真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜 作:霜焼雪
西行
「むー……」
川神学園二年S組、真っ白で長い髪を整えることもせず、机に突っ伏して唸っている少女がいた。少女の浮き沈みが激しいのは周知の事実であったのだが、特に動くこともせず席についたまま、頭だけをぐらぐらと動かし悩んでいるのは、彼女をよく知る者たちでも何かあったのかと疑ってしまう。そんな周りの目を気にすることなく、少女はただただ唸り続けていた。
「トーマよ。ユキはどうしたのだ」
それを見るに見かねてか、学園内でも異様に目立つ金色のベストを身に纏った、額についたバツ印がトレードマークの少年が、トーマと呼ばれた色黒で眼鏡をかけた少年に問い掛けた。その問いに、色黒の少年は肩を竦め目を瞑った。欧米流と言われるジェスチャーだが、お手上げと言うニュアンスは十分に伝わる。
「私も聞いてみたんですけどね。どうにも答えてくれません」
「「もう少し待って」とは言われたから、話してくれるのを待つことにしてるんだが……気にするなというのも無理なものでな」
「ジュン」
心配性、気配りのできる男性の会話にまた一人少年が参入する。彼はスキンヘッドで手を縦にして体の前で構えていることが多く、初対面では仏門関係の家柄と思われがちだが、実際は色黒の少年同様、医者の息子である。
「昨日は何ともなかったと思ったんだけどな。今日ちょっと目を離したらこうなってた」
「てっきりお手洗いかと思ったんですが、何かあったようですね。英雄には何か心当たりありませんか?」
「我には何もないな。あずみ!」
「はい!」
額についたバツ印がトレードマークの少年、九鬼英雄が腕を組んだまま名を声にあげると、どこからともなく学園には似つかわしくないメイドが音もなく現れた。色黒の少年、葵冬馬や、スキンヘッドの少年、井上準が全く驚いていない辺り、この光景は日常茶飯事のようだ。
「あずみよ。何かユキのことについて知らないか?」
「申し訳ありません。つい先程まで例の連絡を取っておりまして」
「ああ、あのことか。あまりことを荒立てるなよ? ただの一般人かもしれん。もし本当に我を狙うようなら、酌量の余地はないがな!」
「何? お前狙われてんの? 暗殺?」
「あくまで可能性の話だ。危険人物のことなど大声で話すことではないのだがな!」
英雄が秘匿するべきだと宣言しておきながら、明らかに声高々と公言している姿を見て、冬馬はやれやれといった具合に苦笑し、準は大きく溜め息を吐いて呆れていた。
一方、英雄の側近であるメイド、忍足あずみは目を光らせ教室内を観察していた。英雄が公言していた危険人物を探していたのだ。姿が見えないため、まだ登校していないと考えるが、今回の案件は例外だった。ひょっとすると、教室にいるのに気配を完全に消しているのかもしれない、そう考えられるほど隠密性の高い学生なのだ。
しかし、どうやら本当にこの教室にはいないようで、あずみは胸を撫で下ろす。注意しない限りいつの間にか教室に居座っていたりするため、あずみは気が抜けないのだ。
あずみが最大限の警戒で教室を、従者部隊二桁台の上位数人が学園内を調査した結果、対象は未だ登校していないと分かったためか、あずみは僅かに気を緩ませて井上に近寄り耳打ちする。その際の言葉遣いは、英雄には決して見せようとしない彼女の本性が現れたものだった。
「……おいハゲ。本当にユキはどうしちまったんだ」
「それが本当にわからんのですよ。ほんの十分前まで元気にはしゃいでたってのに。一応ほかの連中にも聞いてみたんだが、自分のことばっかで知らぬ存ぜぬとさ」
「なるほど、このクラスの連中は大抵そうだもんな。まあ、お前らやお節介猟犬とかなら話は別だろうけどよ」
「誰がお節介ですって?」
