水音の乙女   作:RightWorld

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第96話「リベリオンの対潜ウィッチ その1」

 

 

伊401がシンガポールを発とうとしているところから時間は少し戻って、場面は夜が明けたアナンバス諸島。

 

錨を下ろしている護衛空母サンガモンからTBF・アヴェンジャー雷撃脚を履いたウィッチが飛び立った。カタパルトで撃ち出されたジェシカ・ブッシュ少尉は、ただちに固有魔法を発動させる。瞳が赤紫を主体とした虹色に輝き、彼女の目の前から海の水がまるで無くなったかのように、珊瑚で埋め尽くされた浅い海底が広がった。魔眼系の固有魔法『水中透視眼』だ。

 

「ぱっと見たところ潜水型ネウロイと思しきものは見当たりません。捜索範囲を広げます」

 

≪サンガモン・コントロール了解≫

 

ウィッチを乗せているもう1隻の護衛空母スワニーもアヴェンジャーを履くウィッチ、ジョデル・デラニー少尉を発艦させた。

 

「こちらデラニー。南側水路の外を捜索します」

 

ジョデルはジェシカとは反対側の南へ変針し、南側の島々の間に張られた防潜網を越えて、その外側の海へと向かった。ジョデルの固有魔法もジェシカと同じ『水中透視眼』だ。

 

ウィッチを乗せていないサンティとシェナンゴは、目視哨戒機として各艦4機ずつのF4Fワイルドキャットをカタパルトで撃ち出す。F4Fは諸島のさらに外縁部へと飛んで行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

10kmも飛んだところでF4Fのパイロットは異常に気付いて報告をあげてきた。

 

≪こちらサンティ2番機。泊地から10km、島の周囲の海が……海の色が変です。ライトブルーというか、何か塗料を流したみたいになってます≫

 

報告を聞いたサンガモンの護衛艦隊司令部では、参謀が過去のHK船団の記録に似たような事象があった事を思い出した。

 

「司令、これは12航戦の報告にあった電波妨害する液体ではないですか?」

「やはりネウロイという事か。シンガポールへの救援要請も妨害されたのか?」

「いえ。シンガポールのリベリオン基地から返事は届いてますので、あの時間帯には通信妨害はなかったと思います」

「するとつい最近撒かれたということだな」

「探せ! まだ近くにいるはずだ!」

「サンティ2番機へ、青い水はネウロイが撒いたものに違いない。発生源を探せ。まだあまり広がってないところがないか調べろ」

 

≪サンティ2番機了解≫

 

「南側のF4Fを増やせ」

「アイ、アドミラル」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

別のF4Fが諸島の西側に回ったところで青い液体が徐々に収束していくのを見つけた。

 

「サンガモン コントロール、こちらシェナンゴ1番機。シアンタン島の西側に青い液体が帯状になっているのを見つけた。辿ってみる」

 

≪サンガモン、了解≫

 

暫くして、青い液体の筋の先にゆっくりと航跡を描く黒いものを見つけた。接近すると、それはまさしく事前に写真や絵などで見せられていた潜水型ネウロイそのものだった。

 

「こちらシェナンゴ1番機アンダーソン! ネウロイ1隻発見! シアンタン島西岸から南西へ6km、北へ向け浮上航行している。速度約5ノット!」

 

≪サンガモン コントロールだ。よくやった! 応援を送る。潜る前に先制パンチを食らわしてやれ!≫

 

「ロックンロール!」

 

F4Fはエンジンを全開にすると、ネウロイへ向けて降下した。

近付いてくるエンジンの唸り声に気付いたか、ネウロイの上部前側の盛り上がったところで赤光が光る。程なくネウロイは潜航を始めた。

 

「チクショウ、間に合え!」

 

すかさず翼下の100ポンド爆雷2発を切り離す。それは水没して間もないネウロイの影がまだ見えているうちに着弾し、ドドッと水柱が上がる。

 

「こちらシェナンゴ1番機! 至近弾を与えた! 効果不明!」

 

