真剣で私に恋しなさい!S 〜春霞の月、秋露の花〜 作:霜焼雪
作者不詳
川神学園校舎の屋上、ベンチの上で膝抱え、顔を伏せたまま動かぬ一人の少女がいた。ただ暖かな陽気に当てられ睡魔に襲われているだけかもしれないが、少女の纏う空気はそのような温和なものではない。
少女はピクリとも動かない。ずぶずぶと沈んでいくような感覚に身を委ね、溶けて消えいってしまうことを望んでいるかのようだ。生気も覇気もなく、ただただ自ら世界から隔絶する。
校舎の下は騒がしい。校庭がその喧騒の中心、そこから渦となって学園全体を揺るがしていた。
ある者は絶叫し、ある者は乱舞し、ある者は動揺していた。てんやわんやと言った具合に学園は混乱に巻き込まれていく。
誰かが少女の名を呼んだ。喉を酷使し掠れた大きな声で叫んだ。
誰かが少女の名を呼んだ。迷子の赤ん坊を探すように叫んだ。
誰かが少女の名を呼んだ。一人ぼっちになってしまった孤独を振り払うように叫んだ。
少女はそれらから乖離する。自ら望んでその声を遮断する。我関せずと言った具合に無反応を決め込んでいた。少女はピクリとも動かない。
喧騒が時間経過とともに膨れ上がり、刺々しく痛々しい凶器へと変貌する。毀誉褒貶の竜巻は少女の身を切り裂く。そうはさせじと少女は殻を強くする。
ギリギリと力のこもる両腕に、膝がギチギチと悲鳴をあげていく。
放っておいてくれ、構わないでくれ、探しに来ないでくれ、そう言わんばかりに少女は自分を堅くする。気配を極限まで小さくし、雷様に怯える臆病な童のように、襲い来る恐怖を堅忍不抜の精神で耐え抜いていく。
「見つけたよ」
少女の背後から、優しい声がかけられる。暖かく、優しく、心が安らぐ甘美な囁き。少女はこれに似た声を知っている。頭を撫でられながらよく褒められた、自分の敬愛する人物の声。
「……成実、さん……」
「顔は上げなくてもいいよ」
必死に取り繕うとしていたことが筒抜けだったのか、少女は上げようとした顔を再び膝に沈ませた。
少女の背後から聞こえる宥めるような声は、少女の殻ごとをゆっくりと包み込む。
「みんな探しているよ」
「知ってます」
「みんな待っているよ」
「知ってます」
「それなのに、動こうとしないね」
「……今更、ですよ」
少女は自身を探している者たちに背を向ける。
「私は、逃げたんだ」
少女が屋上に来る数分前、校庭で隻腕の戦士と露出狂執事の激闘が繰り広げられていた。一人は残された右腕が無残な姿になるまで、もう一人は下着以外の衣服をすべて脱ぎ捨てるまで戦った。互いが本気をぶつけ合った、訓練の範疇を超えた決闘だった。
片や少女が見つけた好敵手となり得る可能性のあった選手権、片や少女が心身共に尊敬する兄貴分。その二人が互いに本気を出し、訓練を決闘にまで押し上げていた。
ずぶずぶと、少女の視界の端が黒く滲んだ。
半紙にこぼした墨汁が染み渡るように、少女の右目が黒く黒く滲み沈んでいく。少女の頭は混乱に支配され、なかった。
少女の脳を埋め尽くしていたのは、無意識に生産された黒く汚い感情。
気が付けば、少女の司会は暗黒に塗り潰されていた。
それに耐えきれなくなり、少女は頭を押さえ吐き気を抑え、傍観席から姿を消してしまった。待ちに待った成実との組手を目の前にして、少女は脱兎した。
噂好きの生徒は武神の敵前逃亡と叫び誇張する。学園中が授業も何もかもを放り出し、狂喜乱舞した。武神の初の敗北だと、学園中が混乱の渦に巻き込まれた。
そして、その渦中の人物たる少女は見つかってしまった。
「何で逃げちゃったのかな」
「……」
「無理をして答えなくてもいいよ」
