噂な彼女【完結】   作:遠名 彬

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いざ書き始めると以外と書けない。連載作家さんを見くびってました。申し訳ありません。

紅魔館編です。


紅魔郷→妖々夢
紅い館へ(上)


 幻想郷が紅色になった日からそれなりに日にちが経った。そして、そんな異変を引き起こした妖怪たちを交えた宴会から数日が経った。

 

 そのどちらにも私は関係していないけれど、否が応にも耳に入ってくるのだから知っている。まあ、聞く限りでは別に参加しなくても良さそうではあった。

 

 私は酒が飲めないのだ。

 

 前に一度奨められて、たぶんあれは邪な考えを持っていたであろう人々に乗せられて、日本酒を飲んだ事がある。あの生理的に受け付けないつんとくる臭いを我慢しつつ、何とか一口含んでみると、その口腔に広がるなんともいえない感覚に体が毒か何かと錯誤的に拒否反応を起こし、目の前に座った人間の顔にぶちまけてしまった。それ以来、私にお酒を奨める人はいなくなった。そしてそれが噂と成り、しばらくは勾玉を外す気も起きなかった。

 

 宴会というものは、そういった物を飲み、前後不覚になる事を楽しむ事らしい。酒が飲めない私が出席したところで、後片付け役に抜擢されるのが関の山だ。行く意味が無い。

 

 だから私は、その妖怪たちに会ったことも話した事もない。なんでも紅魔館なるお屋敷に住んでいて、レミリアなる吸血鬼を首領とし、『幻想郷の日差しを遮る為』に霧を出したのだとか。なんとまあ、外から来たであろう妖怪にも拘わらず、なんとも幻想郷の妖怪のような事を言うものだ。妖怪というものは古今東西同じような思考回路で動いているのだろうか。私も妖怪だが。

 

 

 そして、どうして私がそんな、関係も興味も特に無い紅魔館の妖怪の事を考えているか。それは昼頃、つまり今まさに、優雅に二度寝を満喫していた私の前に現れた少女が放った一言が原因である。

 

 

「おい、風。紅魔館に行かないか?」

 

 

 戸を開けたまま寝巻きで目を擦る私の前に仁王立ちして、竹箒を携えた魔法使い、霧雨魔理沙は言った。

 

 ……。

 

 私の中には、今二つの勢力が対立している。

 

 それは、曲がりなりにも知り合いが訪ねて来ているのだから、提案に乗るべきであるという、称して親善派。そして、何故私が特に用も無く人里を離れて面倒そうな妖怪の巣屈に突入しなければならないのかという、称して倦怠派。

 

 行くのか行かないのか――。そんな単純な事について刹那の思索を巡らせている私は、霧雨魔理沙という少女の性質を微塵も理解していなかったという事だ。

 

 

「どうしたんだ。40秒もあれば仕度は出来るだろう。ほら、さっさと着替えて来い」

 

 

 そう言って魔理沙さんは背を向けた。

 

 言葉の意味するところを理解するのに二秒、魔理沙さんの意図を察するのに二秒、行動を決める事に一秒。

 

 たっぷり五秒の間、私は疑問の顔で固まっていた。

 

 何のことはない。魔理沙さんの中では、私に最初から拒否権など認められていなかったということだ。

 

 

 ――――――

 

 

 外に出かけるための着替えを済ませたところで、はたと気がつく。

 

 初対面の家に伺うのだ。手土産の一つや二つくらいは必要だろう。

 

 そうしてぐるりと狭い家の中を見回す。物が少ないので、結構片付いている印象だ。だが、他人に贈るほどの物があるようにも見えない。というか記憶にも無い。

 

 とりあえず待たせては悪いと家を出る。外では魔理沙さんがいかにも暇そうに突っ立っていた。その瞳が私を捉えると、待ってましたと言わんばかりに箒を立たせた。

 

 

「よし、行くか」

 

 

 

 魔理沙さんのその声に、私は一声待ったをかける。

 

 

「その前に、何か手土産でも買って行きたいんですが」

 

「手土産ぇ?ああ、そういう事か。いいぜ」

 

 

 何がそういうことなのかは分からないが、多分魔理沙さんの事だから訪問するのに手土産を持っていくという概念を忘れていたのだろう。

 

 私はきちんと財布を持っていることを確認して、商店を目指した。

 