あずみと準がひそひそと英雄に聞こえないように会話をしていると、音もなく背後から現れた眼帯の軍人があずみの肩を掴み、準の後頭部に自身の得物であるトンファーの先端をグリグリと押し付けていた。
「ちょっ、俺じゃないってマルギッテ! 尋問するみたいに押し付けるのヤメて!!」
「おう猟犬。丁度いいや。お前、ユキがどうしてああなってるか知らねぇか?」
「榊原小雪? ……ふむ、確かに活力がありませんね。普段は有り余っているというのに」
「んで、原因を色々聞きまわってんだと。何か知ってる事ねぇか?」
「残念ながら、つい先程までお嬢様にラブレターを渡そうとしていた身の程知らずの兎を狩ってきたばかりだ。本日榊原小雪に会ったのはたった今だと知りなさい」
「つまり、知らねぇってことだな」
軍人、マルギッテはその無配慮な一言に僅かに腹を立てたのか、突き立てていたトンファーを離し、何度も何度も準の頭に振り落としていた。
「痛っ、痛い! 俺木魚じゃねぇって! やめっ!」
「何やら愉快な光景だな。どうしたあずみ!」
「ロリコンが制裁されているだけでございます!」
「おいこら! どうして俺が老けた巨乳軍人と二×歳メイドに囲まれながらロリコンが理由で裁きを喰らわなきゃドゥエッ!?」
その一言はあずみの逆鱗に触れたのか、準は鳩尾にあずみの爪先を立てた鋭い蹴りを喰らい意識を奪われた。加えてマルギッテもトンファーを構え直して準の身体を嬲るように滅多打ちにしていく。
「フハハハハ! あずみはやんちゃだ!」
「あれをやんちゃで済ませるあたり、英雄は寛大ですね」
英雄が声高々に笑い、冬馬が傍観者の立ち位置で悦に浸っており、あずみとマルギッテが準へ制裁し、準は悲鳴を上げていた。
「…………」
そして、そんなコントのような日常に気づきもしなかったように、五人の話題の中心であった少女、榊原小雪は黙って席を立って教室から出て行ってしまった。
「「「「「………………」」」」」
その後に訪れた沈黙は、彼らの胸を強く締め付けた。
「いかんな。どうにも寂寥感を拭えん」
「いつもならここで明るい声が飛んでくるのですがね」
「確かに、少し物足りませんね」
「当たり前と思っていたものがなくなると、こうもポッカリと穴が現れるのか」
「ぐふっ……」
五人が虚しさに心を痛めて――約一名、同時に全身の打撲に悶えて――いると、小雪が出て行った扉がガラッと勢いよく開け放たれた。ひょっとして、元気のないのも小雪の演技だったのかと呆れた者もいれば、先程の元気のなさもよくある気まぐれだったのかと安堵した者もいた。
そして、扉を開けた人物は大きな声を上げる。
「にょっほっほっほ! やはり此方がいないと寂しいじゃろう!?」
「「「「「………………」」」」」
五人が待ち望んでいた光景とは何一つ噛み合っていない現状、それを生み出した着物姿の少女の登場に沈黙が生まれた。
「名家も落ちたものだ」
「ここまで空気が読めないとは、残念です」
「窓から突き落としましょうか☆」
「一度痛い目を見せたほうがいいようですね」
「ロリ特有の無邪気さだったら許せたが……」
「此方が何をしたと言うのじゃー!! 言いたい放題罵りおってぇ!!」
◆◆◆◆◆◆
「なるほど……。小雪の様子がのう……。すれ違ったときは無視されただけかと思うたが……」
「眼中になかったみたいですね☆」
五人から精神的に人を殺せるような冷酷な視線を一斉に浴び、尚且つ約数分に渡る罵詈雑言の数々に泣き出してしまった不着物姿の少女、不死川心。しかし、小雪の不安定さを聞き無視された理由を理解、加えて自身の多大な自尊心を用いて精神面を普段とほぼ変わらない状態まで持ち直した。まだ煉瓦を積んだだけで接着剤が機能していない精神状態なため、見せかけ虚勢の精神状態なのだが、組み立てただけでも評価に値する。
「不死川は……今来たばかりだから知らないよな」
「うむ。お前らの方が知っていることが多いじゃろうな」
