ソードアートオンライン―泥中の蓮―   作:緑竜

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59.片羽

 さて、無事にレクチャーを受けて、フリーシアについた。と、ベリアが白髪のケットシーに声をかけた。

 

「エリーゼさん、お久しぶりです」

 

「久しぶり、ベリア。後ろは・・・いや、いいわ。何となく察した」

 

 その雰囲気で、俺は彼女―――エリーゼに話しかけた。

 

「ああ。久しぶりだな」

 

「そうね。リハビリ明け以来だから、ざっと半年ちょっとくらい?」

 

「そんなに・・・なるな」

 

「うん。元気そうで何より」

 

 そこで言葉をいったん区切り、彼女はさらに後ろにいるストレアに目を向けた。

 

「あなたも」

 

「・・・はい。会ったことは覚えれてないですけど」

 

「元気な姿を見れただけで、私としては十分に満足よ?」

 

「・・・お知り合い?」

 

「ま、いろいろと、な。そのあたりはま、おいおい話す。

 ところでよ、他種族の武器屋でも装備ってのは整えられるのか?」

 

「そのあたりは問題なし。今の私のクライアントに話を通しておいた」

 

「依頼中かよ。そりゃ悪いことしたな」

 

「いーのいーの。武器に関してはまあいいけど、防具はさすがにフィーメールの装備はつけられないし」

 

「よしんばできたとしても願い下げだ。俺に女装癖はねえよ」

 

「あ、そういえば。アイテムストレージは大丈夫?」

 

「ああ、あれか。問題ない、対処済みだ」

 

「そっか、ならよかった。

 んー、性格の問題からすると、これなんかどうよ」

 

 そういわれて手渡されたのは、白い柄の、あまり特徴のない打刀。

 

「銘は?」

 

「ニバンボシ。すごく使いやすそうな刀なんだけど、私は使わないから。コレクションとして腐らせておくより使ってくれたほうが刀としても本望でしょ」

 

「確かにな」

 

 そういわれて、俺はその刀を腰に装備した。なるほど、これなら。

 

「申し訳ないけど、ことと次第によっちゃぶっつけ本番になるかもしれない」

 

「全く問題ないね。ま、最初は戸惑うかもしれないけど、二分もすれば慣れる」

 

「さすがの順応力・・・」

 

 エリーゼが呆れていると、遠方からケットシーの一団がやってきた。

 

「あれ、領主、どうしてここに?」

 

「どうして、じゃないヨ!時間になっても来ないから、フレンドの位置追跡使って追ってきたんだヨ!」

 

「時間・・・あ」

 

「その様子だと、気づいてなかった?」

 

「・・・申し訳ありません」

 

「報酬1割減で手を打つってことでいい?」

 

「寛大な処罰に感謝します」

 

「そういう固苦しいのはいいって。

 そちらの方々は?」

 

 どうやら、先頭を歩いていた金髪のケットシーがケットシーの領主らしい。で、エリーゼとはそこそこ親しいようだ。その領主に目を向けられ、フカがまず自己紹介した。

 

「あ、私、ドッグアンドキャッツってギルドのリーダーやってます、フカ次郎です。後ろのケットシー二人はメンバーのベリアとシェピ」

 

「あー、ドッグアンドキャッツって君たちかー!今度依頼したときはよろしくねー!」

 

「はい、こちらこそ」

 

 一通りフカの紹介が終わったところで、今度は俺が切り出した。

 

「で、俺とこっちは、エリーゼが前やってたゲームの知り合いです」

 

「へー!てことは、腕前のほうは・・・気にするだけ野暮だね。その刀を使える時点で」

 

「あ、これ、彼女から譲り受けたんですけど、結構な業物だったり・・・?」

 

「結構な、っていうか、ALOでもこれだけデザインと性能が両立されたものはなかなかないって一振りだヨ!」

 

「・・・エリーゼ、そんな代物とは聞いてねえぞ」

 

「そりゃだって言ってないもん」

 

「おい」

 

