もしも比企谷八幡が嘘つきだったら   作:くいな9290

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お久しぶりです。
遅くなった……というレベルではありませんね、すいません。
一応失踪する気はないので気長にお待ちください。


ep.20 とかく彼女の恋路はままならない

 

 

唐突だが、俺は人と会う時に約束の10分前に待ち合わせ場所に着くように心がけている。

なぜ10分前なのかを端的に言うなら、ちょうどいいから、である。

 

例えば、約束の時刻ぴったりに着くようにしたとしよう。

その場合、自分が待たされる可能性は相手が遅刻魔でもない限りほぼないが、逆に待たせる可能性がある。

加えて、交通機関の不具合などの不測の事態に対応しきれない。

 

次に、30分前に着くようにしたとしよう。

相手が時間ぴったりにきた場合は構わないかもしれないが、仮に相手が10分前に姿を現したとすると、

 

え、何こいつ、ずっと待ってたの?

楽しみにしすぎだろ、気持ち悪っ。

 

と思われるかもしれない。

 

そんなこんなを加味した結果、10分前がベストだと俺は結論付けたのだ。

 

長くなってしまったが、俺は今その理論に基づいて駅で人を待っている。

今夜は千葉市民花火大会だ。

こんなリア充イベントに俺が参加しないわけにもいかず、今年も去年と同じメンバー、葉山や由比ヶ浜、三浦達と行くことになっている。

 

ここに来るまでにも、この駅にしても花火大会に行く人々に溢れかえっていて、人ごみに当てられた俺はすでにげんなりしている。

 

数人見知った顔が前を通り、気づかれなければ無視、気づかれれば笑顔を作って手を振りながら待っていると、待ち人がころころと下駄を鳴らしながら近づいて来るのが見えた。

 

「ヒッキー!」

 

由比ヶ浜は俺を見つけると手を振ってこちらに急ぐが、下駄に履き慣れていないのか、その足取りはやけに危なっかしい。

 

「あんまり急ぐとこけるぞ。」

 

と言ったものの、俺の警告が聞こえなかった彼女はそのままつんのめってこけそうになる。

 

「……っと。

ほら、言ったじゃねぇか。」

 

「えへへ、ごめん。」

 

完全にバランスを失う寸前に由比ヶ浜の手を掴んで引き上げた。

彼女はバツが悪そうに笑う。

 

「他の奴らは一緒じゃないのか?」

 

由比ヶ浜が来たのは待ち合わせの時刻より少し遅い。

戸部や三浦ならいざ知らず、葉山が遅れて来るのは考えにくいので、てっきり一緒に来るものと思っていたのだがーーー

 

「あれ?まだ来てないの?」

 

きょとんとした彼女の表情から俺の予想は外れていたことが分かる。

するとその時、ポケットに入れた携帯がメールが来たことを知らせた。

 

「すまん、メールだ。」

 

「あたしも。」

 

偶然にも同時に来たそのメールを開いた途端、苦笑いが自然と浮かぶ。

 

To:ハチ

From:三浦 優美子

件名:無題

本文:ごめん!

あーしらみんな急用が入っちゃったみたいで行けないから結衣と二人で行っといて!

 

……ああ、これは想定外だ。

 

ちろっと横目で由比ヶ浜を見ると顔を真っ赤にして画面を食い入るように見ている。

ドタキャンに怒り心頭、といったところだろうか。

 

三浦たちはまだ『比企谷八幡』が由比ヶ浜の恋情の相手だと考えている。

実際には由比ヶ浜の好きだった『比企谷八幡』は既に失われ、由比ヶ浜は俺に恋愛の感情など持ち合わせていない。

それを伝えようにも、彼女達は俺の仮面の下を知らないし、俺も教えるつもりはないのでどうしようもないのだ。

 

「……なんかすまんな。」

 

結局、原因は全て俺にあるという罪悪感から由比ヶ浜に謝罪する。

 

「う、ううん。優美子達が勝手にやったことだから……。」

 

まだ頬が赤い彼女はそのまま黙りこくってしまう。

 

正直、ここで解散というのが理想なのだが……。

そう思って彼女を見る。

 

由比ヶ浜が着ている薄桃色の浴衣は所々に小さく花が咲き、いつもはお団子を作っている髪は珍しくくいっとアップに纏め上げられていた。

 

