さて、情報を頼りに、俺は例のボスを狩りに来たわけなのだが。
「・・・あちぃ・・・」
もはやこのセリフ、何回言ったかもわからない。そう、このボス、火山地帯にいたのである。落ちたが最後、溶岩に煮られて死ぬ、なんていう、超レアな死に方ができること請負だ。いや全くシャレにならないが。しかも、ところどころ道が狭くなっているうえに、そういうところでも敵はお構いなしでやってくる。難易度だけで言えば下手な迷宮区以上だ。
「全く、敵が強いのはいいけどよ、それ以外で神経削っていくって、それどう、よ!」
振り返り様、弓を構えて、後ろにいた蝙蝠の頭をぶち抜く。ヘッドショットを決めたものの、一撃とはいかなかった。落ちないようにバックステップで距離を取り、あえて敵を誘い込む。突進に合わせて回り込むようにステップし、蹴とばす。突進の勢いもあって、その蹴とばしで相手は溶岩に触れて、HPが減った。とどめに矢を連射し、戦闘終了。目的地の祭壇は、もう少しのはずだ。
次々に来る雑魚をなぎ倒す。とりあえず、右から噛みついてきた狼は、右ステップで躱しつつ弓を右手に持ち換えて、左手でぶん殴る。一瞬のディレイの瞬間に、素早く矢をつがえて、足を狙って撃ち抜く。こけた瞬間に、一気に詰め寄る。
「イクイップメントチェンジ、セットワン」
鬼怨斬首刀がなくなったことで片手が開いたことで、オニビカリだけになった近接武器に変える。肘鉄でかすかにディレイを奪うと、柄頭で突いて一瞬動きが固定されたところに、手首を返して斬り上げる。左足で一瞬溜めを作って転身脚を繰り出す。一回転して体制を立て直し、
「全く、逃がしてくれそうにもないとは困ったな」
この後ボス戦が予定されているっていうのに、これはきつい。とにかく、そのまま戦闘に入ることにした。
まず相手の繰り出した攻撃は、その巨体相応の重量を最大限に生かすボディプレス。これは横に避けることで躱す。と、素早く装備を弓に変え、とりあえず一矢放つ。想像はしていたが、ほとんどHPバーは減らなかった。やはりというか、巨体相応のHPがあるらしい。削り切るには少々以上に骨が折れそうだ。というか、それ以前に、武器が持つかどうか。さすがに補給なしでボス連戦はやったことが無い。となれば、体術で削っていくくらいか。幸いなことに、ここの敵は最前線ほど強くない。ならば、予備の武器を使い捨てるくらいの気概で行けば倒せるはず。そう思った俺は、とりあえず武器を、ステータスが高い代わりにあまりに大きい、というか長いので使っていなかった刀、“白波”に変更する。野太刀に分類されるこいつは、その大きさから俺も両手で持たざるを得ないので、今までのスタイル通りとはいかないだろう。が、どうにかする。白波を構え、俺は再びボスに向かっていった。
何とかゲージの一本目は削り切った。が、まだあと一本ある。かなりの強敵だ。これは、正直、きつい。何より、ボスは後半が本番であることが圧倒的に多い。改めて、白波を正眼に構え、相手と向き合う。相手は怒ったように咆える。踏み込みとともに放たれたストレートを横にステップして躱し、その腕を斬りつけようとして、左から飛んできたフックを跳躍しながら刀で受けて下がる。と、その下がった先には、先ほどストレートを繰り出した腕があった。先ほどのあれはおそらくジャブ。本命はおそらく、このフック。つまり、
(誘い出された・・・っ!)
