遊☆戯☆王GERICHT   作:CODE:K

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EP-7:Beachten Sie die Polizei des Namens/Ein

 目の前で痴漢のおじさんが亡くなってから数十分。いま私たちは、警察署の取調べ室でパイプ椅子に座ってます。

 机を挟んだ対面に椅子があるけど、いまは誰もいません。ついさっきまで婦警さんがいましたけど、すぐに戻るって席を外しました。

 私は、ただただ俯いて泣いてました。

「おじさん……おじさん」

 憑き物がとれたような、おじさんのやさしい笑顔。

 そこに聞こえた銃弾の音。

 私に届いたのは、おじさんの手の温もりではなく、生温かい血飛沫。――いまも私の服にべっとりついた、おじさんの血。

「ふぇ……ぐすっ。――うっ、ぷ」

 あの時、瞼に焼きついた光景は目を閉じることなく何度も何度も脳裏に映し出されて。その度に私は吐き気を催します。

 恐怖に全身が震えて、喪失感と悲しみに打ち萎れて。私の心はもうぐっちゃぐちゃです。

「紗瑠?」

 口元を押さえて吐きそうなのを耐えてると、シムーンちゃんが背中をさすりながら心配してくれます。

「ごめ…んね。だいじょ……ぶ」

 息を整えながら私はいいながら、ちらっと苺ちゃんの様子を伺います。

 苺ちゃんは震えてました。でも、私の視線に気付くと、

「信じられないわよねぇ。どうして被害者がこんな所に閉じ込められるのよ」

 やれやれ、って手振りまで取って。

 強がってるのは明らかでした。

「冷たい麦茶で良かった?」

 婦警さんが戻ってきました。歳はたぶん20代くらい。長身でスタイルが良くて、着崩した婦警服の胸元から叶○妹並の谷間を露出させたラフな感じの方です。名前はたしか外上 奈留(そとがみ なる)さん。

 けど、

「っ」

 私は婦警さんをみて「びくっ」てなっちゃいました。

 だって。

 この人が、おじさんを撃った警察なんですから。

「大丈夫よ。そこに置いといて」

 苺ちゃんがいいました。

 そして、婦警さんと視線をあわせずに、

「それで、私たちはいつ容疑者扱いから解放してくれるのよ」

「あ、あー。別に容疑者扱いしてるわけじゃないんだけどねぇ」

 婦警さんは四人分の湯飲みを並べ、対面の椅子に座りました。

「まあ勘違いされても仕方ないんだけどねぇ。一応、事情聴取ってことで。ほらあの時何が起こったのか知ってる人って君たちしかいないんだから」

「ふ~ん」

 苺ちゃんは、無理に笑みをつくって、「だったら撃たなければ良かったじゃない」なんて挑発しながら湯飲みに手を伸ばし、

 誤って倒しちゃいます。

「あ……」

 幾ら強がってても、その手は激しく震えてて、とても中身の入った容器を掴める状態じゃなかったんです。

 婦警さんはこぼれたお茶を拭きながら、

「仕方ないでしょ。相手は銃の使用が許可されちゃう程の相手よ。そんなのが凶器持って子供たちに接触なんかして余裕あると思う?」

「う……。動くな、くらいできるでしょ」

 苺ちゃんがいいました。けど、その姿はさっきまでの作りものの余裕さえなくて、声さえ完全に震えてて。

 だから。

「相手は時を止めるのに?」

「ッ」

 婦警さんに論破されて押し黙っちゃいます。ちなみに、おじさん曰く正しくは“時”じゃなくて“意識”を飛ばすらしいですけど。

「それ、って」

 そんな苺ちゃんにかわって反応したのはシムーンちゃんです。

「警察は、あの人が時を止めれるものとして捜査してた、の? そういうオカルト……日本人は信じなさそう、なのに」

「まさか」

 婦警さんはいいました。

「犯人が時を止めるのを認めてたのは、フィールを知ってた私だけ。発見者が私で良かったわ」

「良くないわよ!」

 苺ちゃんが声を荒げます。

「だったら何? 発見した警察が貴方以外だったらあの人は撃たれずに生きてたって事じゃない! 確かにあの犯人は時を止めるし凶悪犯よ。けど、貴方は撃たれる直前の犯人の顔見たの? あの穏やかな顔を! あの人は今から出頭する所だったのよ! 事件は既に終わってたのよ。そもそもあの人が悪くなった自体、原因は貴方たち警察がやった冤罪じゃないのよ! それを撃ち殺しておいてよくも『良かった』なんていけいけしゃあしゃあと言えるじゃない。それにーー」

