真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜   作:霜焼雪

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――――まづかきやりし人ぞ恋しき


和泉式部


第二十五帖 黒髪の乱れも知らずうち臥せば――――

 

「牛飯おまちどーさまでーす!」

「梓、三番さんにこれ頼むわ」

「はーい! ネギ塩豚カルビ丼お待ち―!」

 

 

 元重傷者、南浦梓は怪我を八割がた治しバイトに勤しんでいた。

 本日の梓のバイトは朝から夜まで梅屋。梅屋は定番な牛飯を売りとした全国的なチェーン店であり、ここ川神支店でも多くの人が訪れるという。一番人気は勿論牛飯、他にもカレーやその他丼物を扱ったりとメニューも豊富。ハンバーグなども定食として扱っており、育ちざかりの学生たちが好んでここで食事を摂るという。それ故、この牛丼店は昼と夕方に山場を二回迎える。

 一つ目の山場はある意味厄介な三人組をキリとして迎え、現在夜の山場を越えようとしていた。

 

 

「ふー、これで一段落ですかね」

「そうだなぁ、波も去ったし、そろそろ俺らの賄いの時間だ。へっへっへ……。豚丼単品とろろ、最高の組み合わせだよなぁ……」

「釈迦堂さんがそうやって刷り込むから、私もそれが楽しみになっちゃったじゃないですか。お客さんにも軽く刷り込んでるし……」

「新規のお客さんには効果抜群だぜ」

 

 

 梓と共に賄を食べようと、自ら豚丼と単品のとろろを装うエプロン姿が恐ろしく似合わない男、釈迦堂刑部は嬉々としていた。

 刑部は元川神師範代であり、暫く前までは無職でだらけた生活を送っていた。そんな折、九鬼家の執事であるヒューム・ヘルシングによる制裁が下る。ヒュームとの一騎打ちに負けた釈迦堂は、条件として掲げられていた“就職する”ということを飲んだ。その就職先のリストから選んだのが、この梅屋。刑部は梅屋のヘビーユーザーで、金があれば梅屋の豚丼(プラス単品とろろ)という本人の思考の組み合わせを食していた。その梅屋に就職すると、賄でそれが食べられるという。金も入って、自分の大好物が食べられる。刑部曰く、梅屋は天職であると語っていた。

 

 

「ここに納豆を入れてもおいしいらしいですよ?」

「あー、前に松永の嬢ちゃんが来た時にそれやってたわ。ま、俺はこのままでいいけどよ」

「生憎ここに松永納豆がないので試せませんが、今度一口食べてみます?」

「気が向いたらな」

 

 

 とろろの粘り具合が食を速くするのか、二人はささっと賄を食べ終わり、休憩時間を素早く終わらせて再び仕事場に戻る。と言っても、先程大量の人を捌ききって終えたばかりだったので、客足は相当少なくなっていた。カウンター席にポツポツと人がいる程度、新聞紙を読みながら牛飯を食べるサラリーマン、雑誌を読みながら注文した商品を待ちわびている老人、その程度しか目につかない。子連れの家族や持ち帰りの注文客は綺麗さっぱりいなくなっていた。

 そこに新たに客が入ってくる。

 

 

「らっしゃーい!」

「いらっしゃいませー!」

 

 

 梓と刑部は声を揃えて客の対応をした。その新しい客の顔を見て、刑部は分かりやすく口を歪めて不機嫌そうな態度をとる。

 

 

「んだよ冷やかしか? 冷やかしはお断りだぜ?」

「ふん。貴様の勤務態度を推し量りに来たに決まっているだろう。どうやらしっかりと働いているようだな」

 

 

 梅屋に入ってきたのは金髪の老執事だった。梓は武の素人ながらも、老執事から発せられている恐ろしい威圧感に体を委縮させてしまっていた。しかし、梓が体を委縮させてしまっている理由はそれだけではなく、梓の隣にいるエプロン姿の刑部からも驚異的な殺気が発せられていたからだ。執事と店員、二人から発せられている殺気に近い闘気は、店内の体感気温を一気に五度近く下げてしまった。

 

 

