真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜 作:霜焼雪
柿本人麻呂
野鳥や魚が興奮して暴れていた。鳥は遥か上空で編隊を組み、グルグルとその場を旋回しているが落ち着きがないように見られた。魚はある一定のラインを越えようとせず、本来川にしか生息しない魚が海に逃げようとするほど。
今の多馬川は、本能が行くことを拒絶するような危険区域になっていた。
「元気そうじゃないか。少し安心した。私が制裁する前に死にかけていては、やり甲斐もあったもんじゃあないだろう?」
「……久しぶりだね。この状況で私が活気に満ちて見えるようなら、一度眼科か精神科に行くことをお勧めしよう。私は膝をついているのだからね」
「私まで巻き添えか……。話に聞いていた通り、今のお前は見境がないようだな、百代」
ギシギシと、慶と天衣の体が軋んでいく。天から圧迫されるような、抵抗不能な気の圧力が猛威を振るっていた。慶も天衣も膝をつき、せめて倒れはしないようにと必死に堪えていた。
その強大無比な力を行使している化物の口元は笑っているように見えるが、その眼光は明らかな殺意を孕んだ冷たいもの。目の前で跪いている標的を人としてみていないような、家畜や畜生を遠目で眺めているような冷酷なもの。
「我慢してくださいね、橘さん。こいつをここに近寄らせないようにしたら、すぐに開放してあげますよ」
「…………具体的に、何をするつもりか言ってもらおうか」
百代のいつもとは違う表情に呼応するように、天衣の目つきが変わった。何かを決意したような、覚悟の炎を奥に宿した瞳へと変化した。
「簡単なことですよ。もうこの川神に入ろうとすると古傷が疼き出すような、生殺しみたいなことです」
「――――そうか、そうなんだな」
天衣は一度瞳を閉じて深呼吸し、現状を憂いだ。どうして傷つくべきでない人間たちが、互いに傷つけ傷つけられ、心の中で泣いて生きていかねばならないのかと、この運命を決めた神とやらに文句を言いたくなった。
天衣は閉じていた瞼を全力でこじ開け、奥歯同士を噛み砕かん程の力を込めて足腰に全力を注ぎ込む。百代の圧力を弾き飛ばすほどの爆発的な気を纏い、声にならないような声を上げて天衣は立ち上がり、百代の前に立ち塞がる。その後ろには、天衣の爆発力と行動に瞠目している慶がいた。
「怪力乱神とはっ……! よく言ったものだよ!」
「……何のつもりですか、橘さん」
「分からんか? 私が、こんな明らかな、勝ち目の薄い状況にっ、自ら身を投げた愚かさが?」
百代は実に怪訝そうな表情をしていた。天衣が一体何故、百代が憎んでいる対象を庇おうとしているのかが理解できなかった。天衣にこれ以上危害は加えないと明言しているのにも関わらず、天衣は百代に敵対するような立ち位置に移動した。
慶を守る城壁となり、百代の攻撃を止めようとしていた天衣は、百代が理解できないことに苦笑し、叫ぶ。
「友達を護る為に決まっているだろう!!」
「気でも狂れましたか、堕ちましたね。そんな悪鬼に手を貸すだなんて」
「悪鬼はどちらかな?
