◆◆◆
「あ」
私は、つい足を止めてしまいました。
人違いかもしれないけど、前方から歩いてきた女性のお顔が、私の知り合いと重なったのです。
「え?」
すると、その女性もまた私に気付き、足を止めました。
そこは都心から外れた小さな繁華街。私は学校で使うノートを買いに、文房具店へ向う途中でした。
私は訊ねました。
「もしかして、
すると、女性は驚きながらいいます。
「紗瑠、なの?」
「はいっ」
良かった、本当に先輩でした。
私は嬉しくなって、つい小走りで先輩の傍まで向かい、まるで飛びつくように……飛びついちゃいました。
「きゃっ」
「えへへ、お久しぶりです。先輩」
久しぶりだったせいか一瞬驚かれちゃったけど、
「もう、相変わらずの甘えん坊さんね」
それでも、先輩はやさしく抱きとめてくれます。
「ええ。久しぶりね、紗瑠。元気だった」
「はい、元気です」
すると、先輩はふふっと微笑みながら私の頬をそっと撫でて、
「もう、どうして泣いてるのよ」
どうやら、気付かないうちに涙が出ちゃったみたいです。
でも、仕方ありません。
「だって」
本当に。本当に、先輩と会ったの久しぶりなんですから。
先輩と会えなくなってきたのは、確か二年前。私が小学三年生になってすぐだったと思います。
当時、先輩は中学に上がりたてで、お母さんは「色々忙しい時期だから紗瑠にかまってられないのよ」って教えてくれました。
だから私はのんびりと待つことにしました。
でも、連絡は全然こなくて。それに先輩のお家はすっごいお金持ちさんだから、一ヶ月二ヶ月と連絡がこないとお母さんも「迷惑だからやめなさい」って言い始めて、私もそんな気がしちゃって。
いまでは私は小学五年生。先輩はもう高校受験を控えた中学三年生です。
もう会えないのかな、会ってもやさしくしてくれないのかな?……って、感じていた頃だったんです。今日の先輩との再会は。
だから、ですから。私はいいました。
「先輩が私のことを覚えてくれたの、すっごく嬉しくて。先輩が昔みたいに私を受け止めてくれたのが、嬉しくって」
「紗瑠……。当たり前じゃない」
まったくこの子は、とでも言いそうなやさしいお顔で先輩はもう1度、今度は髪を撫でてくれました。
「嫌われてなかったんですね、私。えへへ」
すると先輩は少し辛そうなお顔で、
「そう。……貴方にそこまで思わせてしまったのね」
って、優しく私を抱きかかえます。
「嫌いになるわけないじゃない。お互い、ずっと小さい頃からの付き合いなんだもの」
「そう。……だよね? ごめんなさい、先輩ずっと、忙しかったんだよね? なのに、私」
先輩のこと、疑ったりなんかしちゃって。
「……」
「先輩?」
「っ、なんでもないわ」
さっきの間は何だったのかな?
