TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー 作:(๑╹◡╹)ノ
音機関都市ベルケンドより職人の街シェリダンへと向かう洋上。
その艦内にて。
「うめ、うめ、うめ…」
セレニィは口いっぱいに晩御飯を頬張っていた。
ついさっきまでディストとともに牢に囚われていたが食事当番だったので解放されたのだ。
仕方ない。
安定して調理が得意なのはアニスとセレニィしかいないのだから。
……コイツ、いつも何か食ってるな。
ティアさん?
男の料理が得意です(公式設定)。海鮮丼とか唐揚げ丼とかそういうの。
さて、本日のメインディッシュは鶏肉のトマトスープ煮。
付け合せはマッシュポテトと仄かに甘いキャロットグラッセ。
スープはカブと小松菜(っぽい野菜)のポタージュ。
ルークとアッシュは野菜嫌いなためにセレニィが工夫を凝らした形となる。
(かー、わんぱくな子供舌相手は苦労しますよー! うん、美味しい! 我ながら絶品!)
全力で自分自身が現在進行形で食事を楽しんでいるがさておき。
「ほう、これは美味ですね! セレヌィ、あなたは良いお嫁さんになれますよ!」
「……あん? 喧嘩売ってるんですか!?」
「ヒィッ! な、なんで怒るんですかぁ!?」
ちゃっかり牢から出して貰ってたディストが地雷を踏んでガン付けられてたがさておき。
そんなこんなで
……しかし、誰も席を立つ気配がない。
どころかその場に重苦しい気配が漂い始める。
何故か自分に向けて。
「?」
セレニィは小首を傾げる。
心当たりがない。
自分は勝手な行動など何一つしていないし誰にも迷惑をかけていない。
至って清廉潔白なセレニィさんである。客観視バッチリ!
と、まぁセレニィ自身はそんな自己評価を本気で信じているからだ。
……認識の相違って怖いね。
はてな、と首を傾げながら考えるセレニィ。
あるいは自分は大切なことを忘れているのかも知れないと推理の翼をひろげてみた。
そこで不意に彼女に天啓が閃いた。
「ハッ! ぶ、無礼を…」
自身の過失を自覚し慌てた様子で椅子を引く。
……大丈夫、まだ胃袋には余裕がある。
アリエッタもルークもアッシュもアニスもイオンもナタリアも食べ盛り。
ガイやトニー、心友、陰険クソ眼鏡もきっとまぁ多分食べ盛り。
タトリン夫妻は… まぁ、おそらく健啖家なのだろう。そういうことになった。
(なるほど、まだまだ宴は終わりじゃない。……そういうことだったんですね!)
セレニィは彼女なりの真理に到達した。
これしきで楽しい楽しいお食事タイムが終わると思って貰っちゃあ困る。
まだ俺達のターンは終わってないぜ! ということなのであろう。
……つまるところいつもの勘違いであるのだが。
「よっしゃ、デザートがまだでしたよね! すみません、お待たせして!」
「違う。そうじゃねぇ。座ってろ。てか、テメーじゃねぇ」
「にょろーん…」
アッシュに頭を抑えられる形で席に引き戻され、しょんぼり顔で再び腰を下ろすセレニィ。
美味しい食後のデザートは夢と消えてしまった模様。悲しいね。
そして一同の視線は再び隣の薔薇のディストこと死神ぼっち野郎へと向けられる。
(……あ、私じゃなかったんですね。……えへへ、えへへ。……ちょっと恥ずぃ)
そう、仲間一同の鋭い視線は誰あろうディストその人に向けられていたのです。
にもかかわらずセレニィは自分が見詰められていると勘違いしてしまった。
そんなとんだ自意識過剰野郎だったわけです。
挙げ句に手にデザートを用意しようとするちょっと痛い子だったわけですね。
しかしティアさんの目線はいつだってセレニィに釘付けです。寂しくはないでしょう。
「……さて、ローレライ教団六神将ディスト殿。貴官には様々な嫌疑がかかっております」
「………」
軽く咳払いをしてからトニーが口火を切る形で言葉を紡いだ。
対するディストは無言のまま軽く目を伏せ、その言葉を受け流す。
「教団全てはともかく、六神将とはアクゼリュスで協定が結ばれていたはずです」
「………」
「しかし先だって貴官はヴァン総長に叛逆した。これは我々への明確な敵対行為です」
「………」
「にもかかわらず、音機関都市シェリダンに姿を現した。……一体何故でしょう?」
ヴァンに反旗を翻す。
これについては、まぁ、理解できなくもない。
もともとリグレット以外ヴァンにさしたる忠誠心も抱いてなかったであろう六神将だ。
(ある日突然「そういやあのヒゲむかつくな」と殴りに行っても不思議はないですしね…)