 俺の抗議に、一切の悪びれもなしにエリーゼは答える。

 

「でも、そのくらいじゃないと不足でしょ」

 

「・・・まあ、否定はせん」

 

 何はともあれ、一線級の武器を手に入れていた。

 

「でも、初期防具じゃ防御力が不安じゃない?」

 

「当たらなければどうということはない」

 

「・・・それができるのは君くらいだから」

 

 領主の質問に対する俺の回答に、ストレアが呆れた。といっても、俺からしたら、この世界の近接攻撃など雑魚もいいところだ。じゃなければ、フカを背後から首をへし折ってHP全損なんて真似はできない。そもそもあそこまで接近することが不可能だからだ。

 

「で、エリーゼちゃん、その子、どうするの?」

 

「本人が構わないなら、護衛に加えようか、と考えていました。腕前は保証します」

 

「なら、護衛への装備拡充ってことで、問題ないネ!君、名前は?」

 

「ロータスです。こっちはストレア」

 

「ウン、ロータス君ね!早速だけどさ、防具は軽金属と布系、どっちが好み?」

 

「個人的には、布系のほうが」

 

「オッケー!じゃ、これかな!」

 

 そういって、彼女は一つのコートをこちらによこした。それは、雨上がりの青空を彷彿とさせる澄んだ水色をしていた。

 

「名前は、コートオブアフターザレイン。物理防御はそんなにないけど、魔法耐性が結構高めで、特に水属性の耐性が高いネ」

 

「そうか。なら、ありがたく」

 

 受け取って、早速装備する。俺好みのそんなに重くないものだ。しかし、コートオブアフターザレイン、か。あいつを追ってこの世界に来た俺にとって、これほどまでにぴったりな名前もなかなかない。と、ここで俺は一つの疑問を覚え、聞いてみることにした。

 

「そういえば、魔法に対抗できるような飛び道具って他にないんですか?銃、はこの世界観だとないだろうから、弓とかボウガンの類とか、無ければ投げナイフとかでもいいですけど」

 

「弓はあることにはあるけど、正直魔法のほうが手っ取り早いヨ?」

 

「いや、個人的には魔法より弓とかのほうが性に合うので。弓とかなら、近接戦でも取り回しやすい小さめのやつがあればなおいいんですが」

 

「それなら、面白い武器があるヨ」

 

 そういって、領主さんはある武器を取り出す。それは、曲刀の刀身が二つ平行についたような、少し不思議な形状の武器だった。

 

「銘は“アローブレイズ”。ALOには非常に珍しい変形武器。見てて」

 

 そういうと、領主さんは逆手に持ったその武器を短い弧を描くように軽く振った。と、折りたたまれた刀身が展開されて、両刃剣のようになった。

 

「で、さらにこれに手元のスイッチを押すと、」

 

 というと、緩やかに弧を描いた二つの刀身の端に光るひものようなものが伸びた。

 

「こうなって、魔力の弦が張られるから、矢をつがえて放つ、ってわけネ。MPをちょこっと消費するけど、そんなに気にするほどの物じゃないよ。今は装備してないからないけど、装備すると矢筒が出てきて、普通の矢は無尽蔵になるから」

 

「なるほど。面白い武器ですね」

 

「どうせあっても使える人がいないから肥やしになってたの。せっかくだから使ってあげて」

 

「ええ。こちらには逆手持ちの心得もありますし」

 

 ありがたくもらって、装備オプションから腰の後ろに、左の逆手で抜けるように装備する。矢筒は右肩の後ろにセットした。

 

「さて、いい加減出発しないといけないのでは?」

 

「あ、すっかり忘れてた!ありがとネ!君、随意飛行は?」

 

「先ほど、フカたちに教わりました」

 

「なら話は速い。飛ぶヨ!」

 

 そういうと、彼女はフリーシアの中にある高い塔へと向かった。

 

「ああ、高度を稼ぐのか」

 

「よくわかったね?これ、初見で見破る人少ないんだけど」

 

「要はハングライダーやパラグライダーと同じ原理だろう。動力があるかどうかの違いだけで」

 