顔を上げなくていい、見せなくていい、こちらを見なくてもいい。譲歩に譲歩を重ねた、あくまでも少女を配慮した物言い。
「――――分かってるんですよ。何で逃げたかなんて」
その温和な空気に、少女の殻が割れずに解け始める。殻自体が薄く薄く、厚みを失い外界との壁を消し始めている。
くぐもった声のまま、少女は言葉を紡ぐ。
「成実さんは、私を満足させてくれた最高の武人でした」
少女は幼い頃、戦闘意欲に駆られやすい不安定な精神状態だった自分を支えてくれていた兄貴分の姿を思い出していた。
出会って直ぐに強者だと分かり襲いかかり、当時まだ未熟だったために生じていた隙や油断を突かれて膝をついてしまった、苦い敗北の味。負けなしだった彼女の戦績に付いた、初めての黒星。純白だった彼女の道に付けられた穢れの色。
初めて泣いた、初めて悔しがった、初めて地を見つめた。
少女の過去を振り返れば、どこから見ても必ず目につく敗戦だ。
「辛酸を嘗めさせられた、ってのはあのことを言うんでしょうね」
黒星、というのは少女の一生に着いて回る。それがたったの一つであればなおのことだろう。師と仰いできた自身の祖父とのまともな対決もなかったこともあり、真剣な勝負で敗北を味わったのは初めてだった。
それを経験したことにより、少女の修行に対する姿勢が強固になった。固より真面目にこなしていた修行に対する心意気が、熱くなったのだ。師範代になり壮大を継ぐ、といった未来の話ではなく、現時点における明確な目的が見つかったと言えば分かりやすいだろう。
リベンジマッチ。再戦を挑まれる側から挑む側へ移り、再戦を願いひたむきな姿勢を取り戻した人間は、強い。
「熱が入りましたよ、あれからの修行は」
我ながらビックリです、と苦笑する。
「それなのに、川神からいなくなっちゃって、ずるいです」
再戦を願った相手は、川神どころか日本を飛び、世界中を駆け巡っていた。大企業の従者部隊に所属したため、各地へ引きずり回されることとなっていたのだ。少女もよく知る際企業が誇る最強の従者が新しい玩具を見つけた子供の様に、少女の思い人は振り回されていたのだ。
固より件の人物は見聞を広げることを望んでいた、望まれていたこともあり、喜んでボロ雑巾のようになっていた。そして帰ってきたのは、ある人物の従者となることが決まったからだというが、それをまだ少女は知らない。
「それでようやく、新しいライバルになってくれそうな人を見つけた」
少女は記憶を進める。
桜の花びらが散る学園内での運命的な邂逅。芯の通っていない片袖を春風に靡かせ、見る者を圧倒し震わせる美しさを備えた武人との出逢い。
「見惚れてしまいましたよ、恥ずかしながら」
立ち振る舞いから所作に至るまで、彼の人の全てが美しいと思ってしまった。儚げな表情、おぼろげな輪郭、とても同い年とは思えないような雰囲気を纏った彼の人は、まるで絵画の世界からポンッ、と飛び出してきたかのような異常性を孕んでいた。
思わず手を出してしまったところから、少女と彼の人の歯車は回り始めた。
「アイツの話を聞いてると、ワクワクしていた自分がいたんです」
ギュッ、と少女の腕に更なる力がこもった。
「川神院に来て、師範代たちの立会いの下で決闘してくれるって、約束までした」
華月の了承もしっかり得ました、震える声を絞り出した。
「それで今更帰って来た成実さんに目移りした、バチが当たったんですかね」
少女は殻の奥深くに再び籠り始めた。
「…………逃げ出しました。あそこにいたら、どうなるか分からなかったから!」
顔は決してあげないままに、少女は声を張り上げた。声は震えたままだが、その震えは大きな震動となって周囲の空気を揺らす。