「じゃあ不死川さんは用無しですね☆」
「仲間外れにするでないわー!!」
見せかけの煉瓦塀は一瞬で崩落した。
いつもならばここで小雪の慰めに思える追い打ちがくるのだが、今日に限ってはそれがなかった。それを実感した不死川はすぐに泣き止み、現状の気持ちの悪さを理解した。
「確かにこれは、何とも言えぬ……」
「あの無邪気さが、いつのまにか私たちの大事な一部になっていたのですね。編入して半年と経っていないのに、ここまで狂わされるとは……」
「しかし、我らよりも長く一緒にいるトーマや準はその比ではないだろう」
「ええ。もうおかしくなりそうです」
「経を唱えてても落ち着かねえし……ユキィ……」
「僧侶に見えるからその朗唱をやめんか!」
小雪一人の話題でSクラスの代表的存在とも言える生徒たちが持ちきりになっていた。それほど、小雪はSクラスのマスコット的存在であり、皆に愛されているのだ。
「さっきも聞かれたが、榊原がどうしたって? なんかアイツが暗いとこっちも沈んじゃうんだよ」
「任せようにも気になるわね。あの騒がしさ、嫌いじゃなかったのに」
すると、我関せずといった立場をとっていたSクラスのメンツが、普段からは想像もできないほど落ち込んだ小雪の様子訝しんでか、一人二人と徐々に口を開いていった。その心痛が伝播していったように、当初は片手で数えられる人数しか参加していなかった会話に、今やクラスの半数以上が参入している。
数人は自分のことしか見ておらず、普段通り会話などせず勉学に勤しんでいる。しかし、自己本位の体現とも言えるエリート集団の八割以上が、一人の少女の不安定さを、少なからず気がかりに思っている。彼女の保護者的立場についている冬馬や準もこれには驚きながらも、笑顔を浮かべて彼女の人に好かれる明るさを誇らしく思っていた。
あの時、彼女の心が見捨てられることなく救われたことに、彼らは救いの手を差し伸べた少年に一言では述べ切らない謝辞があった。
「みんなおはよう!」
そんなある種の喧騒の中、遅れて三人の生徒が入室した。
「んー? 珍しく集会なんか開いてるの?」
「…………暗殺者はいないようだな」
「クローン三人衆のお出ましか。しかし今登校じゃあ、天使と肉塊の境の上に立つ泣き虫少女同様、残念ながら役には立ちそうに……」
「ひぅっ!? み、妙な視線を向けながら気味の悪い形容をするでない!」
準の言葉に身を震わせている心は普段通りであったが、入室したばかりのクローン三人衆、源義経、武蔵坊弁慶、那須与一は騒がしさで満ち溢れているSクラスに違和感を覚えた。異常に騒ぎ立て、団結力の欠乏が特徴と言っても過言でないSクラスが一つの議題で協力し合っている。Sクラスの全てがそうではないが、五割参加でも驚き、八割参加で腰を抜かすほど驚愕する。そんな彼らの九割強が、たった一人の少女のために頭を働かせ情報を募り原因を探り、彼女を元気な姿に戻したいと願っているのだ。
それを見たクローン三人衆は三者三様の反応を見せる。義経は欣喜雀躍して喜び、弁慶はこの光景を川神水の肴とし、与一は呆れて笑いながら集団の会話をただ傍聴していた。表層の態度は違えど、Sクラスの協調性の表れを良しとしていた。
「井上、マシュマロじゃあダメだったのか?」
「ダメだったな。食べたがあのままだ」
「有効手が早速一つ消えたわね」
準の周りに集っている生徒たちは小雪の好物であるマシュマロから切り口を探していた。しかし、彼女の好物を持ってしても、あの沈んだ雰囲気を打ち払うことは叶わなかったと、準はその時のことを思い出して肩を落としていた。
そのすぐ横では、葵を中心として小雪の趣味から原因を探ろうとしていた。
「いつもの紙芝居も放置か?」
「ですね。私に預けたままで……ほら、これです」
「葵の手元か……。紙芝居スランプってのは考えられないのか?」
