真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜   作:霜焼雪

33 / 37
――――うすき衣は裁ちぞ着てける


大中臣能宣


第二帖 鳴く声はまだ聞かねども蝉の羽の――――

 

 場所は移り、一年F組。S組とは若干状況が違うが、こちらはこちらで友人を作ろうとするような賑やかさを失っていた。その原因たる人物はふてくされた顔で足を小刻みに揺らし、明確な苛立ちのオーラを発している。

 

 

 ――――こうまで人が寄り付かなくなるか。

 

 

 武神、川神百代は今になって祖父の提案を引き受けたことを後悔していた。学園生たちの気を引き締めるための演技、自身の危険性を知らしめたことにより、落ちこぼれ集団と言われているF組は引き締まりすぎて縮こまっていたのだ。

 百代が声をかけようとすれば逃走し、百代が横を通ろうとすると全力で壁に張り付き、百代が睨むと失神してしまう者まで現れた。ここまで恐れられてしまうと、質の高い戦いどころか、戦いすらなくなってしまうことを百代は危惧していた。

 などと悩んでいても、この現状を打破する術を百代は知らない。考えても浮かんでこない。小学校中学校時代のクラスメイトは前もって百代のことを知っており、その上で付き合ってくれた連中ばかりだった。多少おっかなびっくりとしていた部分はあっても、いい友人たちだったと百代は想起する。川神学園のC組やB組にいけばそれなりに親しい人間もいないことはない。

 ただし、今回のクラスメイトたちに百代の昔からの知り合いはいない。生まれ育った市の外の高校へ入学したが、誰も中学の同級生がいない孤立状態。加えて必要以上に恐れられてしまうほどのレッテル付き。そのような完全に孤独な状態に百代は陥ってしまっている。

 

 

 ――――時間をかけてゆっくり誤解を解くか。

 

 

 はぁぁ、と深いため息を吐いた百代。それだけで周囲の人間は住処を荒らされている小動物のようにビクッと震え上がった。

 

 

 ――――半年はかかるかな。

 

 

 自分の新たな学園生活の記念すべき青春の一ページ目が、クラスメイトから嫌われるという不名誉なもので始まった。

 

 

 

 

 

「モモちゃんって呼んでいい?」

 

 

 

 

 

 百代が脳内日記をつらつらと書き連ねていたその時、百代の前の席に一人の少女が座り声をかけた。真っ赤な髪を後ろで一つに束ね、その髪の束を盛大に振り乱し着席したものだから、彼女の使っている洗髪料の香りが百代の鼻腔をさっとくすぐった。

 少女の話しかけた内容は、初対面にしてはいくつかのステップを盛大に省いた、簡潔に言えば実に馴れ馴れしい内容であった。自己紹介も済んでいないのに、実に気の早いことであった。

 そのせいか、百代は間抜けな顔でその少女を見つめてしまった。その二人を見る人間の大半も同様に間抜け面を晒し、崩れかけのジェンガを見守る観客のようにビクビクとしながら徐々に顔を青ざめさせていた。

 

 

「苗字呼びが好きじゃなくてね。私はできればあだ名をつけて会話をしたいんだ! だからモモちゃんで、どう?」

「べ、別にそれでいいが……」

「決まりね! 私は南浦梓! 梓とかあずにゃんとか呼んでほしいな?」

「じ、じゃあ、梓で……」

「うん! モモちゃん!」

 

 

 ――――おい、武神が押されてるぞ?

 ――――命知らずが功を奏したのかしら?

 ――――モモちゃんとか呼んでみたい。

 ――――あずにゃんの方が魅力的。

 ――――気を抜くなよ? 死んでも知らないぞ?

 

 

 周囲のざわつきが次第に大きくなり相乗し、百代の恐ろしさに怯え静まり返っていたある意味平穏だったF組の教室を騒擾させる。その中心である少女、南浦梓はそんなことなどお構いなしに百代との距離を詰める。具体的には、椅子の背もたれに自身の胸をドカンと乗せ、大きく股を開いて椅子の足に絡ませ、腕を百代の机の上に乗せた。豊満な胸を除けば、実に男らしい行動である。

 

 

「急接近、えへへ」

 

 

 ――――何だこのあざと可愛い生き物。身長が私と数センチしか変わらないのくらい高いのにキュートすぎる。

 

 

 腕を組んで頭を傾けて、言葉のとおりえへへと笑う梓に百代は不意にときめいてしまう。梓はこの行為の破壊力を知らない。先程まで怯えていた心を砕いていた男子の数割の心を一気に修復した後に叩き壊す、それほどの威力があることを知らない。