そこへアヴェンジャーのウィッチがが飛んできた。

 

「デラニー少尉です。今確認します!」

「こちらアンダーソン。頼みます! 奴の上に2発ブチ込みました」

「素晴らしい!」

 

ジョデルの目が赤紫に輝く。やがて爆雷で撹拌され白濁した向こうに、黒いネウロイの細長い姿が見え始めた。静まるまで暫く観察すると、上部を少しえぐられたネウロイが、破片を少しずつばら蒔きながらゆっくり沈降していた。

 

「ネウロイの損傷を確認。深度は……およそ40m。追加攻撃します!」

 

ずんぐりしたストライカーユニットの下部が観音扉のように開き、大きな爆弾倉が口を開いた。アヴェンジャー雷撃脚がずんぐり、それも縦に長く太っているのは、この大きな爆弾倉を下側に持っているからだ。

片側のユニットにつき2発、合計4発の爆雷が落とされた。ネウロイの前後を包むように魔法力を纏った爆雷が爆発し、爆発に巻き込まれた船体前後の部分がくり貫いたように丸く穴が開いた。制御できなくなったらしいネウロイはそのまま破片を撒きながら沈んでいき、海底に着底して身動きを止めた。

ジョデルは旋回すると再び狙いを付ける。

 

「止めよ!」

 

左右ユニットから1発ずつの爆雷が投下された。それがネウロイに向け落ちていくのを『水中透視眼』で追っていく。爆発に包まれたネウロイはカッと光って光る粒となり、やがてその煌めきも消え、サンゴ礁の海底だけとなった。ジョデルは共同撃沈のF4Fのパイロットと腕を振り上げて喜びを分かち合った。

 

『どう? これがリベリオン海軍の対潜ウィッチの実力よ! 扶桑なんかに負けないんだから』

 

そしてインカムに手を当ててスイッチを入れる。

 

「サンガモン コントロール、こちらデラニー少尉。ネウロイ撃沈を確認しました!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

ジョデルの報告に、護衛空母スワニーとサンガモンの艦橋では歓声が上がった。司令のスプレイグ少将も艦長らと握手して、その喜びを隠さなかった。

さらに泊地北側からも発見の報が入る。

 

≪こちらブッシュ少尉です。北水道の北東7kmに潜水型ネウロイを発見! 水深30mに留まっています。攻撃許可を!≫

 

「沈められた船の仇だ、攻撃を許可する!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

ジェシカはネウロイの上空を一度通過すると、アヴェンジャーをネウロイの正面から侵入させた。

 

「目標深度30m。爆雷投下用意!」

 

爆弾倉を開き、相対速度と爆雷沈降速度から投下ポイントを見極めると、2発の爆雷を投下した。その時、ネウロイの背中の瘤に明かりが灯り、赤い目のような光がギロリと上を見上げたように見えた。まさに目と目が合った感じがした。

 

「わたしを見た?! ネウロイも水中透視眼を持ってるの?!」

 

それを裏付けるかのように、ネウロイは爆雷の着水を待たず、後部に噴流を起こすと、シュバッとロケットのようにダッシュし、ジェシカの後ろへと走り去った。

 

「あっ!」

 

ジェシカが振り返る。ネウロイは一瞬にして200mほどを移動していた。

 

「これが扶桑の第12航空戦隊の報告にあった瞬間移動?!」

 

ネウロイはそのまま15ノットくらいの速度で逃げていく。

 

「逃がしてたまるもんですか!」

 

12航戦の報告ではネウロイは瞬間移動を連続では出来ない。おそらくジェット水流に使う水を吸い込むのに時間がかかるんだ。

ジェシカは今度は後方から接近する。そして再び爆雷を2発投下した。だがネウロイはまたも投下した瞬間に針路を右に変えた。

 

「やっぱり! ネウロイはこっちの動きが見えている!」

 

爆雷は誰もいない水中で爆発した。

 

「くそう、どうしよう……」

 

≪ジェシカ、ネウロイはそこか?≫

 

