真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜 作:霜焼雪
蝉丸
一人の少女の話をしよう。
少女は極普通の一般家庭に生まれた。父親は某企業の営業課課長、母親は専業主婦。年収は五百万前後という、実に平均的なもの。
その誕生日は昭和の日といった国民の祝日や、クリスマスやバレンタインデーといった特別な日とは全く無縁の六月二日。極めて平均的な胎児で、平均的な体重で生まれ平均的な成長を遂げてきた。
学力は平均的。よく本を読むこともあり国語や社会の評価は高かったが、その分理科や数学は若干苦手である、典型的かつ平均的な文系少女としての判断を下されている。
体力も平均的にある。強いて言えば走るのがそこそこ速いが、持久力はないため評価は平均的なものである。球技全般をそつなくこなすように見えるが、かと言って特筆して素晴らしい動きを見せることは決してなかった。
身長も体重も座高も視力も聴力もスリーサイズも平均的。
少女はまるで全国の日本人女子を足して人口で割ったような、ある種異常なまでに平均的な育ち方で小学生まで進学した。
しかし、努力という努力は怠らなかった。平均では満足できなかった彼女は自身の改造を行うことにした。
改造と言っても、右腕を全て機械仕掛けにするとか、右の眼球をカメラに取り替えるとかそういった機械的な改造ではなく、自分に磨きをかけるという実に女子らしいものである。いや、磨きをかけたいというのは女の子限定ではないので、人間らしい行為だと言い換えておこう。
まずは顔を必死に整えた。勿論整形などという、人工的に知っちゃかめっちゃかメスやシリコンを入れるものではなく。手入れを常人の何倍も気にした。化粧水をただ使うだけでなく、使用するコットンから吟味し、化粧水をつける際にも顔を掬いあげるように、エステティシャン顔負けの知識で改造した。それが実ったのか、今では同級生の中でも化粧なしで可愛いと言われるまで鍛え上げた。
次に彼女は走り込んで身体を引き締めた。無論これは過度のものではなく、健康面でも気を使った適度なものであった。ランニングとウォーキングを効率的に行い、その際の呼吸法にも着眼した。それが実ったのか、今では持久力もそこそこついた上に、プロポーションも胸以外では理想と言ってもいい綺麗なものを手にいれた。
実はそれほど酷い顔ではなく平均的であったため、磨けば光ったのだから努力の賜物であるのだ。というか、努力をすれば大抵の人間は個人差はあれど輝けるのだが、彼女ほど努力をしないものがいなかったために、彼女は同年代でも上位の魅力を手に入れたのだ。
ここで、彼女の身体が以外と恵まれていたことが発覚する。そしてここで疑問が浮上する。
これほどまでに平均的に生き育ってきた人間が、ここにきて恵まれているなどという平均を逸脱するようなことが起きようか?
そう、彼女はしっかりと平均を維持していたのだ。
身体が強い分、精神が弱かったのだ。
その弱いというのは頭が残念だということではないのは、先に学力が平均だといったことで除かれるだろう。その平均的と言われてきた学力も努力により底上げされている。
それでは性格なのか? それも違う。彼女は分け隔てなく人当たりもよく、クラスメイトで彼女のことを羨んだ者はいても、憎んだり嫌ったりする者は誰もいなかった。それこそ、彼女は努力の塊であるから。むしろ希望を与えることに一役買っているのだ。
それでは、弱い精神とは?
