真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜   作:霜焼雪

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――――しのぶの乱れ限り知られず


作者不詳


第十三帖 春日野の若紫のすり衣――――

 

「あ」

「お」

 

 

 深夜の親不孝通り付近、筋肉質の粗暴そうな男と影の薄そうな少年が再び出会った。

 その瞬間、少年の方は素早く身を翻して来た道を逆走しようとしたが、無意識下における爆発的な身体能力を発揮できなかったせいか、一瞬にして回り込まれてしまった。

 

 

「こらこら逃げんな渕」

「な、何だよ板垣。また鬼ごっこか?」

 

 

 少年、伊那渕は素人感丸出しの構えを取って警戒心を強めた。

男、板垣竜兵には前科に近いものがある。そう、竜兵は先日、渕を犯そうとしていたのだ。男同士で、この現代ではあまり需要のない――次元が一つ少なく、人物が美化されているなら需要はもう少し高まる――組み合わせであった。

 しかし、竜兵は至って真面目、本気も本気、真剣そのものであった。そこから辛くも逃げ出した渕にとって、竜兵は今でも下半身を中心とした寒気を起こす原因であった。

 そんな竜兵と貞操を掛けた――掛けるのは渕のみ――鬼ごっこを、渕はもう二度とやりたくなかった。常時舐められるような感覚に襲われる視線に支配される逃走劇、何を好き好んでこのようなことをするのか、渕には理解できなかった。

 

 

「バーカ、今日はしねぇよ。ただ話をしに来ただけだ」

「嘘は良くない。さっきから視線が僕の下半分にしか行ってないだろ」

「そりゃ本能的な問題だから解決使用がねぇわな。つーか、立ち話もなんだ。そこいらのファミレス入ろうぜ?」

「襲い掛かるなよ?」

「わーったよ」

 

 

 竜兵は渕の疑いを解消することはできなかったが、渕をファミレスに連れていけただけ上出来だと考えていた。逃げられてしまったら竜兵の力技では渕を捕まえることができないと、竜兵の本能がそう告げていたのだ。

 竜兵の本能は、この川神において一二を争う鋭さを秘めた嗅覚をしているという事実が、渕という“影”を明確に捉えたことにより証明された。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「俺はカレーでも食うか」

「夜中なのにハードだね……僕はチーズケーキ」

「甘いもん食ってるお前も大して変わんねーよ」

 

 

 テーブル席の対面で互いのセレクトを批判する竜兵と渕。二人を端から見ると、大人しそうな文系少年にカツアゲをしている不良という絵面に見えなくもない。念のために、渕は店員にそんな危険なことはないと耳打ちをしているあたり、渕は竜兵を完全な危険人物だと認識をしていないようだ。

 良くも悪くも、渕は人付き合いの経験が少ないのだから仕方がない。

 

 

「それで、話って?」

「おおそうだった。お前のその回避能力、ただ者じゃねぇだろ? 一回見たこともない構えを見せやがったし。今日のは素人感が溢れてたけどな」

「ああ……。そう言えばそんなこともやったっけ……」

 

 

 渕は以前の自分がとった行動を思い出す。

 竜兵に対し攻撃の体勢でいるように見せるハッタリを、惜しげもなく披露して何とか逃げ切ることに成功したという、あまり誇らしくない成績であった先日の衝突。渕からすれば、当時死に物狂いで危険から回避したいという一心でとった行動であったため、渕はこれを恥じようとしない。

 実際、“ワンパンの竜兵”から逃げ切ったという事実だけで、親不孝通りの不良に対し自慢できるのだが、不良どころか同級生とも関わりのない渕がそんなことを知る由もなかった。

 そう言えば、あの時は気づいたら竜兵から逃げ切れたんだよな、そう思い出した渕。決して意識的に行えて行動ではなかったと、声に出して竜兵に告げようとした。

 

 

 そこで渕の声が詰まった。

 

 

 自分のあの動きが何なのか、それを説明しようとしただけなのに、急に喉が絞まった。物理的に絞められている訳ではないのだが、喉の奥にフィルターが存在しているかのように、そこから特定の言葉が出ることを拒絶しているようであった。