後悔してももう遅い。こうなったら、一撃を甘んじて受け、反撃の一手を図る。こういうパワータイプに対しては最悪に近い一手だが、仕方ない。覚悟した瞬間だった。
「やあああぁっっ!」
甲高い気合とともに、その腕が弾かれる。できた一瞬の隙をついて、一気に反対側にかけ抜けつつ、白波を振り抜く。俺の勘違いでなければ、あいつのはず。あいつならきっと―――
「はああぁぁっ!」
―――ソードスキルで、追撃する。
甲高い、ソードスキル特有の音。斬られた回数は4回。おそらく、バーチカルスクエア。振り返り様突きを放つ。抜きながら回転しつつ、浮舟から緋扇を出す。ディレイが入っている間に、金属のジェットエンジンを思わせる音が轟く。ディレイが抜けきる前にさらに爪竜連牙斬で追撃した後、転身脚を挟んでから風牙絶咬につなげる。その向こうで、加勢してきた相手はバックキックで距離を取っていた。
そこにいたのは、やはりというか、想定通りレインだった。なぜ彼女がここにいるのか、というのはまた後で聞けばいい。先ほどの攻勢で、HPは残りゲージ8割といったところか。とにかく、一気に片を付ける。
言葉を交わさずとも、二人は揃って逆方向に動いた。散開した俺たちに、ボスはその腕を振り回した。俺たちはいったん距離を取り、俺は装備を素早く変更して弓で牽制する。俺のほうにヘイトが向いた瞬間に、レインが跳躍してとりつき、うなじを削り取る。ボスが煩わしそうに背中に腕を回し、投げられる前に離脱する。その間に俺が斬りかかる。俺の袈裟に対して、相手は肉を切らせて骨を切る選択をしたらしく、俺の攻撃を受けながらその爪のひっかきを繰り出してきた。俺もあえて同じ選択をした。爪のひっかきは十分痛いが、このくらいなら余裕で耐えられる。胴を一文字に切り裂くと、追撃で突きを繰り出し、蹴とばして距離を取る。バックキックじゃなかったので硬直はない。だから、次に飛んできたストレートは紙一重で回避に成功する。そのまま腕を切り裂き、返す刀でさらに斬り払って少し後ろに下がる。その間に、ボスを挟んだ向こうからソードスキルの音。少し間が開いて、それより少し長いソードスキルの音。ヒット数からして、二回目は連続。ボスの陰で見えないが、バーチカルアークあたりだろうか。なら、もうこっちとしても出し惜しみする理由はない。ソードスキルで一気に片を付ける。旋車でスタンをとって、剛直拳で長めのディレイを入れる。爪竜連牙蹴で追撃したところで、今度はレインが反対側からソニックリープで飛んでくる。あえて硬直を受け入れたのち、硬直の抜けた俺が相手のストレートを受ける。その間に、レインが懐に入って剛直拳をぶっ刺す。そこに、俺が拳を地面にたたきつけ、天狼滅牙を出した。今なら、ここにはレインしかいない。情報漏えいのリスクは少ない。なら、
「レイン離れろ!」
一つ叫び、目の前で刀を垂直に構える。最近見つけた、刀系裏最上位ソードスキル。繰り出している本人すら目を回しかねない、超速の超連撃。
「お疲れ」
「おう。どうしてここが?」
「君が武器の情報を買った、っていう情報を買ったんだよ。全く、水臭いよ。そういうことなら言ってくれれば協力したのに」
「そういうことか。これは俺のことだから、巻き込むのもな、って思ってな」
「そ、れ、が、水臭いって。私だって、もっと君の力になりたいんだから」
「そ、っか。そうだな。相棒だしな」
「うん!」
満面の笑みでレインが肯定する。つられて俺も笑った。
「んじゃ、改めて、よろしくな」
「うんっ!」
拳を突き出すと、レインも拳を当てる。ま、これにていつも通りだろう。
ボスのところに行くと、そこには一振りの剣が突き刺さっていた。その周りは祭壇のようになっていた。だが、俺にとっては祭壇とは程遠く、
「なるほど、決闘場、ってわけか」
