真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜   作:霜焼雪

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 ――――かりそめにだに思ひたえぬは


 作者不詳


第十二帖 うらめしの我身の様や苔の袖――――

 

「目標捕捉」

 

 

 ギリリリ……。

 銑治郎宅に少女たちが招かれていた時刻、川神学園の制服をだらしなく着ている少年が、自分の身長の二倍近くある巨大な弓を構えて意識を集中させていた。

 弓と結びつける弦の月輪と日輪が(はず)と擦れる音と、握り手の革が左手を巻き込むように唸る少し湿り気のある音が、川神学園屋上の貯水タンクの上から静かに響く。殆ど木霊せずに周囲五メートルにいなければ聞こえないような音に加え、弦を引っ掛けている黒い弓懸けからも小さく、キリキリと今にも弦が外れてしまうのではないかと錯覚してしまう危うい音も混じっている。

 しかし、それこそが最上の状態であり、弓兵が目指すべき一種の究極型であった。

 傍から見ればどこかのゲームや漫画に出てきそうな異形の弓だが、それの所持している人物の出生や、その異形ながらも基礎(ベース)になっている形を鑑みれば、それは和弓の亜種と判断することができる。菖蒲色や紅紫といった濃い紫の混ざり合った独特の光沢を放つその弓も、しっかりと和弓の基本形に基づいた(そり)や比率を保持している。

 しかし、その弓に取り付けられている矢の形は明らかに変わり種で、遠距離で使用しようとするには常軌を逸している。拳一つ分はあるかと思われる鏃の先端は尖っていない。普通の鏃と比べると平らなため、銃弾で例えるならホローポイント弾のようにも見えるかもしれない。この鏃もホローポイント弾同様、先端が凹んでいる仕様であった。その殺傷能力は恐ろしく、手加減されていたとは言え、鉱石を切り裂く斬撃で切り裂けなかった超硬の装甲バイクを一撃で貫通するほど。

 その驚異的な破壊力を有した矢を、少年は一人の人間に向けていた。

 

 

「組織の暗殺者(アサシン)がこの学園の生徒とは、盲点だった」

 

 

 少年は悔やんでも悔やみきれないような、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。超重量の弓を引きながらでは、言葉を漏らしたり表情を変えたりする余裕はないはずなのだが、少年はそれに対する苦労は一切感じていないようだった。

 少年、那須与一は再び目標に意識を集中する。後悔することは後でもできると、今すべきことに切り替えたのだ。

 猛禽類のような鋭い眼光で射止めるべき対象を視界に固定する与一。対象の特徴を与一が報告として特筆するとするならば、大きな黄色いヘッドフォンをしていたということだけだろう。それ以外の外見は他の学生と何ら変わらない。身長も高い訳でもなく低い訳でもなく、測ってみれば与一とさほど変わらないだろう。身のこなしも気配も一般人のそれと大差ない。寧ろ劣って見えるほどだった。

 

 

 ――――それなのに、何故狙いが定まらない?

 

 

 与一の思考回路は電波妨害された通信機器のように煩瑣(はんさ)していた。対象は視認できる。横顔も体格も歩幅も呼吸もしっかりと記憶に焼き付けた。それなのに、与一の狙いは少年の中心を捉えることなく、少年の輪郭付近をフラフラとふらついていた。

 記憶した情報が、害虫に蝕まれている葉のように穴だらけになっていく。

 信じられない、与一は焦燥感を露わにし額に汗を滲ませていた。次第に弓を握っている左手にも汗が滲み始め、弓に巻かれた革が湿り気を多く帯び始めていた。

 これでは拙いと、与一は一呼吸置くために弓を引く動作を中断し、弓と矢を取り外してそれを右手だけに持ち替え、対象を視界から外すことなく深呼吸を繰り返す。

 

 

「脳内に直接ジャミングだと……? クソッ、高位古代魔術(ハイエンシェント)が使えるとは、幹部クラスの実力者だったか……! 道理で風が哭く訳だ……」

 

 