百代は天衣の安っぽい挑発に乗ろうとはしない。百代の標的はあくまで天野慶ただ一人だ。天衣を“障害にもなりえない敗残兵”としか見なしていない百代の精神は、人としての道徳も尊厳も何もかも意識していない、人ならざる狂戦士のもの。百代は慶を目の前にしたことで箍が外れてしまっている。
対する天衣は、百代が怒りや恨みといった負の感情のみで満たされた表情でいることを、嘲笑っていた。武神と呼ばれ、瞬間回復などという人外に近い技を使い、圧倒的戦闘力で畏敬の念を抱かれている百代を、天衣はちゃんとした人間だと思っていた。しかし、それは誤りであった。こんなに他人を見下すような精神が、人間のものであるはずがない。
“壁を越えた者”の醜さを、天衣は確りと理解した。それと同時に、自身が“壁を越えた者”としての醜さを保持していることにも気づいた。
――――私は、不幸を長所とした構ってちゃんか。
――――こんなに人を妬み羨み嫉むとは、我ながら醜悪なものだ。
百代の圧倒的な強さに憧れ、妬んだ自分を嘲笑する。橘天衣という人間は、“壁を越えた者”の中で一種の超越を果たす。朧の求めている“壁を越えた者”が、朧が手を下さずに完成した。
「私は、“ヒーロー”を名乗らせてもらおう。ちっぽけな価値観と小さい器の、出来損ないのヒーローを」
「……何を言っているんですか? 悪を救っていては正義の味方にはなれやしませんよ?」
「私より取るに足らない価値観と、狭量な心をお持ちのようだな、武神」
ピクリと、百代の眉が釣り上がる。天衣が余裕綽々と百代に持論を述べていることは百代にもとって苛立ちを覚えることではあるが、何より百代の怒りを支配しているのは、ヒーローを名乗る人物が、自分の敵を護っていることだった。
「絆されましたか。ダークヒーローの肩書きすら似合わない」
「そういうお前は駄々を捏ねる餓鬼でしかないぞ?」
天衣は挑発を休めることはない。それと並行して自身の武器である機械化された四肢の動作を確認する。
戦闘強化股肱。それは世界の九鬼が開発した戦闘用の義手であり兵器である。元々、戦争や災害で負傷した兵や国民の生活を助けるために開発されていたものであったが、その破壊力は九鬼家のお墨付きであるため、ただの補助具ではなく立派な武装兵器になってしまった。
かつて軍に所属していた橘天衣が、軍の実験用の素体として扱われた際に試用されたものであったが、その際の相性は群を抜いていた。その力を用いて脱走、その後反乱に失敗し九鬼の監視下に置かれるが、強化股肱はそのままに、上から人工皮膚を貼り付けただけで現在に至る。
現在の天衣は相棒とも呼べる女性のサポートがないため、以前よりも戦闘力は落ちていると判断できる。しかし、彼女も元四天王、スピードクイーンとしての実力は依然変わらない。天衣は百代にとって、明らかな難敵として位置していることは事実であった。
しかし、百代はそんな天衣を障害と見なしていない。視野が狭まっているのもあるが、天衣に止められるような本能なら、百代の理性は身体をとうの昔に拳をしまい帰宅させている。
「いいですよ。お望みならば先に潰してあげます」
「天衣、さん! 逃げてください! 私のことは捨て置いてくれていいですから!」
百代が拳を握り直したのを確認した慶は叫んだ。あの化物とぶつかってしまっては、無傷で済まないことは明確であった。天衣は恐らく、それを承知で慶のための囮になっている。自己犠牲のヒーローへとなりきっていた。
「ここで逃げたら、私はただの浮浪者だ。お前を、友を護れず、何がヒーローか」
しかし、天衣はそれに耳を貸さない。その忠告が示すことは天衣もしっかりと理解していた。下手をすれば、未だ生身である胴体部分に後遺症が残るような、一方的な殺戮になってしまう可能性も否めなかった。まともな戦闘など、天衣は初めから臨めるものと思っていなかった。
――――自分はただの生贄でいい。足掻くだけの木偶でいい。
天衣は覚悟を決めていた。不動の意志を宿していた。
「や、めてください……!」
「悪いな。決めたことなんだ」
「止めろ! 逃げてくれ! 天衣ぇ!!」
慶が吠えた。今まで丁寧な口調と敬語を滅多に崩さなかった慶が、年上である天衣を乱雑に呼び捨て、命令形で言い放った。それに天衣は目をキョトンとさせて、慶が立ち上がっているのを目にした。
「頼む……! 傷つくのは、私だけで十分だ!」
慶の瞳からは涙が溢れていた。それほどまでに必死の懇願だった。残っている絆が、これ以上血で染まることを避けたかったのだ。
しかし、その願いも届かず、天衣はただただ笑っていた。
「ようやく、呼び捨てで呼んでくれたな。お前とは対等だと言っていたのに、頑固だったお前は言う事を聞かなかった」
「……天衣?」
「これで、おあいこだ。対等だ。ようやくお前と胸を張って友人だと言えるようになった」
天衣の笑顔は最高のものだった。慶よりも付き合いの長い百代でさえも、その笑顔は今までに見たことのないほどに明るいものだった。慶が共に歩むことで改善した、不幸体質の少女の無垢な笑顔だった。
ここで百代は初めて慶と天衣の関係を考察する。あの負のオーラを漂わせてばかりいた橘天衣が、こうまで明るい向日葵のような笑みを浮かべるとは、何が原因なのか。やはりそれは、天衣が友人だと言い張る慶のおかげであろうか。
――――あの人でなしに、そんなことができるのか?