気にはなりましたけど、私は深く追求するのはやめました。もしかしたら、お勉強中についよく漫画を読んじゃって、とかそういうことなのかもしれません。
「……あ、そういえば先輩どうして今日はここに?」
先輩は、かなりお金持ちのお嬢様だから。普段出歩くなんてしないのに。
すると先輩、これにも言いづらそうに。
「ちょっと、ね。けど用事は終わったわ、今から帰るところよ。紗瑠は?」
「私は、いまから学校で使う文房具を買いに行く所です」
「そう。ならご一緒してもいいかしら?」
「ふぇっ!? 本当ですか?」
予想していなかった言葉なので、私はつい声が裏返ってしまいます。
「もう。そんなに驚く事じゃないでしょう? 昔はよく一緒に買い物に行ったじゃない」
たしかに、昔は先輩とお買い物に行きました。私にあわせて徒歩や電車を使ったり、たまに先輩のお家のリムジン(っていうすごいお車です)に乗せて貰ったりして。
でも、だけど。
もうそんな日がくることを諦めてたせいでしょうか。こんな些細なことも懐かしくって、信じられなくって。
私は、嬉しさに照れ笑いしながらいいました。
「それじゃあ。お願いしちゃいます」
先輩と初めて出会ったのは、たしか私がまだ小学校に入るよりも前。物心がつき始めた頃だったと思います。
私のお父さんは先輩のお父さんとお知り合いで、その縁で先輩のお家のパーティにお呼ばれして、その時に先輩に出会いました。
最初に会ったとき、すごく綺麗なお姉ちゃんだなあって幼心に釘付けになったのをいまでも覚えてます。その時、先輩が私を見てくれることになって、途中手を引かれるままにこっそり会場を抜けてベランダに出た記憶も。
その時の風になびく先輩の姿は、ドレスの色もあってまるで黒い天使様みたいでした。
私は、ちらっといまの先輩を横目でうかがいます。
あの頃とちっとも変わらない、小さな風でさえ綺麗になびく黒くまっすぐの長い髪。強気な目つきに大人びた風貌。でも昔よりもずっとずっとかっこよくなってて。でも、ひとつだけ昔と大きく違うところが。
「? どうしたの」
「う、ううん」
私は咄嗟に視線を外しました。
……。
お胸、大きくなってるなぁ。いいなぁ、私まだぺたんこだから。
そんな感じで先輩と色々おはなししているうちに、私たちはお店に到着し、中に入りました。
「何を買うの、紗瑠」
「ジャ○ニカのノートと、あと消しゴムがなくなりそうだから、それです」
そういって買い物かごに目的の商品を入れていると、先輩はおもむろに財布の中身を確認しはじめて、
「その位なら、私が出してあげるわ」
「ふぇ? い、いいんですか?」
「もちろんよ。久々に可愛い紗瑠を甘やかせて頂戴」
「ありがとうございます」
私はぺこりと頭を下げ、レジのほうへ向います。
「○○円です」
先輩がレジに商品を出し、店員がいいます。そんな中、私はレジの傍にあった、ある商品につい目が向いてしまいました。
それは、デュエルモンスターズっていうカードゲームのパック。
「あら」
先輩がいいました。
「デュエルモンスターズって、こんな所にも売っているのね」
そういって、先輩は棚の並ぶパックの中から、紗瑠が一番視線を向けてた最新の商品を手に取り、
「ふふ、これも買いたいのね」
微笑んでいう先輩に、私は目を泳がせ、
「え、えっと……」
「いいのよ」
そういって先輩は、手に取ったパックを店員に提示します。どうやら本当に買ってくれるみたいで、なんだか申し訳ない気持ちになっていると。
先輩は、躊躇い無くいいました。
「すみません。これと同じ商品を1箱お願いします」
……。
…………。
………………。
「ふ、ふぇえええええええええっ!?」
予想を斜め上にいくまさかのBOX買いに、私はつい思いっきり驚いてしまいました。