ショックに弱く、トラウマを作りやすいことにあった。
少女は車に轢かれてしまった猫の死体を見ただけで、数日間猫を見るだけで嘔吐感に襲われ、その死体があった道路へ近寄れなかった程だ。
つまり、血や傷といったバイオレンスかつショッキングなものに耐性が全くないのだ。
では、そんな少女が、目の前で血塗れになり、骨が折れ肉から突き出し、口から大量に吐血している倒れているクラスメイトに囲まれたらどうだろうか。
精神に傷を負うのはまず間違いない。問題なのはその程度、傷の深さだ。
さらにその状況に加え、自分の親友がその光景を産み出したという事実があればどうなるか。
少女は一年間、声を失った。
その少女の親友は退学、少女は親友に傷つけられたということで一年間の学園生活を失った。
少女はかつては武神の同級生、今はその舎弟の同級生として過ごしている。
この事件の真の姿を知る者は少ない。そう、少女さえもこの事件の真相を知らない――――
◆◆◆◆◆◆
「華月さん。ここの問題を教えて欲しいんだけど……。これ明らかに二年の範囲じゃないですよね?」
「む、隣接三項間の漸化式。二年の内はまだできなくてもいいと思う。それでも、できることに越したことはないかな。これは、この“n”、“n+1”、“n+2”をそれぞれ置き換えて――――」
ある日の放課後。川神学園二年F組、このクラスの参謀とも言える男子生徒が、黒く短い髪の毛を月の形をした髪止めを使って纏めている糸目の女子に、少々難解な数学の問題の解法を尋ねていた。
前回の授業の中、数学の教師が解けるようなら解いてみろと遊び心で出した問題なのだが、少年はそれが解けなくてどうにも頭に靄が掛かっていたようで、最後の手段として少女に尋ねたのだ。
「最後に、こっちの数列を二つに分けて、互いに解いて出た解を照らし合わせれば終わり」
「なるほど……。あそこで特性方程式を二次式にするのか……」
「初見でこれに気付くのは難しい。次出たときに解ければいいと思う」
「ありがとう華月さん」
「やまちゃん、クラスメイトにさん付けはいらないよ?」
「もう慣れちゃって」
少年、直江大和は笑っていたが、少女、
華月と大和はもう何年もの付き合いになる。それは恋人といったものではなく、あくまでも知人としての関係である。
大和の姉貴分である川神百代と華月は古くからの付き合いであり、百代の仲間たちとも顔見知りであった。
「歳上は歳上らしく、ドンと構えていてくださいよ」
「一年留年した時点でもう歳上なんて関係ないんだけど。やまちゃん、タメみたいに話してよ」
「同級生でも俺らの憧れには変わりないんで」
揶揄するような言葉を笑顔で放つ大和を見て、華月は不機嫌そうに膨れっ面になった。
「俺“ら”って、君たちにはももちゃんがいるじゃない」
「姉さんは尊敬の対象とはちょっと違うような――――」
「ほう? 舎弟の癖にいい度胸じゃないか、んん?」
いつの間にか大和の背後に少女が立っていた。彼女は大和の首を絞めるように両腕をまわし、大和の耳元で「捕まえた」と囁いた。
大和はその端から見れば最高に至福の光景の当事者になりながら、肌は全力で総立ちし、汗腺という汗腺から汗が滲み出してきていた。
筋肉はついていても均整のとれたハリのある美しい彼女の腕を、大和は死神の持つ処刑鎌のように感じ取っていた。
「あ、ももちゃん」
「会いに来たぞ華月、結婚しよう」
「わたしかももちゃんが男だったら即断なんだけどな」
「うぬぬ、揺るがない同性愛否定……。寂しいよな弟ぉ?」
「し、絞まって、る……決まってるぅ……! や、やば、おぉ…………ぐ、ギブ、ギブゥッ!!」
大和は百代の腕を何度も叩いてギブアップを宣言するも、大和の首に回された百代の両腕は一向にほどけようとはしなかった。
「それで? わたしに会いに来ただけじゃないよね? 何か用事があったんじゃないの?」
「ん? ああそうだった。ちょっと屋上に――――は無理か。じゃあ中庭にでも」
百代は一度屋上を提案しようとしてそれを自分で却下したが、その提案を華月は肯定的に受け取っていた。それだけではなく、華月は百代に対して僅かに苛立っているようだった。
「気を使い過ぎ。屋上にしよう」
「いや、でもな……」
「わたしのことは気にしなくていいって。それじゃあ行くよ」
少しだけ怒っているような雰囲気で教室を出ていった華月を、百代は大和を放り捨てて慌てて追い掛けていった。
そして、教室にはあと一歩のところで絞め落とされそうだった大和が残された。大和は酸素が足りないのか呼吸を荒くして空気を取り入れていた。
そんな大和に近付く人影が幾つかあった。
「大和大丈夫? 人工呼吸いる? 私のベーゼはいつでも準備オーケーだよ」
