて演習用1番じゃ警告になるかどうか≫

 

その時、聞き慣れない声が入ってきた。

 

≪私がやろうか?≫

 

優奈の横に見たことのないストライカーユニットを履いた色白の航空ウィッチが並んだ。腰まである水色の髪、濃紺のセーラー服、彼女の履くストライカーユニットはフロートの形をしていることから、水上ストライカーユニットだと分かる。優奈の零式水偵脚よりコンパクトながらより獰猛で厳つい感じを漂わせ、人の胴体ほどもある爆弾を抱えていた。

 

≪私は伊401の水上攻撃脚“晴嵐”搭乗員、霧間伊緒菜(きりまイオナ)。実弾の6番2号爆弾を積んできた。脅すならこっちの方がいい≫

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「速度17ノット!」

「アクティブソナー音は?」

「確認できません!」

「このまま逃げるぞ」

 

その時、物凄い大きな爆発音と衝撃に包まれ、潜水艦は激しく揺さぶられた。

 

「前方で爆雷爆発! こ、これは実弾です!」

 

前方?!

 

「ぎゃあああ!」

 

金子中尉が絶叫する 。

 

「死ぬ死ぬ! 助けてえ!」

 

副長も真っ青だった。

 

「深度も合ってます。本艦は捉えられてるのでは?!」

 

ランベルト艦長は胃が搾られる様な感覚の中で判断を迫られていた。

 

『さっきは潜水艦の周囲に。今度は進路前方に。信じがたいが副長が言うように完全に位置、行動を把握されているのか? いや、まさか……。しかしこいつの性能は桁外れなのだ。もう一度変針してみるか……』

 

「面舵90度! 深々度で躱す! 180mまで一気に潜るぞ!」

「面舵針路090、180mまで潜航、進入角10度!」

 

UボートXXI型は水中速度だけでなく、潜航深度も他国の潜水艦とは一線を画していた。扶桑やリベリオンの潜水艦が100m前後の潜水能力だったのに対し、XXI型は200m以上潜る能力があった。

傾く船体に乗員は手摺りを掴んで身体を支える。滑り落ちそうになるハナGを副長がひっ掴んで押さえた。掛かる水圧で船体が耳障りな軋み音をあげる。その圧迫感に耐えられなくなったハナGがまた盛大に悲鳴を上げた。

 

「深度180m、艦水平!」

 

普通の潜水艦には潜れない深度である。乗員たちが少し安堵の色を見せた。

 

「よし、しばらくこのままで行くぞ。連中の演習海域を脱出……」

 

艦長の言葉を遮ってまたも針路前方、しかも明らかにほぼ同じ深度で爆雷爆発が起きた。その爆発力は先ほどの比ではない。もっと近くで爆発したのか、爆雷の威力が大きいのかだ。再び艦が激しく揺さぶられる。

 

「ぎゃあああ!」

 

耐えられないハナGが叫んでハッチに登っていこうとした。ただちに乗組員に取り押さえられる。

もはや疑う余地はなかった。間違いなく位置を正確に把握されている!

 

「艦長ー!!」

 

金子中尉を必死に押さえる副長も、ランベルト艦長に目を血走らせて泡唾を飛ばした。

いずれの爆発も艦の周囲や進路前方の少し離れたところだった。その正確な手加減具合は、非常に正確に位置を把握しているということの表れでもある。被害が出ないよう留意された攻撃はまだ警告の範囲に留まっているが、このまま警告が続くとは限らない。隠密作戦といえど、友好国に沈められては割りに合わない、というのが副長の思いだった。

しかしランベルト艦長には政治的な考慮もあってまだ迷いがあった。

太平洋にいることを一切知らせていない艦、公にされていないXXI型Uボートの性能。領海侵犯。そしてカールスラント潜水艦隊の誇り。

 

その時、人の声が艦の外から響いた。その言葉は艦長や乗組員は理解出来なかったが、鼻血を吹き出して取り押さえられてるハナGが腕の隙間から艦長に懇願した。

 

「今の聞きましたか?! 『もう諦めて浮上してください。次は、当てます』だって! うぎゃああああー! もう降伏してーー」

 

天音が魔導波に音声を乗せて水中に放ったのだ。扶桑語だったので聞き取れたのは金子中尉だけだったが、十分だった。ランベルト艦長は一切の抵抗する気力を失った。

 

連中の能力を丸裸にする。その任務は十分果たせたんじゃないか?

世界最高性能のXXI型U-3088。それが逃げることも隠れることもできない。

それはつまり、人類の潜水艦に、扶桑の対潜ウィッチ部隊を欺けるものはいないということだ。

 

「速度落とせ。急速浮上! 海面へ!」

「急速浮上、メインタンクブロー!」

 

 

 

 

浮上したU-3088はびっくりした。周囲には水上ストライカーユニットのウィッチが3人(優奈、千里、伊緒菜)、通常の水上偵察機が3機飛び回っていたのだ。

 

「信じられん。本当に我々は完全に追跡されていたようだ」

「こ、これが扶桑の対潜水ネウロイの切り札の力か」

 

 

 




XXI型Uボート対天音ちゃんの勝負は、天音ちゃんの圧勝でした!当然です。
そしてアルペジオ入ってる伊401。感想欄で話題になっていた水上ストライカーユニット晴嵐も初登場です。ウィッチの容姿はイオナそのものでいいと思います。艦これのポニテスク水の方じゃなくてスミマセン。


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