「それはありませんね。その「どじょう成れの果て」は昨日、英雄様に見せてきたばかりの新作ですから」
「うむ。中々に現代日本政治に対する風刺が効いていて愉快だったわ」
「……どんな皮肉が篭っているのか、若干気になるわ」
葵が机から取り出した紙芝居の表紙は、「どじょう成れの果て」と泥臭いような配色で大きく書かれており、札束の上で太った土壌が息絶えていた。実にシュールな表紙にSクラスの数人は渋っ面を浮かべていたが、その中身を見たという英雄は内容を回想して笑っていた。
「予想もつかない新しい要因でしょうか?」
「たった十分弱で何があったのだろう?」
「此方やマルギッテは小雪が沈んだ後しか知らんからのう……。誰か知っている奴はおらんか?」
マルギッテと心は、朝早くから学園に来ていた数人を集めて情報をまとめあげようとしていた。義経もそこに参加はしていたが、遅く登校したために小雪の姿すら見ていない義経は力になれないことを悔やんでか、俯いてしゅんとしていた。それを見た弁慶が頬を紅潮させ――川神水で既に出来上がっていたのだが――義経を愛で始める。
「葵ファミリーで登校した時はいつも通りだったよ」
「そうね。「ウェーイ!」とか、「ハゲー!」とか、普段通りの言動だったわ」
「それがちょっと目を離したら……」
「静かになった、とか思ってたら予想以上に、ね」
情報を集めれば集めるほど、教室にいなかった時に何かあったとしか思えなかった。しかもそれはSクラスの人間の仕業ではなく、他クラスの生徒、若しくは教員との接触。現在Sクラスの話し合いに参加している生徒はその直接的原因に関して情報なし。勉強に励む四、五人の生徒はずっと教室にいたと証言があり除外。故に残るのはSクラス外部の出来事であった。
ある程度の情報が収束され、外部の要因だと確定的になったところで弁慶が口を挟んだ。
「ねえ葵、小雪が席を外したのって何時頃?」
「そうですね……八時二十分頃でしょうか。今から約二十分前ですので」
「与一、お前その時何か見ただろ」
弁慶が与一に問いかける。学園に到着すらしていない者が何かを見たと宣ったところで、そんな証言は有力な情報になりはしないのは至極当然のことだ。しかし、その証人が那須与一であるというだけで信憑性はひっくり返って最高値に到達する。
「知らねえな」
「お前、それくらいの時間に学園の方角を見て、「あれは……?」とか言ってただろう?」
「例の暗殺者かと思ってな。だが見間違いだった」
普段のSクラスならばその話をいつもの妄想癖だと切り捨てるだろうが、今回に限って言えばこの話は二つの理由から注目を浴びていた。一つは、小雪が消えた時間と一致して確認されたことを情報として取り入れようとしているため。これはSクラスの大半の理由であった。
しかし、約二名だけは別の理由からもその話を無視することはできなかった。それが二つ目の理由、暗殺者の容疑にかけられている生徒の存在にある。現在この学園にその人物はいないと判断されているが、忍者を出し抜く隠密性を侮ることはできない。暗殺未遂容疑者の標的候補とその従者、九鬼英雄と忍足あずみはここにいる誰よりもその話を真剣に捉えていた。
「見間違えて、本当は何だったんだ」
「学生二人が屋上で会談してたようだった。流石に内容までは分からないがな」
「その二人の容姿くらい、言えるだろ?」
「一人は丁度壁に隠れていて見えなかった。角度的に見えたのは一人だけだが、それは榊原じゃあないぞ」
「その見えた一人ってのは誰?」
「直江大和」
「直江……? あのずる賢い山猿のことか?」
与一の証言に心が食らいつく。元より直江が、というより、基本的に問題児ぞろいのFクラスが嫌いな心にとって、屋上で見たとされる大和の名前が出たということは、心がその証言に抱いていた興味を放棄するには十分な理由だった。
「どうせそこいらの山猿どもの集会じゃろう。注目するに値せんのう」