「ま、そういうこと。なら話は速いわね」

 

 そういうと、俺たちもついていくことにした。

 

 

 

 道中で話を聞くと、今エリーゼは領主の護衛をしているらしい。なんでも、他の種族の頭と同盟を結ぶために、中立域にある蝶の谷というところまで行く道中らしい。フカたちとは、塔の麓で分かれた。彼女たちは、シルフの領主側の護衛につくらしい。彼女ら三人はたまたま早くにログイン、離れた場所で遊んでいたところを、俺たちに遭遇した、とのこと。残りのメンバーはシルフの領主の護衛にすでに当たっているらしく、彼女らも、フレンド検索機能を利用して合流する予定だ、と言っていた。

 

「しかし、なんでわざわざ同盟なんだ?協力協定くらいでもいいだろう」

 

「君はグランドクエストの難易度を知らないからそんなことが言えるんだよ。サービス開始当初から挑戦できるのに、いまだかつてあの木のてっぺんにたどり着いた種族はない。単独種族での攻略は無理、って判断がなされたのよ。それに、最近、妙なプレイヤーもいるみたいだし、そっちの対策でもあるかな」

 

「妙なプレイヤー?」

 

「精鋭の前にふと表れて、黒い雷のようなエフェクトの魔法とともに剣術と体術でなぎ倒していくプレイヤー。身長自体はそこまで見たいなんだけど、AGIとPスキルが高いのなんのって。ALO最強クラスで、ようやくタメに持ち込めるだろう、って実力らしい」

 

「へえ・・・ま、それなら、いっそのこと同盟関係になっておいたほうが都合がいいわけか」

 

「そういうこと。シルフとケットシーは領土も隣通しだしね」

 

 その言葉に、俺はとりあえずの納得をした。その謎のプレイヤーは今の脅威でないのならとりあえず捨て置いていいだろう。

 

 

 蝶の谷までの戦いは非常にスムーズだった。傭兵として雇われた護衛は、俺、ストレア、エリーゼくらいの物だったが、正直言ってSAO帰還者である俺とエリーゼ、そしてそれとタメを張れるストレアにとって、中近距離戦での敵は無いと言っていいほどの物だった。はっきり言って、この程度なら60層を超えたくらいの難易度のほうがよほど難しかった。俺としては、変形武器のアローブレイズの練習もできたので万々歳もいいところだ。自由度の高すぎる三次元的戦闘にはすぐに順応できそうにないが、ある程度のレベルなら全く問題はなかった。

 

 蝶の谷へ着くころには、シルフの一団がついていた。両者交渉の席について、そのまま同盟成立と相成る、と思われるときに、俺の視界の端にきらりと光るものが見えた。とっさに使い慣れた武器種であるニバンボシの鯉口を切る。それを合図に、全体が警戒に入る。俺の目線の先には、かなりの集団がいた。

 

「赤い、ってことは、サラマンダーか。人数は・・・」

「ざっと50、ってところかな」

 

 俺の後の言葉を引き継いで、ストレアが言う。50ってことは、フルレイドか。

 

「どこかにSがいる可能性が高いね」

 

「付け加えろ。ここまで正確な情報ってことは、おそらく領主側近がSだ」

 

「あ、やっぱり?」

 

「そうじゃなきゃここまでの軍勢は出さん。スカを考えてないとしか思えないからな」

 

 さらりと会話する俺とエリーゼの言葉に、他がぎょっとする。が、フカたちは冷静だった。

 

「ドッグアンドキャッツ、抜刀。少なくとも30は道連れにするよ!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 フカの掛け声で、シルフの護衛から10人ほどが抜刀する。俺も、ニバンボシの柄に手をかけた。と、ここで、サラマンダーの前に堂々と立ちふさがる、黒く小さな影があった。同時に、シルフの領主に、シルフの少女が駆け寄る。

 

「双方剣を引け!!指揮官に話がある!」

 