 

 

「モモちゃん可愛いねぇ。と言うか、綺麗? 衝撃走ったもんね。おっぱいでかいし、おしりおっきいし、ウェストキュッとしてるし、あーあー羨ましい――――怨疚しい」

「急に怨まれてもな。まあ私の美少女さが疚しいのは否定しないがな」

「それなら私は内面の清らかさを四方八方に押し出して行こうかな? 内面八方美人」

「それってどうしようもないダメな奴じゃないか?」

「面倒見がいいって言ってよ。批難としての流用が多いけど、あれって極一部じゃ褒め言葉なんだから」

「どうでもいい知識をありがとう」

 

 

 ――――おい、会話が続いてるぞ。

 ――――成立してるかは甚だ疑問だが。

 ――――しっかし可愛いのは事実なんだよな。

 ――――あずにゃんペロペロ。

 ――――けど怖いよな。誰だ今の。

 

 

 梓との会話を継続させつつも、周囲の反応に敏感なアンテナを立てておいた百代だったが、どうにも反応はいい方向へ向かっているようには思えなかった。どちらかと言うと、周囲の警戒心がそのまま固まってしまいそうな勢いであった。

 そこに、第二の爆弾が投下される。

 

 

 

 

 

「YEAR! ワタシモ混ゼロ!!」

 

 

 

 

 

 突如、両腕を上げてはしゃぎ回る褐色肌の少女が百代と梓の方へ飛び込んできた。その言動が若干、いや、相当激しいことが目立つが、少女の目立つ部分はそれだけではない。少女はインディアンの飾り、ウォーボネットのような帽子を、地に着くまで伸ばした髪を二本の三つ編みにまとめ上げた頭の上から被っていた。決して学生服に似合わないとは言わない――似合うとも言えない――が、標準の装備として配られることのないものであることは確かだ。

 煌びやかに異彩を放つ少女は百代と梓の間に割り込み、馬鹿笑いをして二人を困惑させる。

 

 

「HAHAHAHA!」

「な、なんだ?」

「どうしたのさタイガー? いきなりじゃない?」

「Because! 二人ダケ楽シソウ! ズルイヨ!」

 

 

 二人を指さし、タイガーと呼ばれたは「ブーブー!」と文句を垂れた。確かに、周囲は百代と梓の会話に見入って、怯えたり驚いたり惚れていたり、単なるオーディエンスとなっていた。出来立ての一クラスとしては、及第点すらもらえない崩壊状態とも言えよう。まだ誰も会話を成立させずに戦々恐々としていた方がクラスらしい。

 少女はそれが不服だったのだ。少女は積極的な性格で、楽しいことを第一としているような言動が見られる。大きな声で欧米風の笑い方をし、アイデンティティたる濃いキャラを表現する。その場を用意するのは勿論自分自身でもあるが、それを用意しようともせずクラスを壊しているのは納得がいかなかった。

 とどのつまり、少女が二人に主張したいのは――――

 

 

 

 

 

「Fクラス、ミンナ語ラウベキ! ソウスレバ、Happy&Exciting!」

 

 

 

 

 

 

「だってさ、モモちゃん」

「いや、私はどちらかと言えばみんなとわいわい騒ぎたかった部類なんだが」

 

 

 

 

 

 

「その発言は聞き逃せないで候」

 

 

 

 

 

 

 第三の爆弾、凛とした眼鏡の少女が百代に食い掛かった。

 

 

「その表情をぶら下げて、よくそんなことが言えるで候」

「なんだと?」

 

 

 挑発気味に百代に苦言を呈した眼鏡の少女は、手持ちのコンパクトを開けて百代に差し出した。これを見れば言いたいことが解ると言わんばかりに、実に自信たっぷりと突き出していた。

百代は若干苛立ちながらそれを覗き込んだ。先程から不機嫌なうえに、今更に苛立ちを募らせた。

 

 

 そんな心境ならば、眉間に皺がより、睨むように目を細め、決して口角を上げない、恐怖を植え付けるような表情になっていても、何ら不思議ではない。

 

 

「おいおい、何だこの無愛想な表情は」

「いやいやモモちゃん。自分の顔だからね?」

「そんな馬鹿な。この美少女がこんな顔をぶら下げているわけがないだろう?」

「現実を見るで候。どう見てもお前自身の顔で候」

 

 

