蓮は泥より出でて泥に染まらず   作:時雨ちゃん

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遅くなりました。続きです。

短くてすいません。


第3話

 

本日の部活も終了し、残すは愛しの小町の待つ我が家への帰宅のみになったのだが俺は一つ思い出してしまった。今読んでいるラノベがもうあと3ページで終わってしまうのだ。これはゆゆしき事態である。速やかに次巻を買いに行かなければなるまい。

 

「んじゃぁな。」

 

「うん、バイバイヒッキー!」

 

「さようなら。また明日。」

 

雪ノ下達と昇降口で別れて俺は駐輪場へ向かう。

2月の冷たい風が顔を凍てつかせる。

俺は目から下を全てマフラーに埋めて暖をとる。

うん、これで大分マシになったな。

 

少し歩いて自分の自転車にたどり着く。

ポケットから鍵を取り出して差し込み回す。

こんな一瞬の動作でさえ手がかじかみそうだ。

 

「今日マジで寒いな。」

 

誰に言うでもなくそう呟く。

もうすぐ三月なのが信じられないくらい今日は寒い。朝もやばかったし。

これからもっと寒くなるだろうし今日買いに行くのやめようかな……。

…いや、やっぱり気になる。

 

 

 

 

寒空の下自転車を走らせること20分程度。

俺はいつも来ている本屋に来ていた。

ここはショッピングモールの中にあり、そこそこ大きく大体の本は揃うだろう。

 

早速ラノベのコーナーへ向かい求めている物を探す。

確か…この辺に……あったあった。

レジへ向かう前に持っているラノベの新刊が出ていないかチェックする。

 

特に出てなかったのでレジへ向かい会計を済まし本屋を出る。

 

すると突然どこからか声が聞こえてきた。

 

「あれー!比企谷じゃーん!」

 

こ…この声は……。

少し寒気がして周りを見渡すが知り合いはいない。

 

「おーい!こっちこっち!」

 

声は上のフロアから聞こえてきた。

 

このショッピングモールはかなり大きく俺が今出てきた本屋は三階にある。

この本屋の前は円形状に吹き抜けになっており、各フロアごと交互になるようにエスカレーターが設置され上の階から下の階を見下ろせるようになっている。

この本屋の丁度上の四階フロアから中学の同級生であり、俺の黒歴史を作り上げたうちの一人である折本かおりが見下ろしながら手を振っていた。

 

 

思わず口から「げっ。」と漏れてしまったが折本とは少し離れているので聞こえてないだろう。

これは面倒なことになりそうだ。

早く退散しようとした時折本が

 

「ちょっと待っててー!」

 

とか叫んできた。

周りがちょっとこっち見てるだろ!

やめて恥ずかしいから!

 

俺としては待ってやる義理も理由も特に無いのでエスカレーターに乗り下へ向かう。

ニ階ほど降りたところで肩を掴まれる。

 

「ちょっと!待っててっていったじゃん!」

 

くそ、逃げきれなかったか。

 

「…俺じゃないと思って。」

 

俺は苦し紛れに訳の分からん言い訳をする。

こいつ思いっきり俺の名前呼んでたけどね。

 

「なにそれウケる。私ちゃんと比企谷じゃんっていったよ。」

 

デスよねー。ていうかウケねぇよ。

 

「うぐ…そ、それは悪かったな。」

 

「まぁいいけど。それはそうとこんなところで1人でなにしてんの??」

 

「あ、あぁ。読んでた本が読み終わりそうでな。次の本を買いに。」

 

「そうなんだ!私も漫画の新刊が出たから買いに来たついでにぶらついてたんだ。そろそろ帰ろうと思ってたら比企谷みたいな奴が見えてさ。声かけちゃった。」

 

「いや別に聞いてない。」

 

折本は、つれないなー。とかぼやいている。

俺みたいな奴ってなんだよ。俺みたいな腐った目のやつが他にもいるのか?

いるなら是非話してみたい。

ていうか俺じゃなかったどうしてたんだよ。

まぁ俺だったけどさ。

 

「んでさー比企谷ー。」

 

………この流れはマズイ。

絶対こいつはこの後どこかに誘ってくる。

俺のぼっちスキルがそう言ってる。

 

「せっかく会ったんだしどっかカフェとか軽く入……」

 

「断る。」

 

ほらきた。こいつらの様なトップカースト連中の言いそうなことぐらい予想できる。

 

「えー、別にいいじゃん。暇でしょ。奢るし。」

 

やだよ。なんで今丁度過去についてちょっと思うところがあるのにその一端である奴と茶など飲まなきゃならんのだ。

ここは意地でも断らねば。

 

「い、いやー…俺この後ほら…ア、アレだから。うん。」

 

 

こういう時咄嗟にしっかりした言い訳が思いつかないのはぼっちの嫌なところである。

いくら国語学年3位だろうが出ないものは出ないんだ。

 

「なにそれちょーウケる!アレってなに!アレって!」

 

折本はゲラゲラと腹を抑えて笑っている。

女の子がそんな笑い方するんじゃありません!

 

「いや、ウケねぇから…。」

 

「ふぅーお腹痛いw、ほら比企谷、暇なんでしょ、行くよ!ここにいいカフェあんの!」

 

「え、あっちょ。」

 

マフラーを引っ張られ引き摺られていく。

俺の意見は?拒否権は?

