水音の乙女   作:RightWorld

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2017/1/22
誤字修正しました。
ご報告感謝です。>洋上迷彩さん
ついでに一部記載間違い修正と加筆しています。また沈めたネウロイの速度を2ノットから12ノットに直してます(2ノットは相対速度のつもりでした)。





第57話「ターニングポイント」 その5 ~反撃、12航戦航空隊~

 

○HK02船団 北東6Km海上

 

「ウミネコ、水中探信準備、完了しました!」

 

≪ウミネコ、こちらミミズク。探信を開始せよ。船団南の海防艦3隻がネウロイを捜索している。これの捕捉を優先する≫

 

「ウミネコ了解。全方位水中探査、開始します」

 

種形の尻尾の先端で光る魔導針の輪が真っ白に輝いて白熱し、パンッ!と弾けた。

零式水偵を中心に光る波紋が全周囲にサーッと広がる。

 

1波、2波、3波……

 

40秒ほどすると、天音は船団の隊列が書かれたボードに自身の探信情報を書き加え始めた。同時にインカムで護衛隊にも伝える。

 

「ネウロイ探知しました!船団5列目、東から3番目の貨物船の南700mに1隻。深度90m、速度12ノット、針路355。船団の中に向かってます」

 

その情報に護衛艦隊の全てが「ええ?!」と耳を疑った。誰もそのネウロイに気付いていなかった。しかもその位置だと既に南の海防艦の列を突破したことになる。

さらに耳を疑う情報が続いた。

 

「さらに南2500mにネウロイ2隻。6列目、一番東の海防艦からの位置、方位220、距離1860m、深度40m、速度6ノット」

 

 

 

 

○HK02船団 択捉型海防艦『笠戸』

 

一番東の海防艦とは笠戸のことだ。笠戸も自艦が備える水中探信儀でネウロイを探知していたが、1隻しか発見していない。

 

「こちら東寄りの海防艦、笠戸。本艦からの方位220に2隻、間違いないか?」

 

≪かさど、こちらウミネコ。2隻に間違いありません。前後にくっ付くくらいに並んで一緒に行動しています。ゆっくり浮上中≫

 

笠戸の艦橋ではみんなが信じられんといった顔を見合わせた。あまりにも明確に伝えてくるのでかえって信じがたかったのだ。

 

≪こちらウミネコ。そのネウロイですが頭の向きを変えてきています。1隻がかさどに向いています。もう1隻は船団5列目に向かっているネウロイのいる方向を向きました≫

 

笠戸ではますます信じがたい顔になった。何しろ彼らは対潜水艦戦の錬度の高い艦だ。ソナーの扱いだって熟知している。だが伝えられてくる情報は彼らの探知常識では考えられないものを伝えてくるのだ。

 

ネウロイの頭の向き?

だいたいそのウミネコとやらはどこにいるのだ?

 

 

 

 

○上空5000m 428空2番機

 

この情報に敏感に反応したのは葉山だった。

 

「1隻は笠戸を、もう1隻は海防艦の列を突破したネウロイを向き、浮上中…」

 

浮上ということは、魚雷発射深度まで上がろうとしているのでは?そしてそれぞれがこの向きで魚雷を撃てば、1隻は笠戸へ。

もう1隻は5列目の貨物船。さらにその先には……

 

葉山は船の配置を書き記した図面を指で追った。

 

『……3列目の陸軍特殊揚陸船!』

 

「ミミズクより笠戸へ、ネウロイは魚雷を撃つ可能性あり!至急現在位置から離脱せよ!」

 

 

 

 

○HK02船団 択捉型海防艦『笠戸』

 

「?!」

 

笠戸は困惑の局地であった。

 

「艦長、どうしますか?」

「信用してみよう。両舷全速、面舵20度!」

 

 

 

 

○上空5000m 428空2番機

 

「カツオドリ、こちらミミズク。今何処だ」

 

葉山は先行していった2式水戦脚のウィッチを呼び出した。

 

≪ミミズク、我カツオドリ。船団に到達した。3列目の東端≫

 

「カツオドリ、船団5列目南700mのネウロイを攻撃せよ!」

 

はやる気持ちを抑えても力が入ってしまう葉山に対し、一見感情が無いかのような声が返ってくる。

 

≪カツオドリ了解。カツオドリよりウミネコ≫

 

≪はい!カツオドリ、こちらウミネコ≫

 

≪最新の敵位置と針路を教えて≫

 

 

 

 

○HK02船団 北東5.9Km海上

 

フロートの上で天音は目を瞑って水中の情景を見渡す。探信魔導波は絶え間なく発信されている。そしてゆっくりと目を開けた。

 