ここまで着飾って来た由比ヶ浜を花火も見ずに帰らせる、というのはいくらなんでも酷いだろう。

かと言ってこのアホの子を一人で祭りに行かせるのもなぁ……。

 

「あー、その、なんだ。

嫌じゃなかったら二人で行くか?」

 

この一言を口にするのが妙に気恥ずかしく、俺は彼女から目をそらしながら言う。

 

「いいの!?行く!行きたい!」

 

一方由比ヶ浜はやけに嬉しそうに返事をする。

それだけ花火大会を楽しみにしていたのだろう。

 

「よし、ならさっさと行くぞ。」

 

言って、ホームへと歩き出すり

祭りに行く人が多く、駅は人で溢れている。

由比ヶ浜とはぐれないように気をつけながら歩きらなんとか俺たちは電車に乗り込んだ。

 

満員、とまではいかないが扉の周囲は人が多く、そこから離れるように由比ヶ浜を誘導する。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ありがとう、ヒッキー。」

 

一応心配して声をかけると彼女は笑顔で答える。

 

「ヒッキーってこういうところ優しいよね。」

 

「そうか?」

 

「うん。なんか手馴れてるっていうか…。

他の女の子にもこういうことやってるのかな、とか?」

 

「何が聞きたいんだよ……。

昔、小町に仕込まれたからな。

でも二人だけで出かけたことのあるのは小町とお前、あと雪ノ下くらいだぞ。」

 

彼女の妙な質問に戸惑いつつ答える。

 

「ゆきのんと二人で遊んだことあるの!?」

 

由比ヶ浜が急に食いついてくる。

 

「あ、ああ。

遊ぶというよりはお前の誕生日プレゼント選びの手伝いだったけどな。」

 

そういえば、あの時初めて雪ノ下陽乃に遭遇したんだよな……。

嫌なことを思い出してげんなりする俺に由比ヶ浜は続けて問うてくる。

 

「他には?」

 

「ない。

部活のこと以外であいつと俺がわざわざ会うわけないだろ?」

 

「だ、だよね。良かった……。」

 

全くもって何が良かったのか分からないが、俺がそれを聞き返す前に由比ヶ浜が、そういえば、と話を切り出す。

 

「あの日からゆきのんに会ったことある?」

 

あの日、というのは林間学校が終わり、こっちに帰ってきた日のことだろう。

高校の前で先生の車から降りな俺たちを雪ノ下陽乃が待っていたのだ。

彼女は急いでるようで、妹の雪ノ下を半ば無理やり連れて行く形で去っていった。

あの時の雪ノ下のどこか悲しそうな表情は今でも鮮明に思い浮かぶ。

 

だが、俺たちが何かできる話ではない。

あれは雪ノ下の家の問題であり、その内情を一切知らない俺が介入していいものではないのだ。

 

「いや、ないな。」

 

「やっぱり……。

あたしも何度かメールしてるんだけど、返信ないの。」

 

寂しそうな表情で由比ヶ浜が呟く。

優しい彼女のことだ、あの時何もできなかったことに負い目を感じているのだろう。

 

「誘拐されたわけでもなし、そこまで気に病む必要もないんじゃないか?」

 

それを少しでも和らげられれば、と俺は何の根拠もないことを口にする。

 

「もしかするとこの祭りのどこかで会えるかもしれないしな。」

 

「そっか……、そうだよね。

会えたらいいな。」

 

「少なくとも二学期には会える。

そういえば、由比ヶ浜の浴衣、去年とは違うよな。」

 

これ以上この話題を続けても良いことはない、と判断して話題を変える。

 

「覚えててくれたんだ!

