真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜 作:霜焼雪
中納言朝忠
「慶くんとの手合せは何回目かな?」
剥き出しになった上半身の肌にこびりついた砂を叩き落としながら、成実は問いかける。梓との試合の際に汗と共に張り付いてしまったのだろう。試合が始まる前に綺麗な体を維持しようとするその姿勢は、パーティー前に化粧室でネクタイを締め直す紳士のそれとほぼ同じだろう。
「三回目ですよ。大体ですが、二年ぶりの手合せです」
大道芸人のように、右腕一本だけで逆立ちしながらバランスを取り続けつつ、慶は返答する。風により多少揺れることがあっても、基本的にはぐらぐらとすることなく綺麗な塔のように芯の通った姿を演出している。
「もう二年経ったのか。時間の流れってのは早いもんだよね」
気づいたらもうすぐ三十路だ、と悲観的な物言いで憂いを表した成実だが、その顔は決して悲しんでいるようには見えなかった。時の流れの無情さを受け入れつつ、如何にも人生を謳歌しているような、明るい表情。
「成実さんみたいに九鬼でこき使われていたらより一層そう思うでしょうね」
やり甲斐しかないんでしょう? と確信を持った疑問を成実にぶつけた慶もまた微笑みを浮かべている。その奇妙で美麗な逆立ちから弾きだされた表情とはとても思えない。実に綺麗で奇妙な笑顔に対し、成実も一層爽やかな笑顔をぶつけた。
「大変だよ? 自分の趣味に費やす時間が少なくて困っちゃうよ」
「映画鑑賞でしたっけ。昔みたいに手当たり次第に見ている時間が無くなったようで」
まったくだ、と慶の同情の声に両手を上げ、やれやれと言った具合に成実は首を振った。仕方がないと分かっていてもやり切れないようだ。そのせいか、ほんの少しだけ成実の表情に曇りが生じる。
「だから最近は映画の元になった小説を漁るばかりさ。映像でも楽しみたいんだけどねぇ……。あの臨場感あふれる空間じゃないと映画って見る気にならないんだよ、俺」
「そういえば成実さん、映画館に行ってみるのが好きでしたね。それじゃあより時間は限られちゃいますね」
成実の趣味を知っているからこそできる哀れみだろう。その慈悲の帯びた視線は、成実の心に深くに突き刺さる。
しかし、そこから生じるのは痛みではない。深く徐にこみ上げてくる、感涙の熱だ。
「そう、そうなんだよ! 揚羽様にこき使われているからね、俺……。まあよっぽど見たい映画があった時は有給使ってるよ。この間使ったばかり!」
同情で親友を傷つけることと、憐憫で他人を癒すことは紙一重である。慶は後者を的確に選び行使している。
「へぇ、どんな映画ですか?」
「ヒトラー率いるナチス軍が時を超えて蘇って戦争する近未来SFと、結構有名な俳優がふくよかな女性役をやってることで話題になったミュージカル系統の映画」
「後者は私も見に行きました。よかったですね、あれ」
「ねー。二回見直したくなっちゃうよねー」
あはははは、と二人が声をそろえて笑う。内一人は引き締まった肉体を惜しげもなく大衆の前に曝け出し、もう一人はそろそろ頭に血が溜まってどこかの血管が裂けてしまうのではないか、そう不安に思うほど長時間逆立ちをしている。
観衆たちは珍妙な光景を目の当たりにしていた。
「どうでもいいからさっさと始めろマイペース共!!」
次に控えている百代が痺れを切らして大声で二人を叱責した。ただでさえ五十何人も待たされている上に、慶の前の梓の組手で十分少々取られている。前五十人近くの中には秒殺された人間もいるため、多少のゆとりがあるとはいえ時間が迫っているのもまた事実。
百代は残り時間全てを使って、成実との決闘を楽しむつもりでいた。
「いやはや、急かされちゃった」
「急かされちゃいましたね」
「「あはははは」」
「だーかーらー! 早くしろって―!」
そのため、二人が和やかに会話をしてしまったことにより決闘開始に遅れが出てしまうのは、百代にとっては由々しき問題なのだ。
百代の堪忍袋もそろそろ限界だろうと察した慶は、支柱としている右腕をグッと曲げて力を貯め、思い切り腕を伸ばして飛び上がる。そのまま空中で回転して綺麗に着地する。その光景に野次馬生徒たちが「おおーっ!」と感嘆の声を漏らした。