百代は僅かに混乱し、一瞬だけ平衡感覚を失ったように視界が歪んだ。
――――忘れるな。アイツのせいで華月が――――
「っ――――!」
百代は歯を食いしばり、今起きた歪みも何もかもなかったことのように振る舞い、慶と天衣をただの標的と再認識する。
「――――くだらない茶番は終わりですか?」
「っはは。耄碌したな百代。これを茶番だということはだな――――」
――――
「……なんです?」
「いや、これは自分で気づいて然るべき、か。叱るべきかもしれんが、今のお前の耳には届いても、心には届かないな。さあ慶、早く逃げろ。私の心配はいらん。その泣き腫らしそうな顔を整えて逃亡しろ」
「っ――――ご武運を、天衣!」
天衣の笑顔と友人宣言、それは頑固な慶を動かすのには十分な材料であった。慶は即座に振り返り脱兎の如く逃げ出した。
「逃がすかっ――――」
「行かせん!!」
百代が慶に向かって飛び出そうとした瞬間、百代の腹部に掌を押し当て、“今までとは違う呼吸”を表層に出現させた。
「
ズドン! と、百代の腹部を激しい衝撃が貫いた。その音に思わず慶は足を止めてしまい振り返った。そこには、百代を蹲らせていた天衣の腕の人工皮膚が捩れるように裂け、それに付随している回転エネルギーの残滓を確認できた。
「立ち止まるな。私に背中を任せてはくれないのか?」
天衣は振り返ることなく慶に言葉を投げかけた。慶は天衣のことを心配して立ち止まったのもあるが、天衣が足を止めたのは天衣の身が心配になったからではない。一番の理由は、現時点で一子にしか基礎を教えていない筈の技、“慧紋の十法”を天衣が行使したことだった。
――――なるほど、感覚の問題なのか……ふむ――――
慶は天衣が先程腕を回して回転エネルギーについて考察していたことを思い出した。あの時点で、天衣はまだ回転エネルギーの真髄に辿り着いていない筈だった。確かに、慶は自分の流派の技、“慧紋の十法”の一部を実演してみせた。
――――これが攻撃の初歩、慧紋の十法・
――――これが防御の正眼、慧紋の十法・
――――これが反撃の動作、慧紋の十法・
――――これが回避の身構、慧紋の十法・
それは一子に対する実演であって、天衣に対するものではなかった。
しかし、天衣はそれをやってみせた。慶が行使する回転エネルギーの攻撃技、初雪を完全にやってのけたのだ。
その技の号を叫んだ天衣の体には、確かに慶が習得した武術特有の気の流れが通っていた。それは一朝一夕で把握し行使できるものではない。つまり、天衣は一子と共に密かに修行を続け、一子よりも先に回転エネルギーの応用に気づき、たった今次の境地へ歩を進めたのだ。
慶を支配する焦燥、驚愕、動揺。それを吹き飛ばしたのは、立ち上がった百代の殺気立った邪悪な形相だった。
「やってくれますね……。橘さん」
「行け! 二度と振り返るな!!」
慶が百代の全てを飲み込んでしまうようなドス黒い殺気に足がすくむ寸前、天衣は叫び声を上げて慶に喝を入れる。慶はその一瞬で意識をしっかりと握り締め、決して手放すことはないように大事に抱えて走り出した。その速度は常人よりは速いが、百代から見ればその他一般と大差はない。追いつくのに全力を出すまでもないほどだ。
しかし、百代は追いかけようとしない。ようやく障害として認識した橘天衣を排除することを優先と考え、スイッチをしっかりと入れ替えた。
「強化股肱の強さとは別、慶が得意としていた技の一つですね。あいつがそう簡単に教えるとは思いませんでしたが」
「見稽古だ。盗ませてもらったが、この技も強化股肱同様、私との相性はいいらしい」
百代の体に異変は見られなかった。一子を一撃でダウンさせたものと同系統の技でも、百代は瞬時に回復してしまう。まだ天衣の回転技法は未熟とは言え、それなりの威力と自信があったため、天衣は軽く舌打ちをする。そこで天衣は意識を次手に切り替える。