 与一は今まで以上に気を引き締め、手のひらに吹き出していたじっとりとした汗をズボンで拭いながら弓の調整をする。

 与一が現在手に握っている矢は一本、九鬼家従者部隊序列一位のメイドに手渡されたのが一本だけであったが故、泣いても笑っても与一が射ることができる矢はこれっきりであった。本来ならば、与一の矢を管理しているのは序列三位の執事であった。しかし、現在は川神学園の一年生に編入してきた九鬼財閥トップの子供の三人の内、末っ子である少女に付きっきりであるため、与一が呼んでも反応はない。それを分かっているからこそ、与一はいつにも増して慎重なのだ。

 一撃で仕留める、その心意気と覚悟が与一の全力を引き出そうと奮闘する。

 与一は再び弓と矢を構える。その動作は流れるようにスムーズで、先程の体制に戻るまでに五秒とかからなかった。弓道としてはあまり褒められたものではないが、こと戦闘においては評価は高い。

 与一の狙いは先程より定まっていた。腕のブレも少なくなり、少年の輪郭内に収まるまでにはなっていたが、与一はそれをよしとしなかった。

 

 

 ――――この程度の距離、あの程度の大きさを仕留めることができなくて、何が弓の英雄か。何が源氏の三与一か。

 

 

「我放つ雷神の一撃に慈悲は無く」

 

 

 与一は囁くように詠唱を始める。かつての与一、つまりはこの与一のオリジナルである過去の偉人である那須与一は、ここぞという時には神に祈ることで、精神を安定させ矢を放ったと言われている。

 しかし、今の与一、クローンとして現代に蘇ったこの与一はそれを好まない。彼を支えるのは詠唱、自身の力を呼び起こし奥義へと繋ぐ言霊の儀。

 

 

「汝を貫く光とならん」

 

 

 与一の目が更に大きく見開かれ、同じ姿勢を保っていた右手が解放される。

 

 

「奥義! 竜神王咆吼波(ドラゴニックブレス)!」

 

 

 与一の巨大な弓、通称ソドムの弓から放たれた一矢は激しい閃光のように発射され、一秒足らずで目標の少年への狙撃を完了した――――筈だった。

 

 

 

 

 少年は与一のいる方向へ振り向くどころか、迫り来る矢を見もせずにそれを半身で避け、目にも止まらぬ速さで振り上げ振り下ろされた足によって踏み潰された。

 

 

 

 

 その矢の軸は激しい衝撃で真っ二つに裂けており、その中心部分は爆発したように粉微塵になっていた。先程まで異形と言わしめていた鏃は地面にめり込んでいて役に立っていなかった。与一の矢は、圧倒的な力で捩じ伏せられてしまった。

 与一は絶句していた。先刻の狙撃には少なからず、いや、大きな自信があった。確実に臓器の密集する胴体に鋭い矢を撃ち当てた筈だった。しかし、僅か一秒足らずの時間で、少年は与一の自身と懇親の一撃を文字通り粉砕したのだ。

 そして何より驚くべきは、少年は矢が襲ってきたこともそれを対処したこともどうでもいいのか、まるで“気づいていない”かのように意に介さずそのまま下校していった。

 一方、奥義を止められた与一はあまりのショックに膝をつき、左手で顔面を多い蹲っていた。

 

 

「馬鹿な……!? あれを迎撃できるレベルの強さを有しているだと……!? 奴の使える術は高位古代魔術(ハイエンシェント)のみならず、精霊魔術(エレメント)の術式を己の肉体に武装できるのか……! 確認できただけで俺の奥義を相殺した雷の属性と、底知れぬ闇……。まさか、奴は俺や直江大和と同じ、“特異点”……!」

 

 

 与一は膝に手を置き、ググッと時間をかけて再び立ち上がる。しかし、与一は学園内に少年の姿を確認することはできなかった。既に学園内から立ち去ったのか。

 

 

「くっ、またしてもジャミングか。俺が敵を逃すとは……。いや、どちらにしろもう矢はねぇ。悠々と立ち去るアイツを見れなくてよかった、というところか」

 

