これは、私が数年ぶりに先輩に出会う、少し前の話です。
「あっ」
私は、教室の前の張り紙をみて、ぱっと目を輝かせました。
「ここが私のクラスなんだ。えへへ」
お友達も何人か一緒のクラス。私はつい、うきうき笑顔になっちゃいます。
張り紙には5-Bっていうクラス番号。そしてこれから一年一緒のクラスになる子たちの名前がずらっと書いてありました。
4月初旬。
私、立花 紗瑠たちばな しゃるは今月から小学5年生になりました。今日はその始業式です。
「紗瑠、おはよー」
張り紙を眺めていると、横から声をかけられます。
「おはよう、苺ちゃん」
私は振り向きいいました。苺ちゃんは私にとって特に親しいお友達のひとり。そして、
「ねえ、苺ちゃん。私たち一緒のクラスだよ、ほら」
これから一年、一緒にお授業をするクラスメイトでもあります。
私のようなただの幼児体型とは違って肌とか体型とかが絶妙に綺麗で、(その頃はまだ再会してないから思い出の中のですけど)夜夢先輩と同じくらい素敵な長い髪。
挑発的で唯我独尊(っていうんだっけ?)だけど、情報のアンテナがすっごく張り巡らされてて悪知恵も働く、私とは何から何まで正反対の子です。
「らしいわね。昨日マネージャーから聞いたわ」
実は苺ちゃん、小学生でアイドルをやってるんです。いま丁度すごくブレイクしてる所でよくテレビにも出演してます。だから仕事で学校に来ない日も多くて、今日も苺ちゃん欠席なのかなって思ってたから。内心ちょっと、ううん。すっごくうれしかったり。
苺ちゃんも一緒のクラスで嬉しかったのかな? すっごく意地悪さんな笑顔でいいます(あれ?)。
「去年はクラス分かれちゃったしね。感謝しなさいよ、この苺がまたいっぱい虐ってあげるから」
「それは望んでないよぉぉぉ!」
「そう? なんだかんだでいつも嬉しそうじゃない紗瑠ってば」
「それは、やっぱり苺ちゃんが構ってくれるから……って、それだけ聞くとなんだか――」
「変態よねー」
「私そんなんじゃないよーーーっ!!」
「そうそう、その反応よ。これから1年、しっかり聞かせて頂戴」
「いやだよお! ってそもそも私去年も教室の外ではいっぱい玩具にされ――」
「あ、そうそう紗瑠?」
「スルー!?」
さんざん私の反応を愉しむだけ楽しんだ挙句。ひどいよぉ。
「なんか私たちのクラス。転校生がいるんだって」
「転校生?」
「それも外国人、しかも苗字を持ってないんだって。……あ、たぶんコレじゃない?」
と、苺ちゃんは張り紙にひとりの名前を指さします。
そこには。
『シムーン』
って、書いてありました。
「この度、新入生とは別に新しいお友達がひとり、この学校にやってきました」
その始業式。校長先生は、体育館のステージにひとりの少女を招きます。
上がってきたのは、恐らく白人と思われる女の子。だけど、髪の色は私たちと同じで、お顔の造型も私たちがイメージするような西洋の白人さんとは何となく違う気がします。
布を1枚羽織ってて、無表情なのもあって、すっごくミステリアスな子でした。
「さ、挨拶してください」
校長先生が、マイクを渡しながらいいます。だけど、少女はマイクを受け取ると上から見たり逆さにしたり、どうやらマイクの使い方も知らないみたい。
見かねた先生がやさしくマイクの使い方を教えると、
「シムーン」
と、それだけ自己紹介をしました。
「彼女の名前はシムーンちゃんといいます。外国からきた子でまた日本のことをあまり分かっておりませんけど、仲良くしてあげてください」
再びマイクを握り、校長先生はいいました。
「よろ。……しく」
あまり滑らかじゃない日本語でシムーンちゃんはいい、頭を下げます。校長先生が拍手をしたので、私や他のみんなも合わせて拍手で迎えました。
「紗瑠、紗瑠。……やっぱりあの子みたいね」
苺ちゃんがこっそり振り返っていいます。私の苗字は「たち」から入って、苺ちゃんは「たか」。だから同じクラスになるとよく出席番号も隣同士になります。
「う、うん。凄くきれいな子だね」
「よね~。でも、この苺様の目は誤魔化せないわよ」
「ふぇ?」
何か気付いたらしい苺ちゃんの反応に、私はきょとんと首をかしげていると、
「民族衣装でもないただの布を羽織ってたり、マイクの使い方も分からなかったり。……あの子、絶対普通じゃない何かがあるわ」
「……」
苺ちゃん。
それ。……普通に紗瑠でもわかるよぉ。
「紗瑠?」
そこへ、苺ちゃんが面白いものを見る顔で紗瑠を覗き込みます。
「いま、『苺ちゃん。それ。……普通に紗瑠でもわかるよぉ』とか考えたでしょ」
「ふぇえええええええ!?」
ど、どうしてわかっちゃうのお?