「5列目3番目の貨物船からの方位199、距離682m、深度89m、速度12ノット、針路355」

 

≪カツオドリ了解≫

 

 

 

 

○HK02船団

 

カツオドリこと下妻千里は素早く頭で弾道計算して投弾位置を確定し、くるりと宙返りすると投弾位置目指して急降下を開始した。左右翼下の3番2号爆弾に魔法力が込められ、青白く輝き始めた。

いつもなら緩降下爆撃をしている千里。それは2式水戦脚、並びにその母体となっている零式艦上戦闘脚の急降下性能が悪いからだ。左右旋回の格闘戦を重視した設計は、逆に急降下による突っ込み速度には機体強度が足りなく、下手すると空中分解してしまうことがある。突っ込みが得意なのはカールスラントの戦闘脚だ。

だが今回は高度がそれほどないこと、投弾点が近いこと、何よりアクロバティックな機動を得意とする千里にとってこの程度の急降下は全くもって問題にならない。

 

 

船団の乗組員達は頭上から聞こえる、だんだんと大きく、そして高くなる魔導エンジン音に空を見上げた。だが小さな機影はなかなか見つけられない。

 

「あ、あそこにウィッチが!」

 

貨物船の若い船員が直上を指差す。

同時にウィッチから光る物が2つ切り離された。

 

「何か落としたぞ」

「爆弾だ!」

 

それが貨物船の後ろの海にドボンとほどんど水飛沫をほとんどあげることなく着水する。

投下したウィッチが海面すれすれで機体を起こし、捻りながら貨物船の上を魔導エンジンの軽快な音を響かせて通過した。船上の皆が頭を振ってそれを追いかけた。

 

「鹿島少尉じゃなかったです!」

「援軍か?!」

 

暫くして貨物船の後ろの海が白く瞬き、ズンという衝撃が下から突き上げる。程なくしてドバーッと水柱が高々と立ち上がった。

 

 

 

 

千里の投弾した爆弾は深度90mで的確にネウロイの真横下で爆発した。もしネウロイに人間と同じ思考があるならば、何故いきなり攻撃を受けたのか狼狽しただろう。

 

--此方を探そうとする音波も当てられてなかった。

--攻撃の意思を持つ艦は後方の仲間に夢中になっている。

--誰にも気付かれずにここまで来たはずだ。

--後は上で集団になっている船の真ん中目指して浮上し、一番大きいのを見つけて魚雷を放つだけ……

 

だったのだ。それがなんの前触れもなくすぐそばで爆発が起きたのだ。

 

魔法力のこもった爆弾の爆圧はネウロイの体の中央を下から突き上げ、下から上へ向かって全身にヒビが入った。体の中央がカッと光りその部分が結晶になって粉々に砕け、体が真っ二つに割れた。後ろの方は崩れながら沈んでいき、残った前部が堪らず急浮上する。

 

 

 

 

≪カツオドリ、こちらウミネコ。爆弾命中。ネウロイが二つに割れました。前の部分が浮上します。東から3番目の貨物船からの方位199、距離640m≫

 

千里が旋回しながら背中に背負っていた20ミリ機関砲を前に下ろした。

天音が言った通りのところへ、ネウロイが空中へ飛ぶかのように飛び出た。全身に真っ白なヒビが入り、蹴っ飛ばしただけで崩れそうである。

千里は20ミリ機関砲を構えると、ネウロイの背中の瘤状の所を目掛けて撃った。

脆くなっていた表面は2発で吹き飛び、真っ赤なコアが現れた。その赤い輝きは貨物船の船員達からもはっきり見えた。

 

「「「コアだ!」」」

 

千里が続いて放った2発が寸分の違いなくコアに吸い込まれ、コアが粉砕した。

硬質な破裂音とともにネウロイが真っ白な光の粒になって消し飛んだ。

雪のように結晶が降る中を千里がいつもと変わらぬ淡々とした調子で報告した。

 

「ネウロイ撃沈確認」

 

その瞬間を見届けた船団の乗組員達が一斉に歓声を上げた。

 

 

 

 

○上空5000m 428空2番機

 

千里の報告に、指揮官機の葉山も思わず

 

「わお!!」

 

と叫んでガッツポーズした。振り上げた右の拳がコックピットの風防をガツンと殴った。

 

「いったーっ!」

 

堪らず右手を抱え込む葉山。

 

「いてて…。1月9日1542、我12航戦、北緯17度08分、東経109度74分にて、潜水型ネウロイ撃沈!」

 

海に侵出したネウロイへ、人類が反撃を開始した事を告げる歴史的この報告は、図らずもその前の悲鳴を含め、通信に乗って船団全艦に届けられた。

 

 

 


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