もしも比企谷八幡が嘘つきだったら   作:くいな9290

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ep.7 どうしても比企谷小町はお兄ちゃんと同じ学校に通いたい

 

似ていた。その在り方が。

似ていた。そうなりたいと願ったあの人に。

 

だから、妬ましかった。

だから、憧れた。自分がなれなかったものに限りなく近づいているから。

 

そして、その中にあの人を見る。

相手に他者を投影するなどやってはならないことだと理解しているのに。

 

けれど、どうしても期待してしまう。

自分が分からなかった答えが分かるのではないかと。

 

****

 

「お兄ちゃん、これは?」

 

「こことここが錯角だろ?だからそれ使って方べきの定理だ。」

 

現在、俺は絶賛小町の勉強教え中である。

けれど、当の小町は数学に飽きたのか机にシャーペンを投げ出して、背もたれに体を預ける。

 

「図形分かんないよー。何か裏技みたいなのないの?」

 

「あるわけないだろ。大体、中学の幾何学なんてパターンが決まってるんだから覚えれば済む話だ。」

 

「それはお兄ちゃんだからできるんだよー。パターン覚えるとか小町には無理!」

 

そう言って小町はむくれてしまう。

確かにこいつはあんまり暗記は得意じゃなかったな。

 

「コーヒー淹れるけど、飲むか?」

 

「……うん。」

 

一旦休憩を入れようと思い、キッチンに行き、お湯を沸かし始める。

すると、小町がキッチンの向かい側に立って話しかけてくる。

 

「お兄ちゃんもそろそろ定期テストでしょ。余計なお世話かもしれないけど大丈夫なの?」

 

「多分大丈夫だ。それなりに勉強してるからな。」

 

俺の返答を聞いて小町は苦々しい表情を浮かべる。

 

「そんなこと言って、お兄ちゃんはいっつも一位だもんねー。」

 

「普段からの積み重ねだ。お前も総武高校受けるんだったらもっと勉強しろよ。」

 

言ってしまうと、小町の成績で総武高校に行くのは中々至難の技だ。まぁ、幸いにも受験までまだ半年以上あるので、詰め込めば合格できるとは思うが。

 

それでも小町は少し不安げな顔になる。

 

「小町、受かるかな?」

 

「それは今考えることじゃねぇよ。それに、俺もできる限り教える。

それにしてもどうしてそんなに総武に固執するんだ?」

 

小町は昔から決めたことは中々変えなかったが、ここまで頑ななのも珍しい。

そして、小町は俺の質問に即答する。

 

「お兄ちゃんと同じ高校に通いたいから!」

 

おお、いつの間に俺の妹はこんなにもブラコンになっていたんだ。いや、俺としては嬉しいんだけど。

 

「……そりゃあ、俺もーーー「そ・れ・と、お兄ちゃんの妹だって分かればみんな優しくしてくれるから!」

 

……前言撤回、なんだこの妹は。

俺の感動を返せ。

 

「そうかそうか、なら頑張れよ。ほれ。」

 

「ありがとー。」

 

少しむっとしてぶっきらぼうにコーヒーを手渡すが、小町はそんなこと気にせずに受け取る。

そして、俺が再びテーブルに座るとまた話し始める。完全におしゃべりモードに入ってしまったようだ。

 

「そういえばね、学校の友達はね、お姉さんは不良化したんだって。夜とか全然帰ってこないらしいよ。

でも、お姉さんは総武高校通ってて超真面目さんだったらしいよ。何があったんだろうね。」

 

「さぁな。家庭の事情もあるだろ。」

 

「最近仲良くなって相談されたの。川崎大志君っていうんだけど。」

 

小町の口から男の名前が出たので不安だが、気にせずに俺は言う。

 

「そうか。何かあれば俺に言ってくれ。前言っただろ?奉仕部っていう謎の部活に入れさせられたからな。できる限りのことはする。」

 

「うん、ありがと!いつか奉仕部のことももっと詳しく教えてね。」

 

「まぁ、機会があればな。それじゃ、勉強始めるぞ。」

 

「はーい。」

 

そうして比企谷家の夜は更けていった。

 

****

 

次の日、俺は制服姿のままぶらぶらと街を歩いていた。

 

さて、どうするか。

テスト前だから遊びに行くわけにもいかないし、部活もない。かと言って、家に帰っても誰もいない。

なら、どこかで勉強するか。

 

そう決めて、辺りを見渡すと近くにサイゼ○ヤがあったのでそこに入る。

店内に入っても店員が中々来ない。仕方なく俺は空いている席を探す。

空いていたのは店の一番奥のテーブル席だった。

そこでしばらく勉強しようと歩みを進めるが、不意に後ろから声をかけられた。

 