すると苺ちゃんはいいます。
「やっぱりねぇ。紗瑠の心の声を誘導すると本当面白いわ」
「ふ、ふぇええええええええ」
こんな高度な遊ばれ方されちゃったよぉ。しかも、その私の声が思ったより大きかったみたいで。
「こら、そこ! 静かになさい!」
って、先生に怒られちゃいました。
しかも苺ちゃんはとっくに何食わぬ様子で前を向いてて、先生からのお咎めなし。
本当に、泣きっ面に蜂だよぉ。
「シムーンちゃんはどこからきたの?」
「好きな食べ物は?」
「こ、好みのタイプは?」
それから教室に戻り、ホームルームも終わっての放課後。
やっぱりっていうのかな。当然といえばいいのかなぁ? シムーンちゃんの席の周りには沢山のクラスメイトが集まっていました。
特に今回は白人さんだからかな? 中には男子も混じって、好きな異性はとか自分アピールみたいなこともやってるみたいです。
「みんな必死よねぇ」
前の席から、苺ちゃんが首を伸ばしてきます。
「そうだね。苺ちゃんは行かないの?」
苺ちゃんって、ああいう定例行事みたいなの好きだと思ったんだけど。それも一番狙いってレベルで。
「あれだけの人数で押しかけてまともに聞けると思う?」
「え?」
「相手は日本語に慣れない外国人なんだし、例え先頭に立っても何一つ聞いちゃ貰えないわよ。印象も残らないだろうし骨折り損のくたびれもうけ」
「そっかあ」
「私が前に立ってるのに名前ひとつ覚えてくれないなんて気に喰わないじゃない。その上大勢のモブと同じ扱いなんて言語同断」
「でも、苺ちゃんアイドルだから。クラスメイトが色々教えてくれるんじゃないかなあ?」
「だろうね。でも、この程度のミッションを他人の褌借りないとクリアできないなんて嫌じゃない」
さすが苺ちゃん。考える事が違うなあ。
「で、そういう紗瑠はどうなの、行かないの?」
「私は。タイミング逃しちゃって」
「相っ変わらず紗瑠ってばトロいわよねぇ。まあ今回に限ってはそれが正解」
と、苺ちゃんはもう一度人だかりに視線をやって。
「アレが落ち着いた頃を狙って押しかければいいのよ。それで十分『最初に覚えたクラスメイト』の座は私たちのもの」
――って。苺ちゃんが自信気にいった、その時でした。
「一旦、ストップして?……質問。整理するから」
と、あの質問責めの中でシムーンちゃんがいったのが聞こえました。
そして、周りのざわめきがクールダウンしたところで、
「まず、母国は分からない。国名も地図の位置も、知る機会なかったから。……好きな食べ物は、エールビール」
『未成年飲酒!?』
「?……美味しい、よ?」
一気に台詞を言い切れず途切れ途切れに、だけど確実に喋りはじめるシムーンちゃん。
「嘘、あの子。あんな中でインタビューに応じれるの? ミラクルすぎじゃない」
その様子に苺ちゃんも驚き、唖然しています。
「だから、誕生日もわからない。好きなタイプは、どういう意味?」
「そ、そりゃあ。……異性で、えっと」
その質問をしたらしい男子がいいます。でも、
「恋愛?」
「う、あー」
あまりにストレートに聞かれ、その男子。旗枷 藍銅はたかせ らんどうくんがたじろいでると、
「好きなタイプも、わからない」