「……で? 本当にどうしたんだ、ヒュームさんよ。いつもは別の従者に任せているくせに」

「……ふん、監視ついでの夕食だ。今日はこいつに褒美と詫びを兼ねてここの飯を奢ってやることになっててな」

「ど、どうも……」

 

 

 おろおろと焦っていた梓が気になったのか、どちらも大人しく闘気をしまった。刑部はヒュームが闘気を簡単に収めたことが意外だったが――同様に、釈迦堂が簡単に闘気を静めたことも、ヒュームにとっては意外だった――ヒュームの後ろから顔をのぞかせている少年と、今のヒュームの説明でなんとなくの意図を理解した。

 

 

「そいつ、強いのかい?」

「弱い。そこそこ評価はできるが、壁を越えているどころか、壁すら見えていないだろう」

「あん? なら、なんだってそんなのに世話焼いてんだよ? もう一人の執事にでもやらせりゃいいだろうが」

 

 

 当てが外れた刑部は疑問符を頭に浮かべていた。ヒュームが他人に興味を持つということは滅多にない。彼がやる気と本気を出すのは、彼が仕える九鬼の為に身体を張る必要がある場合、若しくは、ヒュームの戦闘意欲が揺さぶられる程の強敵に相対した時だと、刑部はそう認識していた。幾分か自制の効く戦闘狂(バトルマニア)、刑部がヒュームに抱くイメージはこれに尽きた。

 しかし、目の前に――正確には、目の前にいるヒュームの背後に――いる少年は弱いと、ヒュームは断言した。さらに、それが嘘でないことも、刑部は少年の気配から読み取れていた。何かを隠している様子はなく、実に一般人と呼ぶにふさわしいような気配しか感じ取れなかった。正確には、一般人と認識せざるを得ないような空間がそこにはあった。

 だからこそ、刑部は疑問しか浮かばなかったのだ。こんな弱弱しい子供相手、しかも左腕を三角巾で吊るした怪我人に、かのヒューム・ヘルシングが褒美を与えることが、この自信家である男がお詫びを与えることが、刑部にとっては謎以外の何物でもなかったのだ。

 その刑部の訝しげな態度を見て、ヒュームは補足する。

 

 

「弱い、が、目を見張るものがある」

「へぇ。対してそんな風には見えないがね」

「侮らん方がいい。こいつはお前よりも長く俺と戦い続けられたんだからな」

「なに……?」

 

 

 ヒュームの挑発的な比較の仕方に、刑部のこめかみの血管が浮きあがった。僅かに血の気が増した、隣にいる梓もそれを感じ取っていた。

 

 

「十分は余裕で持っていたな。始めは三分以内で決めれると思ったが」

真剣(マジ)かよ……。俺でも五分が限度だったぜ……」

「ふん、五分も持っていたか?」

 

 

 ヒュームの更なる挑発的な言葉に、刑部もまた解りやすく殺気を顕にした、その時――――

 

 

「いい加減にしてください!」

 

 

 スパーン! と、乾いた気持ちのいい音が店の中を響き渡った。

 

 

「痛っ! 何だよ梓……」

「何だよじゃありませんよ! 今仕事中ですよ!? しっかりとした対応をしてください!」

「へいへい……。つーか、いつもどこからハリセンなんか取り出してんだよ……」

 

 

 刑部は叩かれた頭を摩りながら、渋々と厨房に戻っていった。これ以上ヒュームの前にいると何をしでかすか分からないと、自信を客観的に見ての行動だった。

 

 

 ――――いい飼い主が手綱を握っているようだな。

 

 

 刑部が背中を丸めて厨房へ戻っていく姿を見たヒュームは、刑部の危険性についての判断を少しばかり緩めることにした。環境によってか、因果によってか、刑部の抜身の刃物のようだった危うさは、少しづつ鞘に収まり消えていったと感じ取ったのだ。

 そのように頭の中で自己完結したヒュームは目を閉じて一度頷いた。そんなヒュームに対しハリセンを向けた梓が叫ぶ。

 

 

