Fate/after Silent Noise (フェイト/アフター サイレント・ノイズ)   作:どっこちゃん

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四章 灰眼創者「ダーク・クリエイター」-6

 渦の中心には輝くものがあった。

 

 ひどく巨大で、それ故に勇壮なモノ。それは船であった。一般にはガレオン船とも呼ばれる大型の帆船である。大げさなほどに煌びやかに飾り付けられた船体は光り輝き、その偉容はその存在が条理の外にある事を如実に表していた。

 

 だがその船体には無視することのできない、明確な破壊の痕があった。

 

 その船体は貫かれていた。ランサーの放った軍神の矢は暴風の城壁を突破し、敵の本丸への到達を果していたのだ。しかし、巨大な帆船宝具はそれが何の痛痒でもないかのように依然として高偉大な渦の中心で荒ぶかのごとき輝きを放っている。

 

「不覚であったわ」

 

 船体に深々と突き刺さった煌矢を見下ろし、さしものライダーも声を落とす。よもや、これほどの破壊を受けるとは思っていなかった。

 

 次いで、ライダーは眼下に血色の女を見据える。

 

 その背景には旋風によって天空に舞い上げられていく赤熱の砕氷(ダイヤモンド・ダスト)が、僅かな月の光を捉えて瞬いている。

 

 いまやその暴風の柱は中空に散華した透石の欠片によって赤煉のブリザードへと変容させられ、筆舌に尽くし難い美しさをかもし出しているのであった。

 

 それは粉砕され中空に散華する、軍神の装甲の成れの果てであった。

 

 二人のサーヴァント達はその戦場を、絢爛たる帆船宝具の甲板へと移していた。

 

 甲板に降り立ったランサーの姿は暗夜の月光に照らされる一片の粉雪をおもわせた、しかしその軽やかな所作とは裏腹に、しなやかな五体に刻まれたダメージの程は見るまでもなく深刻であった。

 

 放出し尽した軍神の装甲はもはや僅かな要所を残すのみとなり、彼女の総身は余すことなく鮮血に濡れていたのだ。

 

 だが、それでもその美貌から不適な笑みが消えることはない。

 

「なるほどなァ――てめェ、海賊か」

 

 互いの武を合わせてみて、ランサーにもようやくこの敵の正体が飲み込めはじめていた。

 

 ひとえに海賊といえど、世に名だたるその偉名・悪名は少なくないだろう。しかしそれらはあくまで賊人の名に過ぎない。英霊として聖杯に呼ばれるにはふさわしくない。

 

 だがライダーの英霊としてサーヴァントとして召喚されたこの男は間違いなく海賊だ。ならば、この男はいったいなんだというのだろうか?

 

 そう、この男こそ人類史上二番目、そして生存した状態では初めてとなる世界周航を成し遂げ、海賊でありながら時の英国女王に使え騎士となり、仇敵スペインからは悪魔の権化とまで呼ばれ恐れられながら、その偉業は今もなお英国の海国魂の象徴として賞賛され続けている無双の海洋の雄。

 

 騎士であり、冒険家であり、英雄であり、そして悪魔とまで呼ばれた海賊。そんな男は悠久たる七つの海の歴史においても他にありはしない。

 

「ドレイク。――サー・フランシス・ドレイク!」

 

 その金属のような眼差しが、吊り上がった口角が、それを無言の内に肯定する。

 

 無敵艦隊を破った男。16世紀英国きっての私掠船船長(プライベーティア)。まさしく世界を又に駆けた無双の益荒男。

 

 ランサーは弾けそうなほどに燃え滾る総身を猛るに任せ、その両の手に得物を引っ提げたまま甲板の上を馳せた。これほどの豪勇とあっては、相手にとって微塵の不足なし!