「紗瑠、店内では静かになさい」
「ご、ごめんなさい。でも……1パックでも申し訳ないのに、こんな」
「いいのよ。私が奢ってあげたいんだもの」
「で、でも」
「お……お客様」
ふたりのやりとりを遮って、店員さんがボックスを持ってきていいます。
「こちらの商品でよろしかったでしょうか」
先輩はさも当然のように、
「いいえ、ダンボールで1は――」
「これでお願いしますっ!」
私は慌てていいました。
「ごめんなさい紗瑠、少しはしゃぎすぎてたわ」
お店を出ての帰路。先輩は申し訳なさそうに言いました。
「ううん。先輩の気持ちは凄く嬉しかったですから」
レジ袋を持ちながら私は返します。
それに。全然そういう風には見えなかったのに先輩も嬉しくて興奮してたんだ。そう風に考えると、なんだか私も嬉しくて仕方なくなります。
つい、足取りがスキップになっちゃいそう。
「それにしても、紗瑠がまだデュエルモンスターズをやってるなんて、驚いたわ」
「先輩に教えて貰ったゲームだから」
実は、これも初めて先輩に出会ったときの思い出だったりします。
ベランダで沢山お話をして、デュエルモンスターズのデッキを先輩に貰って、ルールを教えて貰いながら沢山たくさんデュエルして。
そういえば。確かあの日、1回だけ賭けデュエルをしたんです。罰ゲームで勝った人は負けた人にひとつだけ好きな願いをひとつだけ聞くってルールで。
私は、もちろん負けました。
だけど、先輩が私にした罰ゲームが何だったのか、もうずっと思い出せません。ただ、確かに罰ゲームはやった。その事実だけはしっかり覚えてるんですけど。
「先輩も、デュエルモンスターズはまだ……」
「ええ。まだやってるわ」
「本当ですか!?」
「ええ」
と、先輩はいうと、折畳んだ状態のデュエルディスクを私に見せました。(あ、デュエルディスクっていうのはこのカードゲームをする時に使う機械のことです。そして、このゲームのプレイヤーは俗称で決闘者と書いてデュエリストっていわれています)
「こうやって日ごろからディスクを持ち歩いてるくらいにはね」
「私もです」
えへへと笑い、私も手持ちのディスクを見せます。すると先輩、
「ふふ、ねえ紗瑠知ってるかしら?」
「なんですか?」
「モブ決闘者ってね。……一定の距離で目があうと、近づいてきて強制で賭けデュエルしてくるのよ?」
「ふぇ、そうなんですか?」
それは初耳でした。って、あれモブって?
「負けたら罰で所持金を半分奪ってくるわ」
「そ、そんな人がいるんですか!?」
もし私も出会っちゃったらどうしよ――。
「頭にびっくりマークを出してね。ミニスカートとか虫取り少年とかが」
「って、それってポ○モンだよぉ!」
「よくわかったわね。正解よ」
「正解よ。じゃないよぉ」
ふぇぇぇ、先輩に遊ばれたあ。
だけど気付くと、意地悪く笑ってると思ったら先輩、全然そんなことはなくって、
「だから、ね。……その」
って、口をごもらせてました。
「さっき、ディスクを見せ合ったとき、目……合ったわよね。だから、えっと」
目を逸らし、先輩は何かいいたそうです。そういえば先輩、普段は堂々としてて、凄くお姉さんしてるのに、私と話すときたまに「はっきりしなくなる」っていうのかな? ああいう態度をとることがありました。
「先輩?」
首をかしげて訊ねると、先輩はやっと――胸の内をゆっくりと吐き出しました。
「久々に、デュエル。……しないかしら?」
それは私にとって「そこまで緊張することなのかな?」な提案でした。寧ろ、先輩から誘ってくれるなんて、凄く、すっごく嬉しいのに。
「ホントですか? えへへ、もちろんです」
私はいいます。けど先輩は。
「違うのよ。ほら……さっき、ポ○モンのときに言ったじゃない」
さっきの冗談のときにいったこと?