セレニィはしんみりとした空気を出しながら頷いている。
彼女はヴァンが捕まったせいで最前線へ送られる羽目になったことを未だ根に持っていた。
しかし確かにディストがシェリダンにいた理由についてははぐらかされたままだった。
スピノザの研究の回収が狙いだったようだがその理由までは依然として不明なのである。
(……となれば、なるほど、気になって尋問しちゃっても不思議ではないですかね)
他人事のセレニィは内心で頷いた。
つまり、ナタリアをはじめ多少聡い面々はこの六神将の動きを危険視していたのである。
そもそも、ピオニーとて同じ意見だからこそジェイドらの派遣を決定したのであろう。
そんな中で思わぬ形で反旗を翻した張本人であるディストと遭遇してしまったのだ。
それもセレニィがいなければまんまとニアミスのまま逃げおおせられていたことであろう。
ナタリアでなくともその行動の真意を確認するのは必然と言えた。
故にこそ慎重に尋問し、その行動の真意全てを聞き出す必要があったというわけである。
これが単なる趣味だとか六神将内部での主導権争いの延長だとかならばまだ良い。
いや、世界の危機でクッソ忙しい現状でそれをやられるのは決して良くはない。
良くはない。……が、分かり易い動機な分だけまだ対処のしようもある。
── 問題はそれ以外の見えない・想定外の動機や理由によるものだった場合。
無論、状況からでも幾つか類推できるモノもあるにせよ現段階で当て推量は危険である。
だからこそ、ディストを(セレニィごと)一時牢に隔離し尋問作戦を練ったのだ。
セレニィからすればとんだとばっちりだがこれもディストの警戒心を削ぐため必要な手順。
ああ見えてディストはジェイドに比肩するほどに賢いのだ。変態でぼっちではあるが。
単独で冷静に思考を回す時間を与えてはかえって隙を見せる結果に繋がりかねない。
だからこその今。
まずはなし崩しで受け入れたと見せ掛け、食後の弛緩した空気を狙っての奇襲であった。
「………」
全ての指揮を影から取っているナタリアは、しかし、我関せずとティーカップを傾ける。
飽くまでマルクト軍主導の尋問という体裁を取りつつ、その瞳を冷徹に光らせていた。
果たして開き直るかすっとぼけるか。……煽ってきても不思議ではない。
虚栄心の強い彼のこと。ある程度はこちらを小馬鹿にしてくる展開も織り込み済みである。
しかし、ディストの反応はナタリアや他の面々にとっても少々意外なものであった。
「………」
二度三度、口を開こうとしては躊躇いがちに閉じる。
ディストは机の上で組んだ手の指を忙しなく動かしながら沈黙を保ったのである。
しびれを切らしたふうに見せ掛けたアニスが不機嫌そうな声を出す。
「……こっちが優しく聞いてやってるうちに口を割った方がいーよぉ?」
「おいアニス、落ち着けって。けど、飯の分の借りくらいは返してくれてもいいだろうさ」
「………」
「こっちも堅苦しい尋問のつもりはないんだぜ。……だろ? 旦那」
威圧するアニスを宥めつつ人好きのする笑みを見せて柔らかく当たるガイ。
無論、演技である。
怖い警官役と優しい警官役。それぞれの役を被った上で阿吽の呼吸で懐柔にかかる。
普通逆じゃないかって? ……それはそう。
でもこのメンバー、強い女性陣(意味深)が多いパーティだからね。仕方ないね。
「えぇ、アニスもガイも自由に口を挟めるカジュアルな場ですとも。……今のところは、ね」
「ヒィッ!?」
「おや、『ヒィッ』とは悲しいですねぇ。幼馴染として紳士な対応を心掛けていますのに」
そしてジェイドが春の陽だまりのように暖かく穏やかな笑顔で止めを刺す。
絶妙なコンビネーションによる揺さぶり。
幼い頃冬の池に叩き落されて生死を彷徨ったトラウマがディストの脳裏に蘇り震えが走る。
……いや、何やってますのん? ジェイドさん。
ディストは恐怖から我知らず隣にいる心友(偽)セレニィの手を握ってしまう。
心友(偽)の柔らかく小さな手。ニギニギすると勇気が湧いてくる。
この心友(偽)がいる限り、自分は決して世界に一人ではないと信じられる。
……これが、友情パワー! (※勘違いです)
なおセレニィは「うぜーな、コイツ…」という目でディストを見詰めている模様。
美女や美少女以外から触られても嬉しくないのだ。助けられてる時は除く。
一方ティアさんは「握手は0.5秒まで!」とディストを腕力で無理矢理引き剥がしていた。
剥がし職人さんかな?