 いや、それだけではないと渕は感じ取った。段々と説明しようと思っていた内容が“霞んできた”のだ。一体何を話そうとしていたのか、一体何を伝えようとしていたのか、渕の記憶のノートに消しゴムがかけられていく。

 

 

「あ……? うっ…………!」

「……おい、どうした」

 

 

 竜兵が急に息すら詰まり始めた渕を訝しげに見ていた。段々とそれがただ事じゃないと思い始めた竜兵の顔も不安に満ちていた。いや、不安というよりも、不可解の方が正しいかもしれない。

 竜兵に気を遣われる――実際はただ不思議に思われていただけなのだが――とは思ってもみなかった渕は、何とか少しだけ捻り出して伝えようとした。乾燥し終わる寸前の雑巾から、記憶という水分を絞り出すように。

 

 

「…………む、いっ、しき……」

「ん?」

「む、無意識、なんだよ」

 

 

 必死に絞り出したものは、絞り出さずに言えるような単語であった。しかし渕は、これが“鍵”何だと心の奥でそう思えた。

 

 

「無意識に、攻撃をかわせるし、アクロバティックな動きができるんだ」

「……そりゃ生まれつきか?」

「いや、そんなことはないはずだけど……。だってさ、この間板垣に襲われた時に初めてこのことに気づいたし……」

 

 

 そこで竜兵は何となく合点がいった。

 初めて渕に合った(渕を襲った)時、その動きに誰よりも驚いていたのは渕本人。本来ならそこで一番に驚くべきなのな竜兵であるはずなのだから。

 自分の力を自覚させた竜兵、させられた渕、この二人の間にはもう既に消し去ることのできないと歴史が刻まれていたのだ。その事実を改めて理解した竜兵は、ほんの少しだけ優越感に浸っていた。

 

 

「それにしてもおかしいだろ。生まれつきにしろ何にしろ、俺が初めての忠告者ってのが。他にも注意する人間はいただろ?」

 

 

 それは竜兵にとっては素朴な疑問だった。いや、恐らくこの話を聞いた人間の殆どが抱く疑問であろう。

 しかしそれは、渕にとっての触れてほしくはないことであった。いや、触れてほしかったのかもしれないが、渕にとっての心的外傷であることは変わりなかった。

 

 

 

 

 

 

「――――僕さ、影が薄いんだ。それはもう、幽霊みたいに」

 

 

 

 

「そうか? こんなに肉感的な幽霊いねーだろ」

 

 

 

 

 

 

 渕の自嘲的な言葉を、竜兵は無頓着に言い返した。

 

 

「板垣が特別なんだよ。僕は学年でも成績は十番以内なんだ」

「自慢かおい」

「聞いてよ。それで名前が学園に張り出されるんだけど、誰も僕のことを知らないんだ。多分、クラスメイトに僕の名前を聞いてもすぐには出てこないよ」

 

 

 笑っちゃうよねと、渕はどこか虚ろな目をして笑顔を浮かべていた。竜兵はこれと似た表情をどこかで見たことがあった。そしてそれはすぐに思い出された。この表情は、親不孝通りで野垂れ死にそうな男たちがよく浮かべている“希望を見ることのできない表情”だったと。

 

 

「しかもそれは川神学園に限られたことじゃなくて、僕の生涯で友達と呼べるほど僕のことを知っている人はいなかったよ。経験したことあるかな、肩がぶつかったのに見向きもされないんだよ? 「あれ? 今何かにぶつかった?」ってさ、透明人間みたいな扱いだよ。まあ見えてないみたいだし、仕方がないかな」

 

 

 渕が今まで溜まっていた何かを吐露し続けた。竜兵に八つ当たりするようにただただ吐き出し続けた。一切の遠慮も躊躇もなく黒い何かを、豪快にぶちまけていた。非常に醜悪で、退廃的な行為だった。

 そんな渕を見ながら、初めは竜兵も大人しく聞いていた。こんなに饒舌に喋る渕から、何か彼の強さの秘密を暴き出せればと、竜兵にしては珍しく考えがあっての行動だった。

 しかし、渕の声が沈んでいくにつれて段々と苛立ちを露にしていた。こめかみの血管をヒクヒクさせて、遂には聞くことを放棄して渕の胸ぐらに掴みかかった。

 