「負けたら、罰でお駄賃を半分取る、ですか?」
「そう、そこだけど。そうじゃなくって」
って言われても、私には何が言いたいか分かりません。ふぇぇ、ごめんなさい。察しが悪くって。
そしたら、自分を責めちゃったのが顔に出てたのかもしれません。
「あっ! 別に紗瑠は悪くないわ。責めてるわけでもなくて」
先輩は必死に弁解し、そして一呼吸おいてから、いいます。
「賭けデュエル、しないかしら? 負けたら、罰で勝者の願いをひとつだけ聞くこと」
狙ってたのか狙ってないのか。それは、初めて会った時にしたデュエルと同じ条件でした。
そしてそれが、さっきから先輩が言い出したくて言い出せなかった内容の真実。――深く考えてはいないけど、やっぱり私には「そこまで緊張すること」なのかなぁ、って思いました。
だって、(私は経験ないけど)まるで男子が女子にラブレターでも送るような、鬼気迫った感じだったから。(えへへ、友達がそれをされた所を間近で見ちゃったことはあるんです)
「いい。……ですけど?」
気圧されながら、私はきょとん、と返すと。
「いいの? 本当に、いいのね!」
「う、うん……」
先輩は、ほんとうに凄く必死で再確認してきました。
「それなら、確かここから紗瑠のお家までに公園があったわね。そこへ行きましょう」
一転してクールに、そして強がった様子で先輩はいいます。
でも、私には分かりました。
僅かにはにかんだ先輩の口元。凄く、すっごく嬉しいんだなぁって。
◆◆◆
デュエルモンスターズはカードゲームなので、もちろん机の上でもプレイできますけど、それを少し広い場所ならどこでもできるようにしたのが、デュエルディスクという専用の機械です。
起動すると、このゲームに関わっている各企業のコンピュータから一番近いサーバーと繋がって、カードを読み込むと、ソリッドビジョン(立体映像でいいのかなぁ?)というものをだしてくれます。
しかも、オートジャッジ機能というのもあって、細かいルールを自動で処理してくれて、紗瑠たちの声を認識して直接Q&Aとか、身内のルールにも柔軟に対応してくれる優れものなんです。
私たちは公園に辿りつきました。偶然にも、辺りを見渡した限り私たちの他には誰もいなくて、非常に静かです。
「ギャラリーがいなくて助かったわ」
ディスクを展開しつつ腕につけ、デッキを差し込みながら先輩はいいます。
「えへへ、そうですね」
私は本当は気にはしてなかったけど、先輩に口を合わせながら、同じようにデッキを差し込みディスクを腕につけます。
デュエルディスクがお互いを対戦相手と認識すると、画面が表示され、そこにLP4000と数字が描かれました。
「そういえば紗瑠」
先輩はいいました。
「あの掛け声、言うのは恥ずかしいほう?」
『あの掛け声』とは、恐らくデュエルモンスターズのアニメで対戦の度にいわれる『あれ』のことです。
「少し恥ずかしいけど。学校でよくお友達に言わされてるから大丈夫です」
「言わされてるって」
先輩がふふっと笑いだします。私が弄られてる様が目にみえて浮かんでるんだろうなぁ。
自分でそこまで自覚できちゃうっていうのも少しだけ哀しいですけど。
「とりあえず、ならやってしまってもいいのね?」
「はい、大丈夫です」
お互いに了解しあい、そして私たちはいいました。
『デュエル!』
紗瑠
LP4000
手札5
夜夢
LP4000
手札5
デュエルディスクには、
『私のs――』
『私の先攻、ドロー』
みたいに相手を無視して先攻を取らない為に、自動でターンプレイヤーを決定する機能があります。
今回、私のディスクにターンプレイヤーを示す文字が点灯しました。
「先攻は紗瑠ね」
「はい。私のターンです」
先輩からの了解も受け、私は5枚の手札を確認します。
ちなみに少し前までは本当に「先攻、ドロー」ってできたんですけど、いまは先攻の1ターン目は通常のドローができません。
「じゃあ、まず私はモンスターを召喚します。――《光天使ブックス》!」
私は手札からカードを1枚選び、ディスクに読み込ませます。
すると、私のすぐ前で、本――というよりは何となく棺に近い、そもそも天使にさえ見えない天使族モンスターが出現します。
「さらに、ブックスの効果発動です。1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を墓地に送ることで、手札の光天使モンスター1体を特殊召喚する事ができます。墓地に送ったカードは《ホーリー・レイジ》。そして手札から、《光天使セプター》を特殊召喚」
続けて出現したのは、やっぱり天使らしくない天使族モンスターです。
「続けて《光天使セプター》のモンスター効果。このカードの召喚に成功した時、デッキからセプター以外の光天使モンスターを手札に加えます。私はこの効果で《光天使スローネ》を手札に加えます」
すると、私の声を読み取ったディスクは、デッキから指定したカードをはみ出させます。私がそれを抜き取ると、ディスクは自動的にシャッフルを開始します。