さておき。
「どうかご協力いただけませんか? ……その、自分が彼等を抑えられている間に」
無軌道な仲間たちを横目に少し疲れた様子で紡がれる半分本音が混じったトニーの言葉。
その真摯な響きはそれはディストには救いの蜘蛛の糸のように映った。
本パーティメンバーにおける深刻な良心枠不足が露呈した瞬間であった。
なお解決の目処は立っていない模様。
「うぐぐ…」
ディストが懊悩のうめき声を上げる。
もう一息か?
そう思われた時、やおら机を叩きディストは氣勢を上げる。
「こ、交渉は無意味ですよ! なんと脅されようと決して喋るつもりはありませんとも!」
……しかし、それでもディストは耐えた。
この精神力、まさにディストさん(feat.鋼の心)である。
おそらく彼はこの土壇場で高潔な友情に目覚め魂の覚醒を果たしたに違いありません。
これはナタリアが如何なる尋問を企てようとその口を割るのは容易ではないことでしょう。
「そう! 私はセレヌィのためにも、迂闊に口を割るわけにはいかないのです…ッ!!!」
「………」
「し、しまったぁ! ……お、おのれジェイド! キィィィ… 姑息な策略をぅ!!」
ごめん、迂闊で残念ないつものディストさんでしたね。
微妙に耐えれてなくて口を割ってしまってましたが、まぁ、仕方ありません。
反省して次に活かしましょう。
一方、動揺を顕わにしたのは仲間たちの側である。
尋問していたトニーを筆頭にルークやアッシュ、アニス、ガイらは驚きを表情に示す。
それくらいにはセレニィはなんだかんだで彼等の中で大きな存在となっていたのだ。
ナタリアとて王族教育を受けていなければみっともなく慌てふためいていたことだろう。
ティアさん? ガイの携帯端末を借りてセレニィの姿をパシャパシャ撮り捲っていますね。
……まぁスピノザの話の時にも隣にいたからね。
……驚きもないのも残当というか既に知ってる話だからね。仕方ないね。
ティアさんが重要な情報を言われるまで共有しないのはいつものこと。
平常運転である。
他のみんなも慣れたものでティアさんがマイペースを貫いているのを日常の如く流す。
(……驚いた、と口にはしませんが。……これは想定以上の『大物』が釣れましたわね)
努めて冷静に振る舞いつつ、鋭利な視線を眼光に宿し、次の一手を模索するナタリア。
「あ、それってひょっとして私がレプリカ? っていうのとなんか関係ある感じです?」
しかし空気の読めないセレニィののほほんとした言葉がそれら全てを台無しにしていった。
艦内食堂は常ならぬ重苦しい雰囲気へと切り替わる。
アリエッタと、より顔色を悪くしたアッシュが痛ましいものを見るような表情となった。
「そんな、セレニィまで…」
「テメーもだったのか…」
「なぁ、なんだよレプリカって。みんな、知ってるのか? ……
「いや、知らなくても無理はないさ。専門的な分野に足突っ込んだ話になるしな」
「セツメーしなさいよ、ディスト。……あ、大佐でもいいですよ。知ってたんでしょ?」
ルークをフォローするガイ。
フォミクリー技術はその大部分が秘匿された専門分野だ。知らなくても不思議はない。
他方、表情の変化に乏しいジェイドを目敏く視界に収めていたアニスが硬い声で尋ねる。
ブラフ、ハッタリである。
しかし、アニスは彼女自身の勘を以って99%の確信を抱きつつジェイドへ確認した。
ジェイドは、彼にしては分かりやすい仕草で眼鏡のブリッジを直しつつ目を伏せる。
仲間にこれ以上隠し事をしたくなかったのか、はたまた彼も喋って楽になりたかったのか。
それらは判然としないながら、やがて彼は顔を上げ、迷いない口調で言葉を紡ぎ始める。
「……レプリカとは、万物の複製を作る技術により生み出された『複製品』のことです」
「複製… 同じものを作るってコトか。そりゃ驚きはするけどそんな深刻になることか?」
「万物の、と言ったでしょう。物に限らず、例えば、人の命であっても同様なのです」