 何かが爆発したみたいに、苺ちゃんは私の気持ちを全て代弁し余りあるほど言葉を並べます。それでも飽き足らずに涙を流し、婦警さんに掴みかかって。

 そこへ。

「苺。……仕方ない、よ」

 シムーンちゃんがいいました。

「この人に何をいっても、事実は変わらない……。仕方ないって、諦めるしかない、よ」

 その言葉は、不思議なほどに淡々としてて。

 私はふと気付きます。三人の中でシムーンちゃんだけ特にショックを受けたり震えたりしてないってことに。

 どうしてシムーンちゃんは平気なのかなって、私が思ったその時でした。

「それより。……カツ丼、出ないの?」

 シムーンちゃんはいいました。

「私、知ってるよ? 取調べ室に行くと、警察がカツ丼を奢ってくれるん、だよね?」

「ちょっとシムーン!」

 苺ちゃんが、今度はシムーンちゃんに噛み付きます。

「アンタもアンタよ! こんな時にカツ丼じゃないわよっ」

「でも。……お昼食べてない、よ?」

「そういう問題じゃな。……っていうより何でシムーンは平然としてるのよ! 目の前でおじさん殺されて」

「仕方のないこと、だから」

 シムーンちゃんはいいました。

「人はいつか死ぬ、よ? 遅かれ早かれ……病気だったり、殺されたり、事故だったり」

「だから何よ! 生きてたはずじゃない! あの婦警がちゃんと状況を把握してたら、銃なんて撃たなかったら、あのおじさん生きてたじゃない!」

 シムーンちゃんの肩を掴んで、必死に感情を投げかける苺ちゃん。

 本当に、本当に。

 苺ちゃんは、怯えるか泣くしかできない私の分まで、怒って叫んで護れなかった現実に抵抗してるように見えました。

 けど、そんな苺ちゃんにシムーンちゃんはいいます。

「苺、婦警さんのやった事。……間違ってない、よ?」

 私や苺ちゃんとは逆に、シムーンちゃんはずっと……本当に落ち着いてて。こちらもこちらで、私たちの分まで頑張って冷静でいてくれてる。私にはそう見えてました。

 でも……違ったみたいなんです。

「苺……どうして。そんなに怒ってる、の?」

 シムーンちゃんはいいました。

 冷静とか、気を張ってるとか、そういうのじゃなくって。――まるでいつもの調子で。

 唇を震わせ、苺ちゃんは必死に投げかけます。

「どうして。……って、逆に聞くわ! シムーンはなんとも思わないの? おじさん、さっき出会ったばかりだけど。もう他人じゃないのよ?」

「よくあること、だよ?」

 シムーンちゃんはいいました。

 正直。何が「よくあること」なのか、どういう意味なのか、シムーンちゃんの言ってることは私たちにはまるで分かりません。

 ですけど。

「そこまで……怒る、こと?」

 シムーンちゃんは、おじさんが死んでも特に哀しんでなかった。ショックも受けてなかった。婦警さんが怖いとも思ってなくて、それよりもお昼のことを考えてた。

 そう悟るには十分でした。

 苺ちゃんが、面くらった顔をします。その表情は段々と色を無くし。

「……ふ~ん」

 程なくして、ニヒルな笑みを浮かべました。

「シムーンがそんなに人でなしだったなんてねぇ。ま~ったく驚きよ」

「どうしたの?」

 シムーンちゃんがきょとん、とするけど、

「なんかもうどうでもいいわ。私が馬鹿みたい」

 って、苺ちゃんはシムーンちゃんに向き合うのをやめます。

「???」

 シムーンちゃんは、何がなんだかといった感じで、

「……紗瑠、わからない、ね?」

 分からないのはシムーンちゃんのほうです。

 どうして平然としていられるのかな? 正直、シムーンちゃんの冷血な一面に私はすっごくショックを受けました。

「ねえ婦警さん」

 苺ちゃんは立ち上がり、軽く伸びをしながらいいます。

「私たちってあくまで参考人扱いなんだし、帰りたいって言えば解放してくれるのよね? 聞き足りないっていうんならシムーンに聞けばいいから、タクシーか何か呼んでくれない?」