「お客さんも! 注文する気がないなら追い出しますよ!? 周りのお客さんにご迷惑です!」

「ふっ、まあいい。牛焼肉定食、ダブルで特盛だ。お前はどうする」

「じゃあ……。無難に牛飯特盛で。千キロカロリー超えてるけど大丈夫かな……」

「若いくせに何をほざいている。ガッツリ食ってもっと大きく成長しろ」

「かしこまりました。くれっぐれも! 喧嘩はしないように!」

 

 

 苛立っている梓はハリセンを担いだまま注文を受け、その料理を仕上げようとその場から退いた。

 そこに残されたのは先程注意されたばかりのいい大人と、何故こんなにもいきなり喧嘩腰のムードになってしまったのかついていけない少年が一人。少年の脳内は困惑する一方だった。

 誰でもいいから二人きりにしないで欲しい。そう頭の中で懇願する少年の下に、キムチを運んできたもう一人の元凶が現れる。

 

 

「悪いな坊主。ほれ、お詫びのキムチ」

「は、はは。ありがとうございます」

 

 

 笑うしかなかった少年は。ははははと笑いながらキムチをつまんだ。ただのキムチでなく、カクテキをチョイスした刑部に少年は親近感を覚えたという。

 

 

「おい坊主、名前は何つーんだい?」

「い、伊那渕です」

「確かに聞いたこともねえ名前だ……。で、お前さんがヒュームの攻撃から耐えたってのは本当なのかい?」

「まともに当たってないですけどね……。掠っただけだし」

「…………? おい、話が違うじゃねーか」

 

 

 渕が自分の左肩に視線を落とし、気分も僅かに下降させながらそう呟いた。襟から除く包帯と固定器具が、その左肩が損傷していることを示していた。その言葉と左肩の状態がさらに刑部を混乱させてしまう。掠っただけで骨に損傷を負い、大した気も扱えやしない一般人が、ヒュームの賛辞の対象になっていることが、不可思議で仕方がなかったのだ。

 その疑問を解消すべく、ヒュームは言葉を紡ぐ。

 

 

「言い方を変えれば、一撃もまともに入らなかった。この身体から生み出せるとは到底思えないような瞬発力でな。加えて、俺に入れた拳はいい刺激だったぞ」

 

 

 刑部は耳を疑った。自分が対峙した時よりも長い時間、一度もヒュームの攻撃を食らわず回避し続けるという芸当がいかに驚異的なことであるのか、一度ヒュームと戦ったことのある刑部は十分に理解していた。ヒュームが年老いてもなお現役と言えるその根本的理由の中に、強さが維持されているということに加え、その速度が衰えるどころか洗練されているということがある。実際にヒュームと戦った時の刑部の感想として、あの年齢からは考えもつかないような速度であったことは忘れられもしなかった。

 老い耄れだからと舐めてかかった刑部も刑部なのだが、それを差し引いてもヒュームの速度は異常であった。それを回避し続けたこの少年に、刑部は興味を惹かれた。

 

 

「で、伊那君よお。その回避の秘密ってのはあんのかい?」

「えっと、何でしょうね?」

「こいつは無意識で俺の攻撃を回避していたらしい。どうやって俺の攻撃をかわし続けていたのか、全く覚えていないらしい。攻撃に関しては記憶があるようだが、それを実行に移すことができなくなったようだ」

「あんだって?」

「興味が惹かれるだろう? 野生じみていて、貴様に近い」

 

 

 ヒュームの顔は実に不敵な笑みを浮かべており、刑部もそれに似かよった笑顔を浮かべていた。そんな二人の興味の惹かれる対象となった当人である渕はというと、これ以上ないくらいに怯えながらキムチを食べていたという。

 

 

 ――――神様、貴方はなんて残酷で冷酷で理不尽なんだ。

 

 

 渕は人生の中で最も全力で神様を呪っていた。

 

 

 ――――失礼な。感謝されこそすれ、呪われる謂れはないよ、この影法師め。

 

 

 呪った瞬間、何やら逆に叱られたような気分に陥った渕であったという。

 

 

 

「今度お手合わせ願いたいね」

「やってみろ、度肝を抜かれる」

「僕に拒否権はないの……?」

 

