ソードアート・オンライン 偽りの剣士   作:夜明けの月

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数ヶ月空けてしまってすみません。
それでは、本編へどうぞ。


ボス攻略 ー孤独の始まりー

第一層ボス討伐当日。俺たちプレイヤーは、ディアベルに連れられてボス部屋前まで来ていた。

 

「よっ、二人とも。昨日は眠れたか?」

 

キリトが笑みを浮かべながらこっちに近づいてくる。

 

「ええ、お陰さまで」

 

「ああ、お陰さまで」

 

寝起き最悪だったけどな。俺が無愛想にそう返すと、門の前から声が響く、

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

ディアベル、今回のボス討伐のリーダーにあたるプレイヤーだ。

 

「俺たちはこの世界にいるプレイヤーたちの希望だ。俺からはそんなにとやかく言わない。だが、これだけは言わせてくれ。

 

勝とうぜ!!」

 

オオオオォォォォォ!!と野太い歓声が響く。ほんっとに男多いな。女性プレイヤーって言ったらアスナしかいないぞ。

 

そう思う中、ディアベルは門を開け、剣を掲げる。

 

「戦闘開始!全軍進め!!」

 

攻略に参加するプレイヤー達が続々と剣を抜き、ボス部屋に突入する。

 

中は暗い。だが、俺たちが入って来たからだろうか。灯りが次々とつき始める。

 

前を見ていた俺に見えたのは、赤く染まった巨体にタンクの人達が持っている斧よりも一回りや二回りも大きい斧を持った犬のような動物。第一層のボス、《イルファング・ザ・コボルトロード》だ。

 

『グガァァァァァ!!』

 

ボスが咆哮すると同時に、取り巻きである《ルイン・コボルト・センチネル》が続々と出現し、突撃してくる。

 

「怯むな!作戦通り行くぞ。進めぇ!」

 

ディアベルが負けじと大声を張り上げ、士気を高める。プレイヤーはセンチネルと剣を合わせていく。

 

そんな中、俺は動けずにいた。

 

「ヒナタ君!何ボサッとしてるの!」

 

「あ、あぁ悪い」

 

さっきから感じる違和感はなんだ?どう考えても何かがおかしい。そんな胸騒ぎが止まることなく、俺は剣を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぁ!!」

 

片手直剣スキル《レイジスパイク》をセンチネルに叩き込むと、パリンという音とともにポリゴン片となって弾け飛んだ。

 

「これであらかたの取り巻きは片付いたのか?」

 

「そうみたいだな。にしても、押してるなぁ」

 

「ああ」

 

攻略の主力達がロードを押しているのは目に見えていた。体力ゲージも残り一本である。

 

「それじゃ、俺たちは残りの雑魚を倒しておくか」

 

「だな。アスナ、行くぞ」

 

「ええ」

 

俺は二人よりも速く走り出し、目の前にいるセンチネルに向けて、剣を振り下ろす。流石に反応できたのか、剣で防がれる。俺はそれを上に弾き飛ばす。

 

「アスナ、スイッチ!」

 

「セヤァ!」

 

それと同時に後ろへさがり、アスナと交代する。すぐさまアスナの渾身の突きが炸裂する。

 

センチネルのHPは一気に0になり、弾け飛んだ。

 

呆気ない。と思いながら周りを見渡す。あらかた、というか全ての取り巻きを片付け終わったのかセンチネルは一匹残らずポリゴン片となり弾け飛んでいた。

 

これからどうしようか。俺たち三人がボス攻略に首を突っ込んだところで追い返されるだろうし。キリトにでも聞くか。

 

キリトの方に向き直ると、キリトはボスのロードを見ながら険しい顔をしていた。

 

なんだと思って見てみるが、攻略組の方々が頑張っていた。だが、おかしい。

 

何がとは分からない。だが、確実に()()()おかしい。

 

「キリト、なんかおかしくないか?」

 

「…………ああ」

 

「どうしたの?そんな険しい顔して」

 

「いや、なんかなーーー」

 

そう言いかけたところで、空気をつん裂くような咆哮が響いた。攻めていたプレイヤーは例外なくそれをモロにくらい吹き飛ばされる。だが、一人だけ違った。

 

ディアベル。こいつだけは今がチャンスみたいに方向を耐え抜き、ロードの前に姿をあらわす。ロードは持っていた剣を捨て、背中あたりに担がれていた刀らしきものに手を伸ばしてーーー

 

「(まずいッ!!)」

 

脳内に危険をあらわす警鐘が響き渡る。今逃げないと、確実に死ぬ…………!