「ッ!? そ、それじゃあセレニィは…」
「確証はありませんでした。ですが、障気蝕害を自力で完治させるなど前例にないこと」
「そんな…」
「彼女は何らかの機能を付与されたレプリカである。……それが最も納得いく仮説でした」
沈黙の帳が降りる。
渦中のセレニィは早くも「やっぱりデザート持ってくればよかった」と若干退屈している。
タトリン夫妻は既に艦内の点検・掃除のために席を立っている。羨ましい。
一応話には耳を傾けてはいる。傾けてはいるもののやはり何処か他人事感が拭えない。
自分はレプリカとかいうクローンっぽいナニカらしい。
そういう話だと認識はしたが。というよりスピノザに聞かされて知っていたのであるが。
(……『だから?』って感じですよねぇ。……今更ですし、異世界転生しちゃってますし)
命が軽過ぎるデッドリーなクソゲー世界へと転生? 転移? してしまっているのだ。
そっちの方がよっぽどヤバいのだ。主に命の危機的問題という意味で。
いや、客観的に考えれば人造人間だっていう事実も衝撃の展開なのだろうが。
なんかクソ雑魚スペックである方が喫緊の課題過ぎてどうにも実感が湧かないのだ。
そういうのは、こう、衣食足りてなんとやらなのだ。少なくともセレニィさん的にはそう。
心身の余裕が生まれて始めて直面できる苦悩と言うかなんというか… 心の贅肉的な?
……有り体に言うと、すごくどうでも良い話だったのだ。
すごくすごくどうでも良い話だったのだ。
そんなことで悩めるほど繊細な感性してたならとっくにこの世界に悲観して自害してる。
斯様に絶望的な低スペクソ雑魚野郎なのである、セレニィは。悲惨である。
こちらを同情的に見詰める仲間たちに軽くため息を吐きながら次の動作を考える。
(デザートが出ない以上もうさっさと寝たいですし、サクッと話を終わらせましょうか)
とりあえずセレニィは話を進めることにした。
彼女は三大欲求に忠実であったのだ。
「まぁひとまず私がレプリカという前提で話を進めても良いと思いますよ?」
「……テメーは、それで良いのか?」
「アッシュさん?」
「誰かの都合で勝手に作られて、良いように扱われて、それで良いのかよッ!?」
なんか唐突に遮られたと思ったら怒られた。コワイ。
── おい、さっさと寝させろよ。ディストさん? 牢屋で眠ってどうぞ。
少しビクッとなったが、さっさと部屋で寝たいセレニィはそれでも負けじと口を開く。
「……それが何か?」
「は? だって、おまえ…」
「まず、勘違いしないで下さいね? アッシュさんも… ここにいる他のみなさんも」
いい加減眠りたい。食べたら寝たいのだ。皿洗いとかは明日でいいよね? ダメ?
ともあれ、ミュウさんを湯たんぽにして眠りたいのだ。
それを阻止しようとするならばデザートを寄越せ。話はそれからだ。
それが今のセレニィの偽らざる感情であった。
ちょっとヤンキーっぽいアッシュさんは怖いものの既に眠気が勝っている。
それが不思議な『圧』となって彼女の雰囲気を変容させていた。
幸か不幸か、セレニィの自堕落パワーはアッシュをして黙らせるほどの気迫があったのだ。
「……何処かの誰かにどんな役割を望まれようとも『決めるのは私自身』です」
その言葉は、不思議なほど静かにその場に浸透していった。
「嫌なことを強いられれば拒否しますし逃げます。だって、それが『私』なんですから」
「………」
「でも誰だってそうでしょう? ルークさん、命じられたからって人を殺したいですか?」
「そ、そんなことしたいワケねーだろ!?」
「ですよね。私だってそうなだけです。……じゃあ、みなさんと変わりませんよね?」
暴論であった。
そもそも言っていることは盛大なニート宣言でしかない。
辛い義務ならば断固拒否する。
その上でなるべく働きたくない。
その気持ちが理解できるならば『同じ人間』ですよね? 一緒だよ、一緒一緒。
はい、決定! はい、閉廷!