ガチャリと、天衣の左腕が変形した。何かを握り、何かを掴み、何かを
それと同時に、今まで人としての表面を作り上げていた人工皮膚が全て吹き飛び、機械仕掛けで冷たい鈍色の四肢が姿を現した。
「九鬼の技術は恐ろしいな。殆ど肉体と変わらない精密動作も可能な義手など、精製できるのはあの財閥だけだろう。水分が若干不足しているが、その靭やかさはほぼ再現できているのだからな」
ドンッ! と、天衣の足から爆発したような音とが聞こえたと思った瞬間、百代の懐に転移が潜り込んでいた。完全な
「実弾は取り上げられたが、模擬用の特殊な弾を用意してもらった。ちょっとハンマーで殴られたように痛いかもしれんが、喰らっておけ」
百代は即座に腕で天衣を弾き飛ばそうとするも時既に遅し。天衣の左腕に装備されているガトリング銃が火を噴いた。銃弾が発射されながら回転する銃身は、決して片手で扱えるような代物ではない。そこから分かるのは、九鬼印の兵器の圧倒的科学力と、天衣が如何にこの強化股肱を我がものにしているかだろう。
その毎秒数十発単位で発射される弾幕に、百代はなすすべもなく吹き飛ばされてしまう。それでも、以前百代が喰らった実弾とは違うため、百代は瞬間回復を使う前に天衣に突撃してくる。
それを天衣は躱そうとしない。それに対して迎撃しようともしない。天衣の足元に境界線があるかのように、天衣は門番のようにそこから動こうとはしない。自分を越えようとしているものだけを排除しようとする、百代に勝つための戦闘ではなく、守るための戦い方をしていた。
「私はお前を倒そうとは思わん。お前は私を越えねばならない。故の差だ」
百代の全てを打ち砕く正拳が天衣の腹部目掛けて放たれる。それを天衣は避けようとしない。
元より、百代に対する足止めという関門は、天衣にとっては“力不足”であった。
「足掻きはしよう。しかし、やはり虚勢を張っても、敵わないことには変わりがないな――――」
ドズッと、鈍い音が天衣の腹部から聞こえ、それに続いて骨が折れるような音が数回続き、天衣は口から濁った血を吐き出した。
天衣は膝を付くどころか、両手も地面につけることはできず、自らが吐き出した血でできた血溜りに体を沈めてしまった。その体勢のまま、天衣は二度三度と咳き込みながら吐血し続ける。
ただ、ここで天衣を倒したはずの百代にも異変が起きる。
「――――ちっ、腕が……!」
百代の腕が捩れるように折れていた。骨は外に突き出してはいないものの、明らかに捻れてしまった皮膚と肉が内出血を起こし、真っ赤に染まっている部分もあれば紫の痣になっている部位もあった。
天衣を見下ろす百代は、その痛々しい腕を抑えることなく、瞬間回復で治してしまう。それを見た天衣は、治されたという事実は関係ないのか、ダメージを与えたということに満足していた。危険な状態である天衣が浮かべている表情は喜びが多く、全快に戻った百代が浮かべている表情は勝者のものと言い難かった。
「ははっ……くはっ! はぁ……ぐふっ!」
「――――何をしたのかは聞きません。二年前、似た技を見たことがありますから。それより問題は……。“最初からそんな重傷”で。よく私に歯向いましたね」
「はぁっ…………いつ、気づい、た……?」
「初めの踏み込みの時です。あの距離なら、貴女は小細工なんか使わず私の懐に入ることぐらい出来た。確かに予測動作がないっていうのは驚異ですが、それでも普段の橘さんならそれをもっと有効に使えた筈です。補助技に頼らざるを得ないほど、体がボロボロだったんでしょう?」
それでも全力で殴りましたけど、百代はそう付け足して天衣の返答を待つ。決して天衣を介抱しようとはしない。正直、天衣の返答を待つだけでも時間が勿体無いのだ。しかし、百代の索敵範囲にはまだ慶の気配があった。まだ追いつけると判断して百代は天衣との会話を続けていた。
