1月1日になったのでもう投稿しても大丈夫かな。
久しぶりに高橋(元凶)の話。
また変なことを思いついたようです。
「助けてください」
そういって助言を請うてきた高橋に、彼の元上司である山崎は眉をひそめた。
別プロジェクトに移動した元上司に頼ろうという姿勢に説教の一つもしてやろうかと思ったが、以前見たときから大分やつれた高橋の様子に自分で解決しようとした努力の跡を見て取った山崎は溜め息をつくと向き直った。
「俺は今は部外者だ。協力するに当たり上の承認は取っているんだろうな?」
「はい、部長に説明して許可をもらってます。その、理解してもらうのに時間がかかって色々と……」
「ここで話すことじゃない。移動するぞ」
いきなり話し始めた(しかも愚痴らしい)高橋を押しとどめて、小さな会議室に移動する。
報告・連絡・相談の基礎は叩き込んだはずだが、今の高橋の状態ではまともに報告もできまい。
トップに据えられて相談できる相手もいない状態だっただけに言いたいことも溜まっているであろうし。
きちんとした情報を得るにはこちらから誘導してやる必要があるだろうと山崎は判断した。
とりあえず落ち着かせるために自販機で買った缶コーヒーを投げつけて飲ませる。
そして高橋が口を閉じている間に会話の主導を取るべく説明を要求した。
「まず、お前が抱えている問題を最初から、順序立てて話せ。関与していなかった俺がわかるように、な」
* * *
事の発端はアップデート実装直後だったという。
1週間も立たないうちにあるギルドが【永劫の蛇の腕輪】を使い「限界突破チケット」を要求したというのだ。
しかも無制限でなく限界として1000枚と区切ってきたらしい。
一見多いように見えるが、【永劫の蛇の腕輪】はギルド単位での取得・使用が基本である。
100人で分けたら一人に10枚。課金で4枚購入すればちょうどレベル200にできる計算である。
いきなり上限を大きく上げられてしまうのは問題と言えば問題だったが、無茶というほどでもない。
レベルを上げるにも時間がいるので連続してこの手段を使うこともないだろうと、この願いを認めたと高橋は語った。
「その対応は間違いじゃないな。上限解放が早すぎると言えば一応問題ではあるが、それほど致命的ではない。そいつらがお前の抱える問題になるんだな?」
「はい……そのギルド、アインズ・ウール・ゴウンっていうんですが、ご存知ですか?」
「……確か少人数のギルドだったよな。少人数では珍しくTOP10にまで食い込んでいたから記憶している。だがまあ、それだけといえばそれだけだったはずだ」
「ええ、最初はそう思ってたんです」
レベル上限を大きく解放したとはいえ現在のレベルが即座に上がるものでもない。
レベル上げに専念できる時間が多くなる分、アインズ・ウール・ゴウンが多少有利にはなるだろうが、あくまで他のプレイヤーに対して少々有利という程度だ。
高橋がやつれる理由にはならない。
「この後の動向でちょっと怪しくなってきまして」
「相談しに来た相手にもったいぶってどうする。さっさと話せ」
アインズ・ウール・ゴウンが次にやったことは、エンドコンテンツとして作られた隠しワールドへの到達だった。
元々セフィロトシリーズのワールドアイテムを持っていたので可能性はあったのだが、王国/マルクトは一番下位のセフィラだけに、到達条件は一番厳しく設定されている。
おまけに長いこと所有しているのに第一条件すら解放していなかったので完全に想定外だったのだ。
「……確かにそいつを想定すべきだった、とお前を責めるのは酷だな。しかしどうやって気が付いた? それこそ彼らは年単位で気が付いていなかったんだろう?」
「そうです。そう、なんですが。彼らワールド・サーチャーズを吸収合併したんです。それを機に気が付いたようで」
「……2位のギルドだよな。どうしてそうなった」
「わかりません」
経緯はさっぱりつかめなかったが、独占できる狩場を得たアインズ・ウール・ゴウンは順調にレベル上げをしていた、かというとそうでもなかった。
突然拠点の改装を始めたり、各地に探索に行ったり、割と無軌道に過ごしていたという。
拠点拡張の追加アップデートがあってからは、その傾向はより顕著になっていたのだ。
「……最速で高レベルに達したとかそういう問題でもないのか」