「始めましょうか。成実さん、十分も時間をくださってありがとうございます」
「梓ちゃんは延長だったけど、慶くんは気を抜いたら負けそうだからね。この二年間で更に強くなっていることを想定して、初めからフルブーストだ。エンジンも絶好調だ」
パァン! と成実は自分の胸を勢いよく両手で叩き、綺麗な紅葉を浮かび上がらせる。試合の初めから全力であることと、上半身がむき出しで試合を始めると言うことは彼にとって同義なのだろう。
それを理解している者は、この場において数えるほどしかいないため、観客は若干引き気味だ。プロレスでも見に来たのかと、野次馬学生は錯覚を覚えてしまう。
「私も温まってますよ。梓の言動に色々と振り回されたので……」
その錯覚から救い出してくれるのは、全身を真っ黒な服装で身を包んだ慶の美しさだ。体操着にも着替えず普段と変わらないような、指定の制服ではない私服に奇妙さを覚えるが、それは慶の美しさの前では些細なことだ。
大衆の好奇な視線を集めつつ、グルグルと右腕を回して準備ができていることをアピールする慶。
「専守していていいですよ。私から攻めますから」
慶はしばらく腕を回し続け、右手を自分の額に添える。成実はそれを見てにっこりと笑い、両腕の力を抜いた。互いに戦闘態勢に突入したと言う合図だ。
ルーはそれを汲み、敢えて名乗りを上げさせることも準備の確認もせず、右腕をすっと挙げた。
「それでは、五十三人目、開始ィ!!」
開始の合図とともに、慶はゆっくりと成実との距離を一歩詰める。攻撃してこないと分かっているからの行為、ではない。慶はこの上なく慎重に、呼吸を決して乱さず凛とした立ち振る舞いで成実に接近する。
確実な一撃を成実に与えるため、慶は敢えてゆっくりと近寄る。
初めから三メートル程しか空いていなかった距離だ。慶が成実を自身の攻撃範囲に入れることはさして困難ではなかった。
その射程は、開始時点から三歩前に進めば充分。
「しっ!」
額に添えていた右手を瞬時に左肩に乗せ、慶は体勢を低くしつつ左半身を突き出した。すると、芯のない布であった左袖がぐるぐると捻じれ、鋭利な棘となって成実に襲いかかる。
慶の袖の長さが伸びたように見えた。左の袖だけ伸縮性の高い素材を使っているのか、細く長くその棘は瞬時に伸びる。お祭りの出店で配られるペーパーローリングのように、勢いをつけてググッと伸びる。
その棘の腹を右手で掴んで命中を許さなかった成実。成実はこの棘という技にも、その手にある棘の感触にも驚愕を示す。
まるで鉄のように固く、それでいて折れるイメージが全くない。グッと握りしめ叩き折ろうとしたが、その作用点がすっと柔らかくなるのを感じた。軟すぎる蝋燭のようだと、成実は比喩的表現を絞り出した。
気を通しただけで物質的に変換された訳ではない、成実がそう判断できた時には、既に慶の第二の行動が開始されていた。
慶は袖の伸縮性を利用、さながら両手で伸ばしたゴムの片手だけ離したように瞬時に移動し、成実との距離を一気に詰めた。
――――慧紋の十法。
「初雪!」
右手を成実の頭に押し付け、かつて川神学園の校舎に蝸牛の殻の跡を付けたエネルギーをぶつけた。成実の頭部は思い切り仰け反り、成実の身体が後ろへ倒れていく。
しかし、成実の意識は途絶えていない。
ズン! という地鳴りと共に、成実の姿勢が固定された。膝を直角に曲げ、地面とは水平に膝から上の胴体を保つ奇妙な体勢だ。地鳴りの正体は、足の指を地面に突き刺した音。成実は踏ん張りを効かせるためだけに、足の指で地面に穴を空けたのだ。
並大抵の筋力や努力ではなしえない芸当だ。
――――あっぶね。脱いでおいてよかった。
ほっと一息ついた成実にダメージは見られない。確かに慶の攻撃が通ったはずだった。
「ぐっ……!」
しかし、表情を歪めているのは慶だ。
慶の右手を見ると、その掌がまるで火傷を負ったように赤く腫れあがり、所々に青紫の斑点ができている。内出血も酷いようだ。
梓が成実の攻撃を食らったのと同じように、慶にも成実の攻撃の爪痕が残る。
「よっ」
成実は力を抜いて体勢を崩し、空を見上げながら両手を着いて踏ん張りを効かせる。そのまま体を縮め、飛び起きる勢いで慶の腹部に蹴りを入れた。
――――爆発しちまえ!