と、そう言ってるに等しいのだから。
しかし、それが預言に数千年間支配され続けてきたこの世界では如何にも新鮮に響いた。
「……フッ、流石セレニィね。さすセレ!」
「意味わかりませんよ、ティアさん。オツムがオネムですか? どうぞ寝てきて下さいな」
「フッ、私の隣ならいつでも空いてるわ。今晩一緒にどうかしら?」
「ですって、ガイさん。女性恐怖症克服のためにいっちょチャレンジしてみますか?」
「ひぃっ!? い、いや、今日のところは遠慮させて貰おうかなー… って」
「フッ、命拾いしたわねガイ。あなたが隣に潜り込めば全身粉砕骨折は免れなかったわ」
「いや、こえーよッ!?」
やいのやいのと弛緩した空気が流れ始める。
果たしてそれはセレニィによるものかティアさんによるものか。
いずれにせよムードメーカーと呼ばれる種類の人間の為せる技なのであろう。
……話が脇道にそれている。
(だ・か・ら! さっさと終わらせて寝たいって言ってんだろ、私はッ!)※言ってない
それを認識したセレニィは再度口を開く。
「というわけでディストさん、話せる範囲で適当に話して下さいな。はよ」
「……それは『無理なら無理で別に構わない』と言っているようにも聞こえますが?」
「その認識で合ってますよ。……無理に口を割らせても後が怖いですし」
「フフッ、なるほど。……いかにも、セレヌィらしいですね」
だって自分が逆の立場になった時、尋問とか拷問とかされたら普通に怖いし。
特に拷問なんてされた日には、秒であることないことをペラペラ喋り倒す自信しかない。
そして、いつまでもいつまでも拷問された日のことを根に持つのだ。
そういうのは疲れるし、しんどい。
出来る限り遠くの世界の話にしておきたい。
現代日本人的感覚が抜けきらないセレニィはそう考えて(勝手に)頷いた。
「まったく… 仕方ありませんわね。貸し一つですわよ? セレニィ」
ため息を吐きながら微笑を浮かべるナタリア。
王族の追認が得られて結果オーライである。
……運が悪ければディストともども尋問タイムだったが、まぁ、些細な問題であろう。
となればディストの対応であるが、彼は…──
「やれやれ、仕方ありませんね。ま、一つ私の計画について聞かせて差し上げましょう」
何処か憑き物の落ちたような表情で尊大に肩を竦め、ついには重い口を開くのであった。
それを聞いたアニスがディストの背後に素早く回りその後頭部をしばき倒す。
「もう! 最初っから素直に協力してなさいよね、このバカディストぉ!」
「あいたー!? ……こ、この天才を殴りましたねぇ、守銭奴アニス風情がッ!?」
「うーん、全面的にディストさんがギルティで。罪状は美少女侮辱罪で」
「そ、そんな心友ッ!?」
「良いからサクッと話して下さいな。ちゃんとこの心友めも聞いておいてあげますから」
「うぅ、心友が冷たい… 話します、話しますよぉ… 話せば良いんでしょ… めそめそ」
「うぜぇ(信じてますよ、心友)」
面倒くさすぎてついに本音と建前が逆になった模様。
さておき。
ディストは語り始める。
「実はシンクは導師イオンのレプリカなのです。フォミクリー技術で生み出された、ね」
「シンクが!?」
アッシュが驚愕の表情を浮かべる。
……同じ六神将といえど、いや、同じ六神将だからこそ。
同僚のことを何も知らなかったのだとショックを受けている様子であった。
アリエッタも少し思い詰めた表情で俯いている。
何か思うところがあるのかも知れない。
「えぇ、説明するとセレヌィのこともなし崩しに触れそうなので黙っていたのですが…」
「フッ、残念だったわね。セレニィの心の強さを
「えぇまったく。まさに見縊っていたのは私の方でしたよ、良く知らない栗毛の人!」
