毎回疲れている気もしますが。
活動報告でも書きましたが、お気に入り2000件越えました。
まだ伸びているのがちょっと信じられないほどです。
どうやら原作前という道無き荒野を走っているため目立つ車が私の小説のようです。
「そうですね……少しばかり昔語りに付き合っていただきましょうか」
そう言ってワイズマンはそう語り始めた。
* * *
ワイズマンがユグドラシルをはじめたとき目指したものがあった。
全種族・全職業の発見である。
種族で800以上、職業で2000以上と言われてたそれらをコンプリートすることは、いくらデスペナを利用した再作成が可能とはいえ一人では絶対に不可能であった。
だからこそ彼はワールド・サーチャーズを作り上げたのだ。
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当然ワイズマンは異形種とも交流を持ちたかったのだが、残念ながら初期のユグドラシルで異形種を取ったプレイヤーはは少なかった。
その貴重な異形種プレイヤーに聞いてみたところ、非常に操作しにくい、との事だった。
スライムは車椅子を動かしているようだとか、バードマンは羽を操作するのに苦労するという。
ワイズマンにしてみればなかなか興味深い話ではあったが、動かし方に慣れるまで探索が滞るようでは元も子もない。
結局ワイズマンは人間種を優先して職業を探して冒険を始めたのだった。
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最初は楽しかった。
ものすごい勢いで情報は集まり、データの蓄積も次第に増えていく。
アイテムとして持ち運ぶのが困難になり、拠点を作るに至る。
当時としては大き目の物件を選んだつもりだったが、全体で見たとき相当小さい部類だとわかった時などはギルドメンバーと笑いあったものだ。
その後移転しようかとの意見も出たが、既に内部は膨大な数の資料で溢れており、今更移動させるのも面倒ということで却下された。
データを溜め込む一方の拠点は図書館の様相を呈して行ったため、自然と「名も無き図書館」と呼ばれるようになった。
ちなみにメンバー全員が名前を付け忘れていたため、名前がなかったのが原因である。
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順調に探索を進めていたワイズマンだったが、彼の目的の障害となる二つのギルドがあった。
2ch連合とトリニティである。
活動方針がまったく違うのでライバルになることはなかったのだが、お互いに対立しているギルドであるため少しでも優位に立とうとワールド・サーチャーズから執拗に情報を引き出そうとしていたというのも理由の一つではある。
しかしワイズマンにとってより問題だったのは、どちらも共通して「異形種狩り」を容認というよりは積極的に行っていたこと、ならびに職業のテンプレ化を進めていたことである。
「異形種狩り」が職業・種族の完全解明を目論むワイズマンの妨げになることは言うまでもない。
特に大きいのは彼らが上位ギルドであり、「大手もやっていることだから」と「異形種狩り」がユグドラシル全体の風潮になってしまったことだ。
ワールド・サーチャーズとしては積極的に異形種を迫害する気はなかったが、異形種を擁護すると全体の多くを占める人間種から協力を得にくくなることもあり、大局に影響することはなかった。
テンプレ化の進行はある面で仕方がないことでもある。
自由すぎるユグドラシルの仕様は、目的がある人間にとっては実に楽しいものである。
反面、何でもできる代わりに何をしていいかは自分で決めなければならない。
それはこの世界の(愚民化政策によって思考能力を奪われた)大半の人間に取って、非常にとっつきにくいものであったことは間違いない。
もしテンプレ化がなされなければ、おそらくユグドラシルはそこまで流行らなかったであろう。
もちろんワイズマンにとってその「自由の殺害」は容認しがたいものであった。
* * *
「攻略する人間が増えたことで結果的に、そこまで私の探索に影響はなかったのかもしれません。ですが、せっかくの自由を堪能できない人間を増やしたこと、そういった人間に探索の楽しみを教える機会を奪ったことは私にとって本当に許せないことでした」
ワイズマンはそう話を終えた。
そして彼はモモンガを見る。
ワイズマンからすればモモンガは「思考を奪われた」側の人間である。