「光天使。手札からの特殊召喚と手札補充に長け、レベル4×3のエクシーズモンスターを展開するのが得意なテーマね」
先輩は私のカードをみて解説を口にします。私ははにかんで、
「でも、まだレベル4×3のエクシーズモンスターは殆ど持ってなくって」
「あら。そうなの?」
「はい、だから今から出すのは、レベル4×2です」
そういって私は、先ほど展開した2枚のモンスターを1箇所に重ねます。
「私はレベル4天使族モンスター。《光天使ブックス》と《光天使セプター》でオーバーレイ・ネットワークを構築します」
すると、私と先輩の間から、地面に渦巻く銀河の映像が出現し、私のモンスターたちは光り輝く霊魂みたいになって飲み込まれていきます。
「無垢なる想い、いま
銀河から光が噴出して、そこから両手にポンポンを持った妖精が出現しました。その攻撃力は1900です。
「口上、用意していたのね」
先輩がいいました。
「はい。ちょっと頑張って自作してみました。え、えへへ」
はにかみながら、つい先輩に様子をうかがってしまいます。大丈夫かな、ちゃんと口上できてたかな、変じゃないかなって。
アニメやプロのデュエルでは、特殊なモンスターを召喚するとき、こうやって口上をいってデュエルを盛り上げる事がよくあるんです。私は、あまりそういうの似合うほうじゃないって自覚はあったんだけど。やっぱり一度はやってみたいって思っちゃって。
「ふふっ。よく出来てたわよ」
先輩は、優しく微笑んでくれました。
「ほ、本当ですか?」
「ええ。所々背伸びして難しい言葉を使ってるのが可愛らしいわ」
「ふぇっ」
それって、褒めてるのかなぁ?
すごく、すっごく気になりますけど……。
「《フェアリー・チア・ガール》のモンスター効果で、オーバーレイユニットのセプターを取り除いてカードを1枚ドローします。そして、カードを1枚伏せてターンを終了します」
とりあえず、先輩に待たせるわけにもいきませんから、私は私のやることを終えて、ターンを渡すことにしました。
「私のターンね、ドロー」
先輩のターンになりました。
「私はまず、手札から《養殖ウツボ》を発動するわ」
先輩が最初に使ったのは、モンスターではなく1枚の魔法カードでした。
「このカードは、デッキから同名の水族・魚族・海竜族モンスターを2枚以上選択し、1枚だけ手札に加えて残りを除外するカードよ。私はこれで《ハリマンボウ》3体を選択、1枚を手札に加えて残りの2枚は除外するわ」
好きなカードをサーチする効果は強い。昔、先輩にいわれたことがあります。
先輩はまさにそういう効果のカードで好きなモンスターを1枚手札に加えるとすぐさま、
「そして、たったいま手札に加えた《ハリマンボウ》を召喚。さらに水族・魚族・海竜族モンスターの召喚に成功したとき、このカードは手札から特殊召喚できるわ。きなさい《シャーク・サッカー》!」
先輩のフィールドには2体のモンスター。そして、それらはともにレベル3。先輩もエクシーズ召喚をするみたいです。
「私は、レベル3の《ハリマンボウ》と《シャーク・サッカー》でオーバレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」
再び地面に銀河の渦が現れると、今度は先輩のモンスターがその渦に飲み込まれていきます。
「海底に沈みし幾多の業。いま双魚と成りて、再び機動せよ! エクシーズ召喚、浮上なさい《潜航母艦エアロ・シャーク》!」
先輩の口上と共に現れたのは、一組の機装の双魚でした。
「これが先輩の口上。……わあ。すごくかっこいいです。どういう意味なのかは、あまり分からないけど」
「ありがとう、紗瑠にそう言って貰えて嬉しいわ」
先輩は一回微笑んで、
「《潜航母艦エアロ・シャーク》のモンスター効果。オーバーレイユニットを1つ取り除き、除外されているモンスターの数×100ポイントダメージを紗瑠に与えるわ」
「ふぇ?」
一瞬。私、先輩のモンスターなんて除外してないよ?……って、変な声をあげてしまいます。
「除外されている私のモンスターは《ハリマンボウ》2体。つまり紗瑠に200ポイントのダメージを与えるわ。私はオーバーレイ・ユニットの《ハリマンボウ》を取り除いて効果発動」
そういえば、先輩はついさっき《養殖ウツボ》でモンスターを除外してたのでした。
除外されていたモンスターの幻影が一瞬浮かぶと、それが弾丸という形でエアロ・シャークに装填されます。
「掃射開始! エアー・トルピード!」
先輩がまるで提督さんになりきったみたいに手を振ると、エアロ・シャークから装填されたミサイルが私に向けて放たれます。
紗瑠 LP4000→3800
「きゃあ!」
映像なのでもちろん痛みはありません。でも、私は爆風と煙の映像に巻き込まれて、視界が塞がれて、つい私は声をあげてしまいます。
やっぱり先輩すごいなぁ、《養殖ウツボ》がそこまで計算して使ってたなんて。私はまたひとつ先輩に尊敬を覚えかけます。
だけど。
(あれ?)