 おーう、大胆な奴め。敵さんがこれに素直に乗ってくれればいいけど。と、考えていると、大柄な剣を装備したサラマンダーが一歩前に出た。

 

「俺が指揮官だ。話とは?」

 

「俺はキリト。スプリガン・ウンディーネ同盟の大使だ」

 

 ・・・Oh・・・お前さんかまっくろくろすけ(キリト)。で、おそらく連れと思われるさっきの少女の表情が明らかに固まった。と、いうことは。

 

(ブラフかよ。ばれたらどうするつもりだこのバカ)

 

「大使が護衛の一つもつけないのか」

 

「たいていの護衛は足手まといだからな。こっちからお断りした」

 

 俺の思惑をよそに、二人は話を進める。その言葉に、俺はうつむき、ため息をついてキリトの横に立った。―――こういう馬鹿は嫌いじゃない。

 

「ま、そういうこと。俺がウンディーネ側の大使。で、俺のほうは、まあ一応念のためってことで、一応頼れる伝手の護衛を頼んだ、ってだけ」

 

「ほう・・・。なら、それ相応の実力はあるのだろうな?」

 

「そりゃもちろん。なら、やるか?」

 

 そういって、俺は柄を握る強さをほんの少し強くする。

 

「なら、30秒俺の攻撃を耐えきったら、大使と認めてやる」

 

「そういって、首を取るまで、とかいうつもりだろう?」

 

「お望みとあらばそうするが?」

 

「端からそのほうが楽でいい」

 

「そうか」

 

 そういうと、相手が抜剣した。見た目は、柄に相当の竜があしらわれた大柄な剣。おそらく両手剣。このゲームはPK推奨。なら、わざわざデュエルを申請する必要もないだろう。

 

「いつでもどうぞ」

 

 俺の余裕綽々な態度に業を煮やしたのか、相手が突進してきた。構えは中段に近い位置。となると、

 

(おそらく突きはない。小手もないだろうな。セオリーで行けば大上段から真っ二つ狙い、次点で袈裟、ないしは薙ぎ。大穴でかち上げ。なら―――)

 

 右手はニバンボシに、左手は逆手でアローブレイズに。ある程度のところで、相手はその両手剣を大きく振りかぶった。瞬間、俺は左手を鞘に持ち替え、間合いを計る。そのまま、ニバンボシの居合で、抜き胴の要領で胴を斬り払う。即座に納刀、反転から一気に接近して、アローブレイズを抜き放つ。本来なら、対応されてもそのままパリィ気味に、左下から斬り上げるように一閃できる、はずだった。が、どういうわけかこちらの刀身は相手の刀身に当たらず、通り抜けるような軌道を描いた。とっさに手首を反時計回りにねじったことで手首の端を切り裂いたが、こちらは完全にクリーンヒットが入った。

 

(なん・・・だと・・・!?)

 

 さすがにこれは成す術もない。ある程度体勢を立て直しつつ吹っ飛ばされる中で考える。

 

(おそらく、何かしらのスキルによるもの。クーリングタイム、ないしは使用回数制限があると考えるのが妥当だが・・・分からない以上、完全無制限の仮定の下で行動を逆算するのが適切。とすれば、パリィはほぼ不可能。やれるとすれば、持ち手の部分。ここ一発のみだな。

 クリーンヒットといえど、ここまでがっつり吹っ飛ばせるってことは、間違いなくSTR型のパワーアタッカー。魔法のステータスは分からんが、とりあえず、AGIはそこまで高くないと仮定して問題ない)

 

 STR型のアタッカーに対する対策。それはすでにある。そして、武装は十分整っている。

 

(さて、反撃開始。―――ここからは俺のターンだ)

 

 アローブレイズを弓状態にして、吹っ飛んだ方向から推測した方向に矢を放つ。そのまま背面飛行に移行し、一発放つ。少し間をおいて、もう一発。そのまま小さな径で右旋回をして、一気に上昇する。その間に、曲刀状態で突進する。それに対し、相手はその両手剣を盾にして防御しにかかる。瞬間的に、かつ得物の持ち手である、こっちから見て左側で対応できるあたり、やはり白兵戦に優れた人物なのだろう。モンスターを狩るより、対人戦に特化したような感覚か。俺に似ていると言えば似ているが、俺の場合はMob戦のほうに戦い方が寄っているように思える。