 

 渕は二匹の腹を空かした猛獣に目をつけられて、完全に泣きそうになるほど萎縮していた。そんな様子を見るに見かねてか、タイミングを見計らったかのように梓が割り込んでくる。

 

 

「はい、牛焼肉定食と牛飯お待ち! さっきも言いましたけどね。あまり好戦的な態度は控えてくださいな」

「おー、そうだ思い出した。梓、お前もそこそこ強いよな?」

 

 

 両手に注文された品々を抱えて戻ってきた梓を見て、何やら思い出したかのように刑部が梓に話し掛けた。

 

 

「何ですかいきなり」

「脚技に定評があるじゃねぇか。脚にだけ特化してるからよ、そこら辺は俺よりも強いんじゃねぇの? 治癒も異常そのものだしよ」

「ほう、それは興味深い」

「普通に飯が食えないものかね……。これならクラじいさんの方がよかったかなぁ。恨むぜ委員長……」

 

 

 またしても険悪なムードに突入しそうになっている三人を他所に、渕は静かに頼まれた牛飯をパクパクと食べ進めていた。牛飯の上には、気に入ったのか、残ったカクテキが投入されていた。

 渕が牛飯を食らう顔色は決していいものとは言えなかったのは、言うまでもない。

 

 

「どれ、一つ芸でも見せてみろ。どの程度の赤子か見定めてやる」

「――――いい加減に、もうホンットに! 解りましたよやってやろうじゃないですか!! 店長! 今日は体調と気分と機嫌が優れないので帰らせていただきます!!」

「あー、店長今いないから俺が代理で許可しとくよ。行ってきな」

「どんな赤子か……品定めでもしてや――――」

 

 

 ヒュームが自身の注文した品を瞬時に胃の中へ流し込み、箸を置いて席を立とうとした瞬間、ヒュームの表情が一変した。

 

 

「立ち上がりが遅いですよ? やっぱり年老いてるんじゃないですか?」

 

 

 梓はカウンターから姿を消し、ヒュームの背後に立っていた。以前、百代に自分がしたことをそっくりそのまま返されている気がして、ヒュームの心の奥にある何かに火が着いたらしい。

 

 

「先に外に出てますね」

 

 

 その言葉を残し、梓はまたしてもヒュームの背後から瞬間的に姿を眩ました。

 

 

「なるほど、ただの赤子ではないようだ……」

 

 

 同様にヒュームも姿を消し、ヒュームの座っていた席にはヒュームと渕の注文した分の代金だけが残されていた。

 そして、ヒュームが出ていったにも関わらず自分の牛飯を食べ続ける渕に、刑部が好奇心たっぷりの視線を送りながら話しかける。

 

 

「行かないのかい?」

「僕は晩飯を食べに来たんです。態々好き好んであんな化物に着いていきませんよ」

「ははは、そりゃ同感だ」

 

 

 そんな刑部との会話を食事を摂りながら行っていた渕だったが、渕も渕で、ここ最近の不幸なトラブルによって回りの視線に敏感になったようであった。

 

 

「……何が同感なんだか、さっきからこっちのことジロジロ見てきて」

「ありゃ、ばれちまったか」

「普段人に見られることが少ないもんで、他人から見られることに関しては敏感で。ヘッドフォンさえしてなければ」

「どうだい、俺ともやらねぇか?」

「ご遠慮させていただきます。僕はただ、平和に平凡に、穏やかな人生を送りたいんです。誰にも理解されず生きてきたせいか、人付き合いってのもよくわからないですし」

 

 

 そう言い放ち、渕は牛飯をかっこんだ。

 

 

「ご馳走さまでした。もし僕を襲おうってんなら、その時は容赦なく……逃げるからね」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 梓とヒュームは多馬川の土手まで足を伸ばしていた。誰にも邪魔をされたくないというのと、広い場所の方がやりやすいという点からここは選ばれた。因みに、梓がここに訪れるのは準に説教じみた説明をするために訪れたことを含めて二回目である。

 

 