「………………お前、の……川神、バス、タ……。ひ、ヒュームとの……実戦……。七割も、回復、できる、わけが……!」
「ヒュームさんとやったんですか? それに私との傷が治っていないって、長すぎでしょう?」
「…………正確、には……“治せなかった”……。あの後、“あの男”に…………勝負を挑んだ、のは……間違い、だった……。嗚呼……やはり、私は……不幸だ――――」
自分の不幸さを嘆き、天衣は気を失った。その表情は、全てをやり遂げたように清々しい笑顔であった。
気絶しているだけと確認した百代は再び索敵を開始する。天衣が手負いであったのと同様に、慶も何かを抱えているのか、逃亡の速度は決して褒められたものではなかった。
まだ追いつける、そう確信した百代は全力で動くために体を軽く動かし、準備を整える。
百代の現在の精神は非常に荒んでおり、冷酷なものである。かつての仲間である天衣を血の海に放置し、自身の使命と思い込むことにしか意識を向けていない。
そんな百代であったからこそ、天衣を追い詰めた“あの男”の話に興味を示すこともなかったし、“上空から迫る二人の強者”に気づけなかったのだ。
「…………っ!?」
百代は咄嗟に上を見上げ、ここまで油断していた自分に苛立ちを覚えた。折角天衣を倒して発散された僅かなストレスも、自身の失態で無駄になってしまった。
百代の索敵によれば、その二人は驚異的な速度で垂直落下していた。その真下にいるのは、現在索敵中の百代本人。百代はその二人の襲撃から避けるために大きく後ろへ飛び後退した。
百代が元いた位置、現在の天衣と百代の間に、その二人は着弾した。
「悪いけど、行かせないよ。モモちゃん、少し落ち着きなよ」
「再会してまだ一週間と経ってなくて悪いんだけど、ゴメンネ」
その強者は二人共女性であった。
一人は制服姿の黒髪の女性。腰に巻きつけた複数のホルダーに目が行きがちだが、その相貌は実に可愛らしいものであった。川神学園の男子生徒のみならず、女子生徒も彼女のことを美人と認めるほど。しかし、今は目を細め笑顔を浮かべていないでいるために、可愛らしいというよりも先に少女の気迫を感じ取ることだろう。
一人はデニムホットパンツに白いTシャツというラフな格好をした赤髪の女性。身長は隣の少女より少し高いくらいだが、彼女から感じ取れる雰囲気は非常に大人びたもので、隣の少女とは幾つか年上にも感じられる。
その二人を視認した百代は、その正体に驚愕と
「そうか、そうか……。お前らも慶の味方か……。なあ、燕ぇ!! 梓ぁ!!」
百代の怒号が無意識に闘気を爆発させ、同時に球状の衝撃波が発生して二人に襲いかかった。
しかし、その衝撃波の対処に動いたのは一人だけだった。赤髪の少女、南浦梓は衝撃波に対して背を向け、衝撃波と接触する寸前に左足を軸として体を回転させ、高密度の気を纏った右足で衝撃波を“上方に打ち上げた”。
一方、衝撃波に対して退くように動いた黒髪の少女、松永燕は倒れている天衣の元に駆け寄っていた。天衣を抱え上げた燕は、万が一梓が失敗した時のことを考え、天衣を少し離れた木陰に移動させておいたのだ。ついでに止血を試みようとおもったが、目立った外傷はなく、天衣は体の内側に大きな損傷があるのだと燕は瞬時に判断した。燕は自身の気を送り込みながら身体のツボを刺激し、少しでも回復を早められるようにしてから梓の元へと戻った。
「忘れた? 私にそういう波動系の技は通じないよ!」
「む、無茶苦茶だね……。ああいう技は相殺がセオリーだと思っていたのに」
「お前らまで、私の敵になるのか」
百代の怒りは最高潮に達していた。その証拠に、制御できていない気が乱れ、百代を中心として小さな嵐を巻き起こし始めていた。百代の憤怒の問いに対し、燕と梓は首を横に振った。
「モモちゃんの敵じゃない。ソラの味方になったんだよ。この二つはイコールで結べない」