 

「「逃げろッ!!!」」

 

キリトも同じことを思っていたのか、物凄い剣幕で叫んでいた。かく言う俺もそんな顔をしているだろう。

 

だが、虚しくもその声はディアべルには届かなかったらしい。ロードは背中に担がれていた《野太刀》という刀を引き抜き、ディアベルを切り裂く。ガードはした。だが、相手の力が強すぎたため体ごと打ち上げられる。

 

それを好機と見たのか、ロードは怒涛の連撃を食らわせていく。打ち上げたディアベルを上方から斬りおろすソードスキル《旋車》で地面に叩きつける。

 

叩きつけられたディアベルは大きくバウンドしてまた宙を舞う。着地したロードは中腰に構え、刀の刀身を赤く染める。ソードスキルだ。あの一撃を食らえば、いや、次の攻撃をかわせなければ死ぬ!

 

「あ、ヒナタ君!?」

 

俺は自然と走り出していた。死なせるものか。死なせてなるものか。と強く思いながら。

 

だが、ロードは地面を蹴り、ディアベルに迫る。そして、容赦なく《浮舟》を発動させ、ディアベルを両断した。

 

「…………ッ!!」

 

俺は剣の切っ先をロードに向け、《ソニック・リープ》を発動させる。

 

「はぁぁああ!!」

 

ロードに向けて振りかぶるが、ロードはいとも容易く五メートルぐらい後ろに飛び退きかわした。

 

その間にキリトはディアベルの元にたどり着いてポーションを渡していたが、ディアベルはそれを受け取らず、弾け飛んだ。

 

呆気なく、ただ呆気なく終わった。彼の人生は、この一瞬の間にこんな形で潰えた。

 

(…………巫山戯るな)

 

俺の中で何かが燃え上がった気がした。憤怒、憎悪、妬み、恨み、あらゆる負の感情が湧き上がった気がした。

 

許せない。こんな世界を作った茅場が、こんな世界に恐れおののいている自分が。そして、何よりもーーー

 

(目の前で助けられなかった、自分がーーーー憎い…………ッ!!)

 

俺は知らぬ間に駆け出していた。拙い剣術と安物の剣を引っさげて。

 

「ヒナタ君、ダメ!!」

 

アスナが後ろで叫んでいるが止まらない。止まるわけにはいかない。あいつは、あの人殺しはーーー

 

 

 

 

俺が殺すッ!

 

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

《バーチカル・アーク》で斬りかかるが、また避けられる。避けられるなら、避けられないだけの連撃を叩き込めばいいだけの話だ。

 

俺はソードスキルを所々に挟みながらロードの刀に剣を打ち込んでいく。

 

ゲーム初心者で、剣なんて握ったことのないただの凡人だが、俺にはどこを狙えばいいかわかる。この二週間、誰かの太刀筋を盗み見してきた俺にはわかる。

 

例えこいつがモンスターで武器を持とうとも、それがプレイヤーと同じスキルを使ったりする人型なら相手の防御を破るのは容易い!