道中で、レインに事情は説明した。この舞台には俺しかいない。おそらく、これがフラグだろう。そのまま手をかざしたところで、剣が光った。光が収まると、目の前には剣でできたボスがいた。いわゆる人型タイプの形だが、四肢はすべて剣、胴体にも剣のような意匠が見える。ボスの名前は、“The Sword Dancer”。事前情報通り、レインは場から弾かれ、俺だけのタイマンだ。
「上等・・・!」
武器を白波からオニビカリに変える。片手フリーの状態で半身になり構える。空中のカウントが終わる寸前、全力で飛び出した。極端な話、0秒でなければ、一万分の一秒でも一兆分の一秒でも攻撃判定にはなる。自分の移動速度、カウント、距離。それらから逆算して、ぎりぎり超えないくらいでの踏み込みを行ったのだ。卑怯この上ないと俺でも思うし、普通はこんな手は使わない。が、俺からすれば、この手を知っている奴はその数十秒後にはポリゴンにしているつもりなので、ほとんど問題ない。
俺の読み通り、空中のカウントが“DUEL!!”に切り替わった直後に、俺がまず一太刀入れることに成功した。が、想定通りというか、手ごたえが非常に硬い。あえて振り抜かず、当てた反動でくるりと体を回転させ、もう一太刀入れようとしたところで、相手が右腕を後ろに振ってきた。回転のエネルギーの乗ったかち上げでこれをいなし、胴体にストレートを入れ―――ようとして、そのまま通り過ぎて反対側に回った。というのも、
(ち、胴体も刃ってこういう弊害があるのかよ・・・!)
直前で気づいたから何とかなったが、あのまま殴っていたら、殴ったこっちの拳は果たしてどうなっていたことやら。最悪、腕の欠損が発生していたかもしれない。オニビカリは確かに強力だが、これだけに頼るわけにはいかない。今オニビカリを喪失したら、痛手などという言葉では済まない。一瞬で距離を取り、武器を白波に戻す。拳が使えないというデメリットはあるが、あえて拳を封じたほうが、こちらの自傷防止にもなっていいだろう。こういう相手には体術のほうが効きそうだが、その辺はうまく加減するしかあるまい。正眼に構え、相手の動きを見る。すると、相手が垂直跳びから、かかと落としの要領で剣を振り下ろしてきた。横に回避し、薙ぎ払う。硬質な感覚をよそに、そのまま蹴とばして距離を取り、メニューを操作。白波をしまって、片手に現れたのは、いわゆるガシャポンのカプセルサイズの黒い球体に、紐のついた棒が貫通しているもの。正直あまり使いたくない虎の子だが、このまま文字通り殴っていてもキリがない。どれほどの効果が期待できるか。でも、このまま斬ったり殴ったりするよりまだましだろう。
予想通りというか、距離を取った俺に対し、相手は距離を詰めてきた。バックジャンプしつつ、球体のほうをできるだけ回転させないように放る。球体に十分相手が近づいたところで、俺は紐を思いっきり引っ張った。その瞬間、見た目からは少し驚くくらいの爆発が発生した。
俺特製、手投げ爆弾。手榴弾のようなものだ。67層ボス戦で使った音爆弾は、衝撃を与えると音を発生させる素材を用いたもので、これとは関係ない。というか、あれにつけたら威力がどのくらいになるか。文字通りの手のひらサイズだったのにもかかわらず、相手のHPは7割ほど減少した。手榴弾と大きく違うのは、純粋に紐を引っ張るだけでさく裂することだ。正確には、紐を引っ張り、それに連動した棒と、内部の火薬との摩擦で着火、高い圧力の火薬に引火してドカン、というからくりだ。・・・試作したときの威力が思いのほか大きく驚いたのは今でも覚えている。最も、紐が安全レバー(信管)の代わりになっていることを考えれば、これもある種の手榴弾か。
先ほどまでの攻撃で、大体残りは1割。どうやら見た目通りの紙装甲らしい。あえて武装は戻さず、俺は徒手空拳のまま突進した。たいていの人型には、人に似ているから生まれる行動の読みやすさだけでなく、もう一つ大きな弱点がある。それを有り余る攻撃の多彩さが厄介なのだが、そこは俺の読みで何とかする。できるからこそ、攻略組を離れていてなお、俺はトッププレイヤーとして君臨できる。まず、俺から見て右からの袈裟はあえてかがむことで回避。直後の片足の斬り上げはあえて内側に回避し、側面部分を強打。想定通りというか、剣先という非常に小さな面積でその体を支えていた相手はたまらず