「ふざけるな……!」
「……ソラさんは、モモちゃんを友達だと思ってるよ、絶対に。あの人は誰よりも絆を大事にする人なんだ」
「黙れ……! 黙れ黙れぇ!!」
こいつらも私の敵になってしまった、百代の今の精神状態からはそうとしか判断できなかった。泰然自若など言っていられない。復讐の黒い炎に操られている百代に、二人の説得は届かない。
そんな百代を見て、二人は酷く心を痛めた。
「ごめんね燕ちゃん。初めての出会いがこんな……辛い仕事でさ」
「お仕事っていうのは、そういうものだよ。九鬼の依頼でもあり、友人の依頼でもあって…………可愛い後輩の頼みだから、私は心を鬼にするよ。梓ちゃん」
二人は今日が初対面だった。招集を受けたのもほんの数十分前。せいぜい知っていることは互いの名前と、ここに来ている理由だけ。知人とすら呼べない悲しい関係だった。
そんな二人の間を取り持つことも忘れ、ただ仕事を押し付けた少年も、今回の仕事を苦痛に思いながらこなしているのかと思うと、二人はさらに胸が締め付けられるような思いになった。
そこで、梓が辛気臭さを振り払おうと、一つの提案をする。
「ソラとモモちゃんが和解できたら、お疲れパーティーでも開こうか。美味しい料理が出てくる行きつけのお爺さんがいるんだ」
「お爺さんが行きつけって……。でも、それもいいね」
「川神水で乾杯してさ。みんなでわいわい騒ぐんだ。そこにソラもモモちゃんも、ヒコッチーもユーミンも、タイガーもカヅっちゃんもいるんだ。川神学園三年仲良し同窓会だ」
「新しく入った清楚ちゃんもお忘れなく、ね?」
二人はようやく笑いあった。作り上げた笑顔どうしではなく、心から笑いあった。
「それじゃあ、やろう――――“川神百代鎮圧作戦”」
「うん」
しかし、その笑顔も一瞬のこと。二人の表情から一切の戯れは消え、仕事を忠実に完遂させる感情の読み取れない機械のような表情を浮かべた。
その瞬間、百代は二人が臨戦態勢に突入したことを悟った。そして同時に、二人を友人として見ることをやめ、天衣同様障害と認識を改め、排除しようと拳を握り突撃した。
それに対応したのは燕だった。百代の拳をギリギリで回避しつつ、掴まれたり反撃されないような姑息な攻撃を繰り出す。避けきれないものは弾きいなし、百代の攻撃を最小限のダメージで受け流していく。怒りに支配されている百代の攻撃力は一撃で半分以上の体力を削り取るが、そのため大振りが多く予測はしやすかった。回避に専念さえすれば、燕でも時間稼ぎは出来た。
その時間稼ぎの間に、今回の作戦の要である梓のウォームアップが終わり、始動する。
梓は百代の背後に回り込んだ。目の前のことしか目に入っていない百代の背後に回り込むことは、武道を全く習っていない梓でも容易だった。
梓が素人であることは百代の記憶にもあった通りだった。つまり、百代にとって梓は“障害であるが容易に振り払えるもの”として、燕よりも弱いと侮られているために、背後に回り込まれても対処はされなかった。
その対応に、梓は言葉で反論する形から否定を開始する。
「私の武術の素人っぷりは覚えているんだね、モモちゃん。ここまで予測通り。でもね――――」
梓は体を全力で回転させ、百代の背中に左足を押し当て首根っこを引っ張り、同時に体を沈めて百代の体を浮かせる。
「っ!?」
「素人だからって舐めんじゃねーよ」
百代にとっては予想外の現象だった。その体を浮かされている感覚を表現するのであれば、水面に仰向けで浮いているような感覚。絶息状態にしなければ絶対に沈むことはできない、人間であれば逃れられないような事象を体験しているようだった。
その浮遊感を打ち払ったのは、またしても梓の脚であった。百代の背中を接地面として押し上げていた梓の左脚が伸びきった時、既に百代の脚は地から離れていた。梓はそれを確認し、百代の背中から脚を離し、瞬間的に体を屈めて体を逆さにした。体勢的には、ネックスプリングのようだが、その姿勢から行われる動作が違った。