「ソラと成実さんが戦っている姿を見て、私は気が狂いそうだった……!」
膝を抱えていた両手で顔を覆い隠し、嘆く少女。
「“なんであそこにいるのが私じゃないんだ”って思った。すぐにでも自分の手番が回ってくるのが分かっていたのに、訳が分からなくなった。待ちきれなかったとか、そんなちゃちな話じゃない。今にでも殴りかかりそうだった!」
遂には両手で頭を抱えてしまった少女。自分が一体どうなってしまったのか、全てが未経験のことで困惑しているのだろう。
「誰に殴りかかるかも分からなかった! 師範代だったかもしれない、ソラだったかもしれない、成実さんだったかもしれない、全く関係のない梓や華月だったかも――――」
遂には体までも振るわせ始めた少女の頭を、ポンと声の主が叩いた。
その温かみと軽い衝撃だけで、少女の震えが僅かに収まった。震えを押さえられていると言うわけではないのに、触れられているだけで何故か安堵してしまう。
慰めてくれている、そう思っていた。
「…………二つ、聞かせてほしい」
声の主が少女の頭をワシワシと撫でながら問いかける。
「一つ。そのドス黒い感情が一体何か、分かるか?」
がしっ、と頭を掴まれたような錯覚が少女を襲った。声の主の手は一切動いていなかった。それなのに、頭に襲い来る圧迫感、心臓を締め付けるような閉塞感、極限まで圧縮されてしまいそうな息苦しさが少女に襲い来る。
呼吸ができない、顔も上げられない、金縛りのような感覚と呼吸困難の併発。少女の身体が正しい機能を果たせなくなっていく。
「これは答えてほしい。分かるかどうかでいい」
声の主の優しさの裏から、氷のように冷たい刃がずるりと這い出る。隠れていた凄烈な言及が鎌首もたげ、欲望と言う名の蛇となり少女の身体を束縛する。
「分かる、と言っていなかったかな? 確認にすぎないのだが」
答えようとしても答えられない。答えたらそこで何かが終わってしまうような気がしてしまったから。
「二つ。どっちにその感情が向けられたのか、分かるか?」
殻の内側から、少女の身体が傷つけられていく。どこから湧き出たか分からない百足のような言葉の主の言及の権化が、少女の身体を引き裂き、縛り、食い破る。
少女の殻の中は少女自身の体液で満たされていく。束縛、耽溺、放濫、裁断、おおよそ生身に襲いかかっては人格すら崩壊しかねない麻薬のような痛覚だけが、少女の心身を蝕んでいく。
「はい、か、いいえだよ」
少女の苦しみを理解しているはずの声の主は、その冷たい言葉による取り調べは終わらない。幻のような痛覚に苛まれ委縮してしまった少女に強要される返答。冷酷無比で用語の使用もない、性質の悪い虐めに過ぎない。
少女の答えは、口から発せられない。
「“
答えは分かっている。しかし、答えられない。
何かが終わってしまうような錯覚、それは間違いなくこの質問の主からの威圧、そう考えていた。
「こちらからは何もしていないよ。君が感じているそれら全ては、強者に振りかかる試練が体現化された
少女の思い込みを全て理解したように、君が育てたものだ、と声の主は語る。
「それら全てを受け入れることで、君はまた一つ強くなれるんだ」
「え――――」
「壁を越えたことは素晴らしい。けど、それだけじゃ高みには登れない。壁を壊し超えるんじゃない、飛び越えるんだ」
「な、に――――」
何を言っているんだ、そう問い質そうとしても少女の心がそれを許さない。声の主の言う通りであれば、少女の心の中から這い出た怪物に抑制されてしまっている。
「分からないのならば、ヒントを提示しよう」