 

俺は下段から《ソニック・リープ》で斬り上げる。すると、流石に耐えきれなかったのか、ロードの刀が上に跳ねた。

 

「アスナ、キリト!!」

 

大声で今の仲間の名前を呼ぶ。俺が呼ぶ前にこちらに向かって走り出していたのか、呼んだ後に俺を挟むように二人はボスへと突っ込んだ。

 

ロードはそうはさせまいと刀を振り下ろす。だが、二人のソードスキルがそれを許さない。再度跳ねあげられた刀を離さないようにするのが精一杯らしい。

 

二人はその隙を突き、スイッチをしながら斬撃を叩き込む。

 

俺は、刀身を青く輝かせ走り出す。

 

「アスナ、スイッチ!!」

 

「お願いヒナタ君!!」

 

入れ替わりと同時に《バーチカル・アーク》を撃ち込む。キリトも同じソードスキルを使ったのだろう。俺と同じように剣を振りかぶる。

 

ロードの両脇腹を俺とキリトで寸分違わず同じタイミングで切り裂く。

 

響く断末魔。つん裂く咆哮。体力ゲージを見ていない俺でも分かる。

 

その直後、予想通りにロードはポリゴン片となって弾け飛んだ。

 

終わった。第一層攻略が………今終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスが消え去った後、誰もそこを動こうとはしなかった。ボス攻略という大仕事をこなして安堵しているのか、それとも、戦いの中で死の淵へと消えて行った仲間を憂いでいるのか。

 

俺には、それが分からなかった。

 

「なんでや!」

 

聞き覚えのある声がそんな静寂を貫いた。トゲトゲ頭のウニボールみたいな頭をした男。確か名前は……キバオウだったか。

 

「なんでお前らはディアベルはんを見殺しにしたんや!!」

 

どうやら、俺とキリトに言っているらしい。確かに俺たちはあの時『逃げろ』と叫んだ。だが見殺しにしたわけではない。

 

そう反論しようとしたが、周囲がそれを許さない。周りから向けられる嫌悪の目。これは見たことがある。本当の拒絶と嫌悪、そして憎悪の籠っている目だ。

 

「お前らはあのボスの武器について何か知っとったんちゃうか。それを黙ってたんちゃうか!?違うか!?」

 

「………そうだ。そうだそうだ!!」

 

キバオウの言葉を鵜呑みにする周囲のプレイヤー。

 

当の本人の俺は全く知らなかった。ただ、何かがやばいと思っただけだ。キリトは、おそらく知っていたのだろう。顔色がおかしい。おまけに険しい顔だ。

 

「おい、やめろ。こいつらを責めたところで何か変わるのか?」

 

俺たちの前に出て、制止の声をかけたのは何時ぞやの会議でβテスターを庇護したエギルだった。俺たちのパーティーメンバーであるアスナも周りを睨んでいる。

 

このままではこいつらにまで嫌悪の目が及ぶ。それを避けるにはーーーー。

 

俺はある結論にたどり着いた。

 

「(そうだ。多人数から少人数が嫌われる場合はーーーー的を一人に絞ればいい)」

 

俺はキリトの方をチラッと見た。すると、キリトはこの状況を打破する意見を求めていたのだろう。険しい顔でこちらを見ていた。俺は二ッと笑みを浮かべて立ち上がり、エギルの前に立つ。

 

そして、出来るだけ口角を高く釣り上げる。アニメの悪人がよくするような表情だ。

 

「くくく、ハハハハハハハハハ!!」

 

高らかに俺は笑う。キバオウが言ったことを、真実(偽り)偽り(真実)にするために。

 

「ボスの情報を知っていたぁ?だからなんだよ。それをなぜお前らに言わなければならない?」

 

「そ、そんなもん攻略のために」

 

「誰がテメェらと仲良く歩み揃えて攻略なんてするかバカが。というか、勝手に隊から出しゃばる奴は死に、そうでないものは生き残る。今回はそれが分かっただけ良かったじゃないか」

 

「な、なんやと!?」

 

周囲の目線が全てこちらに向く。これでいい。これで、あいつらが守られるならばそれでいい。

 

「それじゃあ、お前はディアベルはんが死んだことは何も思わなかったんか!?」

 

「だから言ってるじゃねえか。あいつはテメェらに自分みたいにならないために身を張って示したんだろ。凄いねああ本当に凄い。まあでもなぁ、死んだら意味ねえよな、ハハハ」