 

 ――――――

 

 

 そうしていくつかの店を見て、無難に煎餅でも買っていくことにした。

 

 相手は吸血鬼である。食べ物の好みは分からないが、巷で言われている鬼の弱点に煎餅は無かったはずなので、多分問題ないだろう。吸血鬼が鬼なのかは分からない。名前に鬼と付いているのだから多分鬼だ。

 

 紙袋に入った煎餅缶を箒に引っ掛けて、私は魔理沙さんと共に箒で飛び上がった。前に乗ったときも思ったがいかんせん座り心地がよろしくない。乗せて貰っておいて図々しいだろうが、思うだけなら問題ないはずだ。私に合わせて歩いていこうものなら着くころにはおやつ時どころか斜陽になってもおかしくないし、スペルカード云々が通じない野良妖怪に出くわす可能性もある。それだけ幻想郷を歩き回るのは面倒で危険な事なのだ。飛べないというのは何と不便な事か。一度何とかして飛べないかと実験した事もあったが、見事にうんともすんとも言わなかった。頼んだ相手が霊夢さんだったのがいけなかったのだろうか。何となく飛べ、としか言われなかったし。

 

 

 そうこう考えているうちに、どうやら近づいてきたようだ。ほんのりと冷気を感じるこの空間は、霧の湖の上空だろう。名前に疑いなく、確かに霧がかっている。こうしてみると結構綺麗なものだ。寒いが。夏だからとそれなりに薄着をしてきたので、冷気が肌に刺さる。

 

 

「寒いですね。ここが霧の湖ですか」

 

「いや、これは……。あのバカの仕業だな」

 

 

 魔理沙さんはそういって、高度を下げる。バカ、とはなんとも酷い言い草だ。例え本当に馬鹿でも言い様があるでしょうに。真実を伝える事ほど残酷な事はない。まあ、本人は聞いていないようだから構わないが。

 

 

「だれがバカですって、この白黒!」

 

 

 訂正、聞いてた。

 

 私たちの目の前に浮いて出てきたのは、一人の幼女だった。大体私と同じ……いや、少し年下くらいか。全身真っ青で、背中からは光を乱反射する氷の羽のような物がくっついていて、何故か自信満々な不遜な顔でこちらを見ている。

 

 ……うん。馬鹿っぽい。

 

 

「お前だよ、馬鹿。こんな寒くしてなにやってんだ。門番が風邪引くぞ」

 

「だって夏は暑いじゃない。涼しくして何が悪いの?」

 

「私は夏派だぜ。喧嘩を売ってるのか?」

 

「暑さに蕩けた人間には制裁が必要ね。芯まで凍らせてあげる!」

 

 

 ……今、凄まじく嫌な予感がしている。この話の流れでは間違いなく、あれが始まる。

 

 

「私は一枚でいいぜ。生憎じっくり遊んでる暇は無いんだ」

 

 

 なら喧嘩買わないでくれませんか。

 

 私の心の叫びは聞こえる訳も無い。

 

 

「ああ、そう。ならこっちは三枚よ。卑怯もズルも無いでしょ?」

 

「風、しっかり掴まってろ。あの馬鹿は瞬殺する」

 

 

 もしかしたら降ろしてくれるかも、なんて甘い望みも見事に断ち切られる。

 

 こうして、私は魔理沙さんの弾幕ごっこに巻き込まれてしまった……。

 

 

 ――――――

 

 

 怖い。

 

 チルノというらしき氷の妖精が打ち出す氷柱や光弾を、当たるすれすれで回避しながらこちらも光線を出して応戦する。たしかグレイズとか言ったか、相手の弾幕を掠めるように回避すると、火花のごとく綺麗な余波が出て高得点らしい。得点制なのかといわれればそうではないらしいが、綺麗なほうが勝ちなのだとか。よく分からない。

 

 いやしかし、周囲の景色すらまともに視認できない速度で駆け抜け、その度に当たるか当たらないかのギリギリで弾を避けていくこれは怖い。悲鳴すら出ない。飛べても弾幕ごっこだけはやらないと心に決めた。

 

 

「ほらほら、当たる弾を撃てよ。これじゃ相手にならないぜ」

 

「うるさーい!避けながら言うな!氷符『アイシクルフォール』!」

 

 