声の主はぐっ、と少女の頭を強く押し込んだ。
「君がようやく気付いたそれはね、緑の目をした怪物なんだ。君の心を嬲りものにしてしまう、それはそれは恐ろしい怪物だ。それを手名づけてようやく、君は一つ目の質問を乗り越えられる」
かいぐりかいぐり、少女の頭が遂に両手で弄られ始める。少女はされるがまま、怪物に犯されつつその言葉に耳を傾けるしかなかった。
「そして、君は痛感するだろう。他人の持つ花は得てして大輪に見えるということをね」
最後に一つ、そう付け足して、
「さて、ここまで君を慰め苛めてきたぼくは一体誰でしょう」
少女の頭から重みが消えた。少女は咄嗟に顔を上げる。
そこには少女以外は誰もいない。
残されたのは、少女から生まれた緑眼の怪物だけだった。
◇ ◆ ◇
「進展はどうだい?」
「それが、学園中探したはずなんですが、手掛かりすら……」
てんやわんやの騒ぎとなってしまっている川神学園内部、川神百代の捜索にあたっていた慶と成実が途中の捜査報告をしていた。
慶と成実の組手が終わった瞬間、何も言わず霧のように消えてしまった百代を探すべく成実は駆け出し、気絶していた慶、梓、華月、虎子の四人と、傍観していた弓子を加えた六人が学園中を駆け回っていた。
時には授業中の教室に入り込んで掃除用具入れを開けたり、時にはさまざまな部活の更衣室に忍び込んだり、ありとあらゆるところまで捜索の手を伸ばしていた。
学長からの許可は取ってあるものの、彼らの捜索はどこかぎこちない。遠慮や気恥ずかしさがあるのだろう。
――――そこまで心配することではない。ひょっこり戻ってくるじゃろうて。
帰ってきたら仕置きじゃがのう、と楽観視していた学長は動こうとしなかった。学長だけでなく、今動いている六人以外は誰も捜索に精を出していない。
武神のことだから問題はないだろうと、やはりどこか百代を別世界の人間と捉えている生徒が多すぎるのだ。
「それにしても薄情なもんだ。そういうことしてるから、百代ちゃんは寂しい思いをしているって言うのに」
「信頼しているんですよ、きっと」
「それでも、褒められたもんじゃないね。もっとも、学長が探さなくてもいいと言ってるのもあるか」
僕なら注意されていても探しに言っちゃうけどね、そうおどけて見せる成実だが、その内心は穏やかではないだろう。額から滲む汗が彼の焦燥を示している。
「それにしても、どうしたんでしょうね……」
「うん、心配だね。急にいなくなっちゃうんだから」
「成実さん、心当たりはありますか?」
「こっちが聞きたいよ。こちとら百代ちゃんにあったのも久方ぶりだよ?」
慶の疑問に対する答えは持ち合わせていないと言わんばかりに両手を挙げた成実。情報があまりにも不足している、それほど突然で不可解な失踪なのだ。
「そういう慶くんこそ、同じ学園生だよね? ここ最近は何もなかった?」
「私の方も特に何もありませんよ。ようやくあだ名で呼んでもらえるようになったと言う程度で変化はそれほど――――」
「ほう、あだ名」
ギラリ、と成実の瞳が獲物を見つけた猛獣のそれのように光った。
しまったと思い口を右手で塞ぐも時すでに遅し、成実の好奇心の矛先は慶と百代の関係性について向けられた。
「ニックネームってやつだね。どんなのなんだい?」
「……そ、ソラといいます」
「いやはや、ソラくんかぁ、ふむふむ……。いいんじゃない?」
「何をにやけているんですか、気持ちの悪い」
「ごめんよ。あだ名、なんて言葉自体が意外だったし、嬉し恥ずかしニックネームを赤裸々に語ってくれると思ってさ」
――――何故あだ名程度のことを赤裸々に語らねばならないんだ……?