人型エネミーの大きな弱点。それは、自分たちの体と構造が似通っていること。つまり、どんな人間でも、もっと言ってしまえば動物である以上絶対ある弱点。早い話が、関節の位置である。動物でもある以上弱点ではあるのだが、同じような身体構造をしている人型エネミーには特にその部分は弱点となる。何せ自分の体なのだ、分からないほうが逆におかしい。今回みたいなのは特にイレギュラーだが、甲冑で固めたような相手でも、その関節の部分には柔軟性と伸縮性に富んだ素材を使う。つまり、強度があまりない。で、俺の予想が正しければ、この敵の関節に当たる部分は―――
倒れた敵の肩の部分を踏み砕く。と、少しズレる感触がした。物理的に言えば、電磁力か何かなのだろうか、剣先と柄に当たる部分でつながっていた肩関節が外れる。人間ならば靭帯などに大きな負担がかかるものの、何とか応急処置として元の位置に戻すことはできるし、リハビリでちゃんと完治させることもできる。だが、この敵には靭帯も何もない。ならば、この敵の関節に当たる部分は、要する力が非常に大きいというところはあるものの、文字通り腕を外すこともできるはず。実際、俺の推測にたがわず、かなりの力を要したものの、腕を文字通り外すことに成功した。指に当たる部分のナイフを数本もぎ取り、両手に構える。そのころには相手も立ち上がって体制を整えていた。上等、相手が固かろうが知ったことか。こうなったら短期決戦、そのためには、
(手数に物言わせて潰す!)
両手のナイフで、隻腕となった相手の攻撃をいなしつつ、とにかく斬って斬って斬りまくる。―――そばにいたレイン曰く、「なんかどこからかオラオラオラオラオラって聞こえてきそうだった」とのこと。ま、とにかく、そうして俺はレイドボスを討伐することに成功した。ポリゴンの中に出た“You’re Winner!!”という大きな表示とともに、俺にウィンドウが表示される。予想通りというか、ドロップしたのは大量の剣。防具、アイテム類すらなく、本当に剣しかない。一つ一つは精査していくほか―――と考えていると、俺の周りにガランガランと複数の重たいものが落ちる音がした。周りを見ると、ドロップした武器の一部が転がっていた。もう一つ出てきた通知ウィンドウには、“ストレージ格納限界を超えました。周囲にドロップします”との表示が。それを見てか、レインがこっちに来た。
「お疲れ」
「おう、なかなか楽しいというか、毛並みが違って面白かった」
「その周りは?」
「格納しきれなかった剣だ。格納限界を超えたらしい」
言いつつ、一つ一つを精査していく。どれも、十分前線で使える名剣レベルばかりだ。
「手伝ってもらえるか?」
「もっちろん!」
そういうと、片っ端からドロップした剣を拾っていく。一瞬でドロップした剣は、手分けして俺たちのストレージに入ることになった。ちなみに、ストレージ格納容量は自身のSTRに影響する。つまり、これを格納しても何も問題なさそうなレインのSTRはかなり高いことになる。やはりというか、相当にこの子のSTR、その大本のレベルは高いらしい。
「さて、帰るか」
「そうだね」
そういって、俺たちは転移結晶で戻った。
さて、そうしてリズベット武具店に来たわけなのだが。
「で、この量をインゴットに変えてほしい、ってこと?」
「ま、全部とは言わん」
「あったりまえじゃない!この量全部インゴットにするのにどんだけ時間かかると思ってんの!?」
「さあ?」
「さあ?じゃないわよ!」
さすがにこの要求は無茶だったらしい。ま、ざっと見積もって名剣クラス数十本。手間も相当のはずだ。
「じゃ、鍛冶屋チョイスで俺に合いそうなので」
「え?」