 

「オイ」

「っ!?」

「あんまり女々しいことばっか言ってっと、カレーの前にお前を食うぞ」

 

 

 竜兵は渕を力強く引き寄せて、突き立てた人差し指を渕の目の前に突き出した。決して綺麗に整えられたとは言い難いが、鋭く肌を容易に切り裂けるような爪が渕の目先に迫っていた。

 今に限ってこの竜兵の腕と指に何も反応できなかった渕、何も人体には影響がないと本能的に察したからだろうか。そんな感覚的なことは渕本人も解っていないが、何よりも今意識を向けるのは竜兵だろうと、渕は感じ取っていた。

 

 

「他人から見られていないだか何だか知らんがな。孤独だろうが何だろうが知らんがな。お前が生きてることには変わりねぇだろうが。これで「死にたい」とか口にしてみろ。食うだけじゃなく殺してやるよ」

 

 

 竜兵の言葉は単なる脅しではなく“宣言”であった。お前を確実に殺すという、明確な殺意を渕に向けたまま殺害予告を宣ったのだ。

 渕はそれに対して目を見開いた。こと戦闘に関しては素人な自分でさえ、肌が粟立つような殺気をヒシヒシと感じ取れていたからだ。

 渕の体は勝手に動こうとしない。渕の無意識下の状況でも竜兵に抗おうとしない。この状況が渕の人生にとって重要であると、渕を動かす傀儡師のような本能が理解しているようだった。

 渕が逃げないことを確認し、竜兵はさらに詰め寄り言葉を叩きつける。

 

 

「俺らみたいな社会不適合者みたく、我関せずとかで無視されたり疎まれたりするより、誰に見向きもされないとか誰からも気づいてもらえないってのは、比べりゃ確かに生きてる意味なんかないかもしれねぇ」

 

 

 竜兵は突き立てていた指を戻して、その手で渕の頭をガッチリと握り、言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

「それの何が悪い」

 

 

 

 

 

 

 竜兵は力強く、渕の心を潰すような圧迫感を伴った言葉をぶつけた。

 それに渕は心臓が締め付けられるのを感じた。両手でレモンを絞るように握られていたようだった。同時に、自分が認識されている、理解されていると感じ、歓喜に打ち震える。

 そんな渕の感情の機微など特に意識はせず、渕の瞳に希望が戻ったことだけ確信し、竜兵は持論を紡ぐ。

 

 

「「死にたい」なんて思ったことがあったかもしれねぇがよ。腹は空くし喉は渇く。性欲は際限がねぇし眠くなるのは当たり前だ。身体は「生きたい」んだよ。至極当たり前のように命が尽きるまで稼働しやがる。解るか? お前がそんなにウダウダと女々しく生きてたらよ、折角生きようと気張ってやがる身体が不憫だろうが。自分だけの身体じゃねぇって言うが、身体にだって思うところはあるんだぜ。こっちが丹精込めて育ててやればすくすく育つし、それに応えるように身体は俺を助けてくれる。身体を自分が好き勝手できると思うんじゃねぇぞ」

 

 

 竜兵は言いたいことを言い終わると、渕の胸ぐらを少し上に持ち上げて椅子に座るように強く押した。全く抵抗ができなかった渕はそのまま椅子に座らされた。

 竜兵もドカッと自分の席について肘をついて溜め息を吐くと、少しばかり上を向いて悩んだように見えたと思いきや、片手で頭を抱えてまた溜め息を吐いた。

 

 

「…………ハァ、何だからしくねぇこと言った気がすんな。まあ、俺は本能に忠実だからよ。飢えや渇きは欲望で満たす男だからな。俺は自分の価値観で無頼であるのを選択したぐらいだ。お前と俺は逆なんだろうな。俺は無頼を好んでるが、お前は無頼であることを疎んでる」

「……あはは、そうかもね。うん、少しすっきりしたよ」

 

 