 

 右手には光り輝く紅水晶の槍を構え、左手には既に砕け片刃となった大戦斧を執る。

 

 さらにはその戦斧を自らの後方に叩きつけ、不和女神の権能により推力を得てさらなる加速をはかる。

 

 その加速が予想外だったのか、それとも重傷の敵があえて攻勢に出たことが予想外だったのか。ライダーは反応できずに立ち竦んでいる。

 

 ――勝機。

 

 しかし、格好の標的を前にしながら戦士は直前で踏みとどまった。 

 

 次の瞬間、ランサーの足許の甲板がいきなり炸裂して凄まじい轟音が巻き起こったのだ。

 

 なんと、それは甲板の下からの砲撃であった。本来は船体の側面の窓から放つ筈の砲口が直上を向き、甲板の上にいるランサーを狙ったのだった。

 

 この容赦のない奇襲戦法は、やはり常道なる戦士の鬩ぎ合いとは一線を画す、まさしく無頼の野戦術であった。無論、まっとうな船乗りには慮外の戦法だといえただろう。しかし、彼女がいま敵にしているのは並の船乗りでもなければ十把一絡げの英雄でもないのだ。

 

 しかし、彼女を死の寸前で踏みとどまらせたものとは、はたして彼女の霊的直感や神がかり的な危機感知力から来る行動だったのだろうか? 否、そうではない。とはいえそれは理知的な戦術的思索から導かれたものというわけでもなかった。

 

 既に烈火と化していたこの蛮勇を死の寸前で押し止めたもの。それは彼女自身の戦士としての嗅覚とでも言うべきものだった。戦場に漂うほんの僅かな空気の変化、それらを五感を駆使して機敏に感じ取ることで戦場を己が庭の如く馳せる能力。言うなればそれは根っからの戦闘狂ならではの勝負勘と言えるものであった。そして、そうでもなければこの奇襲を躱すことは出来なかっただろう。

 

 後方に構えていたプテロ・エリスを砲撃の寸前に前方へ叩きつけて急停止し、同時に反動で後方へ大きく跳び退ったランサーはすんでのところで、その下方からの砲射線から逃れていた。

 

 しかしそれに気を取られた隙に、彼女は暴風と爆煙の向こうにいたはずのライダーの姿を見失っていた。それは時間にすれば瞬きほどの時間であったが、互いの命を取り合う戦場において、一瞬といえども敵を見失うことは敗北に直結する。

 

『――何処だ!?』

 

 頭上。ランサーはすぐさま敵の位置を把握した。しかしそれと同時に、押し隠すこともない、真上からのしかかるようにして迫ってくる重圧を感じた。

 

 いつの間にかメインマストの戦闘望楼(クローネスト)上にいたライダーが何か、こちらに向けて丸太のようなものを構えている。それは筒のようにも見受けられた。はたまたラッパの如き楽器の類か――と、思えた次の瞬間、そこからまた耳を聾するような暴風が放たれたのだ。

 

 銃撃。今ライダーが手にする丸太は、なるほどよく見れば前装式のパーカッション・ピストルのようにも見えなくない。だが、それは率直に銃と称するのが憚られるような代物であった。

 

 あまりに巨大な銃身はまさしく鋼鉄の丸太と見受けられ、その銃口の下には刃を上向ける形で据えつけられた舶刀(ソード・カトラス)が、これもまた単純に称するなら特大の鉈とでも言うべき兇器が、鈍い光を放っているのだ。

 

 頭上からの致命的な狙撃に晒されたランサーはしかし、コンマ数秒の間に体勢を立て直し、向かってくる銃弾を『鋳造されし不和の双翼(プテロ・エリス)』で弾き落とそうとした。

 

 しかし既に罅割れて片刃となっていた戦斧は、その衝撃を受けきれずに粉砕されてしまった。

 

 これほどの威力! この銃撃は先ほどの艦砲射撃と同様に〝暴風〟を纏う『砲弾』と相違ない!

