ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

78 / 128
54.骸骨の死神

 その次の日の午後。75層フロアボス攻略レイドが、第75層主街区コリニアの転移門前に集まっていた。だが、俺たちは、本当に少しだが、どこか照れというか、気恥ずかしさが隠せないでいた。というのも、その前の晩の()()の余韻が、まだ少し残っている。と、そこに、エリーゼが合流してきた。

 

「おっはよー」

 

「おはよ」

 

「おう。今日はよろしく頼む」

 

「うん、よろしくねー」

 

 うん、何とかいつも通り挨拶できたかな。

 

「ところでお二人さん。なんでそんな付き合いたて初々しいカップルみたいな距離感になってんの?」

 

「「なっ・・・!そんなことない!」よ!?」

 

「おーおー、いつもに増して息ぴったり」

 

「「だからそんなことないって!な!?」」

 

 まさか二連続で完璧にシンクロするとは思っておらず、その反応にまたエリーゼがツボに入る。

 

「まー、いつもに増して息ぴったりだことで・・・。その息ぴったり度合い、ボス戦で存分に発揮してね」

 

 言い残して、そのまま別の人にあいさつに向かった。その言葉に、隣にいるレインはさらにどこか恥じ入るような態度になっていた。ほんの少しだけ勇気を出して、その手を取る。と、驚いたように―――いや、実際驚いてこちらを向いたレインと目が合った。

 

「堂々としてればいい。俺たちの関係が変わったからなんだってんだ。やることは一緒だ。二人とも、一緒に帰る。それだけだ」

 

 俺の言葉に、レインは目を瞬かせた。嬉しそうな微笑みと手を握り返すことが、その返答となった。

 

 やがて、ヒースクリフが来た。周りを見渡し、ゆったりと宣告する。

 

「欠員はないようだね。よく集まってくれた。状況はもう知っていると思う。厳しい戦いになると思うが、諸君の力をもってすればきっと切り抜けられる。解放の日のために!」

 

 それに対する返答は鬨の声。改めて、この極限の状況で戦士の士気を上げる、その事実に、この男のカリスマというものを感じた。

 ヒースクリフは、キリトに何かささやくと、今度はこちらにきた。ふと一つ笑うと、奴は俺に向かって言った。

 

「君にも期待している。射撃スキル、その力で援護してくれたまえ」

 

「あんまり頼るなよ。俺も人だ」

 

「ああ。だが、守るもののある人の強さ。それを信じている」

 

 そういって、今度はこちらに背を向けて歩いていく。と、ここで俺はようやく、レインとの手をつないだままだったことを思い出した。思わず制御しようとしていたが、少しだけ赤面する。この場面で、どのように言おうか。そう考えた時、隣から声がかかった。

 

「大丈夫。私がいる」

 

 少し驚く。できるだけ顔に出さないようにしつつ、ゆっくりと隣の相棒の顔を見た。俺と目が合うと、相棒はしてやったりとでも言いたげに、にやっと笑った。

 

「ああ」

 

 空いている手を握って、突き出す。相手も軽く握った手で応えた。開いたコリドーで、俺たちは移動する。その扉が開いた瞬間に、抜くように手をほどき、弓を構える。レインも、右手で剣を抜き放った。

 扉が開く。その瞬間に、盾から剣を抜き放ち、ヒースクリフが命じる。

 

「戦闘、開始!」

 

 その声に、全員が声を上げてボス部屋になだれ込む。が、そこには何もなかった。そう、ボスの姿さえ。ポップが遅れているのか、と、俺も考えた。が、微かに耳がとらえた音に、俺は目を向け―――即座に叫んだ。

 

「上だ!退避!」

 

 エリックなんてプレイヤーは、いてたまるか、という話だが、実際に上にいた。即座に矢をつがえて放つ。それを当然のように、鎌になった双腕の片方で弾く。俺の号令に、俺をかき分けるように全員が部屋の後方へ退避する。が、二人逃げ遅れていた。その瞬間、即座にメニューを操作、適当な剣を実体化させ、つがえて放つ。ソードスキル無しといっても、矢ではなく剣を放ったことによる威力上乗せを警戒してか、また片腕でボスは弾いた。が、もう片方は逃げ遅れたプレイヤーの一人に襲い掛かり、大きく吹っ飛ばした。それをキリトが受け止め―――ようとした寸前、その体はポリゴンとなった。それが意味するのは。