梓は浮遊している百代の背中を、跳ね上がった反動と驚異的脚力を持つ脚で蹴り上げた。その威力は、百代の体を一瞬で数十メートル上空まで弾き飛ばすほど。
そして梓は百代の位置を確認すると、屈伸と伸脚を数回行い、ちょっと手の届かない高さにある本を取るかのような気楽さで垂直に跳んだ。その気楽さとは裏腹に、未だ重力に逆らい浮上している百代よりも高い位置まで飛び上がった。それこそ、百メートル以上の高さはあるビルの屋上に簡単に到達できる高さだった。都市部の摩天楼の高層建築物よりも高い位置で、百代と梓の目が合った。
「――――梓」
「ちょっと痛いよ。私の踵落としは――――」
踵落としの宣言、その筈なのに、梓の身体は百代に対して背を向けた。それに対し百代は反撃に出ようとするも、梓を捉えることができなかった。この足場のない空中で、梓はまるで歩いているかのように位置を調整していた。二年前の梓にはできなかった芸当だと、百代は驚きを隠せなかった。まるで梓だけに足場があるような、実に奇妙な光景だった。
そして、梓は空中で更に一度跳ねたように上昇し、空中で何度も後方に回転していく。その勢いは留まることを知らず、更には体を横にも捻るように回し始める。さながらそれは、体操技の最高難易度のリ・ジョンソンをさらに難化させた、足の伸びた超高速回転宙技。
「
最終的に、百代の腹部に遠心力が収束された超重量の蹴りが打ち込まれた。メキメキと音を立て、体の中の臓器と骨肉が引き裂かれ砕かれていくのを、百代は体感だけでなく聴覚や味覚といった五感全てで感じ取ってしまった。
百代と梓はそのままの勢い、まるで流星の如く落下速度で多馬川の河原に着弾してしまう。轟音と地鳴り、襲いかかる衝撃と土煙に、待機していた燕は目を閉じてしまうが、すぐに行動を開始する。
百代の瞬間回復が発動するその前に、動きを封じるために百代に接近する。
百代は今の衝撃でできたクレーターの中央に大の字で倒れていた。しかし、気を失ってはいない。意識があれば瞬間回復が発動してしまう。それを阻止するために、燕は百代の腕と首を取り、意識を奪うと同時に拘束しようと百代の体をうつ伏せにした。
「ぐっ……! この程度で……私が動けないとでも――――ぐあっ!?」
百代が背中に跨るように絞め技を続行していた燕を弾き飛ばそうとした瞬間、百代の背中が恐竜に踏まれたように地面に押さえつけられてしまう。百代がどう力を加えようと、百代の体が起き上がることはなかった。
百代が絞められながらも何とか首を曲げ目を移動させ、背中に襲い掛かっている圧力の正体を確かめようとした。
百代が目にしたのは、片足を腰に乗せているだけの梓だった。梓は百代が見ていることに気づきながらも、百代と目を合わせようとしない。罪悪感があるのか、梓の唇には噛んだ痕も見られた。
「動かさないよ。ソラが完全に気配を消せるまで」
「っ――――」
梓の言葉にハッとした百代は即座に索敵を開始した。その索敵によれば、慶の気配は非常に希薄なものとなっており、もう追いつくことはできないような距離であった。
それを確認した百代の頭の中で、ブチッと、何かが千切れる様な音がしたと思った途端、梓の足と燕の腕に衝撃が走った。
「いづっ!?」
「うわっ!?」
思わず拘束を緩めそうになってしまった燕と梓だったが、僅か一瞬のことだったのですぐに意識を戻した。しかし、その一瞬意識から百代の拘束が外れたその時、百代は全力で闘気を収束させる。
「川神流、人間爆弾!!」
眩い閃光が百代を包んだその瞬間、梓は足を離して回避しようとしたが、目の前にいる燕は自分よりも反応が遅かったことに気づいてしまった。燕が絞め技を解いて腕を離した瞬間、梓は咄嗟に燕を蹴り飛ばした。