「そ、そうかー」
「振られちゃったわねーランドー」
「そ、そういう意味でき、聞いたわけじゃ」
引き下がる旗枷くんを、こぞって女子生徒たちが弄りだします。普段の私もああいう風に見えてるのかな、って。ちょっと思っちゃいました。
でも、あれだけの質問に律儀に答えるシムーンちゃん。もしかしたら、見た目に寄らず結構社交的な子なのかも。
そう思ったときでした。
「……ちらっ」
シムーンちゃんが、私たち。正確には苺ちゃんに視線を向けた気がしました。無表情のまま、横目で、さりげなく。……でも、何故か擬音を声に出しながら。
そして、ぼそっと。いいました。
「……ドヤッ」
って。
「……」
「……」
途端、沈黙する周囲。事態を把握していない人だかりの面子と、意図が分かっちゃった私と苺ちゃん。
程なくして。
「……ぷっ、あっはははは!」
苺ちゃんは大笑いをし、そして人だかりの中へと混ざります。
「ちょっとシムーンだっけ? もしかして私たちの会話まで聞いてたの?」
「うん。……あなたの策士(笑)かっこわらわら、も」
「言うわねアンタ。私は高村 苺たかむら いちごよ」
「シムーン」
何だか妙な展開のうちに、苺ちゃんとシムーンちゃんは仲良くなっちゃったみたいです。
……一応、ミッション達成、なのかなぁ?
そこへ、不意に苺ちゃんの携帯に電話が鳴りました。
「もしもし。……えーもう? 分かったわよ、じゃあ校門前に車出しといて」
すっご~く不満そうに、苺ちゃんは手短に電話を終えると、
「仕事が入っちゃったわ。悪いけど私、先に帰るわね」
って、帰り仕度を始めます。すると他の生徒たちも時計を確認し「あっ」といった様子で、
「忘れてた。私も今日は早く帰って外でお昼なのよ」
「私は塾」
「……姉ちゃんの部屋、片付けとかないと」
なんて言い始めてシムーンちゃんへの質問タイムはお開き、みんなそれぞれお荷物をランドセルに入れていきます。ちなみに、最後の苦労人なお言葉をいったのは旗枷くんです。
「じゃ、またね紗瑠。明日……は、県外にいるから。またいつか後ね」
一足先に準備を終えた苺ちゃんがいいます。
「あ、うん。またね苺ちゃん」
本当はもっとお喋りしたかったなぁ。でも、仕方ないよね苺ちゃん忙しいもん。
私は、ちょっとだけ寂しい気持ちを抑えて、苺ちゃんを見送り手を振ります。
「あ、そうね」
突然苺ちゃんは足を止めて。
「シムーン。何だったら紗瑠『で』遊んでていいわよ。この子弄ると、とっても面白いから」
「い、苺ちゃんそれ酷いよお!」
「うん、わかった」
「シムーンちゃん!?」
そこ違うよ。うんっていう所違うよぉ。
苺ちゃんは、最後に私を困らせて楽しんでから、今度こそ教室を後にしました。
後に残された私。
「みんな、どうして否定してくれないの?」
ちらっちらって、私はクラスメイトに助けを求めます。ですけど女子生徒のみんなは口を揃えて。
「だって、ねえ」
「ねえ」
『事実だもん』
最後に至っては十人以上の声がハモってました。ふぇぇん。
「お前ら。なあ」
呆れた顔でいうのは、男子生徒の旗枷 藍銅くん。
「事実でも言い方ってものがあるんじゃないのか?」
でも、味方ではありません!