 相手の両手剣のガードを、右手のフックで躱す。そのままもう一発ミドルキックをかまして距離を取る。もう一度アローブレイズを弓状態にして、数発放つ。

 

「猪口才!」

 

 矢を斬り払って相手が突進してくる。それに対し、俺はさらに数発放つが、これは斬って捨てられる。ま、距離を開けた戦いというのは、いかに接近させないか、もしくは撃ち合いを制するかにかかっている。自身が近距離を、相手が中遠距離を得意とするなら、相手と同じ土俵に立つか、クロスレンジの白兵戦で圧倒する。つまるところ、セオリー通り。早い話が、

 

(読んでるっての)

 

 ラストと決めて、もう一発。これは躱して突撃してくる。軸を変えつつもほとんど速度を変えないあたりはさすがといったところだが、それがかえって俺の思惑にばっちりハマった。

 相手からしたら、俺は矢を放った体勢で、即座に白兵戦には移れないと踏んでいるのだろう。大上段に剣を掲げ、完全に“獲った”という顔をしている。実際、普通ならこれは完全に詰みだろう。だが。それは、()()()()()()()()()、の話。

 カシャンと手を振って、弓を逆手持ちの曲刀に変化させる。相手の上段が動き出した瞬間を狙って、ほんの少しだけ前進。その首に刃を突き立てた。頭を揺さぶる殴り方をしてから、横に薙ぎ払って刃を抜く。とどめに腹をけ飛ばして、一発弓を放つ。完全にそのHPを削り切った。

 

「ま、ざっとこんなもんか」

 

 ユージーン将軍は確かにかなりの手練れだったが、同格以上の、しかもAGI-STRないしはAGI極への対策が甘かった。そこが、俺の一番の勝因だろう。その証拠に、俺の決定打となった一撃の前に相手が出そうとして来た攻撃は両方とも大上段からの攻撃だ。確かに、高STRで放たれる上段はかなりの有効打であることは認めよう。だが、どんな攻撃にも弱点というものはある。俺からしたら、上段は連撃の中で使うことはあるが、ああして一気に初段で使うことはほとんどない。むしろフェイクとして使うことのほうが大きい。

 なぜかと言われれば、上から振り下ろすだけの上段はシンプルかつ強力だが、振りかぶる以上、カウンターはどうとでも取れる。要するに、予備動作が大きすぎるのだ。フェイクとして使うことが多いのは、まさにこのカウンターをカウンターで返すことを狙っての事。実際、俺は何度か成功させている。成功率が極端に低かったのは、あの赤眼の馬鹿くらいだ。あいつは決定的に才能の使い方を間違えている。

 

 敵味方なく周りから上がる歓声を背に、俺はそんなことを考えていた。

 

 

 空中に浮かんでいるリメインライトを拾って、俺は二人の領主の元へ向かって行った。両軍から上がっていた歓声には片手をあげて答えつつ、声をかける。

 

「誰か蘇生魔法を。このままじゃ交渉もままならん」

 

 

 

 

 蘇生されたサラマンダーの将軍、ユージーンは、俺を見据えていった。

 

「強いな。間違いなくALO最強のプレイヤーだ」

 

「そいつぁどうだろうな。キリト―――スプリガンの大使とは何度か戦ったが、あいつと俺は五分ってとこだから」

 

 エリーゼと俺なら、ほぼ間違いなく俺が勝つ。だが、キリトは何度か模擬戦で刃を交えたが、キリトの武器破壊(アームブラスト)なしでの模擬戦だと、ほぼ五分、若干俺のほうが勝っている。ちなみに、武器破壊有りだと7:3でキリトのほうに軍配が上がる。

 