「……接吻じゃあ、息が止まるだろうが」
大和の唇をロックオンしていた少女、椎名京は軽く舌打ちをして大和から若干離れた。
椎名京、彼女はとある事情により大和を溺愛している。その文字通り、彼に溺れているのだ。自分を助けてくれた人物はよく美化されるというが、京のその美化は他人のそれを遥かに上回っている。運命の人と決めつけてしまう程だ。
そんな彼女からのお誘いを大和は幾度となく拒んでいる、と言うか、回避している。大和は京のことを大切に思っている。それ故に、簡単には返事をしたくないのだ。彼女の人生に関わることであるが故に、大和は慎重になって京と友人として付き合っているのだ。
「京ってば本当に攻めるなぁ」
「なっさけねぇな大和。あれぐらいで酸欠になるなんてよ」
「モロ、ガクト、見てたんなら助けろ……!」
続いて大和に声をかけたのは細く華奢な身体の少年、師岡卓也と、それに対比したかのように筋肉質で大きな身体の少年、島津岳人だった。
彼らは古い付き合いであり、凸凹コンビとしては知られた方である。その知名度は仲が良いというだけではなく、少し変わった嗜好の持ち主が腐った目で見た場合にいい組み合わせだという。勿論本人たちは否定している。ただし、卓也が女装をした時に限って岳人の目付きはおかしくなるが、それには深く触れないでおこう。
「華月さんとイチャイチャしようとした天罰だ!」
「ガクトってば見境ないよね……。この間も華月さんにアタックしてたし」
「ガクト、お前はもう少し欲望を押さえ付けられんのか?」
「無理だな。女を求めて何が悪い! モモ先輩のせいであまりアタックできなかったが、今年からは同じクラスなんだぜ? ちょっと言い方悪ぃけどよ、俺様は華月さんが同じクラスになってくれて嬉しいもんだ」
岳人は華月が留年したことを残念に思っていても、欲望的には嬉しいようだ。
「バカ、そんなこと思っても言うんじゃねぇよ」
岳人の言葉に若干不愉快になった大和は苦言を呈した。岳人も多少何かを言われることは覚悟していたようで、何も言い返さずにそれを噛み締めていた。
華月の留年、その理由である入院、その原因である二年前の事件。その事件の終息時にその場にいた百代を通じて、百代の最も親しい仲間たちのチーム、風間ファミリーのメンバーである大和たちは、その事件の内容を他の部外者よりも知っていた。何度も華月のお見舞いに行った風間ファミリーたちは、華月の心の傷の深さを僅かながらも垣間見ている。それを知ったことで、華月の不安定さを理解することができたため、大和は不愉快になったのだ。
ただ、大和だけは風間ファミリーの他のメンバーとは違う感情を抱いている。
大和を除く他のメンバーはその事件の犯人を知らない。しかし、大和はそれを知っている。それも、犯人とされている本人からそれを聞かされたのだ。それを聞いたことで、百代のような怒りとも違う感情が芽生えていた。
『大和くん。君には真実を知っておいて欲しい。それを信じるかどうかは別として、この話を記憶に残しておいて欲しい――――助けてほしいんだ』
大和はその人と対峙した時の状況を思い出す。
髪は黒く、長さは肩を若干越す程度。目を真っ赤に泣き腫らして、少しだけ頬が痩けようとしていた。それでも、大和はその人の美しさというものを感じ取っていた。
「大和?」
暫く無言で顔を伏せて考えごとをしていた大和の顔を、京は下から覗き込んで唇を近づけてきた。
大和は素早く自分の手で京の顎を掴み接近を阻止した。全力で押し返された京は服装の乱れを叩いて直す。
「気持ちが、先走りすぎてないか?」
「今のうちにアピールしておかないとね。西方十勇士の大友もなんか怪しいし、クローンの弁慶だって油断できない」
京の表情は真剣そのものだった。彼女がここ最近最も危惧していること、それは彼女が心酔している大和に彼女ができてしまうことだろう。
大和の顔は広い。人脈を広げることを趣味のように行ってきた彼だ、どこかの誰かに迫られる可能性は否定できない。さらには、ここ最近大和の周りに女子としてはレベルの高い人物が現れるようになった。先に京が挙げた西方十勇士の大友焔も然り、武士道プランにおいて生まれた武蔵坊弁慶も然り、転入してきた松永燕という先輩も然りだ。
大和の伴侶となってしまう女が現れるのではないかと、京は気が気でないのだ。
大和にとって京の行き過ぎた愛情は、嬉しくもあり困るところでもある。
自分に好意を寄せてくれる異性がいるということは幸せなことだ。大和もそれを理解している。それと同時に、自分の軽い言動一つで目の前の大事な少女の人生が狂ってしまうことも心得ている。
大和は真剣に京のことを考えながら、自分の恋人はどんな人になるのかと模索中であった。