 鏡を凝視し唖然とする百代。先程から誰も寄り付かないと思っていた原因は、実の祖父との拳のぶつけ合いなどではなく、そこから派生した百代自身の表情。

 この鬼神の如き表情に寄り着こうとする者など、そうそういるはずもなかったのだ。

 

 

「なるほど、自業自得とはこっちのことか」

「え?」

「いや、独り言だ。それよりお前たち、この恐ろしい顔によく近づく気になったな」

 

 

 フッ、と笑った百代笑みはどこか大人びていた。自省した人間と言うのは得てして一回り大きくなると言うが、百代の場合は美しさが増したと言える。いや、ここは取り戻したというべきなのか。

 その笑顔を見せられた三人は、各々の内情を述べる。

 

 

「折角の入学式、みんな笑顔で写真撮りたかったからね! 誰一人欠けることなく!」

「So am I! 仲良シFクラス、出ダシ肝心!」

「何やら内面と外面の不一致を感じたので、居ても立ってもいられなくなったで候」

「わお。いい奴らだな、お前ら!」

 

 

 川神百代、南浦梓、南條・M・虎子、矢場弓子。

 人望や美貌による人気により、川神学園Fクラスを支配することとなる四人組が誕生した瞬間であった。

 余談であるが、この後、百代の笑顔に骨抜きにされた生徒たちが仲良く集合写真を撮ったという。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

「日野宮華月って言います! 趣味は美容関係の調べものとトレーニング、好きなものは卵料理! よろしくね!」

 

 

 再び場所は移り、川神学園一年C組。既に担任の教師が到着しており、生徒たちに自己紹介をするようにと急かしていた。五十音順からすると真ん中よりも後半に呼ばれた少女、日野宮華月だったが、彼女は全クラスメイトの中で一番印象深い生徒だったと言える。

 担任の生徒が来るまでに全てのクラスメイトに話しかけ終わり、率先して話しかけていたのは友人が誰もできていない出遅れた生徒たちばかり。男も女も関係なく、手当たり次第に自分の友愛を振りまいて行った。

 何よりも恐ろしかったのは、その風貌である。

 決して高くもなく低くもないはずの身長が、誰よりも高く目立っていた。

 決して絶世の美女と語り継がれることのない顔が、誰よりも輝いていた。

 決して豊満なスリーサイズと言えないはずの体系が、男どもの視線をかっさらっていった。

 決してパッチリとしていないその細い目が、全員の視線を吸い込んでいるようだった。

 決して長くもないショートボブの黒い髪が、女たちの愛玩欲を湧き立たせた。

 人工的であり、自然的でもあるその魅力、美しさ。努力で塗り固められていながら、その努力という弱みを見せようとしないその心意気に、男も女も魅惑に取り付かれていた。

 担任の教師が入ってきたことにも気づかずに、生徒たちは華月に目を奪われていたのだ。担任の教師も唖然とし、数分間その教室の時間が止まったかと思ったと教師は語った。

 教師の存在に気が付いた華月は先生に全クラスメイトの意識を集中させ、自己紹介に至る。正直なところ、ここまでクラスの視線独り占めにされてしまうと、自己紹介の時間と言うものが虚しく思えてしまう。

 

 

「嫌いなものはスプラッタとかホラー映画! あんまり怖いもの見せないでね? 時間も時間だし次の福山くんに譲ろうかな。気軽に話しかけてね? 体重からスリーサイズ、ダイエットから黄金比まで、質問は随時受け付けてるからねー!」

 

 

 さながら芸能人かアイドルかのような手慣れたしめくくり。一体どんな経験を越えればこのような学生が出来上がるのだろうか。生徒だけではなく担任の教師までが華月の存在に疑問を思い始めていた。

 

 

 こんなにも陽気で優しい女の子が、何故か危険に思えてしまうような――――

 

 

 全員分の自己紹介がスムーズに終わり、余った時間を華月の質問の時間に当てようと誰かが提案し、空気は一気に質問ムードになった。しかし、全く統率がとれていないため質問の内容は全く聞き取れない。

 しかたがないといった具合に華月が教壇に上がり、「質問者は挙手をすること! わたしの独断と偏見で指名していこうじゃないの!」と高らかに宣言し、クラス中を支配した。

 

 

 