するとシムーンちゃんが一言。
「……とどめ、上手だね」
「あ。うわああああああああああああああああああああああああああ! ごっ、ごめん立花そんなつもりじゃ」
旗枷くんは大声をあげながら、必死に無意味なジェスチャーを交えて弁解するけど、私はどう反応していいか分かりません。
「ふ、ふぇぇぇ」
としか、いえません。
「この子も、面白い……ね?」
しかもシムーンちゃんに至っては旗枷くんを指してそんなこと言っちゃってます。
そんな様子に、いままで巻き込まれないよう黙っていた他の男子生徒が口それぞれに呟きました。
「あいつ、やべえ」
「大人しそうに見えて高村レベルだ」
「しんねんど ゆえつぶいんが またふえた(五・七・五)」
ど、どうしよう。このままだとシムーンちゃん、転校初日から悪い印象で覚えられちゃうよお。
とりあえず話題を逸らさないと。私は必死に質問を考え、はっと思い出しました。
「そ、そういえば! シムーンちゃんこの布って何なの?」
「布、これ?」
「うん」
ステージに立ったときに羽織っていたあの布。シムーンちゃんはまだ脱いでなかったんです。
「そういえば私も気になってた」
「ねえ。それ何なの?」
私の質問に反応して、まだクラスに残ってた女子生徒が再び群がります。
「校長先生がくれた、よ? 羽織りなさいって」
意外にも、シムーンちゃんの口から出た答えは習慣とか民族衣装とは全く関係ありませんでした。
女子生徒のひとりが訊ねます。
「校長が? どうして?」
「わからない。……脱いでも、いい?」
その上、シムーンちゃん自身も羽織りたかったわけでもないみたいです。
辺りから「いいんじゃないの?」「ねー」って声が流れる中、
「いっそ脱いでみてよ」
って、誰かがいいました。
「お、おい」
旗枷くんがお顔を真っ赤にして止めに入ります。でも、
「うん」
シムーンちゃんは頷いて、羽織っていた布をしゅるしゅると脱ぎ捨て。――途端、クラス中が「ざわざわ」ってなりました。
だって。
羽織ってた布の下は、し、下着が丸見えのランジェリー姿だったんだもん。
下着越しに見えるシムーンちゃんのおからだは、私よりもずっと細くてお胸もありません。なのに、何かが私たちと決定的に違うんです。
なんだか凄く見てはいけないものを見ちゃったような、それと、不思議とドキッてしちゃうような。体育のお着替えで友達の裸とかは普通に見てるはずなのに。
そのせいでしょうか、男子生徒だけじゃなくって、私や女子までみんな顔を赤くして。目を逸らしたり、逆に釘付けになっちゃったり。
「?……みんな。どうした、の?」
そんな中、当のシムーンちゃんだけは状況が分かってないみたいで、
「校長先生と、反応同じ」
『当たり前だろ(よ)!』
男女問わず、クラスの大半が一斉に叫びました。そして、さっきの「ざわざわ」って空気が「どっかーん」って爆発したみたいに、
「やだなにその格好! 信じられない」
「ちょっと、男子なに見てるのよ! 先生呼ぶわよ」
「お、俺はみてねぇ! 俺はみてねぇからな!」
って、クラス中のみんなが慌てふためき声を荒げます。
「お、おい! だれかあいつに服着せてやれよ」
旗枷くんが後ろを向きながら懇願するけど、誰も応じませんでした。一応、私は耳に届いてはいたけど、
「ふぇ? ふ、ふふふ服って?」
なんてパニック起こしちゃって。
「皆……初体験のお客みたい」
結局、シムーンちゃんは少しおかしなことを言いながらだけど自分から布を羽織り直してくれました。
「でも、この服は駄目って分かったから。……明日から気をつける、ね」
「もっと前から気付いてよぉおおおおおお!」
今回ばかりは、私の嘆きにみんな同意してくれました。
こんな気持ちで嘆けるなんて初めて。…もう何も恐くない。
◆◆◆
「服、貸してもらえてよかったね」
シムーンちゃんは体操服に着替え終えると、
「うん」
って、小さくうなずきます。