その答えは、意外な人物であることに、大和はまだ気づいていない――――
◆◆◆◆◆◆
華月と百代は屋上へやって来た。華月の足取りは普段と変わりがなかったが、百代の足取りは重く、空気は非常に気まずく重苦しいものであった。
屋上にはパンダなどの動物を模した機械仕掛けの遊具が立ち並んでいたり、数種類の草木や花が屋上を彩っていたりと、デパートの屋上を思い起こさせるような空間であった。学校の屋上という固定概念を粉砕する光景が二人の目の前に広がっていたが、入学当初から変わらないため違和感は全くなくなっていた。
そこに立っているのは二人だが、ベンチに寝ている学生が他に一人いた。その熟睡具合を見るに、数時間前から居座っているであろう先客だった。
「おいキャップ、起きろ」
「ん、ふあ……れ? モモ先輩じゃん。どしたの?」
午前中の授業と昼休みを使って日光浴を兼ねた昼寝に精を出していたのは、風間ファミリーの創始者、キャップこと風間翔一だった。バンダナの結び目が地面と接しないように、仰向けではなく横向けで爆睡していた。
傍から見れば昼寝を通り越した睡眠のように見えたが、百代の呼び掛けにも意外に素早く反応した。眠りが浅かったのか、起こされてから数分としないうちに翔一の意識は完全にクリアになっていた。
「おはよう、しょうちゃん」
「うん? 華月さんも一緒なのか。何か大事な話?」
「ああ。悪いが外してくれないか?」
「解ったよ。華月さんに言われちゃ断れないもんな」
「あはは……わたしじゃないんだけどね」
「お前も舎弟ももう少し上級生に対する扱いって奴を学ばせないといかんらしい」
華月にしか敬意を払っていない翔一に対し、百代は怒りを込めて指をバキバキと鳴らして威嚇し出した。その光景は日常茶飯事とは言え、やはり痛みには恐怖というものが刷り込まれるため、翔一の肩がビクッと大きく跳ねた。
「うわっと! 退散するに限るなこりゃ……。じゃあなお二人さん! 梓がよろしくだってよ!」
「え……?」
「ああ、解ったよ」
翔一は頼まれていた伝言を伝えると即座に屋上から退場した。その退場の方法もまた自由なもので、扉を使わず屋上から飛び降りるように木に飛び移って消えていった。よほどそこから早く退散したかったのだろう。
その伝言を受け取った二人の反応は違った。華月は久し振りに聞いた名前に驚き、思わず何も言えないまま呆然としてしまった。一方百代は、その伝言があることを知っていたのか、はたまたその本人とそこまで久し振りでないのか、どちらにせよあまり驚いてはいなかった。
「も、ももちゃん? あずちゃんのこと、知ってたの?」
その百代が嫌に落ち着いていたことに華月は疑問を持った。
梓はバイト三昧の日々を送っていたために、如何にクラスメイトと言えど、梓に気楽に会えるような状況ではなかったのだ。連絡も気軽にとれないということもまた然り。それ故に華月は、梓が退学してから今に至るまで一度も再会をしていなかった。
「ああ、ちょっと前に会った。バイトの配達先に私がいたもんだからな」
そんな華月とは違い、百代は梓とここ最近再会を果たしていた。それは全くの偶然で、百代も梓も予想だにしていなかった出来事であった。もっとも、それを予想できていた存在がいない訳ではないのだが。
「……ずるい。私もあずちゃんに会いたかった」
「悪いな。こればっかりは成り行きだったから。梓のおっぱいは気持ちよかったぞ?」
「あ! おっぱいに顔を埋めたんだ! ずるい!」
女子同士の会話とは思えないであろうが、これは百代の代で梓と同級生だった女子ならば誰もが頷いてしまう話なのだ。
詳しくは語らないが、梓は母性の塊を用いてクラスの人気者になっていたことを記しておく。
そんな人気者の豊満な女子の胸を独り占めした百代が羨ましかったのか、華月は頬を解りやすく膨らませて百代をじっと見つめていた。その下から覗き込んでくる瞑らな瞳に、百代は不意打ちとは言え膝を折りそうだった。守ってやりたくなるような雰囲気を自然に作り上げる努力系少女、それが日野宮華月なのだ。
「ま、まあ、またそのバイトの配達先に案内するから、な? そんなに不機嫌になるな」
「……約束だよ?」
百代は華月の頭を撫でながら華月と約束を交わした。
この時、百代は華月のあまりの可愛さに抱き締めたいと体が疼いていたが、一度欲望に任せて華月を抱き締めた時に酷く冷たい態度を取られたことがあるために、百代は欲望を打ち払って頭を撫でるだけに押し止めた。
「ところで、本当は何の用だったの?」
華月の表情が真剣なものになった。この屋上、華月にとってはあまり近寄りたくない場所にまで来ての話、華月はそれを聞きに来たことを思い出したのだ。
「あー、そうだったな。話をしに来たんだった…………。できればこのまま、他愛もない会話で終わればいいんだけどな」