 

 おそらく、あれらの兇器はこの船の一部に過ぎないのだろう。今ランサーの頭上から打ち放たれたのは先の砲撃と同じく、超圧縮された嵐を纏う暴竜(スーパーセル)の顎に他ならないのだ。

 

 愛用の戦斧を粉砕されながらも、ランサーは更なる砲撃を退けようと跳んだ。

 

 しかし、それを許さぬものがあった。そのとき死角からランサーの細い首に、何かが蛇のように絡み付いてきたのだ。それはロープだった。

 

 マストに帆を張るための荒縄が、まるで意志を持つかのごとく女の細い首に巻き付き、戦士の身体を絞首刑に処される罪人の如く宙吊りにしてしまったのだ。

 

 無論、このような不可解なロープの生動が偶然である筈がない。

 

『ようやく懐に入ったかと思えば――』

 

 さらにランサーを絡め取ったロープの反対側を手に取ったライダーはそのままクローネストからメインマストを垂直に駆け下りる。すると最上部のメインヤード・アームを支点にしてランサーの身体はさらに高く、高く吊り上げられていくのだ。

 

『――ここは、奴の庭か!』

 

 くぐもるような苦悶の声を漏らしながら、ランサーは内心で確信する。この船体そのものが。ライダーにとって、魔術師の工房と同じように機能する己の陣地なのだ。波も海も風も、この船を取り囲む万物は彼の味方であり、この船上に据えつけられた総ての備物が、彼にとっての利器であり宝具に他ならないのだと。

 

 そしてマストを流星の如く駆け降りるライダーと、荒縄に吊り上げられるランサーはそのまま宙空で交差する。

 

 そのすれ違いざまにライダーの持つ巨刃の輝きが残忍な色合いの光を帯びて彼女の身体に振り下ろされた。

 

 流星の如き鉄塊が、女の柔らかな体内を侵略し、甲板には朱色の雨が夕立の如くこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 まるで流星の群を思わせる剣の雨だった。四方八方から乱舞してくる複製宝具がバーサーカーとDDの頭上へと降り注いでいく。

 

 よもや、このような極東の地にこれほどの極技を可能とする魔術師がいようとは! さしもの無貌の怪人もこの事態には驚愕せざるを得ない。

 

 それは現実を侵食する幻想であった。つまり今彼が目にする光景は幻覚の類でもなければ異界でもなく、目の前の少年が作り出した幻想の具現化した姿なのだ。

 

 固有結界。言うまでもなく魔術師にとって最終奥義とさえ言われる大魔術。この怪人とて、もともとは魔道の家門に生を受けた身の上であり、眼前で行われている事がどれほど規格外の怪異なのかは推し量るまでもなかったはずである。

 

「……このままでは埒が明かんな」

 

 しかし、仮面の下から発せられた声は身の内の激情にもかかわらず、あくまでも冷徹であった。

 

 市街地戦でこそ、その真価を発揮するバーサーカーはこの固有結界内ではまるで力を出せない。ここには荒涼とした大地とその上に墓標の如く立つ無限の剣しかないのだ。故にこの狂女の火種では小火(ぼや)をおこすことも出来ない。

 

 そしてDDも繰り出される宝具を相手に間合いを詰められないでいる。複製とはいえ、これらの刀剣はその魔力の密度も武器としての精度もオリジナルの宝具に順ずるものなのであった。

 

 いくら彼が超人的なまでに能力を強化しようとも、簡単に制することができるものではない。

 

 しかし、士郎の方もそれだけでは決定打となり得ない。単純な戦闘力で自身を上回る敵を二人も相手にしなければならないのだ。結果内で新たに宝具を作る余裕も猶予もなく、士郎は林立する剣を敵に目掛け投射し、間合いを維持し続けるしかなかった。

 

 どうにかして、結界が崩壊するよりも先に敵を倒す算段をつけなければならない。

 

 そう考えたときだった。やおら怪人は動きを止め、左腕を掲げ上げた。士郎は咄嗟に身構え、モザイクの男ではなく、傍らのバーサーカーに注視した。男がなにをしようとしているのかを過たず察したからであった。