 

 与一は奥歯を噛み締めて悔しがっていたが、どちらにしろやれることはなくなったと、弓を担ぎ屋上を後にしようと屋上の出入り口に手をかけた。

 

 

「“特異点”が三人もいる学園……。ここが混沌(カオス)に飲まれる前に、俺は――――」

 

 

 そう言い残して与一は屋上を後にした。

 以上、与一の妄想半分、事実半分で構成された“特異点”同士の衝突であった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「――――与一の一撃を、ああもあっさり、か」

 

 

 川神学園グラウンド、垣根の中に潜んでいたメイド服姿の女性が驚愕の声を漏らした。彼女は手元にとある人物について調べさせたありったけの資料にそっと目をやった。そこには“九鬼”と大きく判が打たれていた。

 彼女の名は忍足あずみ。九鬼家の次期財閥当主である九鬼英雄直属のメイドであり、九鬼家の従者部隊の中で序列一位という、九鬼家従者部隊を統括する位置に付いている優秀なメイドであった。

 序列一位と銘打たれているが、本人はその称号を嫌いながらも重く受け取っている。本来の彼女の序列位置は一番とは世辞でも言えなかった。戦闘能力だけで言えば、彼女よりも強靭な執事は複数人おり、仮に事務処理や知識だけを考慮しても、星の図書館と呼ばれる老婆がいる限り、どう足掻いても頂点に立つことはできない。

 彼女は九鬼家の若手育成方針の代表例とも言えるもので、若者に指揮をとらせるという名目で従者部隊の一位を任されている。当人からすればそれは非常に心労を与えられることで、日々仕事終わりに「あー疲れたぜー」と言いながらベッドに倒れ込んでいるのだが。

 そんな彼女が今回目をつけたのは、とある少年についてであった。

 切っ掛けは至極簡単、あずみが少年と教室でぶつかったことだった。たったそれだけであった。たったそれだけのことで、彼女は戦慄したのだ。

 

 

 ――――こいつ、誰だ?

 

 

 あずみはその瞬間に思考回路を全力で稼働させ、脳内に保管されているありとあらゆる記憶を呼び覚ました。特に学園生活の記憶は洗いざらい思い起こし、当時の報告書なども全て目を通した。

 その中に、少年に関する記憶は一切なかった。それほど大したことのないように思われるかもしれないが、あずみは学園に保管されている少年の資料を見て愕然とした。

 

 

 ――――アタイたちと、一年から、同じクラスだと!?

 

 

 少年の学園生活は非常に優秀であった。特にその学力に関しては非の打ち所がなかった。川神学園の入学試験を六位で合格し、エリート集団であるS組になんなく入り、その後も学園一桁代の順位を獲得してきたという。更に、一年の期末試験では不動の学年トップと言われている葵冬馬、あずみの主であり将来有望な九鬼英雄、異様に調子が良かった不死川心に次ぐ四位であった。

 その順位をキープしているのならば、当然の如く二年生になってもS組に入っていることは間違いなかった。

 あずみはその事実を知る前、この調査をしようと思い立った時の感覚はこうであった。

 

 

 ――――今日初めて会った奴だが、一応調べておくか。

 ――――同じ学年の人間の顔くらい、覚えていたはずだけどよ。

 

 

 ところが、蓋を開けてみればどうだろうか。初めて会ったどころか、一年間同じS組で切磋琢磨した同級生、更には現在同級生、加えてあずみの“隣の席の学生”ときた。ここまでの事実が発覚してあずみは慚愧に堪えられず頭を抱えてしまった。今まで一体自分は護衛として何をしてきたんだと、酷い自責の念に駆られていたのだ。

 あずみは昼休み、少年を除いた同級生に聞いて回った。「この少年の名に聞き覚えはあるか」と。その結果、秀才葵冬馬、主である九鬼英雄、交友関係の広い井上準ですら知らぬ存ぜぬといった対応であった。

 ここであずみは一つの仮説を打ち出す。

 少年は、何か特殊な訓練を受けてきたのではないか?