 ――――――

 

 

 たぶん10分かそこらしか経ってないだろうが、私の体感時間ではもうそろそろ一日が終わってもいい。

 

 

「私の勝ちだな。妖精風情が挑むからこうなる」

 

 

 ポーズを決める魔理沙さん。いやいや。

 

 

「あのチルノって人落ちちゃいましたけど、いいんですか?」

 

「妖精だからな。問題ないだろ」

 

 

 さいですか。

 

 

 巡航速度に戻った箒の上で、私は小さく一息ついた。魔理沙さんまでスペルカードを使いだして、あれはたしかスターダストなんとか、だったか。一気に加速したときは意識が飛びかけた。今でもまだ、心拍数が元に戻っていない。

 

 

「どうした、怖かったか?」

 

 

 からかうような魔理沙さん。洒落になっていない。

 

 

「え、ええ。とても……」

 

「そりゃ大変だ。ま、そのうち慣れるだろ」

 

 

 ……あまり慣れたくはない。

 

 

「お、見えたぞ。紅魔館だ」

 

 

 魔理沙さんの言葉で前を向くと、確かにそこには紅く大きな館があった。洋風建築を見るのは初めてだが、どこか冷たい印象を受けた。

 

 

「おーい、門番やーい。元気かー?」

 

 

 近くの陸地に降り立つ。そこはちょうど紅魔館の門の前だ。魔理沙さんが門番と呼んだ女性は、門の前に立っていた。大きくスリットの空いた中華服を身に纏った、とても女性らしい(・・・・・)体型をしている。

 

 悔しくはない。

 

 

「おや、いつぞやの魔法使いさん。して、その子は?」

 

「ああ、こいつは(ふう)。人里に住んでる外来人(・・・)だよ。挨拶に来たんだ」

 

 

 あ、そうだった。すっかり落ち着いて忘れていたけれど、一応紫さんと霊夢さん以外には外来人として通ってるんだった。

 

 我ながらなんとも間抜けな度忘れだ。自分の正体を見失っていた。このまま自己紹介していたら、間違いなく自分の事を妖怪だと名乗っていた。危ない。

 

 

「風です。人里で噂屋を営んでいる外来人です。よろしくお願いします」

 

「これはご丁寧に……私は紅 美鈴(ほん めいりん)、紅魔館の門番です」

 

 

 ぺこりとお辞儀をする。美鈴さんもお辞儀をしたようで、魔理沙さんは何故かとても驚いた顔をしていた。

 

 何ですか、その異端者でも見るような目は。まるで幻想郷でまともな挨拶は珍しいみたいな顔は。いや、間違ってないですけどね。

 

 

「あら、来客?珍しいわね」

 

 

 いつの間にか美鈴さんの真後ろに立っていた人から、そんな声が聞こえた。

 

 

「あ、咲夜さん。そうなんですよ。なんでも挨拶だそうで」

 

 

 ……。

 

 

「そう。そこの白黒は付き添いかしら。まあ、お嬢様に伺ってくるわ」

 

 

 それだけ言うと、その女性は消えた。

 

 消えたのだ。スキマのように見え見えなタネがあるわけでもなく、忽然と。

 

 しかし、それは私にとって、驚きと言うより箍の外しにしかならなかった。

 

 ……なんであの銀髪の女性、咲夜さんだったか、は、ここの使用人みたいな立場なの……。あの顔と服を見るたびに、二週間くらい前のあの(・・)光景が、つい昨日のように浮かび上がってきて、笑いを堪えるのに大変だ。

 

 魔理沙さんも美鈴さんも、不思議そうな顔で此方を伺ってくるが、しかしそれに返答するほど精神的余裕もないし、そもそもここで喋ったら帰ってきた彼女に何をされるか分からない……。

 

 

「許可が降りたわ。入ってもいいわよ」

 

 

 また、いつの間にか美鈴さんの後ろに立っている咲夜さん。能力か何かだろうか。

 

 そんな咲夜さんと目が合う。あちらは私の事など覚えていないようで、特に興味も無さそうに目を反らした。流石に私の内面まで見透かすわけではないようだ。いやしかし、咲夜さんの顔を見るたびに笑いそうになるのは何とかせねばなるまい。流石に失礼だ。

 




次回へ続く。
たぶん次回で紅魔館編は終わりです。

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