 竜兵の言葉は渕の身に染み渡った。それはもう全身の奥の奥まで。渕の全てがひっくり返ってしまうような、そんな印象が与えられた。

 渕がじっくりと竜兵の言葉を噛み締めていると、店員が注文されたカレーライスとチーズケーキを持ってきた。竜兵と渕との揉め事のように見える説教が終わって直ぐだったので、店員はタイミングを見計らっていたのかもしれない。

 竜兵は待ってましたと言わんばかりにスプーンを手に取ったが、渕は少し躊躇って先に言葉を発した。

 

 

「ありがとう、板垣のお陰で元気でた」

「――――へっ、こんくらいで礼を言われるほどじゃねぇさ。それより、腹へって仕方ねぇ」

「まずは食べようか……っと、食べる前に一つ」

 

 

 カレーライスを豪快に掬い取ったスプーンを口に入れようとした竜兵を渕が制した。竜兵は手を止めて渕に向き合った。

 

 

「板垣さ……? 僕とこれからも、たまにこうして話してくれる?」

 

 

 渕の弱気な発言、それを聞いた竜兵は呆れたような溜め息をついてスプーンを置き、渕の額に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

「アホか」

 

 

 

 

 

 

 ビシッ! と、竜兵の中指が渕の額に当てられた。所謂デコピンである。

 

 

「あ痛っ!?」

「俺にこんなにも似合わねぇ説教臭いことやらせといて、今更他人とか言うと思ってんのか? もう立派な知人だろうが。それに、案外お前人と馴染める才能があんのかもな。なまじ他人と接してこなかったせいか、分け隔てって奴が微塵もねぇ。普通俺みたいな柄の悪い奴を見たら逃げるもんだぜ?」

「あたた……。そ、そんなもんなの?」

「そんなもんだ。人付き合いが上手い奴の条件みたいなもんか。俺は分け隔てって言うか、配慮も遠慮も分別も無さすぎるから疎遠されてんだがよ。お前のはあれだ、上手く人の懐に入り込める。最近辰姉に気に入られてる直江って奴もそんな感じだな。ナチュラルに溶け込めるって言うかよ」

 

 

 知らない名前が二人ほど出てきたためにちょっと首を傾げた渕だったが、竜兵の知り合いなら何でもいいかと適当に纏めておくことにした。

 

 

「もっと影が薄くなかったらお前、クラスの人気者だったかもな」

「そ、そんなに?」

「おう。あんまり対等に話すダチみてぇな奴がいない俺がお前に何の嫌悪感も感じねぇんだ。間違いねぇよ」

 

 

 渕が照れるくらいに褒め殺したところで、竜兵はようやくスプーンにこれでもかと乗せられたカレーライスを貪った。少し冷めてしまっていたカレーライスであったが、竜兵はどこか満足そうな表情をしていた。

 

 

「俺にとっちゃお前は気に入ったってレベルだ。その遠慮のなさもいい度胸だしな。これが友達(ダチ)って言うのかね」

「と、友達? 僕と、板垣が? いいの?」

「友達ってのは言い過ぎな気がすっけどよ。まあそこそこ親しくなったんじゃねぇか?」

 

 

 無頼な俺が言うのもなんだがよ、そう言いながら竜兵はカレーライスをかき込んでいた。そんな竜兵とは対照的に、渕はチーズケーキを小さく切って細々と食べていた。

 

 

「まあこれから色々とあんだろうから、多少は気にかけてやるよ。感謝しやがれ」

「うん。ありがとうね、板垣」

 

 

 二人は面と向き合って初めて笑い合った。

 無頼を貫き通してきた男、板垣竜兵。無頼を強いられてきた少年、伊那渕。

 狩人と獲物の関係から捻れ曲がった奇妙な交友関係がここに誕生した瞬間だった。

 

 

「いつか掘ってやるから覚悟しやがれ」

「あのさ、本人の前でそんな宣言しないでくれる?」

「なんだ、お前掘る専門か?」

「俺はノーマルだ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「さて。これでぼくの刺客の内四人が物語に絡み始めた。四人とも新しい絆を築いて世界と視野を拡大している。これこそがぼくの遊戯(計画)の大前提であり終着点だ。孤独だの孤高だの孤立だの孤絶だの何だのと、あたかも自分が悲劇の主役気取りでいやがったり、最強だの最凶だの最恐だの最狂だの何だのと、まるで自分がこの世界におけるヒーロー気分で生きていく“壁を越えた者”たちが辿り着けない位置さ」