 誰にも気づかれずに潜入し、上層部からの命令に従順に従い任務をこなす。その仕事に対して真摯かつ生真面目でありながら同様の内容を受け持つ職業を、忍足あずみは嫌というほど痛感している。短期であっても報酬さえあれば何でも請け負うよろず屋のような場合もあれば、長期ならば永久的に従属する場合もある、とある技法を学んだものにしか就けない特殊な職業。

 

 

 ――――アイツ、まさか忍か?

 

 

 そんなふざけた考えを直ぐにあずみは払拭したかったが、目の前でおきた光景と調べに調べた特筆事項の少ない少年の履歴を考慮に入れてしまうと、どうしても簡単には否定できなくなってしまう。寧ろ信憑性が増してしまっている。

 殆ど足音を立てようとしない足運び、誰にも気づかれずに一年間隠れ過ごした隠密性、学年の中でも五指に入る学力を持つ頭脳、身体測定において明らかに秀でている反復横とびから測ることができる瞬発性。それらを兼ね備えた一般学生など早々いない。

 そして、時速二百キロ近いバイクを一秒足らずで狙撃した与一の矢を身もせず対処した身体能力。それが示すことは、少年の戦闘能力は見ただけで推し量ることのできないということ。

 忍者として充分な能力、異常なまでに恐ろしい戦闘力、それらを考慮に入れてあずみの仮説は次なる仮説へ昇華する。

 

 

 ――――暗殺、専門……。

 

 

 与一のような組織の資格だとかそういった空想の類ではなく、忍が忍たる所以とも言える隠密行動、その代表例である暗殺を専門職とする忍も確かにいる。傭兵として駆り出される忍もいるのだ。忍者の代表格とも言える職が残っていれも何ら不思議はないだろう。

 となると、この少年が忍であると仮定して次のステップへ進むのならば、当然“標的は誰であるのか”ということに尽きる。

 ただでさえ学力が高いということで目立つS組に入るということは、それだけのリスクを犯してでも、標的に近い場所で活動したいということの現れだろう。他クラスからS組に何度も行っていては怪しまれる、ということもあるのだろう。

 S組で標的となりそうな人物をリストアップしていくあずみ。

 かの巨大病院――不祥事が発覚し、九鬼が秘密裏に処理したが――で有名な葵紋病院の御曹司である、葵冬馬か?

 その右腕とも言える葵紋病院副院長の息子かつ、葵冬馬の補佐である、井上準か?

 かの綾小路家と並んで三大名家として名高い不死川家の一人娘である、不死川心か?

 九鬼家が発動した武士道プランの体現とも言える三人のクローン、源義経か、武蔵坊弁慶か、那須与一か?

 

 

 それとも、九鬼家次期財閥当主であり、あずみの主である――――九鬼英雄か?

 

 

「――――っ」

 

 

 思わず身震いしたあずみ。何を不抜けて、こんなにも不用意に危険人物を自分の主に近づけていたのかと激しく悔やんだ。後悔の気持ちがグルグルと体の中を動いて膨れ上がり、収まりがつかなくなってしまったのか、あずみは半分分解されかかっている落ち葉の積もった腐葉土に拳を叩きつける。その中に木の枝や石が混じっていて、あずみの手の甲から地が滴るが、それがどうしたとあずみは何度も自身を痛めつける。

 

 

 ――――こんなんじゃ、駄目だ。

 

 

 あずみは数分間拳を傷つけ、一つの結論に至った。

 

 

 ――――危険人物、伊那渕を、“警戒レベル4”の対象に指定する。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「何だろうか、不穏な空気を感じる」

 

 

 そう呟いた少年、伊那渕は瞬間的に顔を真っ赤にして、慌てて口を塞いで周囲の目を気にするようにキョロキョロとしていた。普段の彼ならば独り言を呟こうが対して周囲の目を気にすることはなかったのだが、ここ最近になって周囲に“気づかれるようになった”ためか、少しばかり言動を慎もうと考えを改めているが故であった。

