もしも比企谷八幡が嘘つきだったら   作:くいな9290

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だいぶ遅くなってしまいました、申し訳ありません。



ep.19 やっぱり比企谷八幡の目は死んでいる

 

楽しげな音楽が流れ、子ども達が赤々と燃える炎の周りではしゃいでいる。

しかし、広場の中心から外れたところに立つ俺たちに届くその光はゆらゆらとしてはっきりしない。

 

「それじゃあ、行ってくるね。」

 

あの秘密の場所から帰って来たばかりだというのに鶴見は時間が惜しい、と歩みを進める。

 

「もう行くのか?

少し休んでからでも……。」

 

「私は大丈夫。

善は急げって言うでしょ?」

 

「まぁ、そうだな。

一人で大丈夫か?なんなら俺もーー「八幡がついて来ちゃ意味ないでしょ。ここで待ってて。」

 

心配が過ぎる俺の言葉を遮って彼女は笑う。

 

「なんか、お母さんみたいだよ?」

 

そして、今度こそ鶴見は人ごみの中に消えていった。

 

「せめてそこはお父さん、だろ。」

 

誰に届くはずもない呟きを漏らす。

もう見つけられるはずのない彼女を探すように子ども達の集団をぼんやりと眺める。

無邪気に笑い、戯れる彼らは本当に今を楽しんでいるのだろう。

 

結局、今回もあの中に俺が混じることはなかった。

やはり俺のような奴には離れた場所から全体を俯瞰するのが一番だということだ。

 

「ヒッキーおかえり!」

 

唐突に明るい声が響く。

無駄な思考を打ち切り、その声がした方向に向くとこちらに近づく影が3つ。

由比ヶ浜と雪ノ下、それに小町だ。

 

彼女達に手を挙げて答える。

 

「悪かったな、遅くな…っ…て…。」

 

段々と声が小さくなってしまう。

 

「……雪ノ下?」

 

由比ヶ浜と小町は俺と適度な距離を保って止まったのに対し、なぜか雪ノ下はそれに構わずズンズンと近づいてくる。

 

なにこれ、俺ビンタでもされちゃうの?

 

そんな不安が頭をよぎる俺をよそに彼女は無表情のまま目の前で立ち止まり、少し背伸びをする。

そのせいで身長差が埋まり、彼女の吐息がかかる程に顔が近づく。

 

近い近い近い!

 

状況を全く理解できない俺に雪ノ下はゆっくりと手を伸ばしーーー俺の頭にくっついていた葉っぱを取った。

 

「どこへ行っていたのかは知らないけれど、身だしなみくらいは整えなさい。」

 

言って、雪ノ下が俺から離れた。

そのいつもの物言いに俺はどこかほっとする。

残り2人に目を向けると、由比ヶ浜は唖然として俺たちを凝視し、小町はニヤニヤと笑い、何か魂胆のありそうな表情をしている。

 

「わざわざお前が取る必要はなかっただろ。」

 

ため息をつきながら言う。

一瞬でも焦った俺が情けない。

 

「確かにそうね……。

あまりにも見苦しかったからかしら?」

 

「いや、俺に聞くなよ。」

 

雪ノ下らしくない曖昧な発言のせいで、場に妙な空気が流れる。

 

「あー、その、なんだ。

そっちは大丈夫だったか?」

 

さすがにこの空気には耐えられないのでさっさと話題を切り替える。

そっち、と言うのは俺が彼女達に頼んでいたことーーー鶴見と俺の二人が姿を消している間、小学校の教師達の目をごまかすという依頼だ。

 

戻ってきた今、教師陣が慌てている様子は見えなかったので大丈夫だと思うのだが……。

 

「うん!隼人君が動いてくれたし、そもそも先生達も……」

 

由比ヶ浜は言いにくそうにポツリと呟く。

 

「あんまり、探す気もなかったのかな……。」

 

当然といえば当然だろう。

あの惨状を見て見ぬ振りをするような連中だ。

今更児童一人の姿が見えなかったったところで、大慌てするはずもない。

 

「それで、本題はどうなったの?

さっき、彼女は走ってどこかに行ったようだけれど。」

 

待ちきれないと言わんばかりに雪ノ下が話の中心に切り込む。

 

さて、どうしたものか。

結論から言うと、俺は現状の鶴見を取り囲む環境をどうにかしたわけではない。

あの子はこれからも厳しい状況に置かれるだろう。

それでも、きっと俺は彼女自身を変えることができたはずだ。

 

なら、俺の報告すべきことはこの事実しかないだろう。

これから増えるであろう鶴見にとってのーーー

 

「一人目になった。」

 

「一人目?」

 

由比ヶ浜が聞き返し、雪ノ下は怪訝な表情を浮かべる。

そんな二人に俺は満面の笑みを浮かべ、鶴見と二人で撮ったツーショットの写真を見せつけながらーー

 

「友達一人目だ。」

 

と、言い放った。

 

****

 

「ひどい目にあった……。」

 

ため息をつく。

 

「さすがに小町もさっきのはどうかと思うよ?」

 

小町が苦笑いを浮かべて言う。

雪ノ下と由比ヶ浜はもういない。

というか、さっきの俺の発言のせいでどこかに行ったのだが。

 

俺としては本気の言葉だったのだが、なぜはそれを聞いた由比ヶ浜はそっと俺から距離を取り、雪ノ下に至っては俺をロリコンと称し、汚物を見るような視線を俺に向けた。

 

「やっぱりあんなのじゃダメか。」

 

小町にさえダメと言われたのだ。

今回の依頼は俺の失敗ということになる。

 

そう思って落ち込む俺に小町が呑気な声で言う。

 

「言い方の問題だと思うよ?

お兄ちゃん、顔はかっこいいのに目が致命的に死んでるから、それであの笑顔と発言はね……。

結果については2人とも納得したんじゃないかな?」

 

言い方……?

目の死んだ男子高校生が女子児童とのツーショット写真を満面の笑み(らしいもの)を浮かべて同級生の女子に見せつけただけだ。

 

……うん、グレーどころか完全に真っ黒だな。

 

「なるほど。

でも、納得したかどうかは別問題だろ。」

 

「ううん、したよ。」

 

反論するも、小町は断言する。

 

「結衣さんはお兄ちゃんのこと信じてるからね。

お兄ちゃんが大丈夫って顔してたからきっと結衣さんも大丈夫って思ったはずだよ。」

 

大丈夫な顔ってどんな顔だよ。

それに、全然理由になってない。

 

そんな考えが顔に出ていたのか、小町が念押ししてくる。

 

「とーにーかーく大丈夫なの!」

 

「へいへい。

じゃあ雪ノ下はどうなんだ?」

 

続くもう一人について尋ねる。

 

「雪乃さんはーーー」

 

と小町は言葉を探すように宙を見つめると

 

「秘密!」

 

とびっきりの笑顔でそう言った。

 

 





この後に葉山と喋ったり、帰りの平塚先生の車の中や陽乃さんとの会合なども書くには書いたのですが、結局色々考えた結果全部ボツにしちゃいました……。
なので、今回はかなり短くなっています。
次回は夏祭りですね。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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