「華月ってさ、化粧水何使ってるの? やっぱり高い奴?」

「大手メイカーよりは安いんだけど、百均とかよりはさすがに高いかな。よかったらこんど取り分けて貸してあげる!」

「スリーサイズいくつなの? 私よりおっぱい大きいよね?」

「上から84・58・84のDなんだ。そこそこいいブラ使ってるからそれよりかはちょっと大きく見えるね」

「下地とかは何使ってるの?」

「BBクリームと、化粧水出してる会社と同じところの下地を使ってます! 興味のある方は是非ご相談くださいな!」

「実は、意外と筋肉質なんじゃね?」

「あ、ばれちゃった? むふふ、意外にも筋肉育ってます。腹筋綺麗に割れてるんだ。我ながら惚れ惚れしてます。女の子にだけは見せてあげよう」

「卵料理好きだって言ってたけど、嫌いなものは何だよ?」

「ありません! 好き嫌いは小学生の時に克服しました! ちなみにその時まで嫌いだったのは果物の柿と野菜の玉ねぎです! 堂々と言うことじゃないけどね」

「インドア派? アウトドア派?」

「強いて言うならインドアかな……。読書大好きだし、走るの苦手だし」

「兄弟は?」

「いませんが、従兄のお兄ちゃん的存在がご近所さんなので上の兄弟の感覚は知ってます。下がほしいですが何分お父さんはもう還暦なので、叶わぬ夢です。故に子供大好きです!」

「ぶっちゃけ、彼氏いるの?」

「いませんし、まだ作る予定はありません! 大学出て就職して、二十代後半で結婚したいと思ってます! 堅実に行きたいと思います!」

「華月居る?」

「はいはい順番ね」

「ダイエット詳しいの?」

「詳しいですとも! 昔はやけになって暴飲暴食してたのでダイエットしました!」

「どんなダイエットがおすすめなの?」

「なんかリンゴだけだとかバナナだけだとか単品ダイエットみたいなものを聞くけど、それはダメだね! 野菜を多くとって、脂肪吸収抑制と脂肪燃焼促進を使い分けるのがコツ! 話すと三十分くらいになるからまたあとでね!」

「美容ドリンクって効果あるの?」

「お、美容関係の質問多いね! コラーゲン関連のドリンクはいろいろあるけど、二つに区分できるんだ。このあたりも長くなるからまたあとでね!」

「武術はやってるの?」

「さすが川神学園だね、そんな質問が平然と出てくる学校他にはないよ? えっと、護身術と言っていいか解らないけど、ちゃんと武器使えるよ!」

「どんな武器?」

「それは戦ってからのお楽しみ、と言いたいんだけど、わたしは戦うのが好きじゃないからね。ばらしちゃいます。鞄使います、鉄板仕込み!」

「か、鞄?」

「そう、防衛と反撃しかできないからこれで十分! あ、ちょっと待ってね」

 

 

 華月が質問の挙手が一向に収まらないのに静止をかけたのかと思うと、挙手している一人の生徒に向かって歩き始めた。そこには、何故か華月の見知った顔であり、このクラスにいるはずのない人間が二人、紛れ込んでいた。

 

 

「ももちゃん、けいちゃん。なにやってるのかな?」

「やあ華月! 相変わらず可愛いな!」

「ち、違うんだ華月。私は無理矢理だな……」

 

 

 そこには、椅子も机もないのに律儀に空気椅子をしてまで挙手に交じっていたF組の川神百代と、その後ろで縮こまって隠れていたS組の天野慶の姿があった。

 

 

「さっき質問に紛れて変な声がすると思ったらももちゃんたちか……。時間も切りだし丁度いいと言えばいいんだけど、廊下で待ってるって選択肢はなかったの?」

「一刻も早く華月に会いたくてな」

「私は待ってようって言ったじゃないか」

「ここまで来たら共犯者だ。腹を括れ」

「はぁ……。乗りかかった船と言う言葉は嫌いじゃないから否定しきれない自分が嫌だね……」

 

 

 他人のクラスに割り込んでまで華月に会うことに躊躇いがあった慶は少しばつの悪そうな顔をしており、その隣ではこのくらいいいじゃないかと余裕の表情を見せる百代がいた。その二人の対照的な態度に華月は大きく息を吐き出して呆れてしまう。

 チラリと腕時計をチェックする華月。華月への止まない質問タイムが始まってもうすぐ五分経つところ。

 

 

「先生。そろそろ五分なのでこれで切りにしましょう。質疑応答は五分と相場が決まっていますね?」

 

 

 教師は二つ返事で了承した。自主性がないというのか、生徒主体のクラスを作ろうとしているのか、どちらにしろ華月にとって今はありがたかった。

 

 

「それじゃあみんな、何か知りたかったらまたメールなり電話なりしてね? こう見えて夜更かししないタイプだから、てっぺんに電話しちゃうと寝起きで不機嫌なわたしが恨みのこもった声で電話に応答するから気を付けてね?」