 そして、私にいいました。

「帰ろ、紗瑠。私ひっさびさに疲れきっちゃったわ」

 お部屋にシムーンちゃんひとりを置いて署を後にしたのは、それからすぐのことでした。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ねえ、聞いた? 昨日の凶悪犯事件の少女たちって苺ちゃんたちみたいよ?」

「聞いた聞いた。刃物で刺される寸前だったって」

「私は象さん挿されかけたって聞いたけど、象さんって?」

 一夜明け、月曜日になりました。

 噂が広まるのって、本当に早いんですね。私たちが昨日の事件に関わったってこと、もう学校中に広まってました。名前は非公開になってたはずなのに。

 通学路はまだ良かったんです。でも、校舎に入ったら途端にみんな私をみてはひそひそ話を始めて、中には私を指さして「あいつだ」っていいだす人まで。

 私はそれだけでも十分疲れきっちゃって。やっとのことで教室に辿りついて席に座ります。すると、

「ねえ、紗瑠ちゃん」

 途端にクラスの女子生徒が数人、私を取り囲むようにして近づいてきたんです。

「昨日一体何があったの?」

「イケメンの警察いた?」

「凶悪犯の象さんってなに?」

 私は、なんとか応えました。

「……………………ふぇ?」

 って。

「だから、昨日の事件どういうこと?」

「イケメン警察ってアリよねー」

「先っぽが亀って聞いたけど?」

 クラスメイトは何だか色々喋ってるんですけど、私の頭には全然入ってきません。

 一夜明けても昨日のショックが殆ど消えてなかったから。……寧ろ、シムーンちゃんの件で悪化したかもしれません。

『ちょっと、紗瑠聞いてるの?』

 ついには怒られてしまいました。……え、えへへ。ちょ、ちょっと泣きたいです。

 すると横から、

「おい立花が困ってるだろ」

 それは旗枷くんでした。

「ちょっと、なに女の子の会話に入ってるのよスケベ」

「スケベっておい。……わかるだろ、立花の奴いま質問に答えられそうな様子じゃないってくらい」

『そんな事ないわよ。ねー?』

 クラスメイトたちは強引にでも頷かせようとします。

「まったく」

 旗枷くんは溜息一回、

「高村がいたら何かいわれるぞ?」

「苺ちゃん欠席だからいいも~ん」

 ちなみに苺ちゃんは、いまごろ仕事でT○kyo行きの電車の中です。たぶん、次に学校で会えるのは明後日だって言ってました。

「……おはよう」

 そこへ声をかけてきたのはシムーンちゃんです。

「ぁ……」

 私は、「おはよう」の一言が出せませんでした。接し方が全く分からなくなっちゃったんです。

 シムーンちゃんを置いて帰っちゃった罪悪感も少しあるけど。……なんだか、怖いんです。

 確かに、シムーンちゃんは人の常識からズレてる所はあります。初めてあった時のランジェリー姿とか。けど、昨日シムーンちゃんがみせたズレは『人の心』として信じられないレベルだったから。