「こんなことしたくないんですよ、私は。学園止めてまで仕事してるんですから邪魔はしないでくださいよ」

「たかが一日、それにバイトの給料だ。なんなら俺が慰謝料としてそれぐらい出してやろう」

「ホント、聞き分けのない爺さんだこと。そんな解決方法、私の神経逆撫でしてるだけだろうが」

 

 

 梓の苛立ちが顕になり、口調が汚くなってしまっている。それを見ているヒュームは実に楽しそうだった。挑発する側と言うのは共通して優位に立っていると思っていることが多い。そのため、顔が綻んでいたり、余裕綽々の態度を取ったりと、挑発をより有効にする行動をとりやすい。

 それは勿論、ヒュームにも言えないことではない。その上、ヒュームの場合は優位に立っていると思っているその自信が突き抜けており、その自信に見合った実力があるのだから手が付けられない。伊達に現役を名乗っている訳ではないと鉄心に言わせた程である。その思い上がり、慢心は、渕が大好物としているものであり、渕が呪った神様もどきが呆れるほどのものだった。

 しかし、梓はその挑発に乗らない。いや、乗る必要がないのだ。梓は先程の梅屋での一悶着で、既にヒュームに対する怒りは最高潮であったからだ。

 

 

「普通に戦っても面白くない。条件を付けよう。お前は俺に膝をつかせれば勝ちにしよう」

「どうでもいい。私は鬱憤を晴れせられればそれで充分」

 

 

 梓はほとんどヒュームの言葉をまともに聞こうとせず、右足で跳ねて左足で着地、左足で跳ねて右足で跳ねるという軽やかなステップでヒュームの出方を窺っていた。そのステップは川神百代鎮圧作戦の際にも決して見せなかった、本気の決闘態勢。

 

 

「先手はくれてやる」

「どこまでも人をおちょくって……!」

 

 

 梓のステップの感覚が短くなった。今にも飛び出しそうな気配が強まったのにも関わらず、ヒュームの余裕綽々な態度は依然として変わらない。

 

 

「そんじゃ、やってやる!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「南浦梓、彼女の成長具合は目を見張るものがある」

 

 

 蕎麦饅頭を人差し指の上で回している朧はそう言った。まるで食べ物をバスケットボールの様に扱っている朧に呆れる鉄心であったが、神出鬼没この上ない朧に呆れてももう意味がないということを思い知らされている。ここ最近は朧の奇行にも耐性が出来てきてしまっていた。

 

 

「彼女は元々素質のあった美しい脚に、ぼくは更なる力を加えることにした」

「何故じゃ? 素質、お主の言うところの“天賦の才”がその脚に与えられているのであれば、他の部分に力を与えるというのが道理ではないのか?」

「道理? それは君の物差しだ。天地開闢から今に至るまで生きてきたぼくの考えが、たかが百数年しか生きていない若造に理解しきれると思うな」

「解った解った。それで? ワシの道理では分かりきれないお主の考えは?」

 

 

 朧の高みから見下したような、年下を揶揄しているような言い方に、鉄心は年下を諭すような態度で流すことにした。それが朧にも悪い印象を与えず、鉄心自身も楽であったために、鉄心はいい方法を見つけたとほくそ笑む。

 

 

「うん? ああ、六人全員が同じような施術を施したとは言えないと言いたかったのさ。君が三人目として確認した大道寺銑治郎に与えた力は一番スタンダードで解りやすかっただろう?」

「“目”、か」

「そう。あれは全く才能の無かった部分に才能を与えたんだ。銑治郎は元々剣士を翻弄するような策士タイプではなく、一撃でねじ伏せる荒くれ者の剛剣タイプだったのだよ」

 

 

 銑治郎は朧の言葉に驚愕を隠しきれなかった。もし隠しきれていたとしても、朧がその感情を理解できない訳がなかったが。

 鉄心は銑治郎の戦いぶりを、立会人となっていた百代や、実際に戦った義経から、銑治郎の戦闘スタイルについての話は聞いていた。しかし、それがたった二年で上書きされたものだとすれば、鉄心の驚きも理解できる筈だ。一から体得した剣技が、伝説と拮抗したという事実は明らかに異常である。偉人、源義経の剣技と渡り合える程の剣技が二年で培われたものなどと、朧の存在を知らぬものがどうして理解できようか。存在を認識している鉄心でさえこれ程驚いているというのに。