「いえ、そうでもありませんよ」
心が大和の目撃情報を関係のないことだと切り捨てようとしたのを、冬馬はいつになく真剣な表情で制した。
「何せ小雪は大和くんに懐いていますしね」
「会ったら飛びかかるレベルだからな。懐かれていると言うか好かれてると言うか」
「直江大和と言えば……近頃調子が良くないようですね」
心に対する冬馬の反論を準が裏打ちするように支えたところを補強するように、マルギッテが記憶の中にある大和の近況を口にする。
「お嬢様曰く、ここ最近上の空で仲間付きあいも良くないらしい。本音を明かすべきファミリーであるはずなのに、直江大和は一人で抱え込んで思い悩んでいるようです。もしそれに小雪が充てられてしまったのならば、あの沈み様も納得できる」
「ふ、ふん。その情報の信憑性は如何程じゃ?」
自分の意見が通らず少しばかり反論したくなった心。「一学生の主観では証拠としては弱すぎるわ」とでも言葉を紡いで責め立てようとしたが、黒く染まった耐熱耐久度に定評のある軍御用達の可塑性プラスチックと合成樹脂で固められたトンファーの先端が心の顎にそっと添えられた。静かに音もなく、しかしそのトンファーが向けられるまでの動きを確認できなかった心は恐怖に支配される。
「く、クリスが言うのじゃから間違いないのう!!」
「それでいい。お嬢様の発言には事実しかないと知りなさい」
「とは言え、これしか有力な情報がないのですから、私がFクラスに行きましょう」
心に対して向けられていたトンファーが仕舞われたことを確認した冬馬は、自らFクラスを訪問すると打って出た。
「他の皆さんはFクラスに行くくらいなら自分のことに時間を使いたいでしょうし、私は他にもFクラスに用事があるので丁度いいです」
「それじゃあ葵くんに任せてもいいかい?」
「頭が腐ってる連中に極力接触したくないわ」
「ですよね」
口ではSクラスの選民思想に同意していながらも、冬馬はFクラスのことを高く評価していた。次点であるAクラス、それに次ぐBクラスですらFクラスのもつ底力と魅力には勝てないと一目置いている。
Sクラスの武道自慢ですら勝てない川神学園トップクラスの数人の武士娘。個性豊かで我が強い面があるがその反面秀でた能力のある才能人。Sクラスも個性が飛び抜けている面があるが、それを打ち消すようなFクラスのイメージ。極めつけは、自身を本気で惚れ込ませた頭脳労働少年の存在。これだけの逸材がいて、冬馬が価値を認めないはずがなかった。
「若が行くなら俺も行くのが必然だな」
「それでは二人で――――」
「待ていトーマよ! 我も行こう!」
冬馬と準が扉に向かおうとしたところで、大きな声で英雄が二人を制止した。
「英雄よぉ。お前さんこのクラスのボスだろ? 大将はドンと構えて待ってろよ」
「そうもいかぬ! Fクラスには一子殿もいる! 今週の挨拶がまだだからな!」
「今日は月曜日なんだからそう焦らなくてもいいだろ……」
「無理だな! 会いたいと言う心が燃え盛ってしまっている!」
「……止められそうにねえな、こりゃ」
「仕方ありませんね。それでは三人で行くとしましょうか」
渋々承諾したといった具合の冬馬と準。それに気づかずただ高笑いしている英雄。この三人でFクラスに向かうため教室の扉を開けようとした寸前、外から先に扉が開けられた。
扉を開けようとしていた準が目にしたのは、どこの病院から抜け出してきたのかと疑いたくなるような、体中包帯だらけで左腕を三角巾で吊るしていた少年だった。
「うおっ!?」
「…………ふご」
「な、何だお前!?」
「ふご、ふがふご」
必死に答えようとしているのだろうが、口にまで巻かれた包帯のせいでまともに言葉を発せていなかった。それを見た準は驚き、冬馬は好奇な視線を送り、英雄は笑うことをやめた。
英雄は先頭にいた準を退かし、渕の目の前で腕を組んで威圧をかける。