 いまではもう、シムーンちゃんが何を考えてるのか、そしてシムーンちゃんの何を信じていいのか。

 全く分からなくなっちゃってました。

 それだけじゃなくって。そんな風に友達を見始めちゃった私自身に自己嫌悪で、心がまるでぐちゃぐちゃのミンチみたいな感じ。

 私、人を疑うって苦手で、嫌いで、慣れてないから。

 だから、シムーンちゃんを前にどうすればいいか、全くわからないんです。

 私は、つい少し怯えた目でシムーンちゃんを見上げます。すると、

「大丈夫、紗瑠? 皆に囲まれて、怯えた小動物の顔になってる、よ?」

 まさか自分に怯えてるなんて思ってないみたいで、シムーンちゃんはいいました。

「なにかあったの?」

「き、昨日の事件だよ」

 旗枷くんがいいました。いまの私でもわかるくらい、すっごくキョドらせながら。

「し、シムーンは大丈夫だったのか? ほ、ほら噂のあれだと確かお前も……」

「そういう藍銅は女子ばかりとつるんで大丈夫、なの?」

「……心配する必要なさそうだな」

 旗枷くんから再び溜息。

 シムーンちゃんはいいました。

「藍銅? その件だったら、紗瑠に聞いても無駄、だよ? 紗瑠が一番ショックを受けてるから」

 え? 私は驚きました。

 シムーンちゃん。そこは気付いてたんだ……。

「知ってる。っつうかいまの立花見てれば明らかだろ」

「……藍銅、なのに紗瑠に問い詰めてたの? いじめ、かっこわるい」

「俺は止めてる側だっつうの」

 旗枷くん、今日三度目の溜息です。

 シムーンちゃんは私の周りを眺め、そして「納得」と呟きます。

「事件のことだったら、私がかわりに答える……よ?」

 すると女子たちはそれぞれ半眼で、

「シムーンが? ちゃんと説明できるの?」

「シムーンって好み違いそう」

「シムーンって象さん知ってるのー?」

「大丈夫」

 シムーンちゃんはいいました。

「指摘兼ツッコミ役に藍銅も巻き込むから」

「お゛い!」

 旗枷くん、早速ツッコミ一回目です。けど、シムーンちゃんは旗枷くんの意見はスルーして、

「大丈夫……かは分からない。けど、少なくとも、いまの紗瑠……と、苺よりは冷静に説明できる、よ?」

 私だけじゃなくて苺ちゃんのことも分かって。だったら、どうして昨日。

 そんな私の想いは当然言葉にできるはずもなくって。シムーンちゃんは女子たちと旗枷くんをつれて自分の席へと向いました。

 数分後そこには、

「ち、血達磨。内蔵どばぁ……お、おげぇぇぇぇぇ」

 吐き気を催してトイレに直行する女子生徒。

「キモ面にやにやデブ警察いやぁあああああああ」

 号泣しながらトイレに直行する女子生徒。

「もういやああああ私象さん亀さん大っ嫌いいいい」

 全身を震わせながらトイレに直行する女子生徒。

 その他諸々、口先ひとつで女子をみんなノックダウンさせ「ドヤッ」してるシムーンちゃんが、

「やりすぎだ馬鹿っ」

 旗枷くんに叱られてました。

 私は。

 そんな、いつもとかわらないシムーンちゃんを、私のかわりに説明しているシムーンちゃんを、ただただ遠くから眺めてました。

 

「――ってことで、立花は満員電車の中でハエがたかった垢塗れの棒を握らされる寸前までいって、警察という名のハート様が拳銃でヒャッハーした結果、目の前で犯人が内蔵飛び散らせて死んだってことになった」

 体育の授業中。旗枷くんにシムーンちゃんがした説明を確認した所、以上の内容が返ってきました。

「そ、そこまで酷くないよ?」

「だよ……な」

 旗枷くんはいいながら、どうしてか遠くの空を眺めます。

「なら、あいつの説得力は何だったんだ」

「なにかあったの?」

 私が訊ねると、旗枷くんは凄く微妙な顔をして、

「まるで本当に見たり経験したことがあるかのようなリアリティさが……な」

 なんだか、すっごく納得しちゃいました。

「まあ、シムーンはともかくとしてお前は大丈夫なのかよ」

「ふぇ?」

 私が首をかしげると、

「さっきのシムーンの狂言。普段のおまえだったら慌てふためくような内容だったぞ?」

「そ、そうだった?」

「重傷だな。先生が席順指名、紗瑠だけ飛ばすわけだ。シムーンには当ててたけど」

 そこも、いま初めて知りました。

「しっかし。ホント気をつけろよ? 昨日の事件だけじゃなくって、近頃の連続失踪事件だってあるしな」

「連続失踪事件って?」

 私は訊ねました。すると、

「あー。そっか、ニュースではそれぞれ別の事件扱いだしな」

 旗枷くん曰く今月に入って、大体始業式の辺りかららしいですけど、この辺の人間が謎の失踪を遂げて警察に届出が出されてるらしいんです。

「そ、そんな事件があったんだ」

「まあ、近辺っていっても名小屋近隣の市町って感じで、かなり広範囲だけど。ただ、どの事件も報道されたっきり何の進展も見せないんだ。まるで報道規制にでも引っかかってるんじゃないかってレベルで」