 

 

 そう言い残すと、華月は百代と慶の手首をがっちりと掴み、教室から飛び出した。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 三度場所は移り、川神学園屋上。

 そこで今朝の生徒威嚇の大役を務めた武神と武闘家が正座させられていた。しかも、足の上には何故かコンクリートブロックが置かれていた。下に対となる拷問器具が置いていないのは優しさか、ただ単に手に入らなかっただけか、全ては華月の心の奥底に葬られている。

 

 

「あ、あのー、何故こんな仕打ちを受けているか教えてくれないか?」

「今日、わたしの楽しみだった質問タイムを中断させた罰です」

「何で私まで……」

「けいちゃんはさっき共犯者だと自白しました。よって同等の罰を受けてもらいます」

「うう……。怨むぞ百代さん……」

 

 

 慶は正座をしながらしくしくと泣いていた。本当に涙を流しているかどうかは分からなかったが、悲しい気持ちに囚われて沈んでいるのは確かなようだ。

 対照的に、一向に反省の色も悲しみの表情も浮かべない百代。むしろ華月と話せている現状にご満悦の様で、重しが追加されたところでこの態度は変わらないだろう。

 

 

「ももちゃん、反省してる?」

「してるしてる」

「どう聞いても嘘だな」

「何か言ったか天野」

「いいえ、何も」

 

 

 百代と反発しあうように慶はそっぽを向いた。まだ知己の仲というだけで、親しいとまで言えない関係なのだろう。出会ってから一日どころか半日も経っていないのだから無理もない。

 しかし、それを見た華月が首を傾げた。

 

 

「珍しいね。ももちゃんが苗字で呼ぶなんて」

「さっき分かったが、こいつには妙な真面目ちゃん精神がある。あの京極と同じ匂いがする」

「何度も言わせてもらうけど、彦一も私も割と不真面目だからね」

「じゃあさ。アダ名で呼べばいいんじゃないかな?」

「「は?」」

 

 

 険悪なムードになりかけているというのに、華月はひどくマイペースだった。それがいいのか悪いのかはさておいて。

 

 

「苗字呼びだとその人個人って感じがしないじゃない? だからさ、せめてアダ名で呼ぼうよ!」

「いやその理屈はおかしい」

「親しみのない呼び方から一足飛びで親友の呼び方になっているじゃないか……。華月、君は昔から発想がずれているね」

「そう? 割と平均的だと思うんだけどな?」

 

 

 何が恥ずかしいのか、少し照れたように頬を紅潮させて頭を掻いている華月。慶と百代の心情は決して彼女を褒めたりはしていない。

 

 

「じゃあアダ名考えないと」

「……はぁ、もうアダ名でいいよ。どうする天野」

「生まれてこのアダ名なんてもらったことがなかったような」

 

 

 慶が何かを思い出す様に空を仰ぎ、アダ名があったかどうか思い出している様を見て、華月がふと思いついたように言う。

 

 

「苗字呼びをしようとしてることだし、(ソラ)でいいんじゃないかな?」

「なるほど、いいじゃないか」

「え、いいの? そんなあっさりでいいの?」

 

 

 予想外の速さでアダ名を決定した華月に、それを苗字呼びで駄々をこねていた百代がそれを快諾してしまう。それについていけず一人慌てている慶。

 

 

「いいじゃない。折角なんだし、今後もアダ名を聞かれたらソラって言えばいいじゃない」

「……はぁ、わかったよ。じゃあ、百代さん。今後はソラでよろしく」

「そうさせてもらおうか、ソラ。ところで、なんでお前華月と知り合いなんだ?」

「そうそう、私も気になっていてね。何故華月と知り合いなんだい?」

 

 

 仲睦まじそうに笑いあったり話し合ったり疑問をぶつけあったりしているが、約二名は未だにコンクリートブロックを足に乗せたまま正座をしている。

 

 

「ももちゃんとは従兄のお兄さんと色々あってね。ももちゃんがストーカーみたいに付け回してた時期があって」

「こ、こら華月! それは秘密だって言ったじゃないか!」

「けいちゃんとは家が近くて幼馴染だったんだけど、わたしがストーカーしてた時期があって」

「懐かしいなぁ。あの時の華月は必死だったしなぁ」

 

 

 ストーカー前科のものが二名いる屋上が、さらに気まずくなった。

 

 

 

 




 コラボ企画執筆中……

 よろしければご覧ください……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。