「フッ、栗毛というのは馬みたいだから亜麻色の髪の乙女と言って欲しいわ。さすセレ!」
「さすセレ!」
変態と変態が盛り上がってしまった。
隔離しておきたい(真顔)。
当のセレニィ本人は(うるせーな、こいつら…)としか思っていないのだが。いと悲し。
周囲の冷たい視線に気付いたディストは気不味そうに咳払いをし、話を続ける。
「それで、シンクと同様のレプリカイオンを保護したのですが少々問題がありましてね」
「ふむ。ま、1体いるのなら複数いても不思議はないでしょう。それで?」
「余命幾許もなく、しかも、その延命薬はモースに握られている状況なのですよね」
その説明にジェイドが軽く頷く。
フォミクリー技術は未だ不完全な分野。レプリカは何らかの構造上の欠陥を抱えやすい。
それを『劣化』と一纏めにしているが『
極論、100人のレプリカがいれば100通りの『
ならばそれらの欠けた音素情報を補うための薬品を盾に要求を通すこともあるであろう。
「大詠師モースが… するとあなた方に手足となって従うよう要求してきたのでは?」
「ご明察。一を聞いて十を知る、流石は我が好敵手ジェイドですね」
「それはどうも。しかし、あなたがそれに素直に従うタマとは思えませんが?」
「仰る通り私に従う義理などありません。……ですが、シンクに頭を下げられましてね」
ここでジェイドは少しばかり意外そうな表情を浮かべる。
いや、ディスト自身にとってもそうなのであろう。
本来六神将とはもっとドライな付き合いだったはずだ。
しかしセレニィをきっかけにアクゼリュスで救助活動を行うなどの日々を積み重ねてきて。
……どうにも、多少ばかり絆される気持ちがあったようである。
そもそもシンクが望みのためとは言え誰かに頭を下げることからして青天の霹靂だが。
だから、それを無下に振り払い袖にするのもどうにも気が進まず。
かといって他に今すぐやりたいことがあるわけでもなし。
そういった経緯で、ディストは今、なんとなくシンク派閥として動いているようである。
「ま、まぁ天才らしいただの気紛れですけれどねぇ! ハァーッハッハッハッ!」
自身でも『らしくない』ことを自覚してか眼鏡のブリッジを直す素振りを見せる。
しかし、その耳は赤く染まっていた。
そんな彼の照れ隠しの仕草に対し、ガイがフレンドリーな笑みを浮かべながら肩を叩く。
「なんだ、いいところあるじゃないか。自称・薔薇の旦那もよ。見直したぜ!」
「キィイイイイイイッ! 自称は余計ですよぉ、この使用人風情がぁッ!」
「あっはっは! 照れるな照れるな。そんなんじゃセレニィにいいとこ見せられないぜ?」
「にゅふふ、『カッコ悪いトコ』『みっともないトコ』は充分見せ付けてるけどね~♪」
アニスが意地悪な笑みを浮かべて追撃を行う。
散々からかわれ尽くしたディストが漸く解放されて荒い息を吐く。
「ぜぇ、はぁ… で、ですが唯々諾々と良いように使われるのも癪ですからねぇ?」
つまるところ、モースに従う姿勢を見せつつ出し抜くためにこうして動いていたわけだ。
フォミクリー研究についてはもともとジェイドが生み出した技術だ。
ディストもある程度は知悉しているとはいえ、一人で行う研究には限界がある。
そこで同じくフォミクリー研究をしているスピノザという男のことを思い出した。
そうして彼が住まうというシェリダンに飛び立ったというわけだ。
アッシュに関しては反乱の際にもともと敢えて見逃していた部分もある。
そんな彼の証言をもとに行動するならばパダミヤ大陸方面が目的地となるはず。
ならばちょうどすれ違う形で出し抜けるはず。実に無駄のない行動、これぞ天才の策略!