 そこへ、

「旗枷、授業中だぞ」。

 と、先生が旗枷くんを注意します。

「やべっ! じゃ俺授業に戻るよ。姉ちゃんが結構やばそうって言ってたから気をつけろよ」

 そういって、旗枷くんは授業に戻っていきました。

 あ、ちなみに私は……今日は見学にさせて貰ってます。

 

 

 お昼休み。私は意を決してシムーンちゃんに接触することにしました。

 理由は勿論このままにしたくない、っていえば聞こえがいいけど。実際は私のほうが限界になっちゃったんです。大好きなシムーンちゃんに怯えるの、疑うの、距離を置くの。

 といっても、まだ私から接触するのは少し怖かったから実際は旗枷くんに交渉を全てやって貰った上、同行まで頼んじゃったんですけど。

 ちなみに、待ち合わせ場所は学校の屋上。シムーンちゃん曰く「一度屋上でそういう事してみたかった」から、だそうです。

「あ、紗瑠」

 旗枷くんと一緒に待ち合わせの屋上に行くと、すでにシムーンちゃんはいました。

 

 小学校の屋上で、干し肉と缶ビールで一杯やってました。

 

「……おい」

 旗枷くんが突っ込み気味にいいます。シムーンちゃんは干し肉をビールで流して、

「? どうした、の?」

「屋上で何してんだよ」

「……食後の晩酌?」

「まだお昼だろ、しかも給食の後に酒って聞いた事ないぞ」

「? 美味しいよ?」

「美味い不味いの話じゃないっての。……ったく」

 旗枷くんは頭を抱えます。

「それに」

 シムーンちゃんはいいました。

「ショックを受けてるときは、酒で流すに……限る、よ?」

「え?」

 私は驚きます。ショックだなんて、そんな素振り全然なかったから。

 旗枷くんが同じように驚きながらいいました。

「そ、そうだよな。俺は聞いただけだけど、あんな事件に巻き込まれてショックを受けないわけが」

 すると、シムーンちゃんは首を振って否定します。

「ううん。事件では、全く傷ついてないよ?」

『え、じゃあ』

 私たちが同時にきく中、シムーンちゃんはいいました。

「私は……紗瑠に嫌われたみたいなのが。きつい、よ」

「……」

 その言葉は、私の胸にズドンと響きました。

 だって、だって、そうだよね?

 思えばそうだったんです。あの瞬間から私がシムーンちゃんにしてた事って……客観的にみれば「徹底的な無視」。そうじゃなくても、突然あれだけ態度を変えちゃえば傷つかないはずがない、のに。

 シムーンちゃん自身には自覚がないみたいだから、尚更。

「ご、ごめん……ごめんね、シムーンちゃん」

 押し寄せた罪悪感に、私は唇を震わせていいます。瞼からは、大粒の涙。

 シムーンちゃんはいいました。いつものように、

「……やっぱり、紗瑠は優しいね」

 って。けど、今回はそこから私弄りに繋げようとはしないで。

「少し、私の話……していい?」

「……うん」

 私はうなずきます。

「ありがとう」

 シムーンちゃんはいいました。そして、語りはじめます。

「私、本当は……ね、故郷の名前知ってる。国名も地図の位置も、全部」

 それは、シムーンちゃんと友達になってから何となくそんな気はしてました。

 ちらっと横を伺うと、旗枷くんも「やっぱりな」って顔をしてます。

「私の故郷は、元々それなりに平和な国だった。……軍事国家で、言論の自由はなかったけど。それなりに……豊かだった、よ? 下手したら、いまの日本より過ごしやすいくらい。その中でも私は、たぶん上流の家庭で暮らしてたと思う。……数年前、までは」

「数年前?」

 旗枷くんが訊ねます。私は……聞けませんでした。心にそれだけの力が残ってない……っていうのもありましたけど。嫌な予感がしたんです。

 シムーンちゃんは、淡々といいました。

「国の内戦が激化して。……街が戦場になった」

 って。

「流れ弾で家はすぐに倒壊。瓦礫の下敷きになって母は死んだ。私は……父に引っ張られる形で、持てるだけ僅かなお金を握り締めて逃げたけど、父も死んじゃった。私を庇って、銃弾の蜂の巣……内蔵を飛び散らせて四散。私はあてもなく必死に逃げた。それしかできなかった。……運よく夜まで生き延びた私は、死角になりそうな瓦礫塗れの廃墟に隠れて一晩過ごした。疲れきってて、少しだけ安心したらぐっすり寝ちゃった。……そして、朝になったら握ってたお金、全部消えてた」