右足の裏がきっちりと胃に食い込んだ瞬間、今度は成実が顔を歪めてしまう。慶の腹部がミチミチと音を立てて慶の脚に噛みつき、成実の攻撃を弾き返していたのだ。
「あれっ……!?」
「お返し、ですよ……!」
――――
慶は腹部に貯めておいた回転エネルギーを全身に再び廻らせ、成実の脚を自分の腹部から弾き飛ばし放り投げた。
――――
慶は成実が立ち上がるまで右腕を振って痺れを取っていた。
慶は気を流し込んでの攻撃、成実は気を爆発させる攻撃。どちらも体外に気を放出する系統の技であるため、相殺されやすい。現に、二人の負傷は派手に見えて体の奥まで届いていない。
慶は右手の掌を、成実は右足首から下を、それぞれ内出血程度の痛みで凌いでいる。
「本来なら、どちらかがダウンしていてもおかしくない威力の技の応酬だろう」
「なるほど、これではいつ決着がつくか分からないで候」
「そうなる要因は、何も技同士が相殺されやすいってだけじゃない」
観戦していた百代と弓子が慶の応援を兼ねて二人の戦闘を分析していた。弓子は慶の技も成実の技も初見であるために賛同や疑問が僅かに多いが、百代はどちらのスタイルも知っているため理解が早かった。慶とはそういう話も交えており、じゃれ合いつつたまに技を見せ合ったこともあった。
今回の戦いを最も的確に判断できるのは、気絶している華月を除けば百代に決まりだろう。
「二人とも、攻撃を食らった瞬間に反撃するカウンター技が多い。だから、攻撃が通るってこと自体があまりない」
「あの執事の技はそうだと先程聞いたが、慶も受身の技が多いで候?」
「あいつの技の半分以上は攻撃技じゃない。あの初雪、回転エネルギーを押し当てる技で大抵賄えるってのもある」
――――切り札があるとか言ってたが、これは言わなくてもいいだろう。
「実力は拮抗、そう見るか?」
「成実さんが上手だ。間違いなく」
弓子のちょっとした疑問に、百代は間髪入れず食い気味に返答した。少し睨みを利かせ、言葉と言う威嚇の刃を弓子に差し向けたようにも見えた。僅かだが、少し百代の覇気が籠っているように感じた弓子は思わず体を仰け反らせてしまう。
それを自覚した百代は一度咳払いをし、慶と成実へ視線を戻した。互いが攻撃を出せば、攻撃を出した方が苦しむ攻防戦。しかしそれでも、次第に相手へのダメージが通り始めているのを百代は確認できた。
「さて、どうなる」
百代がそう呟いた瞬間、慶の口が動いた。
――――攻め時だ、だと?
「慧紋の十法・
百代に伝わったと察した瞬間、慶は左の袖をぐるぐると回転させ始めた。プロペラのように回る慶の左袖を見て、成実は感嘆の声を漏らした。
「そこまで至ったか、慶くん」
成実の笑みの籠った表情が一変して鋭いものとなり、成実が舌をベロリと出して口の周りを這わせた。その行為に百代の背中に悪寒が走る。
そのルーティーンを見るのは、かつて相対した百代でさえ二度目だ。
――――成実さんが、受身を解いた……?