「成実さんのところの華月の命令ですからね、このあだ名も」
「あはははは、妹分が迷惑をかけているようだね」
「楽しくやらせてもらってますのでご心配なく」
「そう言ってもらえると兄貴分としては何よりかな。いやぁ、うん、ははははは……」
そこで慶がようやく成実の奇妙な態度に気づいた。何かをごまかす様に話題を無理やり変えているような違和感が、成実の作られた笑顔から滲みだしていた。
「どうかしたんですか?」
「う、うん? ああ、その、ね……」
それを追求された成実は言葉を詰まらせてしまう。余程言いにくいことなのだろうか、言葉を選んでいると言うよりは、言うべきかを迷っているようだった。
十数秒の間成実は唸る様に頭を捻らせ、慶の姿を見つめて覚悟を決める。
「慶君になら言っても大丈夫かな、口は堅そうだし」
「自慢じゃありませんが、自分のこと以外はそうそう洩らしませんよ?」
「誠実を絵に描いたような優等生だもんね、ご近所じゃ」
余計なことは言わなくてもいいです、と呟いた慶は不愉快そうな表情を浮かべていた。
「…………ちょっとカッコ悪いこと言わせてもらうけど、今回の決闘、不戦勝でよかったと思ってるんだ」
そして成実もまた、隠してきた感情を赤裸々に告白する。慶とは程度が違う、己の自尊心全てを擲っているような発言に、慶も思わず驚愕を顕にする。
「……今、なんと?」
「百代ちゃんが逃げてくれて助かったってことだよ」
もう一度言おうか? と成実はおどけて見せる。一切表情を崩さず言ってのけた成実に対し、数瞬遅れて慶は成実の行動に恐怖を知覚した。
慶の知る成実と言う人物は、それこそ誠実を絵に描いたような人物だった。口にするだけの正義よりも行う偽善、それを素でやってのける性善説の体現ともいえるべき人間が、戦わずして勝利したことを悔しがらず残念にも思わず、喜んでいたのだ。
成実と言う人物像がガラガラと崩れていく。
「百代ちゃんはさ、俺のことを過大評価してるんだ。俺はこんなにも弱いのにね」
戦った慶くんならわかるだろう? 成実は慶にそう問いかけた。
――――確かに、百代さん以上とは言い難い。
慶は成実との決闘を振り返る。確かに一般人とはかけ離れた矛盾の武術、手脚纏闘を扱う成実は十分に壁越えと評価されることだろう。九鬼従者部隊の戦闘指南役、従者部隊零番の玩具と成り得る程度には異常人だ。
しかし、川神百代は明らかに別格だ。それこそ、現段階で彼女は部の頂に差し掛かっている。実の祖父であり師である川神鉄心や、先述した従者部隊零番のヒューム・ヘルシングに追いつく勢いだ。そこに割り込める若者を慶は知らない。そこには成実すら至れない。
だからこそ、武神に対する勝利と言う箔が付いたことに喜んでいるのだと、成実を批判的に判断していた。
「もう少し成熟した頃に俺を倒してもらわないと、精神が不安定になっちゃうだろうからね」
「……え?」
その判断が誤りだと気付くのは、成実の真の赤裸々な告白を聞いてからだった。
「この時点で負けちゃったら、彼女には好敵手がいなくなる。由々しき問題だよ、狂戦士になりかねない。俺は多分これ以上は奇跡でも起きない限り強くなれそうにないし、好敵手として返り咲くのは不可能だ」
「……そんな、謙遜は」
「謙遜じゃないんだ、これがね。ヒュームさんにも言われたもんさ。自分でもよく分かってる」
自身の弱さを語るのはこれが初めてなのか、清々しい顔で慶に悩みを打ち明ける成実。とても年上の兄貴分とは思えないような、弱弱しい発言だ。
必死に体裁を取り繕うように誠実ぶっていたのはどれほど窮屈だっただろう。今まで必死に打ち立てて来たもの全てを否定する存在に、何度心が折れたことだろう。自覚はせずとも、体は苦痛だったはずだ。そう生きるべきだと心が思っていても、体は着いてこなかったことだろう。
その事実が、初めて明るみに出た。
「百代ちゃんの精神安定役、なんて学長に言われた瞬間に決意したよ。いつか惨く負けなきゃいけないって」
こんな弱い俺には荷が重かったけどね、と苦笑する。
「けど、負けるにはまだ早いんだ。今負けたら間違いなく、百代ちゃんは不安定になっちゃう」
「そんなに、責務を背負う必要はあるんですか?」
「あるよ。そうしたいし、そうしなきゃいけない」
文句の一つも言わずに受け入れている成実に疑問を持った慶だったが、その疑問は一切解消されない。
慶の理解の及ばない聖人君子のような考えを、成実は素で行うからだ。
「それで、いいんですか?」
「うん。あの子がまともな道を歩んでいけるなら、僕は喜んで犠牲になるさ」
――――死んでしまうかもしれない。
そう口に出すことなく言葉を飲み込んだ慶だったが、それを感じ取った成実は爽やかな笑顔を浮かべる。
「僕は人のために死ぬために生まれてきたんだからね」
成実は臆せず、誇らしくそう語った。
◇ ◆ ◇
「飛翔はせず。そう簡単にはいかないものだね」
「飛翔?