 加えて、渕は中二病という黒歴史を生み出す病気を早期発見し克服しているため、こう言ったクサい台詞は妙に小っ恥ずかしいのだ。

自身の行動を顧みて恥ずかしがっている内に、渕は自宅の門の前に到着していた。その門は単なる門ではなく、中世の古城に付いていそうな古ぼけた門。この仰々しい門はどうにかならないものかと、渕は見飽きて呆れた自身の家の外見に溜め息を吐いた。

 門を潜って窮屈な皐月躑躅(さつきつつじ)の生け垣のアーチを抜けて漸く見える二階建ての家。どうしてこんな無駄なものを作ったのかと、渕が何の言い回しもせず愚直に両親に問い詰めたところ、「爺さんの代からの血統書付きセンスだから、お前が理解できないのは残念だが仕方がない」だとか、「お義父さんとパパの感性は普通じゃないの。私は無関係よ。お願いだから私に聞かないで」だとか、挙げ句の果てには「今度噴水でも作ろうかと思うんだ。小便ダビデ」だとか、何故この家の息子になったのかと頭を抱えて一週間ほど反抗期になったことがあった。

 加えてたちが悪いのは、十一月から既にクリスマスモードに入るのか、花の散ってしまった生け垣がイルミネーションの生贄になることだった。その配色もまた逸脱したセンスの元装着される。渕は自分の家以外でブラウンに輝く――輝くと言いづらく、どちらかというと濁って見える――電飾を見たことがなかった。

 そんな渕がある種忌み嫌う自宅のアーチを潜り抜け、二重の意味で異色な小便少年少女を模した噴水増設予定――噴水ダビデ計画は渕の母親の説得(暴力)により白紙となった――の庭を通って玄関に至る。

 玄関の扉にも何故か使いもしないドアノッカーが取り付けられている。その形は通常なら獅子の頭部を模したものが多いが、目の前にあるドアノッカーは何故か鉄鍋の形をしていた。ただの円形と間違えられないようにか、鉄鍋の中央にはナイフで荒々しく切るように“Ottoman”と刻まれていた。

 

 

 ――――動物ですらないのかよ。

 ――――何だよ“おっとまん”って。

 

 

 幾度となく疑問を投げかけたこのドアノッカーにも、何故か愛着がわいている渕。“Ottoman”の読みは“おっとまん”ではないのだが、渕は“おっとまん”と読んでいる。勿論読み方も知っているし、そう刻んだ意図も理解できる。できるからこそ反発しているのだ。

 しかし、玄関前のアーチだけはどうにも好きになれなかった。親父の棺桶には“あれ”をつっこんで一緒に燃えてもらおうと、密かに母親と計画していたりする渕であった。

 

 

「ただいまー」

 

 

 返答はない。ここ最近、渕の両親の帰りは遅い。両親が何をしているかを、渕は詳しく知らない。唯一分かっていることは、渕の両親は九鬼の極東本部に出入りしているということだった。それを把握するまでに、渕は自分を認識できる人間である両親を数回備考した。理解者とも言える両親に隠し事をされるのは少し嫌だったのだ。

 それでも、渕はそれ以降の尾行は行っていない。理由は簡単、他人に気づかれなかった人生を歩んできたせいか、他人に気づかれない境界線というものも把握できるようになっていた。以前竜兵に襲われた時はそれを無視していたから気づかれたが、普段はその程度では気づかれはしない。現に一年間、S組に“影”として気づかれずに混じりきったのだから。

 尾行をやめたのは、明らかに覚知範囲が広い人間がそこに何人もいたからだ。極東本部が見える位置で気づかれなかったのは僥倖と言えるレベルだったと、渕は当時の緊迫感を思い出していた。

 それが一体、幸運や僥倖などでは言い表せない偉業を成し遂げていたことを、その時の極東本部に壁を越えた者が複数人いたことを、渕はまだ知らない。

 

 