どう……かな?」

 

去年着ていたのは黄色の浴衣だったはずだ。

由比ヶ浜が少し恥ずかしそうに両手を広げて桃色の浴衣を見せる。

こういうのはこっち側の俺の役目じゃないんだが、と思いながら俺は答える。

 

「ああ、よく似合ってると思う。」

 

ーーーそうして電車での時間は流れていった。

 

 

****

 

電車から降り、少し歩くと道の両側に屋台の並ぶ通りに着く。

花火が始まるまでにはまだかなり時間の余裕がある。

 

「さて、どこから行くんだ?」

 

隣に立つ由比ヶ浜に話しかける。

 

「うーん……」

 

顎に手を当てて少し悩んだあと、

 

「それじゃあーー「あ、結衣ちゃんだ!」

 

思いついたように彼女が両手をポンっと叩いた瞬間、背後から聞き覚えのある声がした。

 

「さがみん!久しぶり〜。」

 

俺より早く振り向いた由比ヶ浜は声の主のところへ駆け寄ったらしい。

さがみん、というのは同じクラスの相模南のことだろう。

 

これは少しめんどくさいことになった……。

 

振り向くと、彼女はよく一緒につるんでいる女子二人とここに来ているようで、偶然見つけた由比ヶ浜に気を取られ、俺にはまだ気づいていないようだ。

 

「こんなところで会うなんて奇遇だね!

結衣ちゃんは誰と来てるの?」

 

もちろん、それも時間の問題で話題が出連れの話に移った途端、彼女とがっつり目があってしまう。

 

「こんばんわ。

久しぶり、相模さん。」

 

とりあえず『比企谷八幡』を作って彼女らに笑いかける。

 

「ひ、比企谷くん!?

あ、ご、ごめんね。うちら、邪魔するつもりじゃなかったの……。」

 

俺を認識した途端、彼女は驚いて後ずさる。

 

まぁ、当然そう解釈するよな。

このままでは、夏休みが終わる頃には由比ヶ浜と俺が付き合っているという噂が流布されているだろう。

それは由比ヶ浜にとって迷惑にしかならないし、俺も望むところではない。

 

「相模さん、ちょっといいかな?」

 

彼女たちが逃げてしまう前に何とかしなくてはならない、と俺は相模に話しかける。

 

「実は三浦たちと一緒に来てたんだけどはぐれちゃったんだ。

あいつら、どこかで見かけなかったか?」

 

真っ赤な嘘だ。

だが、効果はあったようで三浦、という名前が出た途端に相模と後ろの二人の顔がひきつる。

カースト最上位に位置する俺たちのグループの中でも権威のある三浦は他の女子からとってすれば畏怖の対象なのだ。

 

あいつらとはぐれてしまったことにすれば、相模たちも下手な噂は流せないだろう。

 

「そ、そうなんだ、大変だね。

ても、うちらも見なかったよね?」

 

彼女が後ろの二人に確認を取ると、彼女らもうんうんと首を縦に振る。

 

まぁ、いない人間を見かけられるはずないよな。

そう思いながら俺は自分の仮面に残念、という表情を描く。

 

「そうか……。

もう少し俺たちは探してみることにするよ。

相模たちは祭り、楽しんでくれよ!」

 

「ごめんね、力になれなくて。

バイバイ、結衣ちゃんもね。」

 

そして3人は人混みの中に消えていった。

 

これでなんとかなっただろう。

後で適当に見つかったよ、とでも連絡しておけば完璧だ。

 

しかしーーー

 

「由比ヶ浜?」

 

自分としては上手くやったつもりなのだが、彼女は俯いたまま何も言わない。

何かまずいことでもしてしまったのかと思い、俯く彼女の顔を覗き込む。

 

うわー、目を逸した挙句、唇を尖らして不満を表してらっしゃる……。

 

「えーっと、変な噂が流れないようにしたつもりなんですけど……。」

 

思わず敬語を使ってしまう。

正直、由比ヶ浜が何にそんなに不満を持ったのかさっぱり分からない。

あー、でも一つまずかったとすればーーー

 

「嘘、ついたのがいけなかったか?」

 

その瞬間ら彼女が突然ガバッと顔を上げて叫ぶ。

 

「そうじゃなくて!否定して欲しくなかったというか、なんというか……。」

 

最初の勢いこそあったが、後半になるにつれてその声はどんどん小さくなって行き、よく聞き取れない。

 

「どういうーー「ヒッキー!」

 

「はい!」

 

開きかけた口を由比ヶ浜に押しとどめられる。

そして彼女はプイッとそっぽを向くと、

 

「りんご飴。」

 

「はい?」

 

「りんご飴、奢ってくれたら許す。」

 

