ぼくたちインチキ魔法化高校劣等星、似本人 作:意伝志
父と母には感謝を忘れずに生きてるうちに言っておこう。
泣いてわめいて生まれてきた時のように、亡くしてから泣いて喚いても仕方ないのだから。
きっとそれがいい。
結婚の相手が決まったそうだ。そう旧長野県と旧山梨県との山々囲まれた村にある四葉本宅で療養中の私は知らせを受けた。
いかにも豪奢で座り心地のいい椅子に座りながら私は緑茶をすすり一息ついた。
きっと四葉の執事連中が計画を進めていたに違いない。計算に計算を重ね選び出された配偶者という名の種馬の遺伝子を受けて
私はきっと世界最高の精神干渉系魔法師として子を孕まされるのだ。
ふと外を見やるとこの広いいかにもな武家屋敷調伝統家屋にある庭の草が初夏の光を受けてキラキラと輝いているのが見えた。
その輝きが風に吹かれて揺れ波のようにうねりながら音を立ててサラサラと流れていく。
そんな美しい光景とは裏腹に私の黒い髪、重い印象を受ける黒と紫を基調としたドレスのように暗澹たるものであった。
二〇七七年現在、十年にわたって酷使されてきた私の身体も心もすでに襤褸襤褸に擦り切れて摩耗し限界であった。
世界最高の精神干渉魔法師などと謳われていながら私の心は弱いままだったことに気づいたのだ。
それに気づくのに十年かかってしまった。齢、27なれど私は未だに小娘だったのだ。
本当にそうだ、私はなんであるならおぼこい生娘と呼んでしまわれても仕方がない。
27で私は未だに処女で男と接吻もしたことなどない、恋というものをしたことがないのだ。
十師族の四葉は秘密主義、言い換えるなば協調性がなく自分勝手だ。
プライドや自尊心ばかり高い魔法師のなかでも頭飛びぬけて高いと言っても過言ではない。
そんな権力や優れた魔法師の精製に執着している。一族の一員である私に人並みの恋だの愛だの訪れるわけがない。
まぁ、今の世界情勢のせいもあるのだろうか、つい最近までこの世界は戦争をしていたのだ。
いや、今もその後始末がそこかしこで勃発しているに違いない。
十年、ただただ逃げ続けて逃げ続けてついに足が止まった。
「疲れたわ」
疲れてしまったのだ。逃げることにも、恨むことにも、怒ることにも、後悔することにも、悲しむことにも。
疲れた。今の私は魂の抜けた抜け殻だ。ただの人形だ。
しかし、もしも私になにかあるのだとしたらそれは罪悪感だろうか。
考えることを十年放棄してきたからなのか、こんならしくもないことを日がな一日最近はずっと考えている。
とはいえ壊れた体の療養のために安静にしてるので暇つぶしにできることといったらこんこんと湧き出る頭の中の
どうしようもない妄想に付き合いながら自問自答するくらいしかないのが私の今だ。
油断して先程はつい思考が声となって出て唇の間をでていってしまった。
きゅっと口を結ぶ。そうしていないと今の弱った私の心が心臓を、喉をよじ登り口をこじ開けて出てきてしまいそうだ。
テーブルに置かれた結婚相手の写真が入っているファイルを指先で弄ぶ。
全て投げ出してしまいたい、そう思った。
嫌なこと全部忘れて、逃げてしまいたい。ずっとそう思っている。
いや、いままで自分をごまかしながらずっと逃げていたのだ。
思ってはいるがもう、その意志も行動に移す力もない。
私の人生は一体何だったのだろうか?何のために二七年も生きてきたのだろう。
答えのない問いに延々と答えを問い続ける不毛な私を二〇七七年の初夏の風が押し流していくのだった。
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座った椅子に私の背中と尻がくっついてしまったのではないかと思うほど時間が過ぎた。
テーブルに夕日の綺麗なオレンジの光が反射し私の瞼を透過し目の前にはチカチカと小宇宙が広がった。
「んんぅ」
眩しさに体をよじる。バサリとテーブルからハードカバーのファイルが落ちた。
めんどくさがりながら私はファイルを拾うことにした。
中身はなんだか気が乗らず目を通していない。
これから結婚することが決まっている相手だ。
どうしようか、別にこれといった好みがあるわけではないが、二十歳くらいの小僧が相手か60過ぎのおっさんが相手だったら嫌だなと思う。
心が疲れすぎて食指も動かない。自分を慰めることだって随分とご無沙汰だ。
私の擦り切れた身体に男は欲情するだろうか、一般的に見ても私は容姿が整っていると思っている。
美人27歳処女だ。 考えると自分のことだが気が滅入る。
えーえー処女ですよ。だからなんだというのだ、・・・ちょっと待てよ。
アレって最初はとてつもなく痛いと聞いたことがある。あーあなんだか憂鬱な気分になってきた。
情けないにも程がある。
四葉家のために貼り付けたプライドがこんなところで邪魔になるとは。
いっそもともと邪魔なものではあった気がするが、どうでもよくなってきた。
拾ったファイルから写真が一枚こぼれ落ちる。
こいつが私とxxxする男か、イマイチパッとしない真面目そうな顔の男が写っていた。
「スーツがあんまり似合ってないわね」
日に焼けたような肌がスーツに見事にあっていない。
なんだか普通の男が出てきてホッとした。これが軍人帰りのゴリゴリのどう見ても肉体のスペックで選びましたみたいなものだったとしたらどうしようかと思った。
意外としっかり選んでいるんだなと内心安心した。
そうするとなんだかこの男に興味が湧いてきた。ふーん、暇つぶしがてらにこの男のプロフィールでも読んでみるか。
この男の名前は
「司波龍郎」 と言うらしい。
この時私は気付かなかったが下腹部が僅かに熱を帯びたのだった。
外がにわかに騒がしくなった。どうやら四葉本宅に私がいることを知って妹がやってきたようだ。
資料はまだ読み途中であったが妹に見つかると面倒なので背中に隠し私は狸寝入りすることに決めた。
そういえば、私の心は疲れてカラになってしまったが彼女は今も変わらずに私に恨みの炎を燃やし続けているだろうか。
過ちて改めざる
これを過ちという
次回、青春マギクスファンタジーインチキ理論小説
明日は何かと問われれば。
意味なんてないのである。