「何となくあんだろ、どんな武器からどんなインゴットができるか、逆にどんなインゴットからどんな武器ができるか。そんなあやふやな感覚でいい。選んでくれねえか?」
「自分で選べばいいじゃない」
「俺にその手の目はないんでな」
「なら、その手の目がありそうで、あんたのことよーく知ってる適任が、あんたの隣にいるじゃない」
そういわれて、隣の少女に目を向ける。と、彼女は少し拗ねたような表情になっていた。
「レイン」
「なに?」
若干だが声も拗ねている。あれ、なんか俺やらかしたかな。
「頼めるか、剣の選定」
「分かった」
あれ、本当に俺なんかやらかした?こういっては何だが、怒るところは怒るが、拗ねるという反応は珍しい。正直、対処に困る。
「あんたバカねー」
「・・・?突然なんだよ」
隣に立ったリズが俺にだけ聞こえるくらいの声量で突然切り出した。俺も同じくらいの声量で答える。
「思い、酌んであげなさいよ」
「やっぱりなんかやらかしてた?」
「あ、そのくらいは分かってたんだ」
「何となくな。なんであんな拗ねたみたいな態度になってるのかわからんから謎なんだが」
「そこまで分かってんなら上出来ね。拗ねてることに関しては放っておけばいいわ、本人が折り合いつけるだろうし」
「そういうもんか?」
「そういうもん。同じ女の感性、信用しなさいって。で、問題は」
「・・・問題は?」
「あんたが気付いてないってことよ。待つだけっていうのも、それはそれで辛いんだからね」
「・・・よくわからんが分かった」
どこか釈然としないが、そもそも俺が物の原因が分からないのが悪い、というのが分かっただけで、今は前進とする。と、レインのほうも決まったらしい。
「お待たせ!これなんかどうかな?」
そこまで話したところで、レインが剣を持ってきた。俺の白波に匹敵する長さを誇る、明らかに両手剣と思われる大型武器。剣先に返しのようなものがついている、どこか錨を思わせる武器だ。ウィンドウを開くと、そこにあった説明文を読む。
『アンカーソード
Range: Two Hand
伝説の海賊が使ったとされる両手剣。海賊は義賊であったが、とある事件に巻き込まれ、悪党として語られるようになった。だがその信念は、剣として残った」
「なんか、似てるなーって」
「誰に?」
「あなたに」
「俺にか?どこが?」
「あー、何となくわかるわ」
「いやいやどこが!?」
「何となくだってば。でも、いいのね?」
「こいつが選んだ剣だ、間違いはないだろう。頼む」
俺のツッコミをいなし、確認したリズに俺は言いきった。それに少しだけ笑うと、彼女は鍛冶屋の顔つきになった。
「見ていくなら構わないけど、長いわよ」
「かまわん」
「なら私も」
俺たちの返答はおそらく聞いていない。というより、耳に入っていない。
炉に剣がくべられる。見る見るうちに剣が赤熱し、それをハンマーで成形していく。少しして、剣はインゴットになった。近くにある、冷却用の水につけて、リズは一言、「・・・奇麗・・・」とこぼした。俺も、おそらくレインも、そのインゴットに見とれてしまった。そのくらい、そのインゴットはどこか星空のように澄んでいた。
「やるわよ」
おそらくは自分に向けて、一声かかる。今度は先ほどの逆だ。インゴットを炉にくべて、赤熱したインゴットにハンマーを振り下ろす。カーン、カーン、と音がする。それを俺たちは、息をすることすら忘れる勢いで見つめていた。と、インゴットが輝いて、みるみる刀の形をかたどった。
形状はいたって一般的な打刀。刃紋はなく、刀身は澄んだ水色―――否、氷色をしていた。
「はい、手に取ってみて」
言われて手に取る。不思議としっくりきた。ウィンドウを表示させ、銘を見る。
『幻日
Range: Two Hand(Usually)
その刀身は在りし日を映すと言われる刀』
「試し振りしてもいいか?」
「ええ、もちろん」