そんなものないんですよねー。わかってました。

 

 

折本に連れてこられたのはなかなか落ち着いた内装のカフェだった。

こいつの事だからもっとこうリア充御用達!みたいなところに連れてかれるのかと思ってた。

少し安心。

 

折本はミルクティー、俺はコーヒーを飲みながら今は折本の愚痴のような物を聞いている。

なんで俺がって?そんなこと知るかよ。

 

愚痴の内容は大体、担任が熱血すぎて流石にウザいとかクラスの事とか玉縄がまたなんか企画したらしく折本が執拗に誘われているとかそんなのだ。

あいつまたなんか考えたのか…。

頼むからウチには絶対持ち込むんじゃねぇぞ。

今度持ち込まれると流石に一色ブチ切れんじゃねぇのか。

 

「まさかこうして比企谷とお茶する時が来るなんてねー。超ウケるw」

 

「………無理やり連れて来といてよく言うな。」

 

こいつとは過去に色々あったとはいえ、葉山との一件やクリスマスイベント、バレンタインを経てそれなりに話せるようになってきている……とは思う。

これもあいつらのおかげなのかもしれない。

……いや、それを言うなら中学の時の黒歴史があったからこそ俺は平塚先生に奉仕部へ入れられあいつらと出会い、一色と出会うことが出来たのだ。

元を辿れば折本達にこそ感謝すべきなのかもしれないな。

 

「……どしたの比企谷?急にキモい笑顔になって。ウケるよw。」

 

「き、きも……。…俺今笑ってたか?」

 

「うん、なんか二ヘラって感じで。」

 

顔に出ていたらしい。

 

「いや、ちょっとな。」

 

「えー!なになに、教えてよ。」

 

「……えーと………いや、やっぱり言わねぇ。」

 

「えっ、ちょっとなにそれ!余計気になんじゃん!」

 

「言わねぇたら言わねぇんだよ。」

 

いきなり礼とか言ったら絶対『なに急にwwwいきなり比企谷から感謝されるとか超ウケるんですけどwwww』とか言われておしまいだ。

折本は、なにそれウケなーい。とか言いながらミルクティーを飲んでいる。

なんでもウケると思ったら大間違いだぞ。

 

するとポケットのスマホが振動する。

ん?誰だ一体。Am◯zonかな?

スマホを取り出して確認する。

ディスプレーには小町の文字。

 

「ん、メール?」

 

「ん?あぁ、妹からな。」

 

「そういや妹いるんだっけ?」

 

「あぁ、二つ下のな。」

 

「ふーん。」

 

適当に返事を返しながらメールを開く。

そこには

 

『お兄ちゃん今どこ?』

 

とだけかかれていた。

 

時間を確認するともう二十時を過ぎていた。

どんだけ話してたんだよ俺たち………。

 

「妹ちゃんなんて?」

 

「今どこだって聞かれたよ。」

 

「あー、結構話してたもんね。」

 

連れてきたのお前だけどな。

小町に軽く説明を書いたメールを返信しスマホをしまう。

 

「そろそろ帰ろっか。」

 

「おう。」

 

俺はすっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干し、伝票を持ってレジへ向かう。

折本が奢るって!とかいってきたが奢られる気などない。

俺は養われる気はあるが、施しは受けない主義だ。

 

「いや、いいよ。俺が奢ってやる。クリスマスイベントの時奢ってもらったろ。そのお返しだ。気にすんな。」

 

「いやいや、値段とか全然違うじゃん。」

 

「俺がいいって言ってんだから気にすんなって。」

 

「なにそれ、比企谷のくせに。」

 

え、俺って奢っちゃいけないの?

なんかいわれのない罵倒くらったんだけど。

悲しい。

 

「でもありがと。」

 

………急に素直に礼してくんなよ。調子狂っちゃうだろうが。

 

「…おっ、おう。」

 

思いっきりキョドってしまった。

 

 

ショッピングモールを出て徒歩だというので折本と別れる。

送っていこうかといったが近いから大丈夫とのことらしい。

スマホを取り出し小町に、今から帰る。とだけ送り駐輪場へ歩く。

 

 

俺は自転車に乗り帰路に着く。

夜になり益々寒くなった風が頬を叩く。

自分の体温と相まって肌がヒリヒリする。

あーー、早くコタツに入りたい。

今日の晩飯あったまるものがいいな。鍋とか。

そんなことを考えながらペダルを踏みしめるのだった。

 

 

 

 

しばらくして帰宅した俺は夕食を取り、風呂を済ませて部屋で今日買ってきたラノベを読んでいる。

あ、夕食は鍋じゃなかったです。

 

来月に新刊が出るからそれまでには読み終えてしまいたい。

最初の4ページぐらいを読んだところですぐ横に置いてあるスマホが振動した。

 

画面を確認すると今日連絡先を交換した一色から電話が来ていた。

………無視だな。よし。

スマホをそのまま放置し読書に戻る。

 

無視していればそのうち諦めるだろう。

だがそんな思いも虚しくスマホは鳴り続ける。

……わーったよ、出りゃいいんだろ。

 

本に栞を挟んでスマホを手に取り通話ボタンを押す。

 

「もしも…」

 

『ちょっとせんぱい!なんですぐ出てくれないんですか!』

 

と俺の言葉を遮りいつも通りの元気なあざとい声が耳に響いたのだった。

 

end


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