「…………?」
「伊那渕だな。何故そのような怪我を負っている」
「それは私がご説明いたします」
英雄が渕への尋問を始めようとしたところで、渕の背後から英雄を制する声が聞こえた。
「クラウディオ? どうした、呼んではおらぬが」
「既に渕様は我々の監視下に置かれました。この包帯も、渕様を見つけ易くするためのものでして」
「なっ――――」
あずみは驚きの声を上げた。それは暗殺者と疑われた少年が簡単に捉えられてしまった、ということではなく、クラウディオが従者部隊に何の連絡もなしに独断で動いたということにあった。あずみは腑に落ちなかった。確かに若者重視の方針の今の従者部隊で、若者とそれ以外の従者の中で一種の確執が生まれていることは確かだった。
加えて最も納得がいかなかったのは、英雄に最も危険性があった話であったのに、英雄に何の連絡も言っていなかったことだった。あずみは不信感と苛立ちを同時に覚える。忠義の塊とも言えるクラウディオが独断専行をとることが、あまりにも異常であったから。
「何だ、もう解決したのか?」
「はい。昨日ヒュームが仕留めまして」
「ふごっ! ふごっ!」
「あー、なんだ。俺たち席を外したほうがいいか?」
状況の掴めない準が提案すると、あずみが準に近寄り耳打ちする。
「……あの包帯男の目的を洗い出す必要がある。クラウディオが取り調べしてないとも思えないが、多分英雄様は早退するだろう。悪ぃけど、あたいも英雄様について帰る。だからよ……ユキのこと、頼んだぜ」
「……言われなくとも、任せとけ」
伝えられるだけの事情を伝え、保護者から聞きたい言葉を聞けたあずみはニカッと笑い、準の肩を軽くポンと叩いた。それだけで多少の意思疎通が取れる。この二人は力関係がはっきりと見える上下の関係だけではなく、本音を互いにぶちまけることのできる意外に仲の良い関係であった。
準から素早く離れたあずみは口調を戻し、キラキラと目を輝かせ英雄の半歩後ろへ戻った。小雪のことは保護者的立場の葵ファミリーに託し、自身の業務に全霊で打ち込むことのできる心持ちに切り替えたのだ。
「英雄様、本日の学務ですが……」
「構わん。我に関係する可能性が一マイクロ単位でも存在するのであれば、我が出向かずにいられようかいや! 我が行かずに誰が行く! 行くぞあずみ、人力車の用意をしろ!」
「畏まりました英雄様ぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ジュン! 一子殿には明日ご挨拶に出向くと伝えておいてくれ! トーマよ! ユキのことは頼んだぞ!」
「あいよ」
「任せてください」
英雄は準と冬馬の肩をバシッと勢いよく叩き、恐るべき速度で人力車を昇降口まで引きずり出してきたあずみに向かって颯爽と駆け出していった。それを確認したクラウディオは「お騒がせいたしました」と一言だけ残し、お辞儀をして英雄の後を追いかけていった。
「それじゃあ、Fクラスに行くか。俺も委員長に今週の挨拶を済ませてないし」
「準はぶれませんね」
二人はSクラスを後にし、五人も欠けているSクラスに一人の男が訪れる。
「集団ボイコット? 悲しいもんだ」
Sクラスの担任教師、宇佐美巨人は胃を痛めるのを覚悟した。
◆◆◆◆◆◆
「直江ちゃんなら早退しましたよ?」
Fクラスに着いて早々、目的の人物は学園からも姿を消していた。Fクラスに小雪がきたという情報も得られなかったため、完全な骨折り損のくたびれもうけ――準は甘粕真与委員長と会話が長続きしているので幸福値上昇――であった。
「……というか、あまりFクラスに活気が見られませんね」
「それなんですが……。直江ちゃんだけでなく、ワン子ちゃんも今日はお休みなのです」
「英雄がいなくてよかったな。あいつのことだから家に押しかけたりとかしそう」