 

この中の全員から妬まれろ。恨まれろ。嫌われろ。全ての嫌悪をこちらに向けろ。その為にーーーー自分を捨てろ。

 

「まあいいぜ。この先のアクティベートはやっといてやるよ。ありがたく思うんだな。ハハハハハハハハハ!!」

 

どこまでも悪に聞こえるように高笑いしながら俺は第二層に繋がる門の前に向かって歩く。

 

さて、これからが問題だ。パーティープレイが必要なこのゲームで孤立するのは自殺行為。ならば、独りで生きて行けるほどに強くならなくては。

 

そう決心して、俺は門を開けた。ここからが、俺の孤独ゲーム(SAO)の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

side アスナ

 

ガタン、と第二層に続く門が閉められた。さっきまで頼れる仲間だったヒナタ君が出て行ったのだ。

 

私は、ヒナタ君のとった行動の意味がわからなかった。人の死を教訓になったと言い張り、落ち込んでいるこの空気の中、明らかに人を小馬鹿にするような笑い方をして、どう考えても異常だった。

 

あれじゃあまるでーーー

 

「(私達に向いた敵意を全て自分が引き受けたみたいなものじゃない……………………まさか!)」

 

そこでようやく気付いた。ヒナタ君が、私達を孤立することから守ってくれていたことに。全ての敵意を自分に向けさせ、私達に被害が及ばぬように。

 

「あの馬鹿野郎………」

 

キリト君もそれに気づいていたのか、門の方を睨んでいた。

 

キバオウさんが言うようにキリト君は多分情報を知っていた。でも変更点なんて知らなかった。

 

それにキリト君もおそらく、ヒナタ君が動かなかったら同じことをしていたはず。でも、

 

「(ヒナタ君は、違う………)」

 

あの人は言っていた。このゲームは初心者だと。なのにそんな情報知るわけがない。そしてこの先の情報も。

 

つまり、ヒナタ君はいつ死んでもおかしくないのだ。

 

例え死んだとしても、誰も悲しむ人がいない。でも、ヒナタ君は言っていた。『置いてきた妹たちの為にも必ず生きて帰る』と。

 

「ヒナタ君……どうして………」

 

三人で憎悪を背負うこともできた。その方がいささか楽だっただろう。なのに何故、彼はそれを選ばなかったのか。それが気になって仕方がない。

 

気になるなら、取るべき行動はただ一つ。

 

「キリト君。これからどうするの?」

 

「え?……そう、だな」

 

キリト君は顎に手を当て考える。そして門を一瞥し、告げた。

 

「攻略しながらあいつを追う。ヒナタ(あの馬鹿)には一言言ってやらなきゃ気が済まない」

 

「賛成。一発ぐらいぶん殴ってやるんだから」

 

「そ、それはやめとけって……」

 

私と気持ちが同じだったのかキリト君もヒナタ君を追う気だった。怒り。勝手なことをしたことに対する怒り。私達が感じているのはそれだった。

 

「なあ、あんたら」

 

目の前にいたエギルさんが振り返って私達を見る。

 

「俺たちも奴を見つけたらお前らに連絡する。人数が多い方が見つけやすいだろう」

 

不敵に笑みを浮かべてエギルさんは言った。私達の後ろにいたエギルさんの仲間も笑顔で頷いていた。この人達も、ヒナタ君がしようとしていたことに気づいたらしい。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

「OK。分かったぜ」

 

エギルさんは頼り甲斐のある笑顔で頷いた。

 

私は決めたのだ。この世界に負けたくはないと。そして、彼の(本物)を見つけると。

 

「(……思い通りになって、なってやらないんだから)」

 

私は心の中で、どこかでほくそ笑んでる開発者と孤独を背負った偽善者に告げた。

 

 

 




キリトじゃなくてヒナタが今回は孤独を負います。
次の話からはオリジナル要素満載になる可能性が。
では、次回もお楽しみに。
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