「それは食らいたくないけどね」
成実は両腕を開き、拳の開閉を繰り返していく。慶はそれを見てさらに体勢を低くする。右肩を前に出し、右手を再び額に添える。
あまりに常軌を逸した戦いに時間が早く過ぎたように感じた観客たちが、二人のにらみ合いでの時間消費にソワソワとし始めるが、制限時間はまだ半分も経過していない。
そのタイミングで、成実がオフェンスに移る。
「手脚纏闘・竹丸!」
熊手のように指を立てて腕を伸ばし、慶の右肩を狙った。反撃されることも分かっていながら成実は先に攻撃に移る。それほどまでに自信があり、恐れがある。
慶の肩に成実の手が触れようとした瞬間、慶が回避に移った。
慶は前に倒れ込む様に全身を屈ませ、回転する左袖に吸い寄せられるように――――後退した。
「っ!?」
成実の手は大きく空を切り、慶に無防備を晒してしまう。慶はそれを見逃さなかった。
慶は左袖の回転を緩め、全力で一歩を踏みこんで右手の掌底を成実の腹部に押し込んだ。慶も成実同様に、反撃を覚悟しての一撃を押し込んだ。
「慧紋の十法・
慶の左袖の回転がピタリと止まり、慶の右腕がギチギチと唸りながら震えていた。まるで、慶の腕と言う回し車を、全身の回転エネルギーの塊と言う小動物が、休むことなく走り続けて回し車をグルグルと回し続けているように、慶の手は激しく乱雑に回っていた。
その腕を押し当てられている成実の表情は、何かを吐き出すのをこらえているような痛苦の表情。余裕交じりの笑みも、快楽交じりの歪みも、何もかもを弾き飛ばされて苦しめられている。
成実の背中がゆっくりと丸くなっていく。綺麗な姿勢を保つことが執事の基本であるはずなのに、今の成実の姿勢は猫背で背骨に癖がついた人間のそれだ。
じんわりじんわり、成実の身体が慶の回転に蝕まれていく。
その猫背のような上半身の歪みがある一点を超えた瞬間、成実の背中からボンッ! とはじけるような音が響き渡る。それと同時に成実はこらえきれなくなって口を大きく開け、盛大に胃液を撒き散らした。
慶はそれを避けることなく、目も反らさずに成実の反応を窺っていた。胃液が頬に付着しようがお構いなし。ただその自慢の一撃が、成実を打ち取るに値したのかどうか、それだけが慶の頭の中を駆け巡っていたのだ。
慶の拳が震えている間、成実は声にならない声で唸っていたが、慶の腕が大人しくなったと同時にがっくりとうなだれてしまった。
――――…………勝っ、た……。
慶の背中や脇から大量の汗が滲み出る。それだけ一撃にすべてを込めたのだろう、慶の表情に疲労が現れる。脱力したまま成実から腕を引き抜こうと慶は一歩下がろうとした。
その瞬間、がくん、と慶の身体が引っ張られた。
「…………!?」
慶の腕が、成実から抜けなかった。力を入れれば入れる程、がっちりと固定されてしまった右腕は脱出できない。まるで万力にでも挟まれたように、慶の腕は締め付けられていく。
「……げぶっ、やっで、ぐれだ、ね……。がぁーっ、べっ!」
成実の口から赤黒い粘膜の塊が飛び出し、ぼしっ、と音を立てて砂に絡みついていく。成実の喉につっかえていた何かを、成実は豪快に吐き出して慶を睨み付ける。
慶の背筋に悪寒が走る。自身の最大の攻撃を受け止められ、なおかつ闘志の燃え滾った瞳を向けられたのだ。その野獣のような視線に、慶は戦慄してしまった。
「肉を切らせて、何とやら……!」
成実は慶の腕を両腕でがっちりと掴み、自分の腹からずるりと引きずり出す。慶は成実の掌から来る爆発のような攻撃の脅威を知っているため、掴まれた瞬間にぎょっとしてしまった。慌てて成実の拘束から逃れようと力任せにもがき始める。