その言葉を受け取ると、俺は店の外に出た。集中して構える。相手が上段から振り下ろしてくることを想定し、抜き胴の要領で胴を薙ぐようにして振り抜く。一発で十分だった。
「さすが、いい仕事だ」
「お代はいいわよ。あの分の剣、全部インゴットにするだけで素材代がかなり浮くから」
「ねえ、なら私の剣も打っておいてもらえない?また今度取りに来るから」
「お安い御用よ。そっちは彼氏チョイスじゃなくてもいいの?」
「彼氏ちゃうわ」
「いいよ、リズさんに任せる」
俺の言葉はスルーして、リズは笑った。
「OK、いい剣打ってあげる。期待しておいて」
その言葉を受けて、俺は改めてリズに礼を言った。
「ありがとな、リズ。レインも」
「いいって」
そのまま店を去ろうとする背中に、
「末永くお幸せにねー」
「やぁかまし」
そんなリズの冷やかしを受けつつ、俺たちはリズベット武具店を後にした。
はい、というわけで。
まずは久しぶり、ネタ解説。
説破
元ネタ:テイルズ術技、使用者:リチャード(TOG)、ベルベット・クラウ(TOB)
技の動きとしてはこうなのですが、イメージとしてはリチャード。彼はレイピア系なのですが、そこはそれ。ベルベット版でもいいかな、とは思いましたが、彼女は足なので。
熊のボス
元ネタ:ブレイジークロー(TOX2)
デカい燃えてる熊。説明としては以上です。といっても、本当にパワーは力を地で行くタイプです。そのパワーがバ火力だから性質が悪いのですが。そこそこ以上の強敵のはずなのですが、主人公コンビの前には問題なかった模様。
白波
元ネタ:テイルズ武器、使用者:ガイアス(TOX2)
説明にある通り、非常に大きな刀です。使用者のガイアスは185cmと非常に長身なのですが、その彼がキリトっぽく背負うと大体足の付け根くらいまで行くレベルの長さ。具体的には全長2m弱くらいを想定しています。
ちなみにロータス君の基本戦術は躱して斬っての連続です。・・・ボス単独撃破しない宣言はなんだったのか。
ソードダンサー
元ネタ:TOVにおける同名のボス
そのままですね。TOVを知ってからSAOの原作を読みだしたので、アンダーワールドのあの戦いは「これTOVのソードダンサーやん」って思ったのはいい思い出。あ、ちなみにこれは初戦のやつなので、翼とかはないです。純粋に体術(?)だけです。
アンカーソード
元ネタ:TOVの彷徨う骸の狂戦士の大剣
はい、PS3版TOVの涙腺崩壊系イベのあれです。なんで狂戦士のボスなのにこんな武器なのか、というのは、まあ、プレイしてください。
幻日
元ネタ:モンハン太刀
元ネタは氷属性なのですが、SAOの武器に属性なんて話は聞いたことが無いので、ただの奇麗な刀です。個人的に、見た目的な意味で、モンハンの太刀の中で一番好きな一振りです。
RangeのところにUsuallyってついているのは、小太刀を装備すると片手、つまりOne Handになるからです。“普通は”両手持ちだよ、ってことなので、こういう表記です。
今回はボス戦でした。ボス戦二連発かよと思ったあなた、いつ私が一回といった?ちゃんと前回に伏線は張ってあるのでへーきへーき。
それにしても、安定の単身突撃していく主人公。というかそれに全幅の信頼を置いているレインちゃんもレインちゃんです。いろんな意味でこの二人、書いてて楽しいです。
武器に関してはかなり迷いましたが、こういうことで。なんでこういうチョイスになったかっていうのは、まあ、ここまでつきあってくださってる読者の皆様は何となくわかるかと思います。
・・・長いなぁ、if編。確実にこれ正史のALO編含めた話数超えるし。
あともう一つ、これ予約投稿かけているのがバレンタインなんですよね。しかもまだ書き溜めがあるっていう。ここまで書いていた俺がいろんな意味で怖いです。
さて、次回は75層のお話・・・、の前に、ユイちゃん回がありますね。ようやくここまで来ました。最後までどうかお付き合いをお願いします。
ではまた次回。