「俺はちょいとばかし特殊な事情でPvPは強くてね。だから、俺は別格として考えたほうがいい。

 で、大使の件、信用してくれる気にはなった?」

 

 その言葉に、ユージーン将軍は押し黙った。ああいった手前、そうやすやすと翻意するわけにはいかない。それに、いくら多勢に無勢とはいっても、ALO最強格が二人はいる状況。よしんば首をとれたとして、採算が合うかどうか。これほどの大部隊、壊滅させられたら復活させるのにも時間がかかるはずだ。その間に首を取られたらたまったものではない。と、ここで、後ろからサラマンダーの一人が声をかけた。

 

「ジンさん、ちょっといいかい?」

 

「なんだ、カゲムネ」

 

「思い出したんだよ。俺のパーティを壊滅してくれたのが、そこの二人と、後ろにいるシルフの嬢ちゃんのパーティだ。それに、エスの情報で追ってるのも、このスプリガンだった。確か、メイジ部隊が追撃して、返り討ちにあったはずだ。そのウンディーネも法螺吹いてるわけじゃないだろうよ」

 

 つらつらと出てくる言葉に、俺は内心で驚いていた。このカゲムネとかいう男に貸しがあるわけではない。が、これはラッキーだ。

 

「・・・そういうことにしておこう。二人とも、今度は立場抜きのタイマンだ」

 

「望むところ」

 

「歓迎しよう、盛大にな!」

 

 そういって、俺たちそれぞれに握手を交わし、サラマンダーは去って行った。その背中を見送りつつ、俺は安心した。

 大集団を完全に見送ってから、俺は隣のキリトの頭を全力で殴った。

 

「殴るぞ」

 

「・・・殴る前に言え・・・」

 

「普通あんなドでかいブラフかますか。ブラフかますにしても、規模を考えろっての。全く、二年前から後先考えずに話をデカくするのは変わってねえな」

 

「でもいい手ではあっただろ!」

 

「俺らならあの手の有象無象くらい蹴散らせただろうが。あの将軍も、二人でかかれば倒せただろうし」

 

 目の前で始まった俺たちのやり取りに、二人の領主の目が点になる。

 

「・・・ブラフだったのか」

 

「俺だってなーに言いだしてんだこいつって本気で思いました」

 

 と、そんなやりとりをしつつ、俺はふと先ほどの言葉を思い出す。

 

「そういえば、エスがどうとか言ってたな」

 

「エス?」

 

「一般的には、スパイや内通者を示すスラングだな」

 

「あっ、そうだ!サクヤ、シグルドが裏切ってたんだよ!」

 

「シグルド、ってのは?」

 

「シルフの幹部だ。そうか、あいつが・・・。大方、モーティマーに乗せられたか・・・」

 

「つっても、寝返ったとして、なんかメリットあるのか?」

 

「次のアップデートで、転生システムが実装されるという噂がある。あいつは、サラマンダーの後塵を拝する今の状況に不満を持っていた。おそらく、私の首の代わりに転生させてそれ相応のポストを約束したのだろう。用心深いモーティマーが、その約束を守ったかどうかは分からんがな」

 

「ましてや、どう出し抜くかが肝になってくるんなら、牙を抜いたうえで領主の首を取れる。一挙両得だ。ま、俺からしたら、そもそもそれを利用されるってセンを考えなかったのか、って思うけど」

 

「・・・と、言うのは?」

 

「そういう外部戦力、っていうのは、内通するのにはうってつけ、ってこと。で、そのシグルドって人は、今どこに?」

 

「留守を任せている。

 ルー。確か、闇魔法上げてたよな」

 

「ウン。でも、これだけ日が高いと、月光鏡も長くはもたないヨ?」

 

「問題ない。長話をするつもりもないからな」

 

 その答えを聞いて、ケットシーの領主さんはスペルを詠唱する。そこに現れたのは、巨大な鏡と、どこかの部屋。どうやら、テレビ電話のようなものらしい。

 

「久しいな、シグルド」

 

「なっ・・・サクヤ!?どうして!?」

 