 

「一撃、だと・・・!?」

 

「なんて、デタラメ・・・!」

 

 直後に、またボスが両腕の鎌で攻撃を仕掛けてくる。名前は、“The SkullReaper”。骸骨の狩り手、いや、ここは骸骨の死神、が正しいか。真っ先にキリトが動き、パリィしにかかるが、そらしきれてない。と、アスナがそこに加わることで、何とかパリィした。もう片方の鎌はヒースクリフが受け止める。それを確認した直後に、俺は側面に回って攻撃を加える。幸いなことに、こいつはスケルトン系―――つまり、動きの節である関節がよく見える。そこを狙えば、上手くいけば効率よく行動遅延(ディレイ)をとれるはず。

 

「手伝うよ」

 

「前任せた」

 

 その一言で十分。レインが俺の前に躍り出ると、ムカデのような足でつっついて来ようとするのをうまく回避しつつ、足の関節のいくつかを斬っていく。俺はその直後に、そのうちのいくつかを狙って射っていく。そうしているうちに、俺は一つの事実に気付き、慌てて狙いを変えた。それが集団を襲う寸前、透き通った細身の片手剣、“ファントムピアス”がそれをパリィし、そらした。その持ち主であるエリーゼに、俺は心の中で感謝しつつ、大声で注意喚起をすることにした。

 

「尾に刃がある!側面から攻撃するときはそちらにも注意しろ!」

 

 俺の言葉に、ようやくほとんどがその脅威に気付く。その火力、隙の無さ。なるほどこれならいかに攻略組の偵察隊といっても簡単に蹴散らされる。ましてや、今回は結晶使用不可の戦い。厳しい戦いになることは、開始から1分と経たずして、容易に判断ができた。

 

 

 

 

 まさに、激闘と呼ぶにふさわしい戦いだった。俺とレインとエリーゼが幾度となく隙を作り、攻め、フォローし、というのを繰り返していた。幾度となく、こめかみのあたりから変な汗が出てくるのを感じる。何とか抑えているのはただ一つ、外せば終わるという、脅迫にも似た義務感によるものだ。

 だが、俺たちも人間だ。どうあっても限界はある。何とか捌き続けていたが、俺の援護射撃が一瞬だけ鈍ったその隙に、尾の刃がアタッカー集団を襲った。エリーゼのパリィも、俺の援護も、レインの援護も間に合わない。

 

「回避!!」

 

 何とか後ろから声を張る。が、到底間に合わないやつが何人かいることは、俺もしっかり認識していた。一瞬、そちらを向きたくなる。が、―――小を殺して大を生かす。今まで取ってきたその道が、それを許さなかった。的確に、次の攻撃を防ぐための射撃に集中する。そのための攻撃を放った直後、聞きなれたポリゴンの破裂音がした。

 

(くそっ・・・!)

 

 内心で毒づきながら、次の攻撃のために俺は矢をつがえた。

 

 

 

 俺とレインとエリーゼが完全にサポートに回り、他が、視界外から奇妙な軌道で飛んでくる攻撃に警戒しつつ削る。そんなことを、果たしてどれだけ繰り返しただろうか。ポリゴンの破砕数は、カウントしていない。俺は端から、この戦いは犠牲なくしては通れないと考えていた。だが、それでも。破砕音が聞こえるたびに、思わず顔をしかめていた。

 何度目かのフォローの際、俺は少し近めの距離にいた。少しずつ、相手の攻撃によってPOTローテが回らなくなってきて、前衛が手薄になっていた。それによるフォローを一息でできる間合いにいたのだ。だが近づくということは、ワンミスが命取り。そして、そのワンミスが発生した。尾の刃のターゲットは、―――俺の目の前。

 

「イクイップメントチェンジ、セットワン!」

 

 叫びながら飛び出す。手に持っていた弓は消え去り、代わりに俺の両腰に慣れ親しんだ重みが加わる。目の前のやつの前に立ち、そいつを右手で押しのけながらオニビカリを抜刀、“弧月閃”でパリィする。オニビカリを構えて、振り返らずに言う。

 