 

 

「そうですかな。私にはヒュームや百代様は人間関係に重きを置いて言えば、一般人とさして変わらないかそれ以上のように見受けられます」

 

 

「そう、周囲からはそう見える。でもね、こいつらは心の中で、他人を“自分よりも下の奴”と見なして付き合っている節が必ずある。天地開闢から今に至るまで生き続けてきたぼくが言うんだから間違いない。考えてもみなよ。赤子赤子と人を罵り貶す奴がまともと言えるか? 自尊心の塊に他ならないだろう? 自分よりも強い奴を探したい、そんなことを日々考えながら生きている奴が他人を見下し蔑んでないと言えるか? 少なくとも、自分が上だと思ってないと言えないだろう?」

 

 

「ふむ…………」

「けどさ朧。あの二人がそうだとしても、他の人がそうだと限らないだろう? ルー先生なんて人当たりが良いし……」

「そうだな。ルーの奴は結構懐かれ易いし、面倒見もいいよな。天然だからってのもあるんだろうけど」

 

 

「彼はかつて釈迦堂と対峙し己を貫いた。しかしそれでも彼は釈迦堂との絆、強敵(とも)としての関係は継続している。それに、武の才のない者を簡単に切り捨てない情の深さがある。確かに彼は先に上げたヒュームたちとは別物だよ。けどね、それには別の理由がある」

 

 

「へぇ、何だいそりゃ」

 

 

「“天賦の才能を持っていなかったから”だ。人並みの才能を極限まで高めた結果、たまたま壁を越えたってだけ。たまにいるんだよ、“天賦の才能”を与えていないのに“権利”を持つ人材が。実際のところ、壁を越えた者は壁を越えた者でしか倒せないものなんだけど、多分壁を前にした奴等に三人ほど囲まれちゃ危ういんじゃないかな。それは一対多で話には関係ないというかもしれないけど、ヒュームや鉄心くん、それに時折暴威をちらつかせる彼女ならば問題なく倒しきれるだろうよ」

 

 

「天賦の才能があるかないかでそこまで変わるもんかねぇ」

「ルー先生はかなりの強者だよね」

 

 

「これが間違いなく変わるものだよ。天地開闢から今に至るまで生き続けてきたぼくが言うんだから間違いない。まあ、松永は確実に勝てると確信しないと戦わないってのはどちらにも取れるがね」

 

 

「どっちにも……?」

「自分が弱いから無駄な勝負はしないということ、確実に勝つことができると相手を下に見る、二面性ということですかな?」

 

 

 

「うん。そんな感じ。まあ彼女は性格面でも二面性がありそうだよね」

 

 

「けどよ。別に天賦の才能があろうがなかろうが、さっき言ってた自分を若干美化してるってのはそいつら以外にもたくさんいるだろ?」

「そうだよ。ナルシスト何か腐る程いるぜ?」

「オジサン、お前が言うことじゃないと思うな」

 

 

「そうだね。人間の九分九厘が表層的な意識では謙虚に振る舞っていようが、深層意識では他人と自分を間違いなく比較している。集合的無意識というものもあって、これが人間のデフォルトなのさ。二千年程前に処刑された崇拝対象や、春秋戦国時代の聖人君子みたいに誰も彼もが平等にしか見えない連中を、君たちはこれがデフォルトだと受け取れるかい? まあ無理だろう。これまた天地開闢から今に至るまで生き続けてきたぼくが言うんだから間違いない。まず間違いなく、特殊な人間だと思うだろうさ。倫理や歴史の教科書でも開いてごらんよ。人類皆兄弟だの平等な愛を与えるだの、そんな世迷い言を解いている奴等が載っているだろうさ」

 

 

「それで? 何が言いたいんだ?」

 

 