そう、気付けばエアロ・シャークが私に与えるダメージはたったの200です。それだけのためにここまでする必要って、あるのかなぁ?……って。
だけど。それは間違いでした。
「そして、墓地に送られた《ハリマンボウ》のモンスター効果」
「ふぇ?」
煙が晴れ、やっと見えるようになりながら私は頭にクエスチョンマークを浮かべます。
「このカードが墓地に送られた時、相手モンスターの攻撃力を500下げるわ」
「え、それじゃあ」
「私はこの効果で《フェアリー・チア・ガール》の攻撃力を1900から1400にダウンさせるわ」
すると、フィールドに《ハリマンボウ》の幻影が現れ、口からたっくさんの針を私のモンスターに飛ばします。
《フェアリー・チア・ガール》 攻撃力1900→1400
ぽんぽんで身を護ろうとする《フェアリー・チア・ガール》。だけど、防ぎきれない量の針が沢山突き刺さって、見ているだけで私まで痛くなっちゃいそう。
「エアロ・シャークの攻撃力はチア・ガールの元々の攻撃力と同じ1900、これで戦闘破壊できるわ」
「え、あっ!?」
私は、やっと気付いちゃいました。先輩がそこまでしてエアロ・シャークの効果を使った本当の理由。
ダメージなんて、本当は関係なかったんだ。最初から《フェアリー・チアガール》の攻撃力を下げるのが目的。
「エアロ・シャークでチア・ガールに攻撃。ビッグイーター!」
先輩のモンスターが再びミサイルを。今度はチア・ガールに向けて放ちます。チア・ガールは「きゃあ!」と怯え、そしてポンポンを盾に体をそらしました。
――そこへ舞い降りる、一束の白百合の花。
「攻撃宣言時、罠カード《フローラル・シールド》を発動します」
私は、伏せていたカードを発動し、いいました。
「《フローラル・シールド》は相手モンスター1体の攻撃を無効にし、自分のデッキからカードを1枚ドローします。私はエアロ・シャークの攻撃を無効にして、デッキからカードを1枚ドロー」
白百合の花は開くと、チア・ガールを護る盾になってミサイルを受け止めます。そして爆発から護り、爆風さえも花が放つピンク色の芳香で弾き、それは紗瑠のデッキさえも包み込んで、私はカードを1枚引き抜きました。
先輩はいいました。
「このカードは、もしかして私が最初あなたにあげたデッキに入ってた」
「はい。いまでも大切に使わせて貰っています」
そうなんです。この《フローラル・シールド》は私が先輩と初めて会った時に貰ったカードのうちのひとつ。
「あの日から、ずっとずっとデュエルで私を護ってくれてるんです」
すると先輩は懐かしむように。
「そう。私があなたの前から消えてからも、あのカードはずっと。改めてあの時あなたに渡してよかったわ」
「はい、ありがとうございます。先輩」
なんて、デュエルの最中なのに昔を思い出してほんわかしてから。
「バトル終了よ。正直、チア・ガールを残したままターンを明け渡すのは厄介だけれど。私はカードを1枚セットしてターンを終了するわ」
先輩がいうとディスクがその音声を読み取り、再びターンが私にまわってきます。
「私のターン、ドローします。そしてメインフェイズ時、チアガールの最後のオーバーレイユニットを使って、もう1枚カードをドローします」
私は1枚、そしてもう1枚とカードを引いて、6枚になった手札を確認します。《大天使クリスティア》《光天使ウィングス》《神の居城-ヴァルハラ》《神の宣告》、そしていま引いた《オネスト》と《光天使ソード》。
「この時点で手札が減るどころか6枚に増えてるのは厄介ね」
「え、えへへ。ありがとうございます」
私はなんだか得意げな気分になって笑みがこぼれちゃいます。
「私はこのままバトルに入って、《フェアリー・チア・ガール》でエアロ・シャークを攻撃します。フェアリー・ターン!」