頭痛を抑えるかのように眉間を揉み解しながらトニーが顛末を補足する。
「……ですが、実際はあっさりセレニィと遭遇してしまい我々に捕縛されてしまったと」
「ですね(棒)」
「正直、裏の目的があると勘繰っていましたが。……ああいや、断定にはまだ早いですが」
「ほんとそれな(棒)」
「フッ、幾重にも張り巡らされた天才の叡智を突破してみせるとは流石ですね心友!」
「そっすね(棒)」
言葉のトスをセレニィはあっさりと受け流し続けた。
どうでも良かったからである。まさにこれぞスルーパスであった。
別に狙って立てた手柄ではないので過剰評価されると胃が痛くなるのだ。
セレニィもセレニィでめんどくさい生態をしていたのである。
そこでこれまで静観を保っていたナタリアが声をあげる。
「では、あなたとは別件の黒獅子ラルゴの反乱の動機はどういうものでしたの?」
「そちらは知りません。モースが関与しているのかも知れませんが興味もありませんしね」
「そこは本人に聞くしかない、と。まぁ、そんな機会もそうそうはないでしょうけれど」
ナタリアは頬に手を当て、再び沈思黙考へと移る。
そこで少し考え事に耽っていたルークが言葉を発した。
「けど、そうか。イオンのレプリカたちのために… ちょっと責めにくいかもな…」
「おい」
「分かってるさ、アッシュにとっちゃとんだとばっちりでしかねぇってことは。けどよ」
「……けど、なんだ?」
「同じレプリカなんだ。家族みてーなソレを助けてやりたいって思うのは自然だろ?」
「………」
「だから、俺はシンクたちを責められねぇ。逆の立場なら、きっと同じことをしてたから」
「……フン、甘ちゃんが」
「へへっ、かもな。けど、これが『俺』だ。……そうと俺が決めた『俺自身』だ」
真正面からアッシュにそう啖呵を切ってルークは胸を張って笑った。
鼻の頭を擦りながら「……ま、セレニィの言葉の受け売りだけどな」と付け加えつつ。
セレニィはなんか自分の言葉がとても立派な決意表明に解釈されていて混乱した。
実際はニート宣言しかしていなかったはずだが。
(え… そんなこと言いましたっけ? ……言ったかも。……言ったな、うん。ヨシ!)
なんかそういうことになった。
この世は欺瞞で構成されているため致し方ない。……セレニィの周辺は、特に。
こうして自己改竄を成し遂げたセレニィ。自分を誤魔化す手腕は相変わらず一流である。
そんな彼女の服の裾をクイクイ、と引っ張る者がいた。
「……セレニィはつらくないの?」
アリエッタである。
何やら考え込んでいる様子であったが、これまでのやり取りに勇気を得たのか言葉を紡ぐ。
「……『本物じゃない』って言われて。気持ちを向ける先がなくって」
「はい?」
「アリエッタなら、きっと、とてもつらい。全部ウソだったって言われたみたいで」
(アリエッタさん可愛い。ぎゃんかわ。ハグしたい、クンカクンカしたーい!)
ちょっと俯きがちなアリエッタに癒やされながらセレニィは至福の笑みを浮かべる。
「? ……大丈夫、セレニィ?」
反応がないセレニィを心配そうに見詰めるアリエッタ。
妄想に浸っているセレニィのことを心配してくれる純真無垢な姿は、まさに天使であった。
煩悩まみれのセレニィも流石にここらで再起動を果たす。
「お、おう! ……えっと、そうですねー」
何だか分からないけれど自分は心配されているらしい。
ならば真摯に答えるべきであろう。
そう考えたセレニィは優しく穏やかに言葉を返す。
「辛い、辛くないって感じられる時点で、少なくともその感情は『本物』ですよね?」
「……え? う、うん?」
「『今を生きている』のは確かでしょう? なら、それは『本物』でしょうとも」
「……そう、かな」
「少なくとも私はそう考えます。一々自分の感情すら疑ってたら疲れるじゃないですか」
「………」
「だから、私は自分が『本物』だと疑いませんし辛くもありません。だから、大丈夫です」
努めて安心させるように「ね? アリエッタさん」と、へらりと微笑んで見せる。
ディストさんの時と態度がぜんぜん違うって?