「うっ!?」
燕は後方からの思わぬ衝撃に苦痛の表情を浮かべたが、その苦痛も激しい轟音と熱風に掻き消された。
「あ、梓ちゃん!?」
梓の一撃で燕はクレーターの外まで弾き飛ばされていたため、百代の必殺である自爆の被害は受けなかった。しかし、クレーターの中に残された梓の安否は土煙に阻まれて確認できなかった。
クレーターの端でしゃがみこみ、身を乗り出して状況を確認しようとした燕だったが、その視界が土煙から飛び出してきた何者かの攻撃により遮られる。そして同時に襲いかかるこめかみへの鋭い圧力。片手で頭を握られていると気づくのはそう難しいことではなかった。
「うああっ…………!?」
「梓は戦闘不能だ。次は、お前だな、燕ぇ……!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
片手で百代の手を握り潰そうとしても気で遮られ、反撃しようと脚で百代に蹴りを数発入れるも、それを意にも介さず百代は握力を強める。万力のような圧迫に、燕の両こめかみから血が流れる。
「お前らのせいだ、お前らのせいだ……っ!!」
「も、モ……ちゃんっ……!」
「お前らのせいでぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
百代の慟哭、嘆きの咆吼。燕は目の前にいる百代を、憐れまずにはいられなかった。
――――どうして、ソラさんを、信じてあげないの……?
燕は涙を流す。涙と頭部から流れる血液が混ざり合い、まるで血の涙を流しているように見えたが、心の中では確りと血涙を絞っている。
ああ、もう駄目だ、そう燕が感じて意識を手放そうとした瞬間、ドサッと、何かが落ちる音が聞こえた。
「何、してるの……? お姉様……」
真の美というものは、真の知恵と同じく、大変簡明で誰にも分かりやすいものだ。
ゴーリキー
◆◆◆◆◆◆
次話で終わると言っておきながら三話構成になってしまい申し訳ありません。つい筆が載ってしまい30000字になってしまいました……。
天衣、燕、梓を相手に優勢に立てるのは武神故ですが、メンタルまではどうでしょう、ということで今作ですが、作者が橘天衣支援の小説でもあります。今回血を吐いてやられてしまいましたが、朧曰く完成型に一番近いのは天衣さんです。
MNSコンテスト、今回はバスト評価について考察していきます。つまり、理想サイズとどれだけかけ離れているか、であります。今回の統計では理想よりオーバーしているのが京しかいなかったので、残りはもれなく理想より小さいのです。
それではワースト3、下から発表すると、一子、クリス、史進となります。
一子:胸が小さいから徒競走で負けだと言われる(公式ドラマCD)
クリス:小さい胸が悩みだとMs.キシドーを名乗り相談(公式ドラマCD)
史進:貧乳を気にしており、胸にパッドを入れている(公式設定より引用)
正直吹き出してしまいました。ここまで、ここまで的確だとは……。因みにワースト4は不死川心。貧乳キャラが連続しております。やはり理想とかけ離れているんだなと思いながらワースト5をチェック。
ワースト5:板垣辰子(バストは89、純粋なバストランキング2位タイ)
…………こ、これが、今回のMNSコンテストの醍醐味です(小声)。辰子は身長が高いことが裏目に出ました。身長が高ければ高いほど胸は大きくなければいけない、というのがゴールデンカノンの前提のようなものですから仕方ないですね。
因みにゴールデンカノンでは96が理想らしいです。確かに178センチもあるんですから、それくらいは求められてしまうのでしょうか……。いやはや、見ていて面白いものです。
辰子「総合評価Cだったよー」
一子、クリス、史進「「「総合評価Bなのに……」」」
予告、お尻キャラのお尻は大きいのか?