「それはダメ、わたしがここに来た意味がなくなる」
華月の意志は固かった。百代が話をしてくれるまでここを動かないと、どう動かそうとしても動かしようのないような雰囲気だった。物理的に動かすことは容易いだろう。華月は武力に関しては百代には絶対に敵わない。護身術程度の合気が使える程度で、自分から攻撃することを知らない少女だ。百代が片手で首根っこを掴めば簡単に持ち上がってしまうし、少し足を払えば容易に転ばせることができる。
それでも華月は動かない。物質的問題ではないのだ。その確固たる決意と覚悟は揺るがないという、愚直で強固な意志だった。
「……だよな。それじゃあお前の勇気がなかったことになっちゃうもんな」
華月が頑固なのは今に始まったことではなく、百代はそれをよく知っている。百代は観念したように一度大きく深呼吸をしてから、華月と真剣に話そうと、自分の頬を二回叩き気を引き絞めた。
華月の精神面が弱いことを知っていて尚、忘れたい過去を掘り起こすことに百代は抵抗があったのだが、言い出してしまったのは百代自身だ。覚悟を決めねばならないのは、双方同じ。
「………………慶が、川神に帰ってきた」
百代の声は震えていた。木々が風に靡いて葉を鳴らしていたために解りにくかったが、確かに百代の声は喉を不規則に揺らし震わせていた。
「――――うん。知ってる」
華月はハッキリと答えた。百代が最も戸惑うであろう答えを述べた。
「な――――に?」
「けいちゃんでしょ、うん。知ってるよ」
「ど、どうして!?」
「どうもこうもないよ。会ったんだもん」
一瞬、百代の頭が真っ白になった。
今、華月が何を言っているのかが解らなくなってしまったのだ。百代は思考回路を修復し、意識を再び掴みとり、華月に詰め寄る。
「アイツは、何をしに、来たんだ……! 教えろ華月!!」
「……それは、言えない。いや、言いたくても、言えない」
「“また”何かされたのか!?」
「違う。後遺症、まだ、“あの時”のことは、声、に、出っ…………な…………っ……!」
すると突然、華月は喉を押さえて膝をつき蹲り、必死に声を出そうと口を動かすが、その喉から発せられるのは呻き声に近いかすれた声だった。
「華月!!」
「――――――――」
結局、華月の声が出なくなってしまったせいで話は中断されてしまった。
華月を家まで送り届けた百代は学園から出てぶらぶらと学園の外を回り気を落ちつけた後、再び学園の屋上に戻ってきていた。
百代は目を閉じて、“あの日”のことを思い出す。華月が声を失うこととなった、あの事件のことを追想する。
『ち、違う! 私じゃあない! 信じてくれ!!』
『ふざけんなよ手前!! この傷を負わせられる奴が他にいるってのかよ!?』
『い、いてぇ…………ううっ、いてぇよぉ……死んじまうよぉ……!!』
『あ、あう、ああ――――』
『華月――――』
『――――けい、け、い……お前ぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!』
百代は拳を強く握りしめた。それはあの日、二年前、華月や同級生を救えなかった自分に苛立ちを見せていることの現れだった。
今度こそ、守り抜く。百代の決意は固い――――
私は勘違いしていたようだ。
真の強さとは恐怖や苦しみに抗う心を言うのではなく、闇すらも包み込み、打ち消す安らかな心を言うのだな。
ゲーテ
◆◆◆◆◆◆
四話と十一話に名前だけ出ていました華月、ようやく登場です。十話も待たせて何やってんだとお叱りを受けました。取り敢えず出せて一安心ですが、まだ書きたいところまで書けていないので、執筆しながらフラストレーションが溜まりに溜まっておりまして、「早く慶と百代出逢っちまえよ」と自分自身の進行具合に苛立ちを覚えております。
お待たせ? いたしました。エントリーナンバー24、羽黒のスタイルコンテストのお時間です。彼女のスリーサイズは82・63・83。ただ唯一、まじこいキャラの中で理想のウェストから3センチオーバーの肉付きの良さが目に付きました。因みに次点は小笠原千花ちゃんのコンマ3センチオーバーです。羽黒ェ……、という状態でありました。
そして驚きなのが、バストとヒップの評価がSという、百代よりも理想的であるという事実でした。ウェストがオーバーのため評価は下がりますが、S・A・S・C・Bの総評A。百代はBです。
羽黒「アタイってばマジセクシー!」ドヤァ
百代「」イラッ
という具合でしょうか。正直百代の敗因は細すぎるウェストとFカップという、私にとっては好物の一つなのですが。今回は辛酸を舐めていただきましょう。
予告。大和田伊予から考察するサブキャラの台頭。