 ――嫌な予感は、当りました。

 私たちが想像してもしきれないような、まるで漫画やアニメの世界のような悲惨な話をシムーンちゃんは淡々と話します。うん……淡々に。

 もし本当ならトラウマなんてとうに超えてそうな話なのに。

「あ、あー。そういうことか」

 旗枷くんが苦い顔でいいました。

「あの話、妙にリアリティあると思ったら。……本当に実体験だったのかよ、しかもこんなえげつねい形で」

 その『あの話』とは、間違いなく今朝のことです。

「うん」

 シムーンちゃんは頷きます。

「それから、生きる為なら何でもしたよ。野草は勿論人肉も食べた。お金や恵みの為に体を売って、銃声飛び交う戦場の死角で息を潜め体を丸めて夜を過ごした日もある。人生とか運命を呪った時期もあったけど、いつしかそんな気持ちも枯れてちゃった。私にはもう、それが日常で普通だったから。……だから、苺や紗瑠に拒絶されるまで、『人が死ぬって哀しいんだ』ってこと、忘れてた」

「っ」

 その言葉は、さらに私の胸をズシンと襲います。

「ごめんね、ごめんねシムーンぢゃん」

 私は涙で視界をくしゃくしゃにさせながら言いました。大粒の涙はすでに滝にかわってます。

 どうして私、わかってあげられなかったのかな?

 シムーンちゃんのこと、意地悪で掴み所がないけど……でも、とっても優しいはずのシムーンちゃん。

 何か理由があるんだって、どうして信じてあげられなかったのかな? 大嫌いな拒絶までして。

 シムーンちゃんの謎が解けると同時に、私の中で強い何かがこみ上げてきます。

 私は泣き叫びました。

「信じてあげられなくてごめんね! わかってあげられなくてごめんね!」

 すると、

「紗瑠は……やっぱり優しいね」

 シムーンちゃんはそういって、

「分からなかったのは私のほう、だよ? 紗瑠たちがした事は……たぶん、当然の反応。私の立場が逆でも、たぶん……同じこと、した。紗瑠は悪くない、よ?」

 そして最後にいいます。

「ごめんね。……紗瑠」

「シムーンちゃん!」

 私は、思わず駆け出し、シムーンちゃんの胸に飛びつきました。

「シムーンちゃん! シムーンちゃん! シムーンちゃん! シムーンぢゃぁぁぁん!」

 シムーンちゃんが抱きとめてくれると、私は何度も…何度もその名を呼んで、泣き叫びます。

 私は、彼女の温もりにすがりながら思いました。

 もう二度とシムーンちゃんを疑わない。疑いたくないって。

「紗瑠、泣きすぎ……だよ」

「だって、だってぇ」

 それでも泣きじゃくると、シムーンちゃんはやさしめの声でいいます。

「紗瑠は、泣き虫だね」

 そんなシムーンちゃんに、私はいいます。

「……シムーンち゛ゃんだって」

「え?」

「シムーンち゛ゃんだって、涙でてるよ」

 泣いてるって程じゃなかったけど。シムーンちゃんの瞼にも大粒の涙が溜まってました。

 私に指摘されて初めて気付いたみたいで、シムーンちゃんは指ですくっていいます。

「本当……だね、私……泣いてる」

 シムーンちゃんの口元が、少しだけ緩んだ……気がしました。

 

 ――そこへ。

「貴方たち、ここは立ち入り禁止よ」

 扉の辺りから、凛と貼り付けたような女の声が突如響き渡ります。

 私でもシムーンちゃんでも、もちろん旗枷くんでもありません。

「ふぇ?」

 私は涙でくしゃくしゃのまま振り返ります。

 そこには、長い髪に眼鏡姿の少女がひとり立ってました。

「げ」

 旗枷くんは驚きながらいいました。

「ね、姉ちゃん!?」

「……だれ?」

 シムーンちゃんが小さく囁きます。私は同じくらいの声量で、

「この学校の生徒会長で、旗枷くんのお姉さんの旗枷 紫水(はたかせ しすい)先輩」

 ちなみに私は紫水さんとの面識は全くありません。恐らくあちらは私の顔も知らないと思います。

 ただ、始業式とかで挨拶をする紫水さんを見たことはあるのですけど、知的で落ち着いた雰囲気なのに物腰は寧ろはきはきとしてて、私の中ではすごい風紀委員系のイメージが強い人です。