「比企谷くん!」

 

戸塚の嬉々とした声を背中で受けて、俺は深く後悔する。

あー、先に店に知り合いがいないかどうかを確かめておくんだった……。

 

けれど、見つかってしまった後ではどうしようもないので、俺は気を抜いて外れかかっていた仮面を被りなおして振り返る。

 

「戸塚か?お、雪ノ下に由比ヶ浜もいるのか。」

 

振り返った先のテーブル席には戸塚と雪ノ下、由比ヶ浜が座っていた。

勉強会でも開いていたのか、テーブルには勉強道具が散乱していた。

 

「比企谷くんも勉強会に誘われてたんだね!」

 

戸塚が満面の笑みで俺を見る。

戸塚はテニスの試合の一件から俺に懐くようになった。

いくら誘われてもテニス部に入る気はないが。

 

「いや、たまたまここに来ただけだ。

そうだな……、俺も一緒していいか?」

 

ここで立ち去るのも不審なので、せっかくならその勉強会とやらに参加しようと雪ノ下を見て言う。

 

「私は構わないけれど……。」

 

「あたしもいいよ!と言うか、勉強教えて欲しいな。」

 

「僕も比企谷くんが参加してくれるなら嬉しいよ。」

 

ふむ、由比ヶ浜、戸塚の反応は予想通りだが、雪ノ下が嫌味ひとつ言わずに許可するとは……。なんか怖いな。

 

「それじゃ、よろしく。」

 

俺が座ろうとすると、由比ヶ浜が場所を空けるが、俺は戸塚の隣に座る。

そんな残念そうな顔をするな。そっちはもう二人座ってるじゃねぇか。

 

「比企谷くんは勉強できるの?」

 

俺が座ると、隣の戸塚が声をかけてくる。

 

「まぁ、それなりーーー 「ヒッキーはいつも学年一位なんだよ!」

 

俺の返答を遮って、由比ヶ浜が説明する。

 

「なんでお前が得意げなんだよ……。」

 

「えへへ、つい……。」

 

「比企谷くんってそんなに賢いんだ。じゃあ僕も教えてもらおうかな……。」

 

「ああ、構わないぞ。」

 

俺たちがそんなやり取りをしていると、雪ノ下が冷めた目で俺を見る。

 

「そんなに余裕をかましていていいのかしら?今回のテストであなたは次席になるかもしれないわよ?」

 

そういえばこいつは成績のことで俺を敵視してたんだったな。

 

「一位でも二位でも最下位でもかまわねぇよ。順位にこだわる気はない。

それよりも、雪ノ下は由比ヶ浜に教えてたんだろ?いつもは俺が教えてるんだが、ありがとうな。」

 

「え、ええ……。」

 

どうでもいいという発言からの素直な感謝に雪ノ下は戸惑っているようだ。

 

「そうだよ、ヒッキー。ゆきのん教えるのすっごく上手いの!」

 

由比ヶ浜が嬉しそうに話すが、それを無視して俺は雪ノ下に続けて言う。

 

「大変だろ。アホの子に勉強教えるの。」

 

俺が真面目な顔でそう言うと、由比ヶ浜は必死で抗議してくる。

 

「アホって言うなし!」

 

その必死さに助長されたのか、雪ノ下も含みのある笑顔を浮かべて言う。

 

「まったくその通りね。」

 

「ゆきのんまで〜。」

 

雪ノ下にまで肯定された由比ヶ浜はがっくり肩を落とす。

俺はさすがにかわいそうだと思ったのでフォローを入れる。

 

「冗談だ、由比ヶ浜。」

 

雪ノ下も俺に準じて穏やかな笑みで言う。

 

「冗談よ、由比ヶ浜さん。」

 

そんなやり取りをしていると、入り口の方からまた俺を呼ぶ声がした。

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

見るとそこには小町と知らない男が一緒に店に入ってきたところだった。

そして、小町は俺を見るやいなやこちらに駆け寄ってきた。




次話の長さの関係で今回はここまでです。すいません、すっごく微妙なところで終わってしまいました。
ちなみに文頭のあれはあまり深く考えないほうが良いと思います。

前回の6巻までか9巻までかということですが、11〜12話あたりでどちらになるのか決まると思います。
露骨なコメ稼ぎなのは分かっているのですが、割と本気で悩んでいるので言っていただくとありがたいです。

後、これから二週間ほどやたらと忙しくなるのでもしかすると来週の投稿はなしになるかもしれません……。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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