「言わんとしたい事は、何で乗っているのか、だ。これまた簡単、“酔狂だから”、“一風変わっているから”、“遊離しているから”だよ。自分とは違う奴等をピックアップしているのさ。この史上で現れたそういう特殊な輩の人数を集めても、間違いなく日本の屋久島に全員収容してもまだ余るだろうよ。それだけ極小の人間たちだけが、人を見下さず自分を上に置かない。何かが欠落しているのさ」

 

 

「だったらそこまで壁を越えた者を批判しなくてもいいんじゃないか?」

「オジサンだって欠陥だらけだぜ? もうこれ以上ないってくらいダメ人間極めてるからな」

 

 

「“だったら”じゃないよ。“だからこそ”なんだ」

 

 

「そうなのですか?」

「先生のことは置いておいて、壁を越えた連中以外にも欠陥だらけの人間がいるんだから、そこまで固執する必要ないだろ?」

 

 

「いいや。その九分九厘の当たり前の感情意識、人と比べてしまう本能的欲求、それがずば抜けているのが“壁を越えた者”なのさ。つまりは、強さの壁を越えたと同時に、人としての当たり前の感情も突出して醜くなるのさ。解るかな? 生まれながらにして“天賦の才能”を持っているというアドバンテージ、そしてその強さの壁を越えまわりから壁を越えた者と呼ばれ天狗となる。これが壁を越えた者の上層部に必ず共通する“汚点”、他人を侮辱するという人間として“最悪の欠陥”なのだよ。希にその汚点が変な方向に働いて、自分が上か下かは問わず“他人と自分は違う”と自身を特別視する場合もある。ぼくは嫌いじゃないけど。子供の内に神格化され、女ながら武神と呼ばれ、年老いて尚無敵と扱われ、まともに生きていけという方が無理なのかもしれないけどさ」

 

 

「随分とまあ批判をするもんだ」

 

 

「アイロニックな言い方をしているのに大した意味はないよ。批判や揶揄するように聞こえてしまうのは仕方のないことなのさ。ぼくは今、小学生男子が好きな女子に接する際の態度でいるからね。初々しい感情を露にしているのさ。天地開闢から今に至るまで生きて続けてきたぼくも、多少は若作りというか、幼くいたいのだ。ぼくは人間が大好きだ。等しく均しく卑しく賤しく愛しいキミたち、ぼくが愛情を注いで見守ってきた存在に、ぼくが(いたずら)に悪戯をしてしまうのは必然なのさ。嗚呼、なんて可愛らしいんだろうね、人間というのは」

 

 

「…………で? 何で俺たちを呼んだんだ? というか、どうして俺たちなんだ?」

「どう見ても共通点が男、以外ありませんね」

「年齢層も違う、職業も戦闘力も知力も違う。こりゃ酷いもんだ」

 

 

「いい質問だね。この話の流れから言えば、壁を越えた者としての接点がある聡明な君たち、と言いたいのだけれど、三人の内一人だけ全く違う意図で呼び出しているよ」

 

 

「まあ、オジサンのことだろうな」

「なんでまた」

「オジサン、この二人に勝てる自信ないからさ。特に将棋とか」

「今度一局指しましょうか?」

 

 

「違うよ、キミは教職員として川神鉄心やルー・イーと少なからず縁があるだろう? 恐らく、いや間違いなく、キミはもう少しで壁を越えられただろう。あの日、キミがあの仕事に嫌気が差さなかったらキミは喧嘩屋という立場のまま強者揃いのステージへ登り詰めていたことだろう」

 

 

「買い被りすぎだっての。オジサンそこまで強くねぇし」

 

 

「ぼくはね、川神学園の中ではキミをかなり気に入っているのさ。その飄々として強さを隠し、やるからにはえげつないことも躊躇わない。その精神にぼくは酷く感激したんだ。謙虚とは違う、その態度は素晴らしい」

 

 

「高評価ですな」

「だから過大評価し過ぎだっての」

 

 

「そういう訳で、ぼくが壁を越えた者とは関係なしに呼び寄せたのは……キミだよ。直江大和くん」

 

 

「ほう」

「え、俺……? 何で……?」

 

 