 そんな人がどうしてここに。

「何をしてるの貴方たち。こんな所で」

 紫水さんはいいました。そこで私はハッとなります。

 そういえばすっかりと頭から抜けてましたけどこの屋上、実は基本一般の生徒に開放はされてないんでした。

 むしろ、たったいま「ここは立ち入り禁止」っていわれたばかりでした。

「しかも藍銅まで」

 まったく、と紫水さんが腕を組みます。

 ど、どうしよう。

 つまり私たちっていま、はっきり言って「悪いこと」をしていて、それが見つかっちゃったって事なんです。

 そ、そのうえ紫水さんって……やっぱり怖そう。ふぇぇ。

 旗枷くんは慌てて、

「ま、待った姉ちゃん。すぐ戻る! すぐ教室に戻るから」

「当たり前でしょ。先生に見つかる前に――」

 と、ここで紫水さんの視線が私たちに向きます。現在、私たちは泣きながら抱き合ってる真っ最中。すると一転して仕方なさそうにいいました。

「まあいいわ。あなたたちもすぐ戻るのよ」

 私はほっとしながら、

「は、はい」

 よ、よかったあ。問答無用で怒られるかと思ったよぉ。

「よかった……ね、紗瑠」

 シムーンちゃんが私の頭を撫でてくれます。気付いたら私、しがみついたままシムーンちゃんの裾を握り締めてて、怖がってたのすっごく伝わってたみたい。

「う、うん」

 いいながら、私はシムーンちゃんを解放します。

 ……まだちょっと物寂しいから、傍はキープしたままですけど。

「さ、サンキューな姉ちゃん。じゃあ紗瑠、シムーン。さっさと教室に戻るぞ」

 少しテンパった声で旗枷くんがいいます。

「う、うん。シムーンちゃん、行こう?」

「うん……」

 私はシムーンちゃんの手を引いて出入り口へと小走りで向かいます。

 けど。

「え? 藍銅、いま何て」

 紫水さんは驚いた様子で、

「ま……待って」

 って、私たちを止めたんです。

「え?」

 ふぇ!? な、なに? って思ったら、

「あなた、もしかして立花 紗瑠さん?」

「は、はい」

 私が応えると、

「そう。……あなたが」

 と、紫水さんは呟いてから。

「悪いけれど、貴方はここに残ってくれる? 個人的にあなたに用事があるの」

「え?」

 私に用事? 紫水さんが?

 きょとん、ってしてると紫水さんはいいました。

「これで伝わるならいいけど。……あなた、“持ってるわね?”」

 直後。シムーンちゃんが私たちの間に割って入って、

「紗瑠、逃げて?」

 って、突然デュエルディスクを装着しはじめたんです。

「し、シムーンちゃん。どういうこと?」

 突然の行動に私が激しく混乱してると、

「この人の目的は、たぶん紗瑠の持ってるナンバーズ」

「え?」

「昨日の痴漢の人とケースは同じ。この人は紗瑠のカードを奪って自分のフィールを高めようとしてる。私がかわりに相手をするから、紗瑠は先に……」

「ちょ、ちょっと待ちなさいって」

 紫水さんが困り顔でいいました。

「勝手に決め付けないで頂戴。そんなことするつもり全くないってば」

「って、言ってるけど。シムーンちゃん」

「……本当、に?」

 シムーンちゃんはディスクを構えたまま訊きます。その様子は、私から見たらさっきみたいに警戒丸出しじゃなくて、どちらかというと半信半疑って感じだったんですけど。

「はあ」

 紫水さんは溜息一回に呟きます。

「どうやら信じて貰えなそうね。その様子だと既に一度襲われた経験があるみたいだもの」

 そして、紫水さんはおもむろにデュエルディスクを装着しだしました。

「しょうがないわね。ふたり同時に相手をしてあげるわ」

 ……。……………………え?

「わ、私も……?」

「当然じゃないの。このまま逃げられたら困るもの」

 ちゃっかり出入り口の扉を閉め、完全に通せんぼする紫水さん。た……退路塞がれたよぉおおお!