時刻はお昼時。すでに教室には私とシムーンちゃんのふたりしかいません。
今日は始業式だから午前中で学校は終わり。だから、生徒たちはお昼ご飯を食べるためにもお家に帰らないといけないんです。
「紗瑠は、優しい……ね?」
シムーンちゃんは、さっきまで羽織っていた布を軽く払い、丸めて畳みはじめます。
「ふぇ? そう、かなぁ?」
「うん。みんな帰っちゃったのに、紗瑠だけは残ってる、よ?」
「だって見過ごせないよぉ」
私はいいました。
「シムーンちゃん日本語は上手だけど、常識のほうはあんな姿見ちゃった後だもん。外国の子だから仕方ないんだけど」
とはいっても。あれはさすがに「外国だから」ってレベルじゃない気もするけど。
「……やっぱり、紗瑠は優しいよ」
もう一度そう言うシムーンちゃんの顔は、変わらず無表情。だけど、どこか微笑んでるようにも感じました。
「皆がいなくなってから、disってきたから」
「ち、違うよぉ!」
微笑みじゃなくて、邪笑みだったみたいです。
「って、シムーンちゃんどうしてdisるって知ってるの?」
「……ドヤッ」
「ドヤッ、じゃないよぉぉぉ」
なんだかシムーンちゃんの印象がミステリアスから胡散臭いにランクダウンしそうです。
「紗瑠は。……どうしてdisるって知ってるの?」
「それは、えっと。……たしか苺ちゃんから」
「苺……あの子? なら、何となく納得」
納得されちゃいました。まだ顔見知りになって1時間も経ってないのに。
「それで、シムーンちゃんは?」
「私は、院長に」
「院長?」
「うん、孤児院の」
私は「え?」ってなりました。
「シムーンちゃん。孤児だったの?」
「うん。ゴミ捨て場で漁ってたら拾われた」
「ご……」
私は、驚きのあまり「ふぇぇぇ」の声さえ出なくて、絶句しちゃいました。しかも、それをさらりと言っちゃうんだもん逆に衝撃が強くて。
ですけど、言われてみれば確かに「心当たり」はあったんです。
(そ、そういえば母国の名前も地図上の位置も知らないって。そういうことだったんだぁ)
私は、その意味を全然考えてなかったんですけど、親がいれば教えて貰ってるはず。例え「育ての親」でも。
「ふぇ。……ぐすっ、ふぇぇぇ」
気付いたら、私は涙を流してました。
「紗瑠……どうした、の?」
「だって、だって。シムーンちゃんがあまりに可哀想で」
外国から来た孤児。そんなシムーンちゃんの人生はどれだけ大変、ううん地獄の日々だったのでしょうか?
そう考えると、なんだか泣けてきちゃって。
「紗瑠は、やさしすぎるね」
シムーンちゃんはいいました。今度は妙な含みもありません。
「シムーンちゃん!」
私は、そっと彼女の手をとります。
「これから、嬉しいこととか楽しいこと、いっぱい教えてあげるね。私、頼りないけど。シムーンちゃんに何かひとつでもしてあげたいから」
「……うん」
シムーンちゃんは、小さくうなずきました。
「ありがとう、紗瑠」
「えへへ」
私は、まだ涙を出しながらだけど、なんとか笑顔をつくります。
「もう、ゴミなんて漁らなくていいんだよ?」
「でも日本のゴミ、掘り出しもの多いよ?」
「もう、シムーンちゃんはひとりじゃないよ?」
「お月様は、いつも一緒だったよ?」
「さ、ささ……寂しい思いは」
「寂しいって思う余裕、なかった」
「シムーンちゃぁあああああああああん」
駄目。もう、私駄目だよぉ。
シムーンちゃんの言うこと、ひとつひとつが痛々しすぎて。私、しがみついちゃいました。
「紗瑠? 心配しなくても、私いま……楽しいよ?」
「ほ、ほんとう?」
ぐすって、涙をすすりながら私はシムーンちゃんを見上げます。
「うん。……紗瑠で遊ぶの、凄く楽しい」
「ふぇええええええええ」
そんな気はしてたけど、やっぱりそういう理由でした。
「私で遊ばないでよぉ」
「苺は、いいって……いったよ?」
「私は許可してないよ」
「紗瑠? 玩具に拒否権はない……んだよ?」
「玩具!?」
そこまで露骨に言われたのは初めてだよぅ!!