「キミはね。ぼくが用意した“五人”と、そしてこの世界の純粋な壁を越えた者とも接点がある。キミや風間ファミリーの面々は顔が広いし縁を広げることに手慣れている。その中でキミを選んだ理由は、キミがあの九人の中で最も賢いことが一つ。加えて、ぼくの計画の一端を担うに相応しいと判断した。もう一つの理由は、キミは約束を守ることに関して信用できるからさ」

 

 

「クリスやまゆっちも約束はしっかり守ると思うけどな」

 

 

「“義”の独逸人に“礼”の神童だね。確かに彼女たちはそう言った決まりごとには誰よりも厳格な姿勢を見せるだろう。だけどね、彼女らは度が過ぎているんだよ。義理の(しがらみ)、と言ってね、そういったことに義理堅く拘りすぎれば自由が失われるということだ。彼女はまだまだ伸びる。異人にして日本を厚く尊ぶ彼女はポテンシャルの塊だ。何かしらのきっかけで彼女は化ける。それと北陸の女剣士、彼女も似たり寄ったりだ。礼も過ぎれば無礼となる、聞いたことはあるんじゃないかな? 確かに彼女は最近落ち着いてきてはいるけれど、まだまだ抜けきっていないよ、下手に出るという哀れな行為がさ。この子もまだ成長する。剣技の鬼となるに違いない。なればこそ、ぼくの無駄な注文で無駄に気を揉んで欲しくない」

 

 

「それで俺」

 

 

「そういうことさ。キミにはあとでちょっと苦しい注文を聞いてもらうから、今からのお話は残り二名。クラウディオ・ネエロくん、宇佐美巨人くん。キミたちへのお願いだ」

 

 

「自分の十分の一くらいの年齢に見える少年に“くん”付けされるのは、やはり慣れませんね」

「なーんで、こんな厄介な奴に目をつけられちゃったかな」

 

 

「諦めが肝心なのさ、壁を前にした者たちよ。それでお願いだけど、まだ物語に組み込まれていない二人を、キミらに一人ずつ監視してもらいたいんだ」

 

 

「私は構いませんよ。元より旧知の仲ですし」

「オジサンも、普通に話すし」

 

 

「頼んだよ、ぼくの玩具たち。嗚呼、ぼくの本願成就まで、あと僅かだ――――イレギュラーがなければいいのだけど、ね」

 

 





 人間が他の動物と異なる点は、人間は最も模倣的な動物であって、 人間の最初の知識は模倣を通じてなされるという所にある。

 アリストテレス

 ◆◆◆◆◆◆

 竜兵懐柔と朧暗躍の回でしたが、竜兵のトリミングされ具合が異常に見られるかもしれませんが、竜兵は未だに渕を標的とみなしているのでご安心? ください。
 朧、大和、巨人、クラウの四人の密会。不穏で不安な会話ですが、朧は人間を愛しているので悪い方向へ行かないはずです。それこそ、イレギュラーがない限りは。

 今回はナイススタイルコンテストの一部紹介。
 評価基準は、対象の身長からはじき出された理想のスリーサイズと実際のスリーサイズの誤差、バストとウェスト、ヒップとウェストのバランス。計五つの項目で審査しております。
 まずはダントツの成績で究極とも言えるスタイルを保持している、椎名京。ゴールデンカノンに基づく理想のスリーサイズと、全て誤差一センチ以内に収めるどころか、唯一バストをオーバーした化物っぷり。ウェストとヒップの差が少し開いたためか、ヒップとウェストのバランスのみA評価。その他S評価のため、文句なしのSランク獲得であります。

 続いて、リクエストにありました我がオリキャラ、南浦梓。
 身長は母性を出したいため百代より大きくしたいなと思っていたのですが、流石に辰子、弁慶、百代と一七〇センチの長身たちに囲まれている大和たちが不憫に思えたので身長を抑え、一六八センチとしました。
 その結果、上から88・59・89とし、理想のそれらとの誤差により、S・B・Sの評価。ウェストが細すぎたためか、バランス評価は伸びませんでしたが、総評はSBSBCのA評価でした。A評価少なかったのでちょうど良かったかなと自己満足です。

 予告。次回は羽黒のコンテスト結果。

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