その瞬間、成実は慶の腕を腹部から少し上に上げ、ふわっと自身の体を浮かせて慶の腕に巻きつく様に体を寄せた。左足は慶の首を刈る様に、右足は脇から下への退路を断つ様に絡め、がっちりと腕を固定する。飛びつく様に腕十字ひしぎに近い形を取った。蝙蝠のように宙ぶらりんになった成実を、回転エネルギーを放出してしまった慶はどうやっても引き剥がせなかった。
通常の腕ひしぎと何が違うか。慶は本能でそれを察していた。これは腕を伸ばし固定したり、靭帯に損傷を負わせたりするような目的で放たれた技ではない。
これは、“成実の肌が多く張り付くことを目的とした”絡み技だ。
「手脚纏闘・
ボボンッ! と慶の腕から複数の爆発音が響いた。
「あっ、ぎぃい!!」
慶の表情が苦悶に歪む。全力を出し切った後に食らった攻撃、慶に反撃や防御を取る時間や余裕はなかった。
しかし、脱出の時間を作ろうとすることはできる。慶は乱れてしまった呼吸を即座に整え、再び体中に出しきってしまった回転エネルギーを蓄え始めた。
「は、初雪っ!」
「おっと」
慶の右腕が激しく震える寸前、成実は慶の腕を離して地面に両手を突き、新体操のように軽やかに跳ねて両足を地面につけた。それを確認することなく、慶は再び回転し始めた左袖を、先程動揺棘のように伸ばして連続で突き出していく。
それを紙一重で回避していく成実。上半身は服を着ていないため、当たればその時点で出血だ。それほどまでに鋭い慶の左袖のラッシュを、棘の腹を弾きつつ成実は再び接近していく。
速度が足りない、威力が足りない、焦燥感に支配されかけている慶は成実に対してさらに攻撃の手を早めていく。布の棘の突き出しから引き戻すまで時間を削り、より空気抵抗をなくすために回転で袖を絞っていく。硬く速く鋭い、アイスピックのような茨の
成実はその棘を弾いたり叩き折ったりすることはなく、自身にその連撃が当たる瞬間に棘を掴み、爆発させた。
「っ!?」
袖の棘はあっさりと瓦解した。最早袖とも言い難い、布の残骸となってしまった棘を成実は廃棄した。慶は成実の手脚纏闘によって破壊された袖に再び気を通して回転させようとしたが、袖は息絶えたようにピクリとも動かない。成実の気の残滓によって美しさを重視した慶の気が通おうとしないのだろう。
慶は舌打ちをし、痺れて感覚が麻痺しかけている右腕を乱雑に扱って自身の袖をビリビリと引き千切り、最も気が伝わりやすい右の掌から直接気を送り込み、袖に気を全力で送り込み棘を作る。
慶はそれを宙に離し、回転エネルギーの爆発力の籠った掌打で弾いて発射させた。古代ローマのジャベリンの如く、棘は成実に回転しながら突進する。その速度は空気を切り裂き音をも超えた。
ブチブチッ! と慶の右腕から引きちぎれるような音を響かせた。
成実の爆発により既に内部がズタズタに引き裂かれていた右腕にさらに負荷がかかった結果だ。この組手において、慶の右腕が自身の攻撃に耐えられる可能性は限りなくゼロとなった。もはやただ肩に張り付いた装飾品にしか過ぎない。
――――手脚纏闘・
決死の覚悟で放たれた棘を、成実は気をため込んだ手刀であっさりと切り裂いた。
切り裂かれた槍は空中で分解され、ボボン! と爆発しながら木端微塵となった。慶の気が通わず無理な速度で発射された布がそれに耐えられるはずもなく、もはや袖とも布とも言えない塵屑へと変換させられる。
成実はもう中距離の攻撃が来ることはないと判断し、再び攻撃の姿勢へと転じた。
素足となった右足の親指の付け根から気を爆発させ、慶の懐まで一気に飛び込んだ。それと同時に、熊手のように指を尖らせていた右手を慶の頭部に目掛けて押し出した。
「竹丸!」
がっしりと標的を掴んだ成実の右手が爆発し、対象の神経や血管を引き裂いた。
――――まだ、終われない。
その爆発の感覚に、最も驚愕しているのは成実だった。
慶の頭部を確実に掴んだと思ったその右手には、既にボロボロで痛覚すらまともに残っていない慶の右腕があった。