よく分からない要求をしてきた。

何を許されるのかすら分かっていないが、その程度で機嫌を直してくれるなら安いものだ。

 

「分かったよ。ならさっさと行くか。」

 

まだ花火まで時間がある。

これならゆっくり出し物を見て回れるだろう。

 

 

「……鈍感。」

 

 

 

 

 

 

****

 

 

りんご飴を片手に少し前を行く由比ヶ浜を見失わないようにしながら祭りで賑わう通りを歩き。

右手には小町に頼まれた綿菓子などのお菓子類。

左手には由比ヶ浜に不意打ちで口に突っ込まれた焼きそばの残りが乗った発泡スチロールのトレー。

 

「ねぇ、ヒッキー!

次あれ行こうよ、あれ!」

 

様々な屋台に目移りしながら歩く彼女が次に目をつけたのは射的だ。

このまま由比ヶ浜の出店巡りに

付き合うのも悪くないのだがーーー

 

「あー、そろそろ花火の時間だ。

場所探したほうがいいんじゃないか?」

 

腕時計が指す時刻は花火打ち上げ予定時間の15分前。

彼女も自身の携帯でそれを確認したらしく、驚いて目をまん丸にしている。

 

「わっ、もうこんな時間じゃん!」

 

「さすがにメインイベントを逃すわけにはいかんだろ。

ほれ、行くぞ。」

 

言って、花火鑑賞に多くの人が訪れる広場の方へと足を向ける。

一応ブルーシートは用意しているが、果たして空いている場所があるかどうか……。

 

そんな一抹の不安を抱えながら歩いていると、Tシャツの裾に妙な引っかかりを覚える。

 

「?……どした。」

 

ちらりと見ると俺に追いついた由比ヶ浜にちょこん服をつかまれている。

 

「えへへ、はぐれたら大変でしょ?」

 

と、照れ臭そうに彼女は笑う。

 

さっきまでお前は一人で前歩いてただろ、という反論が漏れそうになるが、

 

「……好きにしろ。」

 

それを飲み下して再び足を動かす。

今度は由比ヶ浜がついて来られるようにゆっくりと。

 

「ありがと。」

 

その小さな声は人ごみの喧騒の中でも確かに俺の耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

「うわ、人いっぱいだ……。」

 

思わず由比ヶ浜が声を漏らす。

 

俺たちの眼前の広場には人、人、人ーー。

備え付けのベンチはもちろん、芝生の上にも家族連れやカップルたちが所狭しとシートを広げて座っている。

一部の隙もないその間に潜り込むのは不可能だろう。

 

「これは座れないかもな。」

 

ぼそりと呟く。

俺たちのように遅れて来た者は自然と各々道で立ったまま見ることになる。

 

「あたしは立ったままでもいいよ?」

 

と、空気を読んだ由比ヶ浜がそう提案するが……

 

「そういうわけにもいかない。

足、痛いんだろ?」

 

駅でつまづくくらいには慣れていない下駄を履いてここまで歩きっぱなしだった彼女には限界が来ているのだろう。

 

「あはは、バレてたんだ。」

 

「そりゃこんな露骨に服掴まれたら嫌でも気付く。」

 

由比ヶ浜が申し訳なさそうに俯く。

 

もう少し早く気づいてやるべきだったという後悔の念に駆られながら、俺は彼女の頭の上にポンと手を置く。

 

「もう少し奥まで行ってみるから頑張れ。

なに、いざとなったらお前一人くらいはおんぶしてやる。」

 

「……うん。」

 

とりあえず周りを見て人の少なさそうな場所を探す。

 

「ヒッキー、あっちは?」

 

同じく周囲を見渡していた由比ヶ浜がある方向を指差す。

 

そっちは確かに人が少ないんだが、と言いかけたところで、背後から女性の声が響いた。

 

「そこから先は有料エリアだよ、由比ヶ浜ちゃん。」

 

ーーーこれが雪ノ下に会えるかもな、なんて無責任な発言をした罰なのかもしれんな。

 

 

 

 






1話で終わらせようと思った夏祭り、書いてるうちに3話分にまで膨れ上がりました。

ガハマさんの好意に気づいていないこのヒッキーって原作よりも他人の感情に敏感っていう設定なのでは?というツッコミがありそうですが、その辺は後々語られます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
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