だから同盟を持ちかけられたとき、モモンガが自分で何かを考える人間であると判断すれば何かしら理由をつけて協力するつもりだった。
しかし蓋を開けてみればモモンガはワイズマンの苛立ちを彼なりに推察して見せたのだ。
面白くないわけがない。
「そうですか。だから協力してくれるんですね」
「まあ、それだけではないですがね。実はモモンガさんと一度は冒険してみたいと思ってたんですよ」
ただし素直にそれを言う気もない。
「え?」
「昔ですね、草原エリアで延々魔法の練習をしているスケルトンメイジがいたんですよ。一度魔法を使うたびになにやら考えているようでしてね」
「え、それ私ですか?」
「さあどうでしょう? 何をやっているのかと思ったらどうも『格好良い魔法の使い方』を考えていたようですが」
「……ワタシデハナイヨウデスネ」
やたら棒読みになったモモンガに笑いかけるとワイズマンは言った。
「まあそういうこだわりのある人といつか冒険したいな、と思ってはいたんですよ。このギルドなら申し分ないでしょう」
「それは間違いなく保証できます。みんな楽しいメンバーばかりですよ」
それは先ほどまでの口調とは打って変わった自信に満ちたものだった。
* * *
ギルドメンバー音改さんがログインしました。
「お、私が最後かな?」
「そうですね。みんなインしていますよ」
「あいあい。それじゃ準備しにいくとするかね」
ワイズマンが見学する場所は玉座の間もあったのだが、ここでウルベルトから待ったがかけられた。
曰く、空の玉座の間を見せるのはよろしくない、と。
他のメンバーもせっかく気合を入れて作り今までどこの誰にも見せていないのに、あっさり見せるのも芸がないと思ったのだろう。
フル装備の全メンバーが勢ぞろいして歓迎しようという話になったのだ。
今まで動かしたことのない【スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】まで持ち出す気合の入れようである。
もちろん装備するのはモモンガである。本人は内心ビビッていたことも付け加えておこう。
「それじゃ、私も失礼しますね。準備ができたら《伝言/メッセージ》送りますので門の前で待機していてください」
「わかりました。楽しみにしていますよ」
「期待してくれていいですよ」
そう言ってモモンガが転移していく。
それを見送るとワイズマンは第10階層の大広間を出て歩いていく。
大広間の中には黒い直方体がいくつも並んでいた。
これはリアル側で製作中のアイテムが配置されている場合のゲーム側表示である。
るし☆ふぁーがレメゲトン七二の悪魔を作り直しているためこの状態になっているのだ。
ランダムに『負けた』のがよほど悔しかったらしく、現在あちこちを修正して回っているのだと聞かされた。
そのこだわり様から完成品を見るのが今から楽しみである。
異様な細かさで作りこまれた巨大な門を眺めているとモモンガから《伝言/メッセージ》飛んできた。
『準備できました。今から門を開けますのでちょっと離れてくださいね』
開かれた門の先に荘厳な玉座の間があった。
最奥にまさに魔王といった風情のモモンガが座り、両脇をギルドメンバーたちが固めている。
神器級の装備で身を固めた異形種の上位プレイヤー達が勢ぞろいしている光景は、まさに魔王軍といったところか。
ゆっくりと歩を進め玉座の前まで来るとモモンガが芝居がかった口調で告げた。
「ようこそ、人間の賢者よ。貴君が始めてここに到達したプレイヤーだ。それを永劫に誇るがよい。そして我々アインズ・ウール・ゴウンが貴君を歓迎しよう!」
ポーズを決めたモモンガはスクリーンショットに撮りたいほどであったが、ワイズマンは別のところに目を奪われてしまっていた。
「その玉座の後ろにあるのは……ワールドアイテム?」
「あ、そうですね。拠点のポイントを増強してくれるすごいやつです」
格好をつけたのにはずされた形になったモモンガが素に戻りつつ説明をする。
それに対してワイズマンは眼鏡を光らせてこう言った。
「……どうやら、そのアイテムはそれだけではなさそうですね。更なる能力が隠されているようです。実に興味深い」
大百科を読んだときこう思いました。
???の効果、ワールドアイテムにしてはしょぼいな、と。
でもゴブリン将軍の角笛に明かされていない秘密があったのです。
なら、ワールドアイテムに更なる性能があってもおかしくないよね?