上空から爆音と共にヒラリとウィッチが降りてきた。サンガモンのもう一人のウィッチ、レア・ナドー少尉だ。履いているストライカーユニットは逆ガルウィングの戦闘爆撃脚F4Uコルセア。そして背負っている身長とほぼ同じ長さの筒は、あのロケットランチャー『マイティラット』だった。

 

「レア! ネウロイったら、わたしと同じ目を持ってるのよ! 魔眼持ちよ! 爆雷落とすと途端にかわされちゃう、どうしよう!」

「落ち着けよ。ネウロイが魔眼持ち?」

「わたしを見上げてるのー! もうやだー!」

「はぁ~。それでどうすりゃいいんだ?」

「えっとね、わたしと一緒に飛んで! それで合図したらマイティラット撃って!」

 

レアは「これだよ」と苦笑した。ジェシカは頭の回転が早い。もうやだ、どうしよう、とか言っておきながら、たいがい言ってる最中に次の手を考え付いている。

 

「マイティラットは水中にいる奴は攻撃できないぞ」

「いいんです。威嚇するだけですから」

 

大きく旋回してから微調整のようにくるっくるっと針路を修正すると、あるところからピタッと真っ直ぐ飛び始めた。機種を緩やかに下げる。その先は海面。レアには見えないが、きっとその延長線上にネウロイがいるのだろう。

 

「レア、1発でいいですよ! 用意!」

 

カチッと単発射撃モードに入れて構える。

 

「撃て!」

 

シュバァーっと一筋の煙を吹いて、全長1.2mのロケット弾が水面目掛けすっ飛んでいく。

ネウロイはそれが何なのか判断つかなかったようで暫く見つめていたが、自分に向かって飛翔してくることに気付いて左へ旋回した。

 

「左ね!」

 

1900魔力のR2600-20エンジンが轟音をあげ、重たいアヴェンジャーが加速と同時に左へ急旋回した。

 

「ジェシカ!」

 

目の前から激しい挙動で左ロールするジェシカにレアが付いていこうとしたところ

 

「レアはわたしの大外をゆっくり旋回して追ってて! マイティラットはいつでも撃てるように!」

「分かった!」

 

レアはジェシカを左に見ながら少し距離を取る。アヴェンジャーは急降下していった。

急降下するアヴェンジャーの爆弾倉が開き、爆雷が切り離される。重い機体はそのまま爆雷と一緒に降下し、海面に突っ込みそうなところでようやく引き起こされた。上昇するジェシカが後ろを振り返る。

 

「レア、ネウロイは避けた?!」

「オレに聞くな! オレには見えねえ!」

 

聞いておきながらジェシカはしっかり目で追っていた。水中に落ちていく爆雷に向かってネウロイが進んでいくのを。

ボコオォッと巨大な気泡のような爆発の膨らみがネウロイを包み、その泡の上昇に突き上げられたネウロイが真っ二つに折れた。折れたところを上にして2つになったネウロイが海上に突き出る。

 

「レア、コアを! たぶん左の方!」

 

折れた片割れの左の方には確かに瘤のような盛り上がりがあった。12航戦の情報ではあの中にコアがあるのだ。

 

「任せろ!」

 

レアはマイティラット4発を近距離から撃ち込んだ。直進性が悪かろうがこの距離なら後ろ向きにでも飛ばない限り外れっこない。それでも瘤には当たらなかったが、魔法力を帯びた弾頭は船体全部を吹っ飛ばすのに十分だった。撃ち込んだ方の船体が爆発すると、分離したもう片方の船体も光の粒となって四散した。

 

「やったぁ! サンガモン コントロール、こちらブッシュです! ネウロイ撃沈しました!」

 

上昇してくるレアに親指を突き立てて健闘を称える。

 

だが……

 

「あれ? サンガモン コントロール?」

 

いくら呼び掛けても魔導インカムには雑音しか入らなかった。

 

 

 





リベリオンウィッチ達の性格付けに少々てこずってました。途中で変わったりして。

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