 

 

「これがスタンダードなものだよ。突然与えられた才能に応えるよう、身体が驚異的な進化を遂げるのさ。それで、南浦梓はそれとはまったく違うのだよ」

「と言うと?」

「最初から与えられていた才能に加え、これでもかと力を与えてやったその脚は、本人の意思に応えるような動きをする。それがどれ程のものか、例えるなら――――」

「例えんでもええわい。お前さんの例えで通じることが少ない」

「失敬な。まあいいか、南浦梓の脚は、間違いなく人類最強だよ」

「それを例える必要があったのか――――待て、人類最強?」

「うん、人類最強」

 

 

 鉄心の度肝を抜かされた反応に、自らの策が巧く行ったことに満足する朧の笑顔は、近年で言うところのドヤ顔というものを浮かべる。したり顔とも言えるが、とにかく朧は得意満面。鉄心を驚愕させたことに一種の優越感を感じていた。

 

 

「ワシでも勝てんのか?」

「別に勝てないと言ってる訳じゃないよ。ただ、脚の能力だけ抽出して比べるのであれば、人類では敵なしだということさ。ちゃんとした戦いなら君でも勝てるさ。上半身にはそこまで力が回ってないから。ま、甘く見ない方がいいよ。彼女の脚から繰り出される技の数々は、それこそ常識を覆すものばかりだから。そうだね、あのヒューム・ヘルシングみたいに赤子赤子と舐めてかかったら、痛い目を見ることになることは、天地開闢から今に至るまで生きてきたぼくが保証しよう」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ぐおっ……!?」

 

 

 僅か一瞬の出来事でヒュームは膝をついていた。それを見下ろしているのは、大手チェーン店のエプロンをはためかせている元女子高生、南浦梓だった。

 

 

「ぐっ……! いい蹴りだ……。俺が見えんとは……」

「まだ喋れるんですか。こめかみあたり蹴ったから三半規管グラグラなはずなのに。ん? 三半規管グラグラって日本語はおかしいのかな?」

 

 

 ヒュームが梓を挑発してから膝をつくまで三秒とかからなかった。

 先手を譲ってもらった梓は、全力で相手をすることを決意した。ヒュームには見えない速度で事を終わらせようと決断した。その意思に反応した梓の脚は神がかり的な動きを発揮した。

 まず初動、片足で交互にステップを刻んでいた梓は右足で踏み切り、ヒュームに背後を見せるような形で突撃した。狙いは空中での左足の後ろ回し蹴り。それはヒュームにも読めた。やれやれといった具合でヒュームはそれを回避しようと軽く右に避けた。

 その時、梓の動きは驚異、いや、ありえない動きを見せた。

 まるで梓を軸とした反転機がそこに存在していたかのように、空中で梓の回転が逆になった。つまり、梓の回し蹴りは左側ではなく、右側に襲い掛かるようなものに変貌した。

その動きは完全にヒュームの不意をついた。その梓の回し蹴りは反転した瞬間に速度をさらに上げたのだ。それも、ヒュームが見えない程速く。

 

 

「空中で全く逆のベクトルを発生させた……。常識外の動き、か」

「立ち上がらないでほしいですね。それに、私の勝ちですよ? もう襲わないでくださいね。あと、今後あの店でははしゃがないこと! 確約してください」

「敗け、俺が、か――――ふ、ふふふ……くっくく………………はっははははははは!!!」

 

 

 面倒くさそうに自身の勝ちを宣言した梓とは裏腹に、自身の敗北を自覚し高らかな笑い声をあげるヒューム。勝者と敗者、行動が全く逆と言う奇妙な空間がそこに発生していた。

 

 

「いいだろう。なら第二ラウンドだ。今度は容赦はせん」

「はあ? ちょっといい加減に――――」

「何が第二ラウンドですか、いい加減にしなさい」

 

 