セレニィは美女とか美少女が大好きで野郎はそうでもないから仕方ないね。是非もないね。
しかし、ルークやアリエッタらのやり取りに納得できなかった者がいる。
「でもさ。イオン様の偽者を勝手に作ってるなんて感じ悪いよ! アタシはヤだなー!」
導師守護役でもあるアニスであった。
彼女としてはイオンのレプリカがポンポンと作られていることに思うところがあるようだ。
まして、これまで幾度となく敵対してきて印象が良くない六神将ならば尚更である。
アリエッタと、辛うじてディストは別としても未だ潜在的に敵という感覚が根強いのだ。
「そりゃセレニィのことは好きだよ? けど、レプリカを無条件で肯定するのはどうかな」
アニスの舌鋒は止まらない。
それらの言葉に隣に座るイオンの表情が蒼白を通り越す。
「レプリカって言っても本当のイオン様と大違い。やっぱり本物じゃないと…ッ!?」
「だめっ! アニスッ!」
それに気付いたアリエッタは制止の声を上げた。
……否、反射的だったのだろう。
彼女はアニスに掴みかかることで物理的に続く言葉を遮断したのであった。
「い、いきなり掴みかかってきてなによ? 別にこの話はアリエッタには関係…」
「ダメだよ、アニス。それ以上はダメ。きっと、後から自分自身を許せなくなるから…」
「………」
情緒が幼いアリエッタの拙い言葉。
しかし、そこに込められた想いは本物で。
だからこそ、アニスをして反駁し難いほどの真摯さに溢れていた。
バツが悪くなったアニスは頭を掻きながら視線を逸らす。
深呼吸を一つ。
「……ごめん」
完全には納得していないなりに、そう小さく呟いた。
セレニィにとっても聞いていて気分の良い話ではなかっただろうと思い直せたのだ。
(アニスさんと急接近するアリエッタさん! 百合か! 百合なのか! 永久保存ぅう!)
なお、セレニィは鼻息を荒くしてティアさんから奪い取った携帯端末で連写していた。
全然気にしてなかったようである。……ガイさんの携帯端末、大活躍ですね?
「……少し、イライラしちゃってたかも。感じ悪かったよね? ゴメン」
「気にすんなって。本来、色んな意見があってトーゼンなんだ。……仲間だろ?」
「そうですとも。普段の私やセレニィの毒舌に比べればまだまだ可愛いものでしたよ」
「も、もう! あんまり甘やかさないでよ! ……でも、エヘ、ありがと。みんな」
ルークやジェイドのフォローに対し、恐縮しながらもありがたく受け取るアニス。
旅に出て以来、同じ教団内の仲間と思っていた存在が率先してイオンを襲ってくるのだ。
唯一の導師守護役として神経が擦り減ってしまうことは避けようがなかった。
仲間たちは嫌いじゃないしむしろ好きではあるが、それでも所詮は『別枠』なのだ。
いざという時に自身以上に導師イオンの命を優先して動ける者は自分しかいない状況。
そんな中で、導師イオンのレプリカがポンポン湧き出ているという真実を知ってしまった。
これまでの自分の努力や献身に泥をかけられた想いになるのも無理からぬことだろう。
しかしそんな『身勝手』な自分の想いを自覚し、謝れる程度の良識もアニスにはあった。
雨降ってなんとやら。
それらのやり取りにほんの少しだけ『ほっこり』する場の空気。
それに当てられて、というわけではなかろうがそこで導師イオンが顔を上げた。
何処か決意を滲ませた表情。
先程までの蒼白を通り越した色は、もう、そこにはなかった。
「ありがとうございます、アリエッタ。アニスも」
「イオン様…」
「イオン様?」
同じ言葉ながら、アリエッタとアニス、両者の反応は対照的であった。
前者は少しだけ痛ましいものを見るような表情、後者は不可解そうに首を傾げている。
「……セレニィのおかげで僕も『決心』が付きました」
イオンは少し憂いを含んだ表情でそう呟いてから、深めに息を吸う。
「この機会です。……みなさん、少しだけ僕の話を聞いていただけますか?」
いつになく真剣なイオンの表情。
内容を察したのかその表情を曇らせるディスト、ジェイド… そしてアリエッタ。
しかし首を横に振る者は一人もいない。
……ミュウはセレニィの懐の中で眠りについているが。
「……導師イオンと呼ばれた『少年』のレプリカとして生み出された、この僕の話を」
セレニィの脳は破壊された。
なんかいい感じに仲間たちをフォローしてた(無自覚)ら流れ弾で即死…
100話以上経過してから唐突にヒロイン(だと勝手に思ってた子)が男の子だと判明した件
でもセレニィ以外に特段被害はないからヨシ!
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