始まりの街 ーデスゲーム開始ー
「キャラメイキング………適当にしたらなんか現実に忠実になってるんだけど」
俺は《SAO》の舞台、浮遊城《アインクラッド》の一角にある店の窓を見て自分の姿を見ていた。
現実とほぼ変わらない茶髪や茶色の瞳、少し筋肉はあるが体型は平均的、目つきは……まあ悪い方ではない。
「む〜、服を変えたいな……」
現在の服はというと、レザーベストに長ズボンというなんとも初期冒険者という感じだった。ぶっちゃけあまり似合ってない。
「とりあえずフィールドに出よう。剣の使い方とか少しぐらい覚えとかなきゃ」
俺はフィールドに向かって走り出すために地面を蹴った。そして、体が徐々に傾き、地面に勢いよくフレンチキス。
「……………………」
まずは基本操作に慣れる必要があるらしい。
★
他の人を見て大体の基本操作は慣れた。以前から周りの奴らは俺を見てこう言っていた。『あいつって他人のやる事、見るだけでできるようになるよな』と。
なぜか俺は他人がやっているのを見ると簡単にものを覚えられる。そしてそれを真似できる。
だが常々俺は思っていた。決してそこには
「っと、こんな事考えてても仕方がない。取り敢えず狩れそうな奴はっと………お、あれか」
そこにいたのは青いイノシシ《フレンジーボア》。レベル1の雑魚モンスターである。他のゲームでいうスライムみたいなやつか。
「えっと確か、剣を抜いて構える」
腰に差してある片手剣を抜き構える。お、これ剣道と一緒じゃね?まあした事ないけど。
「んで、敵が向かってきたら」
「ぶきーっ!」
「振り下ろsぐぇ!?」
振り下ろす前にイノシシの突進が鳩尾に突き刺さる。だが仮想世界なためか、痛みはないが妙な違和感はある。そしてHPもそこまで減ってはいない。
「やりやがったな……こっちだってやってyグハァ!?」
再度イノシシの突進に当たる。気を取り直して起き上がろうとするとまた突進されて寝転がる。
どうしてだろう。モンスターには自我はないはずなのにものすごく馬鹿にされている気がする。こう『起き上がれないなんてダッセーwプギャーwww』みたいな。
駄目だ、ものすごく腹立ってきた。
「テメェ、ぶっ殺して猪鍋にしてやるから覚悟しやがれ!!」
「ぶきーっ!」
「どわぁ!?危ねぇ……」
立った瞬間突進を繰り出すイノシシの攻撃をかわす。あれ当たり続けたら無限ループだな。ていうか俺が死ぬわ。
「ええっと、どうすんだっけ!?」
テンパって何していいか分からねえ!またイノシシが突進してくる。もう当たりたくねえぞおい!
「だぁ!!どうにでもなりやがれ!」
俺は剣を構えて走る。イノシシはそんな俺に突進してくる。
「………っ!」
俺は身を翻して突進をかわし、かわしながらイノシシの胴体を斬る。すると相手に体力ゲージが半分近くまで減った。
「よしっ!当たった!」
なるほど、要は相手の攻撃を見極めつつ、かつどう動くか計算して攻撃すりゃいいのか。なんとなく分かった。
「らぁ!!」
俺は即座にイノシシに接近して二三回斬りつける。すると一気に体力ゲージは減り、緑から黄色、黄色から赤へと変化する。だがそんなことはつゆ知らず、イノシシは突進する。俺は最初にやったようにかわしながら斬りつける。
「終わりっと」
イノシシの体力ゲージは0になりパリンという音と共にポリゴンの欠片となって弾け飛んだ。
「はぁ……」
レベル1の雑魚モンスターでこの疲労度、これは早急になれないとマズイな。
★
適当に狩りをしているといつの間にか空がオレンジ色で染められていた。
「もうこんな時間か……。そろそろログアウトした方がいいかな」
じゃないと琥珀が五月蝿いし、詩織は泣き喚くかもしれない。
俺はウィンドを開き、ログアウトしようとする。だが、
「あれ?ログアウトボタンがない……?」
マニュアルにあったところを見るとそこにはログアウトの文字はなく、ただ空白だった。
「……………」
そこから俺は無言でウィンドを調べまくる。だが、どこにもログアウトに通づるものはなかった。
「……ちょっと待て。これって誰かがナーヴギアを抜くか電源切るかしないと俺、ログアウトできないのか!?」
ということは俺には自発的にログアウトすることはできない。ならどうするか。助けを待つしかない。
「どうしてこんなことに……」
と思っていると、なぜか青い光に包まれる。
これは……転送の時の!
「おわ!?」
俺はなぜか強制的にどこかへ転送された。
★
転送された場所はあらゆるプレイヤーで埋め尽くされていた。だがその全員に共通する点があった。
全員困惑している。おそらくログアウトできないことに気づいたのだろう。そしていきなりの転送だ。困惑しない人がいるなら見てみたい。
そんなことを思っていると、前方の空が赤く染められる。《warnimg》という文字で埋め尽くされている。そこからドロッとした赤い液体が垂れてくる。それは人型になり両手を広げた。
『ようこそ諸君。私の世界へ』
この声、聞いたことがある。確か、
『私は茅場晶彦。このゲームをコントロールできる唯一の存在だ』
そうだ。ニュースとかで聞いたことがある。だがなんでこいつがこんなところに?