 

「狂戦士よ、汝が第二のマスターの名において命ずる……」

 

『令呪』! サーヴァントを統べる三画限りの絶対命令権。士郎自身、未契約のそれを魔力の補助に流用して切り札としていたが、用法こそ異なるものの正式にサーヴァントと契約された令呪はむしろ士郎のそれ以上に切り札としての意味合いを持つのだ。

 

 正式に契約された令呪はサーヴァントにあらゆる命令を強制できるだけでなく、サーヴァント単体では成しえない奇跡をも可能とさせることが出来るのだ。

 

 それを使用する以上、基礎能力の芳しくないバーサーカー単体では成しえない攻撃を行うことが出来るということだ。しかし――

 

 紡がれた言葉は予想外のものであった。

 

「自壊せよ、バーサーカー」

 

 なにを――ッ!? 

 

 そのとき、バーサーカーが凄まじい炎とともに燃え盛り始めたのだ。

 

 その灰白色の矮躯から彼女の全魔力が悲鳴とも嬌声ともつかぬ奇声と共に溢れ出し、火炎の大波となって空間を埋め尽くしていくのだ。

 

 まさしく極舞の炎。何事かと眼を見張った士郎は反射的に無限の剣舞を見舞うが、無数のそれに貫かれながらもバーサーカーの炎の勢いは止まらない。

 

 その背後から響く声。「そうだ。バーサーカー。全総力をもって、この空間そのものをおまえの炎で焼き尽くすのだ」

 

 そして極舞の火炎は無限の剣舞をも飲み込み、紅蓮で飽和した固有結界の内部は熱せられたガラスのようにひび割れ、砕け散った。

 

 まるでバックドラフト。結界の綻びから流入した現実がバーサーカーを火種とした紅蓮となって膨れ上がり衛宮士郎と言う幻想を内側から崩壊させたのだった。

 

 灼熱の海と化した空間から現の世界へと放り出された士郎は、冷えたアスファルトの感触からそれを悟った。爆発の衝撃でそれ以外の感覚器官は用を成していなかった。炎はそれ以上燃え盛ることもなく、すぐに周囲は夜の世界へと修正される。

 

 そして最初に立ったそのままの位置で、同じように屹立する灰白色の女の身体はそのまま四肢の末端から真っ白な灰燼となって夜の虚空へ散華していく。

 

 そして最後に一瞬だけ背後の男を振り返ったその瞳には、もはや狂乱の座にあらざる理性の光が宿っているかに思えた。

 

 しかし彼女はただ一言の言葉も発することなく、ただその瞳に憐れむかのような物悲しい色合いを浮かべただけ。

 

 そして主であった男に一瞥を送った後、そのまま塵となって消えていった。

 

「――――――――。」

 

 無貌の仮面の男はただ静かにその様を見送っていた。

 

 しかし、ここで士郎は敵の選択を訝っていた。多少の火傷を負ってはいるが未だに彼自身は健在だ。すぐに闘志を掻き立てて立ち上がる。趨勢はそう悪い方に傾いているわけではないのだ。

 

 むしろバーサーカーの自壊こそ不可解だった。それが賢明な判断だとはとても思えない。この敵にとって結界の破壊が急務だったのだとしても、サーヴァントを自爆させてまで強行することではない。

 

 たとえ令呪で魔力をブーストしていたのだとしても、彼の固有結界がそう長くは続かないということくらいは予想できた筈なのだ。そしてそんな安直な行動をするような敵とは思えなかった。

 

 ここに来て、士郎は殊更に警戒心を強めた。この不可解な行為には必ず裏がある。しかしそこにあるであろう真意を予期しえる手段が彼にはなかった。故にここは間合いを空けて様子を見るべき――。

 

 だがそう判じた瞬間、対峙する男の体から爆発的に湧き上がる魔力を見て取って、士郎は意志とは逆の行動にでていた。そうせざるを得なかった。

 