傷ついたチア・ガールはくるくると回転して竜巻を出しながらエアロ・シャークに突撃します。
ですけど、いまチア・ガールの攻撃力はエアロ・シャークには届きません。ですから、
「ダメージステップに入っていいですか、先輩?」
「ええ、私に発動するカードはないわ」
先輩からダメージ計算に入る許可をもらったので、私はここで手札からカードを1枚、墓地に送ります。
「ダメージ計算前に、手札から《オネスト》を墓地に送って効果を発動します。この効果で、チア・ガールの攻撃力はターン終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力アップします」
すると、チア・ガールの体に光り輝く大きな羽が生えて、竜巻の大きさ・回転数のどちらもすごい勢いで上昇します。
《フェアリー・チア・ガール》 攻撃力1400→3300
そして、《オネスト》の影響で光の軌道が残る勢いでフィールド中を駆け巡るチア・ガールは、竜巻でエアロ・シャークを上空へ浮かせると、私や先輩さえも二次被害で巻き込みながら上空のエアロシャークを上下左右、四方八方に何度も何度も攻撃を加えて破壊しました。
そんな戦闘の様子を眺めながら、先輩はいいます。
「モンスター同士の攻撃力の差分は1400、実質《オネスト》を使う前のチア・ガールの攻撃力分のダメージが私に入るわ」
夜夢 LP4000→2600
「バトル終了。そして私は、カードを1枚セットしてターンを終了します」
伏せたカードは《神の宣告》です。
このカードは半分のライフっていうすっごいコストが必要なんですけど、魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚って、本当に沢山のことを無効にできるカードなんです。
《神の宣告》を伏せたから、たぶん安心。――そう思っていたら。
「なら、私のターンね。ドローよ」
先輩のカードを引く動作。直後でした。
一瞬、ビジョンの全てが暗転しその直後、さっき私が伏せたばっかのカードが一本のレーザーで撃ち抜かれてたのです。
「え?」
私は、一体何が起こったのかまったく分かりませんでした。
巻き上がる煙の中、たったいま発動されたカードが表示されてるのに気付くまでは。
登場オリカ
フローラル・シールド
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
(アニメ遊戯王5D'sおよびタッグフォースシリーズより)
ホーリー・レイジ
通常魔法
自分フィールド上の光属性モンスター1体を破壊する。
以下の効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。
このカードが自分の墓地に存在する場合、このカードをゲームから除外して発動できる。
このターンのエンドフェイズ時まで、自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力は2000ポイントアップし、そのモンスターが相手ライフに与えるダメージは自分も受ける。
(アニメ遊戯王ゼアルより)
養殖ウツボ
通常魔法
自分のデッキから水族・魚族・海竜族の同名カードを2枚以上選択して発動する。
その内1枚を手札に加え、残りをゲームから除外する。
初めまして、今回はじめてこちらで小説を投稿させて頂く、CODE:Kというものです。
この作品は完全オリジナル世界で、原作のキャラクターなどは一切登場しません。更に、オリカも割りと頻繁に出てしまいますので、そういった作品が駄目な方には重ねて申し訳御座いません。
こんな作品ですが、これから頑張っていこうと思いますので、今後よろしくお願いします。
最後に、読んで下さりありがとうございました。