「あんた、下がってな。俺が前を支える」

 

「・・・すまん」

 

「いいって。こいつが規格外すぎるだけだ」

 

 そんな会話の後に、俺は飛び出した。目標は、レインの斬っている足の、さらに頭に近い部分。尾に近い部分にはエリーゼがいたので、上手くいけばやれるはずだ。走りながら俺は、左手のオニビカリはそのままに、右手を柄にかける。そのまま、走った勢いのまま、抜刀しつつ斬り抜ける、“抜砕竜斬”を繰り出す。硬直が抜けた直後に、振り返り様に刀で、空に勢いよく飛び上がってその場で回転するソードスキル“断空牙”を繰り出し、小太刀で短剣空中連撃ソードスキル“ダンシングザッパー”。とてもシビアなタイミングを合わせて、高速で移動しながらの10連撃などという、規格外の連撃を達成する。続いて飛燕連脚、さらに少し溜めてから、飛び込むような動きの強力な突進を放つ短剣系ソードスキル“アストラルダイブ”、降りた直後の硬直は刀の旋車でキャンセルする。すると、ボスがダウンした。

 

「全軍、突撃!」

 

 ヒースクリフの号令が届く前に、俺は再びソードスキルを発動させていた。相手の股下から逃れるように幻狼斬を繰り出し、その場で飛び上がりながら斬り上げる刀系ソードスキル“月見山茶花(つきみさざんか)”。さらにオニビカリで月下柘榴につなげ、さらに刀で“竜刃翔(りゅうじんしょう)”を発動。飛び上がりながら、俺はオニビカリを納刀、空中から衝破魔神拳を出す。刀を担ぎ、拳をたたきつけた状態は、さらなる大技につながる。刀系上位ソードスキル、天狼滅牙。その大技を繰り出し、今度こそ俺はとてつもなく長い硬直に陥った。そして、その硬直が抜ける直前、ボスが復帰の兆候を見せる。

―――やるか、アレ。

 

「レイン!」

 

「了解!」

 

 阿吽の呼吸で通じ合うと、俺は硬直の抜けた体を即座に動かす。瞬間、幻日に、太陽と見紛わんばかりの、白い光が宿った。しっかりコントロールできる人のほうが少ない、というより、使い手そのものが少ない刀系裏最上位ソードスキル、漸毅狼影陣。その超連撃が突き刺さった。最後の振り下ろしが決まった直後に、ボスが一瞬膨れ上がり―――膨大なポリゴンをまき散らした。

 ボスを撃破した。俺がラストアタックを取った。そんなことより、今回は疲れた、という感情のほうが先だった。それは全員同じだったのだろう。そこら中から、武装が床に落ちる音が聞こえてきた。かくいう俺も、恥も外聞も気にせず、大の字になった。

 




 はい、というわけで。
 まずはネタ解説から。

エリックなんて~~
ゴッドイーター無印冒頭のシーン
 主人公に先輩風を吹かせようとして出オチをかましたエリックに警告する台詞から。アニメでも似たようなシーンになってますが、こちらはだいぶかっこよくなってます。

ファントムピアス
GEB、GERショートブレード系武器
 オレンジ系でステンドグラス風の質感、色合いの片手剣。
 GEBでの追加ストーリーで味方としてストーリーに関わるレンの武器。性別不祥な彼の出自を知ると、この武器の説明がなかなかに沁みます。ネタバレになるかもしれないし、調べれば出てくると思うので言及は避けます。

月見山茶花
PSO2カタナ系フォトンアーツ
 飛び上がりながら斬り上げる単純な技。ここで使われた、ツキミサザンカ→ゲッカザクロのコンボは個人的に鉄板だと思ってます。

竜刃翔
テイルズ系術技、使用者:ユーリ・ローウェル(TOV)
 本家は拳でたたきつけて斬り上げですが、ここでは完全な切り返しです。確実にのけぞらせて空中に持って行くことができる使い勝手のいい技。


 今回は75層ボス、スカルリーパー戦でした。若干以上に焼き直し感が出てしまったのは否定しません。
 正史と比べた最大の違いはレインちゃんとの連携ですかね。正史は火事場の馬鹿力的な感じでしたが、こっちは完全にうまい連携でした。

 ではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。