「少しだけでも、話してくれたっていいのにな」

 

 

 その呟きにも返答はない。少し肩を落としながら渕は靴を脱いで自室に戻ろうとした。渕が靴に手をかけたその時、やけに焦げ臭い匂いが鼻についた。火事かと思い込みかけた渕だったが、その匂いの元が自分であることにすぐ気づいた。

 自分が持っている右足靴、その靴底を見ると、ベルトサンダーにでも引っ掛けたのかと疑うくらいに滑り止めが削り取られていた。左足の靴と比べると、数ミリほど焦げきって磨り減ってしまっていることに気づいた。片方は新品同様、もう片方はわんぱく小僧が使い込んだような有様だった。

 

 

「……また、何かに襲われたのかな」

 

 

 次第に自分の異変を受け止めつつあった渕は溜め息を吐いて、“今週四足目”の靴をゴミ箱に捨てて自室に入った。

 

 

 ――――自分みたいな“凡俗”に、よくまあ、物好きだよ。

 

 

 渕は自身の異変に気づいていながらも、それを全て受け入れていない。今の自分の強さ、異常な身体能力はあくまでも一時期的なもので、見せかけのハリボテであると自己認識していた。それも、酷く自嘲的に。自分を虚仮と言い放てるほどに。

 自分の両親がどれほどの武の才があるかも知らない上、血統とやらにも興味はこれっぽっちもない渕。自分に武道の才能があるなどと、今の今まで考えてこなかったほどだ。人から

気づかれない才能は仕方がなく認めてきたが。

 そんな渕からすれば、自分は鍍金(めっき)の存在であると考える。自身の月並み陳腐な才能にただただ呆れ、第三者を装い憐れみ、哀しむ。

 

 

「……さあて、と。今日も楽しく深夜徘徊」

 

 

 そのためには昼寝が必要だ、そう自分に言い聞かせて渕はベッドに潜り込んだ。

 

 

 





 大理石でできた二本の美しい腕が失われたかわりに、存在すべき無数の美しい腕への暗示という、ふしぎに心象的な表現が、思いがけなくもたらされたのである。


 清岡卓行

◆◆◆◆◆◆

 渕くん大人気回です。本人の預かり知らぬところでいつの間にか天衣さんと同じ扱い、いや、それ以上になっております。同性愛者と中二病患者と壁を超えた者クラスの従者たちの対象に。これはなんという死亡フラグなのでしょうか。

 突然ですが、ここでクエスチョンです。

 松永燕・C
 川神百代・B
 葉桜清楚・A
 椎名京・S

 これは一体なんでしょうか? これはですね、私が慶の身体のバランスを調べ確定させるために独自調査した結果の副産物なのですが……。


“マジこい女性キャラ33名、ナイススタイルコンテスト”における評価であります。


 ナイススタイルと銘打ったのは、決して“ナイスボディ”ではないということの意です。これは“ゴールデンカノン”と呼ばれる、その人の身長にあった理想のスタイル、つまりは現代女性に理想の黄金比があるのですが、それに基づいた結果、上記のようになりました。百代さんBクラスでした。カップはFでした。

 参加者は現在スリーサイズが公式発表されている三十三名、残念ながら沙也佳ちゃんはまだ公式発表がないので今回はお休みです。それでも羽黒は参加しています。

 もちろん、中には“巨乳は資産価値”とか、“貧乳は希少価値”だとか、人それぞれ嗜好はあると思われます。なのでこれはあくまで“バランス美”を競う評価であります。

 慶の身体は黄金比を用いて算出しようとしていたので、そのついでですかね。白銀比など他にもいろいろな比率があったので、色々頑張れば男性キャラのスリーサイズも評価できます。

 あと、慶の肉体を黄金比で算出しようとしたからといって、慶が女性とは限りませんので悪しからず……。


 こんな統計作って、需要あるのでしょうか……? もし知りたいという方いたら、教えてください。一応カップも算出しましたけど……。本当、寝る時間削って何していたのでしょう、あの頃の私……。

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