「むしろそうだったら楽だったかもしれません。レベル200突破記念とか理由をつけて接触できましたから」
「で、結局なんなんだ?」
「懸念があったのは、これも隠し要素なんですが、ボス職業に手を出し始めたことだったんです」
「あれに気が付いていたのか。それもワールド・サーチャーズがらみか」
「おそらくは。こればかりは本気でバランス崩壊につながりますので、さすがに警戒対象として本格的に監視を始めました」
ゲームにおいて圧倒的に高ステータスを誇るボスが討伐されるのは一定のルーチンに従って動くからである。
ボスが回復を効率的に行ったり蘇生されたりアイテムを使ったりしたら、プレイヤーにとしては本気でたまったものではない。
レベル差が開く以上に高ステータスの種族や職業の取得は危険だと言えた。
ギルドの評判からしてこの後一気にレベルを上げて世界征服! などと言い出しかねなかったので警戒を始めたのだという。
「ところがレベルを上げきる前に2ch連合に攻撃を仕掛けちゃったんです」
「何? あそこは確か……最盛期で3000以上の大所帯だったか。今どれだけいるのかしらんが簡単に落とせるもんじゃないだろう?」
「そのはずなんですが……180をちょっと超えた程度の十名程度で1000人規模の拠点を強襲してギルド武器を粉砕しちゃったんです」
記録を見る限り一切妨害を受けていないまま拠点に突入したことが大きなポイントだったようだ。
どんな奇抜な手を使用したか分からないが、結果として連合は態勢を立て直す暇も与えられずギルド武器破壊に至り、2ch連合は消滅することになった。
「で、当然旧連合のプレイヤーたちは報復に出たんですが……」
そこで高橋は言葉を一度きり、腕を組んで額に当てて俯いた。
「1500人以上のプレイヤーが一方的に叩き潰されました」
「……アインズ・ウール・ゴウン側の被害は?」
「…………」
再び黙り込んだ後、高橋は絞り出すような声で言った。
「ほぼ皆無です。防衛用の設備も、トラップも使用した分は消耗したと言えるかもしれませんが、彼らの持つリソースからすれば本当に微々たるものです。プレイヤーどころか主要なNPCすら死亡しませんでした」
「な……」
「なにしろプレイヤーが撃退に参加しなかったんです。彼らが本気で迎撃に出れば、本当にたった一つのギルドが世界を蹂躙しかねません」
「……これがお前の抱える問題か。接触して取り込みを図ればいいだろう。俺はそう助言したはずだ」
山崎の言葉に高橋はゆるゆると頭を振った。
「正直、彼らはまだギリギリゲームバランスの中にいます。彼らはユグドラシル全体から見れば本当にちっぽけな勢力です。全プレイヤーが相手となれば……勝負が成立しかねないという時点で大分おかしいんですが、ゲームとして成立しえます」
「だからこちらのイベントとしてボスにしてやればいいんだろう?」
「でも報酬がないんです」
「は?」
予想外のことを聞いたというように山崎から変な声が出た。
それに構わず高橋が続ける。
「報酬が、ないんです。さっき、お話したように彼らは自前で難攻不落の拠点を持ち、限界突破を達成し、莫大なリソースを保持し、独占できる狩場を確保し、大人数を殲滅できる戦術をもっています。ワールドアイテムすらユグドラシルで最大数を所有しています。おそらく運営が何もしなくともすべてのプレイヤーと戦えてしまいます」
「だが、予想外のことを起こしすぎている、と」
「はい、これ以上放置はできません。できないんですが、取り込む方法がないんです」
「そうか……」
二人の間に沈黙が落ちる。
黙っていてもらちが明かないため、山崎が口を開いた。
「それで、俺に助けてほしいってのは取り込む方法を考えてくれってことか?」
「いえ、その……必死に考えて、一応思いつきはしたんです。それについて相談しようと……」
「ほう」
部下だった高橋の成長に喜びと驚きを感じつつ山崎は続きを促した。
「彼らのリアルに対して何か報酬出せないでしょうか」
ついにモモンガさんたちのリアルにまで影響が出そうです。
何を提示するかはそのうちゲーム内で。
活動報告のアンケートご参加ありがとうございました。
ひとこと言わせてください。
私の方が皆さんの津波(ビッグウェーブ)につぶされそうです(笑)
本年もよろしくお願いいたします。