ぼくたちインチキ魔法化高校劣等星、似本人 作:意伝志
激しい雨音の中、愛だけが聞こえた。愛だけが私を導く。
私の灯が消えるまで。
山間の道で僕の乗ってきた車が横転し道路にその足跡を残しながら今は足を止め黒い煙をふかしていた。
幸いにも僕は車から脱出し寂しげに横たわる車を眺めていた。
天泣がやってきた。大地にそそぐ日光にまじり雨粒が一緒に下りてくる。
僕の車を襲ったと思われる人物が森林の中から出てきた。
「椎原辰郎だな。我々と一緒に来てもらう。」
迷彩服をまとういかにも戦闘者のような男たち4人が銃をこちらに向けて距離を詰めてくる。
「ふーむ、四葉の関係の皆さん・・・ってわけではないな、君たちは」
「我々は、何も聞かされていない。貴様を生きたまま拉致することが任務だ。指示に従え!」
「いやはや、困ったものだ。大丈夫!僕は抵抗しないよ、ほら痛いのは誰だって嫌いだろ?」
両手をあげ降参のポーズをした。
「よし、拘束しろ」
リーダーの役割をしている目だし帽の男が指示を出している。
天気雨でできた道路の水溜りが光を反射しその光を大気を落下中の水滴が反射する。
透明な水滴の中に一瞬赤い飛沫が舞った。
僕の後ろに位置取っていた迷彩ヘルメットの男の頭が半分吹き飛んでいた。
スポッと軽い音が鳴ると瞬く間に僕を囲んでいた男たちは頭部が吹き飛ばされていく。
目だし帽の男だけが辛うじて息をしていた。天気雨もだいぶ弱まってきたみたいだ。
タイミングを見計らったかのように携帯が鳴ったので僕は電話に出た。
「やぁ、大丈夫だったかい?」
「ドクターオクダ。まったく、この国の国防軍はほんとに何をやっているんだろうね。元々この国はスパイには弱いけれどここまでとは。また、この星の貴重な命が失なわれてしまったよ。できれば殺したくなかったな」
「まぁ、いいじゃないか。そのおかげで彼女たちも楽に入れることができたし訓練もつむことができた。」
「僕たちとしては、現状として助かっている所やるせないかな」
「タツロー、君は僕たちの研究に非常に重要な役割を担っているんだ。こんな所で抜けられては困るよ。」
「すまない、助かったよ。これからは気をつけることにしよう。死体はどうする?」
「スカベンジャーも送ってるから綺麗に掃除してくれるさ。」
「そうか、僕たちの娘はどこだい?」
「近くに居るよ。『スクウィッド』は君の8番目の子供さ」
誰も居ないはずの水溜りに音が鳴ると蜃気楼のように景色が歪む。
よく見るとその歪みは人型をかたどっている。そして突如として裸の少女が現れた。
「スクウィッドはえらい子だな、ありがとう。パパを救ってくれて」
彼女の頭部をなでるとぬめぬめした液体の感触にゴムにも似た弾力と吸い付きが襲ってきた。
真横に割れた黒い瞳の中には喜びが見て取れた。端的に言うならば彼女はイカ人間である。
「特殊な粘液を超高速で飛ばすことで敵を狙撃出るのが彼女の能力だ。彼女たちの進化はすさまじいスピードで進んでいる。」
「僕のおかげだな」
「基本を作ったのは僕だけどね。しかし可能性の扉を開けたのは君も一緒さ」
軽口を叩き合う相手がいるのはとてもいい気分だった。この血なまぐさい場所では。
彼女の頭部にあったのは色素胞で黒く変色した食腕であった。髪の毛に似せて擬態している。
彼女の頭に置いた僕の手を食腕がつかむとそのまま口元に持っていき僕の指をしゃぶり始めた。ぐにぐにと親指が圧迫されたり吸われているのがわかる。
満足そうな顔をしているので好きにさせておく。
「やたらと甘えん坊だな。どうしたんだ?」
「みんなこれからタツローに会う機会が減るのを肌で察しているのさ。君がサユリくんをつれて帰国したものだからね。」
「そうか、最近僕のことを調べている連中がいるって聞いたから一時的に離れておこうと思ったんだが」
「タツローがまさかヨツバに目を付けられるとは恐れ入ったよ。で、どうするんだい?」
「護衛はもういらないかな。幸い歩くのは好きだからここから四葉の領地まで歩いていくことにするよ。距離もそれほど遠くないしもし、遅くなったら迎えが来るだろう」
「わかったよ。くれぐれも気をつけたまえ。スクウィッドは撤退だ。」
指をしゃぶるのをやめると彼女はまるで透明人間のように姿を消した。
僕がオクダと話をしている間に4つの死体は綺麗に片付けられていた。後ろを振り返ると大型犬のような生物が頭からギリースーツをかぶり足早に去っていくのが見えた。
「また近いうちに会いに行くよ。子供が生まれるんだ」
「楽しみにしているよ。ミスタータツロー。君の環世界を僕に見せてくれ」
彼がそう言うと電話を切り僕はいつのまにか雨が止み虹のかかった道を歩き始めた。
Over The Rainbowを口ずさみながら。
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途中四葉のセキュリティに保護される形で予定よりだいぶ遅れて僕は四葉本宅に招きいれられた。
なかなか風情のある所なので驚いた。もっと研究施設じみているとも持っていた。
なんせ彼らのなりたちは元々超能力、今では魔法開発のためのモルモットとして始まったものなので昔の日本情緒あふれる武家屋敷とは一本取られた気分だ。
玄関に入ると待女をともなった女性が立っていた。顔色はよくない印象だがそれでも美人であることを失わせていない。
随分と痩せているようだがこの様子でこれから子供を生むとは、大変そうだ。
母体に対しても、子供に対しても危険が伴う。
彼女が僕の右手をしきりに盗み見している。どうしたのかと思うとすぐにその理由が分かった。
スクウィッドの吸盤のあとが水玉模様のように残っていたからだ。
あえて僕は何も言い訳をしなかったし、彼女も聞きはしなかった。
「随分と遅い到着でしたのね。私の名前は四葉深夜。あなたの妻になると決定しているものです。」
「いやはや、大変申し訳ない。途中で車がいうこと聞かなくてね。司波龍郎です。あなたの夫になるものです。」
それだけいうと彼女は踵を返すと板張りのつやつやした廊下の奥に消えていった。
「いやはや、なかなかのお嬢さんですね」
四葉執事の葉山さんというかたが僕の後ろに控えていたので反応を見たかったのだが的が外れた。
「司波様、お召し物を交換なされてはいかがでしょうか」
「そうだね。お風呂でも用意して貰ってもいいかな?」
「かしこまりました。 着替えはこちらで用意させていただきます。そうぞこちらへ」
促されいきなり四葉のそれも本宅の風呂にお世話になるのだった。
「そうだ。葉山さん途中来るときに農家さんにもらった野菜ががあるんですがね。これがまたおいしいんですよ」
「左様で」
上着からぷっくりとみずみずしいトマトを持つと僕は差し出した。
「ですから、お一つどうぞ」
笑顔を添えて。
「ええ、どうも」
戸惑った表情を見せる葉山に間髪入れず畳み込む。
「それでですね。ちょっと頼みごとがあるんですよ」