 最後の令呪を使用する。躊躇する暇は恐怖と焦燥によって削り取られていた。投影するのは彼に許される最高最強の剣。

 

 彼の手の中に眩いばかりの光があふれ出す。そう、これこそかの騎士王の代名詞たる人類最強の聖剣に他ならない。人ならざるものの手による神造兵装。故に彼の秘術を持ってしても完全に複製することは難しいが、しかし真に迫ることは可能だ。

 

 その選択は正しく今彼のとりえる最高の手だ。そうするしかなかった。それにすがるしかなかったのだ。それほどに今この怪人の体から迸り出る魔力の奔流と、もはや異質などいう言葉では表現し切れない異貌の威圧感は、彼にそれ以外の対策を選ばせなかった。

 

 至高の聖剣を構える士郎に向けて、男は無造作に歩み寄ってくる。もはや手加減など考えられない。間合いに捕らえ次第、斬り捨てるしかない!

 

「うぅあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 一閃。しかしその斬撃を振り切るより先に、その攻撃が空を切ったことが分かった。男の姿は残像すら残さず、視界から消失していたのだ。

 

 敵の姿を求めて幾度か視界を巡らせた後で、衛宮士郎はようやく、己が手にする剣がその中腹から()()()()()()()()ことに気付いた。

 

「そ……ん、な」

 

 信じられないようなものを見たかのような声が、他人のものであるかのような自分の口から漏れる。今になってやっと己が崩壊を悟った聖剣の複製は、そのまま透明な砂のようになって霧散した。

 

 不条理などという言葉では表しきれない衝撃に、その謎についての懐疑が胸中に湧き起こる。しかし思案する暇もあらず、次の瞬間には彼の身体は木っ端の如く吹き飛ばされていた。

 

 それが敵の拳打によるものなのだと知ることさえ、彼の反射神経では不可能だった。加えて今まさに炸裂せんとした聖剣が破壊されたことにより、彼の身体は想像を絶する負荷に見舞われていたのだ。このままでは立ち上がることも出来はしない。

 

 強すぎる! これではもはやサーヴァント以上ではないか。いったいどうなっているのか解からない! 先ほども人とは思えないほどの力を見せていたが、また段階的に力が強化されたような印象だった。

 

 しかし薄れゆく思考の中で、士郎はそんな敵の不可解な強大さよりも、砕けた聖剣の本当の主のことを考えていた。

 

 まさか、彼女の身にまでこのような惨劇が見舞われているのでは、という危惧を夢想したのだった。だがそれ以上の思考は今の彼には許されていなかった。

 

 

 DDは倒れ伏す士郎に止めを刺そうと歩み寄る。

 

 ――が、そこでおもむろに脚を止めた。それは己ですら予期しなかった制動であった。不意に全身に襲い掛かった激痛が、男の意図を無視してその脚を折ろうとした。

 

「――ぐ、ぬぅうぅううッ!」

 

 苦悶の呻きを漏らしながら、それでも男は屈することを拒んだ。そして暫し案山子の様に佇んだ後、ゆっくりと、本当にゆっくりと脚を踏み出す。たった一歩進んだだけで途方もない痛みが彼の身体を襲う。体中の細胞が崩壊を始めているのだ。

 

 ――やはり、サーヴァント二騎以上には、身体のほうが耐え切れない、か――

 

「急が、なくては、な……」

 

 忌々しげに漏らして、倒れ伏す士郎には目もくれず、踵を返した。

 

 そして不意に、崩れ落ちたバーサーカーであった白灰色の塵を見眇めた。

 

 先ほどの、バーサーカーの一瞥。

 

「……私を、憐れむか……バーサーカー。そうだな。本当に憐れで滑稽なのは、確かに私自身のことに違いない。……それでも」

 

 ――もはや、止まれぬ。――と、独白ともいえぬような声を口腔内に篭らせて、怪人は痛覚を忘却したかのように一気に加速し、その場から走り去った。

 

 

 

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