「は、旗枷くぅぅん」

 私はその弟に助けを求めるけど、

「……すまない、立花。姉ちゃんってああ見えて割と衝動的なんだ」

 その上、

「藍銅。もしふたりの味方をしたら、覚悟しなさいよ」

 なんて紫水さんに言われて、

「重ねてすまん立花、俺にはどうすることもできない。すまない……役に立てなくて、本当にすまない……」

 と、旗枷くんは謝ります。なんだか謝りすぎてジー○フ……竜種の血を浴びてそうです。

「紗瑠、カードを使って」

 シムーンちゃんがいいました。

「ナンバーズを召喚すれば、モンスターに乗って逃げれる。……と思う」

「あっ」

 そういえば、おじさんの時もシムーンちゃんはクイラを召喚してまるでポ○モンとかス○ンドみたいに使ってた!

「う、うん。ありがとうシムーンちゃん」

 私は言われた通りデュエルディスクを取り出し、装着そして起動します。

 ……ところで。

 デュエルディスクには、無線通信で他の起動中のディスクに接続してデュエルを要求する機能があるんです。

 つまり、私のディスクはいま紫水さんに対して無防備なわけで。

「あ」

 と、驚いたのも既に遅くて。

 私がイルミネーターをディスクに置く早くその前に、ディスクのタブレット画面からデュエルモードに入ったことを告げるメッセージ。

 おじさんの時と同じ、強制デュエルです。

「ど、どうしよう。シムーンちゃん」

 私は改めてシムーンちゃんに助けを求めようとしたけど、そこにいたのは。

「……ドヤッ」

 とか言っちゃう友達の姿。

「し、シムーンちゃん……」

 も、もしかして。さっきのアドバイス、わざと……。

「突然、紗瑠弄りたくなって。……紗瑠だから、仕方ないね」

「仕方なくないよお!」

「大丈夫、だよ。……あの人はたぶん白。そんな気がしてきた」

「だったら余計デュエルする意味ないよっ」

 どうして。どうしてこんな時でさえ私弄られるのかなぁ。

 なんて嘆いてると、そこへ紫水さんの呟く声が。

「……。誤解が晴れたなら私もデュエルする必要ないんだけど」

「ごめんなさい! 友達が迷惑かけてごめんなさい!」

 私は慌ててぺこぺこ謝りました。

「……立花さんあなた、苦労してるのね」

 …………ぶわっ!

 どうしてかな。感激でなんだか涙が出ちゃいそうです。

 そこへシムーンちゃんが、

「あ、そうだ。……もしどっちかがサレンダーしたら、アンティ扱いでナンバーズ貰う……ね」

 …………ぶわっ!

 どうしてかな。今度は悲しみのあまりに涙が出ちゃいそうです。

「まあいいわ」

 諦めた様子で、紫水さんはディスクのタブレット画面を操作しながらいいました。

「一度あなたたちの実力を測りたいとも思ってたから、いい機会だと思うことにするわ。デュエルは先攻ドロー有のバトルロイヤル形式、プレイヤー全員は最初のターンに攻撃できない。実質2対1のハンデで先攻は私が貰うわ。これでいい?」

 操作してたのは今回のルール設定だったみたいです。

「ふぇ、え、えっと……私は大丈夫です」

 私はうなずきました。隣でシムーンちゃんもうなずいたのが見えます。

「なら、このルールでいくわね」

「は、はい。……ごめんなさい、ご迷惑をかけちゃって」

「さっきも言ったけど大丈夫よ」

 あんまり私がぺこぺこ謝ってたからかな、紫水さんはやさしく宥めるようにいってくれました。

「そうね、どうせなら藍銅もデュエルに参加する?」

 そして、紫水さんは旗枷くんにも振ります。けど、

「……すまない。デュエルディスク、教室に置きっぱなしなんだ」

『…………』

 




長い間お待たせして申し訳御座いません。
帝国時代からやっとストーリーが進みました。

……ところで紅白ラ○ライブ、オリジナルアニメーションなんか痛いよ。
まきちゃん凄くかわいく見えたけど。
まきちゃん。
(尚、自分は穂乃果・にこ推しです。そこまでライバーしてないけど)


16/1/3:タイトルに「EP-7」をつけ忘れていたので追加。
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