『プレイヤーの諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。、だがこれは不具合ではない。繰り返す、これは《ソードアート・オンライン》の本来の仕様だ』
「なん……だと……!?」
俺は驚愕してそんな声しか出せなかった。つまり、茅場は俺たちを意図的にここに閉じ込めたということになる。でも一体そんなことをして何の意味が……。
『そして諸君は今後、この城の頂を極めるまで、自発的にログアウトすることはできない。万一、外部の人間の手によるナーヴギアの停止または解除が試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、君たちの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
「……………………は?」
こいつ今なんて言いやがった?ナーヴギアが停止または解除されると死ぬだと?あり得ない、そんなことを………いや、違う。
「あり得る……ナーヴギアの出力なら俺たちの脳を蒸し焼きにできる……でもそんな、なんで………」
『すでにこの状況は外部世界に当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずある。その結果、残念ながら、すでに213名がアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
どこかで細い悲鳴が上がる。馬鹿げてる、このせいでもうすでに200人も死んでるなんて。そんなのあり得てたまるか。
茅場は何か喋っている気がしたが、俺の脳はそれを受け付けなかった。
「ふざけんな……あり得るかよそんなこと……」
脳は受け付けなかったが、茅場のこの言葉だけはなぜか聞こえた。
『君達にとって《ソードアート・オンライン》とはゲームではなく一つの現実だ。今後、このゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
途端顔が引きつる感覚がした。司会左端に映るこの緑のゲージが命。これがなくなった瞬間に現実でも死ぬということだろう。《ソードアート・オンライン》は瞬く間に誰もが憧れるゲームから、誰もが恨むデスゲームへと変化したのだ。
『諸君がゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最上層、100層までたどり着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすれば良い。その瞬間、生き残っているプレイヤー全員がログアウトされることを保障しよう』
馬鹿げていた。初心者の俺がそんなことできるわけがないとその瞬間悟った。そして言われようもない恐怖、孤独、絶望が俺を襲う。腕が震え始め、まともな声が出せない。
あの時、母さん達の言葉を鵜呑みにしておけばよかったのかもしれない。こうなったのは結局、俺の責任なのだ。警告を押し切ってこんなことをした。今になってあの時したことを後悔する。
そして茅場は感情を削ぎと落とした声で告げた。
『それでは最後に、諸君チコの世界が現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが入っている。確認してくれ給え』
俺は震える手を押さえつけ、右手の指二本を揃えて下に向けて振る。アイテムストレージを見るとそこには、手鏡というアイテムが存在していた。
俺はそれをオブジェクト化する。たちまち、俺の目の前には小さな四角い鏡が現れる。
恐る恐る手に取るが、何も起こらない。覗き込むとそこに映ったのは俺の顔だった。さっき《始まりの街》で見た顔だ。すると突如、白い光に包まれる。周囲のプレイヤーも同じ事態に見舞われる。
そして光が晴れると、周りのプレイヤーはガラリと変わっていた。
「な、何が起きた……!?」
俺は急いで自分の手鏡で自分の顔を見る。するとそこには、
「………俺、だと………!?」
先ほど見た顔とは違った、いつも朝起きたら見る、現実の俺の顔だった。さっきよりも俺の顔が鮮明に表されている。
なぜ、どうしてこんなことを……?
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ茅場晶彦はこんなことをしたのだろう?と。テロ行為か、はたまた誘拐事件なのか。だが私の目的はどちらでもない。なぜなら、私の目的はこの状況なのだから。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
そこで一呼吸置いて茅場は告げた。
『以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君のーーー健闘を祈る』
そしてローブ姿が一気に液体化し、空を埋めるシステムメッセージに同化する。
そして次の瞬間、広大な広場で多重の音声が響いた。
「ふざけるな!早くここから出しやがれ!」
「嘘でしょ、ねえ嘘だと言ってよ!!」
「帰してよ、帰してよぉぉぉぉ!!」
怒りや絶望が爆発したかのように叫ぶプレイヤー達。
「くそ、くそっ!!」
俺はその場から即座に離れた。離れなければ、俺は叫ぶ人たちを真似ていただろうから。あれに流されないような精神を、俺は持ち合わせていなかったのだから。
★
「はぁ…はぁ……」
俺は《始まりの街》の出口まで来た。ここから一歩出れば、この城を攻略するために動かなくてはならない。だが出なければ、死ぬこともないだろう。
「行かなきゃ………」
おそらく現実では詩織は泣き喚いているだろう。琥珀は……どうだろう、泣いてるかもしれないしそうでないかもしれない。父さんや母さんは絶対に心配してるはずだ。そう思うと、ここを出ずにのうのうと生きていくのは、間違っている気がした。
「やってやる。誰にも流されたりなんかしない。自分の意思でクリアしてやる!!」
そう言って俺は《始まりの街》を飛び出す。
俺はいつも誰かの真似をして生きてきたのだと思う。だからこの時、初めて"自分"というものが見えた気がした。
父さん、母さん、琥珀、詩織待ってて。すぐにこんなゲームクリアして、生きて戻るから!
次回から本格的に原作キャラと絡んで、物語は進んでいきます。
それでは次回もお楽しみに。