「明るいワン子ちゃんと抑え役の直江ちゃんがいないので、いつもより寂しく見えてしまうかもしれませんね。ワン子ちゃんも直江ちゃんも、ここ最近悩んでいるようでしたけど……原因も分からず……」
しょんぼりと肩を落とし俯いて哀しんでいる真与に、準が跪いて顔を上げてくれと優しく声をかけた。
「ご安心ください委員長。委員長の笑顔を取り戻すために、不肖、この井上準が東奔西走して原因を突きとめてみせましょう」
「準。ユキのことを忘れてはダメですよ?」
「勿論、ユキのことも並行してすすめるぜ!」
「そういう訳なので、互いに情報を交換したいと思いまして。また何か分かったらご連絡ください。私たちでも何か分かったらお伝え致します」
「……ありがとうございます!」
沈んでいたのは自分が何もできないことに悔しがっていたこともあったのだろう。協力者が得られたことに、真与は喜びを体で表現して眩しい笑顔を二人に向けた。
「ああ…………浄化される…………」
「ほら準、行きますよ――――おや?」
真与の純真無垢な笑顔に全身が現れるような気分に陥って動かなくなってしまった準と、その首根っこを掴んでSクラスに戻ろうとした冬馬だったが、冬馬たちにむかって走ってくる一つの人影があった。
その人物は真っ白な髪を腰まで伸ばし、スカートが捲れても下着が見えないような立ち振る舞いを熟達――時折抜けていることもあり、足を振り上げるとどうしても見えてしまうが――している一人の少女だった。その瞳は先天性の白化により真っ赤に染まっていたが、それよりも熱く赤く、少女の意思が燃え盛っているのが確認できる。
「ユキ、どこにいたんです?」
「…………屋上だよ……」
「そういえば、屋上に戻っているという選択肢を放棄していましたね」
「おお……心も洗われて…………ん? うおっ!? ユキ、おまっ!」
「準、反応が遅いですよ」
「…………トーマ。僕、早退する!」
「おやおや」
「どうした? やっぱりどこか調子悪いのか?」
「大和を堕落させてる女を暴くための素行調査なのだ!!」
文学は、人間が堕落するにつれて堕落する。
ゲーテ
◆◆◆◆◆◆
お嬢様より先に出演マルギッテさん。クリス本当にごめん、ファミリー女子で唯一スポットライト当てることができなくて。申し訳程度の謝罪終了。
人手不足も次第に解消されてきましたが、なんだかんだで色々と忙しいです。今週来週と土曜日は朝から学務に励んできますので、少し寝る時間とアイマスの時間を割いて執筆いたします。それにしてもA-2の声優、小山力也に千葉繁ってどういうことなのでしょうか。興奮してしまいました。
MNSコンテスト。恐らくあと二、三回で私の書きたいことが終わってしまいますが、またご要望などあればお気軽にお申し付けください。
さて、今回は湘南の花屋の娘、鵠沼さくらちゃんでございます。このこのスリーサイズを移し忘れてショックを受けていた頃、某ブログにその詳細の画像が残されていたために続行することができました。ありがとうございます。
それでは続きをば。なんとさくらちゃん、バストの理想値との差がキャラ中三位にランクイン。二位の義経との差は僅かコンマ一センチ。恐るべし生しらす丼の生み出すボディ……。
因みに上から85・57・84というスリーサイズで、ウエストが引き締まりすぎていることもあってかバランスは秀でることもなく、25点中20点という評価でA判定でありました。
原因は前述したとおり、引き締まりすぎていることが挙げられます。ほむほむとおなじ理由です。生しらす丼ってすごい。因みにEカップ。顔を埋めたい。
さらに無駄知識ですが、ほとんど同じ体型の女性声優さんがおられます。とある落語アニメのお尻役をやられていた方です。私は始め花澤さんと比較していたのですが、何故か全く違う人物とリンク。花澤さんは残念ながら壁……おっと、誰か来たようだ。
予告。完全に一致。