「シムーンちゃんって、結構遠慮ないんだね」
私は勢いのまま言っちゃいました。するとシムーンちゃんは、
「うん。人生仕方ないことばかりだから、楽しめるものは全部愉しまないと、元……取れない、よ?」
その言葉の重みは、なんとなくだけど。でも、すっごく伝わりました。
シムーンちゃんの「いままで」は、辛いことの連続だったって、そう聞こえるんです。
「紗瑠、どうしたの?」
「ふぇ?」
「凄く……辛そうな顔、してた。よ?」
そう聞くシムーンちゃんは、その「辛そうな顔」の意味は分かってないみたいです。
「ううん、なんでもないよ」
私は笑顔でいいました。だって、シムーンちゃんには気を遣って欲しくないから。
「えへへ。それじゃあシムーンちゃん。そろそろ帰ろ?」
そういって私は自分の席に戻ってお荷物を纏めます。
机の中には、新しい教科書がたっくさん。全部はランドセルに入らないから持ち帰るものとロッカーに入れるものを分けないと。
あとは、持ってきちゃったデュエルディスクとデッキホルダー。その時でした。
「それ……」
シムーンちゃんが遠くから覗きこむようにして訊ねてきたんです。
「え? これ?」
私はデッキホルダーを見せて訊ね返すと、
「うん。それって、デュエルモンスターズ?」
「シムーンちゃん知ってるの?」
驚いちゃいました。シムーンちゃんがこのカードゲームを知ってるなんて。
その上。
「私も、持ってるよ?」
なんていってシムーンちゃんが机から出したのは、紛れもなくデュエルモンスターズのデュエルディスクと、デッキホルダーです。
私は、ついはしゃいじゃいました。
「シムーンちゃんもデュエルモンスターズやってたんだね」
「うん。……殆どは仕事、だったけど」
「仕事?」
何気なく、殆ど反射的に私は訊ねます。
すると、シムーンちゃんは一言、
「……聞きたい?」
「う、ううん。やめるね」
もう、どう考えてもこれ以上追求するのは見えてる地雷だもん。踏み込めないよぉ。
「たぶん正解」
シムーンちゃんはいいました。
「紗瑠が聞いたら、たぶん顔を真っ赤にするか、叫ぶか、泣くか、それとも意味が通じないか」
「ど、どんな仕事だったのか怖いよぉ」
「あ、違った」
「ふぇ?」
「どれかじゃなくって。たぶん紗瑠なら全部の反応する」
「……うん、たぶん正解」
叫ぶ気力がなくなっちゃう位、納得しちゃいました。
「でも、いまは普通にカードゲームしてるよ? 他の孤児の子とか、この前は院長の姪って人とも」
「そ、そうなんだぁ」
良かったぁ。私は心の中でホッとなりました。
そういえば、この辺りで孤児院だと心当たりがひとつあるんですけど、そこの孤児院の院長さんはすっごく強いって評判なんです。何故か一度戦ったら二度と戦いたくなくなるって噂もあるけど。
シムーンちゃんも、その院長さんとデュエルしたことがあるのかなぁ?
……シムーンちゃんって、どんなデッキなのかなぁ?
「えっと、シムーン……ちゃん?」
私は、ちょっと自信なさ気に、様子をうかがいながらいいました。
「? どうしたの?」
「えっと、えっとね。……えへへ」
はにかみながら、シムーンちゃんのデッキをチラッチラッ。
すると、
「……デュエル?」
シムーンちゃんはいいました。
「う、うん」
私は頷きます。
別に変な意味じゃないけど。いまの私、少しだけお顔が赤くなってるかもしれません。だって、私って自分からデュエルに誘うのって苦手なほうだから。……だから。は、恥ずかしいよね? こういうのって。
「うん。……いいよ」
シムーンちゃんはいいました。
「私も、紗瑠と遊んでみたい」
「ほ、ほんと?」
シムーンちゃんが受けてくれたが凄く嬉しくって、いま私、お顔がぱあって輝くような感じになってるんだろうなぁって自覚できます。
えっと、何ていうのかなぁ、えさを前にした子犬さんみたいな。――って、あ! 私がそんな反応しちゃったら意地悪なシムーンちゃんはきっと。
「うん。……しよう? 脱衣デュエル」
「ふぇ!?」
「ライフは4000、1000ライフごとに服を脱がされて、0になったら裸にな――」
「ま、ままま待って待ってまってよおおおおお!」
「裸にされたら、ご褒美で体を差し出――」
「だから待って私そんな事しないよぉおおおおおお!」
結局また弄られちゃったよぉ。しかもシムーンちゃん、
「……ドヤッ」
なんて言っちゃって。
……。
えへへ。本当に、楽しいんだなぁ。
ところで、私はすっかり忘れていました。
学校から帰ること。
続きのep-4の準備がまだできておらず、先にep-3だけ公開します。
申し訳御座いませんでした。