先程の槍の射出を最後に装飾品と化した右腕の、最後の意地、最後の役目。
――――全治、何週間かな……。
慶は全く力の入らない右腕を握ったままの成実に向かい、上体を反らしながら勢いよく飛び込んだ。
何が来るか分からなかった成実だが、攻撃の直後の硬直と不意を突かれたことによる動揺で瞬間的に空白が生まれてしまう。思わず、慶のその汗と血を散らす跳躍に見とれてしまっていた。
「づぁっ!!」
呆けてしまった成実の頭に、我武者羅に吠えた慶の頭部が加速を付けて激突した。
同時に、ヘッドバッドに込められていた回転エネルギーが成実の頭部を細かく激しく規則的に揺さぶった。頭部に打ち込まれた回転エネルギーは成実の脳漿をシェイクし、チカチカと成実の視界を点滅させる。
「う、ぉお――――」
揺れ続けて嘔吐を誘発しようとする気持ちの悪さを抑えるべく頭部を手で押さえつつ、ふらふらとよろめきながら数歩後退していく成実に、満身創痍の慶が追撃を仕掛ける。
成実の視界が成実自身の手で塞がったその瞬間に、成実の胸部に自身の左肩をグッと押さえつけた。
「は、つ、雪ぃっ!!」
回転エネルギーをさらに成実に叩きこんだ。回転エネルギーは肋骨の隙間を蛇のように掻い潜り、体の中心で気まぐれに爆ぜていく。
頭も胴体もかき乱され、まるで体中の臓器が溶けてしまったのではないかと思わせるほど熱く、苦しい嘔吐感に見舞われる成実。目もぐるぐると回り、視界が安定しないこともまた嘔吐感を助長させているのだろう。焦点が合わないという問題ではない、視界が固定できないのだ。
蓄積されたダメージなどどうでもよくなってしまうほど、成実は精神的に苦しめられていた。
好機、そう感じた慶はボロボロの身体で再び回転エネルギーを呼吸によって練り出していく。後一撃、打ち込むことができればこちらの勝ちだと見切った慶は成実に突撃した。左肩に溜め込んだ捻じ込むような回転を、成実の胸部に再び押し当てようとした。
――――回避の、必要、なし。
その瞬間、成実はぐるりと瞬時に身を翻し、慶の右肩を自身の背中に充てさせ回転エネルギーを打ち込ませた。
「しまっ――――」
その状況下、慶は絶望的な表情を浮かべた。誰しもが慶の勝ちを確信したその光景の中、勝者のようにふるまい始めたのは――――攻撃を食らって無様にも吐き気に苛まれていた成実だった。
成実は今までの嘔吐しかけの行動はまるで演技だったかのように思わせる程軽やかに慶と向き合う様に振り返り、全てをやり切ったスポーツマンのよう爽やかな表情をその顔に張り付けていた。
「焦ったね?」
成実は後退していく慶に対し、年上の威厳を見せるように苦言を呈した。
「右回転ばかり捻じ込んだらダメだと、お師さんが言っていなかったかい?」
「く、う……!」
「ヘッドバッドと追撃の初雪、どっちも右回転で確かに増長する。けど、正面から打ち込んだ右回転に対して背後から右回転のエネルギーを打ち込んだ場合、それが綺麗に衝突しちゃったら相殺されちゃうじゃないか。初歩中の初歩だったはずだ」
「はっ……あぅ……」
「あそこでのベストは、捻方喰か逆回転の初雪だろうね。真正面にぶつかることがなければ、不規則性の回転を生み出す。今回の敗因は、慶君の
慶にだけ聞こえるように、成実は掠れるほどか細い声でそう言い放った。慶はその講釈に対し、激しい“何か”を覚えた。
「言うな――――」
慶の殺気が、黒い感情が、暴発した。
成実の指摘したその弱所は、この学園に入学してからまだ誰にも話していないこと。ほんの僅かでも聞かれてしまえば、慶の考えていた学園生活は根本から崩壊してしまう。慶はそれを隠し通すことで、普通の友人たちを作っていた。
しかし、目の前の旧知の男はそれを言い放った。慶が一点だけ感情的になるのも道理であった。