「くだらないことだよ、ほんのちょっとしたお遊びさ」
「お遊びなのか、ふむ、興味があるね。一体何かな?」
「興味を持つようなことじゃあない。
「どういうことかな。わたしなら尚のこと、というのは」
「
「勿論、
「なんだ、昔のことをまだ気にしているのかい? もう千年近く経つと言うのに」
「気にしているなんてもんじゃあない、千年経ったところで収まるはずがないよ」
「嫌気がさしたまま、か」
「嫌気しか存在しないさ」
「いいところもあると思うのだけれど? 人間は欲望に忠実で」
「そんな考えは持てない。欲望に忠実なのが理想だと言うなよ」
「悪いね、千年前からこんな考えで」
「本当に、気味の悪い考えばかりだ」
「「そんな考えのせいで
「おいおい待ってくれ、ぼくが悪いみたいな言い振りはよしてくれ」
「いやいやそっちこそ、何故わたしが一番悪いとされているんだ?」
「よし、じゃあ弔いを兼ねて、この件に関してどちらが悪いか決めようじゃないか」
「上等だね。今日という今日は、この不毛な引き分け合戦に終止符を打ってやろう」
それは緑色の目をした怪物で、ひとの心をなぶりものにして、餌食にするのです。
シェイクスピア
―――――
大変長らくお待たせいたしました。二か月近くの遅延をお許しください。
二か月も空いてしまったこともあり、書き方や書きたかったことがポッカリと消えてしまっていたので、必死にプロットを拙い記憶を手繰り寄せ書き起こし、何とか投稿まで至った次第であります。
百代が逃げ出した、という要約ができます今回ですが、別に百代アンチという訳ではありません。どちらかと言うと百代推しな作品にしたいと思っております。それなのにこの仕打ち、決して百代批判ではないので、悪しからず。
MNSコンテスト延長二回。今回はボディーガード職に就くビジネスレディー、松永ミサゴさんです。
松永ミサゴ
B82 W57 H81
……どこかで見たことあるスリーサイズだな、という第一印象でした。そんな、スリーサイズに既視感が覚えるほどこんな変態的なことを繰り返してきたわけではないのですけどね。せいぜい200人くらいしか調べていないので。
きっと見間違えでしょう。よくあるウェストです。56~58はメインヒロインの風格漂うサイズなのでデジャブなどではありませんよ。
葉桜清楚
B82 W57 H81
楊志
B82 W57 H81
既視感以外の何物でもなかったです。それも二人もいるなら納得の既視感。
なるほど、だからあまりはしゃげなかった訳ですな。真新しさを感じなかったので……。あ、辻堂さん一派のような化け物スタイルは帰ってください。
総評はBBBSBの17点でBでした。うむむ、何とも言えない、当たり障りのない体型……。
ああ、なるほど。この世界における普遍的体型を作り出すことで強さを隠し相手の油断を誘う、こす狡いぞボディーガード、汚い流石松永汚い(褒め言葉)。
松永燕
B83 W56 H85
CCBCC 11/25点
それでもきっちり娘には勝っているので、流石と言わざるを得ないですね。
燕(私のほうがおっぱい大きいもん)
ミサゴ「聞こえてるわよ?」
報告、延長戦終了。