 梓が苛立ちを最高潮に再び構えを取ろうとした瞬間、ヒュームの後頭部が勢いよくはたかれた。スパン! とよく乾いたいい音が多馬川の土手に響き渡り、ヒュームと梓は目を丸くしてしまう。

 

 

「私、九鬼従者部隊序列三番、クラウディオ・ネエロと申します。この度は身内がご迷惑をおかけいたしました、南浦梓様」

「は、はあ……」

「直ぐに引き取ります故、どうかご容赦を」

 

 

 突如現れたクラウディオと名乗る老執事がペコペコと頭を下げ謝罪をしてきたので、どちらかと言うと戦闘モードにスイッチを切り替えていた梓にとって、正直なところ拍子抜けであったという。もし梓が体内にエンジンを蓄えていれば、プシューッ! という音と共に蒸気を体中から発生させて沈静化していたことだろう。

 

 

「ほら帰りますよ。主を守るということを忘れて戦いに没頭しないでいただきたい」

「……解った。おい、お前は赤子から相当マシな赤子だと認識を改めてやる」

「いいからさっさと帰りますよ。大事な案件があります」

 

 

 梓の前から二人の老執事が姿を消した。多馬川には梓だけが取り残される。

 梓は二人がいなくなったのを確認し、多馬川の土手に大の字で倒れこんだ。腕が、脚が、体がぶるぶると急に震えだし、梓は身を屈めて縮こまってしまった。

 

 

「あー……怖かった。もう無茶な喧嘩なんかやんないからねっ!!」

 

 

 梓の叫びが多馬川に響き渡った。

 

 





 人間のことはなににてあれ、大いなる心労に値せず。

 プラトン

 ◆◆◆◆◆◆

 二週間周期が安定してまいりましたが、ここで残念かどうかはわかりませんので、私の不甲斐ないお話です。七月は試験とかぶるため、特に月末に関しては一切の執筆活動を停止します。とは言っても、完全停止ではありませんし、八月には呑気にキーボードを叩いていることが目に浮かびます。しかし、七月はなかなかハードなもので……申し訳ありません。七月の更新は恐らく一回できればいい方だと思われます。

 気を取り直してMNSコンテスト、上位10名の下位半分をご紹介。

  楊志   AABSB 総評A 19

 梁山泊からの刺客、青面獣の楊志さんです。こういった類のゲームに出てくる変態っていうのはイケメンか美女っていう相場が決まっています。モブは除く。絶妙な腰のラインがベネ。

 羽黒黒子 AABSB 総評A 19

 なんでコイツに関して褒めてやらねばいけないんだと、私の中の何かが訴えかけてきます。この不名誉なヒールレスラーの娘に、名誉ある「絶妙な腰のラインがベネ」なんて台詞を使わなくてはいけないことに私は苦しみます。この事件を、兵隊さんからいただきました「羽黒インパクト」と正式に命名させていただきます。

 榊原小雪 SASAC 総評A 20

 ようやく本命ゾーン、です。オッパイがでかすぎて損をした白兎こと小雪。ようやく20の大台です。ウエストがもう少し余裕を持たせていれば、具体的に言えばジーンズを履いてほんの少しだけ膨らみができるかできないかくらいのお肉があれば優勝確実でした。

 鵠沼さくら SASAC 総評A 20

 湘南の風来坊、さくらちゃん。どちらかというと風来坊は釈迦堂さんなので、異端児としておきましょう。それでも釈迦堂さんの方が異端児なので、無難に全年齢限定キャラとしておきましょう。生しらす丼はヘルシーすぎます。もっとお肉つけてください。手のひらでそっと支えるとフニッというオノマトペがぴったりなくらいに。

 九鬼紋白 AASAB 総評A 20

 惜しくもトップ5入りならず、新妻紋様です。まだまだ発育途中というポテンシャルの高さを秘めていながらこの美しさ。そりゃロリコンなんて性癖ができますしロリコニアなんて秘境が誕生しますよ。GAOー。少しお胸が慎ましかったかなー、Cカップですけど。
 

 予告。いよいよ大詰めMNSコンテスト。
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