ところが、成実本人には何の悪気も意図もなかった。ただ、焦燥感に駆られてしまったところを改めればいいと言いたかっただけだった。それなのに、慶はそれを深読みしてしまったのだ。
成実の発言は偶発的に慶の感情を抉りだした。怨みと言う黒く重い感情を、掘り返してしまった。
「――――」
疲労困憊の身体を突き動かし、感覚が遮断された右腕を稼働させる慶の黒い感情に、成実は思わず恐怖を覚えた。
――――勘違いって、恐ろしい。
その恐怖はどこか見当違いな恐怖心であった。勘違いと言うこの現象が起きた原因に恐怖を覚え、目の前の獣に何の恐怖も抱いていない。
その自身は、慶が感情的になってしまったことにある。
「そうなっちゃえば、慶君は弱くなっちゃうからなぁ」
その言葉を引き金に、慶は鉄砲玉のように飛び出して成実に襲いかかった。その特殊な本能の獣に対する成実の対処は実に簡潔だった。
成実は素早く腰のベルトを外し、慶に向けて投げつけた。慶はそれを乱暴に右腕で弾く。
その直後に慶が目にしたのは、真っ赤なブーメランパンツ一丁で猿のように飛び掛かる成実の姿だった。
成実は慶に抱き着き、両腕と両足で互いの体を密着させたまま固定し、ニヤリと笑う。
「手脚纏闘・蔓丸!」
ボボボボンッ!! と成実の身体から生じた爆発が慶の全身を暴力的に襲った。
「がっ――――」
全身に襲いかかった内部破壊に、慶の意識は途絶えてしまった。絶叫も上げられず、吐瀉物を吐き散らすこともなく、慶はふっと気を失ってしまった。
「いやぁ、危なかった!」
清々しく汗を拭く成実のブーメランパンツは、汗を弾いて陽光をキラキラと反射させていた。
わたしたちには今日も明日も困難が待ち受けているが、それでもわたしには夢がある。
キング牧師
――――――
いつまでも宣伝文句を書いているようでは駄目だと開けたので、いつも通りにしていこうと思います。
こちら、よくお祝いの文章などで使われるそうですね。キング牧師のお言葉なので、お祝いの場以外でも耳にしたことがある方は多いように思われますが……。
ヒャッホー!! スリーサイズ公開だぁ!!
失礼いたしました。それでは気を取り直して、
公開順から言ってじっくりねっぷりたっぷりとろり、シェイラ・コロンボちゃんのスタイルを見ていきましょう。
シェイラ・コロンボ
163cm B85 W53 H84
うーん、実に引き締まった肉体ですね、と世辞でも言いたくないくらいにはウェストが細すぎます。どれくらい細いかを、折角なので同じ身長の三人と比べてみましょう。
南條・M・虎子 56
李初静 58
クリス 58
うひゃあ、これは細いですね。というか作中ナンバー2のウェストの細さ(第1位は不死川さんの52)、という時点で如何に異常か分かっていただけたかと……。
さあ、そのウェストの細さも相まってか、推定バストカップは堂々たるF。アイドルってすごいです。
まあ、結果は作中最下位です本当にありがとうございました。
バストとウェストの比率、これで過去最低評価を出したのが痛かったですね。(バスト)÷(ウェスト)≒1.37であるのが究極だと言われています。今までの審査では、そこから大体誤差は1.5~2.0cm以内に抑えている結果だったのですが、シェイラちゃんの値は1.60!
たまげたなぁ、というやつであります。
あ、そういえばシェイラちゃんといえば因縁のステ公との対決がありましたね。
シェイラちゃんは五項目の内四項目(お尻は美しかった)負けているので、どうぞお帰りください。
ステイシー「いやまあ、私もそんなにいい評価じゃないけどよ」(17/25点)
シェイラ「ナイフで抉られなきゃ勝ってたに決まってる!!」(10/25点)
予告、母よりすぐれた娘なぞ存在しねぇ!!