「少し、な。そういえば、ユージーン将軍が君によろしくと言っていたよ」

 

 その言葉に、一瞬しかめっ面をしたシグルドだったが、即座に開き直ってふてぶてしい表情になった。

 

「それで?俺をどうするつもりだ?」

 

「なに、そろそろ代替わりの時期だと思っていたところなのだ。シルフが嫌というのであれば、お望みどおりにするまでだ」

 

 そういって、彼女はなにやらウィンドウを操作した。直後、シグルドにもなにやら表示が出て、その直後に彼の顔色がみるみる変わる。

 

「なっ・・・!追放だと!?」

 

「そうだ。レネゲイドとして、中立域をさまよえ。お前ほどの男だ、いずれどこか拾ってくれるやもしれん。ではな」

 

「貴さ―――!」

 

 何とかこちらに向かって跳びかかろうとしたが、その直後、彼はどこかへ転移されていった。それを見てか、アリシャは魔法を解除した。その後、シルフの領主はキリトの連れになにやら話し込んでいる。その間に、アリシャはこちらに話しかけてきた。

 

「いやー、ただものじゃないとは思ってたけど、ここまでとはネ」

 

「ちょいとやんごとなき事情で、特にPvPは得意になったんですよ」

 

「フーン・・・?」

 

 やや目を細める領主さんに、俺は何食わぬ顔で続ける。

 

「とりあえずはこのまま護衛を続けさせていただきますよ。依頼の完遂は傭兵の基本ですから」

 

「ならさ、その後、私専属の護衛にならない?待遇は保証するヨ?」

 

「ありがたい話ですが、丁重にお断りさせていただきます。俺は縛られずに自由にプレイしたい人なので」

 

「・・・彼女に負けず劣らず変わり種だネ君」

 

「え?」

 

「エリーゼちゃんにもそうやって断られたんだ。知り合いみたいだし、似た者同士だなーって」

 

 なんというか、それはたぶん、たまたまじゃなかろうか。いや、一つ心当たりがなくはないのだが、・・・いや、まさかな。

 

「護衛を完遂した後は、こっちとしてもやりたいことはありますがね」

 

「そっか。もし、だまして悪いが、をしたら?」

 

「誰であろうと、その首をもらい受けましょう。今回に関しては、俺はただ乗っかっただけです。この剣が報酬、ってことで」

 

「・・・本当に似た者同士だね」

 

 そういって領主さんは笑った。きっとそれに感じた俺の感覚は、間違いではないと思いたい。

 




 はい、というわけで。まずはネタ解説。

ニバンボシ
テイルズオブシリーズ、ユーリ・ローウェル(TOV)専用武器
 一番はあいつのためにとっておいてやるさ・・・ってワケでもないが意味深な名前を持つ刀。 というのは、原作の解説文。パッケージ武器でもあり、グラブルコラボでも彼の武器として登場する、彼を象徴する刀。

 アローブレイズは特に元ネタはありませんが、bloodborneという作品の「シモンの弓剣」という武器にインスピレーションを得ました。あとはTOGのヒューバートの第二秘奥義。名前はエースコンバットインフィニティの部隊名から。

・・・サブタイトルに関しては何も言うまい。しいて言うのであれば、TACネーム的に考えて、というところ。もう片方は、まあ、彼女です。


 実を言うと、当初ニバンボシはSAOif編の最終局面で彼が使う刀でした。ですが、この後の展開から、悩み抜いた末に変更してこの形。

 ユージーン将軍戦でかなり文字数を食って、歴代でも最長クラスの9700字オーバー。でも切るところなかったんですごめんなさい。白兵戦に関しては、もともとそんな強くない相手を斬ってきたユージーンに対し、互角以上の相手と模擬戦をしていた彼にとってみれば、このくらいは楽勝といったところでした。原作からしてこんなんだったんだ、俺は悪くねえ。

 この後の繋ぎの展開が思いつかなかったのと、あまりに長すぎたのとで、ここからは急展開になります。お見逃しなく。

 ではまた次回。

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